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平成21年11月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第2591号著作権侵害確認等請求事件
口頭弁論終結日平成21年10月30日
判決
東京都港区〈以下略〉
原告X
訴訟代理人弁護士高橋謙治
同高谷進
同鶴田進
同中田貴
同荒木邦彦
同中村仁志
静岡市〈以下略〉
被告Y
訴訟代理人弁護士難波修一
訴訟復代理人弁護士松浪聖一
主文
1被告は,原告に対し,40万円及びこれに対する平成16年6月
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを2分し,それぞれを各自の負担とする。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙著作目録記載の論文について,別紙通知目録記載のとおり,
別紙通知先目録記載の通知先に通知せよ。
2被告は,原告に対し,320万円及びこれに対する平成16年6月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,原告が,被告が原告の同意を得ずに別紙著作目録記載の論文(英
文論文。以下「第2論文」という。)を作成し,別紙通知先目録記載の通知
先「LippincottWilliams&Wilkins」(以下「LWW社」という。)が発行す
る学術雑誌「NeuroReport」(以下「ニューロレポート誌」という。)に発表
したことが,原告及び被告の共同著作物である未公表の英文論文(論文の題
名・「AnfMRIstudyoncommonneuralcorrelatesofreadingaloudand
writingtodictation」。以下「第1論文」という。)について,その共有
者全員又は著作者全員の合意(著作権法64条1項,65条2項)によらず
にした複製,翻案,改変及び公表に当たり,原告の著作権(複製権,翻案
権)及び著作者人格権(同一性保持権,公表権)を侵害する旨主張して,被
告に対し,著作権法117条,112条1項,2項に基づく侵害の停止のた
めの措置又は同法115条に基づく名誉又は声望の回復のための措置とし
て,LWW社に第2論文の撤回の通知をするよう求めるとともに,上記著作権侵
害及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の
全趣旨により認められる事実である。)
(1)当事者
ア原告は,平成5年から平成9年までの間,東京大学医学部教授(音声
言語医学研究施設言語神経科学部門),平成9年から平成15年までの
間,東京大学大学院医学系研究科教授(脳神経医学専攻,認知・言語神
経科学分野)として,脳と言語の関係に関する研究を行っていた。
その後,原告は,平成16年に財団法人脳血管研究所(以下「脳血管
研究所」という。)教授となった後も,上記研究を継続していた。
また,原告は,昭和59年から日本神経心理学会理事,平成5年から
日本失語症学会理事,平成8年から認知神経科学会理事長,平成10年
から雑誌「Neuropsychologia(Pergamon)」の編集委員,平成11年から
日本脳機能マッピング学会運営委員を務めていた。
イ被告は,平成8年に筑波大学(第2学群人間学類心理学専攻)を卒業
後,平成10年に東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程を修了
した後,同年,東京大学大学院医学系研究科博士課程(認知・言語神経
科学分野)に進学し,同博士課程で原告が主宰し,指導教官を務める研
究室の一員となった。
被告は,平成14年3月,同博士課程を修了した後,同年4月,東京
大学医科学研究所の研究員となり,A(以下「A」という。)助教授の
指導の下で研究を行うようになった。
(2)第1論文
ア第1論文(甲1)は,論文の題名を「AnfMRIstudyoncommonneura
lcorrelatesofreadingaloudandwritingtodictation」(訳・「
音読と書き取りに共通の神経的相関についての機能的磁気共鳴画像研
究」)とする英文論文である。
第1論文は,fMRI(functionalMagneticResonanceImaging)(訳・「
機能的磁気共鳴画像法」。以下,単に「fMRI」という。)を用いて,日本
語のかなの音読における「書記素−音素変換」(graphemetophonemec
onversion)及び書き取りにおける「音素−書記素変換」(phonemetogr
aphemeconversion)によって生ずる脳の共通の賦活部位を明らかにする
ことを目的とした研究論文である。
第1論文には,著者(author)として,「Y1,A1,X1」
1,221,CA
との表示がある。「Y1」は被告,「A1」はA,「X1」は原告の各
氏名の英文表記である。「X1」中の右肩の「CA」は,「Correspo
1,CA
ndingAuthor」(訳・「文責著者」。以下「コレスポンディングオーサ
ー」という。)を意味する。
イ第1論文は,「言語の著作物」(著作権法10条1項1号)であり,
被告は,その「著作者」(同法2条1項2号)である。
第1論文は,平成14月8月30日までに完成していたが(甲1,2
4,弁論の全趣旨),未だ公表されていない。
(3)第2論文
ア第2論文は,論文の題名を「Neuralcorrelatesofphoneme-to-graph
emeconversion」(訳・「音素から書記素への変換に関する神経的相
関」)とする英文論文である。
第2論文は,fMRIを用いて,日本語のかなの書き取りにおける「音素
−書記素変換」(phonemetographemeconversion)によって生ずる脳の
賦活部位を特定することを目的とした研究論文である。
第2論文には,著者(author)として,「Y1,C1,B1,D1,
CA12
A1」との表示がある。この表示中の「Y1」のとおり,被告はコレ
2CA
スポンディングオーサーとして表示されている。なお,「B1」はB(
以下「B」という。),「C1」はC(以下「C」という。),「D
1」はD(以下「D」という。)の各氏名の英文表記である。
イ第2論文は,「言語の著作物」(著作権法10条1項1号)であり,
被告は,その「著作者」(同法2条1項2号)である。
被告は,平成15年12月15日,第2論文をニューロレポート誌に
投稿した。第2論文は,ニューロレポート誌の編集者の査読を経て,2
004年(平成16年)4月29日発行のニューロレポート誌第15巻
6号に掲載された。
(4)第1論文と第2論文との対比
ア第1論文と第2論文は,いずれも,①「Abstract」(訳・「抄
録」),②「Introduction」(訳・「導入」),③「MaterialsandMet
hods」(訳・「材料と方法」),④「Results」(訳・「結果」),⑤「
Discussion」(訳・「議論」),⑥「Conclusion」(訳・「結論」)及
び⑦「References」(訳・「参考文献」)の各章で構成されている。
イ第1論文と第2論文を対比すると,別紙対比表1(「Abstract」,「I
ntroduction」及び「MaterialsandMethods」の各章)及び別紙対比表
2(「Discussion」の章)のとおり,各下線部の箇所において,同一の
英単語,句,節又は文が用いられ,上記箇所の表現は同一又は類似して
いる。
なお,「Results」及び「Conclusion」の各章においては,第1論文と
第2論文の記載内容が異なり,その表現において類似する箇所は存しな
い。
3争点
本件の争点は,第1論文が原告及び被告を著作者とする共同著作物(著作
権法2条1項12号)に当たるか(争点1),被告による第2論文の作成が
第1論文についての原告の複製権及び翻案権の侵害に当たるか(争点2),
被告による第2論文の作成・発表が第1論文についての原告の同一性保持権
及び公表権の侵害に当たるか(争点3),原告は,被告に対し,著作権法1
17条,112条1項,2項に基づく侵害の停止のための措置又は同法11
5条に基づく名誉又は声望の回復のための措置として,第2論文の撤回の通
知をするよう求めることができるか(争点4),被告が賠償すべき原告の損
害額(争点5),原告の被告に対する本件請求が権利の濫用に当たり許され
ないか(争点6)である。
第3争点に関する当事者の主張
1第1論文の共同著作物性(争点1)について
(1)原告の主張
ア第1論文の作成経緯
通常,大学研究室における科学論文の作成に当たっては,論文になり
そうな課題を教授が学生に指示して,学生が原稿を作成し,教授がそれ
を添削して作成する。英語による科学論文の場合には,教授は,英語文
法の添削と論文内容(テーマ設定,実験方法の指示,論文の構成,議
論,結論の内容等)の添削の両方をしなければならない。
第1論文は,以下のとおり,原告の指導の下に被告が原稿を作成し,
原告がその添削をしたり,自らが文章を書き下ろすことによって作成さ
れたものである。
(ア)原告は,平成9年以降,日本学術振興会から研究費を受け,「PET
及びfMRIによる言語機構の解析−脳機能画像解析の技術的確立と新技
術の開発−」プロジェクト(日本学術振興会未来開拓学術推進事業)
の研究を行っていた。原告は,その研究の一環として,第1論文に係
る研究を行うこととし,その研究テーマ,刺激方法(日本語の無意味
音節の使用を含む。),必要な実験器具の準備,共鳴画像の撮像条件
や画像の処理方法などをすべて決定した。
原告は,この研究の実際の実験を,原告が主宰する研究室(東京大
学大学院医学系研究科博士課程)に属する大学院生であった被告に手
伝わせることによって,被告の博士論文の研究に必要な知識と手法を
学ばせ,また,被告の業績を作るため,実験終了後のデータの処理と
研究結果の論文原稿の作成を被告に担当させることとした。
なお,被告は,医学教育を受けておらず,論文作成に不可欠な脳解
剖学,失語症及び脳機能画像についての知識に乏しかった。
(イ)a被告は,原告の指導の下で,平成12年10月に第1論文の初
期原稿である甲28の原稿を作成し,原告に提出した。しかし,甲
28の原稿は,意味不明な文が多く,内容が貧弱で,しかも英語の
初歩的誤りが余りにも多く,全面的な改訂をせざるを得なかった。
その後,被告は,平成13年6月ころ甲11の原稿を原告に提出
した後,同月25日に甲12の原稿を,同年8月10日に甲13の
原稿を,同月20日に甲14の原稿を,同月27日に甲15の原稿
を,同月31日に甲16の原稿を,同年9月15日に甲17の原稿
を,同月17日に甲18の原稿を,同月18日に甲19の原稿を,
同月22日に甲20の原稿を,同年10月8日に甲21の原稿を,
同月24日に甲22の原稿を,同月29日に甲23の原稿を,平成
14年8月30日に甲24の原稿を,平成15年3月6日に甲25
の原稿を原告にそれぞれ提出し,その都度原告に添削の依頼をし
た。
bこれらの原稿について,原告は,被告に対し,論文全体の論文全
体の方向性の指示に始まり,論文の構成の組み立て方から英語文法
の訂正にまで至る広範な指導をした。これらの指導は,原告による
各原稿への手書きの書き込みに表れており,その具体的な内容は,
別紙書き込みによる指導の一覧表のとおりである。
c原告は,原稿への手書きの書き込みによる指導だけでなく,被告
に対し,口頭でも多々指導している。
例えば,甲28の原稿について,原告は,事前に書くべき内容を
懇切丁寧に指示して,それを被告に日本語で記載させている。甲2
8の原稿の「(文献:X先生より聞く)」(11頁8行目),「1
4.頭頂間溝の損傷で生じるalexiaの例:X先生より聞く」(15
頁19行)などの記載からも明らかなとおり,被告は,当時,論文
作成に必要な文献すら知らなかった。
また,甲12の原稿の被告による右欄の書き込み(別紙書き込み
による指導の一覧表の「甲12」の項参照)は,原告が甲11の原
稿を検討した際に被告に口頭で指示した内容である。原告が口頭で
指示した内容を被告がはっきり理解しているか不安だったので,甲
11の原稿を書き直して甲12を作成することを指示した際に,甲
12の右欄に原告の指導内容を書いてくるように予め被告に指示
し,被告がこれに従ったものである。
さらに,甲17,20,21,23の各原稿におけるタイプされ
た「下線付きの日本語文」(例えば,甲17の9頁14行目の「
1.共通の賦活部位を述べる」など)も,原告が被告に口頭で指示
した内容である。原告が口頭で指示した内容を被告が甲13ないし
16の各原稿に書いてこない場合があったので,原告は,甲16の
原稿を検討した際に,次から原告が口頭で指示した内容をタイプで
打ってくるように被告に指示した。甲17,20,21,23の各
原稿の「下線付きの日本語文」は,こうしてタイプされたものであ
る。
(ウ)原告は,被告の依頼を受けて甲25の原稿の添削をしたが(別紙
書き込みによる指導の一覧表の「甲25」の項参照),第1論文(甲
1)には,その添削部分は反映されていない。
なお,原告は,甲25の原稿についても,「何かを加えないと通ら
ない。」,「大きな問題があり,それを解決するようにもう一度努
力」することが必要であると考え,論文として発表できるまでのレベ
ルではないと考えていた。それゆえ,現在に至るまで,第1論文は発
表されていない。
(エ)以上のとおり,第1論文における文章の構成や論じ方という創作
的部分は,専ら原告によって作成されており,被告は,文章の大半に
ついて事実上タイプ打ちをしたにすぎない。このことは,被告の初期
原稿である甲28の原稿の各章の構成が第1論文の最終稿(甲1)と
異なっていること,甲28の原稿の文章が第1論文の最終稿にほとん
ど残っていないことからみても明らかである。
イ原告が第1論文の共同著作者であること
(ア)医学・薬学系の学術論文誌の投稿規定では,国際医学雑誌編集者
委員会(ICMJE)が定めた「生医学雑誌への投稿のための統一規
定」(甲41)に準拠することが求められていることが多く,ニュー
ロレポート誌もこの統一規定に準拠している。この統一規定によれ
ば,①著作物の構想と設計,データ取得,データの解析と解釈に対す
る実質的貢献,②論文の起草又は重要な知的内容に対する決定的改
訂,③掲載されることになる版の最終承認をした者は,文章を具体的
に作成する作業に関わらなくとも,「著者」の資格を有する。学術論
文においては,どのような内容をどのように組み立てて論理的かつ説
得的に結論を導くかという点が特に重要であることから,この点を指
示,指導した者は,当該論文の構想と設計を成した者であるから,仮
に1文も書かなくとも,「著者」の資格を有する。
したがって,仮に被告だけが第1論文の文章をすべて書いたとして
も,原告は第1論文の構想と設計に関与しているから,その「著者」
であり,第1論文は原告及び被告の共同著作物となる。ましてや,前
記アのとおり,原告は,自ら多くの文章を第1論文に書き下ろしてい
るから,第1論文は原告及び被告の共同著作物であることは明らかで
ある。
(イ)コレスポンディングオーサーは,論文内容に最終的責任を負う著
者であるところ,原告が第1論文のコレスポンディングオーサーとし
て表示されている点からも,原告が第1論文の著作者であることは明
らかである。
ウ小括
以上のとおり,第1論文は,原告及び被告が共同して創作した共同著
作物(著作権法2条1項12号)であり,原告は,被告と共に,その「
著作者」(同項1号)である。
(2)被告の反論
ア第1論文の作成経緯の主張に対し
(ア)原告は,被告の指導教官として第1論文の作成について指導すべ
き立場にあったものであり,被告は,第1論文に関する原告の関与自
体を一切否定するものではない。
しかし,被告が原稿を提出して原告に指導を求めても,原告からは
何ら具体的な意見・方向性が教示されることはなく,単に被告の作成
した文章を否定し,書き直し・再提出を命じるばかりであり,原告
は,実質的には何ら指導らしい指導を行わなかった。原告による指導
は,削除を指示したものが多く,新たに書き直された部分は被告自身
の考えにより書かれたものである。原告が直接表現を指示した部分も
あるが,それらは瑣末な語句の訂正というべきものであり,内容につ
いて具体的な表現を指導したことはほとんどない。
また,別紙書き込みによる指導の一覧表に対する被告の反論は,同
一覧表の各「被告の反論」欄に記載のとおりである。これらの原告の
手書きによる書き込みをもって,原告が被告に十分な指導を行ったと
いうことはできない。
(イ)第1論文について,原告が被告に対し口頭で多くの指導を行った
事実はない。
原告主張の甲12の原稿における被告による右欄の書き込みは,原
告が被告に口頭で指示をした内容を記載したものではない。これらの
書き込みは,被告が「Discussion」の章を作成するに当たって思いつ
いた,自らの着想ないし案を書きとめたメモ書きである。原告が原稿
を検討する便宜のために,被告がこれらの書き込みを行うことは何ら
不自然ではない。
また,原告主張の甲17,20,21,23の各原稿におけるタイ
プされた「下線付きの日本語文」は,被告が自ら考えた内容をメモし
たものもあり,原告による口頭の指導に基づき記載されたものではな
い。
(ウ)甲28の原稿と第1論文を比較すると多くの変更がされているこ
と自体は認めるが,変更された部分は,専ら被告により具体的な表現
がされたものであるから,原告が著作者であることの根拠となるもの
ではない。被告が大学院生であった甲28の原稿を執筆した時期から
第1論文を執筆するに至るまでの間に,被告自身が独力で試行錯誤を
繰り返しながら,英文論文の執筆能力を高めていった背景を無視する
ことはできない。
また,被告は,甲28の原稿から第1論文の最終稿に至るまで多く
の修正を行っているが,その大部分は被告が考えた表現である。原告
は,第1論文に至る原稿執筆の過程で,被告による表現の削除を求
め,些細な語句の訂正などを行っているが,被告に対し,内容につい
て具体的な表現を指導したことはほとんどない。
イ原告が第1論文の共同著作者であるとの主張に対し
(ア)著作権法上の「著作者」は,具体的な創作活動を行った者をいう
のに対し,一般に学術論文においては,論文の表現を創作した者のみ
ならず,実験に何らかの形で協力した,あるいは,論文の構成などに
アイデアを提供したといった態様で研究に対して知的貢献をした者
も,「著者」として表示され得るのであり,学術論文において「著
者」として扱われている者と,著作権法上の「著作者」は必ずしも一
致するものではない。もっとも,自ら執筆を行わなくとも原稿を執筆
するに当たって詳細な指導を行った者には,共同著作者の資格が認め
られることもあり得るが,第1論文に関する原告の指導状況にかんが
みれば,原告が詳細な指導を行っていたと到底いうことはできないの
であり,原告は,第1論文の著作権法上の「著作者」に当たらない。
(イ)原告が第1論文にコレスポンディングオーサーとして表示されて
いることをもって,原告が第1論文の著作者であることを根拠付ける
ことはできない。なぜなら,既に職を得ている研究者の発表した論文
であれば,コレスポンディングオーサーとファーストオーサー(第1
著者)は一致することも少なくないが,近い将来に就職による連絡先
の変動の可能性がある学生の場合には,便宜的に指導教官の氏名にコ
レスポンディングオーサーの表示を付することが多く,第1論文も正
にこの場合に当たるからである。さらに,コレスポンディングオーサ
ーは,連絡先著者としての意味を持つものであり,当該論文が他の研
究者の査読を経て,学術雑誌に出版・公表されて初めて有効となる概
念である。原稿段階におけるコレスポンディングオーサーの表示をも
って,不当にその権限を大きく主張することは不適当である。
ウ小括
以上のとおり,原告は第1論文の「著作者」といえないから,第1論
文が原告及び被告の共同著作物であるとの原告の主張は理由がない。
2複製権及び翻案権の侵害の有無(争点2)について
(1)原告の主張
共有著作権は,その共有者全員の合意によらなければ行使することがで
きないところ(著作権法65条2項),被告が,以下のとおり,原告に無
断で第1論文を複製及び翻案して第2論文を作成した行為は,第1論文に
ついての原告の著作権(複製権,翻案権)の侵害に当たる。
ア複製権侵害
(ア)類似性
別紙対比表1及び2の各下線部の箇所において第2論文に第1論文
と同一又は類似の表現が存することは,前記第2の2(4)イのとおりで
ある。
別紙対比表1及び2によれば,第1論文と第2論文は,全く同じ単
語が同じように配置されている箇所が多数に上ること,単語の言い換
えのみを行い文意は同じ文章はさらに多数に上ること,文章の並びに
ついても,文章の加筆及び削除が若干見られる程度であって,大多数
の箇所において,酷似した文章がほぼ同一に並べられていることなど
からすれば,第2論文は,第1論文の文章と実質的に同一の表現を有
形的に再製したものといえる。
(イ)創作性
a学術論文の書き方も多種多様であって,どのような内容を記載す
るか,どのような順序で並べるか,単語の選択,文体の選択,言い
回しなどほぼ無限の書き方が存在する。また,同一人物が作成に関
与したときでも,論文が異なれば文章も自ずから異なってくる。
したがって,第1論文における別紙対比表1及び2の下線部の箇
所の表現は,創作性を有する。
b「Abstract」の章について
(a)別紙対比表1の1の下線部の「isbasedonknowledgeofho
wtoconvert」との表現については,例えば,「isbasedon」
を「isfoundedon」にしてもよく,「knowledgeof」を「rules
for」にしてもよい。
また,同下線部の「Inwritingtodictation(・・・・)」
は,「Indictation」又は「Whenwewritetodictation,」と,
同下線部の「phoneme-to-graphemeconversion」は,「phoneme-g
raphemeconversion」,「phoneme-grapheme-conversion」又は「
phonemetographemeconversion」などと表現することが可能で
ある。
さらに,同下線部の「namely」に係る部分は,namelyの前にgra
pheme-to-phonemeconversionの説明があり,namelyの後に専門用
語(grapheme-to-phonemeconversion)があるが,この順序を逆に
して,専門用語を先に書き,後から説明する構文でも可能であ
る。例えば,「Onewaytoreadaloudisgrapheme-to-phoneme
conversion,whichisbasedonknowledgeofhowtoconvertl
ettertothecorrespondingspeechsound.」という文でも同じ
意味となる。また,namelyではなく,thatisを用いることも可能
である。
(b)別紙対比表1の2の下線部の「Littleisknownaboutthe
neuralsubstrateof」との表現については,「Littleisknown
∼」という強調法を使用した個性的な書き方であり,これに変え
て,例えば,「weknowlittleabouttheneuralsubstrateof
∼」,「Thereisapaucityofliteratureregarding∼」,「T
heneuralsubstrateof∼isnotwellstudied」でもよ
い。また,「substrate」(基盤)の代わりに,「correlate」(
関連)や「basis」(基礎)を使用してもよい。
(c)別紙対比表1の3の下線部の「functionalmagneticresonan
ceimaging」は,2回目以降については「functionalMRI」ある
いは「fMRI」と略して用いることが多い。略さず何度も繰り返し
用いる表現は独自性の高い表現である。
また,同下線部の「Ourstudyaimstoclarifytheneuralsu
bstrate・・・」との表現は,「Weaimedtoclarifytheneural
basis・・・」,「Thepresentstudyaimedtodelineate・・
・」にしてもよい。
さらに,同下線部の「clarify」(明らかにする)という動詞の
代わりに,例えば,「elucidate」(明らかにする)や「delineat
e」(・・・の輪郭を描く)を使用することも可能である。
(d)別紙対比表1の4の「WeemployedJapaneseasmaterials
becausethetwokindsofconversionsaresimple.」との表現
については,「employed」(使用した)の代わりに,「used」(
使用した)を用いること,主語を「Japanese」として,「Japanes
ewasemployedasmaterials」とすること,「because」の代わ
りに,「onthegroundthat」(∼という理由で)を用いることが
可能である。
また,「InJapaneseonephonemeisrepresentedbyonegra
pheme(kanaletter)andviceversa,」との表現は,「InJapan
ese,onegrapheme(kanaletter)representsonephonemeand
viceversa」と表現することができる。
(e)別紙対比表1の5の下線部の「Functionalmagneticresonan
ceimaging」は,前記(c)のとおり,略さず,何度も繰り返し用
いる表現は独自性の高い表現である。
また,同下線部の「activated」(賦活される)は,「demonstr
atedactivation」(賦活を示した)にしてもよい。
さらに,主語を「Functionalmagneticresonanceimaging」
とするのではなく,「Ourstudy」や「Ourexperiment」とする
ことも可能である。
(f)別紙対比表1の6の下線部の「writingtodictation」の代
わりに,「dictation」を用いることができる。
(g)第2論文の「Abstract」の章は1ないし6の6項から構成さ
れている。
しかし,「Abstract」の記載において,何項を使って記述しよ
うが自由であり,6項でなければならない理由はない。第1論文
及び第2論文は,いずれも過去の研究に言及した後で目的及び結
果を述べているが,記述の順序も自由である。
また,第2論文の1項(書き取りの説明)又は2項(この方面
の研究が少ないことの記述)を省いたり,1項を後ろにもってい
き,3項(目的と方法論)から始めることも可能である。
さらに,3項を1文でなく,2文に分けることや,「Abstrac
t」に他の文を付け加えることが可能である。
(h)以上のように「Abstract」には多数の書き方が存在するか
ら,第1論文における別紙対比表1の下線部の箇所の表現は,創
作性を有する。
c「Introduction」の章について
(a)別紙対比表1の10の下線部の「isbasedonknowledgeof
howtoconvert」,「phoneme-to-graphemeconversion」との表現
及び「namely」に係る部分の表現については,前記b(a)と同様
である。
また,同下線部の「Theotherisbasedonmemoryofspecifi
cletter-sequences(lexical).」は,「Theotherisbasedon
utilizationofawholewordretrievalprocess.」でもよい。
(b)別紙対比表1の14の下線部の「indicated」(示唆した)
は,「implied」(暗に意味した)又は「suggested」(示唆した)
と,「affect」(影響する)は,「disturb」(障害する)と表現
することが可能である。
また,「theimportanceoftheleftfrontalcortexinthe
twokindsofconversionwasalsosuggested」(2種類の変換
において,左前頭皮質が重要であることも示唆された。)」は,「
Itwasalsosuggestedthattheleftfrontalcortexplayeda
nimportantroleinthetwokindsofconversion.」と表現す
ることもできる。
(c)別紙対比表1の20の下線部の「becausemostphonemesare
representedbymorethanonegrapheme」という部分は独自性
の強い表現である。英語の音素は一つ以上の書記素で表わされる
ので,そのまま,「onephonemeisrepresentedbyonegraphem
eormore」と書くのが自然かつ通常の表現である。それを「全て
の音素」についてではなく,「たいていの音素」だけ取り上げ
て,「たいていの(英語の)音素は二つ以上の書記素で表わされ
る」と強調して記載されているのは,著作者の個性が強い表現で
ある。
(d)別紙対比表1の22の下線部の「functionalmagneticreson
anceimaging」との表現については,前記b(c)と同様である。
同下線部の「Theaimofourstudyistoclarify・・・.」
との表現は,「Weaimedtoclarify・・・」,「Ourstudyaim
stoclarify」又は「Thepresentstudyaimedtodelineate・
・・」とすることも可能である。
また,同下線部の「theneuralsubstrate」(神経的基盤)
は,「theneuralcorrelate」(神経的関連)でも「theneural
basis」(神経的基礎)でもよい。
(e)別紙対比表1の10で,音素−書記素変換のことを述べて,
その後,20と21で,再び,音素−書記素変換のことを述べて
いるが,20と21は10の次に続けて述べることも可能であ
る。
14では,音声学的失書の責任病巣に関して,Roeltgenらの説
を紹介しているが,他の研究者の説を代わりに記載してもよい。
また,Roeltgenらの研究は,脳の損傷例に基づく説であり,第1
論文及び第2論文は機能的磁気共鳴画像法に基づく研究なので,
機能的磁気共鳴画像法に基づく学説もここで加筆しておくほうが
分かりやすい。
20と21で,日本語は英語に比べ,音素−書記素変換が単純
であることを述べているが,音素−書記素変換が単純である日本
語を使用した研究を行うと,英語を使用した場合に比べ,どんな
違った結果が得られるのかについて,加筆した方が分かりやす
い。
さらに,書字には,書き取りと書称(「絵や物を見て,その名
称を書く」)があるところ,この研究で,書き取りを取り上げ,
書称を取り上げなかった理由を加筆すれば,「Introduction」と
して分かりやすくなる。
(f)以上のように「Introduction」には多数の書き方が存在する
から,第1論文における別紙対比表1の下線部の箇所の表現は,
創作性を有する。
d「MaterialsandMethods」の章について
「MaterialsandMethods」は,被験者,課題,データ取得及び
データ分析についての「事実」を記載する部分であるところ,その
記載の仕方については無数の表現があり,筆者の学識及び能力や,
丁寧に書くとか簡潔に書くとかといった筆者の態度によっても異な
る表現となる。
(a)「Subjects」(24ないし27)
別紙対比表1の24については,①「Subjects」(被験者)
は,「participants」(参加者)又は「Studyparticipants」(
研究参加者)にしてもよい。「Subject」(被験者)を主語にする代
わりに,「Twenty-oneJapaneseyoungmale」を主語にして,動
詞も「were」でなく,例えば,「participated」(参加した)を用
い,「Twenty-oneJapaneseyoungmaleparticipatedinthefM
RIstudy」として,被験者の年齢は次に別の文で記載するという
表現もある,また,被験者に「healthy」(健常な)などの形容詞
を「young」(若い)の代わりに使用することも可能である,②2
4の文中に被験者の年齢の記載が含まれているが,この部分だけ
で一つの文にすることができ,また,「SD」(標準偏差)と平均
に加え,「range」(範囲)を記載することもできる,③24の文
は,被験者の神経学的あるいは聴覚的障害の既往歴の記述を含ん
でいるが,この部分だけで一つの文にすることができる。
別紙対比表1の25については,「right-handed」(右手利き
の)の記載は24の文で記載してもよい。また,この文は,エジ
ンバラ質問紙法あるいはエジンバラ質問紙法の左右差指数を主語
にして表現することもできる。その際,左右差指数の数値を加え
て,より正確に表現することもできる。
別紙対比表1の27については,①「experimentalprocedur
e」(実験手続)が主語になっているが,「study」(研究)ある
いは,「protocol」(実験計画)も使用することができる,②「a
pproved」(承認された)という動詞が用いられているが,「appr
oval」(承認)という名詞を使用して表現することも可能であ
る,③インフォームドコンセントについても,「obtained」(得
られた)ではなく,「received」(受け取った)でもよく,ま
た,「allthesubjects」(すべての被験者)と記してある
が,「allsubjects」でも「allparticipants」でもよい,④2
7の前半部分は実験手続の承認を扱い,後半部分はインフォーム
ドコンセントを扱っているが,この順序を逆でもよく,そのよう
な表現もある。
さらに,24ないし27の文章については,①被験者の人数が
記載されている24に,右手利きということを書き加えれば,2
5の文は省略が可能である,②24の文は,被験者の人数,年齢
及び既往歴が記載されており,これら三つは,それぞれ独立の文
で表現することができる,③24項において,被験者をどこで募
集し,どこから得たかを加筆することも可能であり,そのほか,
被験者が男性か女性か,男女の比率などの情報を加え,新たな文
を作ることもできる,④被験者の脳画像をどこで撮像したか,加
筆したほうがより適切である,⑤この種の実験においては,騒音
のひどい磁気共鳴画像装置の中で,被験者が言葉を聞いてそれを
書き取りしているので,言葉が聞こえるように,騒音対策として
どのようなことをしたのか加筆した方が,より実験の適正さを強
調できる。
(b)「Tasks」(28ないし43)
別紙対比表1の28については,①第1文で,「we」を主語に
しているが,「threeexperimentalconditions」を主語にするこ
とができ,また,「define」(定義する)という動詞の代わり
に「design」(企画する)を使用し,あるいは「asfollows」を
省略したり,実験条件であることを明示する副詞句(例えば,「f
orthefMRIscanperiods」(fMRI撮影期間中)など)を加える
こともできる,②第2文については,「last」(続く)という動
詞が使用されているが,「take」,「continuefor」,「carryo
nfor」を使ってもよいし,また,副詞句,例えば,「foradura
tionof40s」(40秒間)にしてもよい。
別紙対比表1の29については,①第1文の冒頭は「asstimul
iset」となっているが,これを文の後ろにもってきてもよい,
②「stimuliset」の「stimuli」(複数形)は誤りで「stimulu
s」(単数形)が正しい,③主語を「we」にしているが,主語を
他の名詞(例えば,「phonograms」)にすることができる,④文
中の関係代名詞節を独立の文にすることが可能である。
別紙対比表1の32については,①第1文で,「back-projecte
d」(裏から投影された)の代わりに「projected」(投影され
た)と省略形にしたり,また,「screen」(スクリーン)に「tra
nslucent」(半透明の)を加えてもよく,さらに,「fromanLCD
video-projector」(LCDビデオプロジェクターから)の「from」
を「via」に変えることが可能である,②第2文は第1論文も第2
論文も全く同一の表現であるが,主語の「Thestimulussound」
の代わりに「Theauditorystimuli」,「intotheMRIsystem」
の代わりに「intothesubjects'ears」でもよいし,また,「a
plastictubethatterminatedintheearplugs」(端が耳栓に
なっているプラスティックチューブ)の「that」という関係代名
詞は省略し,構文を能動態に変えることも可能である。
別紙対比表1の34については,①「aredpointatthecent
erofthescreen」は,「aredcentralfixationpoint」(赤
い中心の固視点)でもよい,②また,「wasasked」(求められ
た)あるいは「wasrequired」(求められた)を加えてもよい。
別紙対比表1の36については,二つの文を「and」でつないで
いるが,この「and」は省略して二つの独立の文にすることが可能
であり,また,「kanaletter」(仮名文字)は「kana」でも,「
phonogram」でも,「kanacharacter」でもよい。
別紙対比表1の41については,①「therate」ではなく,「t
hestimulus」(刺激)を主語にすることができる,②また,第2
文の一部を第1文に含めることができる。
別紙対比表1の42については,①「periodsof」(∼の期
間)という2単語を省略しても同じ意味になる,②また,「inter
leaved」(差し込まれた)の代わりに「inserted」(挿入され
た)でもよい。
別紙対比表1の43については,①「inapseudorandomizedo
rder」(擬似無作為的順序)は,「Theorderofpresentationof
eachconditionswerepseudorandomized」のように文にするこ
とができる,②第2文の「consistedof」(成っていた)は,「w
ascomposedof」あるいは「comprised」,「repeated」(繰り返
された)は,「presented」(提示された)でもよい。
さらに,28ないし43は,「Tasks」(課題)を記述した文章
であるところ,①28が実験条件を記し,29が刺激について記
しているが,この順序は逆にすることもできる,②42と43
は,実験条件に関する記述であり,課題について記載している2
8の次に持っていってもよい。むしろその方が分かりやすい,③
64は,課題がどのような構成要素から成り立っていると仮定さ
れるかを記載しているが,これは28ないし43で記載してもよ
い,④書き取り課題で使用した文字の刺激,刺激間隔及び刺激系
列などをどのようなコンピュータソフトで作成したのかを加筆す
ることができ,むしろそれらを明記する方が一般的である,⑤書
き取り課題では人の声を聞いてそれを書くので,人の声がどのよ
うな声であるのか,片方の耳に提示されたのか,両耳への提示な
のかなどの情報を加筆するのが一般的である,⑥書き取り課題を
研究するのに,固視条件をなぜ行ったのかについての説明がない
が,これについて説明を加筆するのが一般的である。
(c)「Dataaquisition」(45ないし49)
別紙対比表1の45については,①「fMRIdataacquisitio
n」(fMRIデータ取得)の代わりに「fMRIdata」(fMRIデータ)
を使い,動詞「performed」(行われた)の代わりに「acquire
d」(取得された)を用いることができる,②「Experimentaldat
a」(実験データ)の代わりに「fMRIimagedata」(fMRI画像デ
ータ)を用いることも可能である,③「using」(用いて)の代わ
りに「employing」(用いて)や「utilizing」(用いて)を使用
することも可能である,④「equippedwith」(備えた)は,「pr
ovidedwith」(供給された)でもよい,⑤「fMRIimagedata」
の代わりに「EPIdata」で文を始めることもできる,⑥地名の「W
isconsin」は,「WI」とも表記することができ,また,「Wiscons
in」は省略して,代わりに「Connecticut」(コネチカット)を使
用できる。
別紙対比表1の46及び47については,①「contiguous」(
連続した)は,46で使用しなくてもよい,②「wholebrain」(
全脳)は,「coveringwholebrain」として「obtained」の次に
もってきてもよい,③46の最後の部分は「usinganaxialslic
eorientation」であるが,この部分は「axial」に短縮し,48
の冒頭にもってきて,「Axialcontiguousmultislice」(水平断
連続スライス)と表現することができる,④「multislice」は「sl
ice」に省略できる,⑤「Axialcontiguousmultislice」の前に
枚数を付けてもよい,⑥47の文は動名詞句で46に相当する文
に埋め込める。
また,46の文のカッコの中(撮像条件)については,①第1
論文では「TE」を「TR」より先に記述しているが,「TR」を「T
E」より先に記述してもいずれでもよい,②第1論文や第2論文で
はフリップ角が記述されていないが,これを加筆する方が一般的
な表現である,③「FOV」の記述も「mm」で表してもよいし,「c
m」で表してもよい,④第1論文及び第2論文ともマトリックスの
記載をしているが,マトリックスの代わりに平面分解能を記した
方がより正確である,⑤「Thirtysixaxialcontiguousslice
s」と表現した場合は,カッコの中の「36slices」は省略でき
る。
別紙対比表1の48については,①「Atotalof」は1セッシ
ョンの合計なのか何の合計なのかはっきりしないので,これを除
き,1セッションでのボリューム数を記載する表現法もある,
②「Dummyvolume」(名義だけのボリューム)について,一つの独
立した文で表現する方法もあり,名義だけのボリュームは捨てる
のか否か,どういう理由で捨てるのか,を記載する表現法もあ
る。
別紙対比表1の49については,①脳の形を撮影する理由を加
えて,意味を明確にする表現も可能である。理由を加えれば,「s
tructural」(構造的)という形容詞は除くことができる,②「of
allsubjects」(すべての被験者について)の代わりに「ofthe
entirebrain」(全脳の)を用いることができ,この方が「of」
の対象が限定されており,表現が明確になる,③「collecte
d」(集められた)の代わりに「obtained」(取得された)を用い
ることができる,④「before」(前)の代わりに「priorto」を
使うことができる。
さらに,45ないし49は,「Dataaquisition」(データ取
得)を記述した文章であるところ,①46及び47は上記のとお
り二つの文を一つにまとめて表現することが可能である,②46
のT2*強調の画像法の条件について説明を加えれば分かりやすくな
る,③47ではT2*強調系列を使用した理由が述べられているが,
この理由は周知のことなので省略することができ,あるいは,4
6項の文の「T2*-weightedfMRIimages」(T2*強調画像)に続け
て,「depictingbloodoxygenationlevel-dependent(BOLD)con
trast」(血中酸素化レベル依存(BOLD)コントラストを描く)
を加えれば,T2*強調系列を使用した理由を十分説明できる,④4
8は1セッションのボリューム数についてだけでなく,名義だけ
のボリュームについても記載しているので,二つの文にすること
ができる,⑤48で合計185ボリュームと記しているが,何と
何を加算して185ボリュームになる説明を加える方が一般的で
ある,⑥48で磁気飽和を待つための開始時のダミーボリューム
のことが記載されているが,省くこともできる,⑦49は実験前
に構造−高解像T1画像を撮影したことを記載しているが,この文
は46の前に持ってくることができる。
(d)「Dataanalysis」(50ないし53)
別紙対比表1の50については,①主語が「dataanalysis」(
データ分析)となっているが,「imageprocessing」(画像処
理)の方が一般的な表現である,②「SPM」という略語を使用せ
ず,「statisticalparametricmapping」(統計的パラメトリッ
ク地図作成)という正式名で表現するほうが正式である,③コン
ピュータソフト名「MATLAB」については,番号を記述する表現の
方が一般的である。販売会社の所在地については,「Natick」と
いう表現もある。
別紙対比表1の51については,①「forheadmotion」(頭の
動きのために)は,「tocorrectforheadmovementbetweensc
ans」(画像間の頭の動きを直すために)にしてもよい,②「The
EPIimage」という主語は,「Thefunctionalimagesfromeach
subject」(各被験者の機能的画像)に変えることができる,③「
Next」で始める第2文は,主語と副詞句を変えた表現が可能であ
る。
別紙対比表1の52については,①「spatiallynormalize
d」(空間的に標準化される)という句のうち,「spatially」は
使用しなくてもよい,②「definedby」(∼によって定義され
た)の代わりに「bymatchingto」(∼に照合することによっ
て)でもよい,③「MNItemplate」には「standardized」(標準
化された)という形容詞をつけることもできる,④「using」(使
用して)の代わりに「with」(∼でもって)という語を使用する
ことも可能である,⑤「theimages」は「theEPIimages」あ
るいは,「thenormalizedEPIimages」(標準化されたEPI画
像)でもよい,⑥「an8-mmFWHMGaussiankernel」について
は,「FWHM」については「fullwidthhalf-maximum」と正式の表
現をしたほうが分かりやすく,「aGaussianKernelof8mm」と
表現してもよい。
別紙対比表1の53については,「ahigh-passfilter」(高
域濾波)を主語にしても記述できる。
さらに,51ないし53は,「Dataanalysis」(データ分析)
を記述した文章であるところ,①51の第2文で,EPI画像は
構造T1画像と合わせられた(共通登録された)と記載してある
が,この記載は,再整列された機能的画像から平均された機能的
画像を作ってから行うことなので,そのことを加筆するのが一般
的な表現である,②52で,機能的画像に空間的標準化を行う記
述があるが,実際には,機能的画像だけでなく,構造−高分解能T
1画像も空間的標準化をしなければならないので,そのことにつ
いて加筆する方が適切である,③52の後半で,画像が平滑化さ
れたことが記載されているが,平滑化された目的が書かれていな
いので,平滑化をするのは,修正された統計的推論を可能にする
下準備のためであり,また脳の形態的個人差の埋め合わせをする
ためなので,これらのことを加筆するのが一般的である,④53
でデータが高域濾波されたと記載されているが,高域濾波された
理由が書かれていないので,ドリフトといわれる低周波数の雑音
を取り除くためであることを加筆したほうが分かりやすくなる。
(e)「Dataanalysis」(54ないし63)
別紙対比表1の54については,①個人分析が行われたと記し
ているが,どういうデータに基づいて分析されたか明確でないの
で,個人分析もグループ分析も,SPMを計算してそのデータをもと
に分析されたことが加筆されている方がわかりやすい,②群分析
は,母集団推定のために行われたと記しているが,通常は当たり
前なので記述しないことが多いので,個性的な表現である,③5
4の第2文の「Thegroupanalysis」は,「Random-effectanaly
siswasundertakentoobtainresultsgeneralizabletothep
opulation.」と表現することが可能である。
別紙対比表1の55については,①「Inthefirstlevelanal
ysis」(第1レベル分析では)は,「Firstly」(第1に)と表現
してもよい,②「theactivation」(賦活)は,「thehemodynam
icresponse」(血行動態反応)でもよい,③「separately」(別
々に)は当たり前なので省略が可能である。
別紙対比表1の58については,①「accordingto」(∼によ
って)の代わりに「using」(用いて)あるいは「with」(でもっ
て)を使用してもよい,②「thegenerallinermodel」(一般線
形モデル)は「thegenerallinermodelapproach」(一般線形
モデルアプローチ)でもよい,③主語の「themeansignalinten
sityof」(∼の平均信号強度)を「thefunctionaldata」(機
能的データ)に変え,「thefunctionaldatawasestimated」(
機能的データは∼と推定される。)の形にしてもよい。
別紙対比表1の59については,①「Inthesecond-levelana
lysis」(第2レベルの分析)は,「secondly」(第2に)で代用
することができ,また,「Then」でもよい,②「theestimate
s」(推定値)は通常は使われず,「theestimatedmeanimage
s」(推定された平均画像)の方が適切な表現である,③「bypai
redt-test」(対応のあるt検定によって)の「by」は誤りで,「
with」にするのが正しい,④「takingintoaccountthevarianc
eofestimatedactivationamongallsubjects」(すべての被
験者間の推定された賦活の分散を考慮に入れて)という分詞構文
は,群間のt検定では当たり前のことなので,使用されないことが
多く省略できるから,この表現は個性的であるといえる。
別紙対比表1の60については,①第1文の前半に「Theset-s
tatistics」(これらのt-統計法)という語句があるが,「Thet-
statistics」(そのt-統計法)と表現してもよい,②第1文の後
半の「byreferringtotheprobabilisticbehaviorofGaussia
nrandomfields」(Gaussianrandomfieldの確率的挙動を参照
することによって)は,通常は,省略して,「bytheGaussianr
andomfields」あるいは,「bytheGaussianrandomfieldtheo
ry」と表現することが多く,珍しい個性的な表現である,③文の
意味を明確にするには,「arecorrectedformultiplecomparis
onsbytheGaussianrandomfieldtheory」(Gaussianrandom
field理論によって多重比較を修正した。)のような表現も可能で
ある,④また,独立の文として,「Gaussianrandomfieldtheor
ywasappliedtoobtaincorrectedstatisticalinference
.」(Gaussianrandomfield理論が,修正された統計的推定を
得るために適用された。)と表現してもよい。
別紙対比表1の63については,①「Activatedbrainstructu
res」(賦活した脳構造)は,「Activatedbrainareas」(賦活
した脳領域)あるいは,「Activatedareasofthebrain」(脳
の賦活した領域)を用いることもできる,②「referringto」(
・・・を参照して)の代わりに「consulting」(・・・を参照し
て)でもよい,③「thestandardbrainatlas」(標準的脳図
譜)の代わりに「thebrainatlas」(脳図譜)でも,「theatla
s」(図譜)だけでもよい,④「identified」(同定された)とい
う動詞の代わりに「estimated」(推定された)でもよい。
さらに,54ないし63は,統計処理を記述した文章であると
ころ,①高域濾波の記述である53は,平均信号強度の線形モデ
ルによる推定の記述文である58の文の次に来る方が分かりやす
く,高域濾波の記述がこのような位置にあるのは個性的である,
②54の第2文は,「Theanalysiswasimplementedaccording
totherandom-effectmodel.」(分析は,無作為効果モデルにし
たがって実施された。)と記してあるが,これでは,個人のデー
タも群のデータも無作為効果モデルで行われたと誤解されてしま
う,無作為効果モデルは,群のデータの分析に使用されたもの
で,群のデータについて述べている59で記述されるのが普通の
表現である,③55で第一分析レべルとして各被験者の分析が,
59項では第二分析レベルとして被験者群の分析が述べられてい
るが,各被験者の分析は,被験者群の分析のために行っているだ
けであり,各被験者の分析結果は結果として使用されていないの
で,分類して表現する必要はなく,まとめて簡略にすることがで
きる。
(f)「Dataanalysis」(64ないし68)
別紙対比表1の64については,①第1文の「Theassumptions
underlyingouranalysisareasfollows」(我々の分析の仮定
は次のようなものである。)は,「Thefollowingassumptionsu
nderlieouranalysis.」あるいは「Ouranalysisisbasedont
hefollowingassumptions.」でもよい,②「Theassumptions」
の代わりに「hypotheses」(仮説)を使用してもよい,③第2文
の表現のうち,「bedividedinto」(∼に分けられる)は,「co
nsistof」(∼から成り立っている)でもよいし,「becomposed
of」(∼から成り立っている)でもよい,④「phoneme-to-graph
eme」(音素−書記素)は,「phoneme-grapheme」でもよいし,「
phonemetographeme」でもよい。
別紙対比表1の67については,①第1文では,「compariso
n」(比較)という名詞を使用せず,「compare」(比較する)と
いう動詞を使っても表現できる,②「contrast1」(比較1)は
省略可能であり,また,文の終わりでなく冒頭にもってきて「The
firstcontrast」(第1比較)と表現してもよい。
別紙対比表1の68については,①「demonstrate」(示す)の
代わりに「reveal」(明らかにする)あるいは「show」(示す)
を使用することができる,②「neuralregions」(神経領域)
は,「corticalarea」(大脳皮質領域),「corticalregion
s」(大脳皮質領域)又は「neuralbasis」(神経的基礎)でもよ
い。
さらに,64では,書き取り課題が四つの構成要素から成り立
っているという仮説が述べられているが,これは,書き取り課題
を論じている36の次で論じても良い。
(g)以上のようにMaterialsandMethodsには多数の書き方が存在
するから,第1論文における別紙対比表1の下線部の箇所の表現
は,創作性を有する。
e「Discussion」の章について
(a)別紙対比表2のaの「Theresultofthisstudyrevealedt
hat・・・」との表現は,主語を変えて,「Ourresultsrevealed
that」,「Ourstudyrevealedthat」や,「Theresultsofo
urstudythat」にしてもよいし,また,動詞の「revealed」(明
らかにした)を「showed」(示した)にしてももよい。
「phoneme-to-graphemeconversion」(音素−書記素変換)
は,「phonemegraphemeconversion」でも「phonemetographem
econversion」でも通用する表現である。
(b)別紙対比表2のcの第1文については,①「close」の代わり
に「near」(近い)としてもよい,「Exner’sarea」(エクスナ
ー領)ではなく,「Exner’scenter」(エクスナー中枢)という
表現の方が普通である,②「thecenterforwriting」(書字の
中枢)は,通常は,「thewritingcenter」が使用され,あまり
用いられない表現であり,個性的である,③「whichhaslongbe
enproposed」のうち,「long」(永く)は,省略可能である,
④「whichhaslongbeenproposed∼」の表現は,「namely」,「
thewritingcenter」を使用して,「ThisareaisneartoExn
er’sarea,namely,thewritingcenter.」(この領域は,エク
スナー領域,すなわち,書字中枢に近い)。」という表現も可能
である。
次に,第2文については,①「Lesionsinthisregion」(こ
の領域の損傷)は,「Lesionsinthisarea」,「Lesionsinth
earea」,「Damagetothearea」などが可能である,②「induc
ealexiawithagraphia」(失読失書を引き起こす)という表現
は,「induce」の代わりに「cause」を使用することもできる,
③「disturbed」(障害される)の代わりに「impaired」を使用す
ることも可能である。
(c)別紙対比表2のdの「phoneme-to-graphemeconversio
n」(音素−書記素変換)には,いくつもの別の表現が存在するこ
とは前述のとおりである。
(d)別紙対比表2のeについては,「studies」の代わりに「res
earches」を,「stimuli」の代わりに「experimentalstimuli」
を,「used」の代わりに「employed」を,「investigate」の代わ
りに「study」を使用することができる。
(e)別紙対比表2のfの第1文については,「twoormoregraph
emes」(二つ以上の書記素)は誤りである。例えば,音素/t/
は,「t」という書記素だけで表される。「oneormoregrapheme
s」(一つ以上の書記素)が正しい。
第2文の「inJapanese,・・・graphemecanberepresentedb
yonlyonephonemeandviceversa.」(日本語では,・・・書
記素はただ一つの音素で表すことができ,その逆もそうである)
は,「音素」ではなく「モーラ」であるから間違っている。
間違っている文ほど,個性的な表現であり,また,創作的であ
るのはいうまでもない。
(f)別紙対比表2のgについては,①「Japanesephonograms」と
いう主語は「TheJapanesephonogram」という表現に言いかえる
ことができる,②「pronunciationandorthography」の代わり
に「thephonemeandthegrapheme」を用いる方が,一般的
な表現で分かりやすい。
(g)別紙対比表2のhについては,①「traditional」の代わり
に「classical」(古典的)を使用することができる,②「sugges
ts」の代わりに「implies」や「indicates」も可能である。
(h)別紙対比表2のiについては,①左頭頂領域が書記素文字イ
メージの組織化において重要であることを述べる際に特に重要さ
を強調するために,重要さ(importance)という名詞を主語とし
て,その「importance」を「accept」(受け入れる)という動詞
で受ける表現にしており,創作的である,②「isimportant(重
要である)」の代わりに「playsamajorrole(主な役割を演じ
ている)」でもよい,③「theleftparietalregion」(左頭頂
領域)という単語を使用しているが,通常は「region」(領域)
ではなく「lobe」(脳葉)を使用する,④「graphemicletterim
ages」(書記素文字イメージ)は,「graphemicimagesforlett
ers」(文字の書記素のイメージ)と表現することもできる。
(i)別紙対比表2のjについては,①「lesionstudies」を先に
し,「neuroimagingstudies」を後にすることができる,この文
より前に,「lesionstudies」の例が出てきているので,この方
が自然な文となる,②「haveprovided」の代わりに「haveprese
nted」や「haveproduced」を使用できる,③構文を変えて,「se
veralneuroimagingstudieshaveestablishedthattheleftp
arietalareaisessentialinorganizing・・・」でもよい。
(j)別紙対比表2のkについては,①「established」(確立され
ている)は,「demonstrated」(示されている)に言い換えるこ
とができる,②「organizing」(組織する)は「arranging」(手
はずを整える)や「planning」(企画する)と表現してもよい,③
構文を変えて,「Ithasnotbeenwellestablishedthatthel
eftpremotorregionisspecificallyinvolvedinorganizing
graphemicimagesforwritingletters.」にしてもよい。
(k)別紙対比表2のlについては,①「imply」は,「suggest」
や「indicate」に変えてもよい,②「involved」(かかわっている
)は,「takepartin」(に関与する)を用いても表現できる,
③「providing」(提供する)は,「organizing」(組織する)と
表現してもよい,④「associatedwith」は,「connectedwit
h」でも表現できる。
(l)別紙対比表2のnについては,①「Wehypothesized」の「h
ypothesized」(仮説を立てた)を「assumed」(仮定した)や「s
upposed」(仮定した)に変えても同じ意味である,②構文を変え
て,「Itwashypothesizedthat」でもよい,③「specific」(
特定の)は,「specified」(特定の)という形容詞でも表現でき
る,④「convertedinto」(変換される)は「transformedint
o」でもよい,⑤「representation」(表象)は「image」(イメー
ジ)という単語でも表現できる,⑥文の終わりの方に,「transfer
redto」(∼へ移送される)という語句があるが,「transferred
to」の次には「場所」がこなければならないのに,そうなってい
ない。
(m)別紙対比表2の第1論文のpにおいては,左下前頭回上後部
から左中心前回の中部にわたる領域の働きについて,書記素−音
素変換において,目で書記素を見た刺激により,頭頂葉領域で音
素表象が産み出されるところ,左下前頭回上後部から左中心前回
の中部にわたる領域が,その音素表象を,音素の運動出力へ移送
することを遂行すると推測され,また,音素−書記素変換におい
て,耳で音を聞いた刺激により,頭頂葉領域で書記素表象が産み
出されるところ,左下前頭回上後部から左中心前回の中部にわた
る領域が,その書記素の表象を書記素の運動出力へ移送すること
を遂行すると推測されることを述べている。すなわち,「書記素
−音素変換」においては「書記素刺激」により「音素表象」が生
じて「音素の運動出力」へ移送されて,音素が声として発声さ
れ,また,「音素−書記素変換」においては,「音素刺激」によ
り「書記素表象」が生じて「書記素の運動出力」へ移送されて,
字が手で書かれるのである。
ところが,第2論文では,「音素−書記素変換」において,「
音素表象」が「書記素の運動出力」へ移送されると記載されてお
り,明白な誤りである。正しくは「書記素表象」が「書記素の運
動出力」へ移送されるのである。このような誤りが生じたのは,
二つの内容を述べている第1論文のpを切り貼りして,一つの内
容を述べる第2論文のpを作成したからである。
そして,別紙対比表2の第1論文のpにおいては,①「isspec
ulated」(推測される)の代わりに「issupposed」でも,「isp
resumed」でもよい,②「we」を主語にして「speculated」,「su
pposed」あるいは,「presumed」を使用してもよい。
(n)別紙対比表2の第1論文のsにおいては,①「Geschwindhyp
othesized」(ゲシュウインドは・・・と仮定した。)は,「Gesc
hwindassumed」又は「Geschwindsupposed」でも同じ意味を表
現でき,また,主語を変えて,「Itwashypothesized」でもよ
い,②「theleftsuperiortemporalareas」(左上側頭領域)
の「areas」という表現は不適切である。「gyrus」(回)をつか
うのが一般的である。
(o)別紙対比表2の第1論文では,①aで研究結果を,bとcで従
来の研究史を,dで本研究の仮説を述べているが,dの仮説に基
づいて研究が行われ,結果が出たのであるから,aの部分の前にd
をもってくることや,bとcを省略し,あるいはIntroductionに
移すことも可能である,②fで英語と日本語の相違を述べ,日本
語が音素と書記素の関係において単純であることを述べている
が,gではfで述べたことを強調するだけなのでgを省くことが
できる,③fとgで,日本語の表音文字は,他の言語に比較して発
音と正書法の関係が単純で有利な点があると述べており,有利な
点があるなら,日本語を使用した本研究は,英語を使った従来の
研究と脳のレベルで異なる結果が出るはずであるが,そのような
結果が出たのかどうか,まったく論ぜられておらず,この点を加
筆する必要があり,また,異なる結果が出ていないなら,それに
ついて議論を記載する必要がある,④hで「Brain」(研究者の名前
)の書字の脳モデルが述べられているところ,ここでは,文字の書
記素イメージと書記素の運動イメージと脳の関連が論ぜられてい
るだけで,論文のテーマである音素−書記素変換と脳の関係は論
じられておらず,また,音素−書記素変換と文字の書記素イメー
ジや書記素の運動イメージとの関係も論ぜられていないが,これ
ら2点について加筆すれば議論がわかりやすくなる,⑤pで音素
―書記素変換と脳の関係に触れているが,不十分であり,加筆が
必要であり,また,pはhの次に持ってくることもできる,⑥h
で「Brain」(研究者の名前)の書字の脳モデルを論ずる前に,sの
ゲシュウインドの脳のモデルを論ずることもできる,⑦Discussio
nの対象となっているのが,「Brain」の1960年代の書き取り
の脳モデルとゲシュウインドの1970年代のモデルだけであ
り,これらは旧モデルでいずれも大脳損傷患者の観察から導きだ
されたモデルであるので,最近の脳モデルに言及する必要があ
り,機能的磁気共鳴画像法から得られた最近の脳のモデルがある
ので,これについて言及し,加筆する必要がある,⑧iの根拠と
なる研究がjで述べられているので,jの文頭に「because」をつ
けてiの文とjの文をつなげることができ,むしろその方が文意
を理解しやすい,⑨nの文は,左運動前領域の役割について述
べ,pの文もほぼ同じ内容なので,pの文を省くことが可能であ
る。
(p)以上のようにDiscussionには多数の書き方が存在するから,
第1論文における別紙対比表1の下線部の箇所の表現は,創作性
を有する。
(ウ)依拠
第2論文が別紙対比表1及び2の各下線部の箇所において第1論文
と同一又は類似の表現が存することは,前記第2の2(4)イのとおりで
ある。
そして,第1論文及び第2論文には,英文上の誤りが共通する箇所
があること(例えば,第1論文及び第2論文には,「theExner'sare
a」(訳・「エクスナー領」)という表記(別紙対比表2の「c」参
照)があるが,エクスナー領と表記する際には「the」を付けないのが
正しく,上記表記は誤りである。),被告は,第1論文の作成に関与
し,その内容を知った上で第2論文を作成していることからすれば,
第2論文は,第1論文に依拠して作成されたものである。
(エ)小括
以上のとおり,第2論文は,第1論文に依拠して別紙対比表1及び
2の下線部の同一又は類似の表現を有形的に再製し,これを複製した
ものであり,被告による第2論文の作成は,原告の保有する第1論文
の複製権(著作権法21条)の侵害に当たる。
イ翻案権侵害
第1論文と第2論文は,いずれも,①「Abstract」,②「Introductio
n」,③「MaterialsandMethods」,④「Results」,⑤「Discussio
n」,⑥「Conclusion」及び⑦「References」の各章で構成されていると
ころ(前記第2の2(4)ア),内容が明らかに異なるのは④「Results」
と⑥「Conclusion」のみであって,その余の部分については別紙対比表
1及び2のとおり酷似している。
このように第2論文は,第1論文に依拠し,かつ,その表現上の本質
的な特徴の同一性を維持しつつ,上記④及び⑥のみを書き替えたもので
あり,第1論文及び第2論文の読者は,その余の部分についての酷似を
容易に感得できるから,第2論文は,第1論文を翻案して作成されたも
のである。
したがって,被告による第2論文の作成は,原告の保有する第1論文
の翻案権(著作権法27条)の侵害に当たる。
(2)被告の反論
ア複製権侵害の主張に対し
(ア)類似性について
まず,第1論文と第2論文の表現が類似する部分は,別紙対比表1
及び2の下線部のみにすぎず,単純な分量の面からみても,また,内
容面における第1論文と第2論文の違いが大きいことからみても,第
2論文は,第1論文の文章の大半をそのまま複製したということはで
きない。
次に,第1論文と第2論文の表現が類似する部分(別紙対比表1及
び2の下線部)について,原告は,創作的関与をしておらず,当該部
分の具体的な表現のほとんどを記載したのは被告であり,同じ内容を
記載する場合に第1論文と第2論文の表現が一致あるいは類似するこ
とは当然である。
(イ)創作性について
第1論文と第2論文の表現が類似する部分(別紙対比表1及び2の
下線部)は,いずれも客観的事実や,これまでの研究によって明らか
にされてきた一般的科学的知見を説明したものにすぎず,用語の選択
についてはもちろん,記載の順序についても,科学的な知見を合理的
に説明しようとすれば,似通った順序の文章にならざるを得ないか
ら,いずれも創作性を有しない。
すなわち,学術論文は,初学者向けに書かれた文章と比較して,文
章の内容及び表現に正確性,客観性が必要となるのであるから,その
表現の幅は狭くなり個性的な表現がされることは少なくなる。
第1論文と第2論文は類似するテーマについての学術論文であり,
実験方法や前提となる一般的知見については相互に共通する部分も多
い。そして,これらの共通する部分においては,学術論文の場合正確
な記述が求められることから,その論述の進め方や表現もある程度定
型的にならざるを得ないのであり,たとえ数文程度のまとまりに共通
している部分がみられるとしても,その部分に創作性があるというこ
とはできないし,また,このようなまとまりという観点からみても,
両論文の類似する部分に創作性があるということはできない。
a「Abstract」の章について
(a)一般的に「Abstract」は,研究の全体像がわかるように端的
に表現する必要がある。したがって,必要最小限の記述にとどめ
るとともに,論文に使用される頻度の高い定型的な表現を多用し
て誤解のないように記述することが求められる。
別紙対比表1の1ないし3,5,6の各部分全体についてみる
と,第1論文は音素−書記素変換及び書記素−音素変換の双方に
ついて述べているのに対し,第2論文は音素−書記素変換につい
てのみ述べており,両者の内容は異なり,表現の多くが異なるか
ら,類似性はない。これらの各部分のうち表現が類似する下線部
は,この種の実験において通常用いられる専門用語や一般的な表
現を用いて,一般的な知見等を説明したにすぎず,創作性はな
い。
別紙対比表1の4の部分全体についてみると,第2論文におい
ては,第1論文の表現が大幅に省略され,簡潔に表現されたもの
であるから,表現の類似性はない。この部分のうち表現が類似す
る下線部は,日本語における音素−書記素対応に対する一般的な
理解を,一般的な表現を用いて記載したものであり,創作性はな
い。
別紙対比表1の7の部分全体をみると,共通する部分は,一般
的な単語にすぎない上,キーワードとしてあげられたもののう
ち,同一の表現がされているものは「writingtodictation」の
みであるから,類似性がない。この部分のうち表現が類似する下
線部は,一般的な表現がされているにすぎず,創作性はない。
(b)原告は,文の配列等において,他の表現の可能性が存在する
旨主張するが,いずれにしても一般的な表現にとどまり,第1論
文の表現が特に工夫されたものであることを根拠づけるものでは
なく,創作性を有することの根拠とはならない。
b「Introduction」の章について
(a)「Introduction」は,先行研究から示唆された一般的知見を
述べ,それと関連させて自らの研究テーマについて説明すること
が必要になる。そのため,読者が違和感なく読み進めることがで
きるように,他の科学論文の「Introduction」と一定の共通性を
持たせることや,定型的な用語を用いて平易に説明することが求
められる。
そこで,別紙対比表1の10の部分全体についてみると,第1
論文の表現(特に第1文)は第2論文の表現とは大きく異なって
おり,類似性がない。この部分のうち表現が類似する下線部は,
一般的な表現を用いて,実験に係る一般的な知見を説明したもの
にすぎず,創作性はない。
別紙対比表1の14,20の部分全体についてみると,第1論
文は,音素−書記素変換及び書記素−音素変換の双方について述
べているのに対し,第2論文は音素−書記素変換についてのみ述
べており,両者の内容は異なり,表現の多くが異なるから,類似
性はない。これらの各部分のうち表現が類似する下線部は,一般
的な表現やこの種の実験では通常用いられる専門用語を用いて,
実験に係る一般的な知見を説明したものにすぎず,創作性はな
い。
別紙対比表1の21,22の部分全体についてみると,わずか
な単語が共通しているにすぎず,類似性がない。これらの部分の
うち表現が類似する下線部は,一般的な表現やこの種の実験では
通常用いられる専門用語を用いて,実験に係る一般的な知見を説
明したものにすぎず,創作性はない。
(b)原告は,文の配列等において,他の可能性が存在する旨主張
するが,いずれにしても一般的な表現にとどまり,創作性を有す
ることの根拠とはならない。また,原告は,論文の記載内容につ
いて,他の内容を書くことがあり得る旨主張しているが,これは
内容面のアイデアにすぎないものであり,具体的な表現の創作性
を根拠付けるものではない。
c「MaterialsandMethods」の章について
(a)「MaterialsandMethods」は,全て実際に行われた実験に関
する「事実」(著作権法10条2項)について記載した項目に過
ぎない。学術論文において,このような事実を説明するに当たっ
ては,読者に誤解のないように,かつ,読者が論文に基づいて再
現実験を行い,その学問的当否を判断することが可能なように,
簡潔明瞭に記載する必要があり,その表現は一般的なものとなら
ざるを得ない。そして,第1論文と第2論文とが一部類似した課
題を行っている以上,実験方法について説明した文章が類似の文
章となるのは実験内容を誤り無く説明するという「Materialsand
Methods」の性質からすると避けられないことである。
別紙対比表1の24,25,27ないし29,32,34,3
6,41ないし43,45ないし55,58ないし60,62な
いし64,67,68の各部分のうち表現が類似する下線部は,
一般的な表現やこの種の実験では通常用いられる専門用語を用い
て,実験に係る一般的な知見又は事実を説明したものにすぎず,
創作性はない。
(b)原告は,文の配列等において,他の可能性が存在する旨主張
するが,いずれにしても一般的な表現にとどまり,創作性を有す
ることの根拠とはならない。また,原告は,論文の記載内容につ
いて,他の内容を書くことがあり得る旨主張しているが,これは
内容面のアイデアにすぎないものであり,具体的な表現の創作性
を根拠付けるものではない。
d「Discussion」の章について
(a)別紙対比表2の各項の記述
別紙対比表2のaは,それぞれの実験結果によって明らかにさ
れた事項を記載したものであり,第1論文は,音素−書記素変換
及び書記素−音素変換の双方に共通して賦活される部分について
述べているのに対し,第2論文は音素−書記素変換の間に賦活さ
れる部分についてのみ述べており,両者の内容は異なり,表現の
多くが異なるから,類似性はない。
次に,実験結果により何が明らかになったのかを「Discussio
n」の冒頭で記述することは一般的なことであり,そもそもこのよ
うな実験結果についての考え方自体は個人に独占されるべきもの
ではないから著作権による保護の対象とすべきではなく,また,
このような実験結果を記載した第1論文のaの下線部には,特に
個性的な表現が何ら見られない以上,創作性はない。
別紙対比表2のcをみるに,第1論文の第1文は,1881年
にエクスナーにより「書字中枢」として報告された部位があると
いう一般的知見に基づき,賦活される領域がその部位に近いとい
う事実を述べ,第2文も先行研究に基づく一般的知見を述べてい
る。このような一般的知見あるいは事実は,個人に独占されるべ
きものではなく,著作権による保護の対象とすべきでない。ま
た,このような一般的知見あるいは事実を記載した第1論文のc
の下線部には,特に個性的な表現が何ら見られない以上,創作性
はない。
別紙対比表2のdをみるに,第1論文は,音素−書記素変換及
び書記素−音素変換について述べているのに対し,第2論文は,
音素−書記素変換について述べており,また,変換が行われる領
域についても,第1論文では左背側運動前と左頭頂間溝の全部と
しているのに対し,第2論文では左運動前領域とされているよう
に,両者の内容は異なり,類似性はない。
別紙対比表2のeをみるに,「lesionstudies(損傷研
究)」,「stimuli(刺激)」,「phoneme-to-grapheme(音素−
書記素)」などの専門用語が主に一致しているのみであり,その
他の表現は異なるものが多いから,類似性はない。また,この部
分は,英語を用いて音素−書記素変換を研究することは困難であ
るという一般的な知見を述べたものにすぎず,著作権による保護
の対象とすべきでない。さらに,このような一般的知見を記載し
た第1論文のeの下線部には,特に個性的な表現が何ら見られな
い以上,創作性はない。
別紙対比表2のfをみるに,この部分は,英語と日本語の音素
−書記素変換について説明したものであるが,その内容は一般的
知見にすぎないものであり,このような一般的知見を著作権によ
る保護の対象とすべきでない。また,このような一般的知見を記
載した第1論文のfの下線部には,特に個性的な表現が何ら見ら
れない以上,創作性はない。
別紙対比表2のgをみるに,第1論文と第2論文は,発音と正
書法の関係を研究する上での日本語の表音文字の有利性を記載し
た点では共通するが,第1論文は,当該実験に日本語を用いるこ
とが適切であることについても記載がされている。また,発音と
正書法の関係を研究する上での日本語の表音文字の有利性につい
ての具体的な表現も,両論文では相当異なっており,類似性がな
い。
さらに,発音と正書法の関係を研究する上で日本語の表音文字
を用いることが有利であることは,一般的知見にすぎないもので
あり,このような一般的知見を著作権による保護の対象とすべき
でない。また,このような一般的知見を記載した第1論文のgの
下線部には,特に個性的な表現が何ら見られない以上,創作性は
ない。
別紙対比表2のhをみるに,この部分全体でも1文にすぎない
のであり,このような短い表現に創作性を認めることはできな
い。また,この部分は,「伝統的モデル」とあるように,脳の運
動前領域の役割について先行研究を紹介したものであり,一般的
知見を記載したにすぎないものである。また,このような一般的
知見を記載した第1論文のhの下線部には,特に個性的な表現が
何ら見られない以上,創作性はない。
別紙対比表2のiをみるに,この部分全体でも1文にすぎない
のであり,このような短い表現に創作性を認めることはできな
い。また,この部分は,脳の左頭頂領域と書記素イメージとの関
係に関する一般的知見について説明したものにすぎない。また,
このような一般的知見を記載した第1論文のiの下線部には,特
に個性的な表現が何ら見られない以上,創作性はない。
別紙対比表2のjをみるに,第1論文は,それ以前の部分で述
べた一般的知見には根拠となる先行研究が存在するということを
述べているものであるが,この部分全体でも1文にすぎないので
あり,その表現も特に個性的な表現が何ら見られない以上,創作
性はない。
別紙対比表2のkをみるに,第1論文は,先行の研究成果の状
況を説明するものであり一般的知見を記載したものにすぎず,こ
の部分全体でも1文にすぎないのであり,その表現も特に個性的
な表現が何ら見られない以上,創作性はない。
別紙対比表2のlをみるに,第1論文は,左運動前領域と書記
素のイメージの提供との結びつきが示されていないという先行研
究の成果を引用文献を示して紹介したにすぎず,この部分全体で
も1文にすぎないのであり,その表現も特に個性的な表現が何ら
見られない以上,創作性はない。
別紙対比表2のnをみるに,第1論文は頭頂領域及び前頭領域
の役割についての仮説を記載したものであるが,第2論文は左運
動前領域の役割についての仮説であり頭頂領域には何ら触れられ
ていない。また,第2論文には第1論文に記載のある読字につい
ての記載はなく,両論文の記載内容は全体として見れば異なるも
のであり,類似性がない。もっとも,書き取りに関する仮説の内
容は,両論文で類似しているということができるとしても,この
ような仮説の内容の表現について個人に独占させることは相当で
はなく,仮説の内容自体は著作権の対象とすべきものではない。
そして,その表現も特に個性的な表現が何ら見られない以上,創
作性はない。
別紙対比表2のsは,ゲシュウィンドによる研究成果を説明し
たものであるが,その表現は第1論文と第2論文で相当異なって
おり,類似性がない。そもそもこのような説明は,一般的知見に
すぎず,このような一般的知見を著作権による保護の対象とすべ
きでない。また,このような一般的な知見を記載した第1論文の
表現も,特に個性的な表現が何ら見られない以上,創作性はな
い。
(b)別紙対比表2のcからlまでの記述
「Discussion」の章のうち,原告がまとまりにおいて類似性が
あると主張していると部分は,別紙対比表2のcからlまでの部
分である。
しかし,仮に別紙対比表2のcからlまでの記述をひとまとま
りとして考えるとしても,この部分には,まとまりとしても創作
性を認めることはできない。すなわち,文章には最適な思考の流
れを促す順序が存在し,その順序が読者の理解を一層推し進める
ことに役立つのであり,cからlの記述を考察するに当たっても
同様の考え方があてはまる。以下,この部分について,扱ってい
るトピックごとに三つのまとまりに分類して説明する。
①c,d
別紙対比表2のcにつながる第2論文のaにおいて,研究の
結果として,「左運動前野が書記素−音素変換の際に活動する
こと」が明らかにされ,文章として記述されている。そのメカ
ニズムを議論する前提として,この左運動前野がどのような働
きをしているのかを示した先行研究を次に延べておくことが必
要になる(別紙対比表2のc)。そして,この先行研究の知見
から第2論文で「書記素−音素変換が左運動前野で行われるこ
と」が仮定されたことを確証する文が導かれる(同d)。この
順序が思考の流れを促すのである。
②e,f,g
別紙対比表2のeにおいては,「however」の逆接から,c,
dで取り上げた先行研究が英語を刺激材料として使っている問
題点を指摘し,fにおいてその英語と日本語の書記素−音素の
対応関係を記述し,gにおいて日本語を刺激材料として使用す
ることのメリットを主張し,本研究の優位性,つまり先行研究
での限界点をカバーする新しい視点から書記素−音素変換を取
り扱っていることを協調しているのである。このような思考の
流れをかんがみると,e,f,gの順序はこれ以外にないであ
ろう。
③hないしl
先行研究の知見と日本語のメリットという一般的事項を扱っ
た別紙対比表2のaからgまでの流れの次に持ってくるべき事
項は,そのような書記素−音素変換がどのような脳内メカニズ
ムで実現されているかを検討することである。そこで,先行研
究において唱えられている書字の伝統的モデルの説明を引用す
ることからその検討を始めている(別紙対比表2のh)。まず
ここで,書記素と頭頂葉及び左運動前野との関係が伝統的モデ
ルの中でも言及されていることを読者に気づかせることができ
る。iとjにおいては,最初に提示された頭頂葉と書記素イメ
ージに関する先行研究の知見を述べている。そして,続くkと
lのなかで後者の左運動前野と書記素イメージの関係を先行研
究の知見と共に,頭頂葉に比して,報告が少ないことを記述し
ている。これにより,本研究が先行研究に対する補間部分を暗
に示し,本研究からどのようなモデルを提案できるかを述べた
nに続けていくことが可能となるのである。いずれも適切な順
序で配置された文の集合であり,淀みなくこの文章間における
思考の流れを伝えるには,この順序以外にはあり得ない。
そして,hからlまでの部分の分量は全てあわせても5文に
すぎず,特に長い文章であるということはできない上,このよ
うな一般的知見については正確に表現することが要請されるの
であることからすれば,その表現に独創性が認められるもので
はない。さらに,iの部分のみを見れば,第1論文と第2論文
の違いはないが,その他の部分は両者の表現が若干異なる部分
もあり,類似しているということはできない。
(ウ)依拠について
被告が第1論文に依拠して第2論文を作成したとの原告の主張は争
う。ただし,被告は,自らが作成した第1論文の表現を適宜利用して
第2論文を作成したものである。このように第1論文及び第2論文は
ともに被告が作成したものであり,誤った表現がされた部分も含めて
表現が共通することはあり得ることである。
(エ)小括
以上のとおり,第1論文と第2論文の表現が類似する部分(別紙対
比表1及び2の下線部)は,創作性を有するものではなく,また,被
告は第1論文に依拠して第2論文を作成したものではないから,被告
による第2論文の作成は,原告の保有する第1論文の複製権の侵害に
当たるとの原告の主張は理由がない。
イ翻案権侵害の主張に対し
(ア)第1論文と第2論文とを対比すると,以下のとおり,本質的な相
違があるから,第2論文が第1論文全体についての翻案権を侵害する
ということはできない。
まず,第1論文の目的は,音読における書記素−音素変換と書き取
りにおける音素−書記素変換とで共通して賦活する部位を研究するこ
とであるのに対し,第2論文の目的は,書き取りの音素−書記素変換
において賦活する部位を特定することであり,論文のテーマ自体が異
なる。このことは,「MaterialsandMethods」の章の「Tasks」の
項,「Results」の章,「Discussion」の章の後半,「Conclusion」の
章などの文章が全く類似していないことからも明らかである。第1論
文及び第2論文(特に第2論文)においては,これらの部分こそが論
文の本質的部分というべき箇所である。
一方,「Discussion」の章には第1論文と第2論文の表現が類似す
る部分(別紙対比表1及び2の下線部)があるが,これらは,第1論
文と第2論文のテーマが,「書き取りにおける音素−書記素変換が行
われる際の,脳の賦活部位をfMRIで観察する」という部分においては
共通し,その部分に関し,研究者の間において確立した一般的科学的
知見や先行研究の成果については,論文中で言及しなければならない
からである。あらゆる研究は,それまでの先行研究(原告の研究もも
ちろん含まれる。)や一般的科学的知見を土台にして,それを発展さ
せる形で行われるのであり,それらの説明は学術論文には欠かせない
が,それは論文の本質的部分とはいえない。
また,前記ア(イ)のとおり,第1論文と第2論文の表現が類似する
部分(別紙対比表1及び2の下線部)は,表現上の創作性を有しな
い。
(イ)したがって,第1論文と第2論文との間で,先行研究についての
説明や一般的科学的知見に関する表現が類似していたとしても,それ
は第1論文の本質的な特徴部分ではないのであるから,論文全体とし
て類似しているとはいえず,翻案権の侵害と評価されるべきものでは
ない。
3同一性保持権及び公表権の侵害の有無(争点3)について
(1)原告の主張
共同著作物の著作者人格権は,著作者全員の合意によらなければ行使す
ることができないところ(著作権法64条1項),被告が,以下のとお
り,原告に無断で第1論文を改変して第2論文を作成・発表した行為は,
第1論文についての原告の著作者人格権(同一性保持権,公表権)の侵害
に当たる。
ア第1論文の著作者人格権を行使する代表者
共同著作物の著作者は,その中から著作者人格権を行使する代表者を
定めることができる(著作権法64条3項)。
大学研究室における学術論文の場合,コレスポンディングオーサー
が,共同著作物の著作者人格権を行使する代表者であるというべきであ
る。
すなわち,大学研究室における学術論文のコレスポンディングオーサ
ーは,論文内容に最終的責任を負う著者であり,論文の発表の可否,時
期,掲載誌等を選択する権限,論文を撤回する権限,自己の判断で文章
を修正する権限等を有している。大学研究室における学術論文のコレス
ポンディングオーサーは,多くの場合,教授クラスの指導者がなり,当
該分野に対する深い見識を有し,当該論文の内容を吟味して,内容に誤
りがあればそれを発見して修正する能力を有しており,かつ,それらを
行うことが社会的に期待されている。また,当該論文が学術論文として
発表できるレベルかどうか,撤回を必要とするレベルかどうかを判断す
る能力を有しているのは,コレスポンディングオーサーである。そのた
めコレスポンディングオーサーが,これらの権限を代表して行使すると
いう合意が明示又は黙示にされており,また,大学研究室におけるコレ
スポンディングオーサーのかかる広範な権限は,慣習(民法92条)で
もある。コレスポンディングオーサーは,これらの権限を有しているた
め,内容の誤っている論文を公表した場合には,懲戒免職すら受ける重
大な責任を負わされている
そして,論文の修正権限は,同一性保持権と表裏一体の権限であるこ
と,論文の発表権限及び撤回権限は,公表権であることからすれば,大
学研究室における学術論文のコレスポンディングオーサーは,共同著作
物である当該論文の著作者人格権(同一性保持権,公表権)を行使する
代表者(著作権法64条3項)であるというべきである。
しかるに,原告は,第1論文のコレスポンディングオーサーであるか
ら,第1論文の著作者人格権(同一性保持権,公表権)を行使する代表
者である。
イ同一性保持権侵害
第2論文は,第1論文の表現を多少変更し,「Results」及び「Conclu
sion」の章のみを新たに付加して作成された論文であり,第1論文の文
章の誤記まで含めて第1論文における創作的表現が残存しているから,
被告は,第1論文を改変して第2論文を作成したものである。
そして,被告がコレスポンディングオーサーである原告の同意を得ず
に第1論文を改変して第2論文を作成し,ニューロレポート誌に発表し
た行為は,原告の保有する第1論文の同一性保持権(著作権法20条)
の侵害に当たる。
ウ公表権侵害
被告がコレスポンディングオーサーである原告の同意を得ずに第2論文
を発表した行為は,未公表の第1論文の大半の文章の公表に当たるから,
原告の保有する第1論文の公表権(著作権法18条)の侵害に当たる。
(2)被告の反論
ア第1論文の著作者人格権を行使する代表者の主張に対し
(ア)第1論文について,コレスポンディングオーサーが原告主張の修
正権限,発表権限及び撤回権限を代表して行使する旨の明示又は黙示
の合意がされた事実はない。また,大学研究室における学術論文につ
いて,コレスポンディングオーサーが原告主張の当該論文の修正権
限,発表権限及び撤回権限を代表して行使するなどという慣習は存在
しない。
一般的な大学研究室の在り方としては,研究室主宰者は,あくまで
共著者と協議して全員の合意の上でこれらの権限を行使するのが通常
である。すなわち,通常,研究室において研究を進めていく過程で
は,アイデアや実験方法,実験結果等の情報を,研究室スタッフで情
報共有しながら,その共同作業の結果,論文等の形で,研究成果をま
とめ上げるものであり,こうして生まれた論文の取扱い(発表の要
否,発表方法や著作者の順番等)については,その研究を進めていく
中で研究室スタッフの貢献度や研究成果の帰属等の状況に応じ,相互
理解のうえ最終的に決定するのが,研究室の主宰者の責務である。
原告が主張するような過度の権限を研究室の主宰者に認めること
は,これを利用した,アカデミック・ハラスメントを助長しかねない
のであり,このような観点からも原告の主張は認められるべきもので
はない。
また,仮に論文の内容が不適切なものであった場合に著者が責任を
負うことは当然であり,責任を負う者はコレスポンディングオーサー
に限られないから,コレスポンディングオーサーが論文の内容に関し
て極めて重大な責任を負うことを理由にコレスポンディングオーサー
が同一性保持権及び公表権を行使する代表者であるとの主張が不合理
であることは明らかである。
(イ)なお,科学論文作成に関する文献(乙9)を見ると,「一般に著
者は複数で,特に先頭の著者を筆頭著者(FirstAuthor)あるいは主
執筆者といい,2番目以降の著者を連名者(Coauthor)という。」,「
その論文に何らかの形で技術的に貢献した人は連名とする・・・べき
である。アイデアの提供者,実験の協力者などは連名にすべきであ
る。」などとする説明が見られる。このように,科学論文の作成上の
慣習においては,論文原稿の具体的表現に対する創作的関与があるか
どうかが必ずしも著者名としての表示の有無の判断とは対応していな
い。この点は,文科系の法律論文において博士論文や助手論文に指導
教授等の名前を著者として表示しない慣習とは,大きな差異がある。
(ウ)以上のとおり,第1論文のコレスポンディングオーサーである原
告が第1論文の著作者人格権(同一性保持権,公表権)を行使する代
表者であるとの原告の主張は,理由がない。
イ同一性保持権侵害の主張に対し
第2論文と第1論文とは内容が全く異なるから,被告による第2論文
の作成・発表が第1論文についての原告の同一性保持権の侵害行為に当
たるということはできない。
ウ公表権侵害の主張に対し
第2論文と第1論文とは内容が全く異なり,両者間においては表現上
の本質的な特徴の同一性が認められないから,被告による第2論文の発
表が第1論文の公表に当たるということはできないことはもちろん,第
1論文の二次的著作物の公表に当たるということもできない。
4第2論文の撤回通知請求の可否(争点4)について
(1)原告の主張
ア著作権法112条の規定による請求
学術論文の場合,新聞記事のような一過性のものではなく,一旦,学
術論文が掲載されると半永久的に記録が保存され,それ以後に論文を発
表しようとする場合は,先行する論文によって制約を受ける。例えば,
同一の文章が多々含まれる場合,後行の論文は,発表自体が認められな
い。したがって,学術論文の盗用の場合は,著作権法違反の論文が撤回
されない限り著作権侵害行為が継続し続けることになる。
本件においては,第2論文の公表により,第1論文についての原告の
著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,公表権)
が侵害されている状況が継続している。第2論文が掲載された雑誌社に
対する論文の撤回がされれば,これらの権利侵害が停止される。
原告は,第2論文が撤回されない限り,第2論文と実質的に同一の文
章を大量に含む第1論文を発表することができないという具体的な不利
益を被っており,撤回の必要性がある。
したがって,原告は,著作権法117条,112条1項,2項に基づ
き,侵害停止のための措置(侵害の停止措置又は停止に必要な措置)と
して,被告に対し,ニューロレポート誌を発行するLLW社に第2論文の撤
回の通知をするよう求めることができる。
イ著作権法115条の規定による請求
原告は,東京大学の元教授であり,現在でも学会において主要な地位
にあり,高い名誉と声望を有する者である。
第2論文の大半は,原告が作成に関与した第1論文の文章から成って
いるところ,被告による原告の第1論文についての著作者人格権(同一
性保持権,公表権)の侵害によって,第1論文の価値が大きく低下し
た。
すなわち,学術論文においては,先行性が重要視され,後から第1論
文を発表してもその重要性は低く見られがちである。
また,被告は,東京大学などの関係者に対して,本件訴訟がアカデミ
ック・ハラスメント(パワー・ハラスメント)であるとか盗作の事実は
ないなどと虚偽の事実を言いふらしており,原告の名誉・声望を回復す
るために,上記撤回通知は必要不可欠である。
したがって,被告による第2論文の撤回通知は,原告の名誉・声望を
回復するために必要不可欠である。
ウ小括
そこで,原告は,著作権法117条,112条1項,2項に基づく侵
害の停止のための措置(侵害の停止措置又は停止に必要な措置)又は同
法115条に基づく名誉又は声望の回復のための措置として,被告に対
し,LWW社に第2論文の撤回の通知(別紙通知目録記載の通知)をするよ
う求める。
(2)被告の反論
ア著作権法112条の規定による請求に対し
第2論文の公表により,原告の第1論文についての著作権(複製権,
翻案権)及び著作者人格権が侵害されているとの主張は争う。原告が主
張する著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権の侵害は,これらの
侵害行為があった時点で,行為は成立し評価され尽くしているものであ
り,その後侵害状態が残存することは侵害行為ではなく,単なる状態に
すぎない。これを継続的不法行為といってしまうと,ほとんどの不法行
為は,作為とその結果を除去しない不作為として継続的不法行為である
ということになり,その場合消滅時効も進行しないという帰結となる
が,このような解釈は到底容認できない。
また,別紙通知目録記載の撤回通知の内容についても,「havingplag
iarizedanarticlewrittenbyDr.X1」(訳・「X博士の論文を無断
で盗用し」)といった部分が必要であるということはできない。
イ著作権法115条の規定による請求に対し
第2論文の公表により,原告の第1論文についての著作者人格権(同
一性保持権,公表権)が侵害されているとの主張は争う。また,別紙通
知目録記載の撤回通知の内容が不適切であることについても前記アと同
様である。
5原告の損害額(争点5)について
(1)原告の主張
ア著作者人格権侵害による慰謝料
原告は,その意に反して,第1論文を改変され,かつ,第1論文の大
半の文章が公表されたことにより,多大な精神的苦痛を被った。特に,
第1論文の大半の文章が公表されたことにより,原告は,第1論文を発
表できないという重大な不利益を3年以上にわたって被っており,これ
による精神的苦痛は計り知れない。
被告による原告の著作者人格権侵害に対する慰謝料は,優に500万
円を下らない。
イ弁護士費用
被告が第2論文を作成・発表したことにより原告の第1論文の著作権
等を侵害していることが明らかであるにもかかわらず,原告による第2
論文の撤回の勧告に被告が応じなかったため,原告は,本件訴訟を提起
することを余儀なくされたこと,本件訴訟は,脳に関する高度に専門的
な論文しかも英文論文における著作権法違反が争点であり,多大な労力
を要すること,本件訴訟提起から3年以上経過していること,第2論文
の撤回通知がされない限り第1論文を発表できないという原告の重大な
不利益は,直ちに金額に換算できないものであるが,弁護士会旧報酬規
程16条により800万円相当の経済的利益と算定されることなどにか
んがみると,被告による第1論文の著作権等侵害の不法行為と相当因果
関係のある弁護士費用相当額の損害は,100万円を下らない。
ウ小括
したがって,原告は,被告に対し,著作権侵害及び著作者人格権の不
法行為による損害賠償として320万円(前記アの内金220万円及び
前記イの100万円及びの合計額)及びこれに対する不法行為の後であ
る平成16年6月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求めることができる。
(2)被告の反論
原告主張の損害額は争う。
6権利の濫用の成否(争点6)について
(1)被告の主張
ア原告の第1論文の著作権及び著作者人格権の権利行使としての本件請
求は,以下のとおり,権利の濫用に当たり,許されない。
(ア)第1論文及び第2論文は,いずれも被告が大部分の表現を創作し
たものであって,原告は,両論文の類似部分について創作的な関与を
していないのであるから,第1論文についての原告の著作権を保護す
べき必要性は乏しい。
それにもかかわらず,原告は,指導教官という立場から第1論文に
コレスポンディングオーサーとして名を連ねたことに基づき,明確な
理由なく,第1論文の発表に関する被告の要求を斥け,第1論文の投
稿を一切許さず,長期間放置し,第1論文の著作者としての被告の権
利行使を正当な理由なく妨げていた。
(イ)被告は,平成13年2月,博士論文計画として第2論文のアイデ
アを書面(乙10の1)にして原告に提出し,さらに,同年4月には
より詳細なアイデアのメモ(乙10の2)を作成して,これを原告に
提出した。しかし,原告は,その研究の実施を認めず,協議の結果,
被告は「Differencesinbrainactivityinwordreadinginrelati
ontovisualfieldofpresentation」と題する英文論文(甲39の
2。以下「event-related論文」という。)に係る実験を行い,同論文
を書き上げて,これを博士論文として提出した。
被告は,博士課程修了後の平成14年4月以降,東京大学医科学研
究所に研究員として在籍し,ようやく,自己のアイデアに基づいた第
2論文に関する独自の研究を行うことができるようになった。
ところが,原告は,被告が東京大学医科学研究所において独自の研
究を進めていたにもかかわらず,その研究内容に対し不当な干渉を加
えてきたものであり,本件訴訟は,その延長線上にあるものである。
すなわち,第1論文と第2論文とでは,実験のテーマが大きく異な
る以上,今からでも第1論文の投稿は可能であるし,投稿先の査読者
とのコミュニケーションさえ怠らなければ掲載の可能性も十分にあ
る。そもそも,第1論文の内容は,平成12年6月に開催された「Hum
anBrainMapping」(以下「HBM誌」という。)の学術研究会にお
いて,被告が実務を担当してポスター発表(posterpresentation)を
行っており,既に公表されているものである。公表された研究成果を
応用して,別の実験を行うことは誰でも可能であって,決して「論文
の盗用」,「アイデアの盗用」には当たらない。
原告は,第2論文の具体的内容ではなく,自己が開拓してきた分野
に他のグループが参加することに対して不快感を強く持ち,自己の関
与しない第2論文が公表・掲載されていることが意に沿わないのであ
る。
(ウ)また,第1論文と第2論文は基礎とする方法論を共通にしなが
ら,実際の実験内容は異なり,導かれた結論は第2論文の方がより限
局された部位の特定を行っている点でレベルの異なる論文である。そ
れぞれの論文は,それぞれの固有の学問的な成果であって,正にその
成果による当該研究分野への貢献こそが論文の本質的な価値である。
著作権が保護しようとするものは,文章における創作的表現のみであ
って,論文の内容となった実験方法でもなければ,論文によって示唆
された学術的な結論・推論(アイデア)でもあり得ない。仮に第2論
文のごく一部についての著作権侵害を理由に,これを取り下げざるを
得ないとするならば,第2論文が当該研究分野において貢献していた
学問的成果は,当該研究分野から失われ,これによって当該研究分野
に生じる損失は大きい。
イ以上のような本件をめぐる客観的状況や原告の主観的な意図を考慮す
れば,原告の第1論文の著作権及び著作者人格権の行使としての本件請
求は,権利の濫用に当たり,許されない。
(2)原告の反論
ア前記1(1)のとおり,第1論文における文章の構成や論じ方という創作
的部分は,専ら原告によって作成されており,原告が,第1論文につい
て創作的な関与をしていることは明らかである。
また,第1論文の出来具合を判断する権限は,コレスポンディングオ
ーサーである原告にあるのであって,原告が第1論文の出来が悪く,客
観的にまだ発表できる水準にないと考えている以上,それを発表しない
のは当然である。原告としても,第1論文の出来が良いと考えていれば
原告自身の業績にもなるのであるから,第1論文を既に発表している。
イ(ア)被告は,原告が第2論文に関する研究に反対した旨主張するが,
指導教官は,学問的に意味のない研究の場合,それを止めるように指
導するのが本来的職務である。原告は,親切心から,第2論文は無意
味だから止めた方がよいと指導しただけである。
(イ)第2論文は,原告の研究室に所属していた被告が,原告の開発し
た装置,原告が和訳した質問紙法,原告が用いた実験方法等を全て盗
用しておきながら,そのことを全く触れずにあたかも自らが開発した
手法のように発表したことが問題なのである。原告が開発した研究手
法が第2論文の成立に寄与しているのであるから,本来であれば,第
2論文の共著者として原告を挙げなければならないし,最低限,研究
手法の開発者を明記しなければならない。原告が開発した研究手法
は,知的財産権では保護されないものかもしれないが,研究手法は,
ノウハウとして部外秘とされているものである。その研究手法を使用
して論文を発表する場合は,最低限そのことを明記するのが研究者の
ルールである。
原告が被告のルール違反を指摘するのは至って当然であって,不当
な干渉でも何でもない。
(ウ)被告は,第2論文を取り下げることは研究分野において損失であ
る旨主張するが,盗作論文には全く学術的価値はなく,まして第2論
文は,第1論文の「Discussion」の章を切り貼りして,別の「Conclus
ion」の章を付加したにすぎないものであって,その点でも全く学術的
価値はない。
ウしたがって,原告の第1論文の著作権及び著作者人格権の行使として
の本件請求が権利の濫用に当たり許されないとの被告の主張は,理由が
ない。
第4当裁判所の判断
1前提事実
前記争いのない事実等と証拠(甲1ないし7,9,11ないし25,28
ないし32,39,40,43,45,46,48ないし51,54,乙
1,4,6,7,10ないし19,25ないし30(以上,枝番のあるもの
は枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められ
る。
(1)第2論文発表前の原告の研究の経緯等
ア(ア)原告は,平成5年から平成9年までの間は東京大学医学部教授(
音声言語医学研究施設言語神経科学部門)として,平成9年から平成
15年までの間は,東京大学大学院医学系研究科教授(認知・言語神
経科学分野)として,平成16年以降は脳血管研究所教授として,脳
神経医学を専攻し,脳と言語の関係に関する研究を行っていた。
原告は,fMRI(機能的磁気共鳴画像法)による言語機構の解析に関
する研究を研究テーマの一つとしていた。
(イ)被告は,平成10年に東京工業大学大学院社会理工学研究科修士
課程を修了した後,同年,東京大学大学院医学系研究科博士課程(認
知・言語神経科学分野)に進学し,同博士課程で原告が主宰し,指導
教官を務める研究室の一員となった。
その後,被告は,平成14年3月に同博士課程を修了し,同年4月
に,東京大学医科学研究所の研究員となった。
イ原告は,平成9年4月から平成14年3月(平成9年度から平成13
年度)にかけて,日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業としての「P
ETおよびfMRIによる言語機構の解析」と題する研究プロジェクトを,プ
ロジェクトリーダーとして行った。同研究プロジェクトの組織は,プロ
ジェクトリーダーのほか,複数のコアメンバー及び研究協力者で構成さ
れ,Aはコアメンバー(東京大学医科学研究所・助教授),被告は研究
協力者(東京大学大学院医学系研究科・大学院生)であった。
同研究プロジェクトの平成14年4月付け研究成果報告書(甲3)に
は,次のような記載がある。
①「2.研究計画の概要」
「従来の「脳と言語」の研究は,大脳が損なわれた時どのような言語障
害を生ずるかを研究し,そのことから間接的に脳と言語の関係を推定し
てきた。例えば,左中前頭回後部の損傷で字が書けなくなることから左
中前頭回後部が書字に関係していることが推定されてきた。しかし,最
近,fMRI(機能的磁気共鳴画像法)やPETなどの脳機能画像解析技術の進
歩によって,言語をはじめとする精神活動時に,脳のどの部分が活動し
ているか“目で見える形”でとらえられるようになってきた。本研究
は,脳機能画像解析により言語機能が大脳のどの部分の活動で行われて
いるかを明らかにすることを目指している。このために,脳機能画像解
析の新技術の開発も目的としている。この研究により,人間の精神につ
いての自然科学的な理解を深めるとともに,失語症,吃音,言語発達遅
延などの言語障害,診断,治療などに貢献することが期待できる。」(
13頁)
②「3.研究目的」
「(1)FMRIやPETで使用する言語課題
欧米では,言語学のモデルに基づき,音韻,意味などを対象とした言語
課題を用いる研究が多い。我々はこのようなアプローチだけでなく,大
脳損傷で生ずる失語症の解析で用いられてきた言語課題(呼称,書字な
ど)を適用することを考えている。日本語の音韻の単純さを生かした課
題(たとえば,音素−書字素変換や“しりとり”),漢字,仮名など日
本語の特性を生かした課題の適用を工夫していく。」(13頁)
③「4−1研究計画,目的に対する成果
(1)使用する言語課題:失語症の解析に用いる自発書字課題を用いて書字
の大脳メカニズムを研究し,左半球の上頭頂小葉前部,上前頭回から中
前頭回にかけての後部の2カ所が仮名書字に関連することを示した(Kat
anoda,etal2000)。漢字の学習は視覚性記憶を向上させることが示唆
されたので(X1,Y12002),漢字の学習と視覚性記憶との関連を脳
のレベルで検討した(論文準備中)。文字が左半球に提示されると,大
脳の賦活はほぼ左半球に限られることが示された(論文提出中)語音弁
別の脳内のメカニズムの研究はMRI装置の騒音のため研究が進まなかっ
た。・・・現在再実験中である。
(2)言語優位半球の決定:・・・Broca領の損傷による失語症の回復は,
左半球で代償されることが示唆された(論文作成中)。」(14頁)
ウ原告は,1999年(平成11年)10月,北米神経科学会(Society
forNeuroscience)において,連名(原告,A,E,F,G,H及び被
告)で,「FunctionalMRI(fMRI)studyofphoneme-to-graphemeconve
rsioninJapanese」(訳・日本語における音素−書記素変換に関する機
能的磁気共鳴画像(fMRI)研究)との演題の研究発表を行い,その抄録が
同学会の抄録集(甲5)に掲載された。
同研究発表の資料(甲4)には,①「本研究」は,一つの音素が一つ
の書記素で表される単純な音素−書記素変換に関連している脳の部位をf
MRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて明らかにすることを目的としてい
ること,②英語においては,たいていの音素が二つ以上の書記素で表さ
れるので音素−書記素変換は複雑であるのに対し,日本語においては,
一つの音素はただ一つの書記素(かな)によって表されるので音素−書
記素変換は単純であること,③「本研究」では,二つの実験が行われ,
実験1では,日本人被験者がfMRIでスキャンされている間に,日本語の
50音を声を出さずに言う課題(1),50音を一つずつ声を出さずに言っ
た後,その音に相当する書記素(かな)を頭の中で想像する課題(2)を行
い,課題(2)のfMRI信号から課題(1)のfMRI信号の引き算を行ったこと,
実験2では,日本人被験者がfMRIでスキャンされている間に,日本語の
50音を声を出さずに言う課題(1),50音を一つずつ声を出さずに言っ
た後,その音に相当する書記素(かな)を右手の人差し指で書く課題(2
),50音を一つずつ声を出さずに言った後,右手の人差し指で2回タッ
プする課題(3)を行ったこと,④二つの実験で左頭頂間溝に沿った領域が
共通に賦活したので,音素−書記素変換に関連する賦活部位は左頭頂間
溝に沿った領域にあると思われ,この所見は左頭頂間溝に沿った領域の
損傷が失書を引き起こすという事実と一致すること,⑤実験2(課題(2)
対課題(3))の賦活と実験1(課題(2)対課題(1))の賦活との比較によれ
ば,イメージ産出(imageproduction)に左縁上回と右下前頭回が関わ
っているかもしれないことなどが記載されている。
エ原告は,2001年(平成13年)3月12日,連名(H,A及び原
告)で,HBM誌に「AFunctionalMRIStudyontheNeuralSubstrat
esforWriting」と題する論文(甲43。以下「HBM論文」とい
う。)を発表した。
オ被告は,2002年(平成14年)6月4日,HBM誌の学術研究会
において,連名(被告,A及び原告)で,「AnfMRIstudyoncommonn
euralcorrelatesofreadingaloudandwritingtodictation」(訳
・「音読と書き取りに共通の神経的相関についての機能的磁気共鳴画像
研究」)との演題で,ポスター発表を行い,その抄録が採択された。
同ポスター発表の資料(乙12の1)には,①「我々の研究」の目的
は,1対1の書記素−音素変換と1対1の音素−書記素変換に共通の神
経基盤を明らかにすることにあること,②英語においては,たいていの
音素が二つ以上の書記素によって表され,たいていの書記素が二つ以上
の音素によって表されるため,二つの変換は複雑であるの対し,日本語
においては,音素と書記素の間に1対1の対応関係があるので,これら
の変換は単純であること,③実験の条件として,音読条件,書取条件,
固視条件の3条件を定義し,刺激セットとして39の無意味な二つの日
本語表音文字(かな文字)を選択したこと(例えば,ぬお(/nu-o/),て
ぬ(/te-nu/),るえ(/ru-e/)等),④音読条件は,被験者はスクリーン
上に縦に表示された無意味な二つの日本語かな文字を見て,それに対応
する2音節の文字を心の中で読むこと(書記素−音素変換を含む。),
書取条件は,被験者はイヤープラグを通して無意味な2音節の音を聞い
て,それに対応する二つのかな文字を右人差し指で空中に書くこと(音
素−書記素変換を含む。),固視条件は,被験者はスクリーン中央の赤
い点を固視すること,⑤「音読−固視」と「書き取り−固視」との共通
部分をとること(maskingprocedure)によって,書記素−音素変換及び
音素−書記素変換に関連する共通の神経的相関を引き出すこと,⑥「本
研究」は,音読と書き取りに共通する賦活領域として,左下前頭回の上
後端から右中心前回中部にまたがる領域と頭頂間溝の前方部分を示した
こと,⑦「本研究」で使用した二つの課題は,書記素と音素の変換に関
連する共通の認知的構成表素を共有することなどが記載されている。
(2)第1論文の作成経緯等
ア原告は,平成12年2月ころから7月ころ,原告の研究室において,
音素−書記素変換及び書記素−音素変換を研究テーマとし,fMRIを用い
て音読及び書き取りにおける脳の賦活部位を解析する実験(第1論文に
係る実験)を行い,その研究結果を論文とするため,被告に対し,その
原稿作成を指示した。
イ(ア)a被告は,平成12年10月,甲28の原稿を作成し,原告に提
出した。
甲28の原稿の概要は,以下のとおりである。
①「Abstract」,「Introduction」,「Methods」,「Result
s」,「Discussion」,「Conclusion」,「References」の各章で
構成されている。
②「Abstract」の章は,英文のキーワードのみが列挙されてい
る。
③「Introduction」の章には,具体的な英文の記述があり,その
末尾には,「Introductionに含むべき内容」として「!言語のfMR
I(reading,writing)の研究について」,「!英語には日本語の
かなを使うメリット,書記素と音素が1対1対応」,「純粋失
書,失読等の神経心理学的研究」,「字義どおりの’純粋’は損
傷例研究ではほとんどない」,「仮説をいれる(臨床神経心理学
より)」,「Geschwindの仮説」,「!失書や失読は他の失語症状
を伴うこともある。しかし失書と失読が乖離する場合もある」と
の記載がある。
④「Methods」及び「Results」の章には,具体的な英文の記述が
ある。「Methods」の章の末尾には,「ExperimentalDesignに含
むべき内容」として,「!刺激が3秒に1回出る(提示は約1
秒,ISIは約2秒)1コンディションにつき13刺激」,「!刺激
に利用した無意味綴りは意味連想価の低いもの」等の記載があ
る。
⑤「Discussion」の章は,具体的な英文の記述があり,その冒頭
には,「今回は部位ごとのDiscussionにしましたが,cognitivec
omponentsごと(たとえば,visualanalysis,auditoryanalysis
,phoneme-to-graphemeconversion,grapheme-to-phonemeconve
rsion,motorcontrol,subvocalarticulationなど)のDiscuss
ionの方がいいかもしれません.先生のご意見をお聞きしたいです
.」との記載がある。
⑥「Conclusion」の章は,「Conclusion(本文完成後に作成予
定)」と記載されている。
⑦「References」の章には,「1.」から「27.」までの文献
が列挙されているが,「1.Neuroimagingのreadingの文献」,「
4.書記素−音素変換の仮説文献」のように具体的な文献名が挙
げられていないものや,「14.頭頂間溝の損傷で生じるalexia
の例:X先生より聞く」との記載もある。
b原告は,甲28の原稿について,削除すべき箇所に斜線を引いた
り,英語表現の誤りや単語の選択を修正する書き込みをし,また,
内容,表現等に問題のある箇所に「?」印を付したり,縦の波線を
引くなどし,被告に修正を指示した。例えば,「Discussion」の章
については,2箇所に「?」を付し,上記a⑤の冒頭部分の「今回
は部位ごとのDiscussionにしましたが・・・先生のご意見をお聞き
したいです」との文章に斜線を引いた上,右余白部分に「よくな
い」との書き込みをした。
(イ)被告は,平成13年6月ころ,甲28の原稿の「Discussion」の
章等を修正した甲11の原稿を原告に提出した。
原告は,甲11の原稿について,「Discussion」の章の冒頭の右余
白部分に「logicalな文章になるように努力してください。大幅の訂正
が必要です。」と書き込んだ上,「Discussion」の章の全体にわたっ
て,削除すべき箇所に斜線を引いたり,英語表現の誤りや単語の選択
を修正する書き込みをし,被告に修正を指示した。
(ウ)a被告は,平成13年6月25日,甲11の原稿の「Discussio
n」の章を一部修正した甲12の原稿を原告に提出した。
甲12の原稿の右余白部分には,「ゲシュウィンドウェルニッ
ケ」,「ゲシュウィンド角回がふかつしない理由→semanticpro
cessingでないから」,「書き取りの役割分担IPSimageをつくる
PCGimageを統合してmotorへつなぐ→根拠はアリwritingのmod
elと我々の先行研究から」,「音読におけるIPSの役割PCGの役割
→根拠なし書き取りのモデルからの類推」などの被告による手書
きの書き込みがあった。
b原告は,甲12の原稿について,「Discussion」の章の冒頭の右
余白部分に「writingをあきらかにする。readingaloudをあきらか
にする。」,「音どくについてこういわれているwritingについて
こういわれているしかしこれらはsubtractionである。ひきすぎた
り,ひきのこすかのうせいあり。そこでひきすぎるかのうせいある
がかくじつにしらべられるmaskを行って,音読と書字にかんけいあ
るところをみる」と書き込んだ上,削除すべき箇所に斜線を引いた
り,英語表現を訂正,付加する書き込みをし,被告に修正を指示し
た。
(エ)その後,被告は,平成13年8月10日に甲13の原稿を,同月
20日に甲14の原稿を,同月27日に甲15の原稿を,同月31日
に甲16の原稿をそれぞれ原告に提出し,その都度添削の依頼をし
た。
原告は,甲13ないし16の各原稿について,英語表現を訂正,付
加する書き込みをしたり,内容等についてコメントする書き込みをす
るなどし,被告に修正を指示した。例えば,甲15の原稿の末尾に「
①GtoPはparietalでもfrontalでも行われるというせつがある②P
toGはparietalで行って,そのあとそのけっかをmotorにうつすことが
frontalでおこなわれるという説がある。③②をかんがえるとGtoPも
frontalはmotorにつなげるというきのうであるかもしれぬ」,甲16
の原稿の「Introduction」の末尾に「・両方の共通のをなぜやるか
①Andersonがもんだいしてるし,②Geschwindがone-to-oneGtoPP
toGでなくて,readal(oud)とdicta(tion)についてだけど・onet
ooneconversionを研究すると何がわかるかlocalizationがはっき
りしないか」との書き込みをした。
(オ)a被告は,平成13年9月15日,「Discussion」の章等を修正
した甲17の原稿を原告に提出した。
甲17の原稿には,「先生用」との被告の手書きの記載があるほ
か,「Discussion」の章の各英文パラグラフの冒頭部分ごとに
に,「1.共通の賦活部位を述べる」,「2.parietal(IPS)の賦活
は[Roeltgen,1984#54]のSMGに近いことを述べる」,「3.frontal
の賦活は[Anderson,1990#51]に近いことを述べる」,「4.pariet
al(IPS)とfrontalで同じことを行っていることを述べる」,「5.[
Roeltgen,1984#54]の理論はうまく行っていない。それは英語ではp
honeme-to-graphemeおよびgrapheme-to-phonemeが複雑だから。こ
れに対して,日本語は両者の対応関係が単純であることを述べ
る」,「6.frontalとparietal(IPS)の役割の違いを述べる(specu
lateする)」,「7.[Geschwind,1979#1]の言うようにangulargyr
usやWernickeは賦活しなかったことを記述するのみ。なぜかは保
留」,「8.他の賦活部位について簡単に記述」との被告によるワ
ープロの記載があった。
b原告は,甲17の原稿について,英語表現を訂正,付加する書き
込みをし,被告に修正を指示した。
(カ)a被告は,平成13年9月17日に甲18の原稿を,同月18日
に甲19の原稿を,同月22日に甲20の原稿を,同年10月8日
に甲21の原稿を,同月24日に甲22の原稿を,同月29日に甲
23の原稿を原告に提出し,その都度添削の依頼をした。
b原告は,甲19ないし21の原稿について,削除すべき箇所に斜
線を引いたり,英語表現の誤りや単語の選択を修正する書き込みを
したり,また,内容,表現等に問題のある箇所に「?」印を付した
り,縦の波線を引き,あるいは手書きでコメントするなどし,被告
に修正を指示した。
なお,甲22,23の原稿については,原告による訂正,付加等
の記載はない。
(キ)被告は,博士課程修了後の平成14年8月30日,甲24の原稿
を原告に提出した。甲24の原稿は,第1論文(甲1)と同じ内容で
ある。
なお,甲24の原稿の表題部の上余白部分には,「CognitiveBrain
Research用−ホームページで投稿可」との被告による手書きの書き込
みがあった。
(ク)a被告は,平成15年3月6日,甲25の原稿を原告に提出し
た。甲25の原稿は,甲24の原稿に表及び写真を添付したもので
あり,その本文の内容は甲24の原稿と同じである。
なお,甲25の原稿の表題部の上余白部分には,「p2gの論文
です」,「8月にお渡ししたものと同じです」との被告による手書
きの書き込みがあった。
bその後,原告は,甲25の原稿について,英語表現等の訂正,付
加等をしたが,その内容は,第1論文(甲1)に反映されていな
い。
(3)第2論文の作成・発表及び本件訴訟に至る経緯等
ア(ア)被告は,第1論文の原稿作成中の平成13年2月9日ころ,原告
に対し,「博士論文計画:書取・復唱パラダイムの2×2FactorialD
esign」と題する書面(乙10の1)を提出した。同書面には,書き取
りと復唱を組み合わせた実験パラダイムを用いることによって,「IPS
が言語の表象的操作に特化していることを示すことを試みる」ことを
目的とし,①書き取りに関して「無意味綴りを聞いてかな(“ぬへ”
等)で書く」,②書き取りに関して「純音を聞いて記号(“”)を
書く」,③復唱に関して「無意味綴りを聞いて心の中で言う」,④復
唱に関して「純音を聞くだけ」,⑤「rest」として「固視点をみる」
という実験を行う旨の記載があった。
被告は,原告から問題点の指摘(甲46の1)を受けて,同年3月
ころ,上記書面を修正及び補足した書面(甲46の2,3)を原告に
提出し,同年4月23日ころ,再修正した書面(乙10の2)を原告
に提出した。
しかし,原告は,被告が提出した上記実験計画では論理的に正しい
結果が得られないものと考え,研究の実施を認めなかった。
(イ)原告と被告は,協議の結果,event-related論文に係る実験を行っ
て,被告の博士論文とすることとした。
そこで,被告は,原告の指導の下に,event-related論文の作成を開
始し,平成14年2月に博士論文として提出し,同年3月,event-rel
ated論文は被告の学位論文として登録された。
なお,event-related論文には,原告がコレスポンディングオーサ
ー,被告がファーストオーサーとして表示されている。
(ウ)原告と被告は,event-related論文を,平成14年3月に「Scienc
e」に,同年4月に「NatureNeuroscience」に,同年5月にニューロ
レポート誌に,平成15年3月にHBM誌に投稿したが,いずれも掲
載を拒否された。
イ(ア)被告は,平成14年4月以降,東京大学医科学研究所(放射線
科)の研究員として,Aの指導を受けながら,研究を継続していた。
被告は,Aから,MRI装置を使用して実験することの許可を得ていた。
その後,被告は,平成15年8月ころ,東京工業大学で知り合った
B,Bから紹介されたC及びDの協力の下に,第2論文に係る実験を
行った。
(イ)被告は,平成15年12月15日,第2論文をニューロレポート
誌に投稿した。
その後,第2論文は,ニューロレポート誌の編集者の査読を経て,
2004年(平成16年)4月29日発行のニューロレポート誌第1
5巻6号に掲載された。
第2論文は,被告がファーストオーサー兼コレスポンディングオー
サーとして表示され,B,C,D及びAも著者として表示されてい
る。
なお,被告,B,C,D及びAは,第2論文の掲載に先立ち,ニュ
ーロレポート誌を発行するLWW社に対し,第2論文の著作権を譲渡する
旨の書面(乙19)を提出した。
ウ(ア)被告は,平成15年6月2日,原告に対し,第1論文のファイル
を添付して,第1論文の投稿を依頼するメールを送信し,同年10月
6日,原告の要請を受けて,第1論文のファイルを原告に再送信し
た。
(イ)被告は,平成15年11月17日に原告からHBM誌がevent-rel
ated論文の掲載を拒否した旨のメール(乙1の4)を受けた後,原告
と相談して,同論文を「ExperimentalBrainResearch」(以下「EB
R誌」という。)に投稿した。なお,上記メールには,第1論文につ
いて,「PtoGは何かを加えないととおらないと思われるので,考え
て見てください。私も考えてみます。」との記載があった。
被告は,同年12月6日,原告に対し,event-related論文をEBR
誌に投稿したことを報告するとともに,第1論文についてHBM誌に
投稿してみたい旨のメール(乙1の5)を送信した。
(ウ)原告は,平成16年1月3日,第1論文について,「p2g論文
は大きな問題があり,それを解決するようにもう一度努力した方がよ
いでしょう。2月になったら私が手をつけてみます。精神の鍛錬と思
ってベストを尽くしてみてください。」などと記載したメール(乙1
の6)を被告に送信した。
(エ)被告は,平成16年3月ころ,EBR誌から,event-related論文
を修正すれば掲載を示唆するコメントを受けたことから,同論文を修
正した原稿を作成し,同年7月28日これを原告に送信した後,同原
稿をEBR誌に送った。しかし,原告には何らかの原因で修正後の原
稿は届いていなかった。原告は,同年9月,EBR誌から連絡を受け
て,被告が原告のチェックを受けずに,修正後の原稿をEBR誌に送
ったことを知って立腹した。その後,被告は,原告に対し,謝罪し
た。
(オ)原告は,平成17年1月6日,第1論文について,「PtoGの論
文・・・も何とか急がねばと考えています。この論文は,結果以外は
私が書いたので,君の論文への貢献を増すため,‘なぜcommonneural
correlatesを調べたのか’について書いたらどうかと示唆しました。
その後,良い説明は思いつきませんか?何もないようなら私が手を入
れて最終版を作りますがどうでしょうか。」などと記載したメール(
甲7の1)を被告に送信した。
被告は,同月8日,第1論文について,「以前お渡しした原稿に私
が付け加えてある部分以外の説明は思いつきません。」などと記載し
たメール(甲7の2)を原告に送信した。
エ原告の代理人弁護士は,平成17年2月8日ころ,被告に対し,第2
論文の掲載が原告の著作権及び著作者人格権を侵害することを理由にそ
の削除要請を出版社にするよう求める旨の通知書を出した。
これに対し被告の代理人弁護士は,同月25日到達の内容証明郵便
で,原告の代理人弁護士に対し,原告の要求には応じられない旨の回答
をした。
オ原告は,平成18年2月9日,被告,B,C,D及びAを相手に本件
訴訟を提起した。
なお,原告とB,D及びAは平成20年2月15日に,原告とCは同
年3月10日に,本件につき訴訟上の和解をした。
2第1論文の共同著作物性(争点1)について
(1)原告は,第1論文は,原告の指導の下に被告が原稿を作成し,原告がそ
の添削をしたり,自らが文章を書き下ろすことによって作成されたもので
あって,原告及び被告が共同で創作した共同著作物である旨主張するの
で,以下において判断する。
アまず,前記前提事実によれば,①東京大学大学院医学系研究科教授で
あった原告が,平成9年4月以降日本学術振興会未来開拓学術研究推進
事業の研究プロジェクトとして行っていたfMRIによる言語機構の解析の
研究の一環として,原告の研究室で行ったfMRIを用いて音読及び書き取
りにおける脳の賦活部位を解析する実験について,当時,原告の研究室
に所属する大学院生(博士課程)であった被告に対し,その研究結果を
論文とするよう原稿作成を指示したことから,被告が第1論文の作成を
開始したこと,②被告は,平成12年10月に第1論文の初期原稿であ
る甲28の原稿を作成して,原告に提出し,その後も,平成13年6月
ころから平成14年8月30日までの間に,甲11ないし24の各原稿
を原告に提出し,その都度,原告は,これらの原稿(ただし,甲22な
いし24の原稿を除く。)について,英語表現を訂正,付加する書き込
みをしたり,内容等についてコメントする書き込みをするなどし,被告
に修正を指示し,その指示を受けた被告が原稿の修文をしたり,新たに
作成した文章を書き入れて,甲24の原稿の作成に至ったこと,③第1
論文(甲1)は,甲24の原稿と同じ内容であることが認められる。
イ次に,前記前提事実と証拠(甲1,16,19,21)によれば,第
1論文(甲1)中に,原告が被告が作成した原稿に自ら書き込んだ文章
等がそのまま反映されている部分として,例えば,次の下線部分がある
ことが認められる。
①Abstractの章
「Littleisknownabouttheneuralsubstrateofthesetwoconv
ersions,grapheme-to-phonemeandphoneme-to-graphemeconversio
ns.」(甲16,19の原稿に書き込み。別紙対比表1の2)
②Introductionの章
「InEnglishthetwokindsofconversioniscomplexbecausemo
stphonemesarerepresentedbymorethanonegraphemeandmost
graphemesarebymorethanonephoneme,whichmaymakediffic
ulttospecifythelesionresponsibleforthedisorderofgrap
heme-to-phonemeandphoneme-to-graphemeconversions.」(甲16
の原稿に書き込み。別紙対比表1の20)
③Resultsの章
「Theneuralcorrelatesofvisualanalysis,grapheme-to-phonem
econversionandinnerspeechwereobtainedfromthecompariso
nofreadingconditionagainstfixation,andsummarizedinTab
le1andinFigure1(toprow).」(甲21の原稿に書き込み)
④Discussionの章
「Theanteriorpartoftheleftsuperiorparietallobuleisa
partoftheregionofwhichlesioncausesphonologicalalexia.
Phonologicalagraphiacausesadisorderofphoneme-to-graphe
meconversion,whilephonologicalalexiadoesadisorderofgr
apheme-to-phonemeconversion[20].」(甲21の原稿に書き込
み。別紙対比表2のb)
ウ(ア)さらに,第1論文と被告が作成した初期原稿である甲28の原稿
とを対比すると,①甲28の原稿においては,「Discussion」の章
が,「Parietalcortex」(訳・頭頂皮質),「Frontalcortex」(訳
・前頭皮質),「Temporalcortex」(訳・側頭皮質),「Occipital
cortex」(訳・後頭皮質),「Otherareas」(訳・その他領域)の項
に分けて,大脳の各部位ごとに記述がされているのに対し,第1論文
では,そのような記述の順序となっていないのみならず(別紙対比表
2の第1論文のaないしx参照),甲28の原稿の「Discussion」の
章の記述は,第1論文に残されていないこと,②甲28の原稿の「Int
roduction」及び「Results]の記述も,第1論文に残されていないこと
が認められる。
加えて,③甲28の原稿においては,「Discussion」の章の冒頭
に,「今回は部位ごとのDiscussionにしましたが,cognitivecompon
entsごと(たとえば,visualanalysis,auditoryanalysis,phonem
e-to-graphemeconversion,grapheme-to-phonemeconversion,moto
rcontrol,subvocalarticulationなど)のDiscussionの方がいい
かもしれません.先生のご意見をお聞きしたいです.」との記載(前
記1(2)イ(ア)a⑤)があるが,この文章に斜線を引いた上,右余白
部分に「よくない」との被告による書き込みがされ(同b),ま
た,「References」の章には,「1.」から「27.」までの文献が
列挙されているが,「1.Neuroimagingのreadingの文献」,「4.
書記素−音素変換の仮説文献」のように具体的な文献名が挙げられて
いないものや,「14.頭頂間溝の損傷で生じるalexiaの例:X先生
より聞く」との記載(同a⑦)もあること,④甲28,11ないし2
3の原稿が原告に提出された当時,被告は,原告の研究室に所属し,
原告が被告の指導教官であったこと,以上の①ないし④に照らすなら
ば,原告は,第1論文の記述の順序,記載内容,参考文献等について
被告に対し口頭による指示をしていたものと推認される。
(イ)原告は,甲12の原稿の右余白部分の被告の手書きの書き込み(
前記1(2)イ(ウ)a)は,原告が甲11の原稿を検討した際に被告に口
頭で指示した内容である旨主張するのに対し,被告は,被告が「Discu
ssion」の章を作成するに当たって思いついた,自らの着想ないし案を
書きとめたメモ書きであって,原告が口頭で指示をした内容ではない
旨主張する。
そこで検討するに,上記書き込みには,「書き取りの役割分担IPS
imageをつくるPCGimageを統合してmotorへつなぐ→根拠はアリ
writingのmodelと我々の先行研究から」との記載があり,この記載
部分は,書き取りの役割分担について,書字のモデルと「我々の先行
研究」を根拠に記述する趣旨の記載であるものと解されるところ,「
我々の先行研究」とは,先行研究の文献(第1論文の別紙対比表2の
jに記載された引用文献[13,23,29]のうち,原告が関与し
たが,被告が関与していない「13」及び「23」(「References」
の章に記載の[13]及び[23]。いずれも著者としての被告の氏
名の記載がない。)を指すものとうかがわれることに照らすならば,
少なくとも上記記載部分については,原告による口頭の指示を記載し
たものと認めるのが合理的である。
(ウ)原告は,甲17,20,21,23の各原稿におけるタイプされ
た「下線付きの日本語文」(例えば,甲17の9頁14行目の「1.
共通の賦活部位を述べる」など)も,原告が被告に口頭で指示した内
容である旨主張するのに対し,被告は,被告が自ら考えた内容をメモ
したものであり,原告による口頭の指導に基づき記載されたものでは
ない旨主張する。
そこで検討するに,前記1(2)イ(オ)aのとおり,平成13年9月1
5日に原告に提出された甲17の原稿には,「1.共通の賦活部位を
述べる」,「2.parietal(IPS)の賦活は[Roeltgen,1984#54]のSMGに
近いことを述べる」,「3.frontalの賦活は[Anderson,1990#51]に
近いことを述べる」,「4.parietal(IPS)とfrontalで同じことを行
っていることを述べる」,「5.[Roeltgen,1984#54]の理論はうまく
行っていない。それは英語ではphoneme-to-graphemeおよびgrapheme
-to-phonemeが複雑だから。これに対して,日本語は両者の対応関係が
単純であることを述べる」,「6.frontalとparietal(IPS)の役割の
違いを述べる(speculateする)」,「7.[Geschwind,1979#1]の言う
ようにangulargyrusやWernickeは賦活しなかったことを記述するの
み。なぜかは保留」,「8.他の賦活部位について簡単に記述」との
被告によるワープロの記載がある。
他方で,原告作成の「2001.8.31」付けメモ(甲45)に
は,①「2か所activateした」,②「paraietalのactivateはRentoze
n(判決注・Roeltgenの誤記)にちかい」,③「frontalはandersonに
ちかい」,④「同じ場合で両方ことをやっている」,⑤「GtoPPto
GのlesionはうまくいってないこれはふくざつなGtoPをしらべた
のそうなったのではないかそれでone-to-oneをやればよいのではな
いかそれに日本語」,⑥「両者のちがい,こうだろう」,⑦「5.Ang
ularはでないWernickeもでない」との記載があり,上記①ないし⑦
の記載は,甲17の原稿の「1.」ないし「7.」の記載にそれぞれ
対応する趣旨のものであるものとうかがわれる。
そして,甲45のメモの作成日付(2001年(平成13年)8月
31日)は,甲17の原稿が原告に提出される約2週間前のものであ
ることに照らすならば,甲17の原稿の被告によるワープロの記載部
分(「下線付きの日本語文」)は,原告が被告に対して口頭で指示し
た内容が記載されたものと認めるのが合理的である。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)のとおり,原告は,被告に対し,第1論文の
原稿の作成について口頭による指示をしていたことが認められる。
(2)以上によれば,第1論文は,原告が,被告が作成した原稿について,原
稿への書き込み及び口頭により,英語表現の訂正,付加や,記載の順序,
内容等について指示をし,その指示を受けた被告が原稿の修文をしたり,
新たに作成した文章を書き入れて,完成するに至ったものであって,第1
論文は,原告と被告が共同で創作し,原告と被告の寄与を分離して個別的
に利用することができないものというべきであるから,第1論文は原告と
被告の共同著作物(著作権法2条1項12号)であると認められる。
したがって,原告は,第1論文の共同著作者である。
3複製権及び翻案権の侵害の有無(争点2)について
(1)複製権侵害の有無
原告は,第2論文は,第1論文に依拠して別紙対比表1及び2の下線部
の同一又は類似の表現を有形的に再製し,これを複製したものであり,被
告による第2論文の作成は,原告の保有する第1論文の複製権の侵害に当
たる旨主張する。これに対し被告は,別紙対比表1及び2の下線部の表現
は類似するが,その類似部分は創作性を有しないから,複製に当たらない
旨主張するので,以下において判断する。
ア第1論文と第2論文との対比
(ア)第1論文(甲1)と第2論文(甲2)とを対比すると,以下の諸
点が認められる。
a研究目的
第1論文は,音読における書記素−音素変換と書き取りにおける
音素−書記素変換とに共通する神経基盤を明らかにすることを目的
とするのに対し,第2論文は,書き取りにおける音素−書記素変換
の神経基盤を特定することを目的とするものである(別紙対比表1
の1ないし3)。
b実験の前提
第1論文では,読字過程は,視覚分析,書記素−音素変換,内言
語(innerspeech)から構成され,書取過程は,聴覚分析,音素−
書記素変換,運動プログラミング,運動出力から構成されるとの仮
説を立てた上,読字課題による賦活部位から固視課題による賦活部
位を引き算することにより読字過程の行われる部分が判明し,書取
課題による賦活部位から固視課題による賦活部位を引き算すること
により書取過程の行われる部分が判明するので,両者に共通して脳
賦活が認められる部位が,書記素−音素変換と音素−書記素変換に
共通の認識要素であると仮定している(別紙対比表1の64,67
ないし69)。
一方,第2論文では,無意味な表音文字の書取過程は,聴覚的分
析,音素の再生,音素−書記素変換,運動プログラミング及び運動
出力から構成され,無意味なシンボルの書取過程(書き取りのコン
トロール)は,音素の再生と音素−書記素変換を含まない,また,
無意味な表音文字の復唱過程は,聴覚的分析,音素の再生,運動プ
ログラミング及び運動出力から構成され,特定の表音文字の復唱過
程(復唱のコントロール)は音素の再生を含まないとの仮説を立
て,書取課題による賦活部位から書き取りのコントロール課題によ
る賦活部位を引き算することによって,音素−書記素変換と音素の
再生に関わる脳領域を特定することができ(コントラスト1),復
唱課題による賦活部位から復唱のコントロール課題による賦活部位
を引き算することによって,音素の再生に関わる脳領域を特定する
ことができ(コントラスト2),コントラスト1とコントラスト2
を比較することによって,書き取りにおける音素−書記素変換と関
連する神経領域を特定できると仮定している(別紙対比表1の64
ないし68)。
c実験の課題
第1論文では,エジンバラ質問紙法により右利きであることが確
認された日本人の被験者を対象に,高い無連想価を持つ39の無意
味な二つの日本語表音文字(かな文字)を刺激として用いて,①ス
クリーン上の点をただ見つめるという固視課題,②スクリーンに表
示された無意味な二つのかな文字を見て声を出さずに読むという読
字課題,③端が耳栓になっているプラスチックチューブによりMRIシ
ステムに導入される無意味な2音節の音を聞いて右人差し指で空中
に書くという書取課題の三つの課題を行っている(別紙対比表1の
24,25,29,32,34ないし36)。
一方,第2論文では,エジンバラ質問紙法により右利きであるこ
とが確認された日本人の被験者を対象に,高い無連想価を持つ39
の無意味な二つの日本語表音文字(かな文字)を刺激として用い
て,被験者に,いずれも,刺激音を端が耳栓になっているプラスチ
ックチューブによりMRIシステムに導入する方法により,①無意味な
2音節の音を聞いて,その音に対応する二つのかな文字を右人差し
指で空中に書くという,無意味な表音文字の書取課題,②二つの純
音を聞いて特定の無意味な記号を右人差し指で2回書くという,書
き取りのコントロール課題,③無意味な2音節の音を聞いてこの音
を復唱し,無意味な表音文字を言うという復唱課題,④二つの純音
を聞いて特定の表音文字を言うという復唱のコントロール課題の四
つの課題を行い,休み条件としての固視を課題の間に入れている(
別紙対比表1の24,25,29,32,37ないし39)。
d実験結果
第1論文では,読字マイナス固視(コントラスト1)と書き取り
マイナス固視(コントラスト2)にマスキング手続を行った結果,
共通賦活部位は,左頭頂間溝(leftintraparietalsulcus)と左背
側運動前野(leftdorsalpremotorarea)であることが明らかにな
った(甲1の8頁22行ないし9頁3行,別紙対比表2のa)。
一方,第2論文では,書き取りマイナス書き取りのコントロー
ル(コントラスト1)と復唱マイナス復唱のコントロール(コント
ラスト2)の双方で左上側頭回(leftsuperiortemporalgyrus)
が賦活し,コントラスト1でのみブローカ領(BA6/44)に広がる左
運動前野(leftpremotorarea)が賦活したため,書き取りにおけ
る音素−書記素変換と関連する領域は,ブローカ領(BA6/44)に広
がる左運動前野であると特定された(甲2の951頁右欄2行ない
し952頁左欄2行,別紙対比表2のa)。
e議論
第1論文と第2論文との議論における共通点は,①左背側運動前
に近いエクスナー領の損傷が失読−失書を生ずるとの損傷研究か
ら,音素−書記素変換が行われる部位は,左運動前であるとの仮説
を立てたこと,②英語による損傷研究の問題点を指摘し,音素と書
記素の関係を明らかにするには,日本語のかなを刺激として用いる
ことが適切であると説明したこと,③伝統的な書字のモデルにおい
ては,文字の書記素表象(graphemerepresentation)が頭頂領域で
行われ,書記素の運動表象(motorrepresentation)の組織化が前頭
領域で行われるとされるとの先行知見を取り上げたことである(別
紙対比表2のcないしh)。
一方,第1論文と第2論文との議論における相違点は,①実験に
より得られた結果を紹介する部分が異なること,②第1論文では検
討された上頭頂小葉前部の損傷が音声学的失書を,左上頭頂小葉の
前部の損傷が音声学的失書をそれぞれ生ずるとの損傷研究が,第2
論文では取り上げられていないこと,③第1論文では,音声学的失
書と音声学的失読が書字と読字の両方に関与する神経単位の崩壊に
基づいていると仮定し,読字についても,左頭頂が音素表象を提供
し,左運動前が音素の運動表象を産出するとのモデルを適用できる
と仮定したのに対し,第2論文では,これらの仮定を行っていない
こと,④第1論文では,読字においては,書記素入力から音素表象
への変換が頭頂領域で,音素表象から音素の運動出力への移送が前
頭領域で行われ,書き取りにおいては,音素入力から書記素表象へ
の変換が頭頂領域で,書記素表象から書記素の運動出力への移送が
前頭領域で行われるとの仮説を立て,左頭頂間溝前部の役割は,書
記素−音素変換における書記素入力の音素表象への変換と,音素−
書記素変換における音素入力の書記素表象への変換であり,左運動
前領域の役割は,書記素−音素変換における音素表象の音素の運動
出力への移送と,音素−書記素変換における書記素表象の書記素の
運動出力への移送であると推定しているのに対し,第2論文では,
読字については取り上げず,書き取りにおいても,音素入力から書
記素表象への変換,書記素表象から書記素の運動出力への移送のい
ずれも左運動前領域で行われるとの仮説を立て,左運動前領域の役
割は,書記素表象の書記素出力であると推定していること,⑤第1
論文では,実験による賦活部位がゲシュウィンドの仮説と整合しな
かったのに対し,第2論文では同仮説と整合していることである(
別紙対比表2のa,b,m,nないしp,s)。
f結論
第1論文の結論は,音読課題と書取課題とでは共通して左下前回
の上後部から左中心前回中部にわたる領域と左頭頂間溝の前部の周
囲の領域が賦活したことから,単純な音読課題における書記素−音
素変換,単純な書取課題における音素−書記素変換のいずれにおい
ても,これら二つの領域が必要であるというものである(甲1の1
3頁9行ないし18行)。
一方,第2論文の結論は,書取課題においてブローカ領まで広が
る左運動前野が賦活することが示唆され,書取課題及び復唱課題に
おいて左上側頭皮質が賦活したことから,左運動前野が音素表象を
書記素の運動出力へ移送することを,左上側頭領域は,文字の音声
的(聴覚的)及び/あるいは図式(視覚的)表象に変換することを
示唆するというものである(甲2の952頁右欄37行ないし40
行,42行ないし47行)。
(イ)上記のとおり,第2論文は,第1論文とその実験手法(39の無
意味な二つの日本語表音文字(かな文字)を刺激とするfMRIを用いた
実験)の一部が共通するものの,研究目的,実験の前提となる仮定,
実験の課題,実験により得られた結果及び論文の結論が異なるから,
両論文は,研究内容を異にするということができる。
イ類似部分の創作性について
(ア)「Abstract」の章について
a第1論文及び第2論文の「Abstract」には,別紙対比表1の1な
いし7の各項の下線部の箇所に類似表現が存在するので,その創作
性について検討する。
(a)別紙対比表1の1
第1論文には,音読は書記素−音素変換の知識に基づいている
こと(第1文),書き取りは音素−書記素変換の知識に基づいて
いること(第2文)が記載され,一方,第2論文には,書き取り
は音素−書記素変換の知識に基づいていることが記載されてお
り,両論文の内容は,書き取りが音素−書記素変換の知識に基づ
いていることが記載されている点で共通する。
この共通部分が記載された第1論文の第2文と第2論文の文章
とを対比すると,下線部の「Inwritingtodictation」,「phon
eme-to-graphemeconversion」の語句が用いられている点で類似
するが,文章全体の表現としては類似しているとはいえない。ま
た,「writingtodictation」は書き取りを意味する一般的な表
現,「phoneme-to-graphemeconversion」は音素−書記素変換を
意味する専門用語であり,いずれも表現の創作性は認められな
い。
なお,第1論文の第1文と第2論文の文章とは,下線部の箇所
の語句の一部が共通してはいるものの,表現している内容が異な
り,文章全体の表現として類似しているとはいえない。
(b)別紙対比表1の2ないし4
両論文は,①音素−書記素変換の神経基盤がほとんど知られて
いないこと,②機能的磁気共鳴画像法を用いて変換の神経基盤を
明らかにすることを目指した研究であること,③日本語では,一
つの音素が一つの書記素(かな)によって表されており,その逆
もそうであるので,日本語を研究に用いたことが,この順序で記
載されている点で共通し,第1論文では,書記素−音素変換の神
経基盤についても記載しているのに対し,第2論文では,そのよ
うな記載がない点で相違する。
そこで,両論文の表現を対比すると,第1論文では「grapheme-
to-phonemeandphoneme-to-graphemeconversions」あるいは「t
woconversions」と表現されている部分が,第1論文では「phone
me-to-graphemeconversion」と表現されてはいるものの,下線部
の箇所の語句が類似しているのみならず,各文章の構文及び論述
の順序も同一又は類似していることから,下線部の箇所を含めた
各文章全体の表現においても類似しているものと認められる。
そして,上記①ないし③の内容を表現するに当たっては,専門
用語など使用する単語に一定の制約があることは否めないが,各
内容の記述の順序,各文章の配列,言い回し等において多様な表
現が可能であり,表現の選択の幅が相当程度あるといえるから,
別紙対比表1の2ないし4の第1論文の表現は,創作性を有する
ものと認められる。
(c)別紙対比表1の5
両論文は,下線部の「Functionalmagneticresonanceimagin
g」,「activated」の語句が用いられている点で類似するが,訳
文記載のとおり各文章で表現している内容が異なる上,「Functio
nalmagneticresonanceimaging」は機能的磁気共鳴画像法を意
味する専門用語,「activated」は「賦活され」を意味する一般的
な表現であり,いずれも表現の創作性は認められない。
(d)別紙対比表1の6
両論文は,下線部の「suggestedthat」,「region」,「phone
me」,「grapheme」,「writingtodictation」などの語句が用
いられている点で類似するが,訳文記載のとおり各文章で表現し
ている内容が異なる上,「phoneme」は音素,「grapheme」は書記
素を意味する専門用語であり,また,「suggestedthat」は「示
唆した」,「region」は領域,「writingtodictation」は書き
取りを意味する一般的な表現であり,いずれも表現の創作性は認
められない。
(e)別紙対比表1の7
両論文では,下線分の「functionalMRI」ないし「Functional
magneticresonanceimaging(fMRI)」,「phoneme-to-graphem
e」,「writingtodictation」の語句がキーワードとして挙げら
れている点で類似するが,上記語句は,専門用語又は一般的な表
現であり,いずれも表現の創作性は認められない。
(f)まとめ
以上のとおり,第1論文の「Abstract」の章のうち,別紙対比
表1の2ないし4の表現は創作性を有するものと認められる。
bこれに対し被告は,①第1論文と第2論文は類似するテーマにつ
いての学術論文であり,実験方法や前提となる一般的知見について
は相互に共通する部分も多く,これらの共通する部分においては,
学術論文の場合正確な記述が求められることから,その論述の進め
方や表現もある程度定型的にならざるを得ないのであり,たとえ数
文程度のまとまりに共通している部分がみられるとしても,その部
分に創作性があるということはできない,②一般的に「Abstract」
は,研究の全体像がわかるように端的に表現する必要があり,必要
最小限の記述にとどめるとともに,論文に使用される頻度の高い定
型的な表現を多用して誤解のないように記述することが求められて
いることなどを理由に,別紙対比表1の「Abstract」の下線部の表
現には創作性はない旨主張する。
しかし,「Abstract」は,当該論文が何を議論し,どのような結
論が得られたかが分かるように論文の要旨を記載する項目であり(
乙9の3頁),取り上げる議論及び結論の具体的な記述内容の選
択,記述の順序には執筆者の自由度が高く,使用する語句,言い回
し等にも特に制約がないから,執筆者の思想又は感情を表現する表
現の幅が相当程度あるものと認められる。
また,第1論文及び第2論文のような英語を母国語としない者に
よる英文の学術論文においては,執筆者の英語力の程度によっても
具体的な表現が依存し得るものといえるから,この意味においても
表現の幅があるものと認められる。
そして,先に説示したとおり,別紙対比表1の2ないし4で記載
された①ないし③の内容(前記a(b))については,専門用語など
使用する単語に一定の制約があることを考慮してもなお,各内容の
記述の順序,各文章の配列,言い回し等において多様な表現が可能
であり,表現の選択の幅が相当程度あるものと認められるから,別
紙対比表1の2ないし4の第1論文の表現は,創作性を有するもの
と認められる。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(なお,第1論文と第2論文は,書き取りにおける音素−書記素変
換の神経基盤に関する研究である点において共通し,その実験手法
の一部が共通するものの,研究目的,実験の前提となる仮定,実験
の課題,実験により得られた結果及び論文の結論が異なるのである
から(前記ア(イ)),第2論文の「Abstract」において取り上げる
べき議論の内容及び表現が,別紙対比表1の2ないし4のように第
1論文と類似のものになる必然性はない。)。
(イ)「Introduction」の章について
a第1論文及び第2論文の「Introduction」には,別紙対比表1の
10,14,20ないし22の各項の下線部の箇所に類似表現が存
在するので,その創作性について検討する。
(a)別紙対比表1の10
両論文は,書き取りには,音素−書記素変換に基づく方法と特
定の文字系列の記憶(辞書的)に基づく方法との二つの方法があ
ることが記載されている点で内容が共通し,その表現において
も,下線分の「Indictation」,「oneisbasedonknowledgeo
fhowtoconvertspeechsoundtothecorrespondingletter,
namely,phoneme-to-graphemeconversion.」,「Theotheris
basedonmemoryofspecificletter-sequences(lexical).」と
の文及び語句が類似している。
しかし,上記類似部分の表現は,書き取りには上記二つの方法
があるという知見を簡潔に表したものにすぎず,類似する語句も
専門用語や一般的な表現であり,創作性は認められない。
(b)別紙対比表1の14
両論文は,音声学的失書の研究は,左島と縁上回前下部が音素
−書記素変換に影響することを示唆したこと,変換において,左
前頭葉皮質が重要であることも示唆されていたことが文献を引用
して記載されている点で内容が共通し,その表現においても,下
線部の「studies」,「phonologicalagraphiaindicatedthatt
heleftinsulaandanteriorinferiorsupramarginalgyrusma
y」,「phoneme-to-graphemeconversion.」,「theimportance
oftheleftfrontalcortexin」,「ofconversion」,「also
suggested」などの語句が類似している。
しかし,上記類似部分の表現は,先行研究で示された知見を簡
潔に表したものにすぎず,類似する語句も脳の部位(「leftinsu
la」,「anteriorinferiorsupramarginalgyrus」,「leftfro
ntalcortex」)を意味する専門用語や一般的な表現であり,創作
性は認められない。
(c)別紙対比表1の20
両論文は,英語では,たいていの音素は二つ以上の書記素によ
って表されていることから,音素−書記素変換が複雑であるこ
と,このことが音素−書記素変換の障害の原因である損傷を特定
困難にしているかもしれないことが記載されている点で内容が共
通し,その表現においても,下線部の「InEnglish」,「ofconv
ersioniscomplexbecausemostphonemesarerepresentedby
morethanonegrapheme」,「whichmay」,「difficulttospe
cify」,「responsibleforthe」,「phoneme-to-graphemeconv
ersion」の節及び語句が類似している。
しかし,上記類似部分の表現は,英語では,たいていの音素は
二つ以上の書記素によって表されているという知見から,音素−
書記素変換の障害の原因である損傷を特定困難にしているかもし
れないという仮説を記述する文章の一部分であって,類似する語
句は,「phonemes」,「grapheme」,「phoneme-to-graphemecon
version」の専門用語や一般的な表現であり,創作性は認められな
い。
(d)別紙対比表1の21
両論文は,日本語では,一つの音素は一つの書記素(かな)で
代表されており,その逆もまたそうであることが記載されている
点で内容が共通し,その表現においても,下線部の「one」,「ph
onemeisrepresentedbyone」,「grapheme(kana),andvicev
ersa」の語句が類似している。
しかし,上記類似部分の表現は,上記内容を記述する文章の一
部分であって,類似する語句は,「phoneme」,「grapheme」の専
門用語や一般的な表現であり,創作性は認められない。
(e)別紙対比表1の22
両論文は,下線部の「Theaimof」,「study」,「toclarif
y」,「fMRI」,「theneuralsubstrate」,「phoneme-to-graph
emeconversion」の語句が用いられている点で類似するが,訳文
記載のとおり各文章で表現している研究目的の内容が異なる上,
類似する語句は,専門用語や一般的な表現であり,いずれも創作
性は認められない。
b以上のとおり,別紙対比表1の10,14,20ないし22の下
線部の類似部分の表現に創作性は認められない。
(ウ)「MaterialsandMethods」の章について
a第1論文及び第2論文の「MaterialsandMethods」には,別紙対
比表1の24,25,27ないし29,32,34,36,41な
いし55,58ないし60,62ないし64,67,68の各項の
下線部の箇所に類似表現が存在するので,その創作性について検討
する。
両論文は,被験者の属性,書取課題及び固視(課題)の実施方
法,データ取得の方法,データ分析に用いられた機器や手法等の内
容が共通し,その表現においても,上記各項の下線部の文章,語
句,言い回し等が類似している。
しかし,上記共通の内容は,著作権法による保護の対象とならな
い事実又はアイデアに属するものと解されるから,上記各項の下線
部の箇所の類似表現は,原告が主張するように各項の下線部の箇所
について一様でない表現が可能であるとしても,著作物としての創
作性を有しないものと解すべきである。
b以上のとおり,別紙対比表1の24,25,27ないし29,3
2,34,36,41ないし55,58ないし60,62ないし6
4,67,68の下線部の表現に創作性は認められない。
(エ)「Discussion」の章について
a「Discussion」は,論文の研究によって得られた研究結果に基づ
いて結論に至ったプロセスを論証し,考察する項目であり,研究結
果の分析,先行研究と関連づけた研究の解釈,優位性,重要性等が
盛り込むべき内容となるが,論述の仕方には特に制約はないものと
解される。
第1論文及び第2論文の「Discussion」には,別紙対比表2の
a,cないしl,n,p,sの下線部の箇所に類似表現が存在する
ので,その創作性について検討する。
(a)別紙対比表2のa
両論文は,下線部の「Theresultsofthisstudyrevealedth
attheleft」,「premotor」,「activated」,「during」,「ph
oneme-to-graphemeconversion」の語句が用いられている点で類
似するが,訳文記載のとおり各文章で表現している具体的な賦活
部位(領域)の内容が異なる上,類似する語句は,「premoto
r」(運動前),「phoneme-to-graphemeconversion」の専門用語
や一般的な表現であり,いずれも表現の創作性は認められない。
(b)別紙対比表2のcないしl
両論文は,別紙対比表2のcないしlにおいて,①過去の損傷
研究例(c),②過去の損傷研究例からの音素−書記素変換が行
われる部位についての推定(d),③英語を用いた過去の損傷研
究の問題点と日本語の優位性(eないしg),④書字の先行研究
例(hないしl)について,この順序で記載し,その上で実験の
結果賦活された部位の役割についての仮説(n)を立てるという
論述構成をとっている点で共通し,また,取り上げている先行研
究も共通している。
そして,両論文の別紙対比表2のcないしlの表現を対比する
と,下線部の箇所の文章及び語句が類似しているのみならず,類
似する部分が全体に占める割合も多く,論述の順序も同一である
ことから,下線部の箇所を含めた各文章全体の表現においても類
似しているものと認められる。
そして,上記①ないし④の内容を表現するに当たっては,同一
の先行研究の知見を正確かつ簡潔に説明するにはその表現が類似
せざるを得ない面があること,専門用語など使用する単語に一定
の制約があることを考慮してもなお,各内容の記述の順序,各文
章の配列,言い回し等において多様な表現が可能であり,しか
も,「Discussion」の論述の仕方に特に制約はなく,表現の自由
度が高いことに照らすと,表現の選択の幅が相当程度あるものと
認められるから,別紙対比表2のcないしlの第1論文の表現
は,創作性を有するものと認められる。
(c)別紙対比表2のn
両論文は,下線部の「Wehypothesized」,「area」,「pla
y」,「specificrole」,「duringdictation」,「auditorywo
rd(phonemicinput)」,「convertedintovisualimage(graph
emicrepresentation)」,「visualimage」,「transferredto
motoroutput(graphemicoutput)inthefrontalarea」の語句
が用いられている点で類似するが,訳文記載のとおり各文章で表
現している仮説の内容が異なる上,類似する語句は,「phonemic
input」,「graphemicrepresentation」などの専門用語や一般的
な表現であり,いずれも創作性は認められない。
(d)別紙対比表2のp
両論文は,下線部の「Itisspeculatedthat」,「transferp
honemicrepresentation」,「tographemicmotoroutput」,「
letters」,「phoneme-to-graphemeconversion」の語句が用いら
れている点で類似するが,訳文記載のとおり各文章で表現してい
る推測された内容が異なる上,類似する語句は,「phonemicrepr
esentation」(音素表象),「graphemicmotoroutput」(書記
素の運動出力)の専門用語や一般的な表現であり,いずれも創作
性は認められない。
(e)別紙対比表2のs
両論文は,ゲシュウィンド(Geschwind)が,ウェルニッケ領が
視覚及び聴覚情報を単語の音声的(聴覚性)及び文字的(視覚
性)表象に変換するいう仮説を立てたことが記載されている点で
内容が共通し,その表現においても,下線部の「Geschwindhypot
hesizedthat」,「Wernicke'sarea」,「totransform(ed
)」,「visualandauditoryinformationintophonetic(audit
ory)andgraphic(visual)representationof」,「word(s)」
の語句が用いられている点で類似している。
しかし,上記類似部分の表現は,ゲシュウィンドが提唱した仮
説の結論部分を表したものにすぎず,類似する語句は,専門用語
や一般的な表現であり,創作性は認められない。
(f)まとめ
以上のとおり,第1論文の「Discussion」の章のうち,別紙対
比表2のcないしlの表現は創作性を有するものと認められる。
bこれに対し被告は,別紙対比表2のcないしlを一つのまとまり
として考えるとしても,文章には最適な思考の流れを促す順序が存
在し,その順序が読者の理解に資するという観点からみると,第1
論文の別紙対比表2のcないしlの下線部の表現には創作性はない
旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(a)第1論文では,音読課題と書取課題との共通賦活領域(左頭
頂間溝と左背側運動前野)の役割についての仮説(別紙対比表2
のn)を導くために,音声学的失書と音声学的失読が書字と読字
の両方に関与する神経単位の崩壊に基づいていると仮定し(
m),読字についても,先行研究の書字モデル(左頭頂が書記素
表象を提供し,左運動前が書記素の運動表象を産出するとのモデ
ル)を適用でき,左頭頂が音素表象を提供し,左運動前が音素の
運動表象を産出すると仮定し(m),日本語の表音文字を刺激と
して用いることの優位性を説明しつつ(eないしg),これらの
仮定の正当性を論証し(c,d,hないしl),別紙対比表2の
cないしlの各項目について,この順序で記載したもの認められ
る。
他方で,第2論文では,第1論文とは異なり,実験結果におい
て頭頂領域が賦活していないのであるから(前記ア(ア)d),上
記書字モデルを説明し(別紙対比表2のh),その正当性の根
拠(i,j)を論じる必要はないものと解される。
加えて,第1論文と第2論文は,書き取りにおける音素−書記
素変換の神経基盤に関する研究である点において共通し,その実
験手法の一部が共通するものの,研究目的,実験の前提となる仮
定,実験の課題が異なり,しかも,第2論文においては,音素−
書記素変換が行われる部位が左運動前(領域)であることが,実
験結果から直接導き出し得ること(前記ア(ア)d)に照らすなら
ば,第2論文では,別紙対比表2のcないしlの下線部の内容を
この順序で論じることが,被告が主張するような最適な思考の流
れを促すものということはできない。
(b)したがって,第1論文の別紙対比表2のcないしlの下線部
の表現には創作性はないとの主張は,採用することができない。
ウ依拠について
(ア)前記2認定のとおり,被告は,第1論文の初期原稿を作成し,そ
の後も原告の指示の下に修正を行うなどして,第1論文の文章を自ら
作成しているのであるから,被告が第2論文を作成する前に第1論文
に接していたことは明らかである。
そして,第2論文においては,別紙対比表1及び2の下線部のとお
り,同一ないし類似する記載が数多く存在している上,前記イ(ウ),(
エ)認定のとおり,「MaterialsandMethods」の章や「Discussion」
の章には,創作性があるとは認められない部分も含め,一文全体の記
載がほぼ同一の箇所や,論述の流れが同一の箇所があることは,被告
が第1論文に依拠して第2論文を作成したことを推認させる事実であ
る。
(イ)したがって,被告は,第1論文に依拠して第2論文を作成したも
のと認められる。
エ小括
以上によれば,被告は,第1論文に依拠し,第1論文の「Abstract」
の一部(別紙対比表1の2ないし4の各項)及び「Discussion」の一
部(別紙対比表2のcないしlの各項)について,その創作的表現を有
形的に再製して第2論文を作成したものであるから,被告による第2論
文の作成は,上記の限度において複製に当たるものと認められる。
そして,被告は,第1論文の共同著作者である原告の同意を得ずに,
第2論文を作成しているから,被告による第2論文の作成は,原告の第
1論文の一部についての複製権の侵害に当たる。
(2)翻案権侵害の有無
ア原告は,第2論文は,第1論文に依拠し,かつ,その表現上の本質的
な特徴の同一性を維持しつつ,「Results」及び「Conclusion」の章のみ
を書き替えたものであり,両論文の読者は,その余の部分についての酷
似を容易に感得できるから,第2論文は,第1論文を全体として翻案し
たものである旨主張する。
ところで,言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,
その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,
増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することに
より,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感
得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(
最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁
参照)。
これを本件についてみるに,前記(1)のとおり,第2論文において第1
論文の創作的表現が有形的に再製されている部分は,「Abstract」の一
部(別紙対比表1の2ないし4の各項)及び「Discussion」の一部(別
紙対比表2のcないしlの各項)であって,しかも,両論文の「Result
s」及び「Conclusion」の各章は,記載内容が異なり,その表現において
類似する箇所は存しないことに照らすならば,上記部分から第1論文全
体の表現上の本質的特徴な特徴を直接感得することができるものではな
いから,第2論文は,第1論文を全体として翻案したものと認めること
はできない。
イ以上によれば,被告による第2論文の作成が第1論文についての原告
の翻案権の侵害に当たるとの原告の主張は理由がない。
4同一性保持権及び公表権の侵害の有無(争点3)について
(1)同一性保持権侵害の有無
原告は,被告が,コレスポンディングオーサーである原告の同意を得ず
に,第1論文を改変して第2論文を作成し,ニューロレポート誌に発表し
た行為は,原告の保有する第1論文の同一性保持権の侵害に当たる旨主張
する。
そこで検討するに,第2論文において第1論文の「Abstract」の一部(
別紙対比表1の2ないし4の各項)及び「Discussion」の一部(別紙対比
表2のcないしlの各項)が複製されているところ(前記3(1)エ),被告
は,第2論文を作成するに際し,第1論文の共同著作者である原告の同意
を得ずに,上記複製部分に係る第1論文の表現を一部改変しているから,
被告による第2論文の作成・発表は,第1論文の一部についての原告の同
一性保持権の侵害に当たるものと認められる。
(2)公表権侵害の有無
原告は,被告が,コレスポンディングオーサーである原告の同意を得ず
に,第1論文を複製した第2論文をニューロレポート誌に発表した行為
は,原告の保有する第1論文の公表権の侵害に当たる旨主張する。
そこで検討するに,第2論文において第1論文の「Abstract」の一部(
別紙対比表1の2ないし4の各項)及び「Discussion」の一部(別紙対比
表2のcないしlの各項)が複製されているところ(前記3(1)エ),被告
は,第1論文の共同著作者である原告の同意を得ずに,第2論文をニュー
ロレポート誌に投稿して発表しているから,被告による第2論文の発表
は,第1論文の一部についての原告の公表権の侵害に当たるものと認めら
れる。
5第2論文の撤回通知請求の可否(争点4)について
(1)著作権法112条の規定による請求
原告は,学術論文が雑誌に掲載・発表されると,半永久的に記録が保存
され,当該論文と同一の文章が多く含まれる後行の論文は発表自体が認め
られないため,被告がニューロレポート誌に第2論文を発表したことによ
り,原告において第2論文と実質的に同一の文章を大量に含む第1論文を
発表することができないという具体的な不利益を被っており,第1論文に
ついての原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権,公表
権)が侵害されている状況が継続しているから,著作権法117条,11
2条1項,2項に基づき,上記侵害停止のための措置として,被告に対
し,ニューロレポート誌を発行するLLW社に第2論文の撤回の通知をするよ
う求めることができる旨主張する。
しかし,被告が第2論文を作成し,これをニューロレポート誌に投稿
し,同誌に掲載された時点で,被告による第1論文の複製,改変及び公衆
への提供又は提示による原告の複製権,同一性保持権及び公表権の侵害行
為は終了したものと解されるから,被告において停止すべき侵害行為を行
っているものと認めることはできない。また,前記1(3)イ(イ)認定のとお
り,被告,B,C,D及びAは,LWW社に対し,第2論文の著作権を譲渡す
る旨の書面を提出していることによれば,第2論文の著作権はLWW社に帰属
しているものと認められる。そうすると,仮に被告がLWW社に第2論文の撤
回通知をしたとしても,第2論文の掲載を取り止めるかどうかはLWW社の判
断に委ねられているものと解されるから,この点からみても,被告が上記
侵害行為を行っているものと認めることはできない。
したがって,原告主張の第2論文の撤回通知請求は,著作権法112条
1項所定の「侵害の停止」の請求及び同条2項所定の「侵害の停止又は予
防に必要な措置」の請求のいずれにも当たらないから,原告の上記主張は
理由がない。
(2)著作権法115条の規定による請求
原告は,東京大学の元教授であり,現在でも学会において主要な地位に
あり,高い名誉と声望を有すること,学術論文においては,先行性が重要
視され,後から第1論文を発表してもその重要性は低く見られがちである
ところ,被告による原告の第1論文についての著作者人格権(同一性保持
権,公表権)の侵害により,第1論文の価値が大きく低下したこと,被告
は,東京大学などの関係者に対して,本件訴訟がアカデミック・ハラスメ
ントであるとか盗作の事実はないなどと虚偽の事実を言いふらしているこ
とからすれば,被告による第2論文の撤回通知は,原告の名誉・声望を回
復するために必要不可欠であるから,著作権法115条に基づき,原告の
名誉又は声望の回復のための措置として,被告に対し,ニューロレポート
誌を発行するLLW社に第2論文の撤回の通知をするよう求めることができる
旨主張する。
ところで,著作権法115条にいう「著作者の名誉若しくは声望」は,
著作者がその品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受
ける客観的な評価,すなわち社会的名誉又は声望を指すものであって,人
が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価,すなわち名誉感情
を含まないものであるものと解される(最高裁昭和45年12月18日第
二小法廷判決・民集24巻13号2151頁,最高裁昭和61年5月30
日第二小法廷判決・民集40巻4号725頁参照)。
これを本件についてみるに,①第2論文における第1論文の公表権,同
一性保持権を侵害している箇所は「Abstract」と「Discussion」の章の一
部であること(前記2ないし4),②第2論文は,実験で用いた装置,実
験方法,実験の課題の一部(書取課題)において第1論文と同じ内容の部
分があるものの,研究の目的,書き取り以外の実験の課題,実験の前提と
なる仮定,実験の結果,研究により得られた結論等において第1論文と内
容自体異なっていること(前記3(1)ア)からすれば,第2論文が発表され
たことによって第1論文の研究の先行性が失われたとまではいえないと解
されるから,被告が第2論文を作成し,これがニューロレポート誌に掲載
されたことによって,原告が社会から受ける客観的な評価の低下を来た
し,その社会的名誉又は声望が毀損されたものとまで認めることはできな
い。
また,原告主張の被告による関係者に対する行為は,その主張自体から
みて著作者人格権の侵害行為とは別の行為であり,原告の著作者人格権の
侵害行為により原告の社会的名誉又は声望が毀損されたことを基礎付け
る事実には当たらない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
6原告の損害額(争点5)について
(1)著作者人格権侵害による慰謝料
第1論文及び第2論文の内容及び性格,被告による著作者人格権の侵害
態様,その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると,被告が公表権及
び同一性保持権を侵害したことにより原告が被った精神的苦痛に対する対
する慰謝料としては,30万円と認めるのが相当である
(2)弁護士費用
本件における原告の請求の内容,事案の性質,訴訟に至った経緯,難易
度,審理経過その他本件に表れた全事情を考慮するなら,被告による複製
権,公表権及び同一性保持権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用
は,10万円と認めるのが相当である。
(3)小括
そうすると,被告が賠償すべき原告の損害額は,合計40万円となる。
7権利の濫用の成否(争点6)について
(1)被告は,①第1論文及び第2論文は,いずれも被告が大部分の表現を創
作したものであって,原告は,両論文の類似部分について創作的な関与を
していないのであるから,第1論文についての原告の著作権を保護すべき
必要性は乏しいこと,②原告は,第1論文にコレスポンディングオーサー
として名を連ねたことに基づき,明確な理由なく,第1論文の発表に関す
る被告の要求を斥け,第1論文の投稿を一切許さず,長期間放置し,第1
論文の著作者としての被告の権利行使を正当な理由なく妨げていたこと,
③被告が東京大学医科学研究所において独自の研究を進めていたにもかか
わらず,その研究内容に対し不当な干渉を加えてきており,本件訴訟は,
その延長線上にあること,④原告は,第2論文の具体的内容ではなく,自
己が開拓してきた分野に他のグループが参加することに対して不快感を強
く持ち,自己の関与しない第2論文が公表・掲載されていることが意に沿
わないことなど本件をめぐる客観的状況や原告の主観的な意図を考慮すれ
ば,原告の第1論文の著作権及び著作者人格権の行使としての本件請求
は,権利の濫用に当たり,許されない旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
アまず,前記2(2)認定のとおり,原告は,第1論文は,被告が作成した
原稿について,原稿への書き込み及び口頭により,英語表現の訂正,付
加や,記載の順序,内容等について指示をし,その指示を受けた被告が
原稿の修文をしたり,新たに作成した文章を書き入れて,完成するに至
ったものであって,第1論文は,原告と被告が共同で創作したものであ
るから,原告は,第1論文及び第2論文の類似部分について創作的な関
与をしていないということも,第1論文についての原告の著作権を保護
すべき必要性は乏しいということもできない。
イ次に,前記前提事実のとおり,①原告は,平成15年6月2日に,被
告から,第1論文の投稿を依頼するメールを受信した後,同年11月1
7日,第1論文について,「PtoGは何かを加えないととおらないと思
われるので,考えて見てください。私も考えてみます。」と記載したメ
ールを送信したこと,②被告は,同年12月6日,原告に対し,第1論
文についてHBM誌に投稿してみたい旨のメールを送信したのに対し,
原告は,平成16年1月3日,第1論文について,「p2g論文は大き
な問題があり,それを解決するようにもう一度努力した方がよいでしょ
う。2月になったら私が手をつけてみます。精神の鍛錬と思ってベスト
を尽くしてみてください。」とのメールを被告に送信したこと,③原告
は,平成17年1月6日,第1論文について,「PtoGの論文・・・も
何とか急がねばと考えています。この論文は,結果以外は私が書いたの
で,君の論文への貢献を増すため,‘なぜcommonneuralcorrelatesを
調べたのか’について書いたらどうかと示唆しました。その後,良い説
明は思いつきませんか?何もないようなら私が手を入れて最終版を作り
ますがどうでしょうか。」などと記載したメール(甲7の1)を被告に
送信したこと,④原告は,甲16の原稿の「Introduction」の末尾に「
・両方の共通のをなぜやるか①Andersonがもんだいしてるし,②Gesch
windがone-to-oneGtoPPtoGでなくて,readalとdictationについ
てだけど・onetooneconversionを研究すると何がわかるかlocali
zationがはっきりしないか」との書き込みをしていることに照らすなら
ば,原告は,音読における「書記素−音素変換」及び書き取りにおけ
る「音素−書記素変換」によって生ずる脳の共通の賦活部位を明らかに
することの意義など第1論文の内容に不十分な点があると考えたため,
第1論文の投稿に同意しなかったものとうかがわれる。したがって,原
告が明確な理由なく,第1論文の発表に関する被告の要求を斥けたとい
うこともできないし,第1論文の著作者としての被告の権利行使を正当
な理由なく妨げたということもできない。
ウ被告は,原告が被告が東京大学医科学研究所において独自の研究を進
めていたにもかかわらず,その研究内容に対し不当な干渉を加えてきて
おり,本件訴訟は,その延長線上にある,原告は,第2論文の具体的内
容ではなく,自己が開拓してきた分野に他のグループが参加することに
対して不快感を強く持ち,自己の関与しない第2論文が公表・掲載され
ていることが意に沿わないなどと主張するが,いずれもその主張自体,
被告主張の原告の第1論文の著作権及び著作者人格権の行使としての本
件請求が権利の濫用に当たることを基礎付ける事情に当たらない。
(2)以上のとおり,被告主張の原告の第1論文の著作権及び著作者人格権の
行使としての本件請求が権利の濫用に当たることを基礎付ける事情はいず
れも採用することはできない。他にも被告は縷々主張するが,いずれも本
件請求が権利の濫用に当たることを基礎付けるものではない。
したがって,被告の主張は,理由がない。
8結論
以上によれば,原告の請求は,被告に対し,40万円及びこれに対する不
法行為の後である平成16年6月1日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容する
こととし,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文の
とおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官関根澄子
(別紙)著作目録
Article:“Neuralcorrelatesofphoneme-to-graphemeconversion”
Journal:Vol.15,pp.949-953(Vol15No629April2004)NeuroReport
(訳文)
論文名:音素から書記素への変換に関する神経的相関
雑誌名:ニューロレポート第15巻949∼953頁(15巻6号200
4年4月29日)
(別紙)通知目録
Y1
〈略〉,Shizuoka-shi,Shizuoka-ken,〈略〉JAPAN
LippincottWilliams&Wilkins
PhiladelphiaOffice
LippincottWilliams&Wilkins
〈以下略〉
Tel:〈以下略〉
Fax:〈以下略〉
________,200●
STATEMENT
DearSirs,
Inwritingthearticlethetitleofwhichisindicatedhereunder,Iacknowledgeh
avingplagiarizedanarticlewrittenbyDr.X1,therebyinfringingDr.X1’scop
yrightandpersonalauthorshiprights.
Ithereforewishtoretractthesaidarticle.
Article:“Neuralcorrelatesofphoneme-to-graphemeconversion”
Journal:Vol.15,pp.949-953(29April2004)NeuroReport
Yoursfaithfully,
Y1
(訳文)
私は,下記の論文の作成にあたり,X博士の論文を無断で盗用し,同人の著作権及び著作
者人格権を侵害しました。
つきましては,下記の論文を撤回いたします。
論文:音素から書記素への変換に関する神経的相関
雑誌:ニューロレポート15巻949-953頁(2004年4月29日)

(別紙)通知先目録
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〈以下略〉
Tel:〈以下略〉
Fax:〈以下略〉

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