弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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 主文
原決定を取り消す。
本件を原審に差し戻す。
         理    由
 一 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状(写し)記載のとおりである。
 二 先取特権の物上代位に関する民法第三〇四条の規定を抵当権に準用する(同
法第三七二条)については、抵当権が抵当不動産に対する所有者の使用収益権能を
奪うものではないところから、抵当権の物上代位が該不動産の賃料債権にまで及ぶ
かどうかという問題があるけれども、当裁判所は、競売開始決定の効力発生前のこ
とはともかくとして、その効力発生時点以降においては右賃料債権にまで及ぶと解
するものである。
 <要旨>三 右の民法第三〇四条の準用については、いま一つ、同条中「債務者」
とあるのは、抵当権の物上代位の場合にどのように読み替えるかという問題
がある。この点は、「抵当権ノ目的タル不動産上ノ権利者」(大審院明治四〇年三
月一二日判決・民録一三輯二六五ページ)と読み替えるべきであり、これがどの範
囲の者であるかというと、まず所有者(抵当権設定者)及び抵当不動産の第三取得
者が含まれる(この点は、異論がない。)ほか、抵当不動産を後に借り受けた賃借
人も含まれると解すべきである。
 このように抵当不動産を後に借り受けた賃借人まで含むとするときは、その者が
受け取るべき賃料は、所有者ないし第三取得者からすれば転貸借契約上のものであ
るから、転貸人の賃料(転貸料)債権にまで抵当権の物上代位が及ぶことになり、
それでは広きにすぎるのではないかという疑問か生じないでもない。しかしなが
ら、右における転貸人は、抵当権者にもともと劣後しており、これを当然承知した
上で更に転貸行為をするにほかならないものであり、この点において、所有者ない
し第三取得者が他に賃貸した場合と比較してその保護を厚くしなければならない理
由は全くない。このように解すべき必要性を付加するに、例えば、家賃八万円相当
の建物を所有者が八万円で賃貸するときはさほど必要性がないのであるが、これを
二万円で賃貸し、この賃借人が八万円で他に転貸するという場合(本件もこのよう
な事例といえる。)があるからであり、このような場合には、民法第六一三条は有
効でないし、また、一般の債権者代位権とか詐害行為取消権とかで解決すること
も、少なくとも実際上の成果を期待することは困難であるからである。
 そうすると、前記のような賃借人(転貸人)が受け取るべき賃料(転貸料)につ
いては、抵当権に基づく物上代位権が及ばないとして抗告人の本件差押命令の申請
を却下した原決定は、取消しを免れないことになる。
 四 よつて、原決定を取り消した上本件を原審に差し戻すこととし、主文のよう
に決定する。
 (裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 安國種彦 裁判官 伊藤剛)
別 紙
<記載内容は末尾1添付>
 別紙
   請求債権目録 (省略)
   差押債権目録(1)
    (第三債務者 A)
 金八、六九九、七二四円
 相手方が、左記の建物の一〇一号室を第三債務者に賃貸していることに基づく昭
和六二年七月以降の賃料請求債権にして、先に期日が到来する月の順で、差押債権
額に満つるまで。
           記
 1 (一棟の建物の表示)
  所   在   横浜市a区bc丁目d番地e
                     f番地g
  構   造   鉄筋コンクリート造陸屋根四階建
  床 面 積   一階 三一三・七〇㎡
         二階 三二〇・三八㎡
         三階 三二〇・三八㎡
         四階 一七〇・〇〇㎡
 2 (専有部分の建物の表示)
  家屋番号    bc丁目d番eのh
  建物番号    一〇一
  種   類   居宅
  構   造   鉄筋コンクリート造一階建
  床 面 積   一階部分 五一・七二㎡
   差押債権目録(2)
    (第三債務者 C)
 金九、五六九、六九六円
 相手方が、左記の建物の一〇二号室を第三債務者に賃貸していることに基づく昭
和六二年七月以降の賃料請求債権にして、先に期日が到来する月の順で、差押債権
額に満つるまで。
           記
 1 (一棟の建物の表示)
  所   在   横浜市a区bc丁目d番地e
                     f番地g
  構   造   鉄筋コンクリート造陸屋根四階建
  床 面 積   一階 三一三・七〇㎡
         二階 三二〇・三八㎡
         三階 三二〇・三八㎡
         四階 一七〇・〇〇㎡
 2 (専有部分の建物の表示)
  家屋番号    bc丁目d番eのi
  建物番号    一〇二
  種   類   居宅
  構   造   鉄筋コンクリート造一階建
  床 面 積   一階部分 五一・七二㎡
   差押債権目録(3)
    (第三債務者 大京観光株式会社)
 金一五、六五九、五〇五円
 相手方が、左記の建物の一〇三号室を第三債務者に賃貸していることに基づく昭
和六二年七月以降の賃料請求債権にして、先に期日が到来する月の順で、差押債権
額に満つるまで。
           記
 1 (一棟の建物の表示)
  所   在   横浜市a区bc丁目d番地e
                     f番地g
  構   造   鉄筋コンクリート造陸屋根四階建
  床 面 積   一階 三一三・七〇㎡
         二階 三二〇・三八㎡
         三階 三二〇・三八㎡
         四階 一七〇・〇〇㎡
 2 (専有部分の建物の表示)
  家屋番号    bc丁目d番eのj
  建物番号    一〇三
  種   類   車庫
  構   造   鉄筋コンクリート造一階建
  床 面 積   一階部分 五六・二五㎡
   差押債権目録(4)
    (第三債務者 ポートユニオン株式会社)
 金九、一三四、七一〇円
 相手方が、左記の建物の一〇四号室を第三債務者に賃貸していることに基づく昭
和六二年七月以降の賃料請求債権にして、先に期日が到来する月の順で、差押債権
額に満つるまで。
           記
 1 (一棟の建物の表示)
  所   在   横浜市a区bc丁目d番地e
                     f番地g
  構   造   鉄筋コンクリート造陸屋根四階建
  床 面 積   一階 三一三・七〇㎡
         二階 三二〇・三八㎡
         三階 三二〇・三八㎡
         四階 一七〇・〇〇㎡
 2 (専有部分の建物の表示)
  家屋番号    bc丁目d番eのk
  建物番号    一〇四
  種   類   店舗
  構   造   鉄筋コンクリート造一階建
  床 面 積   一階部分 四四・四四㎡
   差押債権目録(5)
    (第三債務者 C)
 金一〇、七四四、一五九円
 相手方が、左記の建物の一〇五号室を第三債務者に賃貸していることに基づく昭
和六二年七月以降の賃料請求債権にして、先に期日が到来する月の順で、差押債権
額に満つるまで。
           記
 1 (一棟の建物の表示)
  所   在   横浜市a区bc丁目d番地e
                     f番地g
  構   造   鉄筋コンクリート造陸屋根四階建
  床 面 積   一階 三一三・七〇㎡
         二階 三二〇・三八㎡
         三階 三二〇・三八㎡
         四階 一七〇・〇〇㎡
 2 (専有部分の建物の表示)
  家屋番号    bc丁目d番eのl
  建物番号    一〇五
  種   類   店舗
  構   造   鉄筋コンクリート造一階建
  床 面 積   一階部分 四九・九八㎡
   差押債権目録(6)
    (第三債務者 鮮     良)
 金六、〇八九、八〇六円
 相手方が、左記の建物の二〇五号室を第三債務者に賃貸していることに基づく昭
和六二年七月以降の賃料請求債権にして、先に期日が到来する月の順で、差押債権
額に満つるまで。
           記
 1 (一棟の建物の表示)
  所   在   横浜市a区bc丁目d番地e
                     f番地g
  構   造   鉄筋コンクリート造陸屋根四階建
  床 面 積   一階  三一三・七〇㎡
         二階  三二〇・三八㎡
         三階  三二〇・三八㎡
         四階  一七〇・〇〇㎡
 2 (専有部分の建物の表示)
  家屋番号    bc丁目d番eのm
  建物番号    二〇五
  種   類   居宅
  構   造   鉄筋コンクリート造一階建
  床 面 積   二階部分  四八・六〇㎡

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