弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人蓬田武提出にかかる控訴趣意書記載のとおりであるか
らここにこれを引用し、これに対し左のとおり判断する。
 所論は、原判決の事実認定は、その第一および第二事実ともすべて事実誤認であ
るというにある。
 よつて先ず判示第一事実について按ずるに、原判決は、判示第一事実として、被
告人が、Aと共謀して、原判決添附の別紙一覧表の1ないし12に記載されている
とおりに、昭和二十四年二月二十五日頃より同二十五年二月十一日頃までの間十二
回にB方外十一ケ所において右B外十一名所有の広巾格子服地約四十ヤール外数十
点の物品および現金を盗取し、さらにAおよびCと共謀して、同二十五年六月十八
日夜前記一覧表13記載のとおりD方で同人所有の中古自転車一台外二点を窃取し
たとの事実を判示しておるのであるが、この事実は捜査の段階以来被告人の終始一
貫して否認しているところであり、かつ本件犯行の賍物は被告人方は勿論共犯者A
方からも亦その他の何処からもその一点すらも発見せられておらず、盗品の処分方
法も不明であることは、記録に徴し明白である。ところで、原判決は、右の事実の
うちD方における窃盗が被告人とAおよびCの共謀にかかるものである点について
は、原判決の証拠の標目欄に記載されているAの各証人尋問調書(ただし右D方に
関するものは差戻前の第一審裁判所の証人尋問調書についてはその第一回および第
六回証人尋問調書のみ)および原審の公判廷における証人Cの供述を、またその余
の窃盗が被告人とAとの共謀にかかるものである点については同じくAの各証人尋
問調書(ただし、差戻前の第一審裁判所の証人尋問調書については前記D方関係の
もの以外のもの)を直接かつ最主要な証拠としてこれを認めたものであることは、
原判決の挙示する各証拠の内容を仔細に検討すれば、容易にこれを知り得るのであ
る。
 そこで右Aの供述の信憑性について考うるに、記録によると、同人は昭和九年二
月生れで同年輩の少年に比し知能低い少年であるが、D方盗難事件のあつた日の翌
日である昭和二十五年六月十九日に所轄田沼署に任意出頭を命ぜられて出頭して以
来本件についての破棄差戻後の原審裁判所の審理終結に至るまで本件犯行の容疑者
或は重要証人として屡次にわたつて取り調べを受け、または証人として喚問されて
いるのであるが、その間捜査の段階の初期においては判示十三回の窃盗の事実はす
べて同人と被告人およびCの三人共謀の上の犯行である旨自認し、特に実況見分に
あたつてはこれに立ち会いかつ図面を作成してその犯行の模様を説明しているので
あるが、その後D方以外の窃盗は被告人と二人での共謀犯行であつてCは関係して
いないと、その供述を訂正し、その後本件公訴提起の前日である昭和二十五年七月
十日の裁判官武内彩一郎の面前における供述までその供述を維持して来たところ、
差戻前の第一審裁判所における第三回公判期日(同年八月二十四日)に証人として
尋問せられた際突如としてその供述を飜えし、本件犯行の一切を否認するに至つた
のであるが、その後同二十七年二月三日第一次控訴審裁判所における事実取調にあ
たり証人として喚問されるや前言を取り消し再び判示事実のとおりに被告人との共
謀による本件犯行を認める証言を行つているのである。しかしながら差戻後の原審
裁判所においては数回にわたつて証人として尋問を受けているがその都度或はE少
年院に在院中電気療法を受けたので記憶がはつきりしない(この点についてE少年
院からはAに対して同人の在院中に電気療法を施行した事実はないとの回答があ
る。)とか、ヒロポンを打つたので記憶がなくなつたとかといつて本件犯行に関す
る尋問に答えず、果ては尋問者に対して反抗的態度に出でるに至つた事実が認めら
れる。差戻後における証人Cの証言及び同人に対する指紋回答書によれば、同人は
昭和二十三年三月八日鹿児島簡易裁判所において窃盗罪により懲役十月三年間執行
猶予の言渡を受けたが、次いで同年九月二十七日足利簡易裁判所において住居侵入
窃盗罪により懲役一年に処せられたため前記執行猶予を取消され、右二つの刑の執
行を引続いて宇都宮刑務所において受け、昭和二十五年二月二十七日仮釈放され直
ちに佐野市に来り一週間位したときF駅前の風呂屋で釜焚きをしていたAと知合つ
たというのであるから、CはAが捜査の初期の段階で述べたように原判決添附別表
1乃至12の犯行にCが共犯たることはあり得ないのである。このようにAの供述
は著しく信憑性に乏しく原判決が証拠として採用しているAの前記各証人尋問調書
は、それのみでは到底被告人につき判示のまうな共謀犯行の事実を認定し得る証拠
とすることはできない。
 もつともD方における判示窃盗事実については、前記Aの証人尋問調書の外原判
決が証拠として掲げるCの原審昭和三十三年六月十日の公判廷における供述も、同
人はA及びAの友人と共にその犯行を実行した旨述べてはいるが同人は原審の右公
判期日に在廷した被告人は全然見覚がない旨述べているのである。尤も右Cは、同
日の証言において、当時のAの友人は、右法廷における被告人と同様ニツカズボン
をはき、被告人の同日の髪型と同様の職人刈をしていたと述べてはいるが、犯行当
時のAの友人が被告人であるとは述べていないこと前述のとおりであるのみなら
ず、同人は、右D方より盗み出した米か麦の入つたらしい麻袋及び俵は、A方でも
なく佐野市内でもない畑中の畦道を通り三十分位行つた農家らしい家に運んだと述
べていて、Aの供述していたところ(Aはこれを佐野市の被告人居宅附近に運んだ
という)とは全然異るのであるから、右Cの証言もまた判示D方の犯行について被
告人が共犯として加工した事実を認定する資料とするに足りない。原判決は被告人
に対し十二回のAとの窃盗共犯及び一回のA、Cとの窃盗共犯の事実を認定してい
るのであるが、その盗品は一つとして発見されておらず、その盗品の処分方法も明
らかでない。窃盗事犯において盗品の発見できないことのあり得ることは勿論であ
るけれども、前後十三回に亘り、数十点の物品を窃取したというのにそのうちの一
点すら発見できず処分方法すら判明しないというのは奇異な現象であつて、前記A
の自供の真実性を疑わしむるものである。
 その他原判決の挙示する差戻前の第一審裁判所の第二回公判調書中の証人G、同
Hの各供述記載部分も、右Aの各証人尋問調書およびCの右証言を補強し、その裏
打となつて判示事実を認定せしめるに足りず、その他に被告人につき本件犯罪事実
を認むべき証拠がない。
 又当審における事実取調の結果によるも被告人の犯行を認めるに足る何らの証拠
を発見できない。
 次に判示第二事実について按ずるに、本件記録によると、被告人は差戻前の第一
審裁判所の第一回公判期日において、公訴事実に対する陳述として右判示事実を自
認している。しかしながらIの昭和二十五年六月二十一日附答申書、原審第十六回
公判調書(昭和三十一年九月二十四日)中証人Iおよび同Jの各供述記載部分、J
の司法巡査に対する昭和二十五年七月八日附供述調書、差戻前の第一審裁判所にお
ける第二回公判調書(昭和二十五年八月十日)中証人Kの供述記載部分および原審
第十七回公判調書(昭和三十一年十月二十四日)中証人Kの供述記載部分を総合す
ると、本件の刀は被告人の弟であるKがまだ小学生であつた昭和十五、六年頃附近
のL川の大水の時に流れついていたのを拾つて家に持ち帰つたところ、当時存命中
の鳶職をしていた被告人の父Mがこれを取りあげ鉈にでもする積りで保管していた
ところ、昭和二十年秋父死亡後は同家の物置にある右Mが使用していた道具箱の中
に放置されていたのを被告人の兄Jが昭和二十三年頃研いだことがあるが、その後
もそのまま道具箱に入れておいたのが昭和二十五年六月二十日被告人に関する窃盗
被疑事件につき警察官においてN方の家宅捜索をした際発見され差押えられたもの
である事実並びに右Mの死後は被告人の母Iが家事を切りもりしていた事実を推認
することができるのであつて、このような事実に照らして考えると、被告人が右刀
を所持していたものとは解し得ないので、右自白は真実に合しないのみならず原判
決の挙示するその余の各証拠を以つてするも右判示事実を認定するに足りない。
 <要旨>ところが本件においては、差戻前の第一審判決が、本件各公訴事実はこれ
を認めるに足る証拠がないとして被告人に対し無罪の言渡をしたのに対し、
当裁判所における第一次控訴審は、窃盗の事実については、Aの「自供の内容は決
してでたらめなものであるとは考えられないので、少くとも原裁判所が起訴にかか
る窃盗の事実を全部証明不十分としたのは事実の誤認があるものといわなければな
らない」として、又銃砲等所持禁止令違反の事実については、被告人は、司法警察
員に対してのみならず差戻前の第一審公判廷においてもこれを自白しており、その
自白の信憑力はかなり強いものであるところ、記録を精査しても右自白を虚偽なり
とするに足るほどの証拠が存在するものとは認められないので、結局差戻前の第一
審判決がこの程度において直ちに犯罪の証明なしとして無罪を言い渡したのは、審
理不尽の違法があるか、しからずんば事実認定の法則に違背した違法があるとし
て、同判決を破棄し、事件を第一審裁判所に差戻する旨の判決を言い渡している。
そして右第一次控訴審判決が破棄の理由としてなした判断は、差戻を受けた下級審
を拘束し、又再度の控訴審をも拘束するものではあるが、本件第一次控訴判決のご
とく証拠の価値判断を理由として破棄差戻した場合には本件におけるが如く差戻を
受けた第一審裁判所が改めて従来の証人を尋問し且つ従来取調べられていない新な
証人尋問その他の証拠調をしたときは、差戻判決の時までとは、事実認定の資料の
範囲を異にするので、差戻を受けた第一審裁判所は控訴判決の判断に拘束されるこ
となくその自由な心証により公訴事実の存否を認定することができるものというべ
く、又その再度の第一審判決に対し控訴の申立があつた場合には、再度の控訴裁判
所も亦第一次控訴判決の判断に拘束されることなく自由に再度の第一審判決の事実
認定の当否を審査できるものといわなければならない。
 してみれば原判決がその挙示する証拠によつて被告人に対し原判決判示第一の各
窃盗の事実及び同判示第二の銃砲等所持禁止令違反の事実の存在を認定したのは、
事実の誤認があつて、その誤認は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、
論旨は理由があり、原判決はすべて破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項により原判決を破棄し、同法第四百条但
書により当裁判所は自ら左のとおり判決する。
 本件公訴事実は、被告人は、第一、別紙一覧表記載のとおり、A、C(ただしC
は同表記載の13だけ)と共謀の上、昭和二十四年二月二十五日頃より同二十五年
六月十八日までの間十三回にわたり栃木県安蘇郡a町大字bc番地B方外十二ケ所
において同人外十二名所有の広巾格子服地約四十ヤール外衣類その他の物品約六十
点及び現金五百八十円を窃取し、第二、法定の除外事由がないのにかかわらず昭和
二十一年八月頃より昭和二十五年六月二十一日頃までの間同県佐野市d町e番地の
被告人自宅において刃渡約三十七糎の脇差一振を隠匿して所持したものであるとい
うにあるが、右の事実はすべてこれを証明するに足る証拠がないから刑事訴訟法第
三百三十六条により無罪の言渡をすべきものとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 岩田誠 判事 八田卯一郎 判事 司波実)
(別 紙)
<記載内容は末尾1添付>

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