弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の概要,争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者双方の主張は,
次のとおり控訴人の当審における補充的主張を付加するほか,原判決の「事実及び
理由」第2に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決4頁2行
目の「静岡市水道局排水設備設置義務免除取扱要項」を「静岡市水道局排水設備設
置義務免除取扱要綱」と改める。
2 控訴人の当審における補充的主張
 事業計画策定段階において公共下水道に取り込まれた工場排水の直接放流が,一
企業の都合により自由に認められることになれば,既に計画に基づき整備された適
正な規模の施設が過大なものに転じる結果,公営企業としての位置付け上,他の利
用者に過大な使用料の負担を強いることになるとともに,公共下水道事業の円滑な
実施ひいては公共用水域の水質の保全の目的が達成されなくなるおそれがある。法
10条1項の公共下水道の利用強制は,このような事態を回避する役割も果たすも
のであり,同項ただし書の許可の可否は,放流される下水の水質だけで判断される
ものではない。すなわち,本件基準事項には,「下水道整備事業の支障となるおそ
れがないこと」という審査基準が内包されているのであって,公共下水道の供用開
始の前後で処理済工場排水の取扱いに差異が生ずるのは当然である。
第3 判断
1 当裁判所も,控訴人が設けた「放流下水は,排水処理施設等を経由しない,未
処理の状態であること」とする本件基準事項は,控訴人の合理的裁量を逸脱した違
法なものと認められるので,本件基準事項に該当しないことを理由にされた本件処
分(本件許可申請を不許可とした処分)は,違法として取り消されるべきものと判
断する。その理由は,次のとおり付加し訂正するほか,原判決の理由説示(「事実
及び理由」第3の1ないし3)と同一であるから,これを引用する。
(1) 原判決12頁19行目末尾に改行して,次のとおり加える。
「そして,証拠(乙8,22)によれば,①控訴人が平成8年12月9日から平成
9年1月31日までの間に行政人口40万人以上の全国39都市を対象に調査した
結果によれば,公共用水域への放流を認めたものが2都市あり,認めなかったもの
が3都市あったこと,②控訴人が原判決後に全国46都市を対象に調査した結果に
よれば,処理済水を一切許可の対象としない都市は14,積極的には許可の対象と
しない都市は8,許可の対象とする都市は12であったところ,処理済水を一切許
可の対象としない理由としては,将来にわたり水質を確保することが困難であると
するものが多く,他方,処理済水を許可の対象とする理由としては,水質汚濁防止
法の規制や水質基準の違反があった場合には許可を取り消す旨の条件を付すること
で問題はないとするものが多かったことが認められる。
 この点につき原審証人Aは,法1条が定める公共用水域の水質保全のためには,
すべての下水を公共下水道に取り込んで一元的に処理することが最善の方法であ
り,企業に排水処理を任せると悪質下水が公共用水域に流出する可能性があるか
ら,処理済水を一切許可の対象としないことに合理性がある旨証言する。しかしな
がら,被控訴人は,水質汚濁防止法2条2項の「特定施設」を保有していることか
ら,同法に基づく規制を受ける上,水質に関する技術的な基準を設けることによっ
て,また,水質基準の違反があった場合には許可を取り消す旨の条件を付すること
によって,悪質下水の流出に対処することができないわけではないと考えられるか
ら,悪質下水が流出する可能性があるからといって,およそ一切の処理済水を排水
設備設置義務免除の対象から除外する本件基準事項に合理性があるということはで
きない。」
(2) 原判決14頁16行目から17行目の「4万50000立方メートル」を
「4万5000立方メートル」と改め,同25行目末尾に改行して,次のとおり加
える。
「以上のとおり,流総計画及び静岡県の上記要綱等において,工場等の排水であっ
ても,それが工場等の排水処理施設を経たものは,水質的にみて支障がなく,合理
的と考えられる場合には,公共用水域に直接放流することが認められているのであ
るから,およそ一切の処理済排水を排水設備設置義務免除の対象から除外する本件
基準事項は,法10条1項ただし書にいう「特別の事情」を不当に狭く解釈するも
のであって,本件許可申請につき審査を拒否するに等しいものというべきである。
 この点につき控訴人は,本件基準事項には「下水道整備事業の支障となるおそれ
がないこと」という審査基準が内包されており,処理済工場排水の取扱いには公共
下水道の供用開始の前後で差異がある旨主張する。しかしながら,前記説示のとお
り,本件審査基準はいずれも公共用水域の水質保全という目的と直接あるいは密接
に関連し,かつ,その定めは具体的であって,本件基準事項にのみ,控訴人が主張
するような抽象的な審査基準が内包されているものということはできない。すなわ
ち,本件基準事項は,水質保全の見地から,工場等の排水を公共用水域に直接放流
することを認めないことにしたものというべきところ,上記説示のとおり,工場等
の排水であっても,一定の処理を経たものは直接放流を認めても水質的に問題がな
い場合があるから,およそ一律に工場等の排水の直接放流を認めないものとした本
件基準事項には合理性がないというべきである。
 また,控訴人は,事業計画策定段階において公共下水道に取り込まれた工場排水
について直接放流を認めるとすれば,既に計画に基づき整備された適正な規模の施
設が過大なものに転じ,他の利用者に過大な使用料の負担を強いることになる旨主
張し,前記認定のとおり,被控訴人が静岡市の公共下水道の最大口利用者であるこ
とを考えれば,そのような懸念も理解できないものではない(もっとも,被控訴人
の工場排水につき直接放流を認めた場合,他の利用者に過大な使用料の負担を強い
ることになるとの主張については,それ以上に具体的な主張・立証はない。)。し
かしながら,上記説示に照らせば,そのような考慮のみに基づいて本件処分がされ
たとすれば,本件処分は,本件審査基準ないし本件基準事項に定められた事項以外
の行政上の便宜ないし政策的な判断に基づいてされたものというほかなく,前記説
示のとおり,公共下水道の供用開始の前後によって工場排水の直接放流の可否の判
断基準を異にすることには,合理的理由を見出すことができない。これを実質的に
考えても,事業計画策定段階において公共下水道に取り込まれた工場排水につき,
その後,法10条1項ただし書に基づき直接放流が認められた結果,その時点で,
上記計画に基づいて整備された施設の規模が過大なものとなり,稼働率の低下を来
すことになるとしても,長期的な観点からは,工場等が自己の費用負担により排水
処理施設を備えることが望ましいとする見方もあり得るのであり,また,計画策定
時に予想された工場排水の量も,その後の工場の廃止あるいは新設等によって変動
を来すことは十分にあり得るから,計画策定段階において公共下水道に取り込まれ
た工場排水について直接放流を認めないとするのであれば,公共下水道の利用を不
当に強制するものといわなければならないであろう。」
2 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので棄却することとし,
主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第10民事部
裁判長裁判官 大内俊身
裁判官 佐藤武彦
裁判官 小川浩

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