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平成14年(ワ)第3976号 特許権移転登録手続請求事件
口頭弁論終結の日 平成15年1月31日
 判          決
      原       告   大和工業株式会社
      同訴訟代理人弁護士   宮   岡   孝   之
      同           外   山   奈 央 子
      被       告   A
      同訴訟代理人弁護士景   山   米   夫
 主          文
1 被告は原告に対し,別紙目録1ないし3記載の特許権について,真正な登録
名義の回復を原因とする移転登録手続をせよ。
 2 原告が,別紙目録6ないし28記載の発明について,特許を受ける権利を有
することを確認する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
 事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要 
本件は,原告が,被告の得ている特許権の登録名義等は原告の無権代表者から
譲り受けたものであると主張して,被告に対して,特許権に基づき真正な登録名義
の回復を原因とする移転登録手続を求め,特許を受ける権利に基づき原告が同権利
を有することの確認を求めた事案である。
1 当事者間に争いのない事実
(1) 当事者について
ア原告は,パチンコ遊技機の製造,開発を目的とする株式会社である。
イ Bは,平成9年5月8日に行われた商号変更前から原告の代表取締役で
あった。
ウ Bは,平成11年3月31日,原告の取締役会において,代表取締役を
解任され,同年4月1日,取締役辞任を申し出たため,同日,Bの代表取締役解任
登記がなされ,同年8月30日,取締役退任登記がなされた。
エ Bの息子である被告は,かつて原告の取締役であったことがあり,平成
12年3月8日当時,パチンコ遊技機部品メーカーである株式会社バイザックの代
表取締役であるとともに,後にBが代表取締役に就任したパチンコ遊技機の開発,
製造,販売を目的とする株式会社アイエムジーの取締役でもあった。
  (2) 特許権等の取得について
    原告は,別紙目録記載の発明について,同目録記載のとおり,登録出願を
行い,うち1ないし3については,同目録記載のとおり登録された。
(3) Cへの名義人変更について
 ア Bは,平成11年4月8日,原告の代表者として,別紙目録記載1ない
し3の特許権をCに譲渡し,登録名義が同人に変更された。
イ Bは,同月6日ころ,原告の代表者として,別紙目録記載6ないし28
記載の特許を受ける権利(以下,同目録記載1ないし3の権利と併せて「本件各権
利」という。)をCに譲渡し,その名義人を同人に変更した。
(4) Cから原告への名義変更について
ア Cは,平成12年3月8日,被告に対し,別紙目録記載1ないし3の特
許権を譲渡し,登録名義が同人に変更された。
イ Cは,同日,被告に対し,別紙目録記載6ないし28の特許権を受ける
権利を譲渡し,その名義人を同人に変更した。
2 争点及び当事者の主張の要旨
原告は,Bの代表権喪失を被告に主張できるか。
(被告)
  (1) C及び被告は,本件各権利を譲り受けた際,いずれも,Bが原告の代表権
を喪失していたことを知らなかった。したがって,C若しくは被告は,民法112
条,109条の第三者に当たり(適用ないし類推適用),原告は,Bの代表権喪失
を主張できない。
(2)Cは,平成11年4月6日ころないし同月8日,本件各権利の譲渡を受け
たものであるところ,この時点は,Bの代表取締役解任登記がなされて間がないか
ら,登記簿を確認することが困難であって,商法12条の「正当ノ事由」に当た
る。よって,原告は,Bの代表権喪失を主張できない。
(原告)
被告の主張は,いずれも否認ないし争う。
(1)株式会社が代表取締役の退任及び代表権の喪失について登記をしたとき
は,その後,その者が会社の代表者として第三者とした取引について,民法112
条等の適用はなく,専ら商法12条が適用されるというのが,確立した判例法理で
ある。
 そもそも,Cは,Bから本件各権利を譲り受けた当時,Bが原告の代表取
締役を解任された事実を認識していた。
  (2) 商法12条の「正当ノ事由」は,登記を知ろうとしても知り得ない客観的
障害のみをいうところ,原告主張の事情は,これに当たらない。したがって,被告
の主張は失当である。
第3 判断
1 商法は,商人に関する取引上重要な一定の事項を登記事項と定めた上,12
条において,商人は,上記事項については登記をしない限りこれを善意の第三者に
対抗することができないとするとともに,登記をしたときは善意の第三者にもこれ
を対抗することができ,第三者は同条所定の「正当ノ事由」のない限りこれを否定
できない旨定めている。これは,一般に,商人の取引活動が大量的反復的であり,
利害関係を有する者も不特定多数の者に及ぶことから,登記事項を定め,民法とは
別に登記に上記のような特別の効力を付与したものと解される。そうすると,株式
会社の代表取締役の解任がなされ,その旨の登記がなされた後は,専ら商法12条
のみが適用され,「正当ノ事由」がない限り,その代表権喪失を善意の第三者にも
対抗することができるのであって,民法112条及び109条を適用若しくは類推
適用する余地はないというべきである(最高裁判所第二小法廷昭和49年3月22
日判決・民集28巻2号368頁参照)。
   そして,上記のような商業登記の制度趣旨によれば,「正当ノ事由」とは,
交通,通信の途絶,登記簿の滅失・汚損のような登記簿を知ろうとしても知ること
ができない客観的障害事由ないしこれに準ずる事由をいうものと解するのが相当で
ある。
   この点につき,被告は,Cが本件各権利を譲り受けた当時,Bの代表取締役
解任登記から間がないことを理由に「正当ノ事由」が存在する旨主張するところ,
前記当事者間に争いのない事実によれば,上記解任登記から上記取引まで5ないし
7日間の期間であって,その間に登記を調査確認することは十分に可能であり,ま
た,上記取引の対象とされた本件各権利は,パチンコ遊戯機器の製造,開発を目的
とする原告にとって極めて重要な資産であると考えられる上,原告を代表するBと
Cとの間で,同種の取引が継続的に行われてきたものでもないから,「正当ノ事
由」の存在を認めることはできない。
   また,被告については,善意であった旨主張するにとどまるが,特許登録原
簿の登録に公信力を認めることはできないから,仮にCが本件各権利の権利者であ
ると信じたとしても,上記のとおり,Cが正当な権利者たり得ない以上,被告も同
様といわざるを得ない。
   したがって,被告の主張はいずれも採用できない。
2 よって,原告の請求は,いずれも理由があるから認容することとし,訴訟費
用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官    加   藤   幸   雄
裁判官舟   橋   恭   子
裁判官富   岡   貴   美
(別紙)
目          録
1 特許権
登録番号  第1732707号
名  称  電動式パチンコ機における打球発射装置
出願日  昭和61年12月27日
公告日  平成4年3月18日
登録日  平成5年2月17日
2特許権
登録番号  第1866521号
名  称  パチンコ機の景品球排出装置
出願日  昭和62年8月6日
公告日  平成5年11月10日
登録日  平成6年8月26日
3 特許権
登録番号  第2864105号
名  称  パチンコ機の打球発射装置
出願日  平成7年5月10日
公告日  平成8年11月19日
登録日  平成10年12月18日
6 特許を受ける権利
  公開番号  特開平06-246054
名  称  パチンコ球の払出装置
出願日  平成5年2月25日
公開日  平成6年9月6日
7 特許を受ける権利
  公開番号  特開平07-144055
名  称  パチンコ球の払出装置
出願日  平成5年11月22日
公開日  平成7年6月6日
8 特許を受ける権利
  公開番号  特開平09-173559
名  称  パチンコ機の表示装置
出願日  平成7年12月21日
公開日  平成9年7月8日
9 特許を受ける権利
  公開番号  特開平09-225107
名  称  パチンコ機の前面枠
出願日  平成8年2月26日
公開日  平成9年9月2日
10 特許を受ける権利
  公開番号  特開平09-234277
名  称  パチンコ球の払出装置
出願日  平成8年2月29日
公開日  平成9年9月9日
11 特許を受ける権利
  公開番号  特開平10-244039
名  称  パチンコ遊技機
出願日  平成9年3月5日
公開日  平成10年9月14日
12 特許を受ける権利
  公開番号  特開平10-277210
名  称  パチンコ機における発射球検出装置
出願日  平成9年4月10日
公開日  平成10年10月20日
13 特許を受ける権利
  公開番号  特開平09-51981
名  称  画像表示装置を備えたパチンコ機
出願日  平成7年8月11日
公開日  平成9年2月25日
14 特許を受ける権利
  公開番号  特開平09-70479
名  称  情報表示装置を備えたパチンコ機
出願日  平成7年9月6日
公開日  平成9年3月18日
15 特許を受ける権利
  公開番号  特開平09-192304
名  称  パチンコ機の電動風車及びその電動風車を用いた可変表示装置
  出願日  平成8年1月22日
公開日  平成9年7月29日
16 特許を受ける権利
  公開番号  特開平09-24138
名  称  画像表示装置を備えたパチンコ機
出願日  平成7年7月11日
公開日  平成9年1月28日
17 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-042333
名  称  パチンコ遊技機の発射レール
出願日  平成9年7月24日
公開日  平成11年2月16日
18 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-104295
名  称  封入球式パチンコ遊技機
出願日  平成9年9月30日
公開日  平成11年4月20日
19 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-137784
名  称  パチンコ機
出願日  平成9年11月7日
公開日  平成11年5月25日
20 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-197299
名  称  パチンコ遊技機における音声再生装置
出願日  平成10年1月14日
公開日  平成11年7月27日
21 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-206987
名  称  パチンコ遊技機
出願日  平成10年1月21日
公開日  平成11年8月3日
22 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-216245
名  称  パチンコ遊技機の基板ケース構造
出願日  平成10年1月30日
公開日  平成11年8月10日
23 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-221322
名  称  パチンコ遊技機
出願日  平成10年2月6日
公開日  平成11年8月17日
24 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-253642
名  称  パチンコ遊技機の不正防止装置
出願日  平成10年3月11日
公開日  平成11年9月21日
25 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-267346
名  称  カード式パチンコ遊技機
出願日  平成10年3月20日
公開日  平成11年10月5日
26 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-276672
名  称  パチンコ遊技機の入賞装置
出願日  平成10年3月30日
公開日  平成11年10月12日
27 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-299990
名  称  パチンコ遊技機の入賞装置
出願日  平成10年4月17日
公開日  平成11年11月2日
28 特許を受ける権利
  公開番号  特開平11-325019
名  称  合成樹脂製ねじ
出願日  平成10年5月19日
公開日  平成11年11月26日

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