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平成25年1月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第17612号信用毀損行為差止等請求事件(以下「第1事件」と
いう。),同年(ワ)第20390号損害賠償請求事件(以下「第2事件」とい
う。),同年(ワ)第25447号損害賠償請求事件(以下「第3事件」という。),
平成24年(ワ)第8301号損害賠償請求事件(以下「第4事件」という。)
口頭弁論終結日平成24年10月12日
判決
大韓民国ソウル特別市<以下略>
第1事件原告・第2事件被告・第3事件原告・第4事件被告
株式会社シージェス
エンターテイメント
(C-JeSENTERTAINMENTCO.,LTD)
(以下「原告シージェス」という。)
大韓民国ソウル特別市<以下略>
第3事件原告甲
(以下「原告甲」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士榊原輝
同阿部俊和
同西島和
同阿部一博
東京都港区<以下略>
第1事件被告・第2事件原告・第3事件被告・第4事件原告
エイベックス・マネ
ジメント株式会社
(以下「被告エイベックス」という。)
同訴訟代理人弁護士升本喜郎
同吉野史紘
同金子剛大
同訴訟復代理人弁護士(第4事件につき訴訟代理人)
那須勇太
東京都墨田区<以下略>
第2事件被告財団法人日本相撲協会
(以下「被告相撲協会」という。)
同訴訟代理人弁護士西尾孝幸
同吉岡裕貴
同辻角智之
同小堀優
同伊村健二朗
同鈴木景
同三浦謙吾
主文
1被告エイベックスは,原告シージェスが,日本において,被告エイベックス
の承諾なく,JYJことA,B及びCにコンサート活動を行わせることが,日
本におけるJYJの独占的なマネジメント業務を遂行する被告エイベックスの
権利を侵害する旨を,文書又は口頭で第三者に告知・流布してはならない。
2被告エイベックスは,原告シージェスに対し,金6億6595万7108円
及び内金6億1411万7108円に対する平成23年8月10日から支払済
みまで年6分の割合による金員,内金5184万円に対する同日から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
3被告エイベックスは,原告甲に対し,金100万円及びこれに対する平成2
3年8月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告らのその余の請求及び被告エイベックスの請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,全事件を通じ,原告シージェスに生じた費用の5分の3,原告
甲に生じた費用の5分の1及び被告相撲協会に生じた費用を被告エイベックス
の負担,被告エイベックスに生じた費用の5分の2を原告シージェスの負担,
被告エイベックスに生じた費用の50分の1を原告甲の負担とし,その余は各
自の負担とする。
6この判決は,2項及び3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
(1)主文1項と同旨
(2)被告エイベックスは,自ら又は第三者をして,原告シージェスが,JY
JことA,B及びCに日本におけるアーティスト活動を行わせる業務及び同
業務に附帯する一切の業務を妨害してはならない。
2第2事件
原告シージェス及び被告相撲協会は,被告エイベックスに対し,連帯して金
1億4340万円及びこれに対する平成23年8月11日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
3第3事件
(1)被告エイベックスは,原告シージェスに対し,金1億5000万円及び
これに対する平成23年2月24日から支払済みまで年6分の割合による金
員を支払え。
(2)被告エイベックスは,原告シージェスに対し,金12億4306万99
08円及びこれに対する平成23年8月10日から支払済みまで年6分の割
合による金員を支払え。
(3)被告エイベックスは,原告甲に対し,金500万円及びこれに対する平
成23年8月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被告エイベックスは,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を,エイベック
スグループ・ホールディングス株式会社のホームページに本判決確定の日か
ら6か月間,14ポイント活字をもって掲載せよ。
4第4事件
原告シージェスは,被告エイベックスに対し,金1億円及びこれに対する平
成24年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1概要
以下,「A」の表記を「A’」,「C」の表記を「C’」とする場合がある
が,いずれも証拠等の原文に従った表記である。
(1)第1事件
韓国人アーティストであるJYJことA,B及びC(以下,上記3名を併
せて「JYJ」という。)との間で,専属的にマネジメントを行う契約(以
下「基本専属契約」という。)を締結した原告シージェスが,被告エイベッ
クスとの間でJYJの日本におけるアーティスト活動に関して締結した専属
契約(以下「本件専属契約」という。)について,被告エイベックスの義務
違反により解除した(以下「本件解除」という。)として,被告エイベック
スに対し,①被告エイベックスが,原告シージェスの取引先に告知し,ホー
ムページで公表している「本件専属契約は現在も有効に成立しており,原告
シージェスが被告エイベックスの承諾を得ることなくJYJにアーティスト
活動を行わせることは,日本におけるJYJの独占的なマネジメント業務を
遂行する被告エイベックスの権利を侵害する」旨の事実は虚偽であるなどと
して,不正競争防止法2条1項14号に該当する旨主張し,同法3条1項に
基づく差止請求として,被告エイベックスが同旨の事実を文書又は口頭で第
三者に告知・流布することの禁止を求めるとともに,②被告エイベックスは,
本件解除を争い,原告シージェスに対し,被告エイベックスを介することな
く日本においてJYJのアーティスト活動を行うことが判明した場合,原告
シージェスの業務活動を阻止する行為を行う旨を通知したなどとして,原告
シージェスの業務遂行権が妨害されている旨主張し,業務遂行権に基づく差
止請求として,被告エイベックスが原告シージェスの業務を妨害することの
禁止を求めた事案である。
(2)第2事件
被告エイベックスが,原告シージェス及びJYJのコンサート会場として
両国国技館の利用を許可した被告相撲協会に対し,被告エイベックスの承諾
なくJYJのコンサートを両国国技館で開催したこと(以下「国技館コンサ
ート」という。)が本件専属契約に違反し,被告相撲協会については債権侵
害の共同不法行為に当たるなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求
(原告シージェスについては債務不履行に基づく損害賠償請求との選択的併
合)として1億4340万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平
成23年8月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金)の連帯支払を求めた事案である。
(3)第3事件
原告シージェスが,被告エイベックスに対し,本件専属契約の契約金等が
未払であるなどと主張して,①本件専属契約に基づく未払契約金の支払請求
又は債務不履行に基づく損害賠償請求として1億5000万円(附帯請求と
して本件解除の日の翌日である平成23年2月24日から支払済みまで商事
法定利率の年6分の割合による遅延損害金),②㋐本件専属契約に基づく未
払分配金等の支払請求として4511万7108円,㋑債務不履行に基づく
損害賠償請求(逸失利益)として11億3119万7416円,㋒コンサー
ト活動の妨害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として5508万
3500円,㋓著作隣接権(実演家の権利)の侵害を理由とする不法行為に
基づく損害賠償請求として3億1889万2150円の合計15億5029
万0174円の一部である12億4306万9908円(附帯請求として訴
状送達の日の翌日である平成23年8月10日から支払済みまで商事法定利
率の年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めるとともに,原告甲が,
被告エイベックスに対し,被告エイベックスの親会社であるエイベックス・
グループ・ホールディングス株式会社(以下「エイベックスGHD」とい
う。)のホームページにおいて名誉を毀損された旨主張して,③不法行為に
基づく損害賠償請求として慰謝料500万円(附帯請求として訴状送達の日
の翌日である平成23年8月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金)の支払,④民法723条に基づく名誉回復等の措置請
求として別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を求めた事案である。
(4)第4事件
被告エイベックスが,原告シージェスに対し,被告エイベックスの承諾な
くJYJのコンサートを国営ひたち海浜公園で開催したこと(以下「ひたち
なかコンサート」という。)が本件専属契約に違反するなどと主張して,不
法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として,9億6605万600
0円の一部である1億円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成2
4年4月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金)の支払を求めた事案である。
2前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1)当事者等
ア原告シージェス及び原告甲
原告シージェスは,韓国において,アーティストのマネジメント等を業
とする株式会社である。原告甲は,原告シージェスの代表者である。
イJYJ
JYJは,韓国のアーティストグループ「東方神起」5名のメンバーの
うちの3名であり,現在は「JYJ」のグループ名でアーティスト活動を
している。
ウ被告エイベックス
被告エイベックスは,エイベックスGHDの100%子会社であり,ア
ーティスト,芸能タレント等のマネジメント等を業とする株式会社である。
エ株式会社ザックコーポレーション
株式会社ザックコーポレーション(以下「ザック」という。)は,コン
サート,イベントの企画,制作や情報の提供販売,チケット販売に関する
事業等を業とする株式会社である。ザックは,平成24年2月,当庁に対
し,再生手続開始を申し立て,同年3月,再生手続開始決定を受けた(ザ
ックは,第2事件被告であるが,当該開始決定により訴訟手続が中断し,
本件から分離された。)。その後,ザックは,同年7月,破産手続開始決
定(職権破産)を受けた。
(再生手続・破産手続につき当裁判所に顕著)
オ被告相撲協会
被告相撲協会は,国技である相撲道を研究し,相撲の技術を練磨し,そ
の指導普及を図ること等を目的として設立された財団法人であり,その事
業の一環として,両国国技館の維持経営を行っている。
カその他
株式会社S.M.エンターテインメント(以下「S.M.」という。)
は,韓国において,東方神起との間で,アーティスト活動に関する専属契
約を締結していた会社である。
(乙41)
(2)本件専属契約に至る経過
被告エイベックスは,平成16年7月1日,S.M.との間で,日本にお
ける東方神起の専属的なマネジメント業務を行うための専属契約を締結した。
他方,JYJは,平成19年7月31日,ソウル中央地方法院に対し,S.
M.を相手方として,S.M.との専属契約の効力停止を求める仮処分を申
し立てた。これに対し,ソウル中央地方法院は,同年10月27日,S.M.
に対し,JYJの芸能活動を妨害してはならないことなどを内容とする仮処
分を決定した。
そこで,被告エイベックスは,本案訴訟においてもS.M.の専属契約の
効力が否定され,自らのJYJに対するマネジメント権限が無権限となるリ
スクを考慮し,日本におけるJYJのマネジメント業務の遂行を確実なもの
とするため,原告シージェスと専属契約を締結することとした。
(以上につき甲28の1,甲87,乙41)
(3)本件専属契約
原告シージェスは,本件専属契約の締結に先立ち,JYJとの間で,原告
シージェスがJYJのアーティスト活動に関し,専属的にマネジメントを行
う契約を締結した(基本専属契約)。原告シージェスは,平成22年2月2
6日,基本専属契約を前提として,被告エイベックスとの間で,JYJの日
本におけるアーティスト活動に関し,別紙本件専属契約の条項記載の内容の
契約を締結した(本件専属契約)。
(本件専属契約の条項につき甲1)
(4)被告エイベックスの発表等
被告エイベックスは,平成22年9月16日,エイベックスGHDのホー
ムページにおいて,以下のとおり,「B/A’/C’日本における活動休
止のお知らせ」と題する発表をした(以下「本件公表」という場合がある。
また,本件公表に係る事実のうち,下線部を付した箇所を「本件摘示事実」
という。)。被告エイベックスは,同日以降,JYJの日本における公演等
は一切行っていない(以下,本件公表と併せて「本件対応」という場合があ
る。)。また,本件公表は,その後もエイベックスGHDのホームページに
掲載されている。
「当社の100%子会社,エイベックス・エンタテイメント株式会社(本
社:東京都港区)専属アーティストであるB/A’/C’の日本におけるア
ーティスト活動を当分の間休止いたしますので,下記のとおりお知らせいた
します。

日本において現在B/A’/C’のマネジメント業務を行っている韓国法
人C-JeSENTERTAINMENTCO.,LTDの代表者が,
暴力団幹部の経歴をもつ父親の威力を背景に担当アーティストを恐喝し,強
要罪で実刑判決を受け服役していた,との報道につき,当社は事実関係を調
査しておりました。
その結果,現時点での暴力団との関係こそ明らかではないものの,その他
につきましては上記報道がすべて事実であることが判明いたしました。
また,韓国で係争中のB/A’/C’の専属契約確認訴訟の進展により,
彼らと当社との専属契約自体が無効とされる可能性が高まってまいりました。
当社はコンプライアンス重視,企業倫理遵守の経営方針から,これらの問
題が解決されない限り,彼らのアーティスト活動をマネジメントするべきで
はないと判断いたしました。(以下省略)」
(本件公表につき甲2,27)
(5)本件解除についての通知と回答
原告シージェスは,被告エイベックスに対し,平成23年1月21日付け
通知書をもって,本件対応は,本件専属契約5条,15条,16条の義務に
違反するので,本件専属契約17条(2)に基づいて,30日以内に当該違反
事項を治癒するよう催告するとともに,当該期間内に治癒されなかった場合
には,本件専属契約を解除する旨を通知し,当該通知書は同月24日被告エ
イベックスに到達した。
これに対し,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,平成23年2
月1日付け回答書において,本件専属契約における委任の趣旨は,あくまで
も「当社によるJYJの日本国内における『適正・適法』なアーティスト活
動に関するマネジメント」であるとし,「貴社の代表者が,暴力団幹部の経
歴をもつ父親の威力を背景に担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決
を受け服役していたという事実が判明したこと,及び,韓国での係争中の訴
訟の結果次第では本件契約(注記:本件専属契約を指す。以下,引用文につ
き同じ。)が無効となる可能性があることといった事情が存する以上,当社
が上記の委任の本旨に従った事務処理を行うために,これらの事情が克服さ
れ,JYJの日本国内における『適正・適法』なアーティスト活動のマネジ
メントが実現できるようになるまで,マネジメントを一時的に休止すること
も,事務処理の方法として,適正かつ妥当なものといえることは明らかで
す。」,「本件対応は,…JYJの日本でのアーティスト活動に関するマネ
ジメントの一時的な休止に過ぎず,換言すれば,貴社の代表者が交替し,韓
国での訴訟の結果,本件契約の有効性に問題がないことが判明すれば,マネ
ジメント業務を再開するつもりであることが明らかにされております。」な
どとした上で,「本件対応は,本件契約のいずれの条項にも違反しておらず,
本件契約の解除事由は一切存しないものと思料いたします。当社としまして
は,本件契約を解消する意思はなく,契約の解除事由もありませんので,本
件契約は,今後も引き続き有効に成立しているものと考えております。」,
「なお,万が一,貴社が,本件契約の解除を前提に,当社を介さず日本にお
けるJYJのアーティスト活動を強行された場合には,必要な法的措置を採
らざるを得ないこととなりますので,その旨ご承知おき下さい。」などと回
答した。
原告シージェスは,被告エイベックスに対し,平成23年2月22日付け
通知書をもって,原告シージェスが指摘する違反事項について30日を経過
するも治癒がなかったとして,本件専属契約は,17条(2)に基づいて解除
された旨を通知し,当該通知書は同月23日被告エイベックスに到達した
(本件解除)。
(以上につき枝番号を含めて甲3~5)
(6)国技館コンサートに至る経過
ア原告シージェスは,平成23年3月17日,ザックとの間で,横浜アリ
ーナにおいて,JYJのコンサートを共同主催する旨の契約を締結し,ザ
ックは,同月22日,関係者に対し,同年6月7日横浜アリーナにおいて,
JYJのコンサートを開催する旨通知した。
これに対し,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,平成23年
3月23日付け通知書をもって,本件専属契約について解除事由がなく,
本件専属契約は現在もなお有効に存続しているとし,「貴社が,本件契約
が解除されていることを前提に,当社を介することなく,JYJのアーテ
ィスト活動を行うことが判明した場合には,貴社のすべての取引先(テレ
ビ局,レコード製作会社,コンサートイベンター等)に対する事前の警告
等,これを阻止するために必要なあらゆる方策を講じる予定であることも,
併せて警告して参りました」などとして,上記コンサートを中止するよう
要求した。
また,被告エイベックスは,ザックに対し,平成23年3月23日付け
通知書をもって,上記コンサートを開催した場合には,ザックは,被告エ
イベックスが日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利
を有していることを知りながら,被告エイベックスに無断でJYJをイベ
ントに参加させることになるなどとして,上記コンサートの開催中止を要
求するとともに,損害賠償を請求することも検討せざるを得ない旨を通知
した。
(以上につき甲6,9,10,35,乙15)
イ被告エイベックスは,横浜アリーナに対し,平成23年3月28日付け
文書をもって,被告エイベックスは,原告シージェスとの間で本件専属契
約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行
う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でア
ーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可しな
いよう要求した。このため,横浜アリーナは,ザックに対し,同月30日
付け文書及び同年4月1日付け通知書をもって,興行権等の帰属を巡って
係争中であることが確認されたため,イベントの円滑な開催が困難な状態
にあるなどとして,横浜アリーナの利用申込みを承認することができない
旨を通知した。
(甲7,11の1及び2,甲35)
ウそこで,ザックは,さいたまアリーナに会場を変更し,平成23年4月
5日,そのホームページにおいて,JYJのコンサートのチケット販売を
開始した。しかし,被告エイベックスは,ザックに対し,同日付け通知書
をもって,上記コンサートの中止を要求するとともに,さいたまアリーナ
に対し,会場の利用を許可しないよう要求した。そのため,さいたまアリ
ーナは,ザックに対し,会場の利用を許可しない旨を通知するとともに,
同月14日,そのホームページにおいて,お知らせとして,出演が予定さ
れているアーティストの契約に関する問題が存在する中で,ザックに対し
て会場の利用を許可することは適切でないと判断した旨を掲載した。
(甲12,15,16,35)
エそのため,ザックは,再び会場を変更し,平成23年4月21日,被告
相撲協会に対し,コンサートを目的として,国技館の利用を申し込み,同
月25日使用料を支払った。他方,被告エイベックスは,被告相撲協会に
対し,同年5月10日付け文書をもって,原告シージェスとの間で本件専
属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的
に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本
でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可
しないよう要求し,また,同年6月2日付け文書をもって,同様の要求を
した上,会場を利用させると損害賠償請求を行わざるを得ない旨を通知し
た。
(甲35,乙21,22,丙2,8,9の1及び2)
オ原告シージェスとザックは,平成23年6月7日,国技館において,J
YJのコンサートを開催した(国技館コンサート)。
カその後,被告エイベックスは,株式会社ノースロードミュージック(一
般社団法人コンサートプロモーターズ協会会員)を含む数社に対し,平成
23年7月7日付け文書をもって,原告シージェスとの間で本件専属契約
を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う
権利があるなどとして,JYJのコンサート等の主催,企画,運営等に関
与すると損害賠償請求を行わざるを得ない旨を通知した。
(甲17,21,弁論の全趣旨)
(7)ひたちなかコンサート
ア原告シージェスとザックは,「頑張ろう日本・頑張れ茨城・復興支援コ
ンサートinひたち海浜公園実行委員会」を主催者として,国営ひたち海
浜公園において,平成23年10月15日及び16日,JYJの参加する
コンサートを開催した(ひたちなかコンサート)。
イ被告エイベックスは,ひたちなかコンサートに先立ち,国土交通省関東
地方整備局に対し,平成23年8月30日付け文書をもって,原告シージ
ェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジ
メント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを
介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,
会場の利用を許可しないよう要求するとともに,会場を利用させると損害
賠償請求を行わざるを得ない旨を通知した。
また,被告エイベックスは,「頑張ろう日本・頑張れ茨城・復興支援コ
ンサートinひたち海浜公園実行委員会」のメンバーであった株式会社J
TBコミュニケーションズに対し,平成23年9月8日付け通知書をもっ
て,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本において
JYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるなどとして,JYJ
のイベントの開催中止を要求するなどした。そのため,株式会社JTBコ
ミュニケーションズは,実行委員会のメンバーから離脱することになった。
(以上につき甲30~32,35)
ウ被告エイベックス(社長室部長ほか1名)は,ひたちなかコンサートの
直前である平成23年10月13日,ひたちなかコンサートの後援者であ
る茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商工会議所,水戸商工会
議所を訪問し,JYJはビザを取得していない旨,原告シージェスとの間
で本件専属契約を締結しており,被告エイベックスの承諾なくJYJのコ
ンサートを開催することはできない旨,ひたちなかコンサートを実行した
場合には被告相撲協会と同様に訴える旨を説明し,ひたちなかコンサート
を中止するよう要求した。
(弁論の全趣旨)
(8)未払の分配金等
ア本件専属契約では,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,JY
Jの実演活動の対価として,著作隣接権又は著作権が存続する期間中,本
件専属契約10条(1)②の定めに従って,アーティスト印税を算出して支
払うものとされ,JYJのコンサート等の出演に関する利益分配として,
同条(1)③の定めに従って,利益分配金額を算出して支払うものとされて
いた。
イ被告エイベックスは,原告シージェスに対し,平成22年10月から平
成23年3月分のアーティスト印税348万6331円が未払である(本
件解除後に発売されたCD及びDVDに対するアーティスト印税について
は,本件専属契約に基づく債務か否かに争いがあるため,上記金額に含め
ていない。)。
ウ被告エイベックスは,原告シージェスに対し,平成22年10月以降の
利益分配金3993万3342円が未払である。
エ被告エイベックスは,原告シージェスに対し,その他169万7453
円(平成23年12月19日現在)が未払である。
オ上記イ~エの合計は4511万7126円である。
(9)JYJのCD及びDVD
被告エイベックスが現在発売しているJYJのCD及びDVDは,別紙著
作物目録1~8記載のとおりである。
(10)原告甲についての韓国における刑事判決
原告甲は,平成19年5月16日,ソウル中央地方法院において,強要罪
に当たる犯罪事実を行ったと認定され,懲役8か月の実刑判決を言い渡され
たため,同判決に対して控訴した。そして,原告甲は,控訴審において,一
部の犯罪事実がなかったとして同判決が破棄されたものの,別紙認定犯罪事
実記載のとおり犯罪事実が認定され,懲役8か月の実刑判決が言い渡された
ため,その後刑務所に服役した。
(枝番号を含めて乙26,27,弁論の全趣旨)
3争点
(1)全事件共通
被告エイベックスの本件専属契約違反の有無(争点1-1)
(2)第1事件
ア不正競争防止法3条1項に基づく差止請求の成否(争点1-2)
イ業務遂行権に基づく差止請求の成否(争点1-3)
(3)第2事件
ア原告シージェスの本件専属契約違反の有無(争点2-1)
イ共同不法行為(債権侵害)の成否(争点2-2)
ウ損害額(争点2-3)
(4)第3事件
ア本件専属契約に基づく未払契約金の額(又は債務不履行に基づく損害賠
償としての未払契約金相当額)(争点3-1)
イ債務不履行に基づく損害賠償としての逸失利益の額(争点3-2)
ウコンサート活動の妨害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3
-3)
エ著作隣接権侵害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3-4)
オ名誉毀損の成否,損害額及び名誉回復措置の必要性(争点3-5)
(5)第4事件
ア原告シージェスの本件専属契約違反の有無(争点4-1)
イ共同不法行為(債権侵害)の成否(争点4-2)
ウ損害額(争点4-3)
第3争点に関する当事者の主張
1全事件共通
被告エイベックスの本件専属契約違反の有無(争点1-1)
(原告シージェスの主張)
(1)被告エイベックスは,本件専属契約締結後間もなくして,原告甲が過去
において刑事事件で実刑判決を受けており,現在も暴力団関係者と関係があ
るとして,本件専属契約を解約して,被告エイベックスとJYJとの間で,
直接,専属契約を締結するよう要求してきた。
これに対して,原告シージェスは,原告甲が過去において刑事事件で実刑
判決を受けたことは事実であるが,被告エイベックスもかかる事実を知った
上で本件専属契約を締結していたのであるから,本件専属契約締結後にかか
る事実を再燃させるのは不合理であること,また,原告甲が暴力団関係者と
関係があるなどという事実は全く存しないことを説明して,被告エイベック
スとの間で円満な解決を図ろうと誠実に協議する姿勢を示したが,被告エイ
ベックスは,原告シージェスとの協議に誠実に応じることなく,被告エイベ
ックスの意向を一方的に押しつけてきた。
被告エイベックスは,平成22年6月にJYJのコンサートを開催して以
降,個別にJYJのアーティスト活動を企画・計画したり,個別のアーティ
スト活動にかかる具体的スケジュールについて原告シージェスに通知するこ
とも一切しなくなり,同年9月16日頃,突然,被告エイベックスのホーム
ページにおいて,原告甲の父親が暴力団の組員である疑いがあること,原告
甲が刑事事件で実刑判決を受けたことが発覚したこと,韓国で係争中のJY
Jの専属契約確認訴訟の進展により,本件専属契約が無効とされる可能性が
高まってきたこと,そのため,コンプライアンス重視,企業倫理重視の経営
方針から,これらの問題が解決されない限り,JYJの日本での公演等を一
切控えると公表した。
そして,実際,その後も,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,
JYJのアーティスト活動を企画・計画したり,個別のアーティスト活動に
かかる具体的スケジュールについて原告シージェスに通知することも一切せ
ず,JYJの日本での公演等の一切のアーティスト活動を行わせなかった。
被告エイベックスは,JYJをいわば「飼い殺し」にすることとしたのであ
った。
(2)被告エイベックスの行為は,本件専属契約5条の「業務の履行」義務違
反,15条の「保証」義務違反,16条の「社会的信用」の失墜を招くよう
な言動をしない義務違反に該当する行為である。
ア5条の「業務の履行」義務違反
被告エイベックスは,JYJのアーティスト活動を行わない旨公表する
などして,平成22年7月以降,現在に至るまで,JYJのアーティスト
活動を企画・計画しなかった。被告エイベックスのかかる行為は,5条
(1)の「個別に本件アーティストのアーティスト活動を企画・計画する」
義務条項に違反するものである。
また,被告エイベックスは,JYJのアーティスト活動を行うために必
要なレッスンその他の機会を提供せず(5条(2)①),被告エイベックス
が企画,構成,演出した出演業務を提供せず(5条(2)②),レコード等
の利用行為を行うために必要な契約を締結せず,(5条(2)③),平成2
2年7月頃以降のアーティスト活動を行わず(5条(2)④),JYJのた
めの広報宣伝活動を行わず,5条(2)の各条項に違反した。
イ15条の「保証」義務違反
被告エイベックスは,原告シージェスに対し,本件専属契約に基づく原
告シージェスの権利(JYJのアーティスト活動を行わせる権利等)につ
き,何らの支障もないことを保証しているにもかかわらず(15条(2)
②),被告エイベックスから積極的に原告シージェスの権利を妨げる行為
を行い,上記保証義務に違反する行為を行った。
また,本件専属契約15条(5)によれば,被告エイベックスが「本契約
期間中,本契約に影響を及ぼすおそれのある行為を行う場合」,「事前に
相手方と協議の上,相手方の書面による承諾を得るものとします」とある。
そして,被告エイベックスがJYJのアーティスト活動のマネジメント業
務を休止することは,同条項にいう「本契約に影響を及ぼすおそれのある
行為」であり,相手方である原告シージェスの書面による承諾を得なけれ
ば行うことはできない行為である。ところが,被告エイベックスは,原告
シージェスの書面による承諾を得ることなく,JYJのアーティスト活動
のマネジメント業務を休止(放棄)したのであるから,被告エイベックス
の行為は,明らかに同条項に違反する行為である。
ウ16条の「社会的信用」の失墜を招くような言動をしない義務違反
被告エイベックスは,原告シージェスに対し,(JYJも含む)原告シ
ージェスの名誉・声望の毀損並びに社会的信用の失墜を招くような言動を
してはならない義務を負っているところ(16条(1)),被告エイベック
スは,被告エイベックスのホームページにおいて,原告甲の父親が暴力団
の組員である疑いがあること,原告甲が刑事事件で実刑判決を受けたこと
が発覚したこと,そのことを理由として,本件専属契約が無効である可能
性があること,それため,今後,JYJの日本での公演等を一切控えると
公表することにより,原告シージェスはもちろんJYJの名誉・声望の毀
損並びに社会的信用の失墜を招くような言動を行い,上記条項に違反した。
エ上記のとおり,被告エイベックスは,本件専属契約の複数の条項に違反
する行為を行い,しかも,それらの行為により,被告エイベックスと原告
シージェスの信頼関係は回復できないほど破壊された。
しかも,被告エイベックスが指摘する事実のうち,原告甲が過去におい
て刑事事件で実刑判決を受けたことがあるとの事実のみ真実であるが,そ
れ以外の事実は全く事実に反している。特に,原告甲又はその父が暴力団
幹部の経歴を持つなどという事実など全くなく,また,韓国での係争中の
訴訟は,本件専属契約時に既に織り込み済みであって,本件専属契約の効
力とは全く関係はない。仮処分決定において,本案訴訟の確定までJYJ
に自由なアーティスト活動が保証されている(甲28)以上,被告エイベ
ックスが主張するように,S.M.から損害賠償請求されることもない。
オまた,本件専属契約17条(4)によれば,「第三者の根拠のないあるい
は誇張された主張やうわさなどによる場合には甲(被告エイベックス)は
最大限乙(原告シージェス又はJYJ)を保護しなければならない義務が
ある」ところ,被告エイベックスは,かかる義務に違反して,「根拠のな
いあるいは誇張された主張やうわさ」を公表して,原告シージェス及びJ
YJのアーティスト活動を中止するという専属契約違反の行為を行った。
(3)原告シージェスは,被告エイベックスに対し,平成23年1月21日付
け内容証明郵便をもって,本件専属契約17条(2)に基づいて,30日以内
に違反事項が治癒されるよう催告するとともに,上記期間内に治癒されなか
った場合には,本件専属契約を解除する旨を通知し,同書面は同月24日に
被告エイベックスに到達した。しかし,被告エイベックスは,上記30日を
経過するも違反事項を治癒させることはなかった。
したがって,本件解除は有効である。
(4)被告エイベックスは,本件専属契約の法的性質が準委任契約であること
を前提として,民法644条及び商法505条の規定の趣旨から,契約書に
明示的に記載されていないことでも,委任の趣旨に合致する行為を行うこと
ができるとして,JYJのマネジメント業務を休止することは委任の趣旨に
合致する行為であると主張する。しかし,本件専属契約の法的性質について
は,雇用的な面もあり,準委任と雇用の混合契約あるいは一種の無名契約で
あると解すべきである。
確かに,準委任契約についてみれば,民法644条及び商法505条の規
定の趣旨から,契約書に明示的に記載されていないことでも,委任の趣旨に
合致する行為を行うことができると解されている。しかし,それは,あくま
で委任者の利益を図るために,受任者は,委任者に対する善管注意義務の範
囲内において,委任者の利益を図る上で必要であれば,契約書に明示的に記
載されていないことでも行うことができ,むしろ行うことが義務づけられて
いるという意味である。
ところが,被告エイベックスの主張する「被告エイベックスが行うことが
できる契約書に記載されていない行為」とは,「JYJのマネジメント業務
を遂行する義務を放棄するという,委任者の利益に反する,委任者が望んで
いない行為」のことであり,被告エイベックスのコンプライアンスを遵守す
るという目的のためであれば,かかる行為も行うことができるとするもので
ある。これは,民法644条及び商法505条の規定の趣旨に反する解釈論
であり,解釈論としての限界を大きく超えるものである。
もし,被告エイベックスの主張のとおり,JYJのマネジメント業務をこ
のまま継続することが被告エイベックスのコンプライアンスの観点から問題
があり,JYJのマネジメント業務を行わないというという経営方針をとら
なければならないのであれば,被告エイベックスとしては,本件専属契約を
解消して,被告エイベックスの経営理念を守ればよいことであり,「委任の
趣旨」からは,むしろ,本件専属契約を解消することが善管注意義務の観点
から契約上義務づけられているというべきである(民法651条1項,同条
2項ただし書参照)。
しかも,被告エイベックスは,コンプライアンスの観点からJYJのマネ
ジメント業務を遂行することが困難又は支障が生じると判断した場合,本件
専属契約17条(4)に基づき,自らのイニシアティブのみをもって,本件専
属契約を解除することもできるのであるから,なおさら,本件専属契約を解
消するための方策をとるべき義務を負っているというべきである。
ところが,被告エイベックスは,そのような行為をしようとしないばかり
か,原告シージェスに対し,本件専属契約を合意解除することにより,被告
エイベックスとJYJとの直接契約の締結を可能にすることを強要し,原告
シージェスからの本件専属契約解消の申し入れについてもことごとく拒否す
るという受任者としての善管注意義務に違反する行為を行っているのである。
(被告エイベックスの主張)
(1)原告シージェスの主張(1)のうち,被告エイベックスが,原告甲が過去に
おいて刑事事件で実刑判決を受けていたことを知った後,JYJに対し,被
告エイベックスと直接専属契約を締結するよう求めたこと,これに対し,原
告シージェスが,原告甲が過去において刑事事件で実刑判決を受けたことは
事実であるが,被告エイベックスもかかる事実を知った上で本件専属契約を
締結したのであるから,本件専属契約締結後にかかる事実を再燃させるのは
不合理であり,原告甲が暴力団関係者と関係があるなどという事実は全く存
しない旨の説明をして,被告エイベックスに協議に応じるよう求めたこと,
被告エイベックスが,平成22年9月16日,原告甲が刑事事件で実刑判決
を受けたことが発覚したこと及び韓国におけるJYJとS.M.との別件訴
訟の進展により本件専属契約が無効とされる可能性があることを理由として,
今後JYJの日本でのアーティスト活動をマネジメントするべきではないと
判断した旨公表したこと,その後被告エイベックスがJYJの日本での公演
等を一切行っていないことは認め,その余は不知ないし否認する。被告エイ
ベックスが,原告甲が過去に刑事事件で実刑判決を受けたことを知りながら
本件専属契約を締結したとの主張は事実に反する。
原告シージェスの主張(2)アのうち,被告エイベックスが,平成22年9
月16日,JYJのアーティスト活動を行わない旨公表したことは認め,そ
の余は否認する。JYJは,同年8月に東京及び大阪で行われた野外イベン
ト「a―nation'10」に出演しており(乙3),原告シージェスの
主張は事実に反する。同(2)イは否認する。同(2)ウのうち,被告エイベック
スが,原告甲が刑事事件で実刑判決を受けたことが発覚したこと及び今後J
YJの日本でのアーティスト活動をマネジメントするべきではないと判断し
た旨公表したことは認め,その余の事実は否認する。同(2)エのうち,原告
甲が過去において刑事事件で実刑判決を受けたことがあるとの事実が真実で
あることは認め,その余は不知ないし否認する。同(2)オのうち,本件専属
契約17条(4)が「第三者の根拠のないあるいは誇張された主張やうわさな
どによる場合に甲(被告)は最大限乙(原告)または本件アーティスト(J
YJ)を保護しなければならない義務がある」と規定していることは認め,
その余は不知ないし否認する。
原告シージェスの主張(3)のうち,原告シージェスが,被告エイベックス
に対し,平成23年1月21日付け通知書にて,本件専属契約17条(2)に
基づいて,30日以内に違反事項を治癒するよう催告するとともに,上記期
間内に治癒されなかった場合には,本件専属契約を解除する旨を通知したこ
と,同書面が同月24日に被告エイベックスに到達したことは認め,その余
は否認する。
(2)本件専属契約は,被告エイベックスがJYJの日本におけるアーティス
ト活動に関するマネジメント業務を行うことを目的に締結された準委任契約
である。この点,民法644条及び商法505条の規定の趣旨からすれば,
たとえ契約書に明示的に記載されていなかったとしても,受任者において,
委任の趣旨に合致する行為を行う限りにおいては,何ら契約違反を構成しな
い。本件においては,原告甲が暴力団幹部の経歴をもつ父親の威力を背景に
担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたとの報道
がされたこと,及び韓国で係争中のS.M.との別件訴訟の進展により,被
告エイベックスが日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に行う権
限を失う可能性が高まってきたことを受け,被告エイベックスにおいて,J
YJのアーティスト活動に関するマネジメント業務を一時休止するという本
件対応をとったことは,委任の趣旨に反しないどころか,むしろ合致するも
のであって,何ら契約違反となるものではない。特に,アーティストのマネ
ジメント業務を主要な業務内容とする被告エイベックスにとって,自身がマ
ネージャーを務めた俳優に対し,専属契約を結ばなければ弱みを暴露すると
迫った強要罪で実刑判決を受けたという事実は,その他の犯罪行為によって
有罪判決を受けた場合と比較しても,コンプライアンス上極めて深刻な事実
である。加えて,原告甲は,暴力団幹部の経験をもつ父親の威力を背景に担
当アーティストに強要したというのであるから,反社会的勢力との関係断絶
を基本方針とするエイベックスグループの一員である被告エイベックスにと
って,なおさら重大かつ深刻な事実である。
上記のとおり,一部上場企業の傘下にある被告エイベックスにとってコン
プライアンス遵守は極めて重要な命題であり,所属アーティストのマネジメ
ントを行うに際しては,適正かつ適法な業務遂行が当然の大前提となる。他
方,原告シージェスにとっても,JYJが韓国出身の男性アイドルグループ
であり,日本でのファン層の中心が十代の女性であることを考えれば,JY
Jが暴力団や犯罪行為,さらには法的トラブル等とは無縁な清廉なイメージ
を確保し増進することは日本でのマネジメント戦略上極めて重要であり,J
YJのイメージを確保し増進するためには適正かつ適法なマネジメント業務
を委託することは自明のことである。
また,被告エイベックスは,韓国でJYJに有利に進んでいると思われた
裁判が,平成21年5月に本案訴訟が開始されて以降,S.M.に有利に展
開する可能性が出てきたとの報道(乙1の3~4)を受けて「韓国での別件
訴訟の進展により,被告エイベックスが日本におけるJYJのマネジメント
を失う可能性が高まってきた」との認識を抱くようになったのであるから,
本件専属契約締結以前とは状況が変わったのである。仮に,本案訴訟でS.
M.が勝訴し,S.M.とJYJとの専属契約が仮処分決定時に遡って有効
であると判断された場合,被告エイベックスは無権限の原告シージェスから
委託を受けたことになり,S.M.から不法行為に基づく損害賠償請求を受
けるおそれがある。このような懸念があることから,別件訴訟の趨勢が,J
YJのマネジメント業務を行うことの阻害要因となるのである。
そして,原告シージェスと被告エイベックスは,被告エイベックスの「コ
ンプライアンス重視・企業倫理遵守」という経営方針を十分に理解した上で
本件専属契約を締結しているため,本件専属契約における委任の趣旨は,あ
くまでも「被告エイベックスによるJYJの日本国内における『適正・適
法』なアーティスト活動に関するマネジメント」であるといえる。
かかる委任の趣旨に鑑みれば,本件において,韓国でのJYJのマネジメ
ント業務を行っている原告甲を巡る報道や韓国で係争中のS.M.との別件
訴訟の結果次第では,被告エイベックスが日本におけるJYJのマネジメン
ト業務を独占的に行う権限を失う可能性があることといった事情が判明した
にもかかわらず,被告エイベックスがその後も漫然とJYJの日本国内にお
けるアーティスト活動のマネジメントを行うことが,「適正・適法」なマネ
ジメントなどと到底評価することができないことは明らかである。
以上の点からすれば,被告エイベックスの本件対応は,本件専属契約の委
任の趣旨に合致する,極めて適切かつ妥当な事務処理の方法であるから,被
告エイベックスが日本におけるJYJのアーティスト活動を企画・計画する
義務を履行する旨規定した本件専属契約5条に違反するものではないことは
明らかである。
(3)本件専属契約15条(2)②は,「前号に基づき」と規定されているように,
同条(2)①を受けて,被告エイベックスが,原告シージェスの日本における
JYJのアーティスト活動を行わせる権利等につき,何らの支障もないこと
を保証している。
ところで,本件専属契約15条(2)①には,「如何なる第三者からも何等
の拘束又は異議申立てを受けることなく,本契約を自由且つ有効に履行しう
ること」と規定されており,同条(2)②は同条(2)①を受けて,原告シージェ
スの権利行使に支障を及ぼす第三者からの異議申立てその他の請求等がない
ように,被告エイベックスが本件専属契約に基づく原告シージェスの権利行
使の円滑な遂行を保証するものである。
被告エイベックスが,本件専属契約締結後に発覚した事情に基づいてJY
Jのマネジメント業務を自らの判断のもとで一時的に休止することは,15
条(2)②が想定している第三者による異議申立てその他の請求等により原告
シージェスの日本におけるJYJのアーティスト活動に支障が生ずることと
は明らかに異なるものである。したがって,かかる被告エイベックスの行為
は同条項違反にあたるものではない。また,本件対応は,適切かつ妥当なも
のであり,同条(2)に違反するものでないことは明らかである。
本件専属契約15条(5)にいう「本契約に影響を及ぼすおそれのある行
為」として想定されているのは,同条項の括弧書きに例示列挙されている
「日本市場を含むアジア市場向け又は全世界市場向けの企業広告に本件アー
ティストが出演する場合や,日本市場を含むアジア市場向け又は世界市場向
けのコンサート・舞台・演劇に本件アーティストが出演する場合及び当該出
演したコンサート・舞台・演劇等が収録されたビデオが日本で販売される場
合等」であって,同条項は,このように本契約と抵触する可能性のある契約
やビジネスを行う場合に相手方の書面による同意を要求した規定であるから,
被告エイベックスが本件専属契約締結後に発覚した事情に基づいてJYJの
マネジメント業務を自らの判断のもとで一時的に休止する場合には,同条項
は適用されないものと解するのが相当である。
(4)本件専属契約16条は,契約の相手方の社会的信用の失墜を招くような
言動をしない義務を規定しているところ,一般人の普通の捉え方と注意に基
づいて判断した場合,本件対応が,原告シージェス又はJYJの社会的信用
を失墜させるものでないことは明らかである。
本件対応は,JYJの日本でのアーティスト活動に関するマネジメントの
一時的な休止にすぎず,原告甲が交替し,韓国での別件訴訟の結果,被告エ
イベックスが日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に行うことに
何ら問題がないことが判明すれば,マネジメント業務を再開するつもりであ
ることが明らかにされている。被告エイベックスとしては,事態の好転と本
件専属契約の継続を期待して推移を見守っていることを明らかにしているの
であり,原告シージェス又はJYJの「社会的信用の失墜」があったとは到
底いえない。
また,被告エイベックスの行為は,暴力団や犯罪行為,さらには法的トラ
ブル等とは無縁の清廉なJYJのアーティストとしてのイメージの維持に資
することはあっても,これを損なうことはない以上,原告シージェス又はJ
YJの「社会的信用の失墜」がないことは明らかである。
(5)原告シージェスは,被告エイベックスが本件専属契約の複数の条項に違
反する行為を行ったことにより,原告シージェスと被告エイベックス間の信
頼関係は回復できないほど破壊された旨主張するが,上記のとおり,被告エ
イベックスが本件専属契約の条項に違反した事実は一切存しないのであるか
ら,かかる原告シージェスの主張には前提に誤りがあり,失当である。
(6)原告シージェスは,被告エイベックスが本件専属契約17条(4)に違反し
て,「『根拠のないあるいは誇張された主張やうわさ』を公表して,原告シ
ージェス及びJYJのアーティスト活動を中止するという専属違反契約を行
った」旨主張する。
しかしながら,原告甲が暴力団幹部の経歴をもつ父親の威力を背景に担当
アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたとの報道がさ
れたのは事実であり,また,実際に,韓国で別件訴訟が係属しており,この
別件訴訟の結果次第では,原告シージェスがJYJの独占的なマネジメント
業務の権限を失い,それにより被告エイベックスが本件専属契約に基づく日
本でのJYJの独占的なマネジメント業務の権利を失う可能性があることは
事実であるから,被告エイベックスが「根拠のないあるいは誇張された主張
やうわさ」を公表したのではないことは明らかである。
(7)以上のとおりであるから,被告エイベックスに本件専属契約の契約違反
がなく,原告シージェスによる本件解除が無効であることは明らかであり,
本件専属契約は現在もなお,有効に存続している。
(被告相撲協会の主張)
原告シージェスの主張を援用する。
2第1事件
(1)不正競争防止法3条1項に基づく差止請求の成否(争点1-2)
(原告シージェスの主張)
ア被告エイベックスは,本件解除後も,原告シージェスから依頼されてJ
YJのコンサートを主催しようとしたザックや,JYJにコンサート会場
を提供しようとした横浜アリーナに対し,本件専属契約は現在も有効に成
立しており,原告シージェスは被告エイベックスの承諾を得ることなくJ
YJのアーティスト活動を行うことはできないので,上記各業務を中止す
るよう要求し,もし,被告エイベックスの上記要求に応じない場合には損
害賠償を請求することを検討する旨の通知をした。
また,被告エイベックスは,本件解除後,被告エイベックスのホームペ
ージ上で,被告エイベックスが「日本国内におけるJYJの独占的なマネ
ジメント権を保有している」もので,原告シージェスが被告エイベックス
の許諾なくコンサートを行うことができない旨を公表した。
イしかし,被告エイベックスは,本件解除により,日本におけるJYJの
マネジメント権を喪失したから,被告エイベックスが原告シージェスの取
引先に対し告知し,ホームページで公表している「本件専属契約は現在も
有効に成立しており,原告シージェスが被告エイベックスの承諾を得るこ
となくJYJにアーティスト活動を行わせることは,日本におけるJYJ
の独占的なマネジメント業務を遂行する被告エイベックスの権利を侵害す
る」旨の事実は虚偽である。
そして,この虚偽の事実は,原告シージェスが被告エイベックスの権利
を侵害しようとしているという内容を含み,原告シージェスの営業上の信
用を毀損する事実である。
ウよって,被告エイベックスのかかる行為は,不正競争防止法2条1項1
4号の「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,
又は流布する行為」であり,原告シージェスは,不正競争防止法3条1項
に基づき,被告エイベックスのかかる侵害行為の差止めを請求することが
できる。
(被告エイベックスの主張)
ア原告シージェスの主張アのうち,被告エイベックスが,原告シージェス
から解除通知を受領して以降,原告シージェスから依頼されてJYJのコ
ンサートを主催しようとしたザック及びJYJにコンサート会場を提供し
ようとした横浜アリーナに対し,本件専属契約は現在も有効に成立してお
り,原告シージェスは被告エイベックスの承諾を得ることなくJYJのア
ーティスト活動を行うことはできないので,JYJの参加するイベント等
を開催しないことや横浜アリーナの利用を許諾しないことを要請したこと,
ザックに対しては,上記に加え,被告エイベックスの請求に応じない場合,
損害賠償を請求することを検討せざるを得ない旨通知したこと,被告エイ
ベックスが「日本国内におけるJJY(=JYJ)の独占的なマネジメン
ト権を保有して」おり,原告シージェスが被告エイベックスの許諾なくJ
YJの参加するコンサートを開催することはできない旨公表したことは認
め,その余は否認する。被告エイベックスが,横浜アリーナに対して,被
告エイベックスの要請に応じない場合には,損害賠償を検討せざるを得な
い旨の通知を行った事実はない。
原告シージェスの主張イ及びウは否認する。
イ本件専属契約が,現在も有効である以上,被告エイベックスは,日本に
おけるJYJの独占的なマネジメント業務を遂行する権利を有しており,
原告シージェスが,被告エイベックスの承諾を得ることなくJYJにアー
ティスト活動を行わせることは,かかる被告エイベックスの権利を侵害す
ることになるのである。
ウしたがって,被告エイベックスが,ザック及び横浜アリーナ社に通知し,
ホームページ上で公表している事実は真実であって,これらの行為は不正
競争防止法2条1項14号には該当しないのであるから,同法3条1項に
基づく差止請求権が認められないことは明らかである。
(2)業務遂行権に基づく差止請求の成否(争点1-3)
(原告シージェスの主張)
ア被告エイベックスは,ザックとともにコンサートを企画していた原告シ
ージェスに対し,本件解除を争い,もし原告シージェスが被告エイベック
スを介することなく日本においてJYJのアーティスト活動を行うことが
判明した場合,「貴社の全ての取引先(テレビ局,レコード制作会社,コ
ンサートイベンター等)に対する事前の警告等,これを阻止するために必
要なあらゆる方策を講じる予定であ」る(甲10)として,原告シージェ
スの業務活動を阻止する行為を行う旨を通知した。
そして,被告エイベックスは,上記通知と同時期に,ザックに対し,本
件専属契約は現在も有効に成立しているのだから,原告シージェスは被告
エイベックスの承諾を得ることなくJYJのアーティスト活動を行うこと
はできないことなどを理由として,コンサートを中止するよう要求し,も
しザックが上記要求に応じない場合には損害賠償を請求する旨通知した。
被告エイベックスは,平成23年3月28日,横浜アリーナに対し,JY
Jのコンサートの利用許諾を行わないよう申し入れ,横浜アリーナは,ザ
ックに対し,会場の利用許諾を与えない旨を通知した。
また,被告エイベックスは,平成23年4月5日付け通知書において,
ザックに対し,さいたまアリーナに変更後のコンサートについても中止す
るよう要求した。さいたまアリーナは,同月14日,そのホームページ上
で,ザックに対してコンサートの利用許可を出していない旨公表し,ザッ
クに対し,会場の利用許諾を与えない旨を通知した。
さらに,被告エイベックスは,ひたちなかコンサートに先立ち,国土交
通省及び株式会社JTBコミュニケーションズに対し,本件専属契約は有
効に存続しており,ひたちなかコンサートを強行した場合には,被告相撲
協会に対して行ったのと同様に法的措置をとることも検討せざるをえない
旨通知した。そして,被告エイベックス(社長室部長ほか1名)は,ひた
ちなかコンサートの直前である平成23年10月13日,県会議員ととも
に,後援者である茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商工会議
所,水戸商工会議所,ひたちなか公園事務所を訪問し,①ひたちなかコン
サートを主催しているザックは右翼と繋がっている反社会的勢力である,
②JYJはビザをとっていない,③本件専属契約を締結しており,被告エ
イベックスの承諾なくJYJのコンサートを開催することはできない,④
公演を実行したら被告相撲協会と同様に訴えるなどと言って,ひたちなか
コンサートを中止するよう要請し,⑤もし公演を実行したらマスコミにま
きちらしてやると公言した。
イ本件専属契約の有効性がどのようなものだとしても,原告シージェスは,
基本専属契約に基づき,JYJのマネジメント業務を行う権利を有するの
であるが,法人である原告シージェスの業務を遂行する権利は,法人の財
産権及び従業員の労働行為により構成されるものであるから,法人自体の
権利であるとともに,法人の業務に従事する者の人格権を内包する権利と
いうことができる。
そして,被告エイベックスの妨害行為は,権利行使としての相当性を超
え,原告シージェスの持つ資産の本来予定された利用を著しく害し,業務
に及ぼす支障の程度が著しく,事後的な損害賠償では原告シージェスに回
復困難な重大な損害が発生すると認められるのであるから,被告エイベッ
クスの妨害行為は原告シージェスの業務遂行権に対する違法な妨害行為と
いえ,原告シージェスは,被告エイベックスに対し,業務遂行権に基づき,
被告エイベックスの妨害行為の差止めを請求することができる。
ウ本件では,東京高等裁判所平成20年7月1日決定の基準に従ったとし
ても,以下のとおり,業務遂行権に基づく妨害行為差止請求権が認められ
るというべきである。
(ア)当該行為が権利行使としての相当性を超えていること(要件①)
a被告エイベックスの原告シージェスに対する妨害行為の内容
被告エイベックスは,原告シージェスに対し,内容証明郵便をもっ
て,あらゆる手段を講じてJYJの日本におけるアーティスト活動の
マネジメント業務を妨害すると通知し,実際,そのとおりの行動をと
ってきたのである。具体的には,平成23年6月7日にJYJのチャ
リティーコンサートを開催するために,各コンサート会場に利用申込
みをしたところ,コンサートの主催者,コンサート会場の運営者等に
対し,会場の利用を許諾してコンサートを開催した場合には,仮処分
等の法的手続きをとるなどと通知したり,各テレビ局,各新聞社,そ
の他のマスコミ各社に対して,上記コンサート開催の事実を含めてあ
らゆるJYJに関する情報規制をかけたりしているのである。
その結果,原告シージェスは,横浜アリーナからも,さいたまアリ
ーナからも,会場利用の許諾を拒否されたのであり,唯一,被告エイ
ベックスと取引のない(今後も被告エイベックスと取引がないと考え
られる)被告相撲協会が被告エイベックスの圧力に屈することなく会
場を利用させてコンサートを開催することができた。しかし,被告エ
イベックスが被告相撲協会に対して損害賠償請求訴訟を提起したこと
から,今後,被告相撲協会を含めて被告エイベックスと取引のない者
に対しても,JYJのアーティスト活動に協力すれば訴訟を提起され
るという現実が突きつけられることになった。
しかも,被告エイベックスは,本件提起後も,平成23年7月7日
付けの書面にて,一般社団法人コンサートプロモーターズ協会(AC
PC)の会員(東京ドーム,横浜スーパーアリーナ,さいたまアリー
ナ,国技館などのコンサート会場を運営している企業の大半が加入し
ている団体)に対して,JYJのコンサートには一切関わらないよう
に通知している。
以上のことから,今後,コンサート会場を利用させるなどのJYJ
のアーティスト活動に協力してくれる者は皆無となったといえる。
b権利行使としての相当性の有無
被告エイベックスは,原告シージェスの代表理事の変更及び韓国に
おけるS.M.とJYJの裁判が終結するまでは,JYJのアーティ
スト活動のマネジメントを一切休止すると公表しているのであるから,
原告シージェスが日本においてJYJのアーティスト活動を行わせた
としても,被告エイベックスに対して,損害その他何らかの不利益が
生じるものではない。
しかも,被告エイベックスがJYJのアーティスト活動のマネジメ
ントを休止したのは,自らがJYJのマネジメントを行うことは被告
エイベックスのコンプライアンスの観点から問題があるからであると
の理由によるのであるから,被告エイベックスのコンプライアンスを
遵守するとの見地からは,自らがJYJのアーティスト活動のマネジ
メントを行わなければよいだけのことであって,原告シージェスがJ
YJの日本におけるアーティスト活動を行おうとしている行為を妨害
する必要性は皆無のはずである。
したがって,被告エイベックスにおいて,本件解除が無効であり,
原告シージェスの行為が本件専属契約に違反する行為であると考えて
いたとしても,それに対する被告エイベックスの対抗策としては,原
告シージェスに対する損害賠償請求等の法的手続きによるべきであっ
て,それ以上に,原告シージェスのJYJの日本におけるアーティス
ト活動のマネジメントを妨害する行為まで認められるべきではない。
また,被告エイベックスによる妨害行為が実際に功を奏している最
大の理由は,被告エイベックスが音楽業界において圧倒的なシェアを
誇っており,音楽業界を含めて,その周辺業界に対して,多大な社会
的・経済的な影響力を持っていることによる。
それゆえ,被告エイベックスの権利行使が相当性を逸脱しているか
どうかを判断するに際しては,被告エイベックスの妨害行為の圧力の
大きさとその影響力の大きさを重要な判断要素とされるべきことは,
社会正義・公平の観点,あるいは信義則の観点から当然要求されるべ
きことである。
そのような観点からは,被告エイベックスの行為は,音楽業界及び
その周辺業界に対する圧倒的な影響力の下で行使されたものであって,
社会正義・公平の観点,あるいは信義則の観点からは許されるべきも
のではない。
cよって,被告エイベックスの妨害行為は,法的手続によることなく,
JYJのアーティスト活動を妨害する何らの利益を有していないにも
かかわらず,被告エイベックスの社会的・経済的な圧倒的な影響力を
背景に,原告シージェスによるJYJの日本におけるアーティスト活
動のマネジメントを一切妨害する行為であり,権利行使の相当性を大
きく超えた行為であるというべきである。
(イ)法人の資産の本来予定された利用を著しく害し,かつ,これら従業
員に受忍限度を超える困惑・不快を与えていること(要件②)
原告シージェスは,JYJとの間で基本専属契約を締結しており,J
YJに対し,マネジメント業務を行う義務を負うのと同時に,当該業務
を遂行するために,JYJをしてアーティスト活動を行わせ,当該業務
を遂行する権利を有する。人気アーティストであるJYJに対しアーテ
ィスト活動を行わせる権利を持つということは,芸能プロダクション会
社である原告シージェスにとっては,その法人の目的たる営業活動を遂
行するうえで重要な正に財産(資産)といえるものである。
それに対し,被告エイベックスは,原告シージェスとの間で本件専属
契約を締結したことにより,JYJにアーティスト活動を行わせて,原
告シージェスの資産の利用を図らなければならない立場にあり,もし,
それができなくなった場合には,本件専属契約を解消して,原告シージ
ェス自らが資産の利用を図れるようにすべき立場にある。
そして,被告エイベックスは,JYJの日本におけるアーティスト活
動のマネジメント業務を遂行する義務を一切放棄し,原告シージェスに
よるJYJのマネジメントも認めず,JYJを「飼い殺し」にするとい
う対応をとることにより,原告シージェスにとって正に財産(資産)で
あるJYJにアーティスト活動を行わせる権利を奪っただけでなく,原
告シージェスがJYJにアーティスト活動を行わせて,本来得られるべ
き資産(数十億円と試算される)の利用をも奪ってきたのである。この
ような被告エイベックスの行為は,「法人(原告シージェス)の資産の
本来予定された利用を著しく害」する行為であり,かつ,「これら従業
員(本件では,原告シージェス代表者,原告シージェス従業員,そして,
JYJ)に受忍限度を超える困惑・不快を与え」る行為であることは明
らかである。
(ウ)業務に及ぼす支障の程度が著しく,事後的な損害賠償では当該法人
に回復の困難な重大な損害が発生すると認められること(要件③)
JYJは,韓国だけでなく,日本においても,絶大な人気を誇るスー
パースターである。しかし,芸能人は,卑近な言葉を借りれば「生も
の」であり,数ヶ月でも乾されれば,あっという間に人気がなくなって
しまうという宿命を負っているのである。本件では,本件専属契約の期
間は2年半も残っているのであるから,そのような長期間,JYJが日
本において一切アーティスト活動を行うことができないということにな
れば,日本のファンから忘れ去れてしまうことは必定である。
それゆえ,被告エイベックスの行為は,「業務に及ぼす支障の程度が
著しく,事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発
生すると認められる」ものである。
(被告エイベックスの主張)
ア原告シージェスの主張アのうち,原告シージェスが,ザックとともにコ
ンサートの開催を企画していたこと,被告エイベックスが,原告シージェ
スに対し,本件解除の有効性を争い,原告シージェスが被告エイベックス
を介することなく,JYJのアーティスト活動を行うことが判明した場合
には,原告シージェスのすべての取引先(テレビ局,レコード製作会社,
コンサートイベンター等)に対する事前の警告等,これを阻止するために
必要なあらゆる方策を講じる予定である旨通知したこと,被告エイベック
スが,上記通知と同時期に,ザックに対し,本件専属契約は現在も有効に
存続しているのだから,ザックがコンサートを強行することは民法上の不
法行為に該当する可能性が高いことを述べた上で,ザックに対しコンサー
トを中止するよう要求し,もし上記要求に応じない場合には,損害賠償を
請求することも検討せざるを得ない旨通知したこと,被告エイベックスが,
横浜アリーナに対し,平成23年3月28日付け書面において,横浜アリ
ーナの利用許諾を行わないよう要請したこと,横浜アリーナが,ザックに
対し,横浜アリーナの利用許諾を与えない旨通知したこと,被告エイベッ
クスが,ザックに対し,同年4月5日付け通知書において,さいたまアリ
ーナでのコンサートを中止するよう要求したこと,さいたまアリーナが,
同月14日,そのホームページ上において,ザックに対して利用許可を出
していないことを公表したこと,ひたちなかコンサートに先立ち,被告エ
イベックスは,国土交通省及び株式会社JTBコミュニケーションズに対
し,甲30,31号証の通知書を送付したこと,被告エイベックスが,平
成23年10月13日,茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商
工会議所,水戸商工会議所を訪問したこと,その際,被告エイベックスが
概ね②~④の事実を説明した上,ひたちなか公演を中止するよう要請した
ことは認め,その余は否認する。
原告シージェスの主張イは不知ないし否認する。
イ業務遂行権に基づく妨害行為差止請求権について,東京高等裁判所平成
20年7月1日決定(判時2012号70頁)は,「業務遂行権」が違法
な妨害行為の差止請求の被保全権利となりうることを認める一方,かかる
業務遂行権に対する「違法な妨害行為」については,①当該行為が権利行
使としての相当性を超えていること(要件①),②法人の資産の本来予定
された利用を著しく害し,かつ,これら従業員に受忍限度を超える困惑・
不快を与えていること(要件②),③業務に及ぼす支障の程度が著しく,
事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認
められること(要件③),という3要件を満たす場合にのみ認められると
判示している。
そして,「業務遂行権」,「営業権」といった権利は,明文規定がなく,
その性質や内容等が不明確である一方,行為の差止めは被告エイベックス
に重大な影響を及ぼすものであるから,差止請求が認められる場合は限定
的に解されるべきであり,これらの権利に基づく業務妨害行為の差止請求
権を否定する裁判例も多数存在することからすれば,「業務遂行権」に基
づく差止請求を認めるための上記3要件の充足性は,厳格に解釈されるべ
きである。
ウ本件専属契約は現在もなお有効に存続する以上,JYJの日本における
マネジメント業務を独占的に行う法的権利は被告エイベックスに帰属して
おり,原告シージェスも,被告エイベックスの事前承諾なく,JYJにア
ーティスト活動を行わせてはならない義務を負っている(本件専属契約4
条)。
原告シージェスは,日本においてJYJのマネジメント業務を行う権利
を有しておらず,仮に被告エイベックスの承諾なくこれを実施した場合に
は,本件専属契約に違反することとなる。また,原告シージェスは,本件
専属契約の当事者であって,原告シージェスが本件専属契約に違反して,
被告エイベックスの意思に反してJYJの日本におけるマネジメント業務
を行った場合,これによって日本におけるJYJのマネジメント業務を独
占的に行う権利を有する被告エイベックスに多大な損害を与えることにな
ることは当然認識していたはずであるから,原告シージェスの行為は,被
告エイベックスの上記権利を故意に侵害する極めて悪質な行為であり,不
法行為に該当する違法な行為である。被告エイベックスは,一時的にJY
Jの日本におけるアーティスト活動に関するマネジメント業務を休止して
はいるものの,コンプライアンス上の問題が解消された場合には,マネジ
メント業務を再開し,これによって経済的利益を獲得することを目指して
いるのであって,原告シージェスが日本においてJYJのアーティスト活
動に関するマネジメントを行うことが,被告エイベックスにとって不利益
であることは明らかである。
被告エイベックスは,かかる契約違反行為,不法行為を阻止すべく,正
当な権利の行使を行っているにすぎず,これらの行為が「違法」な「妨害
行為」に当たらないことは明らかである。
以上のとおり,本件について,要件①が認められないことは明らかであ
る。
エ被告エイベックスは,原告シージェスの資産の本来予定された利用を著
しく害したことも,原告シージェスの従業員に受忍限度を超える困惑・不
快を与えたこともないから,要件②は満たさない。
オ原告シージェスが,どのような「業務」に支障を及ぼし,どのようにし
て事後的な損害賠償では回復困難な「重大な損害」が発生すると主張して
いるのか全くもって不明である。
本件において,「業務に及ぼす支障の程度」及び「事後的な損害賠償で
は原告シージェスに回復の困難な重大な損害が発生する」おそれなど一切
存せず要件③も認められないことは明らかである。
カ以上のとおり,上記の東京高裁決定の規範を前提にしたとしても,被告
エイベックスの行為は,同決定の3要件をいずれも満たさず,原告シージ
ェスの業務遂行権に対する「違法な妨害行為」に該当しないことは明らか
である。
3第2事件
(1)原告シージェスの本件専属契約違反の有無(争点2-1)
(被告エイベックスの主張)
原告シージェスは,本件専属契約が現在もなお有効に存続しているにもか
かわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,国技館コンサートを開催
した。
国技館コンサートを開催する行為は,本件専属契約上の「アーティスト活
動」に該当する行為であり(4条③),被告エイベックスの事前の承諾なく,
これを行うことは本件専属契約4条に違反する行為である。
したがって,被告エイベックスは,本件専属契約17条(1)及び民法41
5条に基づき,原告シージェスに対し,国技館コンサートの開催によって被
告エイベックスが被った損害の賠償を請求する権利を有する。
(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張のうち,国技館コンサートを開催したことを認め,
その余は否認ないし争う。
(2)共同不法行為(債権侵害)の成否(争点2-2)
(被告エイベックスの主張)
ア原告シージェス,ザック及び被告相撲協会は,共同して国技館コンサー
トを開催し,その結果,被告エイベックスの本件専属契約に基づく日本に
おけるJYJのマネジメント業務を独占的に遂行する権利を侵害して,被
告エイベックスに損害を与えているのであるから,原告シージェス,ザッ
ク及び被告相撲協会の行為は共同不法行為に該当する。
イ原告シージェス,ザック及び被告相撲協会は,本件専属契約が現在もな
お有効に存続しているにもかかわらず,被告エイベックスの承諾を得ない
まま,国技館コンサートを開催した。原告シージェス,ザック及び被告相
撲協会は,国技館コンサートを開催する以前に,被告エイベックスが,日
本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に遂行する権利を有してい
ること,及び,国技館コンサートを開催することによって被告エイベック
スに損害が生じることを知りながら,あえて国技館コンサートを開催した
ものであり,原告シージェス,ザック及び被告相撲協会による本件コンサ
ートの開催が,被告エイベックスの権利を侵害する違法な行為であること
は明らかである。
被告相撲協会は,被告エイベックスの権利を認識していなかったと主張
するが,被告相撲協会は,原告シージェスらが平成23年5月23日に仮
処分命令申立事件を取り下げたことを認識しており,かかる仮処分命令申
立事件の帰趨から,両国国技館の利用を許可することが被告エイベックス
の権利を侵害する可能性が極めて高いことを認識していたのであり,それ
にもかかわらず,これを認容したものであって,未必の故意があったこと
は明らかである。また,被告相撲協会には,原告シージェスによる本件解
除が有効であると信じたことについて相当の理由があるとはいえないから,
少なくとも重過失又は過失があったものである。
ウ共同不法行為の成立要件である「共同の不法行為」としては,行為者間
の「関連共同」(各人の違法行為が関連共同して損害の原因となったこ
と)が必要であると考えられており,ここでいう「関連共同」とは,「客
観的に一個の不法行為があると見られる」関係,すなわち客観的関連共同
関係があれば足りるものと理解されている(客観的関連共同説)(最高裁
判所昭和43年4月23日第三小法廷判決民集22巻4号964頁参照)。
そして,かかる客観的関連共同関係とは,「結果の発生に対して社会通
念上全体として一個の行為と認められる程度の一体性があること」をいい,
結局,その判断の基準は,「法的に見て,複数の加害者の加害行為が,損
害との関係で,ひとつの加害行為と評価できるほどに一体性を有するかど
うか」という点にかかっている。
この点,本件においては,原告シージェスが主催者,ザックが企画・制
作・運営担当,被告相撲協会が会場の提供者として,国技館コンサートの
開催にそれぞれが必要不可欠な役割を果たしており,いずれかの関与がな
ければ,国技館コンサートが実現することはなかったことからすれば,原
告シージェス,ザック及び被告相撲協会は,共同して国技館コンサートを
開催しているといえる。被告エイベックスの受けた損害との関係では,国
技館コンサートを開催する行為が加害行為に該当するのであるから,原告
シージェス,ザック及び被告相撲協会の行為は被告エイベックスの受けた
損害との関係で,ひとつの加害行為と評価できるほどに一体性を有してい
ることは明らかである。
したがって,原告シージェス,ザック及び被告相撲協会の行為には客観
的関連共同関係が認められるから,共同不法行為に該当する。
(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張アは否認ないし争う。同イのうち,国技館コンサ
ートを開催したことは認め,その余は否認ないし争う。同ウのうち,第1段
落及び第2段落は争わず,その余は否認ないし争う。
(被告相撲協会の主張)
被告エイベックスの主張アは争う。同イのうち,被告相撲協会が国技館コ
ンサートの会場として貸館したことは認め,その余の事実は不知,国技館コ
ンサートの会場として貸館した行為が不法行為に当たるとの主張は争う。同
ウは争う。
仮に,被告エイベックスが国技館コンサート当時において日本におけるJ
YJのマネジメント業務を独占的に遂行する権利を有していたとしても,被
告相撲協会は当該権利を認識していないのであるから,共同不法行為は成立
しない。
被告エイベックスは,原告シージェスらが仮処分事件を取り下げたことを
被告相撲協会が認識していたことをもって未必の故意の根拠とするが,仮処
分事件の当事者でもなく,また仮処分事件の詳細も知らされていない被告相
撲協会が,仮処分事件の取下げがどのような状況・意図のもとにされたもの
であるか判断することは不可能であり,未必の故意を基礎づけるものとはい
えない。また,被告相撲協会は,被告エイベックスから連絡を受けた時点で
は,既に貸館契約を成立させており,被告エイベックスとザック双方の言い
分を確認した上で,明確な貸館取消事由が確認できないところから,貸館契
約を取り消すことは逆にザックから契約不履行に基づく損害賠償を受けるお
それがあると判断して貸館契約を取り消さなかったものであり,故意は認め
られない。
(3)損害額(争点2-3)
(被告エイベックスの主張)
ア被告エイベックスが被った損害は,国技館コンサートを被告エイベック
スが開催した場合に被告エイベックスが得られたはずの利益である。被告
エイベックスが長年にわたって数多くのイベントの開催に携わってきてお
り,ノウハウの蓄積もあることからすれば,少なくとも国技館コンサート
の開催によって原告シージェス及びザックが得た利益と同額の利益を得ら
れたことは明らかである。被告エイベックスによるJYJのマネジメント
業務の休止は一時的なものであり,その後の事情変更によって休止を解除
する可能性も十分考えられたのであるから,原告シージェスの行為と損害
との間の相当因果関係を否定する根拠とはなり得ない。
イ国技館コンサートは,昼と夜の2回に分けて行われており,1回当たり
の入場者数は,1万人程度であったものと推測される。国技館コンサート
のチケットは1枚あたり8500円で販売されている。したがって,国技
館コンサートによるチケット収入は,1万人×8500円×2回=1億7
000万円(税込)と試算される。
他方,被告エイベックスが国技館コンサートにおける会場運営費及び舞
台制作費の試算を依頼したところ,会場運営費は2000万円(税込),
舞台制作費は4500万円(税込)と試算された。
よって,国技館コンサートの公演自体によって,原告シージェス及びザ
ックが得た利益は,1億7000万円-(2000万円+4500万円)
=1億0500万円(税込)と試算される。
ウ原告シージェス及びザックは,国技館コンサートにおいて,記念Tシャ
ツ及びストラップ付パンフレットの2つのグッズを販売していたが,国技
館コンサートに来場したファンの少なくとも8割以上がこれらのグッズを
両方購入していた。それぞれのグッズの販売価格は,記念Tシャツが35
00円(税込),ストラップ付パンフレットが2500円(税込)であっ
た。したがって,国技館コンサートにおけるグッズ販売による収入は,
(3500円+2500円)×1万人×8割×2回=9600万円(税
込)と試算される。
また,グッズ販売における原価及び手数料の合計額は通常販売価額の6
0%程度であるから,グッズの原価及び手数料の合計額は,9600万円
×60%=5760万円(税込)と試算される。
よって,グッズ販売によって,原告シージェス及びザックが得た利益は,
9600万円-5760万円=3840万円(税込)と試算される。
エ以上からすれば,国技館コンサートの開催によって原告シージェス及び
ザックが得た利益の総額は,1億0500万円+3840万円=1億43
40万円(税込)であり,原告シージェスはこれと同額の損害を被ったも
のである。
(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張アは否認する。被告エイベックスの主張は,コン
プライアンス遵守の観点から被告エイベックスが日本におけるJYJのアー
ティスト活動についてマネジメント業務を行うことができないという被告エ
イベックスの基本的主張と全く矛盾するものである。同イのうち,国技館コ
ンサートが昼と夜の2回に分けて行われたこと,国技館コンサートのチケッ
トが1枚当たり8500円で販売されたことは認め,その余は否認する。同
ウのうち,国技館コンサートにおいて,記念Tシャツを3500円(税込
み)で,ストラップ付パンフレットを2500円(税込)でそれぞれ販売し
たことは認め,その余は否認する。同エは争う。
(被告相撲協会の主張)
被告エイベックスの主張は争う。
4第3事件
(1)本件専属契約に基づく未払契約金の額(又は債務不履行に基づく損害賠
償としての未払契約金相当額)(争点3-1)
(原告シージェスの主張)
被告エイベックスは,原告シージェスに対し,本件専属契約において,契
約金として7億円を支払うとされている。しかし,被告エイベックスは,契
約金のうち5億5000万円を支払ったのみであり,1億5000万円を支
払っていない。また,本件解除により,上記債務が消滅したことになるので
あれば,同金員は債務不履行に基づく損害になる。
(被告エイベックスの主張)
ア原告シージェスの主張のうち,本件専属契約に係る契約金が7億円であ
ること,被告エイベックスが原告シージェスに対して契約金として5億円
5000万円を支払済みであることは認め,その余は否認する。
イ原告シージェスは,被告エイベックスのコンプライアンス重視の経営方
針を十分に理解していたのであるから,原告甲が以前担当アーティストに
対する強要罪で実刑判決を受けたことが判明すれば,被告エイベックスが
コンプライアンス上深刻な問題があるとして本件専属契約を締結するはず
がないことを知っていた。
それにもかかわらず,原告シージェスは,かかる事実を殊更隠して,本
件専属契約を締結し,その結果,被告エイベックスのJYJに対する適
正・適法なマネジメント権の行使につき,重大な支障を与えたのであるか
ら,かかる原告シージェスの行為は,被告エイベックスに対し,「本契約
を締結,履行,存続するに必要且つ十分な権利,権限及び能力を有し」て
いることを保証する本件専属契約15条(1)①に基づき,被告エイベック
スの権利行使につき何らの支障もないことを保証する同条(1)②の保証義
務違反に該当する。
したがって,原告シージェスは,契約金の残部を被告エイベックスに請
求する権利を有しないどころか,本件専属契約28条(2)の定めに従って,
契約金の一部を被告エイベックスに返還する義務を負っている。
なお,被告エイベックスは,5億5000万円に加え,契約金の一部と
して,平成22年4月1日付け覚書に基づき,直接JYJの3名のアーテ
ィストに対して,既にそれぞれ720万円ずつ(合計金2160万円)支
払っているのであるから,かかる金額は被告エイベックスによる契約金の
既払分に含めて計算されるべきである。
(2)債務不履行に基づく損害賠償としての逸失利益の額(争点3-2)
(原告シージェスの主張)
ア原告シージェスは,被告エイベックスより,アーティスト印税として,
以下の報告を受けている。
平成22年4月から6月分604万6111円
平成22年7月から9月分3623万4017円
平成22年10月から12月分249万2405円
平成23年1月から3月分606万6289円
この点,平成23年1月から3月分のアーティスト印税には,本件解除
後に被告エイベックスが無断で販売したCD及びDVD(別紙著作物目録
7及び8)に対するアーティスト印税分である507万2363円が含ま
れている。この金額分は,本件専属契約に基づかないもの,換言すれば,
本件専属契約に基づく平成22年4月から6月にかけてのJYJのアーテ
ィスト活動の対価として発生した金額ではないから,そのような金額とし
て被告エイベックスが原告シージェスに支払うべきものではない。
イ原告シージェスは,被告エイベックスより,利益分配金として,以下の
報告を受けている。
平成22年4月から6月分2億5834万7113円
平成22年7月から9月分8015万2118円
平成22年10月から12月分3180万6852円
平成23年1月から3月分808万6714円
平成23年4月分3万4516円
平成23年10月分5260円
ウ被告エイベックスは,平成22年7月以降,JYJの日本での公演等の
アーティスト活動を行わせることはなくなった(ただし,同年8月に野外
イベントにJYJを参加させているが,これは従前から企画されていた唯
一の例外である。)。しかし,上記ア及びイの分配金等(ただし,上記ア
のうち507万2363円を除く。)は,被告エイベックスが本件専属契
約に基づき個別にJYJのアーティスト活動を企画・計画等していた頃の
JYJの活動に対するものである。
また,被告エイベックスは,平成22年7月以降も,それ以前にJYJ
が活動した実演等の原盤を利用し,原告シージェスとの間で事前協議等を
することなく,JYJのコンサートDVD等の販売を継続していた。つま
り,上記分配金等は,本件専属契約に基づく平成22年4月から6月にか
けてのJYJのアーティスト活動から生まれた対価として発生した金額で
あり,たとえ7月分以降の支払であっても,その支払を基礎づけるJYJ
のアーティスト活動は,被告エイベックスが本件専属契約に基づきJYJ
のアーティスト活動を企画・計画等していた4月から6月にかけてのもの
である。
エ以上のとおり,平成22年4月から6月分のJYJの活動の対価として,
被告エイベックスが原告シージェスに対し支払うべき金額は,アーティス
ト印税として合計4576万6459円(上記アの合計5083万882
2円から507万2363円を控除した額)と,利益分配金として3億7
843万2573円(上記イの合計)を合計した4億2419万9032
円(1か月当たり1億4139万9677円)である。
オしたがって,原告シージェスは,被告エイベックスに対し,平成22年
7月以降,本件専属契約が解除される平成23年2月23日までの約8か
月間分の逸失利益として,11億3119万7416円(1億4139万
9677円×8)の支払を請求する。
(被告エイベックスの主張)
原告シージェスの主張アのうち,平成22年4月から6月分,同年10月
から12月分及び平成23年1月から3月分のアーティスト印税額が原告シ
ージェス主張のとおりであること,本件解除後に販売したCD及びDVDに
対するアーティスト印税分が507万2363円であること,当該金額が平
成22年4月から6月にかけてのJYJのアーティスト活動の対価ではない
ことは認め,その余は否認する。平成22年7月から9月分のアーティスト
印税は3588万1577円である。また,被告エイベックスは無断でCD
及びDVDを発売していない。原盤の利用に係る本件専属契約6条(2)では,
「協議」することのみが利用の条件とされており,協議をすれば,それが整
わなくとも原盤及びレコード等の最終決定権限は被告エイベックスにあると
されている。日本国内での原盤の利用については,原告甲,JYJ及び被告
エイベックス担当者との間で協議がされており,CD及びDVDが無断で行
われた事実はない。また,仮に原告シージェスが主張するように本件専属契
約が解除により終了しているとすれば,本件専属契約6条(2)ただし書,8
条ただし書により,被告エイベックスは,原告シージェスと協議することな
く,商品の発売・販売を含む権利行使をすることができる。
原告シージェスの主張イは認める。
原告シージェスの主張ウのうち,被告エイベックスが平成22年8月JY
Jを野外イベントに出演させたことは認め,その余は否認する。被告エイベ
ックスは,同月までJYJのマネジメント業務を行っていた。
原告シージェスの主張エ及びオは否認する。
(3)コンサート活動の妨害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3
-3)
(原告シージェスの主張)
ア原告シージェスは,ザックに対し,日本においてJYJの東北関東大震
災チャリティーコンサートの開催を依頼し,平成23年3月14日,ザッ
クとの間でコンサート契約を締結した。原告シージェスとザックは,コン
サートの売上から諸経費を控除した残金のそれぞれ2分の1ずつ利益とす
ることを合意した。
イザックは,横浜アリーナでのコンサートを開催すべく,会場利用の申込
みをしたところ,被告エイベックスは,横浜アリーナに対し,本件専属契
約が現在も有効に成立していることから,ザックに対して会場の利用を許
諾した場合,仮処分等の裁判を起こすこと等を記載した書面を送達するな
どしたことから,ザックは会場の利用を拒否された。
ウそこで,ザックは,さいたまアリーナでのコンサートを開催すべく,会
場利用の申込みをしたところ,被告エイベックスは,さいたまアリーナに
対し,本件専属契約が現在も有効に成立していることから,ザックに対し
て会場の利用を許諾した場合,仮処分等の裁判を起こすこと等を記載した
書面を送達するなどしたことから,ザックは会場の利用を拒否された。
エさいたまアリーナでコンサートを開催した場合の想定利益
(ア)チケット売り上げによる想定利益
a想定売上
さいたまアリーナの収容人数は1万8000人であり,昼と夜の2
部制とし,チケットは1枚8500円のものを1万6000人分,7
500円のものを2000人分発売することを予定していた。
したがって,チケットの想定売上は,税込みで3億0200万円で
ある。
(計算式)(8500円×1万6000人+7500円×2000
人)×2=3億0200万円
b想定支出
想定支出は,別紙支出表のさいたまアリーナ欄記載のとおりであり,
その合計は1億4247万円である。
cチケット売上の想定利益
チケット売上の想定利益は,3億0200万円から1億4247万
円を差し引いた1億5953万円である。
(イ)グッズ販売による想定利益
a想定売上
さいたまアリーナの公演では,3500円(税込)の記念Tシャツ
及び2500円(税込)のストラップ付きパンフレットを販売する予
定であった。
そして,国技館コンサートにおける販売実績は1人当たり平均25
00円のグッズを購入していたことから,さいたまアリーナでの収入
予定は,2500円に収容人数3万6000人を掛けた9000万円
である。
b想定支出
想定支出には,韓国でのグッズ制作費(売価の7割=6300万
円),輸入関税,運搬費,アルバイト人件費,会場コミッションなど
に約900万円がかかり,その合計は7200万円である。
cグッズ販売による想定利益
グッズ販売による想定利益は,9000万円から7200万円を差
し引いた1800万円である。
(ウ)想定利益の合計
以上より,さいたまアリーナにおいてJYJのコンサートを開催する
ことができていれば,1億5953万円と1800万円との合計1億7
753万円の利益が見込まれていた。
オ国技館コンサートを開催したことによる実際の利益
(ア)チケット売上による実際利益
a売上
国技館の収容人数は9577人であり,昼と夜の2部制とし,チケ
ットは1枚8500円(諸手数料を加算して1枚9750円)で発売
し,実際1万9105人分販売されたことから,チケットの売り上げ
は1億8624万3750円(税込み)であった。
b支出
国技館コンサートの支出は,別紙支出表の両国国技館欄記載とおり
であり,その合計は1億3320万9500円であった(注記:別紙
支出表の両国国技館欄の記載と異なるが,原告らの平成24年3月1
6日付け準備書面6本文のとおり記載する。以下同じ。)。
そのうち,舞台制作費については,さいたまアリーナとは異なり,
両国国技館でコンサートを行う場合,元々コンサートを行うために作
られた会場ではなく,基礎舞台が存在しないため,多額の舞台制作費
がかかっており,その金額は1854万3000円となっている。
また,国技館の場合,会場費として,電源が不足するため,さいた
まアリーナでコンサートを開催した場合に比較して電源車の費用がか
さんだり,グッズの販売を館外で行わなければならないため,テント
設営などのレンタル代として別途361万4310円がかかっている。
さらに,通常,コンサートを開催する場合,ローソン等にプレイガ
イドを依頼することから,ローソン等のプレイガイドに対し,販売手
数料として8パーセントを支払うこととなっており,1億8624万
3750円の8パーセントに相当する1489万9500円を控除し
た1億7134万4250円が本来の実質的な売上金額となっていた
はずである。
しかし,被告エイベックスから「JYJのチケットを扱った場合に
は被告所属のアーティストのコンサートにチケット販売はやらせな
い」との圧力がかかったことから,ローソンなどのプレイガイドの利
用が不可能となった。そのため,ザックにおいて,自社受注発券シス
テムを開発して上記作業を行わざるを得ず,そのための開発費用が2
300万円,電話対応スタッフの臨時雇用による費用が83万230
3円,チケットを発送するための郵便代が359万2440円かかっ
ており,その合計額は2742万4743円となった。
cチケット売上の実際利益
チケット売上の実際利益は,1億8624万3750円から1億3
320万9500円を差し引いた5303万4250円であった。
(イ)グッズ販売による実際利益
a売上
国技館コンサートで販売したグッズは,3500円(税込)の記念
Tシャツ及び2500円(税込)のストラップ付きパンフレットであ
り,合計で4776万2500円の売上となった。
b支出
支出には,韓国でのグッズ制作費(売価の7割=3343万375
0円)がかかり,支出の合計は3343万3750円となる。
cグッズ販売による実際利益
グッズ販売による実際利益は,4776万2500円から3343
万3750円を差し引いた残金1432万8750円となる。
(ウ)実際利益の合計
以上より,両国国技館コンサートによる利益は,チケット販売による
実際利益5303万4250円とグッズ販売による実際利益1432万
8750円との合計6736万3000円である。
カ原告シージェスと株式会社ザックコーポレーションは,被告エイベック
スの不法行為により,少なくとも,さいたまアリーナでJYJのコンサー
トを開催していたら得られたであろう想定利益1億7753万円と両国国
技館において実際に開催されたコンサートにおいて得られた利益6736
万3000円との差額である1億1016万7000円の損害を被ったこ
とになる。
そして,原告シージェスは,ザックとの間で,両者の間で分担する利益
を各2分の1とすることを合意していることから,原告シージェスの被っ
た損害は1億1016万7000円の2分の1に相当する5508万35
00円となる。
(被告エイベックスの主張)
ア原告シージェスの主張アは知らない。同イのうち,ザックが横浜アリー
ナに対して会場利用の申し込みをしたこと,横浜アリーナが利用申込みを
拒否したことは認め,その余は否認する。同ウのうち,ザックがさいたま
アリーナに対して会場利用の申込みをしたこと,さいたまアリーナが利用
申込みを拒否したことは認め,その余は否認する。同エは知らない。同オ
(ア)aのうち,両国国技館で行われたコンサートのチケット1枚当たりの
代価が8500円であることは認め,その余は知らない。同オ(ア)b及び
cは不知ないし否認する。同オ(イ)は知らない。同オ(ウ)は不知ないし否
認する。同カは不知ないし否認する。
イ横浜アリーナ及びさいたまアリーナ社がザックからの会場利用の申し込
みを拒否したのは,あくまで横浜アリーナ及びさいたまアリーナの独自の
判断に基づくものである。
ウ原告シージェスは,被告エイベックスから圧力がかかったことから,ロ
ーソンなどのプレイガイドの利用が不可能となり,ザックにおいて自社受
注発券システムを開発し,そのための開発費用が2300万円,電話対応
スタッフの臨時雇用による費用が83万2303円,チケットを発送する
ための郵便代が359万2440円かかっており,その合計額は2742
万4743円となったなどと主張する。
しかしながら,被告エイベックスから圧力がかかったとされる時点が必
ずしも明らかではないが(早くても,原告シージェスが横浜アリーナでの
コンサートを告知した平成23年3月22日以降のことである。),チケ
ットの抽選申込みの開始期間である平成23年5月10日までは,どんな
に長くても1か月半程度しかない。チケット発券システムの開発には,通
常1年程度の期間がかかるものであるから,1か月半程度という短期間で,
突貫的に開発を行うことはおよそ不可能である。また,チケット発券シス
テムの開発には,億単位の費用を要するのが通常であり,これを2300
万円程度の費用で開発することはできないものである。JYJのコンサー
トのために新たに自社受注発見システムを開発したなどという主張は極め
て不自然である。
原告シージェスは,発券・発送手数料800円,システム使用料450
円として,1顧客あたり1250円もの実費負担を強いている。そうだと
すれば,仮に電話スタッフの臨時雇用による費用83万2303円及び郵
便代359万2240円が支出に含まれるとしても,原告シージェスは,
当該費用を最初から顧客に転嫁することを予定していたことは明らかであ
るから,当該費用が被告エイベックスから圧力がかかったことから生じた
費用であるかのような原告シージェスの主張は,全く理由がないものであ
る。
また,「支出」の中には,ダンサーの費用1172万2530円など常
識的にはありえない数字も多々見受けられるものである上,これらの数値
は客観性に欠け,信用に値しないものである。
(4)著作隣接権侵害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3-4)
(原告シージェスの主張)
ア本件専属契約は,被告エイベックスが,原告シージェスとの別途協議の
上,JYJの実演を収録して原盤を作成することができること,及び,被
告エイベックスが,作成した原盤の利用行為について,原告シージェスと
の別途協議の上,決定できるものと規定し(6条),また,権利の帰属に
ついて,契約期間中に行われたJYJの①創作した著作物にかかる著作権,
②実演家の権利,③レコード制作者の著作隣接権又は映画制作者の著作権,
④肖像権及びパブリシティ権,⑤デザインやロゴマークにかかる著作権等
各種権利等を,原告シージェス及びJYJより被告エイベックスに独占的
に譲渡すると規定し(7条),さらに,7条により被告エイベックスに譲
渡された権利の行使について,被告エイベックスは,原告シージェスとの
別途協議の上,行使すること並びに第三者に権利行使の許諾もしくは譲渡
ができるものと規定している(8条)。そして,本件専属契約では,これ
ら定められた原告シージェス及びJYJの行為(義務)等一切の対価とし
て,被告エイベックスは,①契約金,②アーティスト印税,③利益分配金
を,原告シージェスに対し支払うと規定している(10条)。
イ本件解除により,本件専属契約で定められた上記取り決めは,少なくと
も将来に向かっては効力を失ったというべきである。つまり,本件解除日
以降は,被告エイベックスは,JYJの実演を収録して原盤を作成するこ
とはできず,既に作成した原盤の利用行為もできないし,また,7条によ
り譲渡された権利の行使も当然できないというべきである。もとより,被
告エイベックスの債務不履行を起因とする本件解除によって,7条により
原告シージェス及びJYJから被告エイベックスに対して譲渡された各種
権利も,本件解除後は少なくとも将来に向かって効力を失い,これら各権
利は本件解除時からJYJから専属権を与えられた原告シージェスの元へ
復帰するものと解すべきである。
また,実質的にも,被告エイベックスが,原告シージェス及びJYJに
より譲渡された権利を利用する前提となる,原告シージェスと別途協議の
場自体も,本件解除によりが失われることになるし,そもそも,その原告
シージェス及びJYJの持つ権利の被告エイベックスに対する譲渡も,そ
れは,被告エイベックスが,本件専属契約で定められた被告エイベックス
の各義務を果たすことを条件として認められるものであるから,被告エイ
ベックスが自らの義務を怠った以上,譲渡の効力も失われると解さなけれ
ば,極めて不合理かつ不平等である。
この点,本件専属契約6条,8条,14条,24条等に,本件専属契約
終了後の取り決めが定められているが,解除の効果から当然これらの取り
決めも効力を失うものと解すべきである。上記各条項は,被告エイベック
スの債務不履行によって本件専属契約が解除されることなく存続期間を経
過して終了した場合を想定するものであると解することが当事者の合理的
意思に合致している。
ウ被告エイベックスは,本件解除後以降,本件専属契約により原告シージ
ェス及びJYJから譲渡された7条の権利を失ったものである。そうであ
るならば,本件解除日以降,被告エイベックスは,原告シージェスの許諾
を得ない限り,JYJの実演が収録された原盤を利用してCD等を増製し
たり販売したりすることは許されない。それにもかかわらず,被告エイベ
ックスは,別紙著作物目録1~8記載のCD及びDVDを原告シージェス
の許諾なく販売し続けており,これは,原告シージェスが専属権を持つJ
YJの実演家の権利である録音権・録画権(著作権法91条1項)及び譲
渡権(同法95条の2第1項)を明確に侵害する行為である。
エ(ア)ところで,著作権法91条2項・95条の2第2項においては,許
諾を得て映画の著作物において録音され又は録画された実演については,
実演家の録音権・録画権・譲渡権が消尽することを定めているところ,
別紙著作物目録1~8記載の著作物のうち,7を除き,記録媒体として,
音と映像がともに再生されるDVDを一部あるいは全部に採用している。
(イ)著作権法91条2項は,映画の著作物において,実演家の録音権・
録画権が消尽する場合として,録音権・録画権を持つ者の許諾を得るこ
とを要件としているところ,本件専属契約は被告エイベックスの債務不
履行を理由として解除されたのであるから,たとえ収録時に原告シージ
ェスおよびJYJがビデオの収録を認めていたとしても,解除後におい
ては,その許諾は(少なくとも)将来に向かっては効力を失ったものと
解すべきである。
なぜならば,原告シージェスが被告エイベックスに対し,上記ビデオ
の収録を認めていたのは,少なくとも本件専属契約の当初契約期間内は,
被告エイベックスが,本件専属契約で定められた義務(JYJのマネジ
メント業務)を遂行することを期待したからこそ認めたのであり,本件
専属契約が被告エイベックスの債務不履行によって解除された場合には,
将来に向かってそのような許諾は効力を失うものとするのが当事者の合
理的意思であると解すべきだからである。
また,被告エイベックスが自身の義務を本件専属契約後半年も経たず
放棄した場合においては,その後,被告エイベックスが,当該著作物の
利用について本件専属契約で定められたアーティスト印税を支払ったと
しても,原告シージェス及びJYJが失った利益に比し,被告エイベッ
クスが得る利益があまりにも大きく,公平の原理に著しく反することか
らも,かかる意思が当事者の合理的意思であると解すべきである。
したがって,仮にこれらの著作物が映画の著作物だとしても,原告シ
ージェスの許諾はなく,著作権法91条2項は適用されない。
(ウ)映画の著作物についての実演家の権利に,著作権法上,他の著作物
とは異なる規定が定められているのは,同著作物が他の著作物に比し,
一般的に,権利者(実演家)が多数であるため,権利関係を簡素化しな
ければ,映画の著作物利用上支障を来たすからである。被告エイベック
スが原告シージェスの権利を侵害している著作物は,JYJの実演のみ
を収録した(バックミュージシャンなどは除く)JYJの実演自体を表
現したものであり,法の予定している映画の著作物とは異なるものであ
るから,単純に,これを映画の著作物と解し,実演家の権利を消尽させ
る条項を適用するべきではない。
また,本件専属契約においては,映像著作物に関して「レコード等」
と称し(1条),レコードとビデオ(映像物)を特段区別していないし,
アーティスト印税の計算方法についても,レコードとビデオを区別せず,
原盤の著作隣接権又は著作権が存続する期間中支払うものとしている
(10条)。そうであるならば,本件専属契約においては,ビデオにつ
いても,原告シージェスが,その収録後もレコードと同様の権利(録音
権・録画権・譲渡権)を持ち続けることを当然の前提としており,実演
家の権利を消尽させる条項を適用しないのが当事者の合理的意思という
べきである。
仮に,これらの著作物が映画の著作物であるとしても,DVDに収録
されている映像物は,オフショットと称するJYJの普段の(誰からも
演技等を要求されていない)自然体の様子をとらえたものであったり,
JYJ自身が自分の意思,及び,自己の創作性をもって演じるJYJの
コンサートの映像を収録したものがほとんどである。つまり,これら著
作物は,JYJ自身が著作物全体に渡り,自分の思想・感情を創作的に
表現したものを,そのまま収録した映像物であり,当該著作物において,
JYJは実演家であると同時に,その映像物の共同著作者というべきで
ある。
したがって,仮に,これらのDVDが映画の著作物であり,また,当
該著作物に原告シージェス及びJYJが持つ,実演家の権利が消尽して
いたとしても,原告シージェス及びJYJはこの映画の著作物の共同著
作権者というべきであるから,被告エイベックスの販売行為は,著作権
者の持つ複製権・頒布権(著作権法21条・26条)を侵害する行為で
ある。
オ仮に,著作権法上の権利を侵害しないとしても,本件専属契約が,被告
エイベックスの債務不履行に起因して原告シージェスにより解除された後
には,被告エイベックスは,原告シージェスに無断でこれらDVD等の販
売行為を行うことはできないから,被告エイベックスの行う販売行為は,
違法な行為であり,民法709条の不法行為を構成する。
カ被告エイベックスは,JYJのCD及びDVDの販売により,原告シー
ジェスの持つ権利を侵害することを認識し又は容易に認識し得た。
また,別紙著作物目録1~8記載のCD及びDVDをエイベックス・マ
ーケティング株式会社が販売しているとしても,同社と被告エイベックス
との間には客観的共同関係が認められるから,被告エイベックスは共同不
法行為責任を負う。
キ被告エイベックスからは,アーティスト印税(JYJの著作権使用料)
として,以下の報告を受けている。
平成23年1月から3月分606万6289円
平成23年4月から6月分69万9846円
平成23年7月から9月分60万5634円
ただし,平成23年1月から3月分には,本件専属契約に基づく平成2
2年4月から6月にかけてのJYJのアーティスト活動の対価として発生
した金額である99万3926円が含まれており,本件解除後に,原告シ
ージェスに無断で販売したCD及びDVDに対するアーティスト印税分
(平成23年1月から3月分)は,上記を控除した507万2363円で
ある。
ところで,上記報告は,本件専属契約の別紙に定める「本件レコード等
における計算方法」に基づき算出されたものであるが,その計算方法は
「(税込価格-消費税-容器代)×2%×販売数量」とされており,また,
「容器代は税込価格の10%」,「販売数量は総括倉庫から出荷される数
量の80%」と定められている。これは,本件レコードの製造原価等を考
慮したこと及び必ずしも出荷枚数が売上枚数と一致しないことを考慮した
ものであり,これら一定の金額を控除することによって,被告エイベック
スが本件レコード等の販売で得る利益の金額を擬制し,その金額の2%を
アーティスト印税と定めたものである。
したがって,上記報告にある平成23年1月から3月分のうち507万
2363円,同年4月から6月分69万9846円,同年7月から9月分
60万5634円を合計した637万7843円を2%で割った,3億1
889万2150円が被告エイベックスの利益である。
よって,原告シージェスは,被告エイベックスに対し,損害賠償金とし
て,上記と同額の請求権を有する。
(被告エイベックスの主張)
ア原告シージェスの主張アは認める。同イ及びウは否認する。同エ(ア)は
認め,同エ(イ)及び(ウ)は否認する。同オ及びカは否認する。同キは不知
ないし否認する。別紙著作物目録1~8記載のCD及びDVDの実際の販
売元はエイベックス・マーケティング株式会社であるものの,その販売に
関する責任は,包括的に被告エイベックスが負っているものであるから,
当該CD及びDVDの販売主体は,あくまでも被告エイベックスである。
イ(ア)本件専属契約7条(1)柱書では,本件専属契約の有効期間中に行わ
れたJYJのアーティスト活動に関する同条項各号の権利(一切の著作
物にかかる著作権,実演家の権利等)が,「期間の制限なく」被告エイ
ベックスに独占的に譲渡されると規定されている。
そのため,本件専属契約が有効期間満了により終了したか,解除によ
り終了したか,その終了原因を問うことなく,「本契約終了後におい
て」も,被告エイベックスは,地域,範囲,期間の制限なく,自由な判
断により,有効期間中のJYJの活動に関する本件専属契約7条に基づ
く権利を行使し,又は第三者に許諾若しくは譲渡でき(8条ただし書),
また,原盤の利用行為に関する決定をできる旨が規定されている(6条
(2)ただし書)。
その反面,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,著作隣接権
又は著作権が存続する期間中,JYJの実演活動の対価としてアーティ
スト印税を支払うこととされており(10条(1)①),契約終了原因を
問うことなく「本件専属契約終了後」も有効に存続する旨規定されてい
る(24条)。
以上のような本件専属契約書の規定の仕方からすれば,上記の各条項
は,本件専属契約が存続期間を経過して終了した場合のみならず,債務
不履行解除によって終了した場合も当然に適用されることは明らかであ
る。
(イ)また,レコードビジネスにおいて,レコード会社等の原盤製作者は,
原盤製作にあたって,スタジオ使用料,スタジオミュージシャンの報酬,
編集室使用料,エンジニア料,編曲料等の膨大な資本を投下しており,
レコードの販売やデジタル配信等の原盤の各種利用によって,その投下
資本を回収していくことが元々予定されている。したがって,既に製作
された原盤については,原盤製作者において,期間に関わりなく継続的
に利用できるようにすることが必要である。
そのため,本件においても,原盤製作に資本を投下した被告エイベッ
クスが,かかる投下資本を回収するために,本件専属契約終了後も原盤
を利用できるとする本件専属契約は,レコード業界の慣行にも合致した
合理的な内容である。
原告シージェスも,本件専属契約の解除の効果が将来効であることは
認めているが,上記レコード業界の慣行からすれば,これは,被告エイ
ベックスが,本件専属契約解除後に,新たな原盤及びレコードの製作又
は利用を行うことができないことを意味するにすぎず,本件専属契約の
有効期間中に製作された原盤及びレコードの利用には何ら影響がないと
いうべきである。
そして,上記のように解したとしても,被告エイベックスは,原告シ
ージェスに対し,著作隣接権又は著作権が存続する期間中,JYJの実
演活動の対価としてアーティスト印税を支払うこととされており(10
条(1)①),原告シージェスも本件原盤の利用によって一定の利益を確
保することができるのであるから,原告シージェスに不利益はない。
(ウ)以上からすれば,仮に本件解除が有効であったとしても,本件専属
契約の有効期間中に製作された原盤及びレコードの利用には何ら影響が
ない。
ウ(ア)著作権法上,映画の著作物は「映画の効果に類似する視覚的又は視
聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著
作物を含む」とされている(2条3項)。そして,「映画の効果に類似
する視覚的又は視聴覚的効果」については「視覚的効果は,映写される
影像が動きをもって見えるという効果である」と解されている。
これを本件についてみると,JYJのコンサートにおけるライブやオ
フショットの様子を収録したDVDは,まさに映写される影像が動きを
もって見えるという効果を生じさせる方法で表現されており,また,本
件専属契約上,収録とは,実演その他の素材を「物に固定して」実演の
再生を可能とする行為をいうとされていることからも(1条②),上記
定義規定に該当し,映画の著作物にあたることは明らかである。
(イ)映画の著作物の著作者は「制作,監督,演出,撮影,美術等を担当
してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とされてい
る(著作権法16条)。そして,映画の出演者たる俳優は,映画の著作
物の全体的形成に創作的に寄与しているとはいえず,原則として,映画
の著作者ではなく,映画に利用されている実演を行った実演家としての
地位にあるものである。
本件においても,JYJはDVDにおいて実演家にすぎず,その全体
的形成に創作的に寄与した者とはいえないから,DVDの共同著作者と
はいえない。
(ウ)著作権法上,映画の著作権は,その著作者が映画製作者に対し当該
映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製
作者に帰属するとされている(29条1項)。そして,映画製作者とは,
映画の著作物の製作に発意と責任を有する者(2条1項10号),すな
わち「映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法
律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作
物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことである」
とされている。
本件において,DVDを製作する意思を有し,DVD製作に関する法
律上の権利義務が帰属する主体であって,そのための費用を支出するの
は被告エイベックスであるから,DVD製作者すなわち著作権法上の映
画製作者は被告エイベックスである。そして,映画著作者は,映画製作
者に対し参加を約束して映画を製作するのが通常であり,現に原告シー
ジェス及びJYJはDVDの製作への参加を約束したのであるから,著
作権法29条1項の要件が充足されることによって,DVDの著作権が
帰属するのもエイベックスである。
したがって,原告シージェス又はJYJにDVDの著作権が帰属する
とはいえない。
(5)名誉毀損の成否,損害額及び名誉回復措置の必要性(争点3-5)
(原告甲の主張)
ア被告エイベックスは,平成22年9月16日,エイベックスGHDのホ
ームページにおいて,本件摘示事実を摘示して,原告甲の社会的評価を著
しく低下させ,原告甲の名誉を毀損した。
イその後も,エイベックスGHDのホームページにおいて,本件摘示事実
は削除されることなく掲載されている。
しかも,エイベックスGHDは,芸能関係・音楽事業において,他を圧
倒する突出したシェアを有している業界ナンバーワンの企業であり,エイ
ベックスGHDのホームページを閲覧している国民及び外国人の数は知れ
ない。JYJのファンの大半は,同ホームページを閲覧している可能性が
高く,同ホームページ上に本件摘示事実が掲載されることにより,原告甲,
原告シージェス及び所属しているアーティストであるJYJの社会的評価
及び社会的信用が毀損される程度は著しく,その意味において,被告エイ
ベックスの行為の違法性は著しく高いといえる。
よって,エイベックスGHDのホームページにおいて,本件摘示事実が
真実に反していることを掲載するなどして,謝罪広告を掲載してもらわな
ければ原告らの名誉・信用の回復は図れないといえる。
ウ原告甲は,被告エイベックスの名誉毀損行為により,多大な精神的苦痛
を被り,その損害を金銭に見積もるならば,少なくとも500万円を下る
ことはない。
エ(ア)被告エイベックスは,本件摘示事実は,「原告C-JeSの代表者
が,担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役してい
た」という事実を摘示するものにすぎないと主張する。
しかし,本件摘示事実は,①原告甲の前科に関する事実(原告甲が,
暴力団幹部の経歴を持つ父親の威力を背景に担当アーティストを恐喝し,
強要罪で実刑判決を受け服役していた,という報道があったこと。),
②原告甲が暴力団と関係があるとの事実(現時点での暴力団との関係は
明らかでないが,暴力団と関係がある可能性があること)の2つである。
(イ)そして,①の事実については,原告甲の社会的評価を低下させる事
実であることは否定し得ない事実である。特に,被告エイベックスは,
担当アーティストを「恐喝」したとの事実を記載しているが,「恐喝」
と「脅迫」は全く異なる行為態様であり,前者は後者に比して悪質性の
高い行為態様であり,判決文にも「恐喝」なる表現はなく,事実に反す
るばかりではなく,原告甲を陥れようとする意図がありありと読み取れ
るものとなっている。
また,仮に①の事実がある程度知れていたとしても,社会的影響力の
ある上場企業(エイベックスGHD)のホームページ上(及びJYJの
オフィシャルホームページ上)に公表すれば,それまで事実を知らなか
った不特定多数の者に,その内容が伝播し,これによって原告甲の社会
的評価がさらに低下することは否定できない。そもそも,上記のとおり,
本件摘示事実は,被告エイベックスが指摘する新聞や週刊誌の報道内容
にとどまっておらず,新たな内容をも含むものである。
特に,前科等にかかわる事実は,その者の名誉・信用に直接かかわる
事項であるから,みだりにその事実を公表されないこと,及び,前科等
の事実の公表によって,社会復帰後に,新しく形成された社会生活の平
穏等を害されない利益を有することはいうまでもない。本件摘示事実は,
週刊誌等が報じた報道について,被告エイベックスが独自に調査した結
果,原告甲の前科が事実であったなどとするものであり,これにより原
告甲の社会的評価がさらに低下したことは疑いがない。
(ウ)②の事実については,「現時点での」という表現を使うことにより,
将来,「暴力団との関係」が解明されることを示唆する内容となってい
る。しかも,被告エイベックスは,本件専属契約を締結している立場に
あることからすれば,かかる表現を見た読者は,被告エイベックスが
「暴力団との関係」を強く疑っていると読み取ることは必定であり,原
告甲の社会的評価を著しく低下させる表現であることは否定しようのな
い事実である。
また,上記前科及び前科の内容が事実であったことを摘示することで,
あたかも原告甲が暴力団と関係する可能性がある人物であることを読み
手に深く印象づけることにもなっている。暴力団排除が叫ばれている昨
今において,原告甲が暴力団に関係する人物である可能性があるとして
公表することが,原告甲の社会的評価を低下させることはいうまでもな
い。
オ(ア)被告エイベックスは,原告甲の前科等の事実について,多くの人々
が関心を持った事件であったことをもって,事実の公共性が認められる
と主張する。
しかし,人々が関心を持ったことと,その事実に公共性があることと
は全く異なる概念であり,人々の関心を持ったとの点のみで,公共の利
害に関する事実であるとは到底いえない。乙1号証の1~4の報道内容
を読めば明らかなとおり,報道に基づく人々の関心の的は,日本で絶大
な人気を誇るJYJが暴力団など反社会的勢力と関係があるかどうかで
あり,原告甲の前科ではない。
(イ)被告エイベックスの名誉毀損行為は,被告エイベックスのJYJの
日本におけるアーティスト活動を一方的に休止するとの発表(本件発
表)に付随して行われたものであり,本件発表をするに当たって,原告
甲の前科等の事実を摘示する必要性は全くないものである。換言すれば,
目的の公益性が欠如しているというべきである。
(ウ)本件摘示事実のうち,少なくとも,原告甲が暴力団と関係している
との事実については,被告エイベックスも,それが真実であるとは信じ
ていないのであり,また,真実であると信じるについて相当の理由も存
しないことから,上記事実を摘示する行為には,真実性の証明がないも
のとして,違法性は阻却されない。
(被告エイベックスの主張)
ア原告シージェスの主張アのうち,被告エイベックスが,エイベックスG
HDのホームページにおいて,本件摘示事実を摘示したことは認め,その
余は争う。同イのうち,本件摘示事実が削除されていないことは認め,そ
の余は不知ないし否認する。同ウは不知ないし否認する。
イ一般読者の普通の読み方を基準にすると,本件摘示事実は,「原告C-
JeSの代表者が,担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け
服役していた」という事実を摘示するものにすぎない。
そして,エイベックスGHDのホームページにおいて本件摘示事実が掲
載された平成22年9月16日以前において,様々な新聞及び週刊誌の報
道により,「原告C-JeSの代表者が,担当アーティストを恐喝し,強
要罪で実刑判決を受け服役していた」ことは広く知れ渡っていたのである
から,原告甲の社会的評価は既に相当程度低下していたといえ,本件摘示
事実の摘示により,原告甲に新たな社会的評価の低下をもたらさないこと
は明らかである。
したがって,被告エイベックスに名誉毀損の不法行為が成立しない。
ウ(ア)「公共の利害に関する事実」とは,摘示された事実自体の内容,性
質に照らし,客観的にみて,当該事実を摘示することが公共の利益に沿
うと認められることをいう。
そして,本件摘示事実は,原告甲が担当アーティストを恐喝し,強要
罪で実刑判決を受け服役していたという重大な刑事事件に関するもので
あり,実刑判決を受けたのが著名なアーティストであるJYJの韓国に
おける所属プロダクションの代表者ということも相まって,多くの人々
が関心を持った事件であった。
よって,事実の公共性が認められることは明らかである。
(イ)被告エイベックスは,社会的な影響力のあるJYJの今後のマネジ
メントについて,ファン等の一般人に対して説明を行うために本件摘示
事実を公表したのであり,その目的は専ら公益を図ることにある。
そもそも,公共の利害に関する事実を記載しているものは,特段の事
情がない限り,その目的は専ら公益を図るものと認められる上,本件摘
示事実は,特段原告甲を揶揄誹謗し,敵意や反感を示すものではないか
ら,かかる意味においても,目的の公益性が認められることは明らかで
ある。
(ウ)原告甲が過去において刑事事件で実刑判決を受けたことがあるとの
事実が真実であることについては,原告甲自身が認めており,また,当
該刑事事件に関する判決においても,以前の担当アーティストに対する
原告甲の強要行為が認定され,実刑判決が下されていることからすれば,
本件摘示事実が真実であることにはもはや疑いがない。
(エ)以上のとおり,本件摘示事実には,①事実の公共性,②目的の公益
性が認められ,かつ③真実性が認められるから,仮に原告甲の社会的評
価が低下したとしても,違法性が阻却され,被告エイベックスに名誉毀
損の不法行為は成立しない。
5第4事件
(1)原告シージェスの本件専属契約違反の有無(争点4-1)
(被告エイベックスの主張)
原告シージェスは,本件専属契約が現在もなお有効に存続しているにもか
かわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,平成23年10月15日
及び16日,ザックとともに,ひたちなかコンサートを開催した。
ひたちなかコンサートを開催する行為は,本件専属契約上の「アーティス
ト活動」に該当する行為であり(4条3号),被告エイベックスの事前の承
諾なく,これを行うことは本件専属契約4条に違反する行為である。
したがって,被告エイベックスは,本件専属契約17条(1)及び民法41
5条に基づき,原告シージェスに対し,ひたちなかコンサートの開催によっ
て被告エイベックスが被った損害の賠償を請求する権利を有する。
(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張のうち,原告シージェスがひたちなかコンサート
を開催したことは認め,その余は否認ないし争う。
(2)共同不法行為(債権侵害)の成否(争点4-2)
(被告エイベックスの主張)
ア原告シージェス及びザックは,共同してひたちなかコンサートを開催し,
その結果,被告エイベックスの本件専属契約に基づく日本におけるJYJ
のマネジメント業務を独占的に遂行する権利を侵害して,被告エイベック
スに損害を与えているのであるから,原告シージェス及びザックの行為は
共同不法行為に該当する。
イ原告シージェス及びザックは,本件専属契約が現在もなお有効に存続し
ているにもかかわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,ひたちな
かコンサートを開催した。原告シージェス及びザックは,ひたちなかコン
サートを開催する以前に,被告エイベックスが,日本におけるJYJのマ
ネジメント業務を独占的に遂行する権利を有していること,及び,ひたち
なかコンサートを開催することによって被告エイベックスに損害が生じる
ことを知りながら,あえてひたちなかコンサートを開催したものであり,
原告シージェス及びザックによるひたちなかコンサートの開催が,被告エ
イベックスの権利を侵害する違法な行為であることは明らかである。
ウ共同不法行為の成立要件である「共同の不法行為」としては,行為者間
の「関連共同」(各人の違法行為が関連共同して損害の原因となったこ
と)が必要であると考えられており,ここでいう「関連共同」とは,「客
観的に一個の不法行為があると見られる」関係,すなわち客観的関連共同
関係があれば足りるものと理解されている(客観的関連共同説)(最判昭
和43年4月23日民集22巻4号964頁参照)。
そして,かかる客観的関連共同関係とは,「結果の発生に対して社会通
念上全体として一個の行為と認められる程度の一体性があること」をいい,
結局,その判断の基準は,「法的に見て,複数の加害者の加害行為が,損
害との関係で,ひとつの加害行為と評価できるほどに一体性を有するかど
うか」という点にかかっている。
この点,本件においては,「頑張ろう日本・頑張れ茨城・復興支援コン
サートinひたち海浜公園実行委員会」がひたちなかコンサートの主催者
であるものの,原告シージェス及びザックがひたちなかコンサートの開催
に必要不可欠な役割を果たしていることは明らかである。そのため,原告
シージェス及びザックの関与がなければ,ひたちなかコンサートが実現す
ることはなかったことからすれば,原告シージェス及びザックは,実行委
員会を通じて,共同してひたちなかコンサートを開催しているといえる。
被告エイベックスの受けた損害との関係では,ひたちなかコンサートを開
催する行為が加害行為に該当するのであるから,原告シージェス及びザッ
クの行為は被告エイベックスの受けた損害との関係で,ひとつの加害行為
と評価できるほどに一体性を有していることは明らかである。
したがって,原告シージェス及びザックの行為には客観的関連共同関係
が認められるから,共同不法行為に該当する。
(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張アは否認ないし争う。同イのうち,原告シージェ
スがひたちなかコンサートを開催したことは認め,その余は否認ないし争う。
同ウのうち,第1段落及び第2段落は争わず,その余は否認ないし争う。
(3)損害額(争点4-3)
(被告エイベックスの主張)
ア被告エイベックスが被った損害は,ひたちなかコンサートを被告エイベ
ックスが開催した場合に被告エイベックスが得られたはずの利益である。
被告エイベックスが長年にわたって数多くのイベントの開催に携わってき
ており,ノウハウの蓄積もあることからすれば,少なくともひたちなかコ
ンサートの開催によって実行委員会が得た利益と同額の利益を得られたこ
とは明らかである。
イひたちなかコンサートは,平成23年10月15日及び16日の各日に
1回ずつ行われており,1回あたりの入場者数は,4万人程度であった。
ひたちなかコンサートのチケットは1枚当たり,SS席が1万5280円,
S席が1万3280円,A席が1万1280円(それぞれ,消費税及び手
数料込み)で販売されており,SS席及びS席が1万席,A席が2万席用
意されている。ひたちなかコンサートによるチケット収入は,(1万人×
1万5280円+1万人×1万3280円+2万人×1万1280円)×
2回=10億2240万円(税込)と試算される。
他方,被告エイベックスがひたちなかコンサートにおける会場運営費及
び舞台制作費の試算を依頼したところ,会場運営費は5000万円(税
込),舞台制作費は2億6234万4000円(税込)と試算された。
よって,ひたちなかコンサートの公演自体によって,実行委員会が得た
利益は,10億2240万円-(5000万円+2億6234万4000
円)=7億1005万6000円(税込)と試算される。
ウ実行委員会は,ひたちなかコンサートにおいて,Tシャツ3000円,
タオル2000円,ペンライト2000円,クリアファイル1000円,
クリアフォルダー1000円,写真セット2000円,うちわ500円,
コンサートブック2500円,バッグ500円のグッズを販売していた。
そして,ひたちなかコンサートに来場したファンの8割以上がこれらのグ
ッズを少なくとも1万円分購入していたことがうかがえる。ひたちなかコ
ンサートにおけるグッズ販売による収入は,1万円×4万人×8割×2回
=6億4000万円(税込)と試算される。
また,グッズ販売における原価及び手数料の合計額は通常販売価額の6
0%程度であるから,グッズの原価及び手数料の合計額は,6億4000
万円×60%=3億8400万円(税込)と試算される。
よって,グッズ販売によって,実行委員会が得た利益は,6億4000
万円-3億8400万円=2億5600万円(税込)と試算される。
エ以上からすれば,ひたちなかコンサートの開催によって実行委員会が得
た利益の総額は,7億1005万6000円+2億5600万円=9億6
605万6000円(税込)である。
(原告シージェスの主張)
被告エイベックスの主張アは否認する。同イのうち,ひたちなかコンサー
トの開催日及びチケット設定価格は認め,その余は否認する。同ウのうち,
ひたちなかコンサートにおけるグッズの価格設定は認め,その余は否認する。
同エは否認する。被告エイベックスは,本件専属契約に基づくマネジメント
を休止しているのであるから,仮に,本件専属契約の解除が無効であったと
しても,ひたちなかコンサートの開催により,原告に何ら損害は発生してい
ない。
第4当裁判所の判断
1被告エイベックスの本件専属契約違反の有無(争点1-1)について
(1)前提事実(3)のとおり,原告シージェスと被告エイベックスは,平成22
年2月26日,本件専属契約を締結したが,後掲の証拠等によれば,本件専
属契約締結後の事情として,以下の各事実がそれぞれ認められる。
アサンケイスポーツ新聞は,平成22年5月29日,原告甲について,
「人気韓流スターの元マネージャーだったが,このスターを脅迫して実刑
判決を受けたことがあり,暴力団とのつながりもあるという」との記事を
掲載した。
(乙42)
イ被告エイベックスは,上記の記事に記載された事実関係を調査し,原告
甲が記事に対応した前科があることを確認した。被告エイベックスは,平
成22年6月,社内協議の結果,本件専属契約を合意解除してJYJとの
直接契約とする方針とし,原告シージェスに対し,その旨を伝えたが,原
告シージェスはこれを拒否した。
(甲86,87,乙41,証人X,証人Y)
ウ被告エイベックスは,平成22年6月下旬,原告シージェスを代理した
韓国法律事務所である法務法人世宗に対し,同年8月に予定されていた
「a-nation'10」へのJYJ出演中止のプレスリリース案を送
付し,同年7月2日,同月5日夕方にはプレスリリースを行う旨をメール
により通知した。当該プレスリリース案の内容は,以下のとおりであった。
「本年8月21日および22日(大阪:長居スタジアム)ならびに8月2
8日および29日(東京:味の素スタジアム)に開催予定の『a-nat
ion'10』において,B/A’/C’の出演を中止することといたし
ましたので,お知らせいたします。
日本において現在B/A’/C’のマネジメント業務を行っているC-
JeSENTERTAINMENTCO.,LTD(以下C-JeS
社)の代表者が,暴力団幹部を父親にもち,その威力を背景に担当アーテ
ィストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたとの報道につき,
当社は事実関係を調査しておりました。
その結果,現時点での暴力団との関係こそ明らかではないものの,その
他につきましては上記報道がすべて事実であることが判明いたしました。
当社はコンプライアンス重視,企業倫理遵守の経営方針から,C-Je
S社およびその代表者がB/A’/C’のマネジメントに関与している限
り,彼らのアーティスト活動を見合わせるべきと判断いたしました。(以
下省略)」
(甲34の1及び2,甲86,87,乙41,証人X,証人Y)
エ法務法人世宗は,平成22年7月5日,被告エイベックスに対し,原告
甲との確認事項として,①原告シージェスが本件専属契約を解約する意思
があること,②原告シージェスはJYJが被告エイベックスと契約するこ
とに異議がないこと,③JYJは「a-nation'10」に出演する
ことを願っているため,出演中止のプレスリリースをする必要はないこと
などをメールにより通知した。そのため,被告エイベックスは,同日予定
していたプレスリリースを中止した。
(甲87,90,乙41,43の1及び2,証人X,証人Y)
オその後,原告シージェスと被告エイベックスとは,本件専属契約の合意
解約を交渉したものの,特段の進展がなかった。そこで,被告エイベック
スの代表取締役であるZは,平成22年8月22日及び同月30日,直接
JYJと話し合いをしたが,JYJは,被告エイベックスとの直接契約を
拒否した。そのころ,Zは,JYJとS.M.との訴訟が係属するソウル
中央地方法院あてに,同月29日付け確認書を作成して提出した。当該確
認書には,「弊社としては,今までも今の東方神起を作りあげるため共に
歩んできたエスエムエンタテインメントとの契約を通じて,東方神起の日
本活動を展開するのが最善だと考えています。そのためには早急に3人と
エスエムとの専属契約は有効という判決が下されることを,弊社は強く希
望しています。」と記載されていた。
(甲86,87,91,乙41,証人X,証人Y)
カ被告エイベックスは,平成22年9月1日,法務法人世宗に対し,JY
Jが直接契約を拒否したことを前提として,本件専属契約の解除合意書を
修正して送付するとともに,合意解除についてのプレスリリース案を送付
し,同月7日プレスリリース予定である旨をメールにより通知した。
メールにより通知された解除合意書の修正案の概要によれば,金銭の精
算について,原告シージェスは,受領した契約金のうち,未経過分3億8
669万3334円を被告エイベックスに返還し,他方,被告エイベック
スは,同年4月1日から同年6月30日までのアーティスト活動による収
益分配金2億1701万1575円を分配するものとし,被告エイベック
スが上記返還金と分配金を相殺する結果として,原告シージェスが被告エ
イベックスに対し,相殺後の残額1億6968万1759円を支払うとい
うものであった。
上記メールには,注記として以下のような記載があった。「ご不満かも
しれませんが,本件契約終了については,その理由を明確にした対外発表
を行わなければなりません。本件解除は当社の売上および利益,ならびに
株価に大きな影響をおよぼす事項であり,東京証券取引所や監査法人の指
導,上場企業としての情報開示義務がございます。また,東方神起および
JJYを応援してくれているファンに対する説明責任も重大です。先生方
や甲代表は,従前の当社のプレスリリース案について『脅迫である』『事
実と違っている』などと評されておりましたが,当社の発表する内容にい
ささかの悪意も誤記もございません(ございましたら具体的にご指摘くだ
さい)。」
そして,当該メールに添付されたプレスリリース案の内容は,以下のと
おりであった。
「B/A’/C’の専属契約に関し,メンバーと当社間で協議の結果,本
年8月31日付にて合意解除することとなりました。
日本において現在B/A’/C’のマネジメント業務を行っている韓国
法人C-JeSENTERTAINMENTCO.,LTD(以下C
-JeS社)の代表者が,暴力団幹部を父親にもち,その威力を背景に担
当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたとの報道
につき,当社は事実関係を調査しておりました。
その結果,現時点での暴力団との関係こそ明らかではないものの,その
他につきましては上記報道がすべて事実であることが判明いたしました。
当社はコンプライアンス重視,企業倫理遵守の経営方針から,C-Je
S社およびその代表者がB/A’/C’のマネジメントに関与している限
り,彼らとの専属契約を継続すべきではないと判断いたしました。(以下
省略)」
(以上につき甲34の4及び5,甲87)
キその後,法務法人世宗は,平成22年9月3日,被告エイベックスに対
し,合意解除の条件について,契約金の返還に関する被告エイベックスの
意見は大部分反映するようにするが,契約期間が解除された以降に,被告
エイベックスにおいてCD等が販売されることを望んでいないことなどを
内容とする意見を提示するとともに,上記プレスリリース案について,原
告甲の名誉を毀損し,JYJの今後の活動に影響を与えるものであるなど
として反対する旨をメールにより通知した。そして,法務法人世宗は,同
メール中に「当方の依頼人らは,貴社がプレスリリースをC-Jes社と
の契約解除およびJJYとの直接契約締結を強要するための武器であると
認識しております。」と記載した。
これに対し,被告エイベックスは,同月8日,プレスリリースが「C-
Jes社との契約解除およびJJYとの直接契約締結を強要するための武
器であると認識している」旨の記載は,全く的外れな思い違いであり,J
YJが被告エイベックスよりも原告シージェスを選んだという現実を真摯
に受け止めているとし,被告エイベックスが契約解除後にCD等を販売で
きないものとすることは,重大な契約条件の事後変更であり容認できない
旨,プレスリリースをどうしても出して欲しくないということ及び解除後
の被告エイベックスによるCD等の販売中止が解除の条件として譲れない
のであれば,合意解除は不可能である旨を,メールで法務法人世宗宛てに
通知した。
法務法人世宗は,同月9日付けのメールで,被告エイベックスに対し,
プレスリリースについて,解除の事実以外に解除理由を公開することは依
頼人としては絶対に認められないこと,解除以後のCDの発売は,収益分
配や曲の活用等において被告エイベックスが中立的な合意方法を提案する
ことを前提として要請を受け入れることなどを通知した。
被告エイベックスは,同月13日,法務法人世宗に対し,原告シージェ
スが新たに被告エイベックスにとって不利益な合意解除の条件を付け加え
たなどとして,解除をあきらめるとし,契約の不利益変更をして解除する
くらいならば,契約金の返還を放棄してでも契約を継続した方がよい旨,
留保している分配金については速やかに支払う用意がある旨を通知すると
ともに,活動休止のお知らせとしてプレスリリースをする旨通知した。プ
レスリリースの理由としては,「これは,何かを要求するための脅しでは
けっしてありません。また,貴法人の承諾を得るべきものではありません。
これ以上,東京証券取引所や監査法人や株主に秘匿しておくことはできな
いのです。また,ファンに対しても9月以降3人が日本で活動していない
ことを説明しなければなりません。」と記載した。
(以上につき甲87,89の1~4)
ク法務法人世宗は,平成22年9月15日,被告エイベックスに対し,原
告シージェスがプレスリリースを含めて被告エイベックスの提示する合意
解除の条件を受け入れる旨をメールで通知した。ただ,プレスリリースに
ついては,将来そのような発表による法的責任の問題は残るとしていた。
これに対し,被告エイベックスは,同月16日,法務法人世宗に対し,
「たいへんありがたいものであると感謝する一方,たいへん意外なもので
あり,対処に窮している」とし,本件専属契約の継続について既に取締役
会の決議がされているため,当該決議を覆すには再度取締役会の決議が必
要であり,合意解約について取締役会の決議がされた場合でも,合意解除
の条件として,「当社が発するプレスリリース等の広報対応,韓国裁判所
に出した確認書その他について,貴法人の依頼人らは名誉毀損,損害賠償
など名目あるいは刑事・民事の如何にかかわらず,提訴,仮処分およびそ
の他一切の法的措置を採らないこと。また,当社に対する批判,誹謗中傷
等をマスコミ,インターネットなど媒体の如何を問わず,あらゆるメディ
アにおいて行わないこと,また,3人にも行わせないこと」を求める旨と
ともに,同日夕刻にはプレスリリースをする旨をメールで通知し,同日,
本件公表を行った(前提事実(4)参照)。その後,被告エイベックスは,
同月29日,法務法人世宗に対し,取締役会において本件専属契約を継続
する旨の決議が再度された旨メールで通知した。
(甲34の6~8,甲86,87,証人X,証人Y)
ケ被告エイベックスは,平成22年9月1日以降,JYJの日本における
アーティスト活動について,マネジメント業務を行うことはなかった。
(甲89の2及び4,弁論の全趣旨)
(2)以上に基づいて,被告エイベックスの本件専属契約違反の有無について
検討する。
アまず,本件専属契約5条違反について検討するに,被告エイベックスは,
平成22年9月1日以降,JYJの日本におけるアーティスト活動につい
て,マネジメント業務を行うことはなかったのであるから(上記(1)ケ),
個別にJYJのアーティスト活動を企画・計画することを怠ったほか,少
なくともJYJに対するアーティスト活動に必要なレッスンその他の機会
の提供及び出演業務の提供を怠り,JYJのための広告宣伝活動を怠った
ことが明らかである。
そうすると,被告エイベックスは,本件専属契約5条(1)のほか,少な
くとも同条(2)①,②及び⑤に違反したといえる。
イ本件専属契約15条違反について検討するに,本件専属契約15条(2)
①は,被告エイベックスが,その権利,権限及び能力に照らし,本件専属
契約を履行できることを保証し,同条(2)②は,それを前提として,原告
シージェスの権利行使について支障がないことを保証する規定である。
そうすると,本件専属契約15条(2)②は,被告エイベックスの権利,
権限及び能力に照らし,原告シージェスの権利行使につき支障が生じてい
る場合を規律するものであって,本件公表のような場合を規律する規定で
はないから,被告エイベックスが同号に違反するとはいえない。
他方で,本件専属契約15条(5)は,被告エイベックス及び原告シージ
ェスは,契約期間中,本件専属契約に影響を及ぼすおそれのある行為を行
う場合には,事前に相手方と協議の上,相手方の書面による承諾を得るも
のとする旨規定する。そして,被告エイベックスは,平成22年9月1日
以降,JYJのアーティスト活動について,マネジメント業務を行うこと
はなく,同月16日,本件公表を行ってJYJの日本におけるアーティス
ト活動の休止を発表しており(上記(1)ク及びケ),当該行為が本件専属
契約に影響を及ぼすおそれのある行為であることは明らかである。しかし,
被告エイベックスは,原告シージェスの書面による承諾を得ていないので
あるから,本件専属契約15条(5)に違反したといえる。
この点,被告エイベックスは,本件専属契約15条(5)が想定している
のは,括弧書に例示列挙されているような場合である旨主張するが,この
括弧書は例示であって限定列挙ではないと解されるのであるから,被告エ
イベックスの主張は採用できない。
ウさらに,本件専属契約16条違反について検討するに,同条(1)は,被
告エイベックス及び原告シージェスは,自己及び相手方の名誉・声望の毀
損,並びに社会的信用の失墜を招くような言動をしてはならない旨規定す
る。
そして,本件公表は,後記4(6)のとおり,原告シージェスの代表者で
ある原告甲の名誉を毀損する摘示を含むものであるから,被告エイベック
スは,本件専属契約16条(1)に違反したといえる。
エ最後に,本件専属契約17条違反について検討するに,同条(4)なお書
は,第三者の根拠のないあるいは誇張された主張やうわさなどによる場合
に,被告エイベックスは最大限原告シージェス又はJYJを保護しなけれ
ばならない義務がある旨規定する。
確かに,サンケイスポーツ新聞は,原告甲について,「人気韓流スター
の元マネージャーだったが,このスターを脅迫して実刑判決を受けたこと
があり,暴力団とのつながりがあるという」との記事を掲載したことが認
められる(上記(1)ア)。しかしながら,原告甲は,韓国において,別紙
認定犯罪事実記載のとおり犯罪事実が認定され,懲役8か月の実刑判決が
言い渡されたことがあるから(前提事実(10)),「暴力団とのつながり」
以外については,上記の記事は事実に基づくものであるといえる。そして,
別紙認定犯罪事実においては,原告甲は自分の父親が暴力団の副親分格で
あることを被害者に告げていた旨が認定されているのであるから,上記の
記事が「根拠のないあるいは誇張された主張やうわさ」であるということ
はできない。
そうすると,上記の記事が掲載されたことによって,被告エイベックス
において,原告シージェス及びJYJを保護する義務が生じたとはいえな
いから,その余について判断するまでもなく,被告エイベックスが本件専
属契約17条(4)なお書に違反したとはいえない。
ところで,原告シージェスは,被告エイベックスが「根拠のないあるい
は誇張された主張やうわさ」を公表したとして,本件専属契約17条(4)
なお書に違反した旨主張するが,被告エイベックスは契約当事者であって
第三者ではなく,被告エイベックスを「根拠のないあるいは誇張された主
張やうわさ」の主体と解することはできないから,原告シージェスの主張
は理由がない。
オ以上のとおり,被告エイベックスは,本件専属契約5条(1),同条(2)①,
②及び⑤,15条(5)並びに16条(1)に違反したと認められる。そして,
前提事実(5)のとおり,原告シージェスは,本件専属契約17条(2)に基づ
いて,本件解除をしたことが認められるから,本件専属契約の違反事項の
治癒を求める通知書が被告エイベックスに到達した平成23年1月24日
から30日を経過した同年2月23日の経過をもって解除できる状況とな
り,原告シージェスによる契約解除の意思表示が被告エイベックスに到達
した同日の翌日である同月24日には契約解除の効力が発生したものと認
めるのが相当である。
したがって,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められる。
(3)これに対し,被告エイベックスは,民法644条及び商法505条の規
定の趣旨からすれば,たとえ契約書に明示的に記載されていなかったとして
も,受任者において,委任の趣旨に合致する行為を行う限りにおいては,何
ら契約違反を構成しないとし,本件専属契約における委任の趣旨は,あくま
でも「被告エイベックスによるJYJの日本国内における『適正・適法』な
アーティスト活動に関するマネジメント」であるといえ,かかる委任の趣旨
に鑑みれば,本件において,韓国でのJYJのマネジメント業務を行ってい
る原告甲を巡る報道や韓国で係争中のS.M.との別件訴訟の結果次第では,
被告エイベックスが日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に行う
権限を失う可能性があることといった事情が判明したにもかかわらず,被告
エイベックスがその後も漫然とJYJの日本国内におけるアーティスト活動
のマネジメントを行うことが,「適正・適法」なマネジメントなどと到底評
価することができないことは明らかであり,被告エイベックスの本件対応は,
本件専属契約の委任の趣旨に合致する,極めて適切かつ妥当な事務処理の方
法であるから,本件専属契約5条に違反しない旨主張する。
確かに,民法644条及び商法505条の規定の趣旨に照らすと,契約書
に明示的に記載されてなくとも,受任者は委任の趣旨に合致する行為を行う
ことができると解される。しかしながら,本件専属契約は,原告シージェス
が被告エイベックスに対してJYJの日本におけるマネジメント業務を委託
することが主要な目的であると解されるのであるから,マネジメント業務に
より行われるJYJの活動内容自体がコンプライアンスに反するような深刻
な事態を引き起こすようなことがあれば格別,JYJの活動内容には直接反
映することのない,原告甲の過去の経歴の存在等を理由として,被告エイベ
ックスがJYJの日本におけるマネジメント業務を行わないことが委任の趣
旨に合致するとは到底解されない。
そして,上記(1)のとおり,サンケイスポーツ新聞の記事が掲載された後,
被告エイベックスは,本件専属契約を合意解除してJYJと直接契約をする
ことを試みたものの,JYJに拒否されてJYJと直接契約をすることがで
きなくなると,最終的に原告シージェスがプレスリリースすることを含めて
被告エイベックスの提示する合意解除の条件を受け入れる旨を通知したにも
かかわらず,本件専属契約の継続について既に取締役会において決議されて
いるとして合意解除を拒否している。被告エイベックスのコンプライアンス
として,原告甲の前科等が重要な問題になるのであれば,JYJとの直接契
約ができなくとも本件専属契約の解除を優先するであろうと解されるのに,
被告エイベックスは本件専属契約の継続を選択しているのであり,このよう
な被告エイベックスの行動は,「適正・適法」なマネジメントのためであっ
たとは到底理解できないし,かえって前記(1)の交渉の経緯に照らせば,J
YJとの直接契約などの目的があったと推認されてもやむを得ないものであ
る。
また,被告エイベックスは,韓国においてJYJとS.M.との係争があ
ることを知った上で,本件専属契約を締結したのであるから(前提事実(2)
及び(3)。また,証人Yによれば,被告エイベックスは本件専属契約の締結
についてS.M.に報告し,消極的な反応ながらも,一応の理解を得ていた
と認められる。),たとえJYJとS.M.との訴訟の帰趨について当初の
予測と異なる点が生じたとしても,訴訟の決着も見ない段階で,そのことが
マネジメント業務を行わない理由にはならない。
以上のとおり,被告エイベックスの主張は採用できない。
2第1事件について
(1)不正競争防止法3条1項に基づく差止請求の成否(争点1-2)につい

前記1のとおり,本件解除は有効であるから,本件解除をもって本件専属
契約は終了したと認められる。
そして,前提事実(6)及び(7)のとおり,被告エイベックスは,本件解除の
効力が発生した平成23年2月24日以降においても,ザック,横浜アリー
ナ及び被告相撲協会に対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結し
ており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利がある
ので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動
を行うことはできないなどと通知したほか,株式会社ノースロードミュージ
ックを含む数社,国土交通省関東地方整備局,株式会社JTBコミュニケー
ションズ,茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商工会議所,水戸
商工会議所に対しても,同様の旨を通知ないし説明している。
そうすると,被告エイベックスは,原告シージェスについて虚偽の事実を
告知したというべきであるし,上記の告知内容は,原告シージェスのマネジ
メント業務について信用を害するものである。また,被告エイベックスと原
告シージェスとは,アーティストのマネジメントを業務とするから(前提事
実(1)ア及びイ),競争関係があることは明らかである。
以上のとおり,被告エイベックスは,不正競争防止法2条1項14号に該
当する。そして,原告シージェスは,被告エイベックスの不正競争により営
業上の利益を侵害されるおそれがあることは明らかであるから,同法3条1
項に基づく差止請求(第1請求1(1))は理由がある。
(2)業務遂行権に基づく差止請求の成否(争点1-3)について
ア原告シージェスは,業務遂行権に基づく差止請求権として,被告エイベ
ックスが原告シージェスの業務を妨害することの禁止を求める。
そこで検討するに,法人の営業又は業務に係る利益も法人の財産権の行
使又は法人の人格的利益と評価できる場合には,差止請求の根拠となる場
合があり得る。これは,刑法233条,234条において,業務が保護法
益とされ,その妨害が刑罰の対象とされていることからも根拠付けられる。
もっとも,このような差止請求については,相手方の権利行使との衝突が
予想されるものであるから,相手方の権利行使の相当性,業務に支障を及
ぼす程度,相手方の行為の継続性等を考慮して,差止請求の必要性と相当
性を判断するのが相当である。
イ前提事実(6)及び(7)のとおり,被告エイベックスは,①原告シージェス
に対し,本件専属契約について解除事由がなく,本件専属契約は現在もな
お有効に存続しているとし,「貴社が,本件契約が解除されていることを
前提に,当社を介することなく,JYJのアーティスト活動を行うことが
判明した場合には,貴社のすべての取引先(テレビ局,レコード製作会社,
コンサートイベンター等)に対する事前の警告等,これを阻止するために
必要なあらゆる方策を講じる予定であることも,併せて警告して参りまし
た」などとして,横浜アリーナでのコンサートを中止するよう要求したこ
と,②ザックに対し,被告エイベックスが日本においてJYJのマネジメ
ント業務を独占的に行う権利を有していることを知りながら,被告エイベ
ックスに無断でJYJをイベントに参加させることになるなどとして,横
浜アリーナでのコンサートの開催中止を要求するとともに,損害賠償を請
求することも検討せざるを得ない旨を通知したこと,③横浜アリーナに対
し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本において
JYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告
エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはでき
ないなどとして,会場の利用を許可しないよう要求したこと,④さいたま
アリーナに対し,ザックの会場の利用を許可しないよう要求したこと,⑤
被告相撲協会に対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結してお
り,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるの
で,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動
を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可しないよう要求し,
会場を利用させると損害賠償請求を行わざるを得ない旨を通知したこと,
⑥株式会社ノースロードミュージックを含む数社に対し,原告シージェス
との間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメン
ト業務を独占的に行う権利があるなどとして,JYJのコンサート等の主
催,企画,運営等に関与すると損害賠償請求を行わざるを得ない旨を通知
したこと,⑦国土交通省関東地方整備局に対し,原告シージェスとの間で
本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を
独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することな
く日本でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用
を許可しないよう要求するとともに,会場を利用させると損害賠償請求を
行わざるを得ない旨を通知したこと,⑧株式会社JTBコミュニケーショ
ンズに対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本
においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるなどとして,
JYJのイベントの開催中止を要求するなどしたこと,⑨茨城県庁(広報
室),水戸市役所,ひたちなか商工会議所,水戸商工会議所を訪問し,J
YJはビザを取得していない旨,原告シージェスとの間で本件専属契約を
締結しており,被告エイベックスの承諾なくJYJのコンサートを開催す
ることはできない旨,ひたちなかコンサートを実行した場合には被告相撲
協会と同様に訴える旨を説明し,ひたちなかコンサートを中止するよう要
求したことがそれぞれ認められる。
ウ以上のとおり,被告エイベックスは,本件解除後においても本件専属契
約が有効であることを前提として,JYJのコンサートを開催しようとし
た原告シージェス及びザックに対し,コンサートの中止を要求するなどし
た上,コンサートの施設管理者等に対し,会場の利用を許可しないよう要
求するなどしたものである。
確かに,被告エイベックスの行動は,本件解除後においても本件専属契
約が有効であることを前提とする点において,権利行使として相当性を疑
われるものである。しかしながら,その態様は,自らの見解を表明した上
で,それに従った要求又は事後的措置として訴訟提起の可能性を通知する
などしたものであって,実力行使をもって原告シージェスの業務を妨害す
るなどというものではない。また,原告シージェスは,横浜アリーナ及び
さいたまアリーナでのコンサートを開催できなかったものの,国技館コン
サート及びひたちなかコンサートを開催できていることをも併せ考慮する
ならば,原告シージェスの日本におけるJYJのマネジメント業務につい
て,被告エイベックスの行為を差し止める必要性があるとは直ちにいい難
いし,その差止請求の内容も広汎であって相当性に欠けるというべきであ
る。
したがって,原告シージェスの業務遂行権に基づく差止請求(第1請求
1(2))は理由がない。
(3)まとめ
以上のとおり,第1事件について,不正競争防止法3条1項に基づく差止
請求(第1請求1(1))は理由があるから認容し,業務遂行権に基づく差止
請求(第1請求1(2))は理由がないから棄却する。
3第2事件及び第4事件について
(1)第2事件について
被告エイベックスは,原告シージェスの本件専属契約違反として,原告シ
ージェスは,本件専属契約が現在もなお有効に存続しているにもかかわらず,
被告エイベックスの承諾を得ないまま,国技館コンサートを開催したと主張
する。
しかしながら,前記1のとおり,本件解除は有効であり,本件解除をもっ
て本件専属契約は終了したと認められるから,被告エイベックスの主張は理
由がない。
そうすると,その余について判断するまでもなく,被告エイベックスの原
告シージェス及び被告日本相撲協会に対する不法行為(原告シージェスに対
しては選択的に債務不履行)に基づく損害賠償請求(第1請求2)は理由が
ないからいずれも棄却する。
(2)第4事件について
被告エイベックスは,原告シージェスの本件専属契約違反として,本件専
属契約が現在もなお有効に存続しているにもかかわらず,被告エイベックス
の承諾を得ないまま,平成23年10月15日及び16日,ザックとともに,
ひたちなかコンサートを開催したと主張する。
しかしながら,前記1のとおり,本件解除は有効であり,本件解除をもっ
て本件専属契約は終了したと認められるから,被告エイベックスの主張は理
由がない。
そうすると,その余について判断するまでもなく,被告エイベックスの不
法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求(第1請求4)は理由がないか
ら棄却する。
4第3事件について
(1)本件専属契約に基づく未払契約金の額(又は債務不履行に基づく損害賠
償としての未払契約金相当額)(争点3-1)について
ア本件専属契約10条(1)①は,被告エイベックスが,原告シージェスに
対し,本件専属契約の契約金として7億円支払う旨を定め(前提事実
(3)),被告エイベックスが5億5000万円を支払済みであることは当
事者間に争いがない。
イこの点,被告エイベックスは,原告シージェスが,原告甲の前科を殊更
隠して,本件専属契約を締結し,その結果,被告エイベックスのJYJに
対する適正・適法なマネジメント権の行使につき,重大な支障を与えたの
であるから,本件専属契約15条(1)①に基づき,被告エイベックスの権
利行使につき何らの支障もないことを保証する同条(1)②に違反し,原告
シージェスは,契約金の残部を被告エイベックスに請求する権利を有しな
い旨主張する。
しかしながら,本件専属契約15条(1)①は,原告シージェスが,その
権利,権限及び能力に照らし,本件専属契約を履行できることを保証し,
同条(1)②は,それを前提として,被告エイベックスの権利行使について
支障がないことを保証する規定である。
そうすると,本件専属契約15条(1)②は,原告シージェスの権利,権
限及び能力に照らし,被告エイベックスの権利行使につき支障が生じてい
る場合を規律するものであって,原告シージェスの代表者である原告甲に
前科があった場合を規律する規定ではないから,原告シージェスが同号に
違反するとはいえない。
ウ他方で,前提事実(3)に加え,証拠(乙28)及び弁論の全趣旨によれ
ば,本件専属契約10条(1)①は,契約金7億円のうち1億5000万円
について,平成23年2月末日支払と定めていたところ,被告エイベック
スと原告シージェスとは,平成22年4月1日,上記1億5000万円の
うち2160万円を直接JYJに対して支払う旨を合意し,これを同年6
月末日までに支払ったことが認められるから,被告エイベックスの未払契
約金は1億2840万円であったと認められる。
そして,前記1のとおり,本件解除をもって本件専属契約は終了したと
認められる。本件専属契約10条(1)によれば,契約金は,「権利譲渡の
対価及び本件アーティスト活動の遂行の対価を含む本契約上に定める行為
等一切の対価として」支払うものとされているから,契約金が契約時点に
おいて既に発生しており,契約書にいう支払期日は単にその支払日を定め
たものとみるのは相当でない。そして,本件専属契約における存続事項
(24条)には契約金の支払についての10条(1)①は挙げられていない
から,上記の未払契約金債務1億2840万円は解除の効果により消滅し
たものというべきである。もっとも,前記1のとおり,被告エイベックス
の本件専属契約違反により本件解除がされたのであり,被告エイベックス
の違反行為がなければ,本件専属契約は継続し,原告シージェスは未払契
約金を取得できたものと認められるから,原告シージェスは,被告エイベ
ックスに対し,同額を債務不履行に基づく損害賠償として請求することが
できるというべきである。
したがって,原告シージェスの債務不履行に基づく損害賠償請求(第1
請求3(1))は,1億2840万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日
である平成23年8月10日から商事法定利率年6分の割合による遅延損
害金の支払を求める限度で理由がある。
(2)債務不履行に基づく損害賠償としての逸失利益の額(争点3-2)につ
いて
アまず,原告シージェスは,被告エイベックスが,平成22年7月以降,
JYJの日本におけるアーティスト活動を行わせることはなくなったと主
張した上で,同月以降,本件専属契約が解除されるまでの8か月間分の逸
失利益を主張する。
そこで検討するに,前記1(1)ケのとおり,被告エイベックスは,平成
22年9月1日以降,JYJの日本におけるアーティスト活動について,
マネジメント業務を行うことはなかったことが認められる。しかし,証拠
(乙25)によれば,JYJは,平成22年7月以降,同年8月に開催さ
れた「a-nation'10」の出演以外に日本におけるスケジュール
はなかったものの,同年7月及び8月には,アメリカ及び韓国でのスケジ
ュールがあったことが認められ,このようなスケジュールに照らすと,被
告エイベックスが,同年7月及び8月,JYJの日本におけるアーティス
ト活動について,マネジメント業務を行わなかったとは認められない。
そうすると,原告シージェスの逸失利益を算定する期間は,平成22年
9月1日から本件解除の効力が発生した日の前日である平成23年2月2
3日までと認めるのが相当である。
イまた,原告シージェスは,JYJが活動した期間に対応するアーティス
ト印税と利益分配金の額をもって,逸失利益の算定数値とすべき旨主張す
る。
そこで検討するに,アーティスト印税はJYJの実演活動の対価であり,
利益分配金はJYJのコンサート等の出演に関する利益分配である(前提
事実(8)ア)。そうすると,アーティスト印税は,JYJのアーティスト
活動にかかわらず,CD等の売上に応じて発生するものであり,上記の逸
失利益の算定期間において,CD等の発売が具体的に予定されていたにも
かかわらず,被告エイベックスが行わなかったなどの事情があればともか
く,そのような事情が認められない本件においては,算定数値とするのは
相当ではないというべきである。
そして,平成22年4月分以降の利益分配金が合計3億7843万25
73円であったことに当事者間に争いがない。そこで,JYJの活動期間
を5か月(平成22年4月~同年8月)として,上記の利益分配金額を5
で除した数値に,逸失利益の算定期間(5+23/28)を乗じて,逸失
利益を算定すると,4億4060万円(1万円未満切り捨て)となる。
(計算式)(3億7843万2573円/5)×(5+23/28)=
4億4060万円(1万円未満切り捨て)
ウしたがって,原告シージェスの債務不履行に基づく損害賠償請求(第1
請求3(2)の一部)は,4億4060万円及びこれに対する訴状送達の日
の翌日である平成23年8月10日から商事法定利率年6分の割合による
遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(3)コンサート活動の妨害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3
-3)について
アまず,コンサート活動の妨害を理由とする不法行為の成否について検討
する。
(ア)前提事実(6)のとおり,①ザックは,関係者に対し,平成23年6
月7日横浜アリーナにおいて,JYJのコンサートを開催する旨を通知
した。しかし,被告エイベックスは,横浜アリーナに対し,原告シージ
ェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネ
ジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベック
スを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなど
として,会場の利用を許可しないよう要求した。そのため,横浜アリー
ナは,ザックに対し,興行権等の帰属を巡って係争中であることが確認
されたため,イベントの円滑な開催が困難な状態にあるなどとして,横
浜アリーナの利用申込みを承認することができない旨を通知した。②そ
こで,ザックは,さいたまアリーナに会場を変更したところ,被告エイ
ベックスは,さいたまアリーナに対し,会場の利用を許可しないよう要
求した。そのため,さいたまアリーナは,ザックに対し,会場の利用を
許可しない旨を通知するとともに,そのホームページにおいて,お知ら
せとして,出演が予定されているアーティストの契約に関する問題が存
在する中で,ザックに対して会場の利用を許可することは適切でないと
判断した旨を掲載した。③そのため,ザックは再び会場を変更し,原告
シージェスとザックは,国技館において,国技館コンサートを開催した。
(イ)以上のとおり,ザック及び原告シージェスは,被告エイベックスが
施設管理者である横浜アリーナ及びさいたまアリーナに対して会場の利
用を許可しないよう要求し,横浜アリーナ及びさいたまアリーナが会場
の利用を許可しなかったため,会場の変更を余儀なくされたものである。
そして,前記1のとおり,本件解除をもって本件専属契約は終了したと
認められるから,被告エイベックスは,虚偽の事実を告知するなどして,
原告シージェスのコンサート活動を妨害したものと認められる。
そうすると,被告エイベックスが原告シージェスのコンサート活動を
妨害したことについて,不法行為が成立するというべきである。
(ウ)したがって,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,不法行
為に基づき,コンサート活動の妨害に係る損害を賠償する責任がある。
イ続いて,コンサート活動の妨害に係る損害額について検討する。
(ア)まず,国技館コンサートの利益について検討する。
aチケット売上に係る利益について検討するに,証拠(甲37,乙3
1)によれば,チケット売上は,1億8627万3750円(=97
50円〔諸手数料を含む。〕×1万9105名)であることが認めら
れる。また,証拠(枝番号を含めて甲37,63~85,乙12,丙
9)によれば,コンサート開催に係る費用は,別紙認定支出表のとお
り,1億2675万6981円であると認められるから,コンサート
のチケット売上に係る利益は,5951万6769円である。
なお,コンサート開催に係る費用について補足するに,ダンサー出
演料については,甲63号証の各号証は,その趣旨が判然としないた
め,乙12号証記載の想定金額と同額を認定した。また,販売手数料
等については,国技館コンサートでは,プレイガイドに委託しないで,
ザックにおいてチケットを発券しているところ(甲37),チケット
購入者にシステム使用料を含む諸手数料を上乗せしているから(乙3
1),諸手数料合計と同額である2388万1250円(=1250
円×1万9105名)を認定した。
bグッズ売上に係る利益について検討するに,証拠(甲37)によれ
ば,グッズ売上は,3500円(税込)の記念Tシャツ及び2500
円(税込)のストラップ付きパンフレットを販売し,合計4776万
2500円であったこと,受託販売として売上の30%が利益になる
こと(販売費用はコンサート開催に係る費用に計上)がそれぞれ認め
られるから,グッズ売上に係る利益は1432万8750円であると
認められる。
cしたがって,国技館コンサートに係る利益は7384万5519円
である。
(イ)続いて,さいたまアリーナでコンサートを行った場合の想定利益に
ついて検討する。
aチケット売上に係る想定利益を検討するに,証拠(甲37)によれ
ば,さいたまアリーナの収容人数は1万8000名であり,昼と夜の
2部制とし,1枚8500円のチケットを1万6000名分,750
0円のチケットを2000名分発売することを予定であったことが認
められるから,チケットの想定売上は3億0200万円であると認め
られる(甲33の1~3及び弁論の全趣旨によれば,平成23年10
月15日及び16日の両日に開催されたJYJのひたちなかコンサー
トにおいては,1回当たりの入場者数が4万人程度であったことが認
められるから,さいたまアリーナでのチケットの想定売上を上記のと
おりとすることは相当である。)。また,証拠(甲37)によれば,
コンサート開催に係る想定費用は,別紙支出表のさいたまアリーナ欄
記載のとおり,1億4247万円であると認められるから,チケット
売上に係る想定利益は,1億5953万円であると認められる。
bグッズ売上に係る想定利益について検討するに,証拠(甲37)に
よれば,さいたまアリーナのコンサートでは,3500円(税込)の
記念Tシャツ及び2500円(税込)のストラップ付きパンフレット
を販売する予定であったこと,国技館コンサートの実績では1名平均
2500円のグッズを購入していたことがそれぞれ認められ,さいた
まアリーナでの動員見込みが3万6000名であることに照らすと,
グッズの想定売上は9000万円であると認められる。そして,証拠
(甲37)によれば,グッズ売上に係る想定費用として,グッズ制作
費(売価の7割=6300万円)に加え,輸入関税,運搬費,アルバ
イト人件費,会場コミッション等の費用約900万円が見込まれてい
たことが認められるから,グッズ売上に係る想定費用は7200万円
であると認められる。
そうすると,グッズ売上に係る想定利益は1800万円であると認
められる。
cしたがって,さいたまアリーナでコンサートを行った場合の想定利
益は1億7753万円である。
(ウ)以上のとおり,さいたまアリーナでコンサートを行った場合の想定
利益は1億7753万円であり,国技館コンサートに係る利益は738
4万5519円であるから,その差額である1億0368万4481円
がコンサート活動の妨害に係る損害であると認められる。
そして,弁論の全趣旨によれば,原告シージェス及びザックとは,J
YJのコンサートに係る利益について,その配分をそれぞれ2分の1と
する合意があったと認められるから,原告シージェスの損害額は518
4万円(1万円未満切り捨て)であると認められる。
ウしたがって,原告シージェスのコンサート活動の妨害を理由とする不法
行為に基づく損害賠償請求(第1請求3(2)の一部)は,5184万円及
びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(4)著作隣接権侵害を理由とする不法行為の成否及び損害額(争点3-4)
について
アまず,本件専属契約の規定について検討する。
本件専属契約では,①契約の期間中に行われたJYJのアーティスト活
動の遂行による一切の著作物に係る著作権,実演家の権利等の権利は,地
域及び期間の制限なく,その発生と同時に独占的に被告エイベックスに帰
属,もしくは原告シージェス又はJYJから被告エイベックスに独占的に
譲渡され(7条(1)),②被告エイベックスは,契約の期間中,原告シー
ジェスと別途協議の上,7条に基づき被告エイベックスの保有する権利の
行使,第三者許諾,譲渡をすることができるが,契約終了後においては,
地域,範囲,期間の制限なく,自由な判断により当該行使,第三者許諾,
譲渡を行うことができる(8条),③被告エイベックスは,契約の期間中,
原盤等の利用行為にかかる規格,種類,内容等の一切の事項について,原
告シージェスと別途協議の上,決定することができるが,契約終了後にお
いては,地域,範囲,期間の制限なく,自由な判断により当該決定を行う
ことができる(6条(2)),④被告エイベックスは,原告シージェスに対
し,JYJの実演活動の対価として,著作隣接権又は著作権が存続する期
間中,アーティスト印税を支払う(10条(1)②),⑤6条(2),7条,8
条,10条(1)②等の規定について,契約終了後も有効に存続する(24
条)などと規定されている。
イ以上のとおり,本件専属契約では,被告エイベックスが,契約終了後に
おいても,契約の期間中に行われたJYJのアーティスト活動の遂行によ
る著作権,実演家の権利等の権利を保有するとされ,これを前提とした規
定を設けられている。
そうすると,原告シージェスは,別紙著作物目録1~8記載のCD及び
DVDについて,実演家の権利を保有することはないから,その余につい
て判断するまでもなく,原告シージェスの著作隣接権侵害を理由とする不
法行為に基づく損害賠償請求(第1請求3(2)の一部)は理由がない。
また,原告シージェスは,実演家の権利を有さなくとも,被告エイベッ
クスが本件解除後にJYJのCD等を発売する行為が不法行為である旨主
張するけれども,その根拠は不明であるといわざるを得ないから,理由が
ない。
ウこれに対し,原告シージェスは,本件解除により,上記アの各規定が効
力を失う旨主張する。
しかしながら,本件専属契約は,当事者の契約違反があった場合の解除
について規定しながら(17条(2)),上記アの各規定を設けているので
あるから,当事者の契約違反を理由とする解除によっても,上記アの各規
定の効力が失われることはないと解するのが相当である。本件専属契約に
おいて,被告エイベックスが契約終了後も著作権,実演家の権利等の権利
を保有することなどが規定されているのは,被告エイベックスの投下資本
の回収を企図するものであると解されるが,他方で,被告エイベックスは,
原告シージェスに対し,契約終了後においても,アーティスト印税を支払
う旨が規定されている(10条(1)②)のであるから,上記アの各規定が
当事者間の公平に反するなどということもできない。
また,原告シージェスは,実演家の権利を有することを前提として,別
紙著作物目録1~6及び8記載のDVDについて,①映画の著作物だとし
ても,本件解除によって許諾の効力が失われた(著作権法91条2項参
照),②法の予定している映画の著作物ではない,③実演家の権利を消尽
させる条項の適用はないと主張するけれども,上記イのとおり,原告シー
ジェスは実演家の権利を有していないのであるから,原告シージェスの主
張は理由がない。
さらに,原告シージェスは,別紙著作物目録1~6及び8記載のDVD
について,映画の著作物だとしても,JYJが共同著作者である旨主張す
る。しかしながら,映画の著作物の著作者は「制作,監督,演出,撮影,
美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」
であって(著作権法16条),実演家であるJYJが「その映画の著作物
の全体的形成に創作的に寄与した者」とはいい難いし,その立証もないか
ら,原告シージェスの主張は理由がない。
(5)原告シージェスの請求のまとめ
上記(1)のとおり,原告シージェスの債務不履行に基づく損害賠償請求
(第1請求3(1))は,1億2840万円及びこれに対する訴状送達の日の
翌日である平成23年8月10日から商事法定利率年6分の割合による遅延
損害金の支払を求める限度で理由がある。
前提事実(8)のとおり,被告エイベックスが,原告シージェスに対し,利
益分配金等の合計4511万7126円が未払であることに当事者間に争い
がないから,その範囲内の請求として,原告シージェスの本件専属契約に基
づく未払分配金等の支払請求(第1請求3(2)の一部)は理由がある(45
11万7108円及び訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から
商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払)。
上記(2)のとおり,原告シージェスの債務不履行に基づく損害賠償請求
(第1請求3(2)の一部)は,4億4060万円及びこれに対する訴状送達
の日の翌日である平成23年8月10日から商事法定利率年6分の割合によ
る遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
上記(3)のとおり,原告シージェスのコンサート活動の妨害を理由とする
不法行為に基づく損害賠償請求(第1請求3(2)の一部)は,5184万円
及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年8月10日から民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
上記(4)のとおり,原告シージェスの著作隣接権侵害を理由とする不法行
為に基づく損害賠償請求(第1請求3(2)の一部)は理由がない。
以上をまとめると,原告シージェスの請求(第1請求3(1)及び(2))は,
6億6595万7108円及び内金6億1411万7108円に対する平成
23年8月10日から支払済みまで年6分の割合による金員,内金5184
万円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める
限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却する。
(6)名誉毀損の成否,損害額及び名誉回復措置の必要性(争点3-5)につ
いて
ア被告エイベックスは,本件公表を行って,本件摘示事実を摘示したので
あり,本件摘示事実には原告甲の前科に関する事実も記載されていたから
(前提事実(4)),本件摘示事実の摘示が名誉毀損に当たることは明らか
である。
これに対し,被告エイベックスは,平成22年9月16日以前において,
様々な新聞及び週刊誌の報道により,「原告C-JeSの代表者が,担当
アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していた」ことは広
く知れ渡っていたのであるから,原告甲の社会的評価は既に相当程度低下
していたといえ,本件摘示事実の摘示により,原告甲に新たな社会的評価
の低下をもたらさない旨主張する。
しかしながら,前記1(1)アのとおり,サンケイスポーツ新聞が,平成
22年5月29日,原告甲について,「人気韓流スターの元マネージャー
だったが,このスターを脅迫して実刑判決を受けたことがあり,暴力団と
のつながりもあるという」との記事を掲載したことが認められるものの,
それ以外には,平成22年9月16日以前において,原告甲の前科に関す
る事実の報道があったことを認めるに足りる証拠はない。かえって,証拠
(乙1の1~3)によれば,スポーツニッポン,デイリースポーツ及びサ
ンケイスポーツ新聞は,同月17日,本件公表が行われたことを報道する
記事において,原告甲の前科に関する事実の報道を行ったことが認められ
る。
以上のとおり,平成22年9月16日以前においては,原告甲の前科に
関する事実の報道はスポーツ新聞の1件だけであったのであるから,原告
甲の前科に関する事実が社会に広く知れ渡っていたということはできない
のであり,本件摘示事実の摘示により,原告甲の社会的評価が低下したと
認めるのが相当である。
イまた,被告エイベックスは,本件摘示事実は,原告甲が担当アーティス
トを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたという重大な刑事事件
に関するものであり,実刑判決を受けたのが著名なアーティストであるJ
YJの韓国における所属プロダクションの代表者ということも相まって,
多くの人々が関心を持った事件であったとして,事実の公共性が認められ
る旨主張する。
しかしながら,JYJが日本においても著名なアーティストであっても,
原告甲は,JYJと基本専属契約を締結した原告シージェスの代表者にす
ぎないのであり,原告シージェスの代表者としてJYJを通じて社会に及
ぼす影響力の程度を考慮したとしても,さほど社会的な影響力があるとは
いい難いのであるから,その前科に関する事実が公共の利害に関する事実
であるとは認められない。
そうすると,その余について判断するまでもなく,本件摘示事実の摘示
について違法性が阻却されるとは認められない。なお,本件摘示事実には
「恐喝」との摘示があるが,これが事実と異なることは別紙認定犯罪事実
の記載に照らして明らかである。
したがって,被告エイベックスは,原告甲に対し,本件摘示事実の摘示
により,不法行為責任を負うというべきである。
ウ続いて,名誉毀損に係る慰謝料額について検討するに,本件摘示事実に
は,原告甲の前科に関する事実の摘示があることに加え,「恐喝」との誤
った摘示があること,原告甲が暴力団と関係があるのではないかと推知さ
せる記載(「現時点での暴力団との関係こそ明らかではないものの」)が
あること,他方で,原告甲は原告シージェスの代表者として摘示されてい
るにとどまり,実名は摘示されていないこと,本件公表(本件摘示事実の
摘示)がその後もエイベックスGHDのホームページに掲載されているこ
となどに照らすと,名誉毀損に係る慰謝料としては100万円を認めるの
が相当である。
エまた,民法723条に基づく名誉回復等の措置請求について検討するに,
上記ウのとおり,本件公表(本件摘示事実の摘示)の内容は,一部事実と
異なる等の点があるものの全く事実の基礎を欠くものではないこと,原告
甲の実名が記載されているものではないこと,本判決が確定すれば被告エ
イベックスの親会社であるエイベックスGHDのホームページにおける本
件公表(本件摘示事実の摘示)の記載が削除されることが予想されること
などを考慮すると,名誉回復等の措置として原告甲の求める謝罪広告まで
を認めるのは相当でない。
よって,原告甲の名誉回復等の措置請求は理由がない。
オ以上のとおり,原告甲の不法行為に基づく損害賠償請求(第1請求3
(3))は,100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成2
3年8月10日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限
度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却する。
また,原告甲の民法723条に基づく名誉回復等の措置請求(第1請求
3(4))は,理由がないから棄却する。
第5結論
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官小川雅敏
裁判官森川さつき

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