弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件各訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者双方の求める裁判
一 原告ら
 「1原告P1に対する昭和三六年三月三一日付免職処分を取り消す。2原告P
2、同P3に対する昭和三六年三月三一日付一か月間の各停職処分を取り消す。3
訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。
二 被告
(一) 本案前関係
 主文と同旨の判決。
(二) 本案関係
 「1原告らの請求を棄却する。2訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決
第二 当事者双方の主張
一 請求の原因
(一) 原告P1は昭和二六年五月二八日以降、同P2は昭和二九年一月一八日以
降、同P3は昭和三二年五月以降、いずれも郵便事業に勤務する一般職国家公務員
として東京郵政局神田郵便局集配課に勤務していた。
(二) ところが、被告は、昭和三六年三月三一日付をもつて、原告P1を国家公
務員法(以下国公法という。)第八二条第二、三号により免職、原告P2、同P3
を同法第八二条、人事院規則一二-〇により各一か月間停職する旨の各処分(以下
本件各懲戒処分という。)をした。
(三) しかしながら、右各処分は違法であるから、その取消しを求める。
二 被告の答弁と主張
(一) 本案前関係
1 請求の原因(一)のうち、原告P3の勤務の始期の点を除くその余の事実は認
める。原告P3の勤務の始期は昭和三一年七月である。
2 請求の原因(二)は認める。
3 しかしながら、原告らは、行政事件訴訟特例法第二条に基づいて、国公法第九
〇条に規定する人事院に対する審査請求をし、これについての裁決を経た後でなけ
れば本訴を提起することができないのにかかわらず、審査請求をしなかつたから、
本件各訴えは不適法であつて却下を免れない。
 なお、原告らは、本件各懲戒処分につき公共企業体等労働委員会(以下単に公労
委という。)に救済の申立てをしたことがあるが、右申立ては懲戒処分との関係で
は行政事件訴訟特例法第二条にいう訴願等に当らない。しかも、右申立ては、昭和
三六年一一月三〇日に取り下げられたのである。
(二) 本案関係
1 請求の原因(一)(二)に対する答弁は前示のとおりであり、同(三)は争
う。
2 本件各懲戒処分の事由となつた原告らの非違行為の具体的内容とその該当法条
は次のとおりである。
A 非違行為
(1) 原告P1の非違行為
 原告P1は、
(ⅰ) 昭和三六年三月一三日午前八時三七分神田郵便局(以下単に「局」とい
う。)集配課通常郵便物配達組立事務室(以下「通配事務室」という。)に原告P
2とともに集配課職員約六〇名を集めて職場集会を開き、「郵便がこの位たまつた
からといつて心配することはない。一日半や二日位、遅れている局は相当ある。今
後は、更に三、四日遅れを出すよう規制を強化する。このため集配課のみでなく現
在郵便課非常勤の取り扱つた配達区分郵便物は持ち出さない。」などと演説を行な
つて、業務の正常な運営を阻害する行為をするようあおり、そそのかし、更に就労
時刻である午前八時四五分を経過すると同時に副課長から解散就労命令が発せられ
たに拘わらず、これを無視して集会を午前九時ころまで続行し、右集配課職員約六
〇名を約一五分間欠務させた。
(ⅱ) 同月一八日午前八時二〇分ころ、通配事務室および速達配達事務室(以下
「速配事務室」という。)で集配課長が、作業手順に関し文書による業務命令を職
員に対して発していた際、原告P2とともに作業中の集配課職員約六〇名を指揮し
て神田郵便局長(以下局長という。)および集配課長を取り囲み、こもごも業務命
令の発出に抗議するとともにその撤回を要求して騒ぎ立て、局長らの発する就労命
令を無視して、午前八時二五分ころまで約五分間右同課の職員約六〇名を欠務させ
た。
(ⅲ) 同日午後三時三〇分ころ、全逓信労働組合(以下単に組合という。)執行
部役員ら約三〇名とともに集配課長席に押しかけ、執務中の同課長に対し、「午前
中の文書による業務命令を撤回せよ。」などといつて執ように当日午前中の文書に
よる業務命令の撤回を迫り、午後三時五八分ころまで騒ぎ立て、引き続き右約三〇
名とともに局長室に押しかけ、執務中の局長に対し、右同様当日午前中の文書によ
る業務命令の撤回を執ように迫り、再三にわたる局長の退去命令を無視して、午後
五時二〇分ころまで騒ぎ立て、もつて局長、集配課長、同課計画係員(四名)の業
務の執行を妨害した。
(ⅳ) 同月一九日午前八時四六分ころ、通配事務室に集配課職員約六〇名を集め
て職場集会を開き、就労時刻である午前九時以降副課長から二回にわたり解散就労
命令が発せられたに拘わらず、これを無視して集会を午前九時一〇分まで続行し、
右職員約六〇名を約一〇分間欠務させた。
(ⅴ) 同月二〇日午前八時三〇分集配課長から口頭で、午前八時四六分ころ同課
長から文書により、同午後一時一〇分ころ局長から口頭で、それぞれ就労命令が発
せられたに拘らず、これを無視して同日一日欠勤した。
(ⅵ) 同月二一日午前七時三〇分から四〇分ころにわたり、通配事務室におい
て、「台の上にある物をはねておけ。」と非常勤職員の区分した郵便物を持ち出さ
ないよう集配課職員に対し呼びかけて歩き、もつて業務の正常な運営を阻害する行
為をするようあおり、そそのかし、その後、午前八時四八分ころから同事務室の中
央に同課職員約六〇名を集めて職場集会を開いたが、就労時刻である午前九時を過
ぎると同時に副課長から就労命令が発せられたに拘わらず、これを無視して、午前
九時五分ころまで集会を続行して、右職員約六〇名を約五分間欠務させた。
(ⅶ) 同月二二日午前八時三五分ころ、通配事務室中央に集配課職員約六〇名を
集めて職場集会を開いた際、就労時刻である午前八時四五分を経過すると同時に集
配課長および副課長から解散就労命令が発せられたに拘わらず、これを無視して集
会を同五〇分まで続行し、右職員約六〇名を約五分間欠務させ、かつ、同日午前八
時三〇分ころおよび同五五分ころの二回にわたり、集配課長から口頭と文書により
就労命令が発せられたに拘わらず、これを無視して同日一日欠務した。
(ⅷ) 同日午前九時二五分ころ、集配課速配事務室において、午前九時ころ副課
長から持ち帰りの速達郵便物約六〇通の配達を命ぜられていた速達担当者数名に対
してその配達を拒否するよう指導して右郵便物から二六通を抜き出させたうえ、み
ずからこれを副課長のもとに持参して「こんなものは持つていけない。」と云いな
がら同副課長席机上に放置して立ち去り、もつて業務の正常な運営を阻害した。
(ⅸ) 同日午後三時ころから集配課職員約四〇名をして、通常業務を中断して集
配課内の通配事務室の清掃を始めさせ、午後三時一〇分ころ集配課長および副課長
から清掃をやめて直ちに通常業務を行なうよう命令されたにも拘わらず、これを無
視して約三時二〇分ころまで清掃を続けさせ、その間約二〇分間業務の正常な運営
を阻害し、ついで、午後三時三〇分ころ、集配課職員約三五名を引き連れて集配課
長席に押しかけ、郵便事故について調査中の同課長に対し集団会見と称して面会を
要求し、同課長がこれを拒否し、副課長とともに再三にわたり退去を命じたにも拘
わらずこれに応ぜす、午後四時四〇分ころ退出するまでの間同課長および同課計画
係の業務を妨害した。
(ⅹ) 同月二三日午前八時四〇分ころ、約六〇名を集めて通配事務室中央附近に
おいて職場集会を開催中、速配事務室に局長と集配課長を認めるや、右職員約六〇
名を引き連れて局長および同課長を取り囲み、同人らに対し、「きのうの話しの続
きを聞きたい。」と執ように要求してつめより、就労時刻の午前八時四五分に至る
も解散せず、局長らの再三にわたる解散就労命令を無視して、午前八時五二分ころ
まで騒ぎたて、右職員約六〇名を約七分間欠務させ、かつみずからも同日一日欠務
した。
(ⅹⅰ) 同月二四日午前七時五〇分ころ、集配課事務室の道順組立台脇の通路
に、各区ごとに処理すべき順序にしたがつて積み重ねてあつた通常郵便物の入つた
籠十数個(約一万通在中)を、集配課職員数名に指示してほしいままに一階郵便現
業室エレベーター前に右順序の区別なくばらばらに積み上げさせ、当日の円滑な配
達業務の遂行を妨害した。
(ⅹⅱ) 同月二四日午前八時三〇分ころ口頭および文書により、同日午後一時四
〇分ころ再度文書により、それぞれ集配課長から直ちに就労するよう命ぜられたに
も拘わらずこれに応ぜず、当日一日欠務した。
(ⅹⅲ) 同月二五日午前八時三〇分ころ、集配課長から就労するよう命ぜられた
が、これに従わず当日一日欠務したのみならず、同日午前八時三二分ころ、通配事
務室中央に集配課職員約六〇名を集めて職場集会を開き、就労時刻である同八時四
五分を経過すると同時に同課長および副課長から解散就労命令が発せられたに拘わ
らず、これを無視して午前八時五〇分まで集会を続行して、右職員約六〇名を約五
分間欠務させた。
(ⅹⅳ) 同日午前一一時四五分組合員約八名を引き連れて局長室に無断入室し、
当日同室で神田郵便局管理者と東京郵政局および東京郵政監察局の係官との打合せ
会の準備をしていたP4労務主事に対し局長との会見話合いを要求し、P5庶務課
長代理らの再三にわたる退去命令に応じないで、午後一時二八分ころまでその場に
座り込んで動かず、同日同所で開催予定の右打合わせ会の開催を不能ならしめて、
右係官らの業務を妨害した。
(ⅹⅴ) 同月二六日午前八時四七分ころ、通配事務室に集配課職員約六〇名を集
めて職場集会を開き、就労時刻である午前九時を経過すると同時に副課長らから再
三にわたり解散就労命令が発せられたにも拘わらず、これを無視して集会を午前九
時一〇分まで続行し、右同課職員約六〇名を約一〇間欠務させた。
(ⅹⅵ) 同日正午ころ、会議室(旧電報局長室)において非常勤職員約一〇名に
対し速達配達作業を指示して作業させていた集配課長のもとに至り、同課長に対し
会議室において卓球をさせるよう要求し、同課長が、同室は同年三月二〇日以降滞
貨郵便物を整理する作業に使用していることを理由にこれを拒絶したにも拘わら
ず、午後零時七、八分ころから同二五分ころまでの間、同室卓子上に組立整理して
置いてあつた郵便物をほしいままに右室隅に放り出し、P4労務主事、P6監察官
および同課長の制止を無視して強引に卓球台を十分程会議室に押し入れ、もつて正
常の業務の運営を妨害した。
(ⅹⅶ) 同月二七日午前七時四〇分から四五分ころにかけて、通配事務室内の三
ないし五班の配達各区席に当日配達すべく置いてあつた通常郵便物在中の籠のうち
から数個(約四、〇〇〇通在中)をほしいままに一階郵便現業室エレベーター前に
持ち運び積み重ね、当日の円滑な配達業務の遂行を妨害した。
(ⅹⅷ) 同日午前八時三〇分ころ、同局二階食堂に原告P3とともに集配課職員
約六〇名を集めて職場集会を開き、就労時刻である午前八時四五分の経過と同時に
集配課長および同副課長から再三にわたり解散就労命令が発せられたに拘わらず、
これを無視して、午前八時五五分ころまで集会を続行し、引き続き速配事務室にお
いておりから東京郵政局P7指導官と同人に引率された臨時補充員一〇名とが速達
郵便物を同室から局舎三階にあげようとしているのを認めるや、副課長の制止を無
視して、右職員約六〇名とともに右P7指導官および臨時補充員を取り囲み、午前
九時一〇分ころまでの間その作業を妨害し、その間右職員約六〇名をして約二五分
間欠務させ、かつ、みずからも同日一日欠務した。
(ⅹⅸ) 同日午後零時一五分ころ、原告P2、同P3とともに集配課職員約四〇
名を引き連れて集配課長席に押しかけ、執務中の同課長から再三にわたり退去を求
められたにも拘わらず、執ように話合いを要求して同所から立ち去らず、同課長の
職務の執行を妨害し、午後零時四五分ころ同課長が用務のため離席するや、同四七
分ころまで労働歌を合唱したりして騒ぎ立てた。
(ⅹⅹ)(イ) 同日午後四時九分ころ、P8庶務課長、P5課長代理から、集配
課計画室横の廊下において、局長は面会要求には応じられない旨申し伝えられる
や、直ちに原告P3ら約四〇名の組合員とともに右両名を取り囲み、口々に「局長
に会わせろ、何故会わせないのか。」などと云つて同四〇分ころまで執ように抗議
を繰り返して騒ぎ立てるとともに自席に帰ろうとする同人らを阻止して、その自由
を著しく拘束し、
 (ロ) その後、引き続き同日午後五時一五分ころ局長の面会拒否の回答に対す
る原告らの再検討の要求に対し、P9庶務課長、P4労務主事が、前同所において
たむろしている原告らに対し、再び面会に応じられない旨回答するや、原告P3ら
組合員約三〇名とともに右両名を取り囲んで、同所壁際に押しつけて、身動きがで
きないようにし、午後六時八分ころまで前同様執ように局長に対する面会を要求し
て騒ぎ立て、同人らの自由を著しく拘束し、 (ハ) さらに、引き続き同日午後
六時一五分ころ、前二回にわたる面会拒否の回答に対する原告らの再検討の要求に
ついて、右P4労務主事が東京郵政局係官とともに、前同所においてたむろしてい
た原告らに対し、再度面会に応じられない旨回答するや、原告P3ら組合員約三〇
名とともに、右P4労務主事らを取り囲んで、午後七時三七分ころまで、「何とか
会うようにしろ。」などと執ように面会を要求して騒ぎ立てた。
(2) 原告P2の非違行為
 原告P2は、
(ⅰ) 昭和三六年三月八日午前八時三〇分ころ、通配事務室に集配課職員約六〇
名を集めて職場集会を開き、「通配は一〇日ころまでに二日の遅れを出す予定であ
つたところ、現在までの状態では予定の線まで達していない。これは官側が非常勤
を雇傭しているからで、これに対処するため、非常勤の事務指導を行なわないこと
を考えている。」などと演説して、組合の業務規制闘争計画どおり郵便物滞留を生
じさせるよう指導し、もつて業務の正常な運営を阻害する行為をするようあおり、
そそのかした。
(ⅱ) 前記(1)の(ⅰ)記載のとおり、同月一三日午前八時三七分ころ、原告
P1とともに通配事務室に集配課職員約六〇名を集めて職場集会を開き、これらの
者に対し、業務の正常な運営を阻害する行為をするようあおり、そそのかし、か
つ、副課長の解散就労命令を無視して集会を続行し、これらの者を約一五分間欠務
させた。
(ⅲ) 前記(1)の(ⅱ)記載のとおり、同月一八日午前八時二〇分ころ、通配
事務室で、原告P1とともに、作業中の集配課職員約六〇名を集めて、これらの者
とともに、文書による業務命令発出に関し、局長および集配課長を取り囲んで騒ぎ
立て、局長らの命ずる就労命令を無視して、午前八時二五分ころまで約五分間右同
課職員約六〇名を欠務させた。
(ⅳ)(イ) 同月一〇日午前八時五五分ころ、通配事務室において集配課長から
就労命令が発せられたに拘わらず、これを無視して正午まで就労せず、四時間欠務
し、
 (ロ) その間、午後八時五八分ころ、右同室において、通配九区および一一区
の配達担当者に対し、それぞれ「あわてないで、のんびり一通づつゆつくり手渡し
て配達してこい。」と指導して怠業行為をするようあおり、そそのかし、 (ハ)
 さらに、午前一〇時一八分ころ、同室において、集配課長が同課P10主任に対
し、担務変更の業務命令書を交付するや、原告P3とともに直ちに右P10のもと
に行き、右命令書を持ち去つた。
(ⅴ) 前記(1)の(ⅹⅸ)記載のとおり、同月二七日午後零時一五分ころ、原
告P1、同P3らとともに集配課職員約四〇名を引き連れて集配課長席に押しか
け、執務中の同課長に対し、執ように話合いを要求して同課長の職務の執行を妨害
し、同課長が離席するや、同四七分ころまで労働歌を合唱したりして騒ぎ立てた。
(3) 原告P3の非違行為
 原告P3は、
(ⅰ) 昭和三六年三月六日午前八時三五分ころ、通配事務室に集配課職員約六〇
名を集めて集会を開き、「本日から配達の定時出発を行ない、帰局後一号便の残り
を処理することになつたから、組合員は定時に出発して下さい。これは戦術として
行使するが、一〇日ころまでに二日の遅れをつくる予定である。なお、これに伴う
業務命令は拒否する。」という趣旨の演説を行ない、もつて業務の正常な運営を阻
害する行為をするようあおり、そそのかした。
(ⅱ) 同月二〇日病気休暇中であるに拘わらず、
 (イ) 午前中一ぱい職場を徘徊し、その間前記(2)の(ⅳ)(ハ)記載のと
おり同日午前一〇時一八分ころ、集配課長が同課P10主任に対し担務変更の業務
命令書を交付するや、原告P2とともに直ちに右P10のところに行き、右命令書
を持ち去り、
 (ロ) 同日午後三時五〇分ころ、原告P1とともに集配課職員約四〇名を引き
連れて局長室前の廊下に押しかけ、局長に対する面会を要求して労働歌を合唱した
りなどして騒ぎ立て、午後四時一〇分ころ、P11会計課長から、「庶務と会計の
両課とも執務中で妨害になるから解散しなさい。」と命じられるや、これに対し、
罵声を浴びせかけてしたがわず、同二〇分ころ解散するまで騒ぎ立てた。
(ⅲ) 前記(1)の(ⅹⅷ)記載のとおり、同月二七日午前八時三〇分ころ、同
局二階食堂に原告P1とともに集配課職員約六〇名を集めて職場集会を開き、午前
八時四五分ころ集配課長らから再三にわたり解散就労命令が発せられたにも拘わら
ずこれに応ぜず午前八時五五分ころまで集会を続行し、引き続き、速配事務室にお
いて、作業中の東京郵政局P7指導官と同人に引率された臨時補充員一〇名を右職
員約六〇名を指揮して取り囲み、午前九時一〇分ころまでの間その作業を妨害し、
その間約二五分間右職員約六〇名をして欠務させるとともに、みずからも同日一日
欠務した。
(ⅳ) 前記(1)の(ⅹⅸ)および(2)の(ⅴ)記載のとおり、同日午後零時
一五分ころ、原告P1、同P2とともに集配課職員約四〇名を引き連れて集配課長
席に押しかけ、執務中の同課長に対し執ように話合いを要求して、同課長の職務の
執行を妨害し同課長が離席するや、同四七分ころまで労働歌を合唱したりして騒ぎ
立てた。
(ⅴ) (1)の(ⅹⅹ)記載のとおり、原告P1と、
 (イ) 同日午後四時九分ころ、集配課計画室横廊下において、組合員約四〇名
とともに、P9庶務課長、P5同課長代理を取り囲み、局長に対する面会を執よう
に要求して同四〇分ころまで騒ぎ立て、自席に帰ろうとする同人らを阻止してその
自由を著しく拘束し、
 (ロ) その後、午後五時一五分ころ、右同所において、組合員約三〇名ととも
に、P9庶務課長、P4労務主事を取り囲んで同所壁際に押しつけ、身動きができ
ないようにして午後六時八分ころまで前同様執ように局長に対する面会を要求して
騒ぎ立て、同人らの自由を著しく拘束し、
 (ハ) さらに、引き続き午後六時一五分ころ、右同所において、組合員約三〇
名とともに、P4労務主事および郵政局係官を取り囲んで午後七時三七分ころまで
執ように局長に対する面会を要求して騒ぎ立てた。
B 該当法条
 原告らの右非違行為がいかなる法条に違反しあるいは該当するとして懲戒事由と
されたかについて述べれば、次のとおりである。
(1) 勤務時間中であるから職場集会を中止せよ、あるいは就労せよといつた上
司の職務上の命令に従わずに就労しなかつた点、および職場集会を勤務時間内にく
いこませてその間みずからも就労しないばかりでなく、集会に参加させた職員を就
労させなかつた点(A(1)(ⅰ)、(ⅱ)、(ⅳ)ないし(ⅵ)、(ⅸ)、
(ⅹ)、(ⅹⅰ)ないし(ⅹⅴ)、(ⅹⅷ)、(2)(ⅱ)ないし(ⅳ)イ、
(3)(ⅲ)の各所為)は国公法第九八条第一項に違反し、また配達拒否の意思を
表明して抽出した郵便物を机上に放置して立ち去つた行為((1)(ⅷ))のごと
きは、「郵便の業務に従事する者がことさらに郵便の取扱をせず……、これを一年
以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する。」旨を定める郵便法第七九条第一項に
違反する行為であるからこれまた国公法第九八条第一項に違反するものであつて、
以上いづれの行為も同時に同法第一〇一条第一項の「勤務時間及び職務上の注意力
のすべてをその職責遂行のために用い」なければならない旨の規定に違反するもの
である。その結果、それらは、懲戒事由を定める同法第八二条第二号の「職務上の
業務に違反し、又は職務を怠つた場合」(同時に同条第一号の「この法律……に違
反した場合」)に該当する。なお、職員を就労させなかつた点については、同法第
一〇一条第一項の趣旨および第一条第三項に反すると同時に「国民全体の奉仕者と
して、公共の利益のために勤務」することを要求している同法第九六条の服務の根
本基準に反するものであること明らかであるから、この点からいつても、同法第八
二条第二号(および第一号)に該当するばかりでなく、同条第三号の「国民全体の
奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」にも当つて懲戒事由とされたので
ある。
(2) 郵便の遅れを出すよう規制を強化する旨の演説((1)(ⅰ))、郵便の
遅れを出すために非常勤職員の事務指導を行なわないことを考慮する旨の演説
((2)(ⅰ))および郵便の遅れを作る予定であつて業務命令は拒否する旨の演
説((3)(ⅰ))を行なつた点、郵便物を持ち出さないよう呼びかけて歩いた点
((1)(ⅵ))ならびにのんびり手渡して配達して来いと指導した点((2)
(ⅳ)(ロ))は、いずれも職務専念義務違反の行為を教唆指導するものであるか
ら、職務専念義務を定める同法第一〇一条第一項の趣旨および第一条第三項に反す
るものであり、このような行為は、「郵便の業務に従事する者がことさらに郵便…
…を遅延させたときは、これを一年以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する」旨
の郵便法第七九条第一項の定めに照らして考えても重大な職務上の業務違反といわ
ざるをえない。また、他の職員に渡された業務命令書を持ち去る行為((2)
(ⅳ)(ハ)、(3)(ⅱ)(イ))のごときは、前記国公法第九八条第一項の趣
旨に反するものである。
 以上いずれの行為も、同法第九六条第一項に違反し、したがつて、同法第八二条
第二号(同時に第一号)に該当することはもとより、同条第三号にも該当すると解
される。
(3) 勤務時間中に上司や局管理者に集団抗議を行なつて管理者席で騒いで気勢
を上げたり管理者を吊し上げる等したり、また郵便物の入つた籠を移動したり作業
の行なわれている部屋に卓球台を無理に押し入れたり臨時補充員の作業を邪魔した
り等して、もつて上司の業務あるいは神田郵便局の業務を妨害した点((1)
(ⅲ)、(ⅸ)、(ⅹ)、(ⅹⅰ)、(ⅹⅳ)、(ⅹⅵ)ないし(ⅹⅹ)、(2)
の(ⅴ)、(3)の(ⅱ)ないし(ⅴ))は、みずからの職務専念義務に違反する
ことはもとより、被妨害者の職務専念義務の履行を不能もしくは困難ならしめる意
味において、やはり前記同法第一〇一条第一項の趣旨および第一条第三項に反する
とともに第九六条第一項にも違反し、結局前記(2)と同一の結論となる。
 なお、かりに狭義の勤務時間外に行なわれたものであつたとしても、職場におい
て上司に面会を強要して拒絶されたにもかかわらず立ち去らずに騒ぐことや、上司
あるいは局管理者を吊し上げてその自由を著しく拘束することは、同法第九六条の
服務の根本基準に反し、結局同法第八二条第一号ないし第三号に該当して懲戒事由
となる。
三 被告の右主張(二(一)3および(二)2)に対する原告らの認否と反論
(一) 本案前の主張について
1 被告は、公労委に対して救済申立てをしても、本件懲戒処分との関係では行政
事件訴訟特例法第二条にいう訴願を申し立てたことには当らないと主張するが、公
労委は公共企業体等の職員についての不当労働行為事件に関し特別の処理をすべく
設置された行政委員会であり、この関係では法律上申立てを受理し、それを審理し
てその申立人に対する関係で裁決、決定その他なんらかの形で判断しなければなら
ない職務を有するのであるからこれに対する救済申立ては訴願であるということが
できる。
2 原告らは、昭和三六年六月公労委に救済申立てをし、同委員会昭和三六年
(不)七号として受理されたが、その後三か月を経過するも、審理の開始すらなさ
れなかつたものであり、本訴は行政事件訴訟特例法第二条但書によつて適法であ
る。
3 原告らおよびその代理人は、右申立てを取り下げたことはなく、しかも右のよ
うに訴願後三か月経過した後、本訴を提起したのであるから、かりに右申立てが取
り下げられたとしても本訴が不適法となることはない。
4 原告らが人事院に対し審査請求をしていないことは認める。
(二) 本案関係の主張について
1 Aの(1)の主張について
(ⅰ)について
 平日の午前八時三〇分より一五分間は休息時間であり、この時間中組合は必要あ
るとき、情勢報告等を行なうことが慣例となつている。
 また、原告P1が被告主張のような内容の演説を行なつたことはない。演説の趣
旨は、定員が不足しているために被告が明らかにしている作業手順を完全に実施す
るならば、必然的に郵便物が二日、三日と遅れるものであるし、さらに非常勤職員
が郵政職員として責任ある態度で仕事をするためには、当局側がその取扱いについ
てわれわれに十分にその必要を説明すべきである、というにある。
 また、解散就労命令を無視した事実はない。
(ⅱ)について
 集配課長が当日に限つて一方的に作業途中に作業手順の変更を行なつてきたの
で、組合員はその内容を明らかにせよと質問のために集まつてきたにすぎず、気勢
をあげたり、就労命令を無視した事実はない。
 右業務命令は一方的な労働条件の変更であるために、原告P1は直ちに団体交渉
を申し入れたが、拒否された。
(ⅲ)について
 集配課長、局長を吊し上げた事実はない。
 原告P1は、当局側に対し午前中の業務命令について今後の問題もあるので混乱
をおこさせないためにも話し合うべきであると申し入れ、結論は出なかつたが、話
し合つたものである。
(ⅳ)について
 当日は日曜日であるが、日曜日の午前八時四五分より一五分間は休息時間であ
り、組合が必要あるときは、情勢報告等を行なうことが慣例となつていた。
 解散就労命令を無視した事実はない。
(ⅴ)について
 原告P1は、当日原告P2とともに年次有給休暇の請求をしたから、就労義務は
ない。なお、原告P1は、労働条件にかかわる問題であるので団体交渉を申し入れ
たが、拒否されたものである。
(ⅵ)について
 台の上にある物について被告主張のような事実はない。原告P1は非常勤(アル
バイト学生)の作業の責任が明らかでない上に先着便配達、誤送、誤配等があり、
平常通り配達できないおそれがあることを注意したものである。
 就労命令を無視した事実はない。
(ⅶ)について
 就労命令を無視した事実はない。
 当日原告P1は年次有給休暇を請求し、適法な変更の意思表示を受けていないの
で就労義務はない。
(ⅷ)について
 当日速達配達郵便物は、アルバイト学生により処理されたけれども、すでに正規
に定められた配達日時が過ぎているので、原告P1はその取扱いを明らかにすべき
であると申し入れたが、その後なんらの回答もなかつたものである。
 配達を拒否したことはない。
(ⅸ)について
 清掃は従来慣行的に行なわれてきた。特に清掃要員不足のおりから、作業場が非
衛生になつているのでその必要があつた。就労命令を拒否して行なつたのではな
い。
 計画係の仕事が邪魔になるから退去してもらいたいといわれた事実はなく、業務
の妨害をした事実はない。
(ⅹ)について
 当局側は、いろいろな理由をつけて原告らと話し合うことを拒否していたが、当
日休息時間中に現場に局長、課長がいたので、原告P1は、組合員の総意により話
しをすべきであると申し入れたのである。
 執ようにつめ寄り勤務時間内にくいこませたということはない。
(ⅹⅰ)について
 原告P1は、作業場通路に郵便物が散乱しているので適当な場所に整理したにす
ぎず、配達業務を妨害した事実はない。
(ⅹⅱ)について
 当日は、年次有給休暇を請求していたがこれに対して適法な変更の意思表示はな
く就労義務は存しない。また、就労命令を拒否した事実はない。
(ⅹⅲ)について
 原告P1は当日団体交渉を行なう予定であつたから、支部責任者として当然その
内容を組合員に周知させ、意見を取りまとめる必要があり、慣例に従つて休息時間
中に話したものであり、就労命令を無視した事実はない。
(ⅹⅳ)について
 原告P1は東京郵政局のP12労働係のあつ旋により、当日午前一〇時より団体
交渉を行なう予定になつていたが、「局長が所在不明により交渉できない。」との
一方的通告を受けたので、休憩時間中にその理由を明らかにしてくれるよう局長室
で交渉の待機をしていたものであり、打合わせ会を開催する予定であつたことは知
らない。
(ⅹⅴ)について
 職場集会を開いたことは認める。解散就労命令を無視した事実はない。
(ⅹⅵ)について
 従来厚生施設として卓球用に会議室を使わせてきたものを、当局側が一方的に卓
球台を片づけたので、原告P1は再三にわたり交渉を申し入れたが、拒まれ、これ
では組合員の厚生が将来において確保できないと考えその旨をいつたもので、郵便
業務を妨害した事実はない。
(ⅹⅶ)について
 作業場が郵便物で大変に混乱しているのでそれを整理したもので、当日の配達業
務を妨害した事実はない。
(ⅹⅷ)について
 原告P1および同P3は、郵便の配達業務がアルバイト学生の作業で大変に混乱
しているので、それを是正する意味で集配課長と話し合うべく被告に申し入れ、休
息時間中二階食堂で待機していたものであるが、話合いをする必要がないというこ
とでこれを拒否された。そして、休息時間が終つたので同原告らは作業場に帰つた
ところ、速達係の作業場より身分不明の人達が無断で郵便物をいずれかに持ち去ろ
うとしているのを担当者が発見したので、右原告らは直ちに責任者に、このような
ことがおきたのでは組合員は仕事に責任が持てないと質問をしたものであつて、被
告主張のように作業の妨害をした事実はない。なお、右原告らが当時の責任者P7
事務官と話し合つたところ、その非を認め、今後行き違いのないようにすることを
確認したものである。
(ⅹⅸ)について
 原告らは、集配課長に郵便の取扱いが大変に混乱しているので、なんとか話し合
つて処理したい旨申し入れたが、同課長が用があるからといつてみずからが時間等
不明確のまま離席したので、休憩時間中故、用のすむのを待つていたものである。
 さらに休憩時間中労働歌を合唱することは自由であるのみならず、騒ぎ立てたと
いうことはない。
(ⅹⅹ)について
 当局側は同月二五日に交渉をすることを約束しておきながら、一向に交渉すると
いう態度をみせないので、原告P1および同P3は組合員の総意でさらに申入れに
行つたもので、面会を強要したり、吊し上げた事実はない。話合いの結果、東京郵
政局P13労働係のあつ旋で翌二八日交渉することが確認された。
2 Aの(2)の主張について
(ⅰ)について
 原告P2は休息時間中組合の情勢報告をしただけのことであり、被告の主張する
ような職場大会を開いて非常勤の事務指導をするななどの演説をしたことはない。
(ⅱ)について
 P14副課長が、解散就労命令を発した事実はないし、したがつて命令を無視す
るということもありえない。
(ⅲ)について
 原告らが通常のとおり仕事をしているにもかかわらず、課長は職員に対して一方
的に意味の不明な業務命令を出したので、原告P2および同P1は、業務命令の意
味を課長のところへ聞きに行つたのであつて、課長を取り囲んで気勢をあげて騒い
だり、就労命令を無視した事実はない。
(ⅳ)について
 (イ) 原告P2が午前中は年次有給休暇の請求を出していたにもかかわらず、
課長は一方的に業務命令を出したのである。
 (ロ) 通常郵便配達・九区・一一区の担務者に対してのんびり一通づつ手渡し
て配達してこいなどの指導をした事実はない。
 (ハ) P10主任に対して、担務変更の業務命令が発出された際、その業務命
令を持ち去つた事実はない。
(ⅴ)について
 Aの(1)(ⅹⅸ)についての認否と同旨で、被告の主張するような事実はな
い。
3 Aの(3)の主張について
(ⅰ)について
 原告P3は、被告主張の日時ころ、組合員を集めて報告を行なつたが、「一〇日
ころまでに二日の遅れをつくる予定である。なお、これに伴う業務命令は拒否す
る。」とはいつたことがない。
(ⅱ)について
 原告P3は、同年三月一五日に小包担務中腰部を捻挫し、三月一九日まで病気休
暇をとつていた。しかし、三月二〇日は小包担務のため午前八時三〇分より勤務に
出局したが、小包のような重労働の仕事はまだできそうにもなかつたので、課長に
病気休暇を請求したのである。
 午前中職場を徘徊し云々とあるが、同原告は当日腰部の痛みがかなり激しかつた
ので、そのために午前中のほとんど一階の現業室に休んでいたものである。午後に
いたつても腰の痛みがよくならず、被告の主張するような騒いだ事実はない。
(ⅲ)について
Aの(1)(ⅹⅶ)についての原告P1の認否と同旨であり就労命令拒否、作業妨
害の事実はない。
(ⅳ)について
Aの(1)(ⅹⅸ)および(2)の(ⅴ)についての認否と同旨で、被告主張の事
実はない。
(ⅴ)について
Aの(1)(ⅹⅹ)についての認否と同旨で、面会強要・吊しあげ等の事実はな
い。
四 原告らの主張
 本件各懲戒処分は、原告らが正当な組合活動をした故をもつてなされたものであ
り、ひいては組合自体の弱体化をねらつてなされた組合に対する支配介入であるか
ら、労働組合法第七条第一号、第三号により無効である。
(一) 全逓は約二二万人の郵政労働者で組織する労働組合であり、中央、地方、
地区の各本部ならびに支部で構成されている。
(二) 原告らは、いずれも全逓東京地区神田郵便局支部(以下支部という。)に
属している。そして、 1 原告P1は、昭和二九年六月支部執行委員、同三〇
年、同三一年には支部副支部長、同三二年七月以降は支部長としてその間支部の中
心人物として活●な組合活動を行なつてきたものである。
 2 原告P2は、昭和三三年支部青婦部副部長、同三五年以降支部執行委員とし
てその間支部の中心人物の一人として活●な組合活動を行なつてきたものである。
 3 原告P3は、昭和三三年七月支部執行委員、同三四年六月支部青婦部副部長
となり、同三五年九月以降は支部執行委員としてその間支部の中心人物の一人とし
て活●な組合活動を行なつてきたものである。
(三) 原告らは、本件各懲戒処分当時、具体的に次のような組合活動を行なつて
きた。
1 団体交渉
(1) 昭和三五年一月二日に正月三日の超過勤務について団体交渉を行なつた
際、原告らはこれに出席して活●に発言した。
(2) 同年一月一三日、集配課長と組合員の休暇について団体交渉を行なつた。
(3) 同年一月二九日、局長と勤務時間について団体交渉を行なつた。
(4) 同年二月一日より三日まで局長と時間外労働協定について団体交渉を行な
つた。
(5) 同年三月七日、一一日、局長と職員の給与について団体交渉を行なつた。
(6) 同年三月一〇日、集配課長と集配区増区について団体交渉を行なつた。
(7) 同年三月二九日、局長と時間外労働協定について団体交渉を行なつた。
(8) 同年四月二〇日、二一日、庶務課長と郵政記念日行事について団体交渉を
行なつた。
(9) 同年四月二八日、局長と住宅割当について団体交渉を行なつた。
(10) 同年五月一一日、局長と高令者退職について団体交渉を行なつた。
(11) 同年六月八日、局長と時間外労働協定について団体交渉を行なつた。
(12) 同年六月三〇日、局長と集配区増区の問題および夏期繁忙対策について
団体交渉を行なつた。
(13) 同年七月八日、局長と時間外労働協定について団体交渉を行なつた。
(14) 同年七月二〇日、二一日、庶務、集配両課長と夏期施設について団体交
渉を行なつた。
(15) 同年八月一日、局長と三階会議室の使用について団体交渉を行なつた。
(16) 同年八月三一日、集配課長と夏期施設について団体交渉を行なつた。
(17) 同年九月一六日、局長と郵便物滞貨と定員問題とについて団体交渉を行
なつた。
(18) 同年九月二四日、局長と時間外労働について団体交渉を行なつた。
(19) 同年一〇月六日、集配課長と速達の滞貨について団体交渉を行なつた。
(20) 同年一〇月七日、局長と職場要求について団体交渉を行なつた。
(21) 同年一〇月一一日、局長と非常勤者の労働条件、速達配達の勤務時間に
ついて団体交渉を行なつた。
(22) 同年一〇月一三日から一五日まで局長と職場要求について団体交渉を行
なつた。
(23) 同年一〇月二四日、二五日、局長と職場要求、機動化について団体交渉
を行なつた。
(24) 同年一〇月二九日、局長と増員問題について団体交渉を行なつた。
(25) 同年一一月一五日、局長と年末年始繁忙対策について団体交渉を行なつ
た。
(26) 同年一一月二一日、局長と集配の増員問題について団体交渉を行なつ
た。
(27) 同年一一月二九日、局長と年末年始繁忙対策について団体交渉を行なつ
た。
2 その他の組合活動
 原告らは右のように殆んど連日のような団体交渉とともに、こうした交渉の前後
において休息、休憩時間を最大限に利用して組合員に対する説明および意見のとり
まとめ等、組合員の諸要求の貫徹のために日常たえまなく正当な組合活動を行なつ
ていたものである。
(四) 右の各団体交渉について、当局側はこれに応じないという態度には出なか
つたのであるが、本件各懲戒処分の対象となつた原告らの組合活動については、こ
れに対して極端異例なほどの●悪の態度を示し、これに関する団体交渉を拒否した
挙句、些細なことに違法の名を着せようとしている。
(五) 被告が国公法第八二条に該当するというところの原告らの前示諸行為は、
まさに前述の原告らの組合諸活動もしくはその当然の延長として行なわれたもので
あつて正当な組合活動そのものである。
 しかるに、被告は、原告らの右正当な組合活動の故に、ひいては組合の弱体化を
ねらつて、本件各懲戒処分をしたのである。
五 原告らの右主張(四)に対する被告の法律上の主張と認否
(一) 主張
1 現業の国家公務員に対して懲戒処分等職員の意に反する不利益処分が行なわれ
た場合に、その不服申立事由が当該処分自体の違法を理由とする場合と不当労働行
為を理由とする場合とでは、その救済手続が截然と区別されている。
 まず、処分自体の違法を理由とする場合、すなわち法定の処分手続に違反し、あ
るいは処分要件を欠くような違法事由を理由とするときは、人事院に対し不利益処
分の審査請求をすることができるものとされている。人事院は審査請求を受けたと
きは処分の成立要件、有効要件についての違法性の有無を判断の対象として、処分
を行なうべき事由が認められる場合には処分を承認し、認められない場合には処分
を取り消してその効果を失わしめるのである。そして、人事院の判定に不服がある
職員は、不利益処分について抗告訴訟としての取消訴訟を提起することができるの
である。
 他方、不当労働行為を理由とする場合には、不利益処分を受けた職員またはその
職員を組合員とする労働組合は、公労委に対して救済の申立てをすることができ
る。不当労働行為について特に公労委による救済制度を設けたのは、労働委員会と
いう行政機関によつてその広範な裁量により事態に即した弾力的な救済を与え、労
働基本権保護の実効を確保しようとするにある。けだし、労働組合法第七条に規定
する不当労働行為の態様は種々雑多であり、その手段、方法も事実行為、法律行
為、行政処分を介して行なわれる等複雑多岐にわたるので、行為の適法、違法を判
断基準としてその法律効果を確認形成する機能を果たす裁判制度をもつてしてはと
うてい不当労働行為に関する事案を処理しうるものではなく、また、その中には、
支配介入、団体交渉拒否のように本来司法審査に親しまないものも含まれているか
らである。公労委は、救済の申立てを受けたときは、侵害行為の適法、違法、有
効、無効の観点を離れて、もつぱら不当労働行為の成否の点について審理判断を
し、不当労働行為が成立すると認められるときには、原状回復を主眼とした再雇
用、現職復帰、賃金相当額の支払い等具体的な救済命令を発し、反対に不当労働行
為が成立しないと認められるときには、その申立てを棄却する。そして、この公労
委の命令に対して不服のあるいずれかの当事者は、公労委を被告としてその命令取
消しの行政訴訟を提起できることになつているのである。
2 そして、現業の国家公務員についても、公労法が労働組合法と同様の不当労働
行為制度をとつている以上、不当労働行為に該当する行為は、取消訴訟による取消
しをまたずにその効力が否定さるべきであつて、その意味において、不当労働行為
については、不利益処分の取消訴訟は認められていないと解すべきである。公労法
第四〇条第三項が不当労働行為に該当するものについては人事院に対する審査請求
の手続を排除しているのも、このことを裏書きするものといえよう。
 このように、現行法制上、不当労働行為を理由とする場合と処分自体の違法を理
由とする場合とでは全く別個の救済制度が法定されており、しかも両制度ともそれ
ぞれ行政救済から司法救済に至る自己完結的な救済制度として整備されているばか
りか両者は制度の趣旨を異にしている。このことからみて不当労働行為に対する救
済手続においては処分自体の違法事由を主張することは許されず、また処分自体の
違法を理由とする救済手続(取消訴訟)においては不当労働行為の主張は許されな
いとするのが現行法制の趣旨とするところといえる。したがつて、処分自体の違法
事由に対する救済手続として認められている処分の取消しの訴えにおいては不当労
働行為を違法事由として主張することは許されない。
 それ故、懲戒処分の取消しを求める本件訴訟において不当労働行為を違法事由と
する原告らの主張は、主張自体理由がないといわざるをえない。
(二) 認否
 四の冒頭は争う。
 (一)は認める。
 (二)のうち、本件各懲戒処分当時、原告らがいずれも全逓の組合員であり、原
告P1は支部長の、原告P2、同P3はいずれも支部執行委員の各役職にあつたこ
とは認めるが、その余は知らない。
 (三)について
 1の(1)(2)は知らない。
 (3)については、昭和三五年一月二九日局長と支部との間に話合いがもたれた
ことはあるが、原告ら主張のような勤務時間についての団体交渉が行なわれたこと
はない。
 (4)ないし(10)は知らない。
 (11)は認める。
 (12)については、六月三〇日、局長と支部との間に、原告ら主張のような組
合側の要望事項について話合いがもたれたことはあるが、団体交渉が行なわれたこ
とはない。
 (13)は認める。
 (14)は知らない。
 (15)については、八月一日、三階会議室の一部を事務室に使用するという当
局側の方針に反して、支部から局長に対して異議を述べてきたことがあるが、団体
交渉が行なわれたことはない。
 (16)は知らない。
 (17)については、九月一六日、局長と支部との間に、定員問題、作業方法等
の管理運営事項に関する組合側の要望について話合いがもたれたことはあるが、原
告ら主張のような団体交渉が行なわれたことはない。
 (18)は認める。
 (19)は知らない。
 (20)については、一〇月七日非常勤者の本採用等二〇項目におよぶ職場要求
について支部から局長に要望がなされたことはあるが、団体交渉が行なわれたこと
はない。
 (21)については、一〇月一一日局長と支部との間に非常勤者の本採用、速達
配達要員の増員等の組合側の要望について話合いがもたれたことはあるが、団体交
渉が行なわれたことはない。
 (22)については、一〇月一三日から一五日まで局長と支部との間に前記二〇
項目の職場要求について話合いがもたれたことはあるが、団体交渉が行なわれたこ
とはない。
 (23)については、一〇月二四日と二五日の両日、局長と支部との間に前記二
〇項目の職場要求について話合いがもたれた際に、郵便集用配自動車一台を増備す
るという局側の設備計画に対する組合側の反対意見が表明され、これについても話
合いがもたれたことはあるが、団体交渉を行なつたことはない。
 (24)については、一〇月二九日局長と支部との間に時間外労働協定について
団体交渉が行なわれた際に、増員問題等の組合側の要望について話合いがもたれた
ことは認める。
 (25)については、一一月一五日、局長と支部との間に前記二〇項目の職場要
求とともに年末年始繁忙対策計画に対する組合側の要望について話合いがもたれた
ことはあるが、団体交渉が行なわれたことはない。
 (26)については、一一月二一日局長と支部との間に前記二〇項目の職場要求
とともに集配の増員問題等の組合側の要望について話合いがもたれたことはある
が、団体交渉が行なわれたことはない。
 (27)については、一一月二九日局長と支部との間に年末年始繁忙対策計画等
に対する組合側の要望について話合いがもたれたことはあるが、団体交渉が行なわ
れたことはない。
 2は不知。
 (四)、(五)は争う。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 本訴の適否
(一) 当事者の地位と本件各懲戒処分の存在
 請求の原因(一)(ただし、原告P3の勤務の始期を除く。)、(二)は当事者
間に争いがない。
(二) 訴願経由の問題
1 人事院に対する不服申立て手続の不経由
 本訴は、昭和三七年法律第一三九号によつて廃止された行政事件訴訟特例法(昭
和二三年法律第八一号)のもとで提起されたものであるから、同法第二条の適用が
ある。
 そうすると、原告らは、(一)においてみたように郵便事業等を行なう国の企業
(公共企業体等労働関係法((以下公労法という。))第二条第一項二イ参照)に
勤務する一般職の国家公務員であるから、その勤務関係については公労法、国家公
務員法(以下国公法という。)の適用を受け(以下この二法律の適用を受ける一般
職の国家公務員を現業国家公務員という。)免職等の懲戒処分については、少なく
とも国公法第八二条所定の事実(以下処分事由という。)の不存在ないし処分の程
度を決するについての裁量権の逸脱を理由とする限り、昭和三七年法律第一六一号
により改正される前の国公法第九〇条から第九二条に定める人事院に対する不服申
立て手続を経た後でなければ、その取消しを求める訴えを提起することが許されな
い。
 しかるに、本件各懲戒処分について右手続を経ていないことは当事者間に争いが
ない。
2 公共企業体等労働委員会(以下公労委という。)に対する不当労働行為の救済
申立ては訴願前置の要件を充たしたことになるか。
 原告らは、本件各懲戒処分につき公労委に対し不当労働行為の救済申立てをした
から訴願前置の要件を充たしていると主張しているが、本件各懲戒処分は原告らに
国公法第八二条に該当する行為があり、これに対しては免職等をもつて臨むことが
相当であるとしてなされたものである(この事実は前記のように当事者間に争いが
ない。)ところ、このような理由によりなされた懲戒処分につき、右各処分要件を
具備しているかどうかを訴願庁として審査する権限を有する行政庁は人事院のみで
あつて、公労委が右の点について何らの権限も有しないことは、国公法および公労
法の規定上明らかであるから、原告らが公労委に対し不当労働行為の救済申立てを
したとしても、本件各懲戒処分について処分事由の不存在ないし裁量権の逸脱を違
法事由として右各懲戒処分の取消しを求める限り、これは訴願前置を経た適法な訴
えの提起ということはできない。
(三) 本件各懲戒処分が不当労働行為に該当するということを取消訴訟において
主張することが許されるか。
 原告らは、本訴において、本件各懲戒処分が不当労働行為に該当することをも違
法事由の一つとして主張しているので、このような違法事由を本訴において主張す
ることが許されるかどうかについて検討する。
1 現業国家公務員に対する懲戒免職等の不利益処分の効力を不当労働行為に該当
するとして直接裁判上争う途はあるか。
(1) 原告らのような現業国家公務員が、国公法による懲戒処分を受けた場合、
公労委に対し右懲戒処分が不当労働行為に該当するとして救済申立てをし、もし却
下ないし棄却されたときは公労委の右命令に対し取消訴訟を提起できることは多言
を要しない。
 けれども、この制度の趣旨は、公共企業体等による不当労働行為の存在が認めら
れる場合、公労委の行政処分をもつて当該不当労働行為がなかつたと同じ状態を事
実上回復することに尽きるのであつて、不当労働行為に該当する公共企業体等の行
為の法的効力を審査することにあるのではない。
(2) そこで、不当労働行為に該当する公共企業体等の行為の法的効力の有無に
つき考えると、憲法第二八条、労働組合法第七条の趣旨に照らし、現業国家公務員
に対する懲戒免職等の不利益処分は、それが不当労働行為に該当するときは、直接
に、あるいは公序原則ないし権利濫用の法理を媒介として間接にその効力を生じな
いことあるものと解すべきである(なお、昭和四三年四月九日最高裁判所第三小法
廷判決参照)。
 そうであるとすれば、憲法第三二条に照らし考えても、懲戒免職等の不利益処分
を受けた現業国家公務員には、右懲戒免職等の不利益処分が不当労働行為に該当す
ると主張する場合、公労委に対する不当労働行為救済申立てのほか、直接裁判所に
対してその適否ないし効力を争う途があると考えなければならない。
2 現業国家公務員に対する懲戒免職等の不利益処分の効力を直接裁判上争う場合
の訴訟形式
(1) 現業国家公務員の勤務関係の性質
 まず現業国家公務員の勤務関係については、企業内での上司の職務命令権(国公
法第九八条第一項)、懲戒権(同法第八二条)に裏打ちされた包括的な支配服従の
関係に着目してこれをいわゆる特別権力関係として把える考え方があることは周知
のとおりである。
 しかしながら、私企業においても、労働者は企業内で使用者に包括的に与えられ
た指揮命令権に服して労働に従事しなければならず(民法第六二三条)使用者の懲
戒に服するのであつて、そこでも包括的な支配服従の関係は存在する。
 そうすると、右のような企業内での支配服従の関係は、現業国家公務員の勤務関
係に特有のものではなく、私企業においてもみられるものであるといわなければな
らない。
 それ故、現業国家公務員の勤務関係にみられる支配服従の関係は、現業国家公務
員が本質的には私企業の労働者と同じく対等な相手方である使用者との合意に基づ
きいわゆる従属労働に従事するに至つた者であることに由来するとみるべきであつ
て、現業国家公務員の勤務関係を私企業の労働者のそれと異なつて特別権力関係と
して把えなければならない合理的な理由はない。
 したがつて、現業国家公務員の勤務関係は、公務員が国民「全体の奉仕者」とし
て勤務することを要請されている(憲法第一五条第二項、国公法第九六条第一項、
第八二条第三号)ところから、その勤務条件について国公法等法令の規律を受ける
点に特徴があるとはいえ、本質においては私企業のそれと同質の労働契約関係に基
づくものと理解して差支えない。
 もともと郵便事業等公労法第二条第一項二イ所定の事業は、国民に対し公権力を
行使するものでなく、郵便等の経済的役務を提供すること等を目的とするものであ
つて、諸般の事情により国がこれを経営している(郵便法第二条等参照)にすぎな
いから、ここに勤務する現業国家公務員は、公権力の行使と何ら関係のない経済活
動に従事することを職務内容としているというべく、公権力の行使と関係のない点
で同じく公労法の適用を受ける三公社(日本国有鉄道、日本電信電話公社、日本専
売公社)の職員との間に差異がない。しかも、三公社の職員の勤務関係は、私企業
のそれと同質の労働契約関係に基づくものと一般に解されているのである。
 さらに、実定法上も、現業国家公務員については、国公法の規定中、一般職の国
家公務員につき労働組合法等の適用除外を規定した附則第一六条等若干の規定の適
用が排除され(公労法第四〇条第一項)、給与その他の労働条件についてもこれを
団体交渉の対象とし労働協約を締結することができる(同法第八条)ものとされて
いるのであるから、私企業における労働契約関係との同質性が認められているとみ
ることができる。
(2) 現業国家公務員の懲戒免職等の不利益処分を争う訴訟形式と実定法の規定
(イ) このようにみてくると、現業国家公務員に対する不利益処分、例えば本件
のような懲戒免職や停職も、身分保障のある国家公務員に対するものであることか
らこれについての要件、手続、効果等が法令によつて規律されているという点を除
けば、私企業の労働者に対する懲戒解雇等の処分と本質的に異なるものではないと
解されるから、その効力を裁判上争わせる訴訟形式は、とくに抗告訴訟によらしめ
る趣旨の実定法の規定がない限り、対等な当事者間の本来的な訴訟形式である公法
上の当事者訴訟であると解するのが相当である。
 さて、対等な当事者間の訴訟形式として民事訴訟と公法上の当事者訴訟とがある
のに後者によるべきであるとの理由を示すことは、本訴の適否についての判断を左
右するものではないが、念のため付言する。その紛争について公法上の当事者訴訟
によらしめるべき法律関係と民事訴訟によらしめるべき法律関係を区別する基準を
どこに求めるべきかはきわめて困難な問題であるが、右両訴訟形式の差異に照ら
し、当該法律関係が行政事件訴訟特例法の定める職権証拠調べとか職権による訴訟
参加、関係行政庁に対する判決の拘束力等-なお、現行行政事件訴訟法は公法上の
当事者訴訟につき同法第二三条、第二四条、第三三条第一項、第三五条を準用して
いる-を認めて審理するのが相当か否かを基準とし、前者を公法上の当事者訴訟に
よらしめるべきものとし後者を民事訴訟によらしめるべきものと考えるのが相当で
ある。そうすると、現業国家公務員の懲戒免職等は、先に述べた公務員法規等、強
行法規たる行為規範である公法規範の運用に関するものであるから、その効力の審
査は右公法規範の運用すなわち行政の法適合性の審査を意味し、単なる被免職者等
の個人的利益に関するのみならず公益に関するものというべきであつて、公法上の
当事者訴訟によらしめるのが相当である。
(ロ) ところが、行政事件訴訟特例法第二条は行政処分の取消訴訟の提起につき
訴願前置を要求していたところこれに対応して昭和三七年法律第一六一号による改
正前の国公法第九〇条ないし第九二条は同法の適用を受ける職員に対する懲戒免職
等の不利益処分について審査の手続を定めていること、その後国公法には昭和三七
年法律第一四〇号により「第八十九条第一項に規定する処分であつて人事院に対し
て審査請求又は異議申立てをすることができるものの取消しの訴えは、審査請求又
は異議申立てに対する人事院の裁決又は決定を経た後でなければ、提起することが
できない。」と定めた第九二条の二が追加されたが、これは、行政事件訴訟法が、
同法附則第二条によつて廃止された行政事件訴訟特例法のとつていた訴願前置の原
則(同法第二条)を採用しなかつたことに伴ない、行政事件訴訟法第八条第一項但
書に対応して設けられたものに過ぎず、国家公務員の懲戒免職等の不利益処分につ
いての不服申立てに関し従前とその取扱いを異にする趣旨で設けられたものではな
いことを考えると、行政事件訴訟特例法のもとでも前述の同法第二条の規定と国公
法第九〇条ないし第九二条の規定とがあいまつて、国家公務員に対する懲戒免職等
の不利益処分は処分事由の不存在ないし裁量権の逸脱を違法事由とする限りこれを
「処分」として抗告訴訟の形式によつて争わせようとしていたものと解するのが相
当である。
 したがつて、現業国家公務員に対する懲戒免職等の不利益処分も、処分事由の不
存在ないし裁量権の逸脱を攻撃する場合は、これを「処分」として抗告訴訟によつ
て争うべきものと考えなければならない。
(ハ) しかしながら、現業国家公務員に対して適用される公労法第四〇条第三項
(昭和三七年法律第一六一号による改正前のもの)は、「国家公務員法第九〇条か
ら第九二条までの規定は第二条第一項第二号の職員に係る処分であつて労働組合法
第七条各号に該当するものについては適用しない。」と規定している(この規定の
趣旨は現行公労法第四〇条第三項にも受けつがれている。)。すなわち、右規定
は、不当労働行為該当を理由として懲戒免職等の効力を争う場合について、人事院
の不利益処分審査制度の適用を除外したのであるが、このことはこの場合抗告訴訟
の形式によらしめないことを明らかにしたものと解されるのである。
(ニ) そうであるとすれば、現業国家公務員に対する懲戒免職等の不利益処分の
効力を争う訴訟形式は、処分事由の不存在ないし裁量権の逸脱を不服の理由とする
場合と、不当労働行為該当を理由とする場合とでは異なり、後者の場合は、公法上
の当事者訴訟の形式によるべく、抗告訴訟の形式によることは許されないものとい
わなければならない。
 したがつて、実体法的には単一の懲戒免職等について、訴訟手続の上では、処分
事由の不存在ないし裁量権の逸脱を理由として取消しを求める請求が棄却されて
も、懲戒免職等が不当労働行為に該当するとしてその無効なることを前提とする現
業国家公務員たる地位確認等の請求が認容される余地があるし、また懲戒免職等が
不当労働行為に該当することが認められず地位確認等の請求が棄却されても、処分
事由の不存在ないし裁量権の逸脱を理由とする懲戒免職等の取消請求が認容され●
及的に取消しの効果が生ずることが可能である。
(3) 法技術的概念としての「処分」
 なお、右のように解すると、実体法的には単一の懲戒免職等の不利益処分につい
て、処分事由の不存在ないし裁量権の逸脱を理由として争う場合は抗告訴訟の対象
となる「処分」性を認め、不当労働行為該当を理由として争う場合は「処分」性を
認めないことになるが、このことは理論的にみても充分に承認されうるところであ
る。
 すなわち、行政庁のある行為に「処分」性が認められるかどうかは立法政策によ
つてきまるのであつて、「処分」性は超法規的に行為自体に内在するものではな
い。
 それ故、法律関係を実体的見地から「上下服従の関係」と「対等当事者間の関
係」とに分け、前者に特有の法形式が「処分」で後者に特有の法形式が「契約」で
あり両者は併存しえないという考え方は誤りであり、本来は対等当事者間の法律関
係中の一個の行為に専ら法技術的な見地からある場合には「処分」性を認め、他の
場合には「処分」性を否定することも可能というべきである(ちなみに、フランス
の判例、学説にみられる契約から分離し得る行為を越権訴訟の対象としようとする
いわゆる「分離し得る行為の理論」(theorie des actes de
tachables)や西ドイツの判例、学説にみられる行政庁が私法形式で行政
を行なう場合債権債務関係の成立に先行する行政行為を見い出しこれを取消訴訟の
対象とするいわゆる「二段階説」(Zweis tufen the―orie)
は、「処分」が専ら法技術的な見地から構成されうる概念であることを端的に示し
ている。)。
(4) 不当労働行為該当を理由としても抗告訴訟の形式で懲戒免職等の不利益処
分の取消しを求めうるとする見解をとる場合に生ずる難点
 すでに述べた当裁判所の見解と異なり、現業国家公務員は不当労働行為該当を理
由とする場合も抗告訴訟の形式で懲戒免職等の不利益処分の取消しを求めうるとす
る見解をとるときは、次のようないくつかの理論上あるいは事実上の困難に●着す
ることが予想される。
すなわち、(イ)(ⅰ)行政処分取消訴訟の訴訟物は原則として処分の適否、すな
わち当該処分の違法性一般の存否の主張であり、違法事由ごとに訴訟物を異にする
ものではない。それ故、この原則にしたがい本件のような処分事由の不存在又は裁
量権の逸脱の主張と不当労働行為該当の主張とは一個の訴訟物の中の違法事由に過
ぎないと考えると、処分事由の不存在ないし裁量権の逸脱については原則として人
事院の審査の手続を経由しない限りこれを理由とする取消しの訴えの提起が許され
ないから、被処分者がこのような審査手続経由を要しない不当労働行為該当を理由
として処分の取消しを求める訴えをまず提起した場合には、その後右審査手続を経
由した処分事由の不存在ないし裁量権の逸脱を違法事由として追加主張するには、
この取消訴訟においてでなければならない。もし右取消訴訟が第一審に係属中であ
れば、右追加主張は可能であろうが、控訴審に係属中であれば右追加主張が可能で
あるとしても審級の利益を奪うことになり、控訴審の口頭弁論終結後は右追加主張
は不可能である。そこで、このような場合、被処分者としては、あらためて処分事
由不存在ないし裁量権の逸脱を理由として取消しの訴えを提起せざるをえないわけ
であるが、不当労働行為該当を理由とする取消訴訟が控訴審又は上告審に係属中は
二重起訴の禁止にふれるし、さらに右訴訟において取消請求がすでに棄却されその
判決が確定しているような場合には既判力による●断をうけることになるであろ
う。右のような結果を避けようとして、まず処分事由の不存在ないし裁量権の逸脱
につき審査手続を経由してから取消訴訟を提起し、この訴訟のなかで処分事由不存
在ないし裁量権の逸脱と不当労働行為該当とを主張しようとするときは、不当労働
行為該当についての裁判所の判断を早期にうることが困難となる。このようなこと
は、労使紛争とくに不当労働行為事件の早期解決を所期する法律の精神に抵触する
といわざるを得ない(公労法第二五条の五第四項、第二項、労働組合法第二七条第
二項、第六項参照)。さかのぼれば、そもそもこのような結果を招来するような解
釈は問題である。
(ⅱ) さらに、行政庁の判断の事後審査訴訟たる処分取消訴訟における「処分」
の違法性の判断の基準時は「処分時」であるが、審査手続を経由し裁決によつて維
持された原処分は裁決と一体をなすものとみられるべきものであるからこのような
裁決によつて維持された原処分の違法性の判断の基準時たる「処分時」とは原則と
して裁決の時と解するのが正しいと考えられるところ、公労法第四〇条第三項のも
とでは、処分事由の不存在ないし裁量権の逸脱については原処分を維持した裁決の
時が判断の基準時となるのが原則であるのに、不当労働行為該当の有無については
原処分の時が判断の基準時となつて、違法性の判断の基準時を異にすることになる
が、このように同一の訴訟物の中で違法事由によつて違法性判断の基準時を異にす
る結果を招来するような解釈は問題である。
(ⅲ) このようにみてくると、前述の公労法第四〇条第三項に照らし考えても、
右二つの不服の事由は、人事院の不利益処分審査制度の適用の有無に差異があるの
みならず、裁判上も異なる審理手続に服すべきものとされているとみるのが正当な
のである。
(ロ) これに反し、公労法第四〇条第三項の規定に鑑み、処分事由の不存在ない
し裁量権の逸脱を理由とする場合と不当労働行為該当を理由とする場合とでは手続
法的観点から訴訟物を異にすると考えるときは、右に述べたような難点は避けられ
るのである。ところで、この見地をとるとき、本訴のような場合には、処分事由の
不存在ないし裁量権の逸脱を理由とする取消しの訴えと不当労働行為該当を理由と
する取消しの訴えが併合されているとみることができ、前者が不適法でも後者すな
わち不当労働行為該当を理由として取消しを求める部分の適法性の有無を検討する
余地がでてくる。
 しかしながら、前に述べた((三)2(2))ように、不当労働行為該当を理由
として不利益処分を争う場合に抗告訴訟の形式によるべきものとすることは実定法
上の根拠を見い出し難いのみならず、もしこのような場合にも「処分」性ありとす
れば、私企業の労働者は、懲戒解雇等の不利益措置が不当労働行為に該当するとき
直接に、又は公序原則ないし権利濫用の法理を媒介として間接に、それが無効であ
る旨の判断を得られるのに、現業国家公務員は、懲戒免職等の不利益処分が不当労
働行為に該当しても出訴期間の制限ある取消訴訟を提起せざるをえないことになる
か、あるいは地位確認訴訟等においてその無効を主張しようとしても「重大かつ明
白なかし」にあたることを主張立証しない限りこれが無効とされないという結果を
招くところ、このような差異を是認すべき合理的な根拠はないといわなければなら
ない。
(ハ) このように、不当労働行為該当を理由とするときも、取消訴訟で争うこと
ができるとすることには種々の難点があるのである。
3 結論
 そうであるとすれば、懲戒免職等の不利益処分に対する抗告訴訟においてこれが
不当労働行為に該当すると主張することは許されないというほかないから、原告ら
が本件各懲戒処分が不当労働行為に該当するとしてこれを違法と主張していること
も本訴を適法ならしめるものではない。
二 むすび
 よつて、原告らの本件各訴えは不適法であるから、その余の点について判断する
までもなく、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九
条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 沖野威 小笠原昭夫 石井健吾)

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