弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 本件抗告を棄却する。
 抗告費用は抗告人の負担とする。
       理   由
一 抗告人は「原決定を取り消す。相手方の本件執行停止の申立を却下する。申立
費用は第一、二審とも相手方の負担とする。」との裁判を求めた。その抗告理由
は、別紙「抗告の理由」および「意見の理由」(原決定に添付されている意見書中
の「意見の理由」と同一内容であるから、これを引用する)記載のとおりである。
二 よつて検討するのに、まず一件記録殊に疏甲第一号証の二、三、同第二号証の
一、同第三号証、同第五号証、疏乙第四号証、同第一一号証、同第一三、第一四号
証、同第一八ないし第二一号証によると、次の事実が疏明される。すなわち、
1 相手方は、昭和一三年四月二〇日韓国慶尚北道聞慶郡<以下略>において父
A、母Bの長男として出生し、高等学校卒業後の昭和三一年六月一日、勉学の目的
をもつて、正式な入国の手続を経ずに本邦に入国し、近畿予備校等を経て昭和三四
年四月早稲田大学第一政経学部政治学科に入学し、昭和三八年三月同大学を卒業し
たが、さらに同年四月同大学の大学院政治学研究科(政治学専攻)に進み、比較憲
法(政治制度論)の研究、殊に「韓国におけるナシヨナリズムの研究」をテーマと
する研究を続けて、昭和四四年三月一五日同大学院修士課程を終了し、同日政治学
修士の学位を授与された。同人の父Aは札幌市に居住し、パチンコ店の経営等を目
的とする株式会社オメガの代表取締役などをしているので、相手方はその後右A方
に居住し、右オメガの営業に従事するかたわら、大学院在学当時からの前記研究を
継続し、昭和四四年九月には敬文堂出版部から「韓国の憲法ーその成立と展開」と
題する著書を出版し、さらに「北朝鮮の憲法」と題する著書を出版すべく準備中で
ある。しかして相手方は昭和三九年韓国に帰国した際、Cと結婚し(翌四〇年三月
届出)、翌四〇年七月に長男Dをもうけたが、その後昭和四二年一〇月には次男E
をもうけ、右妻子らは現在相手方の母Bと同居して京城市で暮らしている。
2 さて相手方は、本邦に入国したのちの昭和三六年四月四日に法務大臣から期間
を一年とする特別在留許可をえたが、その後昭和四四年一二月二日までの間に、前
後一四回にわたり期間を一年ないし六〇日とする在留期間の更新をえ、その最終の
在留期限は昭和四五年一月八日と定められていた。そこでその期限到来前の昭和四
四年一二月二六日、「父Aが事業経営のため韓国に帰国しているので、しばらくの
間本邦にとどまらないと、父の本邦における事業の継続が不可能になる。」等の理
由を付して在留期間更新の申請をしたところ、法務大臣は翌四五年一月七日にその
不許可処分をし、札幌入国管理事務所入国審査官は同年三月一九日相手方を出入国
管理令第二四条第四号ロ(不法残留)に該当すると認定した。相手方は直ちに同事
務所特別審理官に口頭審査を請求したが、同審理官より同月二〇日右審査官の認定
に誤りがない旨判定されその旨通知を受けたので、さらに法務大臣に異議の申立を
したところ、法務大臣は同年五月二五日右異議申立を棄却する旨の裁決をした。そ
こで抗告人は右同日相手方に対し退去強制令書を発付し、直ちにその執行に着手し
たが、相手方の請求により間もなく仮放免し、その後一カ月ごとに仮放免期間の延
長を許してきたが、同年八月二六日以降これを拒否した。
3 相手方は、右法務大臣のした異議棄却の裁決と、右抗告人のした退去強制令書
発付の処分とを不服とし、同年八月二四日法務大臣と抗告人とを相手どつて右各処
分の取消を求める訴訟(札幌地方裁判所昭和四五年(行ウ)第一五号事件)を提起
した。
以上の事実が認められる。
三 そこで、右の事実関係のもとにおいて、相手方が右退去強制令書にもとづく執
行の停止を求める理由があるか否かを、抗告人の抗告理由の順序に従つて判断す
る。
1 まず抗告人は、本件は本案について理由がないとみえるときに該当すると主張
する(抗告の理由二、意見の理由第二)。
 しかし当裁判所は、抗告人の右主張は採用できないと判断する。その理由は、抗
告人の当審における主張、疏明を考慮に入れても原決定の判断を左右するに足りな
いと付加するほか、原決定の二枚目裏五行目から三枚目裏四行目までと同一である
から、これを引用する。
2 次に抗告人は、回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるときに該当し
ないと主張する(抗告の理由三、意見の理由第三)。
 しかし当裁判所は、抗告人の右主張も採用できないと判断する。その理由は次の
とおり付加するほか、原決定の三枚目裏五行目から四枚目表三行目までと同一であ
るから、これを引用する。
 抗告人は、送還部分の執行を停止すれば相手方はその蒙るべき損害を回避しうる
として、第二次的に収容部分の執行停止の申立の却下を主張する。しかし、元来退
去強制令書の執行による身がらの収容は、窮極の目的である送還部分の執行を保全
するため身がらを確保しようという付随的、補助的措置にすぎないうえ、被収容者
の自由を直接的に制限して同人に精神的、肉体的苦痛を与える性質のものであるか
ら、送還部分の執行を停止すべしとする判断に立つ以上は、逃亡のおそれがあるな
ど特に身がらの収容のみでも行なうべき特段の必要もないのに、なおかつ収容すべ
しとすることは、社会通念上許し難いと思料する。本件の場合、相手方は既に認定
したとおり、昭和三一年六月本邦に入国して以来今日まで一五年近い年月、犯罪
(不法入国の点は除く)その他本邦の社会秩序をみだす如き格段の非行をおかした
形跡は全くなく、かえつて大学院に進み修士号をえ著書まで出版したいわば学究の
徒であるし、同人が身を寄せている父Aは、一応の経済力と社会的地位を有してい
て、身元が確実なのであるから、逃亡のおそれがあるとはとうてい言いえない(な
お、相手方が再三の在留許可更新申請に際し、いついつまでに帰国すると誓約しな
がら、ついにこれを履行しなかつたことは、一見信義にもとるかの如くであるが、
在留許可更新をえようとするあまりのやむない手段だつたと解することも十分可能
なのであつて、右誓約違反をとらえ相手方の性行をうんぬんすることは酷にすぎる
と思料する)。しかも相手方は、前認定のとおり父Aの経営する会社の営業に従事
するかたわらであるとはいえ、依然学問の研究に情熱を持ち二度目の著作の準備中
であるし、また、本件退去強制令書の発付処分の取消等を求める本案訴訟を提起し
ているから、たとえ弁護士に訴訟代理を委任しているからといつて、みずから訴訟
準備ないし訴訟活動をする必要がないとはいえないし、法律を学んだ者としてみず
からこれを行ないたい強い意欲を有するであろうことは、これを窺知するに難くな
い。その他本件について身がらの収容だけでも行なうべき特段の事情を窺うに足り
るなんらの疏明資料はない。そうしてみると、本件の場合収容の限度においてもこ
れを執行することは、たとえそれが送還部分の執行におけるよりは軽度であるとは
いえ、なおかつ相手方につき回復困難な損害が生ずるおそれがあり、かつこれを避
ける緊急の必要があるといわねばならない。
3 さらに抗告人は、本件の執行停止は、公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそ
れがあると主張する(抗告の理由三の(5))。
 この点に関する抗告人の論旨は、要するに、本件執行停止殊に収容部分のそれ
は、在留資格のない者に在留を認める結果となるから、わが国の出入国管理行政の
建前を著しくみだし、ひいては公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがある、
というのである。しかしながら、ある行政処分の執行が停止されれば、それにより
予定された国の行政が一時阻止されることになるから、その意味においては執行停
止は行政をみだすといえなくはないが、このことは行政処分の執行停止すべてに通
じて言えることであつて、もとより出入国管理行政にのみ限ることではないのみな
らず、法が執行停止の制度を設けたのは、右の意味において国の行政がみだされる
ことは、個人の権利保護上やむなしとしたからにほかならない。のみならず、本件
の執行停止は、相手方の送還、収容を停止するだけのことであつて、相手方に対し
在留資格がないのに在留を許可する性質を有するものではない。相手方が本邦に在
留しうるのは、送還、収容が停止されることの反射的効果として生ずる事実上の結
果にすぎないことは多言を要しない。それゆえ、相手方という一個人の送還、収容
が停止されるというだけの理由で、わが国の出入国管理行政の建前が著しくみださ
れるとは、とうてい考えられない。もし所論のとおりとするなら、収容部分の執行
停止はいかなる場合にも許されないことになるが、かかる見解にはにわかに賛同し
難い。しかも本件の場合、抗告人の全疏明によつても、執行停止をすることが出入
国管理行政の建前を著しくみだし、公共の福祉に重大な影響をおよぼすと懸念すべ
き特段の事情は、なんら認められない。よつて抗告人の右主張も採用できない。
四 以上のとおりであるから、相手方の本件執行停止の申立は送還部分については
もちろん収容部分についても理由があり、これを全部認容した原決定は相当であつ
て、本件抗告は理由がない。よつてこれを棄却すべきものとし、行政事件訴訟法第
七条、民事訴訟法第九五条、第八九条にしたがい、主文のとおり決定する。
(裁判官 原田一隆 神田鉱三 岨野悌介)
       抗告の理由
一 相手方の本件執行停止の申立は、本案について理由がなく、また、執行停止の
必要性を認められないから、すべて失当として却下されるべきであるが、この点に
ついての抗告人の主張は、別紙意見書中「意見の理由」において述べたとおりであ
るから、ここにこれを援用するほか相手方の主張および原決定がいずれも出入国管
理令上および同管理行政上当を得ないものであることについて、以下にこれを敷衍
補足する。
二 本件申立てはその本案について理由のないことが明らかである。
 行政事件訴訟法第二五条第三項にいう「本案について理由がないとみえる」こと
とは、行政事件訴訟特例法の下において、解釈上、本案について一応理由があると
みえることを執行停止の要件としていたため、この当然のことを明文で規定したに
すぎない(杉本良吉、行政事件訴訟法の解説八九頁等参照)そのものであるが、新
法ではこの規定が執行停止の消極的要件として定められたため、執行停止申請の段
階で行政庁側が、係争処分の適法要件の具備を一応疎明する建前となつたのであ
る。
 そこで、抗告人は相手方に対し口頭審査および異議申立の機会を与える等厳格な
手続によつて行なわれる出入国管理令(以下単に令という。)に基づく収容、退去
強制処分の場合には、行政庁が処分の適法要件について主張および一応の疎明を提
出すれば、その段階では本案について理由がないとみえるときに当ると解すべきで
ある。蓋し、行政処分は公定力を有し即時執行することによつて行政目的を達成す
るものであつて、しかもその処分に至るまでの間に、訴訟手続にも比肩するような
厳格な行政救済手続が与えられているのであるから、その執行は、私人間の紛争に
つき現状維持のために認められている仮処分や強制執行停止等と同視することが許
されないからである(判例時報四九一号五一頁疎乙第二五号証参照)。
 原決定は、相手方が「本邦において、大学院で習得した研究を続けることを望ん
でいるうえ、父Aが、韓国において設立した二つの株式会社の営業準備のため、韓
国に滞在する期間が長いので右研究にあわせて留守中の父に代わつて株式会社オメ
ガの経営にあたる必要上、引き続き本邦に在留することを強く希望するに至つてい
ることが認められるとし、相手方のこれまでの長期にわたる在留期間を無事過ごし
た生活態度からみれば、相手方を今後本邦に在留させても、わが国にとつて直ちに
不都合な事態が生ずるものとも考えられない」と判示しているが、右は全く出入国
管理令の解釈、なかんずく同令における在留資格制度の基本的理解を誤り、かつ出
入国管理行政ことに外国人の在留管理という重要な事実を看過した単なる人情論と
いうべく到底承服しがたい。
(1)まず、本件退去強制令書が発付されるに至るまでの経緯をみると次のとおり
である。
 相手方は、昭和三二年六月小型韓国船に便乗して本邦に不法入国し、昭和三五年
七月右不法入国の事実が発覚したものであり、本来ならば、この時点において令第
五章に規定する退去強制手続により、即刻韓国に退去強制さるべき者であつた。
 しかるに、相手方について当時特に本邦における在留が認められたのは、本件不
法入国が発覚当時相手方は早稲田大学第一政経学部政治科第一学年に在学中であ
り、その後四年間修学すれば学業を終えることが認められ、かつ相手方においても
法務大臣に対する異議の申出に際して、学業終了後は必らず出国する旨を真摯に誓
約したので、法務大臣は昭和三六年三月六日裁決に際し、令五〇条により、相手方
の異議の申出は理由がないと認めたが、特に「学業終了まで」の条件を付して相手
方に対し、在留特別許可の裁決をし、令四条一項一六号、特定の在留資格および在
留期間を定める省令一項三号に該当するものとしての在留資格(以下在留資格四-
一-一六-三という。)、在留期間一年を付与したものである。
 その後相手方は引き続き早稲田大学第一政経学部政治学科、同大学院政治学研究
科修士課程に在籍し、昭和四四年三月右修士課程を修了したものの、その間におい
て四年にわたる休学または論文未提出による留年等により、本邦への居座りを策す
る者であるとの疑いもあつたが、相手方は学業継続を強く希望し(疎乙第二六号な
いし同第三七号証)、大学、大学院に在籍する事実も認められ、指導教官F教授か
ら在留嘆願(疎乙第四六号証)がなされたこと等の事情から、特に在留期間の更新
を許可したものである。
 ちなみに修学目的で本邦に在留を許可された外国人が、故意に休学あるいは留年
をかさね、本邦に居座りを策することは入管行政上顕著な事実である。
 ところが、相手方は昭和四四年三月早稲田大学大学院政治学研究修士課程を修了
したにもかかわらず出国せず、さらに在留を希望して第一三回目の在留期間更新許
可申請(疎乙第三八号証の一)をするに及んだところ、その理由書(疎乙第三八号
証の二)において大学院の修士論文を同年八月までに出版したい旨の意向を表明
し、その在留期間内に出国する旨の誓約書(疎乙第一〇号証)をあらためて提出し
たので法務大臣は、八月までに修士論文を出版したいという相手方の事情をくみ、
その期間内に出国する旨の誓約を信頼し、かつ出国のための諸般の整理・準備事務
のため必要ありと判断して、特に出国準備期間として、これを許可したのである。
 しかるに、相手方はその誓約に反し、右在留期間が経過しても出国しないのみな
らず、昭和四四年一〇月三〇日にいたり父が留守のために株式会社オメガ(パチン
コ店)と株式会社原島運輸の仕事をするためとの理由で、第一四回目の在留期間更
新許可申請をした。
 前に述べたとおり、不法入国が発覚した時点において、退去強制されていたはず
の相手方に対して法務大臣が在留特別許可を与えたのは、特に学業が修了するまで
の間に限つてのことである。しかるに相手方は、通常の修学期間をはるかにこえた
約一〇年間にわたり本邦に在留を許されたうえ、それまで在学していた早稲田大学
大学院政治学研究科修士課程を修了し、かつ念願の修士論文を完成したうえその出
版も終えたのであるから、自発的に本邦から退去することを期待して同年一二月二
日出国準備期間として在留資格四-一-一六-三、在留期間六〇日をもつてこれを
許可した。
 ところが、相手方は右に述べたごとき法務大臣の格別の配慮にもかかわらず、さ
らに同年一二月二六日にいたり、学業の修得とはまつたく関係のない父経営の事業
継続などを理由に、第一五回目の在留期間更新許可申請をした。これまでにるる述
べたところから明らかなように、相手方の在留資格はあくまでも学業のためのもの
であつてそれ以外のものではないから今次の在留期間の更新を適当と認めるに足り
る相当の理由がないので法務大臣は昭和四五年一月七日これを不許可とし相手方に
通知したものである。
 以上の経緯により相手方は、在留期間の終期である昭和四五年一月八日をこえて
本邦に不法に残留した者であり、退去強制手続の結果同年五月二五日退去強制令書
が発付されたのである。
(2)もともと本邦に入国し在留するすべての外国人は、緊急上陸による上陸、観
光のための通過上陸等特殊な場合を除くほか、令九条三項により決定された在留資
格をもつて在留するのでなければ、本邦に在留することは許されないのである。
 したがつて、出生その他の事由により令第三章に規定する上陸手続きを経ること
なく本邦に在留することとなる外国人については、その事由が生じた日から六〇日
以内に出国する場合を除き三〇日以内に在留資格取得許可申請を行ない、在留資格
を取得して在留しなければならない(令二二条の二)こととされているし、さらに
退去強制事由に該当する者(令二四条)であつても、在留を特別に許可される場合
(令五〇条)は、在留資格・在留期間を指定される(令五〇条、令施行規則三七
条)こととされているのである。
 このように、在留資格制度は、出入国管理令を貫ぬく根本原則であり、わが国の
出入国管理行政の根幹をなしているものである。そのために外国人がその在留資格
に属する者の行なうべき活動以外の活動を許可なく行なうときは、六月以下の懲役
若しくは禁こ又は三万円以下の罰金に処せられ(令七三条)、また当該在留資格以
外の在留資格に属する者の行なうべき活動をもつぱら行なつていると認められると
きは三年以下の懲役若しくは禁こ又は一〇万円以下の罰金に処せられるほか、退去
強制手続により本邦からの退去を強制されることとされているのである(令二四条
四号イ)。
 その反面令四条に規定する各種の在留資格とそれに対応して同令施行規則三条に
定める在留期間を付与されることによつて、当該外国人はわが国の法令に違反しな
い限りその期間わが国に在留することが保障されているのである。
 たとえば、本邦を観光しようとする外国人は、わが国の在外公館において入国査
証(ビザ)申請をし、所持する旅券に観光査証を取り付け、本邦に上陸するとき入
国審査官による審査を受けて(令七条)、上陸のための条件に適合していると認定
されたとき上陸許可の証印を受け、その際在留資格四-一-四及び在留期間六〇日
が決定されて観光客として本邦に在留することとなるのであるが、観光客として在
留を許可された者は、観光客として必要な活動以外の活動を行なうことは許されな
い。また、外国人が本邦において研究活動・教育活動等を行なおうとする場合は、
学術研究機関又は教育機関において研究の指導又は教育を行なおうとする者に対応
する査証をその本国においてわが国の在外公館から取り付け、上陸審査において入
国審査官より在留資格四-一-七の決定を受けて入国しなければならず、この資格
で入国在留を許可された者は、その他の在留資格に属する活動を行なうことは許さ
れないこととされている。
 これは、外国人が本邦において行なう社会・経済・学術・労働その他の分野での
活動が、わが国の社会・経済・学術・労働その他あらゆる方面において重大な影響
力を及ぼすおそれがあるため、いかなる活動を行なう外国人を、どの程度入国さ
せ、またいかなる期間在留を認めるかについて事前に十二分の調査を遂げたうえ、
これを決定することが、出入国管理行政上不可欠の条件であるからであり、学術研
究または教育機関において研究の指導または教育を行なおうとする者の出入国を認
める際には、事前にその者の学歴・能力等の調査のみならず、わが国の関係機関等
とも十分な連絡を遂げたうえでその許否を決しているのであるし、技術者の入国に
ついても、その者の技術の程度・経験年数等の事前調査のみならず、わが国の関係
省庁とも事前協議を遂げたうえ、その者の入国の許否を決定しているのである。
 したがつて、このような事前調査・事前協議を経ない外国人の入国は、観光等の
特殊なものを除いてはあり得ないわけである。
 このような観点からすれば、相手方が、学業修了までとの条件を付されて在留特
別許可を与えられたのにもかかわらず、昭和四四年三月同大学大学院修士課程を卒
業したのちは、父の経営する株式会社オメガ及び株式会社原島運輸の経営に参加す
ること、またそのかたわら「北朝鮮の憲法」の出版準備等のための研究を継続する
ことは許されないものというべきである。のみならず原決定が相手方が本邦におい
て大学院で習得した研究を続けることを望んでいるうえ、父Aが韓国において設立
した二つの株式会社の営業準備のため韓国に滞在する期間が長いので右研究にあわ
せて留守中の父に代つて株式会社オメガの経営にあたる必要上引続き本邦に在留す
ることを強く希望するに至つていることが認められるとし、相手方のこれまでの長
期にわたる在留期間を無事過ごした生活態度からみれば、相手方を今後本邦に在留
させても我国にとつて直ちに不都合な事態が生ずるものとは考えられないと判示し
ているのは、出入国管理令を誤解し、かつ出入国管理行政に対する認識を欠くもの
といわざるを得ない。
 なお、在留期間の更新は、令二一条三項に定められているとおり、法務大臣が当
該外国人の提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由
があるときに限つて許可するものであるが、右理由は、在留資格の範囲内における
活動について存在することが必要であり、これはさきに述べた在留資格制度を維持
するうえに不可欠の事柄である。
 したがつて、在留資格を維持することができない者については、在留期間の更
新、即ち在留資格の継続は理由が失なわれているのであるから、たとえ在留資格の
範囲外の活動を行なうことについて相当の理由があると認められる場合であつて
も、それは、令二一条三項にいう在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理
由にはあたらないのであり、在留資格の範囲外の活動をなす目的をもつてなされた
在留期間更新許可申請に対しこれを不許可とすることは、なんら違法の問題を生じ
ないのである。
 さらに、たとえ在留資格の範囲内の活動をなす理由をもつてなされた在留期間更
新許可申請についてみても、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当な理由の
有無の判断は、法務大臣の自由裁量に委ねられているものである。
 元来外国人の入国及び在留の許否は、もつぱら当該国家の自由裁量により決定し
得るものであつて、特別の条約の存しない限り、国家は外国人の入国または在留を
許可する義務を負うものではないというのが、国際慣習上認められた原則であつ
て、わが国の出入国管理令の各規定にもこの原則が反映されているのである。
 従つて、外国人には自己を在留させよと国家に対して要求する権利は存しない。
以上のとおりであるので、相手方の本邦での大学課程修了という在留資格は、すで
に実質的に消滅している状態において、前記在留期間更新申請を不許可にしたので
あつて、相手方には、もはや考慮すべき前記在留資格の継続を要する段階にはない
のであり、本件各処分にはなんら違法・不当な点はない。
三 相手方には本件執行により「回復困難な損害」も、またこれを避けるための
「緊急の必要性」も存しない。
 原決定は、相手方が本件執行により回復困難な損害を蒙ると判断したが、もとも
と相手方は前記経緯により法務大臣から最終の出国準備期間として昭和四五年一月
八日まで六〇日間の在留期間更新許可を受けたものであつて当然右期間内に出国で
きた筈であるのに、出国をしないで本邦に居すわろうとしたものであるから、その
ことによつて、かりに損害が生じたとしても、これをもつて、回復しがたい損害と
いうことはできず、また原決定の内容は要するに相手方の本邦での在留目的が達せ
られないこと、および満足な本訴遂行が殆んど不可能になることの二点を掲げてい
るが、これらはいずれも執行停止の要件となるべき回復困難な損害には当らない。
(1)在留目的ー大学教育ーについて
 相手方の不法入国目的は、そもそも本国での高等学校教育修了後において、父を
頼つて本邦の大学で勉学するためであつた(特に疎乙第一号証中三、四、七および
一五、同第五号証の二)し、現に早稲田大学に在学中であつたので、同人の不法入
国が発覚した折、その目的および現に大学在学の身分を尊重考慮し、同大学卒業後
はすみやかに帰国する旨かたく誓約したので、法務大臣は、特に、相手方が同大学
での学業課程を履修することを相当と認め、これを目的条件として特別在留許可を
与えたもので、右許可の日(昭和三六年四月四日)においてもこの特別在留許可の
趣旨は強調・確認され、相手方も「許可条件であります学業終了まで、日本の法と
秩序を守つて卒業しましたら直ちに帰国する」旨全文自筆の誓約書(疎乙第四〇号
証)をもつて明確に右趣旨・目的を認識し、これに従つているのであるから、本来
相手方は右学業を主目的として専心すべくこれに関連する範囲内での在日社会生活
を営むことしか期待してはならず、法務大臣においてもこれを超える広い範囲での
本邦内生活・活動を相手方に確保した趣旨では毛頭ないのである。
 そして相手方は、同大学々部卒業にとどまらず同大学大学院修士課程をも履修し
たが、所管庁においても、必要な範囲でこの目的に副うべく、昭和四〇年四月から
は従来の在留期間一年間を一八〇日に短縮して更新し、翌年春同大学院修了の見込
まれた同四三年一一月の更新時には「今回限りの更新一ということで右修了後の同
四四年五月までの更新を許してきた(疎乙第二一号証)こと明らかであつて(相手
方も右各更新に当つては申請趣旨を大学大学院における学業履修のためとしてお
り、その他の目的遂行のための在留を考えてはいない。疎乙第二六号ないし第三七
号証)、右大学院修了をもつて相手方の不法入国在留目的はもとより、法務大臣の
特別在留許可目的も十二分に達成されたものと断言してはばからないところであ
る。
 あまつさえ、相手方は同四四年九月には「大学院での研究生活を終えるにあたつ
て」従来の研究成果を綜括し『韓国の憲法』を公刊することまで実現した(疎甲第
五号証)今日、もはや大学専門教育の便益供与としての在留の必要性は何ら在しな
いもので、この点についての損害は全くないのである。
(2)在留目的-大学院修了後の研究活動-について
 原決定はさらに、相手方は「大学院で習得した研究を大学院の教授らの指導の下
に続けることを望んでいる」として本件執行によりこの目的(希望にすぎない)が
達せられなくなり、これが回復し難い損害であると判断しているが、その具体的認
定内容が不明な上、論旨疎略であり、肯認しえない。
 すなわち具体的にいかなる内容の研究がいかなる段階にあつてそれが本執行によ
り回復しえない程不可能になるのか全く不明で、この点についての疎明はないもの
である。
 相手方が学籍を離れてからのかかる一般社会にあつての研究は、既述のように本
件特別在留許可の目的・内容とはなつていないのみならず、大学院時代の指導教授
らとの師弟間の学問的指導関係は、相手方が本邦に居なければ確保されない性質の
ものである筈はなく、書信・電話等によつても一応の目的は達しうるわけで現在ど
うしても本邦にあつて面談のうえ個別、具体的な右指導を得なければならない現実
的必要の迫つていることは全く認められないところである。
 もつとも、相手方は、大学院修了後も「韓国のナシヨナリズムの研究」「北朝鮮
の憲法について」などの研究・発表など予定している旨は所管庁に対しても陳述し
ているが(疎乙第二二号証)現実には、相手方は後記株式会社オメガ(パチンコ遊
戯場)の業務遂行等の商用にその精力を注いでいると相手方自ら強調し、現に大学
院修了後の二度にわたる在留期間更新申請に当つても、その申請理由はもつぱら商
用のためであつて、右研究のための必要は考慮しておらず(疎乙第九、一一号証中
各11「在留期間更新の理由」欄)さらに、本件不法在留期間中の仮放免許可願に
当つても特に右研究目的は掲げられておらず(疎乙第一八ないし二〇号証)就中右
期間中の四回にわたる「一時旅行」許可(制限住所地を離れる際の許可、令第五四
条第二項)申請理由としても前記指導教授らとの面談・指導の目的は掲げられてい
ない(疎乙第四一ないし四四号証)等の本人の動静を客観的にみるときは、実父自
ら「息子は、余暇を見て研究しています」(疎乙第八号証中五)と述べているよう
に身辺の諸般の情況から客観的に許された本人の在留目的の重点は最早、実父の事
業の援助に移つていると認めざるを得ないところで、傍ら研究も続けたいと希望し
ている程度のものとしか認められない。
 そして、相手方の大学院での研究成果である前掲『韓国の憲法』を通覧するも、
そこでの重要な文献ないし資料は殆んど本国出版のものであり、本邦および米・独
出版の文献・資料もごく一般的なもので本邦でなければこれを利用しえない困難性
は何ら認められないことを前記情況にあわせて考えるときは、相手方の前記程度の
強さの研究目的は具体的切実性に乏しく、商業活動の余暇をみての努力目標ないし
希望というべきもので、日本に居れば便利だという以上のものではないと認めるの
外なく、本件執行により前記研究が不可能ないし、極めて困難となる事態は認めら
れず、これをもつては到底回復し難い損害を蒙るといえるものではない。
(3)在留目的-株式会社オメガ経営の必要-について
 原決定は「父が韓国において設立した二つの株式会社の営業準備のため韓国に滞
在する期間が長いので、右研究にあわせて、留守中の父に代つて株式会社オメガ
(申立人は同社の取締役である)の経営にあたる必要」があつて在留を強く希望し
ていることを認定して本件執行により該在留目的が達せられない損害は重大で回復
困難であると判旨しているが、相手方の在留希望が達せられないという以上にいか
なる主体について、いかなる損害があるとするのか、その詳細は全く不明である。
 そもそも、執行停止の要件たる「回復困難な損害」は、当該申請人本人に生ずべ
き個人的な権利・利益の侵害をいい、本人に関連した第三者のそれを含まないと解
すべきこと、旧行政事件訴訟特例法第一〇条二項における場合と同様である(たと
えば雄川一郎著、行政争訟法二〇二頁、同所引用裁判例で参照)から、相手方が本
件執行により右会社の経営業務に従事できないことによつて蒙る右会社および同代
表取締役たる実父の蒙る損害(かりにこれがあるとしても)ないし不便は、「執行
停止」制度上保護される利益ではないのである。
 なるほど右判旨のように相手方は公簿上、昭和三八年からこのかた株式会社オメ
ガの取締役ではあるが、同社設立の同年から昨四四年春までは在京して学業にあ
り、この間何ら業務についていないので、右地位も同族会社なるが故の形式的なも
のであり、実質的には今日まで、来札後のわずか一年ほどの経営関与にしかすぎな
い。本件執行により同人が蒙る損害といえるものは、右業務に従事しえないために
同社から月五万円の給与支給を受けている利益を受けられなくなる可能性がわずか
に右個人的な保護利益の侵害に当りうるところであろうが、同社の同族関係からみ
て、かかる場合にも何らかの形で役員報酬の支給を受けうるであろうことは巷間よ
くある事例であり、かりにこれが皆無であるとしても、かかる損害は社会通念上金
銭賠償によつて受忍しうる程度のものであつて(最高裁大法廷昭和二七年一〇月五
日民集六巻九号八二七頁)回復困難な損害とはいえない上に、本件執行によつて帰
郷後も、同人は実父設立にかかる在韓二会社の理事であるので、そこでの事業関与
(韓国セラミツクス工業の方はすでに本年頭初において操業段階にある。疎乙第八
号証中四。)により、相応の収入が期待でき、さらに現に実母は地主で相手方の妻
子と共に京城市で安定した生活を営み、加うるに実父からは同人ら宛に月約五万円
の送金があり、実母が右在韓二社の監事についていること(疎乙二三号証中五。同
第六号証中六枚目の裏。第一五号証の一、二)からもうかがわれるように未だ同女
と実父との関係は緊密に保たれていること明らかで、今後ともこの送金は同様に継
続されること確実であるとみられるのであるから、かりに相手方が本邦を離れて在
韓家族らと共になつても同人の生活が危殆に陥るとか一家の経済が著しく困難にな
るという事態は全く考えられないところである(現に実母をはじめ在韓家族は相手
方の仕送りなしに安定した生活を確保しているのである。疎乙第六号証中六枚目
裏。)。
 そもそも相手方は、前記のとおり学業目的のため来日し、在留を特別に許可され
てからも学業修了後は帰国する旨再三、再四強調し誓約して来たところであり、あ
まつさえ学業半ばの昭和四〇年再入国許可を受けて本国に帰り婚姻して、現在妻及
び二子を本国に残して来ている経緯に徴すれば、明らかに学業修了後は本国での生
活を目途としていたことが客観的に明白であるのであり、帰国して妻子と生活を共
にすべき筋合というべく、何ら生活上回復困難な損害を蒙るおそれはないのであ
る。
 また、原決定は何ら触れるところなく、判断していない事柄ではあるが、如上の
相手方の個人的利益の範疇に属するものとして評価すべき「原島運輸の経営に参
加」(申立の理由第一、五)問題があるところ、事実は、相手方は更生会社原島運
輸の従業員として昨昭和四四年九月から稼働し月三万円の収入を得ているにすぎな
いもののようであり、(疎乙第六号証)実父は同社の同四二年三月更生計画許可に
当り一取締役として就任(従前は監査役)したが別に管財人が選任されていて同社
の経営業務は同人の行なうところであるから、実父の経営関与は株式会社オメガに
比して極めて稀薄であり、相手方の同社での稼働は全く個人的な労働というに帰す
るから、ここで得られる収入についても、なるほど本件執行によりこの途は断たれ
ることになるけれども、前示オメガからの収入についての場合と同様に、これがた
め同人に回復し難い損害を与えるものとはいえない。
 右のように、相手方に帰しうる損害で回復困難なものは何ら認められないところ
であるが、相手方および実父らが強調している事態は実父が在韓二社の事業で在韓
日数が多いため、オメガ・パチンコ遊戯場の経営に直接当る余裕がなく身内である
実子の経営にまたねばならないということであり(疎乙第七号証中一、同八号証中
五)相手方も昨昭和四四年以降の在留期間更新許可申請の理由としてオメガの経営
を掲げている(疎乙第一一、一二号証)ところ、相手方が右経営ないし営業に直接
当れないことによつて会社ないし代表取締役たる実父が蒙る不便はあり得るとして
も、これは右のように本件執行停止の要件に当るものではないにとどまらず、そも
そも損害といえるほど深刻・重大なものとは到底認められないこと以下に述べる如
くである。
 すなわち、同社の事業は現実にはパチンコ遊戯場経営のみで該事業種は、いわゆ
る「くぎ師」といわれる専門技術者の確保さえあれば、あとは格別に高度の経営能
力・専門技術等を要求されるものではなく、相手方はわずか一年余の実際経験をも
つにすぎないことを考えれば、同人が居なければ経営がなり行かないものではな
く、現に同人と同等或いはそれ以上の経験年数・手腕を持つている者が五名位は居
り、中にはより高額の給与を得ている支配人もおり、就中実父の内妻、孫G(H)
が営業(景品等の仕入等)担当者として活躍している(疎乙第六号証、別紙1)の
であつてみれば、相手方の企業内貢献度・重要度は非代替的なものとは到底みられ
ず、実父にしても、身内なので任すのに安心だという程度のものでしかない。
 このことは実父の在韓日数、即ち在韓二社の業務のためとして本邦を留守にした
期間からみても明らかで、相手方が在学中のため札幌不在で同社の経営に関与でき
なかつた昭和四〇年に約一ケ月半、同四一年に七ケ月、同四二年に八ケ月余、同四
三年に九ケ月余、相手方がその春卒業した同四四年には一月末から一二月末までの
一一ケ月二一日の多くに及んでいる(疎乙第四五号証)のであつて、これはこの間
前掲別紙にもあるようにI専務取締役・J支配人・K取締役等の営業担当者、更に
は内妻がいるので、かくも長い不在のためとて同社の経営に格別の支障がない見通
しあつたことに外ならず、この事態は相手方が昨同四四年夏から同社経営に関与し
た後も全く変らないところで、相手方の在・不在は会社経営に格別重大な影響を与
えるものとは認められる筋合ではない。さもあらんか、相手方は原島運輸に従業員
として勤務し相応の対価を得ており、本年に入つて実父離日期間(三月三一日~八
月三日)中も、四~五月に三〇日および一週間、五~六月に二五日間も札幌を離れ
ている(前掲疎乙第四一号ないし四四号証。)。
 ことに如実に示されているように、実父はもちろん、相手方のかなりの不在に拘
らず同社の営業は円滑に進められているのであつて、相手方が在札してその事業専
念がなければ、同社ないし実父としても経営上重大な障害を蒙るというようなもの
でないことが全く明らかである。
(4)本訴遂行上の困難性について
 原決定は、本件執行により相手方の満足な本訴遂行が殆んど不可能になるとし
て、回復し難い損害を被るものと認定されるが、本訴には専門の弁護士が選任され
ている上に本件申立自体および疎明によつて、相手方の不法入国・特別在留許可・
同期間更新不許可についての経緯はほぼ争いなく、本人および家族の現況・目的等
も明らかにされているので、争点は、ただ右不許可処分の適否という殆んど法律問
題にかかつているにすぎなく、本人が現状のままで居なければ本訴遂行が不可能と
なる状況ないし訴訟進行段階にあるとは到底いえず、これがため本件執行を停止し
なければならない重大な損害の発生もなく、また緊急性もないのである。
 もちろん相手方を収容ないし送還することによつて、訴訟遂行上の不便は通常発
生するとしても、これは有効・適切な訴訟代理人の活動によつて克服しうる程度の
ものであつて、もし右のような処分に伴う一般的な不利益によつて、当然処分の執
行を停止し得るものとすれば、退去強制処分は常に例外なくその執行を停止しなけ
ればならないこととなり、このことは処分取消の訴の提起によつては処分の効力を
妨げられるものではなく(執行不停止の原則)、その執行停止は特に処分により生
ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要性があるときに限つて許している。行
政事件訴訟法第二五条の法意に反するからである。されば本件において少くとも相
手方を収容すること自体によつては右の意味での回復困難な損害はないというべき
である。(東京高裁昭和四五年三月三〇日決定疎乙第四九号証)
(5)出入国管理行政のうえで、不法入国・残留者をわが国から退去せしめるの
は、領土の広狭・人口の多寡・犯罪および各種牒報等の諸種の政治的・経済的・社
会的要因に基づく配慮によつてわが国の全体的秩序を維持しようとするところにあ
る。したがつて、わが国に外国人の不法入国・残留者の在ること自体が出入国管理
上看過しえないことなのである。言い換えれば、これらの者は、出入国管理行政の
基本的秩序を破壊したものであるから、出入国管理行政上、わが国に在留すること
が不適当として排除すべきであつて、本来、正規にわが国に在留を認められた外国
人あるいはわが国民と同等に取り扱われるべきものではないのである。もとより、
行政処分についての執行停止の制度が認められる以上、例外的に右の取り扱いに変
更を及ぼす場合があることは当然であるが、本件の如く不法残留の事実が明らかで
ある場合には、少なくとも収容のような一応の隔離措置については、余程のことが
ないかぎり認められるべきものではないのである。
 相手方については、これまで仮放免の措置がとられてきたこともあることから分
るとおり、相手方の収容に客観的な支障がある限り仮放免が継続されるのであり、
右支障が消滅し一旦収容した後でも、必要に要じて再度仮放免の措置をとることと
し、収容によつて相手方に不測の事態を惹き起すことのないよう十分配慮しながら
その身柄の確保(出入国管理令第五四、五五条参照)に努めてきたのである。とこ
ろが、ひと度、収容部分までを含めて全面的に本件執行が停止される場合には、法
定の在留資格のない外国人について、事実上本邦に在留を認めることとなるのみな
らず、保証金および行動範囲の制限を伴う仮放免制度による規制も受けず、出入国
管理令による外国人としての管理を受けることなく、相手方は全く無制限に生活・
行動することができることとなり、かような事態のまま本案判決確定に至るまで相
当長期間放置を余儀なくされることは出入国管理行政上重大な支障を生ずるもので
あり、同令に規定する法定の在留資格を紊し(東京高裁昭和四三年四月一六日決
定、疎乙第五〇号証)本案判決が抗告人の勝訴に確定しても本件処分の執行が不能
となるおそれも否定しえないわけである。
 要するに、不法入国・残留者の強制収容には、わが国の全体的秩序のためにこれ
らの者をわが国の社会生活から可能なかぎり排除しようとする国家目的があり、仮
放免によれば法的に身柄を確保することによつて暫定的にこの目的にそう措置が可
能であるが、執行停止による放免にあつては、その間は全く放任状態となり行政上
の公的義務を果しえない結果となる。
 こうした点について、原決定は不法入国・残留者をどうするかということについ
ての大局的配慮を欠いており、かかる放任の事態は出入国管理行政の建前を著しく
紊るもので、ひいては公共の福祉に重大な影響を及ぼすものである(大阪高裁昭和
四五、三、一九決定、疎乙第四八号証参照)。
 以上のとおりであるから本件執行を停止すべき要件は全く存しないもので原決定
は全面的に取消を免れず、少くとも相手方の収容(護送を含む)の執行は停止され
るべきではなく、この限度で原決定は変更されるべきものである。
 よつて、わが国をして不法入国・残留者のための天国たらしめるが如き原決定
は、わが国の出入国管理行政秩序を無視し、わが国の法秩序の利益につき何ら配慮
していないと思われるので、再度慎重な判断を仰ぎたく抗告に及ぶ次第である。

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