弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決のうち上告人の敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人川上俊宏ほかの上告受理申立て理由第3について
1原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)地方税法349条1項は,土地に対して課する基準年度の固定資産税の課
税標準を,当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳又は土
地補充課税台帳に登録されたものとすると規定し,地方税法(平成11年法律第1
5号による改正前のもの)341条5号は,上記の「価格」とは適正な時価をいう
と規定している。平成9年度は上記の基準年度であり,これに係る賦課期日は,地
方税法359条の規定により平成9年1月1日である。また,地方税法(平成11
年法律第160号による改正前のもの)403条1項は,固定資産の価格は自治大
臣が定める地方税法(平成11年法律第87号による改正前のもの)388条1項
所定の固定資産評価基準(以下「評価基準」という。)によって決定しなければな
らないと規定している。
(2)被上告人らの被相続人Aは,第1審判決別紙目録一,二の各1記載の各土
地(以下,順に「本件土地1」,「本件土地2」といい,併せて「本件各土地」と
いう。)の所有者であって,本件各土地の固定資産税の納税者であった。
(3)東京都知事は,本件各土地の平成9年度の価格を,本件土地1につき7億
7706万5460円,本件土地2につき1億0994万3300円と決定し,こ
れが土地課税台帳に登録された。
(4)Aは,上記価格を不服として,上告人に対し,地方税法(平成11年法律
第15号による改正前のもの)432条1項に基づき,審査の申出をした。上告人
は,平成10年3月24日付けでこれを棄却する旨の決定(以下「本件決定」とい
う。)をした。
2本件は,被上告人らが,本件決定において認定された本件各土地の価格が平
成9年1月1日における適正な時価を超えている旨を主張するほか,上記価格が評
価基準によって決定される価格を超えている旨等をも主張して,本件決定の取消し
を求める事案である。
3原審は,前記事実関係等の下において次のとおり判断し,本件決定中,本件
土地1につき価格3億8929万9728円を超える部分を,本件土地2につき価
格5489万2532円を超える部分をそれぞれ取り消すべきものとした。
(1)固定資産税は,財産や収益に着目して課される物税であって,固定資産自
体がこれを負担し,当該固定資産によって標準的に得られる収益に課されるもので
ある。したがって,その課税標準である固定資産の適正な時価は,値上がり益や将
来の収益の現在価値を含まない,その年度において当該固定資産から得ることので
きる収益を基準に資本還元した価格,すなわち,収益還元価格によって算定されな
ければならない。
(2)本件各土地の平成9年1月1日における収益還元価格は,本件土地1につ
き3億8929万9728円,本件土地2につき5489万2532円と認めるの
が相当であるから,本件各土地の登録価格の決定には上記各金額を超える部分にお
いて違法があり,この登録価格についてされた審査の申出を棄却した本件決定にも
同じ違法がある。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
土地に対する固定資産税は,土地の資産価値に着目し,その所有という事実に担
税力を認めて課する一種の財産税であって,個々の土地の収益性の有無にかかわら
ず,その所有者に対して課するものであるから,その課税標準とされている土地の
価格である適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すな
わち,客観的な交換価値をいうと解される(最高裁平成10年(行ヒ)第41号同
15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。
上記の適正な時価を,その年度において土地から得ることのできる収益を基準に
資本還元して導き出される当該土地の価格をいうものと解すべき根拠はない。ま
た,一般に,土地の取引価格は,上記の価格以下にとどまるものでなければ正常な
条件の下に成立したものとはいえないと認めることもできない。
5以上と異なる見解に立って,本件各土地の平成9年1月1日における客観的
な交換価値を確定することなく,本件決定中本件各土地の前記収益還元価格を超え
る部分を取り消すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明ら
かな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄
を免れない。そして,本件決定に係る本件各土地の価格が同日におけるその客観的
な交換価値及び評価基準によって決定される価格を上回るものでないかどうかにつ
いて審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官今井功裁判官滝井繁男裁判官津野修裁判官
中川了滋裁判官古田佑紀

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