弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告は、別紙目録「仏壇彫刻部品名」欄記載の仏壇部品を構成する同目録「紋
様」・「形状」欄表示の紋様および形状を有する彫刻を複製し、右複製物の販売、
頒布、展示をしてはならない。
二 被告は前項記載の彫刻の複製物の完成品および半製品ならびにその製造に使用
する型枠を廃棄せよ。
三 被告は原告に対し金一七五万円および内金一二五万円に対する昭和四九年一〇
月一日から、内金五〇万円に対する昭和五四年七月一〇日から、それぞれ支払済に
至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の、各負担とする。
六 この判決は第三項に限り仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
 一 原告
 1 被告は、別紙目録「仏壇彫刻部品名」欄記載の仏壇部品を構成する同目録
「紋様」・「形状」欄表示の紋様および形状を有する彫刻を複製し、右複製物の販
売、頒布、展示をしてはならない。
 2 被告は前項記載の彫刻の複製物、二次的著作物の完成品および半製品ならび
にその製造に使用する型枠を廃棄せよ。
 3 被告は原告に対して金一六〇〇万円およびこれに対する昭和四九年一〇月一
日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
 4 訴訟費用は被告の負担とする。
 5 仮執行の宣言。
 二 被告
 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
 一 請求原因
 1 原告は、昭和四四年頃、仏壇の内部を飾る彫刻について、別紙目録「仏壇彫
刻部品名」の欄記載の各仏壇部品に同目録「紋様」欄記載の紋様を有する同目録
「形状」欄表示の各彫刻(以下本件彫刻という。)の原型を完成し、以来、そのプ
ラスチツク製品を製作販売してきたものであるが、右彫刻は、原告が彫刻師として
の独自の美的感覚に基づき自己独特の方法により美的表象を表現した原告の独創に
かかるものであり、原告は、右彫刻の完成・製作により、その著作権(以下本件著
作権という。)を取得した。
 2 被告は、仏壇の製造を業とする会社であるが、原告に無断で右彫刻を複製
し、その複製物を販売、頒布、展示しており、被告の右行為は原告の本件著作権を
侵害するものである。
 3 被告は、本件著作権の存在を知りながら右侵害行為を行つたのであるから、
原告が右侵害行為によつてこうむつた損害を賠償する業務がある。
 4 原告の損害は次のとおりである。
 被告は昭和四七年九月から昭和四九年八月二〇日までの間、仏壇彫刻部品の一部
に本件彫刻の複製物を使用した仏壇(その大部分はスミ段に別紙目録番号11また
は12記載の彫刻の複製物を使用したもの)を少なくとも九四六六台(月産四〇〇
台)を、また、仏壇彫刻部分全部に本件彫刻の複製物を使用した仏壇が少なくとも
二三六台(月産一〇台)を各製作したのであるが、別紙目録番号11または12記
載の彫刻の複製物の販売単価はいずれも金一八〇〇円であり、また、仏壇一体を製
作するのに要する、本件彫刻にかかる仏壇彫刻部品全部の販売価格は金八万二八〇
〇円であり、その利益率はいずれも七六パーセントを下らず、すると、被告は右製
作により少なくとも金二七八八万三七五〇円の利益を得、これは著作権法一一四条
一項により原告の損害となる。
 原告は右損害金の内金一五〇〇万円と本件訴訟の弁護士費用金一〇〇万円を請求
する。
 5 よつて、原告は被告に対し本件彫刻の複製と右複製物の販売、頒布、展示の
差止、右複製物と二次的著作物の完成品および半製品ならびにその製造に使用する
型枠の廃棄、前記損害金合計金一六〇〇万円およびこれに対する本件訴状送達の日
の翌日である昭和四九年一〇月一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合
による遅延損害金の支払を求める。
 二 請求原因に対する認否
 1 請求原因1の事実中、原告が本件彫刻を完成・製作したことは不知、その余
は否認する。
 本件彫刻は、著作権法二条一項一号に規定する「思想又は感情を創作的に表現し
たもの」でもなければ、「美術の範囲に属するもの」でもないので、著作物として
の保護を受けない。その理由は以下に述べるとおりである。
 (一)思想、感情の創作的表現性について
 本件彫刻の紋様は、いずれもわが国における仏教関係の荘厳に古来より伝統的に
襲用されてきたものであり、仏壇彫刻の分野においても古くから装飾紋様として用
いられてきたものである。
 しかも、仏壇は歴史のある宗教的用具であるため、宗派によつて多少の差異はあ
るものの、その型式および彫刻紋様は特定のものに限定されており、新たな紋様が
採り入れられる余地はない。
 また、紋様の表現形態も、古くから残された彫刻を模倣して製作する方法が伝承
されており、個々の製作者によつて創作的に独自の表象が表現されうるものでもな
い。
 本件彫刻もかかる方法で製作されたものであり、ただプラスチツク成型しやすい
ように工夫されたところに特異性がみられるにすぎず、そこには何らの創作性もみ
られない。
 (二)美術性について
 仏壇は、現下、わが国の仏教信者の実用品化し、工業上画一的方法により大量生
産されているから、仏壇の完成品はもとより各個の彫刻物も美術の範囲に属するも
のとはいえない。
 2 同2の事実中、被告が仏壇の製造を業とする会社であることは認め、その余
は否認する。
 被告は姫路型仏壇の製造を企画し、原告から購入した本件彫刻を他の一〇種類を
越える彫刻とともに参考資料として独自に仏壇彫刻を製作したものであり、被告が
製作した彫刻は、本件彫刻とは大きさ、配置等において異なり、形状の同一のもの
はなく、その一部分に本件彫刻からその紋様の一部を複製して使用したものが存す
るにすぎず、本件彫刻の複製物ではない。
 3 同3、4の事実は否認する。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 原告本人尋問の結果(第一回)によりいずれも原告製作の彫刻を使つた仏壇の
全体および部分の写真と認められる甲第一号証の一ないし一五、同第二号証の一な
いし一六、同本人尋問の結果(第一回)により原告製作の彫刻の原型の写真と認め
られる甲第四号証の一ないし一一、同本人尋問の結果(第一回)、検証の結果によ
れば、原告が本件彫刻を製作したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
 ところで、本件においては、著作権法二条一項の規定する著作物性の要件たる、
本件彫刻の創作性および美術性が争われているので、まず、これらの点について順
次判断する。
二 本件彫刻の創作性について考える。
 原告本人尋問の結果(第一、二回)および検証の結果を総合すると、原告は昭和
二八年中学卒業と同時に彫刻師の従弟となり数年間仏壇を含む各種彫刻の製作につ
き修業をしたのち、昭和三二年頃に独立し、爾来仏壇彫刻の製作・研究を行つてき
たこと、従来仏壇彫刻は手彫り(木彫)で製作されていたが、原告は、将来大量生
産の可能なプラスチツク製仏壇彫刻が普及すると予想し、昭和三〇年代の後半から
木彫りとかわらない状態に仕上げることのできるプラスチツク製仏壇彫刻の製作の
研究に取り掛け、昭和四四年頃、本件彫刻(原型・木彫)を完成し、以来、そのプ
ラスチツク製品を次の方法により製作し市販するようになつたこと、本件彫刻は、
右原型からシリコンゴムで型枠をとり、その中にポリエステル樹脂(プラスチツク
の一種)を注入して製作されうるため、その大量生産が可能であること、原告は、
右原型の考案に際しては、多年に亘り、多くの古文書および古典仏壇彫刻を網羅し
参考としつつ、仏壇彫刻師としての美的感覚と技法を駆使し、既製仏壇を模写する
ことなく特異の美的表象を創案すべく、殊に型枠使用による大量生産にも適合する
ように配慮しながら、右彫刻の紋様を立体的、写実的に精巧かつ端麗な表現を表象
するよう、独自の執刀方法で描くことに苦心したすえ、独自の創意による本件彫刻
(原型)を完成したこと、以上の事実が認められ、後記措信しない証拠(人証)を
措いて、他に右認定に反する証拠はない。
 右認定事実に前出甲第一号証の一ないし一五、同第二号証の一ないし一六、同第
四号証の一ないし一一および検証の結果により認められる本件彫刻の形状・構成を
あわせ考えると、本件彫刻は原告が長年の研究の成果として独自の着想により仏教
美術の一部に属する仏壇装飾につき感情を創作的に表現したものと認めることがで
きる。
 もつとも、被告は、仏壇彫刻の紋様は古来より特定のものに限局され、永年にわ
たりこれを模写してきたものにすぎず、製作者により殊更創作的に表現されうるも
のではない、と主張している。
 なるほど、証人Aの証言によれば、仏壇彫刻の文様は、既に室町桃山時代から特
定の紋様に限局され、本件彫刻の紋様も当時既に存在していたことが認められ(こ
れに反する証拠はない)、また、原告が本件彫刻の完成につき古文書および古典仏
壇彫刻を研究しこれを参考にしたことは前判示のとおりである。
 しかしながら、著作物の創作性は当該著作物が著作者の独自の創意工夫により著
作されたか否かにあり、その表現形式等において先人の影響が存したからといつて
直ちにこれを否定されるべきではなく、具体的著作物がその模写ではなくそこに知
的創造活動が認められるときは、その著作物に創作性を肯定すべきものと解するの
が相当である(したがつて、著作権における創作性は相対的なものであり、工業所
有権における創作性の如く新規性すなわち絶対的な独創性を要しないといわねばな
らない)。
 本件彫刻は、原告がその独自の創意工夫により完成したものであり、その表現形
式も独特の着想に基づくこと、前段所述のとおりであつて(これに反する、右彫刻
に何らの特異性も認められないという証人B、同Aの証言は、これを裏付けるに足
る適確な補強証拠がないのでにわかに措置できない)、また、被告が本件彫刻の完
成前からあつた仏壇彫刻と主張する乙第一ないし第三号証も、本件彫刻と対照する
に、これと類似するものではないと検証することができ、他に本件彫刻が先人の模
写に留まるものとする確証は存在しないところである。したがつて、被告の前記主
張は採用することができない。
 以上のとおりであるから、本件彫刻は原告の独創に基づくものといわねばならな
い。
三 次に、本件彫刻の美術性について考える。
 本件彫刻が、仏壇内部の装飾につき美的表現を目的とした美術に関する著作であ
ることは、前判示のとおりである。
 一般に、美術は、(1)個別に製作された絵画・版画・彫刻の如く、思想または
感情が表現されていて、それ自体の鑑賞を目的とし、実用性を有しない純粋美術
と、
(2)実用品に美術あるいは美術上の感覚・技法を応用した応用美術に分かれ、後
者すなわち応用美術はさらに、(イ)純粋美術として製作されたものをそのまま実
用品に利用する場合、(ロ)既成の純粋美術の技法を一品製作に応用する場合(美
術工芸品)、および、(ハ)右純粋美術に見られる感覚あるいは技法を画一的に大
量生産される実用品の製作に応用する場合等に細分されていることは周知のところ
である。
 本件彫刻は、前判示のとおり、原型たる木彫そのものを一品として鑑賞するもの
ではなく、原型に合わせて型枠をシリコンゴムで作り、これにプラスチツクを注入
して同型のものを大量に製作し、これを仏壇の装飾に利用することを目的としてい
るものであるから、前記応用美術のうち(ハ)の部類に属するものと解される。
 ところで、著作権法は、その二条一項一号で美術の範囲に属するものを著作物の
対象とすると規定するとともに、同条二項では、「美術の著作物」には美術工業品
を含む、と規定しているので、応用美術のうち美術工芸品に属しないものは美術の
著作物として著作権法の保護の対象となりうるかは問題である。
 応用美術をどこまで著作権法の保護対象となすべきかは意匠法等工業所有権制度
との関係で困難な問題が存すること周知のところであるが、著作権を意匠権を対比
してみると、等しく視覚を通じた美感を対象とする作品であつても、著作権の対象
とされると、何らの登録手続や登録料の納付を要せずして当然に著作権が成立し、
かつ、著作者の死後五〇年間右権利の存続が認められるのに対し、意匠権にあつて
は、設定登録によつて初めて発生し、登録料の支払を要し、その存続期間も設定登
録の日から一五年間に限られており、両者の保護の程度は著しく相異していること
(なお、意匠権以外の工業所有権にあつては、その実施義務が課されている)、お
よび、産業上利用を目的とする創作は総じて意匠法等工業所有権制度の保護対象と
していること等を勘案すると、応用美術であつても、本来産業上の利用を目的とし
て創作され、かつ、その内容および構成上図案またはデザイン等と同様に物品と一
体化して評価され、そのものだけ独立して美的鑑賞の対象となしがたいものは、当
然意匠法等により保護をはかるべく、著作権を付与さるべきではないが、これに対
し、実用品に利用されていても、そこに表現された美的表象を美術的に鑑賞するこ
とに主目的があるものについては、純粋美術と同様に評価して、これに著作権を付
与するのが相当であると解すべく、換言すれば、視覚を通じた美感の表象のうち、
高度の美的表現を目的とするもののみ著作権法の保護の対象とされ、その余のもの
は意匠法(場合によつては実用新案法等)の保護の対象とされると解することが制
度相互の調整および公平の原則にてらして相当であるというべく、したがつて、著
作権法二条二項は、右の観点に立脚し、高度の美的表現を目的とする美術工芸品に
も著作権が付与されるという当然のことを注意的に規定しているものと解される。
 そうだとすると、図案・デザイン等は原則として意匠法等の保護の対象とのみな
ることは勿論のこと、工業上画一的に生産される量産品の模型あるいは実用品の模
様として利用されることを企図して製作された応用美術作品も原則的に専ら意匠法
等の保護の対象になるわけであるが、右作品が同時に形状・内容および構成などに
てらし純粋美術に該当すると認めうる高度の美的表現を具有しているときは美術の
著作物として著作権法の保護の対象となりうるわけである。
 本件についてみると、本件彫刻は仏壇の装飾に関するものであるが、表現された
紋様・形状は、仏教美術上の彫刻の一端を窺わせ、単なる仏壇の付加物ないしは慣
行的な添物というものではなく、それ自体美的鑑賞の対象とするに値するのみなら
ず、前判示の如く、彫刻に立体観・写実観をもたせるべく独自の技法を案出駆使
し、精巧かつ端整に作品を完成し、誰がみても、仏教美術的色彩を背景とした、そ
れ自体で美的鑑賞の対象たりうる彫刻であると観察することができるものであり、
その対象・構成・着想等から、専ら美的表現を目的とする純粋美術と同じ高度の美
的表象であると評価しうるから、本件彫刻は著作権法の保護の対象たる美術の著作
物であるといわなければならない。したがつて、これに反する被告の主張は採用す
ることができない。
四 以上のとおりであるから、本件彫刻は著作権法の保護の対象たる著作物に該当
するといわなければならない。
五 そこで、被告が本件彫刻を複製したか否かについて判断する。
 被告製作の仏壇の全体および部分の写真であることに争いのない甲第三号証の一
ないし一九、成立に争いのない甲第五・第六号証、証人C、同D(一部)、同B
(一部)の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)および検証の結果を総合す
ると、被告は昭和四七年三月二二日原告から本件彫刻たる花鳥紋様のものおよび獅
子牡丹紋様のもの各一組(いずれも前机部分の彫刻を含む。)を金一三万円で買受
けたこと、被告は右彫刻を、そのままで、あるいは、製作の都合上別紙目録1記載
の彫刻については天女紋様の手の部分の形を変え、同11記載の彫刻については岩
の紋様の配置を変え、獅子の紋様の一部を削除し、同7、9、16、18記載の各
彫刻については全体の大きさを変えるなど、その一部紋様の配置や大きさを変え、
または、一部を削除するなどの修正を加えたうえ、シリコンゴムで型枠をとり、右
型枠にプラスチツクを注入して仏壇彫刻を製作し、右彫刻を被告製作の仏壇の装飾
に使用し、展示し、販売したことが認められ、証人Bおよび同Dの証言中右認定に
反する部分は前掲各証拠と対比してにわかに措信できず、他に右認定に反する証拠
はない。
 右認定事実に検証の結果を総合すると、被告が製作した前記彫刻は本件彫刻の表
現上の特徴をすべて備えており、本件彫刻を複製し利用したものというべきであ
り、したがつて、被告の右行為は原告の本件彫刻についての著作権(複製権)を侵
害するものというべきである。
 もつとも、被告は、被告製作にかかる右彫刻は本件彫刻と全く同一でなく、その
大きさ・配置等が異なるから、その複製とはいえない、と主張するが、著作物複製
の有無は、創作にかかる具体的表現が製作物中に利用されたか否かにあり、末節に
おいて多少の修正等が施されていても、当該作品が原作の再現と感知させるものは
なお複製とみるのが相当であつて、本件においても、前記認定のとおり、その作品
の出来映えなどからすれば、被告の施した修正は微細なものにすぎず、本件彫刻と
彼此対比すると、被告製作にかかる右彫刻が本件彫刻の再現であることは容易に首
肯することができ、被告の本件彫刻取得の経緯、その利用の方法・目的などをも勘
案するとき、被告製作の右彫刻は本件彫刻の複製であり、改作あるいは新作等には
当らないものというべく、したがつて、被告の前記主張は採用することができな
い。
 なお、被告が本件彫刻につき、かつてその二次的著作物の製作を試みあるいは、
将来その製作を試みるおそれについては、なんら立証がないから、被告に対し右二
次的著作物の完成品、半製品およびその製造に使用する型枠の廃棄を求める原告の
請求は理由のないものである。
六 原告本人尋問の結果および検証の結果によれば、原告は、前記のとおり被告に
本件彫刻を売却する際、被告会社代表者に対し、右彫刻が永年研鑚の成果であるの
で、盗用しないように注意したこと、および、右彫刻の裏面には「意匠登録申請
済、実用新案申請済、不許複写複製」と記載された紙片が貼付されていたことが認
められ(これに反する証拠はない)、右事実および被告が仏壇製造業者であること
(この事実は当事者間に争いがない。)に照らすと被告は、前記複製行為が本件著
作権を侵害することにつき、少なくとも過失があつたものということができる。
七 進んで、原告の損害について判断する。
 1 財産物損害について
 成立に争いのない乙第四号証、証人Dおよび同Bの各証言、検証の結果によれ
ば、被告は昭和四九年三月頃から本件彫刻の複製物を製造使用するようになり、同
年八月二〇日までに、トヨセに描かれた象鼻の彫刻以外は本件彫刻の複製物を使用
した姫路型仏壇を二五台、スミ段に別紙目録番号11記載の彫刻の複製物を使用し
た仏壇を少なくとも八四台、それぞれ製作して販売したことが認められ、証人Bの
証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比してにわかに措信できず、他に右認
定に反する証拠はない。
 成立に争いのない乙第五号証の一ないし二七、同第六号証の一ないし二八および
証人Bの証言によれば、昭和四九年頃の被告が製造する姫路型仏壇一台の製造原価
は金六〇万円であり、これを金八五万円を下らない金額で小売店へ卸しており、右
仏壇一台につき少なくとも金二五万円の純利益を得ていたことが認められる。
 ところで、弁論の全趣旨によれば、原告は仏壇彫刻のみを製造販売し、仏壇その
ものの製造販売はしていなかつたことが認められ、また、証人Cの証言によれば、
仏壇価格のうち仏壇彫刻価格の占める割合は二割を下らないことが認められ(これ
ら認定に反する証拠はない)、すると、ほかに特段の事情の認められない本件にお
いては、原告が製造する姫路型仏壇一台の販売利益のうち、昭和四九年頃、仏壇彫
刻部分の占める割合は前記利益金二五万円の二割すなわち金五万円を下らないもの
と認めるのが相当である。
 そして、前記姫路型仏壇の仏壇彫刻について、本件彫刻を複製使用していない部
分はトヨセに描かれた象鼻の部分のみであることは前判示のとおりであり、かつ、
検証の結果によると、右象鼻の部分は右仏壇彫刻全体のうち、極めて微細かつ付加
的なものと認められるから、本件彫刻を複製使用したことによつて被告の得た利益
は、前記利益金五万円全額に等しいものと評価するのが相当である。
 そうすると、被告が右姫路型仏壇を製造販売して得た本件彫刻の複製部分につい
ての純利益は、前記認定の一台あたり利益金五万円に販売台数二五台を乗じた金一
二五万円となり、これは著作権法一一四条一項により原告の被つた損害と推定さ
れ、右推定を覆すに足りる証拠はない(なお付言すると、原告は、被告の右複製物
と同量の本件彫刻を被告が原告から買受けていれば原告が得たであろう利益をもつ
て、著作権法一一四条一項による原告の損害になると主張しているが、しかし、同
項は著作権侵害行為によつて侵害者の得た利益をもつて著作権者の被つた損害と推
定する規定であると解されるから、原告主張の右損害額算定方法は採用しえな
い)。
 次に、被告がスミ段の一部に本件彫刻の一部を複製使用した仏壇八四台を製造販
売したことによる原告の損害を検討するに本件全証拠によるも被告が右著作権侵害
行為によつて得た利益の額を認定することができず、他に原告の損害を認めるに足
りる証拠はない。
 2 弁護士費用について
 原告が原告訴訟代理人に本件訴訟を委任し、相当の着手金および報酬を支払うこ
とを約したことは弁論の全趣旨により認められ、本件事案の内容、訴訟の経緯、認
容された請求部分その他本件にあらわれた事情を勘案すると、被告の支払うべき弁
護士費用は金五〇万円と解するのが相当である。
八 以上のとおりであつて、原告の請求は、被告に対し本件彫刻の複製と右複製物
の販売、頒布、展示の差止、右複製物の完成品および半製品ならびにその製造に使
用する型枠の廃棄、および、財産的損害金一二五万円とこれに対する不法行為の後
日である昭和四九年一〇月一日から、弁護士費用金五〇万円とこれに対する本判決
言渡の日の翌日である昭和五四年七月一〇日から、それぞれ支払済に至るまで民法
所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを
認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条
本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用し、なお主文第
一、二項については仮執行の宣言は相当ではないのでこれを付さないこととして、
主文のとおり判決する。
(裁判官 砂山一郎 見満正治 辻川昭)
 目録
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目録番号1の写真
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目録番号2の写真
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目録番号3の写真
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目録番号4の写真
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目録番号5の写真
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