弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人志貴三示の控訴趣意は別紙記載の通りであつて、之に対し当裁判所は次の
通り判断する。
 控訴趣意の第三点について
 原審公判調書に依れば立会の検察官事務取扱検察事務官は所謂冐頭陳述を為すこ
となく直ちに証拠の取調べを求めたのに、訴訟関係人に於て何等の異議もなく、そ
の請求に係る証拠の取調の決定があつて、取調が施行されたものであることは明ら
かである。故に刑事訴訟法第二百九十六条本文に違反して訴訟手続が進められたも
<要旨第一>のであることは所論の通りである。然しながら検察官の所謂冐頭陳述が
必要とされる所以は、新刑事訴訟法では裁判官は事件の詳細に通じない
で法廷に臨むものであるから、先づ以て証拠調の冐頭に於て検察官より立証方針を
明かにすることが爾後の手続の進行上必要とされたからである。従つて所謂冐頭陳
述を為すことなくして即ち刑事訴訟法第二百九十六条本文の規定に違反して検察官
が直ちに証拠の取調を求めたとしても、手続の進行上何等の支障なく、且つ被告人
の防禦にも何等の影響のない場合には、その手続違背は判決に影響を及ぼさないも
のといわねばならない。今本件に於ては公訴事実は何れも窃盗として事案が複雑で
なく而も公訴事実につき被告人は何等争わないのであつて、検察官が所謂冐頭陳述
なくして直ちに証拠の取調べを請求したのに対し訴訟関係人に於て何等の異議もな
く訴訟手続が進められているし又爾後の手続進行の経過から見て検察官の冐頭陳述
がないけれどもその為めに手続進行上何等がの支障があつたとは認められない。而
も右冐頭陳述のなかつた為めに被告人の防禦に不利益を来したと認められる廉は毫
末もないのであるから、検察官の冐頭陳述のなかつたという訴訟手続上の違背は本
件判決に影響を及ぼすものでないといわねばならない。
 次に原審公判調書の記載に依れば原審公判立会検察官事務取扱検察事務官は最初
の証拠調請求に当り被告人の自由を内容とする司法警察官作成の被告人の第一、二
回供述調書につき、他の証と共に同時にその取調を請求して居り、之に対し被告人
は証拠とすることに同意し且つ証拠調請求に異議はないと述べている。そこで右の
如き証拠調の請求方法が刑事訴訟法第三百一条に達反するものであることは所論の
通りであるが、元来本条は、何等の証拠の取調べもないのに、真先に被告人の自白
を内容とする供述を取調べることにより、裁判官を<要旨第二>して予断を抱かしめ
ることのないようにとの顧慮に出ずるものと解する。本件にあつては、検察官事務
取扱はA作成名義の盗難届謄本外五通の盗難届謄本に続いて検察事務官
作成のBの供述調書、次に司法警察員作成の被告人の第一、二回供述調書を順次掲
げて之等の書証の取調べを請求し、その順序に右書証の取調べがなされた事は第二
回公判調書中の記載(記録第二十四丁)と本件記録中右各書証の編綴順序により容
易に之を覗うことが出来る。故に右被告人の供述調書の取調は即ち他の証拠(前記
盗難届謄本五通、Bの供述調書一通)が取調べられた後に行われたものであると認
められるから結局刑事訴訟法第三百一条の目的とするところは害せられなかつたも
のというべく右の訴訟手続法の違背は之亦本件判決に影響を及ぼさないものといわ
ねばならない。
 尚お原審公判調書には検察官より請求に係る各証拠を取調べた後並に弁護人より
請求に係る各証拠を取調べた後夫々裁判官は訴訟関係人に対し「反証の取調の請求
等により証拠の証明力を争うことが出来る旨を告げた」との記載があり、又第三回
公判調書を精査するも弁護人が公判期日の続行を求めた旨の記載がない。故に原審
訴訟手続には刑事訴訟法第三百八条刑事訴訟規則第二百四条に違反した廉はなく、
又原審が被告人の立証を押付けて結審したという非難は全然当を得ない。
 第三点を除くその余の控訴趣意について。
 所論は要するに原審が被告人を懲役二年に処したのは量刑が不当であるというに
帰する。然しながら本件訴訟記録に現われた諸般の事情を斟酌するに原判決の犯罪
事実につき被告人に科した原審の刑は決して重過ぎるとは考えられない。論旨は理
由がない。
 以上本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条に則り主文の通り判決
する。
 (裁判長裁判官 杉浦重次 裁判官 若山資雄 裁判官 石塚誠一)

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