弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が,原告に対し,平成15年5月30日付けでした,原告の平成13年
分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分の
うち,納付すべき税額2084万1500円を超える部分につき更正すべき理
由がないとする部分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,非上場株式を譲渡した原告が,その譲渡所得について平成15年法
律第8号による改正前の租税特別措置法(以下「措置法」という。)37条の
10第1項に基づき確定申告を行った後に,平成11年法律第9号による改正
前の租税特別措置法(以下「旧措置法」という。)37条の11第1項に基づ
き課税すべきであるとして更正の請求をしたところ,被告から更正すべき理由
はないとの通知処分を受け,同通知処分に対する審査請求も棄却されたため,
措置法37条の10第1項及び旧措置法37条の11第1項は憲法14条1項
等に違反し無効であるから同通知処分は違法であるなどと主張して,同通知処
分の一部取消しを求めた事案である。
1関係法令等の定め
()措置法37条の10第1項(株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)1
同条項は,居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が措置法37条
の10第3項各号にいう「株式等」の譲渡をした場合には,その株式等の譲
渡による事業所得,譲渡所得及び雑所得(以下「株式等に係る譲渡所得等」
という。)については,他の所得と区分して,株式等に係る譲渡所得等の金
額に対し100分の20の税率で所得税(他に住民税として100分の6の
税率。平成16年法律第17号による改正前の地方税法附則35条の2第1
項,10項)を課することとしている。
この場合において,株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の
金額があるときは,所得税法その他所得税に関する法令の規定の適用につい
ては,当該損失の金額は生じなかったものとみなされる。
()旧措置法37条の11(上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離選択課2
税制度)
ア同条1項は,前記「株式等」(ただし,証券取引法2条11項に規定す
る証券取引所に上場されているものその他これに類するものとして政令で
定めるものに限る。以下「上場株式等」という。)の譲渡のうち,証券業
者又は銀行の営業所において当該証券業者又は銀行への売委託により行う
譲渡,証券業者の営業所において行う当該証券業者に対する譲渡及び当該
株式等を発行した法人に対して行う法令に基づく端株又は単位未満株式の
譲渡(以下「上場株式等の譲渡」という。)による所得について,源泉分
離課税を選択する旨の申告書の提出など一定の手続きをとることにより,
申告分離課税に代えて,その上場株式等の譲渡による譲渡利益金額に対し
100分の20の税率による源泉分離課税を選択することができる旨規定
している。
イ同条4項3号及び5項は,同条4項1号及び2号に掲げる譲渡以外の上
場株式等の譲渡による譲渡利益金額について,上場株式等の譲渡代金に一
定の割合(以下「みなし差益率」という。)を乗じた相当額とする旨規定
している。
ウなお,同条の規定は,平成11年法律第9号附則15条の経過措置によ
り,平成14年3月31日までに行われた上場株式等の譲渡について,そ
の効力を有するとされている。
()所得税法基本通達38−163
土地建物等以外の資産を譲渡した場合の譲渡所得の計算上収入金額から控
除する取得費は,実額の取得費を原則とするが,当該収入金額の100分の
5に相当する金額を取得費としても差し支えないものとする。
2争いのない事実及び容易に認定できる事実(証拠等の掲記のない事実は当事
者間に争いがない。)
()措置法37条の10第1項及び旧措置法37条の11第1項の立法化1
(以下「本件制度」という。)に至る経緯
ア有価証券譲渡益の原則課税化(乙2)
昭和63年の税制調査会の中間答申において,他の資産との関係で当時
の有価証券譲渡益の原則非課税制度が不公平な税制の象徴として取り上げ
られたことから,税制調査会において,有価証券譲渡益についても原則課
税としていく方向で意見がまとまった。
イ課税方式の検討(乙2)
(ア)具体的な課税方式として,他の所得と合算して累進税率により確定
申告を通じて課税する方式(以下「総合課税方式」という。),他の所
得と分離して一定の税率により確定申告を通じて課税する方式(以下
「申告分離課税方式」という。),株式等の譲渡対価の一定割合相当額
を所得とみなし,他の所得と分離して一定の税率により源泉徴収を通じ
て課税する方式(以下「源泉分離課税方式」という。)及び総合課税方
式又は申告分離課税方式を原則としつつ,源泉分離課税方式の選択を認
める方式(以下「源泉分離選択課税方式」という。)の4つの方式が取
り上げられ,比較・検討が重ねられた。
(イ)aそして,総合課税方式については,他の所得と基本的に同様に課
税を行う理論的に望ましい制度であると評価されつつも,他方で,上
場株式等を念頭に置いた議論として,有価証券取引を把握する体制が
未整備であること,すべての投資家に適正な取得価額の計算を期待す
ることが困難であること及び急激な税負担の変動が証券市場に多大な
影響を及ぼすことになりかねないことから問題があるとされた。
b源泉分離課税方式については,譲渡価額の一定割合を所得とみなす
ことにより取得価額の計算が不要となる利点はあるものの,所得がな
いところにも課税することになるので所得税として位置付けることに
は無理があること及び外国人投資家の取引も源泉徴収の対象とするこ
とになり,非居住者課税のあり方などの観点から問題があるとされ
た。
cまた,申告分離課税方式については,総合課税方式における前記問
題点のうち,課税制度変更に伴う税負担の急激な変動の問題は緩和し
うるほか,譲渡損失の取扱いとして,他の株式取引における損失とも
通算することができることを勘案すれば,適当な方式であると評価さ
れた。
(ウ)さらに,源泉分離選択課税方式については,選択方式をとることに
よって,単一の課税方式によって課税した場合の前記各問題点を回避し
うることからすれば,当面の措置としては,源泉分離選択課税方式が妥
当で,現実的であると評価された。
ウ改正案(乙2ないし4)
(ア)政府は,前記税制調査会の中間答申を踏まえて税制改革の具体化作
業を進め,昭和63年6月28日,税制改革要綱を閣議決定した。同要
綱では,有価証券譲渡益については,非課税を原則とする制度を改め,
課税を原則とするとともに,その課税方式については,申告分離課税方
式とし,上場株式等については源泉分離課税方式との選択制とすること
とした。なお,源泉分離課税方式におけるみなし差益率は,株式等の譲
渡代金の5パーセント相当額とされた。
(イ)政府は,同年7月29日,有価証券譲渡益の原則課税化を含む税制
改革関連法案を決定して国会に提出し,衆議院における修正を経て,同
年12月24日,参議院で可決,成立し,同月30日公布,平成元年4
月1日から施行された。
なお,株式譲渡益課税の総合課税方式への移行問題に関しては,税制
改革関連法案の附則中に,課税のあり方について見直しを行うものとす
る旨の規定が設けられた(昭和63年法律第109号所得税法等の一部
を改正する法律附則81条)。
エみなし差益率の改正
平成8年4月1日,みなし差益率は5パーセントから5.25パーセン
トに改正された(平成8年法律第17号による改正)。
()通知処分に至る経緯2
ア原告は,平成13年11月,非上場株式である訴外A株式会社の株式
(以下「本件株式」という。)を譲渡した(以下「本件譲渡」とい
う。)。
イ原告は,平成14年3月15日,被告に対し,本件株式と本件株式以外
の株式に係る譲渡所得及びその他の所得について,別表「確定申告」欄記
載のとおり,平成13年分の所得税として,確定申告をした。この際,原
告は,本件譲渡による所得については,措置法37条の10第1項に基づ
き,申告分離課税方式による確定申告をした(弁論の全趣旨)。
ウ原告は,平成15年3月17日,被告に対し,本件譲渡に係る所得税に
関して,旧措置法37条の11第1項が適用されるべきことを理由に,別
表「更正の請求」欄記載のとおり,更正の請求を行った(弁論の全趣
旨)。
()通知処分3
被告は,同年5月30日付けで,原告に対し,更正すべき理由がない旨の
通知処分(以下「本件処分」という。)をした。
()不服申立て4
原告は,同年7月22日,本件処分を不服として,国税不服審判所長に審
査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成16年6月25日付けでこれを
棄却した(甲1)。なお,被告は,本件処分の際,国税不服審判所長に対し
て審査請求ができる旨の教示をしている(国税通則法75条4項3号)。
()本件訴訟の提起5
原告は,同年8月27日に裁決書を受領したが,これを不服として,同年
11月25日,本件処分の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。
3争点
本件の争点は,本件処分の適法性であるが,具体的には,本件譲渡に係る所
得に対し,旧措置法37条の11第1項が適用されるか(争点1),同条項で
はなく,措置法37条の10第1項が適用される場合,上場株式等と非上場株
式とで異なる取扱いをする同条及び旧措置法37条の11第1項の規定は,憲
法14条1項,29条1項及び84条に反し違憲であるか(争点2),の2点
である。
4争点に関する当事者の主張
()争点11
(原告の主張)
本件譲渡には,措置法37条の10第1項ではなく,旧措置法37条の1
1第1項が適用されるべきである。
(被告の主張)
旧措置法37条の11第1項は「株式等(証券取引法第2条第11項に規
定する証券取引所に上場されているものその他これに類するものとして政令
で定めるものに限る。)の譲渡…のうち次の各号に掲げる当該株式等の譲渡
をする場合において」と規定しているところ,この文言から明らかなよう
に,上場株式等に該当しない非上場株式である本件株式に同項を適用する余
地はない。
また,同項の趣旨は,一般の個人には記帳の慣行がなく,株式譲渡益を体
系的に把握するシステムが確立していない状況の下で,市場において転々流
通する上場株式等の譲渡益を容易かつ確実に捕捉して課税を行う点にあるの
だから,市場での流通が予定されていない本件株式について同項を適用する
ことは制度上なじまないといわざるを得ない。
()争点22
(原告の主張)
ア目的の正当性について
税制度の策定にあたっては,税負担の公平性や適正手続の保障が必要か
つ重要であり,証券市場への影響は考慮すべきではあるものの,それを主
たる目的,優先的な目的とするのは正当でない。
イ本件制度が上記アの目的との関連で合理性を有しないことについて
(ア)上場株式等の譲渡について源泉分離選択課税方式を採用したことに
ついて
a課税方式の選択について
(a)被告は,本件制度が総合課税方式への移行を目指しての経過措
置であると主張するが,そのことは税額において約20倍以上の差
異が生ずることを正当化する理由とはならない。
(b)また,源泉分離選択課税方式の採用について,株式譲渡益を把
握する体制の未整備を主張するものの,一般の個人に記帳慣行がな
く上記体制が未整備であることは上場株式等に限ったことではなく
非上場株式でも同様であり,上場株式等のみに源泉分離選択課税方
式を設ける理由とはならない。
むしろ,上場株式等については,年間一定の回数以上(平成元年
当時は30回以上),一定の株式以上(平成元年当時は12万株以
上)の株式取引を行った場合は,事業者とみなされて申告義務が課
されていたので,記帳慣行がないということはできない。また,証
券市場で売買をすれば証券会社から報告書が送られてくるし,証券
会社には記録が残るため,取得費が不明であるという事態は起こり
にくい。
その一方で,非上場株式は,証券会社を通さずに不特定多数の相
手方でなく親族や株主などの当事者間で直接売買され,書面を取り
交わさなかったり記帳されないことが多い,あるいは書面を作成し
たり記帳されても従前は有価証券譲渡益を原則非課税としていたこ
とから長期間保存されないため,証券会社に記録が残る上場株式等
よりも取得費が不明であるという事態は多いといえる。
bみなし差益率の合理性について
当時の個人投資家の平均的な年間売買回転率が2,3回であったと
いう点については,何ら具体的なデータ,資料が示されていない。ま
た,上場株式等のみなし差益率5パーセントが妥当であったとして
も,非上場株式の実質的みなし差益率95パーセントとの格差を正当
化する理由については,何ら合理的な説明はなされていない。
c租税負担の軽減について
被告は源泉分離課税方式は必ずしも租税負担が軽減されるわけでは
ないと主張するが,実際の所得価額がみなし差益率によって計算した
所得価額を超えている場合は,源泉分離課税方式を選択し,反対に下
回っている場合には申告分離課税方式を選択すればよいのだから,租
税負担が軽減されることは明らかといえ,被告の主張は詭弁である。
(イ)非上場株式との取扱いの差異について
a申告分離課税方式を採用した場合の税額格差について
(a)取得価額不明の株式を1億円で譲渡した場合,所得税の税額
は,当該株式が上場株式であれば105万円であるのに対し,非上
場株式であれば2470万円になる。同様に,取得価額1000万
円の株式を1億円で譲渡した場合の所得税の税額は,上場株式の場
合が105万円であるのに対し,非上場株式の場合は2223万円
となる。
被告は,後者の例が通常起こりがたい極めて異例の事態であると
主張するが,株価の伸びとしてはたかだか10倍にすぎない。特に
非上場株式は,上場株式等と比べ数十年もの長期間保有することも
多く,企業が設立から発展すれば10倍程度の伸び率は十分可能性
のある数字である。
(b)また,被告は,申告分離課税方式の下においては,取得費不明
の場合に取得費を5パーセントとすることは納税者に有利な取扱い
である旨主張するが,かかる主張は譲渡所得税が課税されることを
認識して,ないしは認識しうる状況で譲渡した場合にあてはまるこ
とである。本件のように,株式譲渡益について原則非課税から原則
課税へと課税制度を変更したばかりの時点において,納税者に取得
費等の費用を把握し証明できるよう資料をそろえておくよう要求す
ることは,納税者に予見可能性,期待可能性がなく,帰責性の認め
られない場合に課税するものといえ,適正手続の保障に反した違法
な課税である。
b源泉分離選択課税方式の不採用について
(a)前記のとおり,非上場株式について取得費が不明であるという
事態は,上場株式等よりも起こりやすいといえる。
(b)また,非上場株式の場合は証券市場と関連しないという点につ
いても,平成元年当時,上場会社は約3600社あったのに対し,
非上場会社は約100万社あったと推測され,発行済株式総数が1
000万株を超える非上場株式会社も多数存在しており,非上場株
式は上場株式等に匹敵するかそれ以上に株式の譲渡が多数行われて
いるのだから,税制上軽視できないにもかかわらず,非上場株式に
ついては配慮を欠いている。
(ウ)非上場株式の検討
そもそも,平成元年の税制改正当時,上場株式等のみなし差益率につ
いては検討されたと思われるものの,非上場株式については,非課税か
ら課税への移行に際しての所得の把握,上場株式等との均衡などにつ
き,十分な検討がなされていなかった。被告も,みなし差益率の算出に
ついて非上場株式は考慮されていないと主張しており,上場株式等と非
上場株式との公平を考慮しなかったことを自認しているといえる。
(エ)立法改正
なお,立法府は,上場株式等にのみ源泉分離課税方式の選択を認めた
本件制度が不合理であることを認め,平成15年1月1日以降,源泉分
離課税方式を全面的に廃止している。また,課税率を変更し,現在で
は,上場株式等については10パーセント,非上場株式については20
パーセントと,両株式の実質的な差異を2倍にまで縮小している。
ウ以上より,措置法37条の10第1項及び旧措置法37条の11第1項
は,仮に立法目的が正当で源泉分離選択課税方式が不合理な措置でないと
しても,みなし差益率について5パーセントと95パーセントという大幅
な格差を設け,非上場株式を上場株式等と区別して不当に不利益に取り扱
うものであるから,目的との関連で著しく不合理であることが明らかであ
り,憲法14条1項に違反し,また,憲法29条1項,憲法84条にも違
反し,無効である。
(被告の主張)
ア憲法14条1項の合憲性判断基準
(ア)憲法14条1項は,国民に対して絶対的な平等を保障したものでは
なく,合理的な理由無くして差別することを禁止する趣旨であって,国
民各自の事実上の差異に応じて異なった法的取扱いをすることは,その
区別が合理性を有する限り,合憲と解される(最高裁判所昭和39年5
月27日大法廷判決参照)。
(イ)そして,憲法は国家の基本法として,国家機関の組織活動の目標範
囲を総括的に示すにとどまり,その具体化は,通常立法府に広範な裁量
を認めているところ,憲法30条は,国民の納税義務を宣言するにとど
まり,その内容は,法律の定めるところに委ねている。
租税は,国家の財政需要を充足するという本来の機能の他に,所得の
再分配,資源の適正配分,景気の調整などの諸機能を有しており,国民
の租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策などの国政全般か
らの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件などを定め
るについて,専門的技術的な判断を必要とするから,租税法の定立につ
いては,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活などの実態について
の正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねる他
はなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重すべきである。
したがって,租税法の制定における立法府の裁量は広範なものである
から,租税法の分野における所得の性質の違いなどを理由とする取扱い
の区別は,その立法目的が正当であり,かつ,当該立法において具体的
に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であること
が明らかでない限り,その合理性を否定することはできず,憲法14条
1項に違反するものということはできない(最高裁判所昭和60年3月
27日大法廷判決参照)。
イ措置法37条の10第1項及び旧措置法37条の11第1項の合憲性
(ア)目的の正当性
a本件制度は,従来,株式譲渡益に資産性所得として強い担税力が認
められるにもかかわらず原則非課税とされていたところ,租税負担公
平の観点から原則課税化とされたものであり,税負担の公平という観
点は正当なものである。
bそして,具体的な課税方式としては,他の所得と合算して累進課税
により確定申告を通じて課税する総合課税方式が最も望ましい制度で
あるとされたものの,有価証券取引を把握する体制が未整備であった
ため,総合課税方式を採用すればかえって実質的な公平確保の観点か
ら問題が生じること,一般の個人には記帳慣行が無く全ての投資家に
適正な取得価額の計算等を期待するには無理があり,何らかの簡易な
課税方式を考える必要があること,急激な税負担の変動が証券市場に
多大な影響を及ぼすことになりかねないことなど,総合課税方式を直
ちに採用するには多くの問題があり,これに対する政策的配慮は必須
であった。
また,かかる政策的配慮が要される問題の多くは,市場において転
々流通し,膨大な取引実体を有する上場株式等について強く顕在化す
ることが予想されるものであるから,上場株式等に対しては,より一
層の配慮が要されたものと考えられる。
cこのように,本件制度の目的は,市場において転々流通する上場株
式等に関して生じる上記弊害を防止しつつ,有価証券譲渡益を原則課
税化することによって税負担の公平を実現することを図ったものであ
ることは明らかであり,市場経済に配慮しつつ租税負担を国民の間に
公平に配分するとともに,租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実現
することは租税法の基本原則であるから,その目的は正当性を有する
ものである。
(イ)本件制度が上記(ア)の目的との関連で合理性を有すること
a上場株式等の譲渡について源泉分離選択課税方式を採用したことに
ついて
(a)課税方式の選択について
Ⅰそもそも,源泉分離選択課税方式は,理論的に最も望ましい総
合課税方式へ移行するにあたって,主として証券市場に与える影
響を避けるための経過措置である。
Ⅱそして,前記のとおり,一般の個人に記帳慣行がなく,実際の
所得に応じた課税を行うために必要な株式譲渡益を体系的に把握
するシステムが確立していない状況において,上場株式等の譲渡
益を容易かつ確実に捕捉し,これに対する課税を行う方策として
源泉分離課税方式によって課税することは,証券会社などを通じ
て株式等を譲渡した場合に,すべて源泉で捕捉することができる
ことからすれば,有価証券取引を把握するための措置として実効
的といえる。
また,上場株式等が市場において転々流通し大量の取引が見込
まれることからすれば,急激な税負担の変動によって市場経済に
悪影響を与えることを防止すべく,みなし差益率という一定の利
益率を基準として課税する源泉分離課税方式によることは,合理
的なものといえる。
(b)みなし差益率の合理性
Ⅰみなし差益率とは,一定期間における株価実績から株価上昇年
利率を算出し,それを一定の回転率で除する等の方式で算出され
たものである。
Ⅱ当初のみなし差益率5パーセントは,昭和53年から62年の
間の「一定期間」に,その間の証券取引所における「株価実績」
である加重株価平均の1年あたり伸び率により「株価上昇年利
率」15.3パーセントを導き出し,これを個人投資家の平均的
な取引回数である2ないし3の「回転率」で除して算出した割合
(5.1パーセントないし7.7パーセント)に基づいて5パー
セントとしたものであり,これは上場株式等を対象とした合理的
な算出方法といえる。
また,そのみなし差益率も,源泉分離選択課税方式が総合課税
方式への移行のための経過措置であることや市場を反映した妥当
な差益率であるべきといった観点から,5パーセントから5.2
5パーセントに改定されるなど,その見直しも行われている。
当然のことながら,みなし差益率についても,実際の所得率と
の格差はできるかぎり小さいことが望ましいが,個々の事案との
関係で多少の格差が生じることは避けられないし,算出にあたっ
ての資料の収集についても時間と労力とのかねあいの問題がある
ことからすれば,単に実際の所得率との格差が極めて大きくなる
こともあり得るということのみをもって,当該みなし差益率を不
合理なものということはできない。
Ⅲこのように,みなし差益率は,実際の所得率との格差が大きく
なる事態を可能な限り避けるよう配慮されており,合理性を有す
るものといえる。
(c)租税負担の軽減について
Ⅰ上場株式等に係る譲渡益につき申告分離課税方式を用いた場
合,株式等の譲渡により損失が生じたときは,その損失は他の株
式等の譲渡による所得との間でのみ通算でき,それでも通算でき
なかった損失は,所得税法その他所得税に関する法令の規定の適
用についてなかったものとみなされる(措置法37条の10第1
項後段)。
一方,源泉分離課税方式の場合,譲渡損失が生じる取引の場合
であっても,みなし差益率によって,その上場株式等の譲渡に対
する租税負担が生じることになるし,その譲渡損失について,他
の株式等の譲渡による所得との間においても損益通算することは
できない。
Ⅱしたがって,常に源泉分離課税方式が申告分離課税方式と比べ
て租税負担が軽減されるわけではないから,源泉分離課税方式を
不合理な優遇措置であるということはできない。
b非上場株式との取扱いの差異について
(a)申告分離課税方式を採用した場合の税額格差について
Ⅰ原告は,取得価額1000万円,譲渡価格1億円の場合につい
て,非上場株式の譲渡に係る税額は上場株式等の譲渡に係る税額
と比較して地方税も含めると約20倍以上の額となることから,
非上場株式が不利益に扱われていると主張する。
しかし,平成元年当時の客観的な資料に照らせば,このように
莫大な譲渡益が得られるのは通常起こりがたい極めて異例の事態
であり,そのような極端な例をもって不平等であるとはいえな
い。
Ⅱまた,取得費が不明の場合に,非上場株式においてはその実質
的みなし差益率が95パーセントとして扱われており,非上場株
式が根拠無く不利益に扱われていると主張する。
しかし,申告納税制度の下では,納税者において取得費などの
費用を把握し証明できるようにしておくことは当然であり,費用
が不明な場合,本来ならば収入金額全てが譲渡所得とされてもや
むをえないところ,当該収入金額の5パーセントを取得費として
譲渡所得の計算をすることを認めている(所得税法基本通達38
−16)ことは,納税者に有利な取扱いを定めたものである。
(b)源泉分離選択課税方式の非採用について
また,上場株式等と比べて非上場株式は,市場において転々流通
することは予定されておらず移転の場面が限定されているから,取
得費が不明であるという事態が,少なくとも上場株式等に匹敵する
ほど多発するとは考えられないし,証券市場とも関連がないことか
ら,上場株式等と非上場株式との間で不合理な格差が生じていると
はいえない。
さらに,非上場株式は上場株式等と異なり,株価上昇率や回転率
などの客観的な資料を収集することは極めて困難であるから,適正
なみなし差益率を策定することは不可能であるといえる。さらに,
非上場株式に係る所得については,証券会社などを通じて株式等を
譲渡した場合と異なり,源泉によって所得を全て課税庁が捕捉する
ことは困難である。
これらの事情を考慮すれば,上場株式等と同様の配慮をしないこ
とも著しく不合理であるとはいえない。
(ウ)以上のとおり,上場株式等について源泉分離選択課税方式を採用し
たこと及び非上場株式については上場株式等と異なり申告分離課税方式
を採用した措置法37条の10第1項及び旧措置法37条の11第1項
の規定は,立法目的が正当であり,かつ,当該立法において具体的に採
用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明
らかであるとはいえないから,合憲である。
第3当裁判所の判断
1争点1について
()旧措置法37条の11第1項は,適用の対象となる譲渡株式等を,措置1
法37条の10第3項各号にいう「株式等」のうち証券取引法2条11項に
規定する証券取引所に上場されているものその他これに類するものとして政
令で定めるもの(上場株式等)に限定している。
本件株式は,証券取引所に上場されておらず,かつ,平成11年政令12
0号による改正前の租税特別措置法施行令25条の9第1項1号,2号に定
めるもののいずれにも該当しないので,旧措置法37条の11第1項が適用
の対象とする上場株式等に該当しない。
また,同条項の趣旨は,本来株式等の譲渡に係る所得に対する課税にあた
っては,原則として,その株式等の譲渡に係る収入金額から株式等の取得費
及び譲渡に要した費用を控除してその譲渡に係る所得を算出する必要がある
ところ,一般の個人に記帳の慣行がなく,有価証券取引を体系的に把握する
納税者番号などのシステムも全国的に確立していない状況の下で,市場にお
いて転々流通する上場株式等の譲渡益を容易かつ確実に捕捉して課税を行う
点にあるといえる。そうすると,市場において転々流通することを予定して
いない非上場株式については,その趣旨が妥当するとはいえない。
()したがって,非上場株式である本件株式について,同条項を適用するこ2
とはできない。
2争点2について
()憲法14条1項の合憲性判断基準について1
ア憲法14条1項の規定する平等の保障は,憲法の最も基本的な原理の一
つであって,課税権の行使を含む国の全ての統治行動に及ぶものである。
しかし,国民各自に存する多くの事実上の差異を無視して均一の取扱い
をすることはかえって国民の間に不均衡をもたらし,憲法14条1項の趣
旨に反する。
すなわち,同条項は,国民に対して絶対的な平等を保障したものではな
く,合理的な理由無くして差別することを禁止する趣旨であって,国民各
自の事実上の差異に応じて異なった法的取扱いをすることは,その区別が
合理性を有する限り,合憲と解される(最高裁判所昭和39年5月27日
大法廷判決・民集18巻4号676ページ参照)。
イそして,憲法は国家の維持及び活動に必要な経費は,主権者たる国民が
共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきもの
であるとの見地から,国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税
の義務を負うことを定め(憲法30条),新たに租税を課し又は現行の租
税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要としてい
る(憲法84条)。それゆえ,課税要件及び租税の賦課徴収の手続は,法
律で明確に定めることが必要であるが,憲法自体は,その内容について特
に定めることをせず,これを法律の定めるところに委ねているといえる。
ウ租税は,国家の財政需要を充足するという本来の機能の他に,所得の再
分配,資源の適正配分,景気の調整などの諸機能を有しており,国民の租
税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策などの国政全般からの総
合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについ
て,専門的技術的な判断を必要とするから,租税法の定立については,国
家財政,社会経済,国民所得,国民生活などの実態についての正確な資料
を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねる他はなく,裁判所
は,基本的にはその裁量的判断を尊重すべきである。
したがって,租税法の制定における立法府の裁量は広範なものであるか
ら,租税法の分野における所得の基因となる資産の種類・性質の違いなど
を理由とする取扱いの区別は,その立法目的が正当であり,かつ,当該立
法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不
合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することはでき
ず,憲法14条1項に違反するものということはできない(最高裁判所昭
和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247ページ参照)。
()措置法37条の10第1項及び旧措置法37条の11第1項の合憲性に2
ついて
ア目的の正当性について
(ア)本件制度は,従来,株式譲渡益に土地,建物等と同様に資産性所得
として強い担税力が認められるにもかかわらず原則非課税とされていた
ところ,税負担公平の観点から原則課税化とされたものであり,本来国
家の維持ないし活動経費である租税は主権者たる国民の間に公平に配分
されなければならないものである(租税平等主義)ことからすると,税
負担公平という目的は,それ自体正当な考え方である。
(イ)具体的な課税方式について本件制度が採用された経緯についても,
前記のとおり,一般の個人には記帳慣行が無く全ての投資家に適正な取
得価額の計算等を期待するには無理があること,有価証券取引を把握す
る体制が全国的に未整備であったため,総合課税方式を採用すれば,納
税者各々の主観的な事情や立証技術の巧拙によりかえって租税負担公平
確保の観点から問題が生じるおそれがあること,急激な税負担の変動が
証券市場に多大な影響を及ぼすことになりかねないことなど,総合課税
方式を直ちに採用するには多くの問題があったため,何らかの簡易な課
税方式を検討するなどして上記問題に対して政策的配慮を行う必要があ
ったと認められる。
そして,かかる配慮を要する問題の多くは,市場において転々流通
し,膨大な取引実態を有する上場株式等について強く顕在化することが
懸念されたことから,上場株式等に対しては,より一層の政策的配慮が
要されたといえる。
(ウ)このように,本件制度は,本来的には他の所得と合算して累進課税
により確定申告を通じて課税する総合課税方式が最も望ましい制度であ
ることを前提としたうえで,市場において転々流通する上場株式等に関
して特に懸念された租税の確実・的確な徴収,納税者各々の租税負担の
公平,市場経済へ与える影響などといった上記諸問題の発生を可及的に
防止するという目的で,総合課税方式への経過措置として採用されたも
のであるといえる。
そして,租税負担を国民の間に公平に配分することのみならず,市場
経済の動向に配慮しつつ租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実現する
ことも租税法の基本原則であるから,その目的は正当性を有するもので
ある。
(エ)したがって,措置法37条の10第1項及び旧措置法37条の11
第1項の目的は正当性を有するといえる。
イ本件制度が前記目的との関連で合理性を有するかについて
(ア)上場株式等の譲渡について,源泉分離選択課税方式をとることの合
理性
a課税方式の選択について
(a)前記のとおり,源泉分離選択課税方式は,理論的に最も望まし
い総合課税方式へ移行するにあたっての経過措置である。
(b)上場株式等の譲渡について源泉分離選択課税方式を採用した場
合,大量に譲渡される上場株式等についても,証券会社などを通じ
てすべて株式譲渡益を源泉で捕捉することができるため,有価証券
取引を把握して租税を確実かつ効率的に徴収するための措置として
実効的といえる。
また,上場株式等が市場において転々流通し大量の取引が見込ま
れることからすれば,原則非課税から原則課税への制度変更が急激
な税負担の変動による市場経済への悪影響をもたらすおそれがある
といえ,かかる悪影響を避けるべく,みなし差益率という形で一定
の利益率を基準として課税することは,租税に対する予測可能性を
高める措置として実効的といえる。
bみなし差益率について
(a)前記被告の主張に係るみなし差益率の計算方法は,それ自体合
理性を有するといい得るものであり,その基礎数値に重大な誤りが
あることを窺わせる証拠もない。もとより個々の取引事例によって
実際の差益率との間に開差が生じることは避けられないが,前記の
とおり上場株式等の譲渡につき源泉分離課税方式の選択を認めるこ
とには合理性があり,これを認める以上みなし差益率(又はみなし
経費・取得費率)の採用以外には適切な所得の計算方法は想定し難
く,その計算方法に一般的合理性が認められることからすれば,実
際の所得率との開差が僅少とはいえない事例が生ずることがあって
も,みなし差益率の採用及びその計算方法が不合理であるというこ
とはできない(本件の争点には直接関係しないが,実際の必要経費
及び取得費等に基づく申告分離課税の選択も可能であるから,前記
開差が上場株式等の譲渡をした納税者に与える不利益は回避でき
る。)。
(b)また,そのみなし差益率も,本件制度が経過措置であること及
び市場を反映した妥当な差益率であるべきことといった観点から,
本件制度の創設当初から一定期間経過後の見直しが予定されていた
ものであり,実際にも,平成8年に5パーセントから5.25パー
セントに改定されるなど,その見直しも行われている。
原告は,平成14年12月31日をもって源泉分離選択課税方式
が廃止されたことなどを理由に本件制度の不合理性を主張するが,
これも本件制度の創設当初から予定されていた見直しの一環であ
り,これによって直ちに従前の源泉分離選択課税方式の不合理性が
確認されたとみるのは相当ではない。
(c)このように,みなし差益率は,実際の所得率との開差が拡大す
る事態を長期的な観点から可及的に防止するよう配慮されていると
いえる。
c租税負担の軽減について
被告は,源泉分離選択課税方式の場合,常に申告分離課税方式と比
べて租税負担が軽減されるわけではないと主張する。
しかし,実際の所得率がみなし差益率を超えている場合は,源泉分
離課税方式を選択し,一方下回っている場合には申告分離課税方式を
選択すればよいのだから,源泉分離選択課税方式の方が租税負担軽減
のための選択肢が広いといえ,上記被告の主張は説得力を欠くものと
いえる。
d以上の諸事情を勘案すると,租税負担の軽減の点では申告分離課税
方式に比べて源泉分離選択課税方式に有利な面があることは否定でき
ないものの,上場株式等の譲渡について源泉分離選択課税方式を採用
したことには十分な合理性が認められるといえる。
(イ)非上場株式との取扱いの差異について
a源泉分離選択課税方式の非採用について
(a)措置法37条の10第1項及び旧措置法37条の11第1項に
よれば,措置法37条の10第3項各号にいう「株式等」の譲渡の
うち,上場株式等の譲渡以外の譲渡については,申告分離課税方式
のみが採用された。証券市場で取引されない非上場株式の譲渡及び
上場株式であっても証券市場以外での相対取引等は,取引実態の捕
捉の困難性等の点から,源泉分離課税にはなじまない面があるか
ら,法が,上場株式等の譲渡とそれ以外の株式等の譲渡について,
課税方式に区別を設けたことには合理性がないとはいえない。
(b)原告は,非上場会社が多数存在することから非上場株式の取引
数も多いと主張するが,会社の数と株式の取引数は,必ずしも連動
するわけではない。
また,原告は取得費が不明である事態は非上場株式の方がむしろ
多いとも主張する。しかし,非上場株式は,その性質上,そもそも
市場を転々流通することが予定されておらず,その取引回数及び流
通量の点において上場株式等と比べて多大な差があることは否定で
きない。そうすると,非上場株式について取得費が不明であるとい
う事態が上場株式等に匹敵するほど多発する可能性は低いといえ
る。
さらに,非上場株式の上記性質に照らせば,市場経済へ与える影
響も低く,また,上場株式等と異なり,適正なみなし差益率策定の
ために証券市場などを通じて株価上昇率や回転率などの客観的な資
料を収集することや所得を源泉で捕捉することは困難であるといえ
る。
(c)これらの事情を考慮すれば,非上場株式について上場株式等と
同様の配慮をする必要性は低いといえ,源泉分離選択課税方式を採
用しないことについて合理性が認められるといえる。
b申告分離課税方式を採用した場合の税額開差について
(a)この点について,原告は,「取得価額1000万円又は不明で
あり,かつ,譲渡価格1億円」という2つの例を提示し,非上場株
式は上場株式等と比較して税額が約20倍以上になるため,非上場
株式が不利益に扱われていると主張する。
しかし,平成元年当時の経済的状況に照らすと,このように莫大
な譲渡益が得られるのはむしろ稀な事例であるといえる。また,前
記のとおり,上場株式等と非上場株式ではその取引回数及び流通量
の面で多大な差があると認められることからすれば,非上場株式に
ついて原告主張に係る事態が生じるのは,極めて限られた場合にと
どまるといえる。
(b)また,原告は,取得費が不明の場合に,非上場株式においては
その実質的みなし差益率が95パーセントとして扱われており,5
パーセントである上場株式等と比較して非上場株式が根拠無く不利
益に取り扱われていると主張する。
しかし,申告分離課税方式の下では,本来納税者において取得費
などの費用を把握し証明できるようにしておくべきであり,原告が
主張するように課税制度の急転換による納税者への予測可能性の低
さを考慮したとしても,非上場株式の取引が上場株式等と比較して
頻繁に行われるものではないことからすれば,納税者に無理を強い
るものとまではいえない。
所得税法基本通達38−16は,土地建物以外の資産の譲渡によ
る譲渡所得の計算上,取得費不明の場合は本来これがないものとし
て計算すべきところ,その不都合から納税者を救済するため,多く
の種類の資産に共通する概算取得費として,長期所有資産である土
地建物等との均衡(措置法31条の4第1項)も考慮し,収入金額
の5パーセント相当額を認めるとの趣旨と解される。前記割合は控
えめなものと考えられるが,非上場株式の譲渡の場合,取得費の実
額が前記割合により算出した額を相当程度上回る例が生ずるとして
も,納税者が本来行うべき実額での所得計算ではなく,概算取得費
による計算を選択する以上やむを得ないものというべきである。し
たがって,このような法が直接予定していない事例に基づいて本件
制度の非合理性をいうのは相当ではない。
(c)確かに,原告のように,個別的な事例によっては,申告分離課
税方式と源泉分離選択課税方式によって税額に多大な開差が生じる
事態が生じることは否定できないものの,かかる事態の発生は多数
の納税者に対し一定の基準によって課税するという本件制度の性質
上避けられないことであり,それを是正するか否かは立法裁量の範
囲に属する問題というべきである。
c立法過程における非上場株式の検討について
なお,原告は,本件制度に係る立法過程において,非上場株式はそ
もそも議論の念頭に置かれていなかった旨の主張をするものの,それ
を認めるに足りる証拠はなく,仮に原告の上記主張が認められるとし
ても,そのことのみをもって本件制度における取扱いが著しく不合理
であると断ずることはできず,非上場株式と上場株式等の取引実態や
本件制度の内容等も含めて総合的に合理性を判断するべきである。
d以上の諸事情を勘案すると,非上場株式については,その株式とし
ての性質や経過措置であること等から,上場株式等と異なり源泉分離
選択課税方式を採用しないとすることも合理的であるといえ,かかる
区別の態様が前記第3,2,(),ア,(ウ)の目的との関連で著しく2
不合理であることが明らかであるとはいえない。
ウ以上のとおり,措置法37条の10第1項及び旧措置法37条の11第
1項の規定は,立法目的が正当であり,かつ,当該立法において具体的に
採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明
らかであるとはいえないから,憲法14条1項に違反せず,ひいては同法
29条1項,84条にも反しない。
第4結論
以上の次第で,原告の請求は理由がないといえるから,これを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官佐藤明
裁判官菊池章
裁判官重高啓

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