弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2法務大臣が控訴人に対して平成17年11月28日付けでした行政文書不開
示決定処分のうち,平成17年度司法試験第2次試験口述試験に関する下記資
料を不開示とした部分を取り消す。

(1)問題
(2)想定問答集((1)の問題に対する模範解答,受験者の想定される回答,学
説及び判例を記載したもの)
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,控訴人が,法務大臣に対し,行政機関の保有する情報の公開に関す
る法律(以下「情報公開法」という。)4条1項に基づき,平成17年度司法
試験第2次試験口述試験に関する文書の開示を請求したところ,当該請求に係
る文書のうち一部のものについては開示決定を受けたものの,その余のものに
ついては行政文書として作成し,又は取得しておらず,保有していないことを
理由として不開示決定を受けたため,これを不服として,当該不開示決定の取
消しを求める事案である。
前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張の要旨については,次のとお
り付け加えるほか,原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」1から3
までに記載のとおりであるから,これを引用する。
2控訴人の当審における補充的主張
(1)争点(1)について
行政文書の定義である「組織的に用いる」(情報公開法2条2項)の意義
は,組織の構成員全員が統一的,画一的な利用の仕方をしているか否かとは
関係がなく,組織の構成員ならば誰でも利用可能な状態にあることである。
また,被控訴人は,本件問答案を行政文書として保管することを要求する
のは,司法試験における口述試験の在り方そのものを否定すると主張して,
その根拠の1つとして,本件問答案を人事課が保管すると考査委員に本件問
答案どおりの発問を要求するかの誤解を与えたり,萎縮効果を及ぼす旨を主
張するが,口述試験の問題の一部であるパネルを人事課が保管しているにも
かかわらず,パネルを利用するかどうかも各考査委員の裁量に任されており,
その使用について何らの誤解も萎縮効果も生じていないことに鑑みれば,本
件問答案を人事課が保管したからといって,何らの弊害も生じない。
更に,最終的に作成された文書が自己専用文書に当たる場合は,その作成
過程で参考にした文書は当然自己専用文書になるという見解は,行政庁があ
る文書を開示したくないと欲すれば,当該文書を参考資料として個人的メモ
を作成することにより行政文書性を喪失させればよいという極めて不合理な
事態を生じさせるから,独自の見解である。手控えは個人的な検討段階にあ
り,その前段階である問答案は手控え以上に個人的検討段階のものであるか
ら,行政文書と解するのは不当であるという被控訴人の見解は,採り得ない。
(2)争点(3)について
考査委員が手控えを作成しているのであるから,手控えの物理的存在は明
らかである以上,控訴人が開示を求めた文書に手控えが含まれているか不明
であったことは,開示を求められた文書が物理的不存在か,行政文書不該当
かを明示できない正当理由にはなり得ない。本件問答案が行政文書である以
上,法務大臣がこれを管理しなければならず(情報公開法22条(平成15
年法律第61号による改正前は37条)),人事課が管理していないのは,
法律違反であり,この点からも,前記明示ができない正当理由にはなり得な
い。
3被控訴人の当審における補充的主張(争点(1))
口述試験においては,各考査委員が組織的に統一的発問を実施しているので
はなく,考査委員及び受験者ごとに,異なる発問,問答がなされる性質のもの
であり,ある考査委員が作成した問答案について,考査委員会において,方針
の統一や確認等が行われることはない上,問答案の実際の試験における利用や
問答案の処分については各考査委員の判断に委ねられており,かかる状況は,
本件問答案が組織的に用いられるものではないことを裏付けるものである。口
述試験に当たり,考査委員が,別の考査委員の作成した問答案に,自ら,加筆
修正するなどして手控えとし,これを参考として実際の口述試験で発問を行う
場合において,手控えは,当該考査委員が発問するに当たっての個人的な検討
段階にあるものというべきであり,その前段階である問答案は,手控え以上に
個人的な検討段階のものというべきであるから,これを行政文書と解するのは
不当である。
第3当裁判所の判断
1認定事実
原判決の「第3争点に対する判断」1に記載のとおりであり,これを引用
する。
2本件不開示文書が情報公開法2条2項にいう「行政文書」に該当するかにつ
いて(争点(1))
弁論の全趣旨によれば,控訴人が本件訴訟において開示を求めている文書は,
本件不開示文書のうちの本件問答案と認められ,本件不開示決定のうち控訴人
が取消しを求めている部分も,本件問答案を不開示とした部分のみと認められ
るから,原判決の引用に係る前記認定事実に基づき,控訴人が開示を求めてい
る文書である本件問答案が情報公開法2条2項にいう「行政文書」に該当する
か否かについて,検討する。
(1)情報公開法2条2項柱書きは,「この法律において『行政文書』とは,
行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び電磁的記録
(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができな
い方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって,当該行政機関の職員
が組織的に用いるものとして,当該行政機関が保有しているものをいう。た
だし,次に掲げるものを除く。」と規定している。本件問答案が同条2項た
だし書のいずれにも該当しないことは明らかであるから,本件問答案が同項
にいう「行政文書」に該当するというためには,①行政機関の職員が職務上
作成し,又は取得したこと,②文書,図画及び電磁的記録(電子的方式,磁
気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた
記録をいう。以下同じ。)であること,③当該行政機関の職員が組織的に用
いるものであること,④当該行政機関が保有していることのいずれの要件を
も満たすことが必要である。
(2)そこで,まず①の要件について検討すると,前記認定事実のとおり,本
件問答案は,法務大臣から任命された考査委員が,口述試験の実施の準備作
業の一環として,公表された出題テーマについて作成した口述試験の本件問
答案であるから,行政機関の職員が職務上作成したものということができ,
①の要件を満たす。また,②の要件についても,前記認定事実によれば,本
件問答案は書面であることが認められるから,②の要件も満たすことが明ら
かである。
(3)次に,③の要件について検討する。
ア情報公開法は,開示の対象となる「行政文書」の範囲について,行政機
関の保有する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を
国民に説明する責務が全うされるようにする(情報公開法1条)という情
報公開法の目的に照らし必要十分なものとするため,地方公共団体の情報
公開条例が要求していることが多いとされる決裁,供覧等の手続の終了を
要件とせず,業務上の必要性に基づき保有している文書であるかどうかの
実質的な要件をもって規定するものとしている。③の要件は,このような
情報公開法の目的を考慮に入れて解釈すべきものであり,「組織的に用い
る」とは,その作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく,
組織としての共用文書の実質を備えた状態,すわなち,当該行政機関の組
織において,業務上必要なものとして,利用され,又は保存されている状
態のものを意味すると解するのが相当である(以下,このような状態にあ
る文書を「組織共用文書」という。)。
他方で,<ア>職員が単独で作成し,又は取得した文書であって,専ら自
己の職務の遂行の便宜のためにのみ利用し,組織としての利用を予定して
いないもの(自己研さんのための研究資料,備忘録等),<イ>職員が自己
の職務の遂行の便宜のために利用する正式文書と重複する当該文書の写し,
<ウ>職員の個人的な検討段階にとどまるもの(決裁文書の起案前の職員の
検討段階の文書等。なお,担当職員が原案の検討過程で作成する文書であ
っても,組織において業務上必要なものとして保存されているものは除
く。)などは,組織的に用いるものには該当しないというべきである(以
下,このような状態にある文書を「自己専用文書」という。)。
そして,作成され,又は取得された文書が,どのような状態にあれば組
織的に用いるものといえるかについては,文書の作成又は取得の状況(職
員個人の便宜のためにのみ作成し,又は取得するものであるかどうか,直
接的又は間接的に管理監督者の指示等の関与があったものであるかどう
か),当該文書の利用の状況(業務上必要として他の職員又は部外に配付
されたものであるかどうか,他の職員がその職務上利用しているものであ
るかどうか),保存又は廃棄の状況(専ら当該職員の判断で処分できる性
質の文書であるかどうか,組織として管理している職員共用の保存場所で
保存されているものであるかどうか)などを総合的に考慮して実質的な判
断を行うのが相当であるから,以下,これらの点について,検討する。
イ前記認定事実によると,本件問答案は,各試験科目の考査委員らの話合
いに基づき定められた複数のテーマないし事例について,複数の考査委員
が,自ら考えるところの出題の仕方や予想される解答を記載した書面であ
って,作成された書面は,憲法並びに民法及び民事訴訟法については,同
一日の出題を担当する考査委員に配付され,刑法及び刑事訴訟法について
は,希望する他の考査委員に参考までに交付されるものであるが,憲法並
びに刑法及び刑事訴訟法については,考査委員が本件問答案についてその
内容を議論したり,話合いを行うことはない。そして,この本件問答案の
配付を受けた考査委員の多くは,これに自らの考えに従って書き込みをし
たり,これに基づいて自ら文書を作成するなどして,自らが口述試験の際
に使用するための手控えとなる想定問答等を作成し,この手控えに基づい
て受験者に対する発問を行うというものである。また,この本件問答案は,
遅くとも,各考査委員がそれぞれ口述試験の実施を終了した時点でその文
書としての役割を終えることとなり,不要となった本件問答案の処分の方
法についての特段の定めはなく,個々の考査委員の判断で処分されている。
ところで,口述試験については,法令上も,また,試験の性質上も,統
一的な発問が要求されておらず,考査委員は,同一テーマに基づくことな
く,独自のテーマについて出題をする権限を有しており,発問,出題及び
採点は実質的に各考査委員の裁量にゆだねられていること,口述試験の発
問,出題又は解答について,1人の考査委員が作成した本件問答案につい
て,司法試験委員会や考査委員会議等による指示,関与等はされていない
こと,本件問答案を作成した考査委員は,他の考査委員がこれを用いて発
問することまでを予定して作成し,交付したものではなく,また,交付を
受けた考査委員にとっては,自らが行う発問の準備として作成する自己の
手控え等の資料作成のための一資料として用いるに過ぎないから,作成し
た考査委員も,他の考査委員のそのような利用を想定して作成,交付した
に過ぎないこと,保存又は管理の方法としても,本件問答案は人事課にお
いて保存又は管理がされていないことが認められる。
ウそうすると,本件問答案は,個々の考査委員が自らの裁量と権限で行う
発問,出題,採点を行う際に,その便宜のために作成した自己使用のため
の文書であって,他の考査委員がそれぞれの裁量と権限で行う発問,出題,
採点を行う際に作成するそれぞれの手控えの作成の便宜のために,同一日
を担当する他の考査委員,あるいは特に希望する考査委員に配布されるに
過ぎず,参考資料として統一的に利用されることを想定して配布されるも
のではない。ましてや,個々の考査委員が行う発問,出題,採点以外に複
数の考査委員が共同して行う行為のために共同して使用することが予定さ
れているわけでないし,個々の考査委員が行う発問,手段,採点に必要な
ものとして配布されることが定められているものでもなく,考査委員の合
議による判定に基づき,司法試験の合格者を司法試験委員会が決定する際
に使用されているものでもない。そうすると,本件問答案は,考査委員全
体の合議制機関である考査委員会議においてその必要のために組織的に利
用されるものとはいえないというべきである。このような本件問答案の文
書としての性質は,口述試験においては統一的な発問が要求されておらず,
各考査委員は配付を受けた本件問答案の利用を強制されず,仮に本件問答
案を利用する場合であっても,各考査委員がする発問の準備のための一資
料として便宜のために使用するに過ぎず,本件問答案の作成,配付,利用,
保存等について司法試験委員会や人事課等の関与がなく,不要となった本
件問答案については,個々の考査委員の判断で処分されているという利用
や廃棄の実情にも反映しているとみることができる。
(4)このような本件問答案の作成,利用及び保存等の状況に照らすと,本件
問答案は,その作成者である1人の考査委員が自らの便宜のために作成した
ものであって,他の考査委員に交付された場合には,他の考査委員がそれを
自己の便宜のために利用することは想定されているものの,合議制機関とし
ての司法試験委員会において,各考査委員が組織的に必要性に基づき作成,
又は利用しているものとはいえないから,前記④の要件を判断するまでもな
く,控訴人が開示を求めている本件問答案は,情報公開法2条2項にいう
「行政文書」に該当しないと解すべきである。
(5)仮に,本件問答案については③の要件を満たすものと解すべきであると
しても,現時点では,法務大臣は,同文書を保有していないものというべき
である。その理由については,原判決70頁6行目「前記認定事実による
と,」から同頁19行目末尾まで及び同71頁3行目「なお,」から同頁1
0行目末尾まで記載のとおりであるからこれを引用する。そうすると,控訴
人の本件請求は,この点において理由がないこととなる。
3本件不開示決定について理由不備の違法があるか(争点(3))について
(1)原判決「事実及び理由」「第3争点に対する判断」5に記載のとおり
であるからこれを引用する。
(2)控訴人は,本件不開示決定が理由不備であると主張する根拠の一つとし
て,本件問答案が行政文書に該当し,法務大臣がこれを管理しなければなら
ないこと(情報公開法22条(平成15年法律第61号による改正前は37
条))をも主張するが,前記説示のとおり,本件問答案は行政文書に該当し
ないから,控訴人の主張する根拠はその前提を欠くものである。したがって,
本件不開示処分を取り消すべき事由はない。
第4結論
以上によれば,本件問答案は行政文書には当たらず,控訴人の本件処分取消請
求に係る文書開示請求はその要件を欠くものであり,本件不開示決定に理由不備
の違法もないから,本件処分取消請求は棄却すべきものであるところ,これを却
下した原判決につき,被控訴人は控訴していないから,不利益変更禁止の原則に
より,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第17民事部
裁判長裁判官南敏文
裁判官安藤裕子
裁判官生野考司

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