弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを罰金二万五千円に、同B、同Cを各罰金二万円に、同Dを罰
金五千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金二百五十円を一日に換算した
期間当該被告人を労役場に留置する。
     被告人Cに対しては本判決確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
     各被告人に対し公職選挙法第二百五十二条第一項の規定を適用しない。
     被告人Dから金千円を追徴する。
     原審の訴訟費用中証人Eに支払つた分は被告人等の平等負担、証人F、
同Gに支払つた分は被告人B、同C、同Aの平等負担、証人Hに支払つた分は被告
人A、同Dの平等負担とする。
         理    由
 弁護人国府敏男同島田好文の本件控訴趣意は同人等提出の各控訴趣意書記載のと
おりであるから之を引用する。
 弁護人国府敏男の控訴趣意第一点について
 原判文によれば、原判決は判示第一事実の証拠として被告人Aの検察官に対する
第一、二回供述調書を、判示第二、第三事実の証拠として同第一回供述調書を採用
して居り、原審第五回公判調書によれば、同公判廷において同被告人の検察官に対
する供述調書一通を取調べた旨記載されていることは所論のとおりである。
 よつて本件記録について之を仔細に検討して見るに、右第五回公判調書によれば
「証拠の請求取調べ」「別紙証拠の請求及び取調べに関する事項のとおり」の印判
が押捺されて居り別紙の「証拠の請求及び取調べに関する事項」と題する書面には
各所要欄に甲第二十二号、「被告人」Aの「司法警察員に対する供述調書」三通、
「検察官に対する供述調書」一通、「取調べ決定」「取調済」(以上括孤内の文字
は印判押捺)の記載があり之によれば右証拠の請求は一見当日新になされたもので
あるようであるが原審第二回公判調書にはその他の書証と共に被告人Aの検察官に
対する供述調書二通の請求があつたが、被告人が之等を証拠とすることに不同意で
あつたため採否を留保したことが記載されてあり、右二通の供述調書が同被告人の
検察官に対する第一、二回の供述調書であることは検察官提出の昭和二十八年八月
十三日付「第一回証拠請求書」と題する書面の記載によつて明である。
 其後右留保された証拠の採否決定は第五回公判廷迄なされた形跡はなく第五回公
判調書に前記のような記載があめつて当日証拠調が行われたことが認めらるるので
あつて、右証拠調に前掲第二回公判において採否留保の証拠を含んでいることは弁
護人国府敏男提出の「公職選挙法違反被告事件弁論要旨」と称する書面の内に同被
告人の検察官に対する第一回供述調書の供述記載を引用している点からも推認でき
る。故に、公判調書の記載も亦正確に採否留保中の証拠と、新に請求の証拠とを区
別して之に対する決定を明確にすべきであつたに拘らず、単に不動の印判を使用し
て明確を欠くにいたつたものと推測される。以上の諸点と本件記録に被告人Aの検
察官に対する供述調書が二通編綴されている点、採否留保中の二通の内一通は撤回
されるか又は却下されたものとすればその旨調書に記載してある筈であるのにその
記載がなく、却つて第五回公判廷において全部の証拠が取調済である点等を綜合す
れば、前記第五回公判調書の記載は明白なる誤謬というべく、すなわち同公判調書
に「被告人Aの検察官に対する供述調書一通」とある「一通」は「二通」の誤記で
あつて、原審第五回公判廷において、被告人Aの検察官に対する第一、二回供述調
書二通が取調べられたものであると認定するを相当とする。而して斯く公判調書の
記載を認定することは、刑事訴訟法第五十二条の律意に反するも<要旨>のではない
と解すべきである。けだし、原審公判調書の記載に明白なる誤謬がある場合にその
誤記であることを認めて解釈することは、上級審の有する解釈権の行使であ
つて、訴訟手続が公判調書のみによつてこれを証明することができるものとする同
条の立法の趣旨と相抵触することがないものと解するを相当とするからである。さ
れば原判決に訴訟手続に法令の違反あることを主張する論旨は理由がない。
 同第二点(事実誤認)の一の1、2について
 原判決挙示の関係証拠を綜合すると、原判示第一及び第三の各金員は選挙運動の
費用及び報酬として不可分的に包含せしめて授受されたことを認定できる。所論引
用の各証拠中右認定に抵触する部分はいずれも措信するに足らず、その他記録を精
査するも原判決には事実誤認が認められないから、論旨は理由がない。
 同点の二について
 原判決挙示の被告人Cの検察官に対する供述調書その他の関係証拠を綜合する
と、被告人Cは選挙運動者であつたこと及び原判示第一の犯行につき共謀したこと
を認定できる。所論引用の各証拠中右認定の抵触する部分はいずれも措信するに足
らず、その他記録を精査するも原判決には事実誤認が認められないから、論旨は理
由がない。
 同第三点の一ついて
 原判示の各金員が選挙運動の費用及び報酬として不可分的に包含せしめて授受さ
れたものであることは前段説示のとおりであり(同第二についても同じ)、原判示
も亦同趣旨であると解することができるから、従つて費用と報酬とが不可分である
ことを明示せずして罰条を適用した原判決は法令の適用を誤つたものであるとの所
論は前提を欠き採用するを得ない。論旨は理由がない。
 同点の二について
 原判決は法令の適用において判示第一の所為につき刑法第六十条の適用を示して
いたいこと所論のとおりであるが、しかし、「被告人B、C、Aは共謀の上」と判
示し共同正犯であることを認定していることが明らかであるから刑法第六十条を事
実上適用したことが肯認できる。而して斯る場合刑法総則規定である同条は必ずし
もこれを判文上明示するを要すくるものではないと解するのを相当とすべく、従つ
て同条の不適用を云為して法令適用の誤を論旨とする所論は理由がない。
 弁護人島田好文の控訴趣意第一点について
 被告人B、同C、同Aが共謀してFに渡した原判示第一の本件五千円の金員が選
挙運動の費用のみでなく報酬をも含むものであることを知り乍ら相談の上渡した事
実は原判決挙示の被告人Bの検察官に対する第一回供述調書(記録三〇七丁乃至三
〇九丁)、同Cの同供述調書(記録三三八丁乃至三三九丁)、同Aの同第一、二回
供述調書(同上、三四四丁乃五三四八丁)の各供述記載によつて肯認できるもので
あるから、共謀の点を否認し事実誤認を主張する論旨は理由がない。
 同第二点について
 原判決挙示の関係証拠を綜合すると、原判示第一の金員は選挙運動の費用及び報
酬として不可分的に包含せしめて授受したことが認めらるるのであるから、右金員
授受の趣旨を否認し事実誤認を主張する論旨は理由がない。
 弁護人国府敏男の控訴趣意第四点同田島好文の控訴趣意第三点について
 所論は原判決が各被告人に対し公職選挙法第二百五十二条第一項の公民権停止の
規定を適用しない旨の宣告をしなかつたのは不当であるというにある。
 按ずるに、被告人等の本件各犯行はいずれも公正なるべき選挙を汚濁するものと
して罪質決して軽いとは認め難く、原判決の罰金の量刑は重いとは認め難いのであ
るが、記録に現われた本件各犯行の動機、態様、被告人等には前科もなく、授受さ
れた金員も左して多額ではないこと、その他諸般の情状を勘案すると、原判決が被
告人等に対しいずれも公職選挙法第二百五十二条第一項の規定を適用しない旨の宣
告をしなかつたのは、刑事訴訟法第三百八十一条にいわゆる刑の量定が不当である
場合に該当するものと認められるから、原判決はこの点において破棄を免れたい。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百八十一条により原判決を破棄し、
同法第四百条但書に従い当審において更に判決する。
 原審の認定した各事実に法令を適用すると、被告人B、同C、同Aの原判示の所
為は各公職選挙法第二百二十一条第一項第一号罰金等臨時措置法第二条(共犯関係
部分については刑法第六十条、被告人Bに対しては昭和二十九年十二月八日法律第
二百七号公職選挙法の一部を改正する法律附則第四項をも適用)に、被告人Dの同
判示の所為は同選挙法第二百二十一条第一項第四号同措置法第二条にそれぞれ該当
するので各所定刑中いずれも罰金刑を選択し、被告人Aの同判示第一、第二の二罪
は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十八条第二項により各罪につ
き定めた罰金の合算額の範囲内で、其他の被告人に対しては所定金額範囲内で被告
人等をそれぞれ主文の如く量刑処断し、右罰金不完納の場合につき各同法第十八条
を適用し主文の如く労役場留置期間を定め尚被告人Cに対しては情状により刑の執
行を猶予するを相当と認め、同法第二十五条第一項罰金等臨時措置法第六条により
本判決確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、各被告人に対し情状に因りいずれ
も前示選挙法第二百五十二条第三項に則り第一項の規定を適用しないこととし、被
告人Dが収受した原判示の利益はその全部を没収することができないので、同選挙
法第二百二十四条後段により同被告人からその価額金千円を追徴し、当審の訴訟費
用につき刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用し主文末項掲記の如くその負担
を定めることとし、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 水島亀松 裁判官
 山崎益男 裁判官 中村義正)

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