弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 原判決中、第一審判決別紙物件目録第一の土地のうち、同判決別紙
図面「ホ」、「ヘ」、「ト」、「チ」、「ホ」点を順次結ぶ直線で囲まれた土地に
係る部分につき上告人らの控訴を棄却した部分を破棄し、右部分につき本件を大阪
高等裁判所に差し戻す。
     二 上告人らのその余の上告を棄却する。
     三 前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 一 上告代理人水野武夫、同尾崎雅俊、同飯村佳夫、同田原睦夫、同栗原良扶の
上告理由第一点について
 原判決挙示の証拠関係に照らし肯認するに足る事実関係のもとにおいて、所論の
点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は
ないことに帰する。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事
実の認定を非難するか、又は判決の結論に影響しない事由若しくは独自の見解に基
づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 二 同第二点及び第三点について
 1 原審は、上告人らの訴訟被承継人Dが昭和二九年一二月一〇日以来二〇年間
にわたり平穏公然に第一審判決別紙物件目録第一の土地(以下「本件土地」という。)
の占有を継続したことによりその所有権を時効取得したとして、被上告人の訴訟被
承継人Eに対し、右時効取得を原因とするDに対する所有権移転登記手続を求める
上告人らの本訴請求につき(なお、原審は、上告人らの一〇年の取得時効に基づく
所有権移転登記手続請求については、Dが占有の始め無過失とは認められないと判
断している。)、(一) 前記物件目録第三の土地(以下「a番bの土地」という。)
はEの所有であり、本件土地は、右a番bの土地の一部であつたが、昭和五一年三
月一九日に右土地から分筆された、(二) 同物件目録第二の土地(以下「a番cの
土地」という。)は、もとF所有のa番dの土地の一部をなしていたもので、Gが、
昭和一四年ころ、同女との交換契約により、同土地からa番bの土地に隣接する四
一坪の分筆を受けて取得したものであるところ、その当時はa番bの土地の方がa
番cの土地より若干地盤が高く、両土地の境界は石垣によつて判然としており、そ
の石垣の存した線は第一審判決別紙図面「ホ」、「ヘ」点を結ぶ直線であつた、(
三) Gは、その後、a番cの土地にa番bの地盤よりも高く盛土をしただけでな
く、右「ホ」・「ヘ」線を越えてその北側にも盛土をし、そののり面の裾が同図面
「A」、「B」点を直線で結ぶ線にまで及んだため、右石垣の存在も不明となり、
外観上は右「A」・「B」線より南の部分はa番cの土地の一部であるかのように
見える状態となつた、(四) Dは、昭和二九年一二月一〇日、Gから本件土地を含
む同図面「イ」、「ロ」、「B」、「A」、「イ」点を順次直線で囲んだ範囲の土
地をa番cの土地として買い受け、同日以降居宅の敷地としてその占有を継続した、
(五) Eは、昭和四一年にDを相手取つて京都簡易裁判所に訴えを提起し、分筆前
のa番bの土地とa番cの土地の境界は前記図面「ホ」、「ヘ」点を結ぶ直線であ
るとして両土地の境界確定を求めるとともに、土地所有権に基づき、本件土地のう
ち前記図面「ホ」、「ヘ」、「ト」、「チ」、「ホ」点を順次直線で結んだ範囲内
の土地(以下「本件土地部分」という。)の明渡を求めたところ、Dは、右境界は、
前記「A」・「B」線であると主張するとともに、仮に、右境界が前記「ホ」・「
ヘ」線であるとしても、本件土地部分は、Dがa番cの土地の一部として買い受け
たものであつて、占有の始め過失はなく、昭和二九年一二月一〇日から一〇年間占
有を継続したから、時効によりその所有権を取得したと主張した(以下「前訴」と
いう。)、(六) 前訴控訴審において、京都地方裁判所は、右両土地の境界を前記
「ホ」・「ヘ」線と確定し、本件土地部分明渡請求については、Dの取得時効の抗
弁は理由があり、本件土地部分の所有権はDの所有に帰したとして、右請求を棄却
すべき旨の判決をし、右判決は、そのころ確定した(以下「前訴確定判決」という。)、
(七) Dは、昭和五一年四月一日に本訴を提起したが、同五七年七月四日に死亡し、
相続人である上告人らが訴訟を承継した、との事実関係を確定した。
 2 原審は、右の事実関係のもとにおいて、(一) 所有者を異にする相隣接地の
一方の所有者甲が、境界を越えて隣接地の一部を自己の所有地として占有し、その
占有部分につき時効により所有権を取得したと主張している場合において、右隣接
地の所有者乙が甲に対して右時効完成前に境界確定訴訟を提起していたときは、右
取得時効は中断するものと解される、(二) 本件において、Dの訴訟承継人である
上告人らは、Dが土地境界線である前記「ホ」・「ヘ」線の北側の本件土地を昭和
二九年一二月一〇日以降自己所有地として占有しているとして、本件土地につき二
〇年の取得時効を主張しているが、Eは、右取得時効期間満了前である昭和四一年
に分筆前のa番bの土地とa番cの土地の境界確定を求める前訴を提起し、前記の
とおりに境界を確定する判決を得ているのであるから、前訴の提起によつて本件土
地についての前記二〇年の取得時効は中断し、Dが本訴を提起した昭和五一年四月
一日までには右時効は完成していない、(三) 前訴確定判決は、境界確定請求と併
合審理された本件土地部分の所有権に基づく明渡請求に関しDの一〇年の取得時効
の抗弁を認めて、本件土地部分の所有権をDが取得した旨認定判断しているが、右
認定判断は判決理由中のそれにすぎないから原審を拘束するものではなく、原審と
しては、前訴で判断された本件土地部分を含む本件土地について独自に判断した結
果、右一〇年の取得時効は認められないとの結論に至つたものであり、この結論に
立つて前訴確定判決をみれば、その境界確定部分は、所有者の異なる相隣接地の境
界を確定するという一般的な境界確定判決をした結果となつているものと評価でき
るから、前訴確定判決の前記認定判断は、前訴境界確定訴訟提起に前記取得時効を
中断する効力を認めることの妨げにならない、(四) 前訴確定判決は、E主張のと
おり境界を確定したものであるから、前訴に取得時効を中断する効力がないとして、
Eに対し、別途取得時効を中断する効力を有する手段を講じることを求めることは、
殆ど不可能を強いるものというべきである、と判断して、前記請求を排斥し、上告
人らの控訴を棄却している。
 3 しかしながら、原審の右判断は、後記部分を除き、にわかに是認することが
できない。その理由は、次のとおりである。
 一般に、所有者を異にする相隣接地の一方の所有者甲が、境界を越えて隣接地の
一部を自己の所有地として占有し、その占有部分につき時効により所有権を取得し
たと主張している場合において、右隣接地の所有者乙が甲に対して右時効完成前に
境界確定訴訟を提起していたときは、右訴えの提起により、右占有部分に関する所
有権の取得時効は中断するものと解されるが(大審院昭和一四年(オ)第一四〇六
号同一五年七月一〇日判決・民集一九巻一二六五頁、最高裁昭和三四年(オ)第一
〇九九号同三八年一月一八日第二小法廷判決・民集一七巻一号一頁参照)、土地所
有権に基づいて乙が甲に対して右占有部分の明渡を求める請求が右境界確定訴訟と
併合審理されており、判決において、右占有部分についての乙の所有権が否定され、
乙の甲に対する前記明渡請求が棄却されたときは、たとえ、これと同時に乙の主張
するとおりに土地の境界が確定されたとしても、右占有部分については所有権に関
する取得時効中断の効力は生じないものと解するのが相当である。けだし、乙の土
地所有権に基づく明渡請求訴訟の提起によつて生ずる当該明渡請求部分に関する取
得時効中断の効力は、当該部分に関する乙の土地所有権が否定され右請求が棄却さ
れたことによつて、結果的に生じなかつたものとされるのであり、右訴訟において、
このように当該部分の所有権の乙への帰属に関する消極的判断が明示的にされた以
上、これと併合審理された境界確定訴訟の関係においても、当該部分に関する乙の
所有権の主張は否定されたものとして、結局、取得時効中断の効力は生じないもの
と解するのが、境界確定訴訟の特殊性に照らし相当というべきであるからである。
 これを本件についてみるに、前記の確定事実によれば、上告人らは、Dが本件土
地を昭和二九年一二月一〇日以降二〇年間にわたり平穏公然に占有してきたとして、
取得時効による所有権取得を主張するものであるところ、Eが右時効完成前の昭和
四一年に提起した前訴において、前記「ホ」・「ヘ」線を分筆前のa番bの土地と
a番cの土地との境界と確定するとともに、本件土地の一部である本件土地部分に
ついて、Dの一〇年の取得時効を肯定してEの所有権を否定し、右部分につき土地
所有権に基づく明渡請求を棄却すべき旨の前訴確定判決がされたというのであるか
ら、前記の説示に照らし、前訴境界確定訴訟の提起による取得時効中断の効力は、
本件土地のうち本件土地部分を除くその余の部分については生じているものの、本
件土地部分については生じていないものというべきである。請求棄却の判決がされ
たことにより取得時効中断の効力が発生しないとされるのは、当該判決がされたこ
とによるものであるから、前訴におけるDの一〇年の取得時効を肯定した認定判断
が理由中のそれであつて原審を拘束するものでなく、原審としては右取得時効を否
定する判断に達したからといつて、本件土地部分について前訴境界確定訴訟の提起
による時効中断の効力を肯定する理由とすることはできないものというべきである。
 以上によれば、これと異なり、前記のような理由で、前訴境界確定訴訟の提起に
よつて本件土地についてのDの前記取得時効は中断しているとした原判決には、本
件土地部分に関する限り、法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法が判決に影
響を及ぼすことは明らかというべきであるから、論旨は、右の限度で理由があるも
のというべきである。そうすると、原判決は、本件土地部分に係る部分について上
告人らの控訴を棄却した部分につき破棄を免れないが、本件土地のうち本件土地部
分を除くその余の部分についての原審の判断は、結局正当として是認できるものと
いうべきであるから、この部分に関する論旨は理由がない。そして、右破棄部分に
ついては、上告人らの前記本訴請求の当否につき更に審理を尽くさせる必要がある
から、右部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
 三 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条一項、九五条、八九条、
九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    貞   家   克   己

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