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◆H..京都地方裁判所平成16年(行ウ)第40号地労委任命処分取18620
消等請求事件
事件番号:平成16年(行ウ)第40号
事件名:地労委任命処分取消等請求事件
H18620裁判年月日:..
部:第3民事部
結果:一部却下,一部棄却
登載年月日:
判示事項:原告らが,京都府地方労働委員会第39期労働者委員の任命処分が違
法であるとして,京都府知事に対し任命処分の取消しを,京都府に対
し損害賠償を,それぞれ求めたところ,任命処分の取消しに係る訴え
は却下され,損害賠償の請求は棄却された事例
主文
1原告らの被告京都府知事がした京都府地方労働委員会第39期労働者委
員の各任命処分の取消しを求める訴えをいずれも却下する。
2原告らの被告京都府に対する請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
「」1被告京都府知事が平成16年6月25日付けでした別紙1労働者委員名簿
記載の5人に対する京都府地方労働委員会第39期労働者委員の各任命処分を
取り消す。
2被告京都府は,原告A及び原告Bに対し,各500万円及びこれに対する平
成16年10月6日から,原告Cに対し,715万6000円及びうち100
万円に対する同日から,うち615万6000円に対する平成17年3月29
日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
,,(「」。),1本件は原告らが被告京都府知事以下被告知事というにおいて
京都府地方労働委員会(以下「京都府地労委」といい,地方労働委員会を「地
労委」という)第39期労働者委員(定数5人)について,原告Aに加盟す。
る原告Bが推薦した原告Cを任命せずDの加盟労働組合が推薦した別紙1労,「
働者委員名簿記載の5人を任命した平成16年6月25日付け処分以下本」(「
件任命処分」という)には,裁量権を逸脱又は濫用した違法がある旨主張し。
て被告知事に対し本件任命処分の取消しを求めるとともに被告京都府以,,,(
下「被告府」という)に対し,被告知事の上記の違法な公権力の行使によっ。
て原告らが社会的信用や名誉を毀損されたなどと主張して,国家賠償法1条1
項に基づき,損害賠償及び訴状ないし請求の趣旨拡張申立書の送達の日の翌日
からの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事件である。
2基礎となる事実(争いのない事実並びに括弧内に掲記した書証及び弁論の全
趣旨によって認められる事実)
()当事者等1
,(「」。)ア原告Aは昭和25年に日本労働組合総評議会以下総評という
が結成されたのを受けて,昭和26年5月27日,京都府内の労働組合を
もって結成され,平成元年から,全国労働組合総連合(以下「全労連」と
いう)に加盟する地方組織(以下「ローカルセンター」という)であ。。
る。
原告Bは,原告Aに加盟する労働組合である。
原告Cは,平成16年6月25日当時,原告Aの事務局長及び原告Bの
特別執行委員の職にあった者であり,京都府地労委斡旋員候補者及び京都
労働者福祉協議会副会長の立場にもあった。
イDは,平成元年に結成された日本労働組合総連合会(以下「連合」とい
う)の京都府におけるローカルセンターである。。
ウ被告知事は,労働組合法(以下「労組法」という。なお,以下,特に断
らない限り,平成16年第140号による改正前のものをいう)19条。
の12第3項に基づき,京都府地労委の労働者委員を任命する権限を有し
ている。
()京都府内の労働運動の状況2
労働運動は,戦後間もない時期に,路線や運動方針をめぐる対立により,
複数の潮流に別れた。そして,各潮流ごとに,中央組織の下に全国の加盟労
,,,,働組合が組織化され系統化が図られてきたが平成元年総評等が解散し
連合が結成される一方,全労連が結成されたことにより,上記の潮流及び系
統は,連合対非連合という形で再編成された(甲13,甲69。)
京都府内においても,平成元年,Dが結成されたが,原告Aは,連合には
加盟せず,全労連に加盟する旨決議し,以後,京都府内の労働組合の加盟す
(,)。るローカルセンターはDと原告Aとに大きく分かれている甲14甲69
平成15年6月30日当時の組合員数は,Dが約10万人であるのに対し,
原告Aは約7万人であった。
()本件任命処分に至る経緯等3
ア被告知事は,京都府地労委第38期労働者委員5人の任期満了に伴い,
平成16年2月10日付け京都府公報第1533号をもって,京都府地労
委第39期労働者委員の定数5人(労組法施行令25条の2別表第3)の
候補者について,推薦期間を同日から同年3月12日までとし,京都府の
区域内のみに組織を有し,労組法2条及び同法5条2項に適合する労働組
合から推薦を求める旨の公告を行った(乙1。)
,(),,イ原告Bは原告Aの推薦決定を得て甲45平成16年3月12日
京都府府民労働部労政課に対し,原告Cを労働者委員候補者とする推薦書
を提出した。
,。前記推薦期間内に労働組合から推薦された候補者の数は7人であった
ウ被告知事は,平成16年6月25日,別紙1「労働者委員名簿」記載の
5人を京都府地労委第39期労働者委員に任命する旨の処分(本件任命処
分)を行い,原告Cを任命しなかった。
任命された上記5人は,いずれもDの加盟労働組合から推薦された者で
あり,Dあるいはその加盟労働組合の役員であった。
()京都府地労委労働者委員の従前の任命状況4
京都府地労委において,第31期労働者委員までは,複数のローカルセン
ターから労働者委員が任命されていたが,平成元年,第32期労働者委員全
員が,Dの加盟労働組合が推薦した候補者の中から任命された。そこで,原
告Aらは,京都地方裁判所に対し,平成元年12月20日,上記任命処分の
取消し及び損害賠償を求める訴え(平成元年(行ウ)第20号)を提起した
が,平成4年4月16日,これを取り下げた。
第33期から第38期までの労働者委員も,全員,Dの加盟労働組合が推
薦した候補者の中から任命されている。
第3争点及びこれについての当事者の主張
1本件における争点は,以下のとおりである。
()被告知事に対し本件任命処分の取消しを求める訴え(以下「本件任命処1
分取消しの訴え」という)について。
ア本案前の争点
,(,「」。)。原告らは原告適格を有するか否か以下この点を争点1という
イ本案の争点
,(,「」。)。本件任命処分は違法であるか否か以下この点を争点2という
()被告府に対し損害賠償を求める訴え(以下「本件損害賠償の訴え」とい2
う)。
ア本案前の争点
本件損害賠償の訴えは独立の訴えとしての要件を欠き違法か否か以,,(
下,この点を「争点3」という。。)
イ本案の争点
(ア)本件任命処分は,違法であるか否か(争点2。)
(,「」。)(イ)原告らの被侵害利益ないし損害以下この点を争点4という
2争点1(原告らの原告適格)について
(被告知事の主張)
()行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)9条1項は,処分の取消し1。
,,の訴えは当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り
提起することができる旨定めるところ,同項の法律上の利益とは,特定個人
の権利又は法律上保護された利益を意味するのであって,単なる公益はこれ
には含まれない。
労組法19条1項は,労働委員会は使用者委員,労働者委員及び公益委員
の各同数をもって組織する旨,同法19条の12第3項は,地労委の労働者
委員は労働組合の推薦に基づいて都道府県知事(以下「知事」という)が。
任命する旨,同法施行令21条1項は,地労委の労働者委員を任命しようと
するときは,当該都道府県の区域内のみに組織を有する労働組合に対して候
補者の推薦を求め,その推薦があった者のうちから任命する旨,それぞれ定
めている。
これらの規定に照らすと,労組法は,労働組合の推薦した候補者の中から
労働者委員を任命することを知事に義務付けているものの,特定の労働組合
が推薦した候補者の中から労働者委員を任命することを義務付けているわけ
でも,被推薦者が必ず労働者委員に任命されることを保障しているわけでも
ない。上記各規定が所期しているのは,特定の労働組合及び被推薦者の個別
,,,具体的利益を保護することではなく地労委が労働者一般の利益を踏まえ
その権限を公平適正に行使することにあるというべきである。
このような労働者委員候補者の推薦制度(以下「推薦制度」という)の。
趣旨に照らすと,労働組合の推薦の権限なるものは,特定の労働組合の利益
のために認められたものではなく,労働者一般の利益という公益の保護を目
的として認められたものというべきである。
したがって,特定の労働組合が推薦した候補者が労働者委員に任命されな
かったからといって,当該労働組合,その加盟するローカルセンター及び被
推薦者の権利又は法律上保護された利益が侵害されたということはできな
い。
()行訴法9条2項所定の事項を考慮しても,労組法19条の12第3項及2
び同法施行令21条1項が,労働者一般の利益を保護することを超えて,労
働者委員候補者を推薦した労働組合(以下「推薦組合」という,その加。)
盟するローカルセンター及び被推薦者の個別具体的利益を保護しているもの
と解することはできない。
()以上によれば,原告らは,いずれも本件任命処分について法律上の利益3
を有する者には該当せず,原告適格を有しないから,本件任命処分取消しの
訴えは,不適法である。
(原告らの主張)
行訴法9条2項は,処分の取消しの訴えにおいて,処分の相手方以外の者の
原告適格について実質的拡大を図るため,その全体的解釈指針及び必要的考慮
事項を新設したものである。
すなわち,同項によれば,処分の相手方以外の者について法律上の利益の有
無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによ
ることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき
利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を
考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはそ
,,の趣旨及び目的をも参酌し当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては
当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利
益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものであ
る。
同項に基づいて解釈すると,原告らは,以下のとおり,原告適格を有すると
いうべきである。
()全体的解釈指針1
本件任命処分取消しの訴えにおいては,労組法19条の12第3項だけで
なく,憲法28条が勤労者の団結権を保障した趣旨及び目的,労組法が不当
労働行為救済制度を設けた趣旨及び目的,地労委が果たしている役割及び機
能,地労委における労働者委員の権限及び役割等も含めて,原告らの法律上
の利益の有無について判断しなければならない。
()当該処分の根拠となる法令の趣旨及び目的並びに当該法令と目的を共通2
にする関係法令の趣旨及び目的
ア労組法は憲法28条が保障する勤労者の団結権を具体化するため労,,「
働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することによ
り労働者の地位を向上させること「労働者がその労働条件について交」,
渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自
主的に労働組合を組織し,団結することを擁護すること」等を目的とする
ものであり(1条,不当労働行為を禁止し(7条,不当労働行為等の))
救済等の機関として,使用者委員,労働者委員及び公益委員をもって組織
される労働委員会を設けている(19条。)
労組法19条の12第3項及び同法施行令21条1項は,地労委の労働
者委員については,労働組合の推薦があった候補者のうちから知事が任命
する旨定めている。そして,労組法は,地労委の労働者委員の資格につい
て,上記の労働組合の推薦以外には,一定の欠格条項(19条の12第4
,)(,)項19条の4及び失職・罷免要件19条の12第4項19条の7
のほか,特段の規定を設けていない。
このような労組法の規定に照らすと,労働者委員候補者として推薦され
た者は,労働組合から推薦があったという事実をもって「労働者を代表,
する者」という労働者委員としての資格を有するとみなされるというべき
。,,,であるすなわち労働組合の推薦は形式的・手続的要件にとどまらず
,,労働者委員の資格を認証する実体的な利益を伴うものであり労働組合は
推薦により,自らの価値判断に基づく労働者委員を選別するという利益を
有するというべきである。
したがって,推薦制度は,労働組合に労働者委員候補者の推薦権を認め
たものであり,その趣旨及び目的は,単に抽象的な労働者一般の利益を保
護するものではなく,個々の推薦組合の利益をも保護するものというべき
である。
イ労働運動が,路線や運動方針の違いによって複数の潮流に別れて相互に
対立し,労働者一般の正しい利益についての解釈も激しく争われている現
状にかんがみると,地労委を構成する労働者委員について,その所属系統
が特定の系統に偏することなく,各系統から適正な比率で任命されて初め
て,全体としての労働者委員の構成が労働者を代表していることとなり得
る。
しかも,労組法が制定・施行された当時から,労働運動において複数の
潮流が存在し,労働組合が複数の系統に別れて対立していたことにかんが
みると,推薦制度は,地労委の救済機能を十分に発揮させるため,複数の
潮流・系統の存在という社会的事実を労働者委員の構成に反映させること
を予定していたものと解される。
したがって,特定の系統に所属する労働組合は,労組法上,推薦権を行
使することによって,当該系統に所属する候補者を「労働者の代表」とし
て労働者委員とする可能性が認められているものであり,系統別労働組合
の組合員数の比率を労働者委員の構成に反映させる形で労働者委員の任命
がされるべき権利ないし法律上保護された利益を有するというべきであ
る。
旧労働省が知事に対して発した「地方労働委員会の委員の任命手続につ
いて」と題する労働省事務次官通牒(昭和24年7月29日付労働省発第
54号。以下「54号通牒」という)においても,労働者委員の選考に。
当たっては,系統別労働組合の組合員数に比例させることを明確に指示し
ており,このような系統別労働組合の利益を保護しているものである。
()当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質3
ア任命された労働者委員が地労委の審理及び運営に関与する利益
地労委は,労働組合や労働者の救済のために設けられた制度であり,労
働者委員は,地労委の主要な構成員として,不当労働行為救済申立事件の
審査,判定,和解等の各段階で重要な役割を果たしている。
労働者委員がこのような役割を十分に発揮するためには,労働組合や紛
争の実情に通じ,かつ,申立人との間で信頼関係を形成維持することが不
可欠である。特に,組合間差別事件等においては,申立労働組合の所属す
る系統の労働者委員であるか否かが,審理の帰すうに大きな影響を与える
こととなる。
また,労働者委員には,公益委員の任命に関する同意権(労組法19条
の12第3項,地労委の会議に参加する権限(同法21条)等,地労委)
の運営に関与する権限も認められている。
したがって,推薦組合及び被推薦者は,労働者委員候補者の推薦権を行
使することにより,推薦した候補者が労働者委員に任命され,労働者委員
として労使紛争の解決や地労委の運営に関与することが期待できるという
利益を有している。
イ公正に扱われるべき利益
推薦組合及び被推薦者は,以下のとおり,知事の任命権行使の過程にお
いて,推薦した候補者が公正で差別のない選考手続によって適正な判断を
受ける利益を有している。
(ア)差別的な取扱いをされない利益
知事が労働者委員を任命するに当たり,労働組合による労働者委員候
補者の推薦は,単なる一資料にとどまるものではない。上記候補者は選
考の対象となるものであり,知事の任命権は,労働組合の推薦権に拘束
され,推薦されていない者を任命することはできない。その際,知事が
特定のローカルセンターの加盟労働組合が推薦した候補者を差別的に取
り扱うことは,憲法上許されない。
したがって,推薦組合及び被推薦者は,特定のローカルセンターに加
盟していることをもって,選考の対象から除外されず,他の労働組合か
ら推薦された候補者と差別されることなく,公正な選考手続によって適
正な判断を受ける利益を有する。
(イ)推薦権に内在する公正公平原則
地労委は,判定的機能や調整的機能を有する独立行政委員会であり,
その構成は,公正公平でなければならないから,労働者委員の構成も,
できる限り労働組合の多様性を反映させなければならない。
労組法は,申立人が労働者委員と信頼関係を形成維持することによっ
て労使紛争の解決を図ることを予定しているところ,労働組合は様々な
運動方針を有するから,労働組合の多様性をできる限り労働者委員の構
成に反映することが推薦権に内在して求められている。
また,労組法は,公益委員の構成に多様な政治的意見を公正公平に反
映させるため,公益委員は一定数以上の者が同一政党に所属することと
なってはならない旨定めている(19条の12第4項,19条の3第5
項)が,労働者の利益代表である労働者委員については,一層,その構
成に労働者の多様な意見を公正公平に反映させる必要がある。
なお,平成16年法律第140号による改正後の労組法が,公益委員
の除斥及び忌避の規定(27条の2から27条の5まで)を設けたが,
労働者委員にこれを設けなかったのは,労働者委員については,推薦制
度を通じて,多様な立場が反映され,対立的な利害関係当事者に該当し
ない者が任命されるという信頼が基礎にあるものと解される。
このように,労働組合の推薦権は,労働組合の多様性を労働者委員の
構成に反映させるために認められたものであり,労働組合は,公正公平
原則に基づき労働者委員が任命されることを求める利益を有する。
ウローカルセンターの利益
我が国の労働運動は,系統を異にする労働組合が複数存在して対立して
おり,労働組合による労働者委員候補者の推薦は,当該労働組合を代表す
るだけではなく,当該労働組合の加盟するローカルセンターにおいて推薦
が決定され,ローカルセンター全体の代表として推薦が行われているのが
実情である。
したがって,上記各利益は,推薦組合の加盟するローカルセンター自体
の利益にも当たるというべきである。
()違法な処分がされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並び4
にこれが害される態様及び程度
違法な任命処分により,推薦した候補者が労働者委員に任命されなかった
場合には,推薦組合,その加盟するローカルセンター及び被推薦者は,推薦
した候補者が労働者委員に任命されて地労委の審理及び運営に関与すること
が期待できる利益や,公正に扱われるべき利益が侵害されることとなる。
とりわけ,労働者委員が対立する系統の加盟労働組合が推薦した者によっ
て独占された場合には,推薦組合及びその加盟するローカルセンターの構成
員にとっては,安心・信頼して地労委を利用することができず,団結権の侵
害につながりかねない。また,特に組合間差別等の事案においては,不当労
働行為救済申立ての手段が失われ,使用者や対立する労働組合による組合干
渉を許し,ひいては当該労働組合を弱体化させ,まさに団結権が著しく侵害
される。現に,京都府地労委においては,労働者委員がDの加盟労働組合が
推薦した者に独占されているため,原告Aの加盟労働組合は,労働者委員に
不信感を抱いており,それが救済申立件数の減少の一要因にもなっている。
なお,本件任命処分が取り消された場合には,被告知事は改めて推薦され
た労働者委員候補者の中から任命をしなければならなくなるから,原告Cが
労働者委員という法律上の地位を取得する可能性が生じるのであって(後記
の本件任命処分の違法事由及び原告Aに加盟する労働組合から推薦された者
が原告Cのみであることを考慮すると,その可能性は大きい,このよう。)
な可能性の回復自体が,原告らの原告適格を基礎付けるものといえる。
3争点2(本件任命処分の違法性)について
(原告らの主張)
被告知事による本件任命処分は,以下のとおり,連合のローカルセンターで
,,,あるDを偏重し原告Aを排除するという不平等不公正な意図を有しており
その裁量権を逸脱又は濫用したものであり,違法である。
()法の下の平等(憲法14条)違反1
本件任命処分は,D及びその加盟労働組合と原告A及びその加盟労働組合
とを差別するものであり,法の下の平等(憲法14条)に違反する。
()団結権(憲法28条)侵害2
本件任命処分は,原告A及びその加盟労働組合を弱体化させ,地労委の機
能低下や変質をもたらすものであり,原告らの団結権(憲法28条)を侵害
する。
()ILO87号条約違反3
複数の労働組合が存在する場合に,少数派組合の組合員の職業上の利益を
擁護するために不可欠な手段を奪う結果になるような区別は,労働者の労働
組合選択に不当な影響を及ぼすものであって,ILO87号条約2条に違反
すると解され,同条の例示として「個々の苦情申立ての場合に彼らを代表,
すること」が挙げられている。
本件任命処分は,原告Aの加盟労働組合及びその組合員にとって,不当労
働行為救済申立ての場合に,自らを代表する者を有する利益を奪うものであ
るから,同条に違反する。
また,本件任命処分は,原告らが地労委を利用することにより団結を維持
することを阻害するものであるから,団結権を保障したILO87号条約に
違反する。
()国際人権規約B規約2条1項,22条,26条違反4
本件任命処分は,労働組合を結成し,これに加入する権利を保障した国際
,,人権規約B規約22条及び法の下の平等を定めた同規約2条1項26条に
それぞれ違反する。
()地労委の機能低下をもたらす違法5
地労委は,労働組合の正当な活動を保護するとともに,公正な立場で労使
紛争を迅速,円満に解決して労使関係の安定を図るため,独立の権限を持っ
た行政委員会として創設されたものであり,労働組合の資格審査,公益事業
の争議行為義務違反に対する処罰請求,不当労働行為救済申立事件の審査,
労働争議のあっ旋,調停及び仲裁,労働協約の拡張適用の決議等の権限を有
している。
労働者委員は,地労委の主要な構成員として,上記の各手続に関与し,重
要な役割を担っている。労働者委員がこのような役割を果たすためには,申
立人との信頼関係が極めて重要であるところ,系統の異なる労働組合及びそ
の組合員との間で信頼関係を築くのは困難である。
本件任命処分においては,原告Aと系統の異なる労働組合が推薦した候補
者のみが労働者委員に任命されたため,原告Aの加盟労働組合及びその組合
員が当該労働者委員との間で信頼関係を築くのは困難であるから,本件任命
処分は,地労委の機能を弱体化させる違法なものというべきである。
()労働者委員のあるべき選任基準違反6
,(),地労委において公益委員は主に判定的機能に参与し労組法24条1項
あっ旋,調停及び仲裁といった調整的機能は,本来的には労働者委員及び使
用者委員が行うこと,労働者委員及び使用者委員には公益委員の任命に関す
る同意権が与えられていることなどに照らすと,労組法は,労使紛争を基本
的には労使の自主的な解決にゆだねているものと解される。
,,このような地労委制度の趣旨に照らすと労働者委員の任命に当たっては
系統の異なる労働組合が併存する場合には,系統別労働組合の組合員数,過
去の救済申立件数等の比率に応じて,系統ごとに労働者委員を任命するのが
合理的かつ合目的解釈であるというべきである。
54号通牒も,労働者委員の選考に当たり,系統別労働組合の組合員数に
比例させることを指示しており,上記のような選任基準を規定したものとい
える。
本件任命処分当時,京都府内には原告AとDという二つのローカルセンタ
ーが併存し,原告Aの組合員数は約7万人,Dの組合員数は約10万人であ
ったのであるから,この組合員数に比例させると,原告Aの加盟労働組合が
推薦した候補者から二人の労働者委員が任命されるべきであったのに,被告
知事はこのような選任基準に違反した。
()行政における公平原則違反7
労働者委員の任命は,現実には路線を異にして併存するローカルセンター
それぞれの労働者委員を確保するという利害を調整する性質を有するもので
あり,公平原則に基づいて対応すべきであるのに,被告知事はこれに違反し
た。
()本件任命処分に当たっての差別意思の存在8
京都府地労委の第32期から第39期までの労働者委員に任命された者の
所属するローカルセンターの内訳は,別紙2記載のとおりである。
京都府地労委の労働者委員は,平成元年以前は,54号通牒に沿って,ロ
。,,ーカルセンターの構成人数比に応じて任命されていたところが平成元年
連合が結成される一方,全労連が結成され,全国的に労働組合の潮流が連合
対非連合という形に再編成された状況にあって,京都府知事にEが就任して
以来,第32期以降8期連続して15年にわたり,労働者委員全員が,原告
Aの加盟労働組合が推薦した候補者から任命されず,Dの加盟労働組合が推
薦した候補者のみから任命されている。
のみならず,平成14年,Dの政治団体であるFが政治資金収支について
架空の個人寄附を含む虚偽報告をし,寄附者とされていた者が所得税の不正
還付を受けていたという事件が発覚し,第32期以降の労働者委員全員がD
関係者としてこれに関与していたことが判明したにもかかわらず,被告知事
は,第38期労働者委員1名の退任に伴う補欠委員の任命に際し,原告Aの
加盟労働組合が推薦した候補者を任命せず,Dの加盟労働組合が推薦した候
補者を任命した。
しかも,Dは,被告知事が初当選した平成14年の京都府知事選挙におい
て,被告知事を推薦するなど,被告知事とDとの間にはなれ合いの構図が生
じている。また,①被告府が交付するメーデー行事補助金の額は,Dと原告
Aとの間で3倍以上の差がある,②被告知事は,Dの主催するメーデーや定
期大会のみに出席している,③被告府は,D及びその加盟労働組合の定期大
会に祝い金を支出している,④被告府は,京都府中小企業相談所の相談員を
Dの出身者で独占させている,⑤被告府は,京都行労使雇用創出・対策会議
への参加をDに対してのみ要請している,⑥Dからの予算要請に対しては,
被告知事自身が対応しているなど,被告府の労働行政全般にわたり,Dと原
告Aとの間で様々な差別的な取扱いが行われている。
さらに,被告知事が選考の基礎にしたという資料を見ても,原告Cを他の
候補者と比較して劣位に評価することはできず,むしろ,斡旋員等の実績に
照らせば,原告Cの方が労働者委員として優れた適格性を有しているにもか
かわらず,被告知事は,原告Cを任命しなかったものである。
原告Aらは,被告知事に対し,一貫して,系統別労働組合の組合員数に比
例させた公正公平な任命を要請し続けており,全国的に見ても,連合独占と
いった事態が克服されるきざしが生じているにもかかわらず,被告知事は,
D独占という姿勢を変えようとしない。
以上の諸事情にかんがみれば,被告知事は,原告Aの加盟労働組合が推薦
した候補者を労働者委員から排除することを意図して,原告Aの加盟労働組
合が推薦した候補者であるという理由だけで,原告Cを労働者委員に任命せ
ず,本件任命処分を行ったというべきである。
(被告らの主張)
労働者委員の任命は,その職務を適正に果たせるか否かという観点から候補
,,,者を評価する場合判断要素が複雑多岐にわたり多様な価値判断が要求され
あらかじめ判断基準を定立することが困難であることから,住民の直接選挙に
より選出され,都道府県を代表する地位にある知事の広範な裁量にゆだねられ
たものである。
原告らの主張は,以下のとおり,いずれも理由がなく,被告知事の裁量権の
行使に逸脱又は濫用があったとはいえない。
()法の下の平等違反の主張について1
被告知事が,特定の労働組合又は系統に所属する労働者委員候補者を排除
する意図をもって本件任命処分をしたという事実はない。
,,,,また推薦制度は労働者一般の利益を図るためのものであり推薦組合
その加盟するローカルセンター及び被推薦者の個別具体的利益を代表させる
ためのものではないから,定数を超える被推薦者の中から労働者委員を任命
した結果,特定の労働組合が推薦した被推薦者が任命されなかったからとい
って,差別や平等原則違反という問題は生じない。
()団結権侵害の主張について2
本件任命処分は,原告A及びその加盟労働組合に対して何らの処分を行う
ものではなく,これらを弱体化させるということはあり得ない。
また,特定の労働組合が推薦した候補者が任命されず,他の系統に所属す
る候補者のみが任命されたとしても,任命された労働者委員は,労働者一般
の利益を代表する者として,自己の所属する系統や推薦組合の個別具体的利
益を離れて公務を行うのであるから,当然に地労委の機能低下や変質をもた
らすものとはいえない。
()ILO87号条約違反の主張について3
労働者委員は,飽くまで労働者一般の利益に従って職務を行う特別職の公
務員であり,苦情申立ての場合に個別の労働組合や労働者を代表するもので
,,はないから本件任命処分は原告らの指摘するような例示事項には該当せず
ILO87号条約違反にも当たらない。
()国際人権規約B規約2条1項,22条,26条違反の主張について4
本件任命処分は,労働組合の結成権・加入権を侵害するものではなく,差
別や平等原則違反を生じるものでもない。
()地労委の機能低下をもたらす違法の主張について5
労働者委員は,推薦組合等の個別具体的利益を離れて,労働者一般の利益
に従って職務を行うのであるから,他の系統に所属する候補者のみが任命さ
れたとしても,当然に地労委の機能低下をもたらすとはいえない。
()労働者委員のあるべき選任基準違反の主張について6
労組法は,労働者委員の任命について,労働組合の推薦のない候補者を任
命してはならないというほかに何ら制約を設けておらず,知事の広範な裁量
,。にゆだねたものであり原告らの主張する選任基準を認めることはできない
54号通牒は,知事が労働者委員等を任命する際の考慮要素に関する指針
にすぎず,地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律の施
行に伴い,地労委の委員の任命事務が,国の機関委任事務から都道府県の自
治事務になったことに照らしても,法的拘束力を有するものではない。
()行政における公平原則違反の主張について7
被告知事は,労働組合の推薦した候補者の中から適任者を労働者委員に任
命すべきであるが,複数のローカルセンターが併存する場合に,それぞれの
推薦に係る候補者を任命すべき義務はない。
()本件任命処分に当たっての差別意思の存在の主張について8
被告知事は,第39期労働者委員の選考に当たっては,労働組合から推薦
のあった候補者7人全員を対象として,地労委の運営に理解と実行力とを有
し,京都府における労働者一般の利益を代表して,労使紛争の円満な解決の
ために積極的に活動してもらうために最も適した者を任命するという考え方
に基づき,候補者の経歴(年齢,学歴,職歴,勤務先,公職,労働組合役)
,,,,員歴候補者が所属する労働組合の規模産業分野京都府内での分布状況
加盟労働組合の企業規模等について総合的に検討したものである。
,,原告Cが任命されなかったのは定数を超える候補者の推薦があった中で
,,定数に従って労働者委員を任命した結果にすぎないのであって被告知事が
特定の労働組合や系統を排除する意図をもって,原告Cを選考の対象から除
外したという事実はない。
4争点3(本件損害賠償の訴えの適法性)について
(被告府の主張)
本件損害賠償の訴えは,関連請求として,本件任命処分取消しの訴えに併合
提起されたものであるところ,本件任命処分取消しの訴えは,前記のとおり原
告適格を欠き却下されるべきものであるから,本件損害賠償の訴えは,併合要
件を欠くこととなる。
抗告訴訟と併合提起された関連請求に係る訴えが併合要件を満たさないため
不適法な併合の訴えとなる場合において,関連請求の併合が抗告訴訟と同一の
訴訟手続内で審判されることを前提とし,専らかかる併合審判を受けることを
目的としてされたものと認めるべき特段の事情が存するときは,関連請求に係
る訴えは不適法なものとして却下されるのが相当である。
本件損害賠償の訴えにおいて,原告らが主張する損害は具体性を欠くもので
あり,当該訴えは,抗告訴訟の付随的なものにすぎず,抗告訴訟と同一の訴訟
手続内で審判されることを前提とし,専ら併合審理を受けることを目的として
されたものというべきであるから,上記の「特段の事情が存するとき」に該当
する。
したがって,本件損害賠償の訴えは,不適法である。
(原告らの主張)
前記のとおり,本件任命処分取消しの訴えは適法であるから,被告らの主張
はその前提を欠く。
また,本件損害賠償の訴えは,原告らが,違法な本件任命処分によって生じ
た損害を回復することを目的とするものであって,原告らの意図はもとより,
客観的にも,取消訴訟に付随してのみ意味を持つなどというものではない。
したがって,本件損害賠償の訴えは,適法である。
5争点4(原告らの被侵害利益ないし損害)について
(原告らの主張)
()原告A及び原告Bは,本件任命処分により,その社会的信用と名誉を毀1
損され,京都府地労委を通じての正当な権利擁護活動に重大な支障が生じさ
せられ,団結権が違法に侵害された。しかも,原告Bは,労組法で認められ
た推薦権をも侵害された。
これにより原告A及び原告Bが被った精神的損害を慰謝料として評価すれ
ば,それぞれ500万円を下らない。
()原告Cは,本件任命処分により,自分が任命されなかったことにより,2
他の候補者と比べて能力が低いと評価されたこととなり,労働組合幹部とし
ての名誉が毀損され,労働者委員として果たし得るはずの権利擁護活動の機
会を不当に奪われたばかりか,労働者委員の任期2年間の報酬請求権を侵害
された。
これにより原告Cが被った精神的損害を慰謝料として評価すれば,100
万円を下らない。これに加えて,原告Cは,上記報酬相当額615万600
0万円の経済的損害を被った。
(被告府の主張)
原告らの主張する被侵害利益ないし損害については,争う。
推薦制度は,個々の推薦組合,その加盟するローカルセンター及び被推薦者
の個別具体的利益の保護を目的とするものではなく,労働者一般の利益という
公益の保護を目的とするものであるから,個々の推薦組合等が労働者委員の推
薦につき有する利益は,事実上の利益にすぎず,法律上の権利あるいは法律上
保護された利益ということはできない。
したがって,本件任命処分の結果,特定の推薦組合,その加盟するローカル
センター及び被推薦者に何らかの不利益が生じたとしても,これらについて,
法律上保護された個別具体的利益が侵害されたということはできず,具体的な
現実の損害が生じたということもできない。
また,労働者委員候補者となることによって,労働者委員の報酬を得る地位
を取得するわけではないから,原告Cが報酬相当額の経済的損害を被ったとい
うこともできない。
第4当裁判所の判断
1本件任命処分取消しの訴えについて
()争点1(原告らの原告適格)について1
ア行訴法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にい
う当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当
該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は
必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行
政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消さ
せるにとどめず,それが帰属する個々人の個人的利益としてもこれを保護
すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここ
にいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又
は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原
告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の
有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言の
みによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮
されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の
趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係
法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質
を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされ
た場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態
様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照(最高裁平成16)
年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・裁判所時報140
1号2頁。)
イそこで,前記の見地に立って,原告らが本件任命処分の取消しを求める
原告適格を有するか否かについて検討する。
(ア)地労委(労組法19条の12第1項)は,使用者委員,労働者委員
及び公益委員の各同数をもって組織される(同法19条の12第2項)
独立の行政委員会であり(地方自治法180条の5第2項2号,労働)
組合の資格審査及び証明(労組法5条1項,同法11条1項。なお,同
法24条1項参照,労働争議のあつ旋,調停及び仲裁(同法20条。)
なお,労働関係調整法11条,19条,21条参照,不当労働行為救)
済申立事件の調査,審問及び救済命令等の発付(労組法27条。なお,
同法24条1項参照)等の権限を有するなど,準司法的機能や調整的機
能を営むものである。
地労委の委員は,特別職の地方公務員であり(地方公務員法(平成1
6年法律第140号による改正前のもの)3条3項2号,使用者委員)
は使用者団体の推薦に基づいて,労働者委員は労働組合の推薦に基づい
て,公益委員は使用者委員及び労働者委員の同意を得て,知事が任命す
る(労組法19条の12第3項。知事は,使用者委員又は労働者委員)
を任命しようとするときは,当該都道府県の区域内のみに組織を有する
使用者団体又は労働組合に対して候補者の推薦を求め,その推薦があっ
た者のうちから任命し(同法施行令21条1項,公益委員を任命しよ)
うとするときは,使用者委員及び労働者委員にその任命しようとする委
員の候補者の名簿を提示して同意を求め,その同意があった者のうちか
ら任命する(同条2項。)
禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わるまで,又は執行を受ける

ことがなくなるまでの者は,地労委の委員となることができず(同法1
9条の12第4項,同法19条の4第1項,委員がこの事由に該当す)
るに至った場合には,その職を失う(同法19条の12第4項,同法1
9条の7第1項前段。また,知事は,地労委の委員が心身の故障のた)
めに職務の執行ができないと認める場合又は委員に職務上の義務違反そ
の他委員たるに適しない非行があると認める場合には,地労委の同意を
得て,その委員を罷免することができる(同法19条の12第4項,同
法19条の7第2項。)
なお,公益委員は,そのうち一定数以上が同一の政党に属することと
なってはならないと定められており(同法19条の12第4項,同法1
),,9条の3第5項公益委員が政党に加入あるいは脱退等をしたときは
(),直ちに知事にその旨を通知しなければならない同法施行令22条が
使用者委員及び労働者委員については,このような制限はなく,他にこ
れらの委員の任命について特段の規定はない。
(イ)前記(ア)のとおり,労組法が,地労委を使用者委員,労働者委員及
び公益委員の3者構成とした趣旨は,労使紛争の解決には高度な専門的
知識経験を必要とするため,労使内部の実情に詳しい者や高い識見を有
する者を委員とすることによって,公益及び労使の利害を適切に調和さ
,。せ労使紛争の自主的解決の促進を図ろうとしたことにあると解される
また,労組法が,労働者委員の任命を労働組合の推薦にかからしめた
のは,その任命に労働者の意思を反映させ,労組法の目的に沿った適正
妥当で公正な任命を保障することにあると解される。
そして,知事は,労働者委員の任命に当たり,労働組合の推薦を受け
ていない者を任命することはできないという消極的な制約を受けるもの
,(。。),の労組法附属法令を含む(イ)及び(ウ)において同じにおいて
候補者の推薦に関する詳細な規定は設けられておらず,労組法施行令2
1条1項所定のすべての労働組合から候補者の推薦を受けなければなら
ないというわけでも,各労働組合が推薦する候補者の数に制限が設けら
れているわけでもない。また,労組法及び関係法令において,推薦され
た候補者について選考手続が開始された後,推薦者の立場から手続に関
与することを認めた規定や,関与することを前提とした規定も設けられ
ていない。
さらに,労働者委員は,労働者を代表する者(労組法19条1項)と
定められているのであって,いったん任命された以上,自己の所属する
労働組合やその加盟するローカルセンターの利益を超えて,労働者全体
を代表して,客観的に妥当な解決を図る職責を負うものと解される。
(ウ)以上のような,労組法が定める地労委の機能及び権限,推薦制度の
仕組み,労働者委員の職務の性質等を考慮すれば,推薦制度の趣旨及び
目的は,労働者全体の代表としてその利益を擁護するのに適した労働者
委員を任命し,当該委員の地労委における活動を通じて,労働者が使用
者との交渉において対等の立場に立つことを促進し,労働者の地位を向
上させ,適正な労使関係を形成するという公益の実現を図るということ
にあって,特定の労働組合及びその組合員の利益を反映させるというこ
とではないと解するのが相当である。そして,労働組合を労働者委員候
補者の推薦主体としたのは,労働者が主体となって自主的に労働条件の
維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織さ
れた労働組合(労組法2条)が候補者を推薦することによって,知事に
よるし意的な任命手続に歯止めをかけ,労働者一般の意思を労働者委員
の任命手続に反映させることを制度的に担保したものと解される。
しかも,前記のとおり,労組法において,推薦組合が選考手続に関与
することを認めた規定等はないから,推薦組合に労働者委員の選考手続
上何らかの権利又は利益が認められていると解することはできない。
したがって,各労働組合及びその加盟するローカルセンターには,個
別の労働者委員の任命に具体的に関与するための権利としての推薦権が
,,付与されているわけではなく任命の前提手続である推薦制度を通じて
一般的に労働者の代表を選出するための手続に参加するにとどまり,そ
れ以上に,具体的な労働者委員の任命について関与することのできる権
利ないし法律上保護された利益を有するとはいえない。そのため,たと
え特定の労働組合の推薦した候補者の中から労働者委員が任命されず,
他の労働組合の推薦した候補者の中から労働者委員が任命されたとして
も,特定の労働組合及びその加盟するローカルセンターの権利ないし法
律上保護された利益が侵害されたということはできない。
この理は,個々の被推薦者についても同じというべきであり,被推薦
者が労働者委員に任命されなかったからといって,知事に対して任命を
求め得る法的地位にあるわけではなく,その者の権利ないし法律上保護
された利益が侵害されたということはできない。
(エ)その他,労働者委員候補者の推薦及び労働者委員の任命に関する労
組法の規定を検討しても,推薦組合,その加盟するローカルセンター及
び被推薦者の具体的利益を保護する趣旨を含むと解すべき規定は見当た
らないし,上記のように解釈すべきことの参考となる労組法と目的を共
通にする関係法令も見当たらない。
ウこれに対し,原告らは,推薦制度の趣旨及び目的を労働者一般の公益に
解消して理解すべきではなく,原告適格を拡大した行訴法9条2項の趣旨
に照らしても,原告らは原告適格を有する旨主張するので,この点につい
て検討する。
(ア)原告らは,推薦組合,その加盟するローカルセンター及び被推薦者
には,労働者委員候補者の推薦権を行使することにより,当該候補者が
労働者委員として地労委の審理及び運営に関与することが期待できると
いう利益を有する旨主張する。
地労委は,不当労働行為の救済申立てについては,調査,審問等を実
施して事実認定を行い,救済命令等を発するほか(労組法27条,適)
時適切な解決策を模索し,和解案を提示するなどの準司法的機能や調整
的機能を有しており使用者委員及び労働者委員は審問に参与する同,,(
法24条)のであるから,地労委の委員は,使用者委員,労働者委員又
は公益委員のいずれであるかを問わず,使用者及び労働者の正しい利益
を踏まえ,公平適正にその権限を行使することが期待されている。この
ことは,労働争議のあつ旋,調停及び仲裁(同法20条)等の権限の行
使においても同様である。すなわち,労働者委員は,いったん任命され
た以上,推薦組合やその加盟するローカルセンターの利益にかかわりな
く,労働者一般の利益という公益的見地における役割を果たすことが期
待されているのであって,特定の労働組合やローカルセンターの利益の
ために権限を行使すべきものではない。労働者委員がそのような性質で
あるからこそ,労働者委員には,労働者であることや特定の労働組合に
所属することが求められていないものといえる。
このような地労委や労働者委員の性質等に照らすと,推薦組合,その
加盟するローカルセンター及び被推薦者が,上記の利益を有するという
ことはできない。
(イ)原告らは,労組法19条の12第3項は,憲法28条が保障した勤
労者の団結権の具体化として,労働組合に対し,地労委の労働者委員候
補者の推薦権を付与したものであり,推薦組合,その加盟するローカル
センター及び被推薦者は,労働者委員の任命について,公正で差別のな
い選考手続によって適正な判断を受ける利益を有する旨主張する。
しかしながら,前記判示の推薦制度の趣旨に照らせば,労組法は,労
働者委員の任命資格として労働組合の推薦を規定しているものの,いか
なる者を労働者委員に任命するかは,労組法の趣旨,地労委の機能及び
役割,社会的状況,推薦された候補者の経歴等の諸般の事情を総合的に
考慮してされる知事の広範な裁量にゆだねているものであるから,原告
らが上記の権利ないし法律上保護された利益を有するということはでき
ない。
(ウ)原告らは,労働運動に異なる潮流が併存して対立している現状に照
らすと,労働者委員は,その所属する系統が特定の系統に偏することな
く,各系統から適正な比率で選任される必要があり,労働組合ないしロ
ーカルセンターは,系統別労働組合の組合員数の比率を労働者委員の構
成に反映させる形で労働者委員の任命がされるべき利益を有する旨主張
する。
確かに,労働運動が,路線や運動方針の違いによって複数の潮流に分
かれ,連合系と非連合系とが厳然と対立している現状にかんがみれば,
地労委における労使紛争の解決の過程には,系統間の利益対立が持ち込
まれないよう配慮しつつも,多種多様な意見等を幅広く公平適正に反映
させることが望ましいものともいえる。
しかしながら,労組法は,労使紛争においては労働者と使用者という
利害の対立した立場があることを前提として,双方に対等な立場を認め
た規定を種々設けているが,労働運動内で生じている潮流の分裂,系統
間の対立等の調整に関する規定を設けてはいない。
そして,前記の地労委や労働者委員の性質等に照らしても,推薦組合
及びその加盟するローカルセンターが,系統ごとに労働者委員の構成比
率を適正に配分すべき利益を有するということはできない。
(エ)原告らは,54号通牒は,労働者委員の構成を系統別労働組合の組
合員数に比例させるという選考基準を明確に指示したものであり,系統
別労働組合の利益を保護している旨主張する。
ところで,54号通牒は,地労委が3者構成の合議体である性格にか
んがみ,委員はその運営に理解と実行力を有し,申立人の申立内容等を
よく聴取し,判断して,関係者を説得し得るものであり,自由にして建
設的な労働運動の推進に協力し得る適格者であることを求めるととも
に,労働者委員については,労働組合数及び労働組合員数の比率のみな
らず,産業分野,場合によっては地域別等を十分考慮すること,すべて
の労働組合が積極的に推薦に参加するよう努めるとともに,推薦に当た
っては,なるべく1組合から委員定数の倍数を推薦させるよう配意する
ことなどをも指摘している。このように,54号通牒は,全体としてみ
ると,労働者委員の構成比率を各系統の勢力関係の比率に見合うように
選任すべきことのみを定めているわけではない。
これに加えて,前記の推薦制度の仕組み及び労働者委員の職務の性質
等にかんがみると,54号通牒の趣旨そのものは,今日においても,一
つの考慮要素となり得るとしても,これをもって,系統別労働組合の利
益を保護しているとまでは認めることができない。
(オ)また,原告らは,本件任命処分が取り消されると,原告Cは労働者
委員に任命される可能性が生じ,その可能性の回復が原告らの原告適格
を基礎付ける旨主張するが,そのような可能性は,前記の労働者委員の
,,任命についての労組法の規定に照らすと単なる事実上の期待にすぎず
原告適格を基礎付ける原告らの具体的利益ということはできない。
(カ)したがって,原告らの主張は,いずれも採用することができない。
エ以上によれば,原告らには,本件任命処分によって害される具体的利益
があると認めることはできないから,本件任命処分の取消しを求める原告
適格を有すると解することはできない。
()よって,本件任命処分取消しの訴えは,争点2について判断するまでも2
なく,いずれも不適法として却下すべきこととなる。
2本件損害賠償の訴えについて
()争点3(本件損害賠償の訴えの適法性)について1
ア原告らは,本件任命処分取消しの訴えの関連請求に係る訴えとして,本
件損害賠償の訴えを提起しているところ,前記1のとおり,本件任命処分
取消しの訴えは,原告適格を欠き不適法であるから,本件損害賠償の訴え
は,併合提起の要件を欠くこととなる。
ところで,取消訴訟に別の請求に係る訴えが併合提起され,取消訴訟が
不適法として却下された場合においても,併合提起された訴えが取消訴訟
と同一の手続内で審判されることを前提とし,専ら併合審理を受けること
を目的としてされたものと認められる特段の事情がない限り,併合提起さ
れた訴えを独立の訴えとして取り扱うのが相当というべきである。
本件損害賠償の訴えは,それ自体,独立の訴えとしての訴訟要件を備え
たものである。また,原告らは,本件任命処分により権利侵害を受けたと
主張して損害賠償を請求しているのであって,その実質的な目的が原告C
を労働者委員として任命することのみを求めることにあるとはいえず,上
記の特段の事情があるものとは認められない。
イ以上によれば,本件損害賠償の訴えは適法である。
()争点4(原告らの被侵害利益ないし損害)について2
ア被告知事の公権力の行使について国家賠償法上の賠償義務が認められる
ためには,被告知事が原告らの権利を侵害し,原告らに損害を与えたこと
が必要である。そして,この場合の被侵害利益は,厳密な意味で権利とい
えなくても,法律上保護されるべき利益であれば足りるが,事実上の利益
では足りないと解される。
イところで,前記のとおり,労組法が地労委を使用者委員,労働者委員及
び公益委員の3者構成とした趣旨や推薦制度の趣旨に照らせば,労働者委
員の任命に当たっては,多種多様な意見等が公平適正に反映されるよう配
慮されることが望ましいものともいえる。そして,全国の労働運動におい
て,路線や運動方針をめぐり連合系と非連合系との対立が生じ,特に京都
府内においては,Dと原告Aとの各加盟労働組合の組合員数がほぼ拮抗し
ている状況にあることにかんがみると,労働者委員が専らDの加盟労働組
合が推薦した候補者の中から任命されるという事態が長期間にわたって継
続すれば,偶然の結果によるものとはにわかに認め難く,労働者委員の任
命が公正公平に行われているかどうかについて疑念が生じかねないともい
わざるを得ない。
,,,,しかしながら前記1で判示したとおり推薦制度は個々の推薦組合
ローカルセンター及び被推薦者の具体的利益を保護するものではなく,労
働者一般の利益という公益の保護を目的とするものであるから,個々の推
薦組合や被推薦者が労働者委員の推薦について有する利益は,事実上の利
益にすぎず,法律上保護されるべき利益ということはできない。
また,労働者委員の任命は,知事の広範な裁量にゆだねられているので
あって,知事に対し,推薦組合及びその加盟するローカルセンターが,自
ら推薦した者を労働者委員に任命することを要求する権利や,被推薦者が
自己を労働者委員に任命するよう要求する権利が認められているというこ
ともできないし,任命されなかったことによって,被推薦者の社会的な評
価が低下させられることもない。
これらにかんがみると,本件任命処分の結果,原告Aの意思決定に基づ
き,これに加盟する原告Bの推薦した原告Cが労働者委員に任命されなか
ったことにより,原告Cが労働者委員に任命される可能性があるといった
意味での期待が害され,原告らに何らかの不利益が生じたとしても,これ
らは事実の不利益にとどまるといわざるを得ないのであって,原告らの法
律上保護された個別的利益が侵害されたということはできず,原告らに具
体的な現実の損害が発生したと認めることもできない。
ウ以上によれば,本件損害賠償の訴えに係る請求は,争点2について判断
するまでもなく,いずれも理由がないこととなる。
第5結論
以上の次第で,本件任命処分の取消しの訴えはいずれも不適法であるから却
下し,本件損害賠償の訴えに係る請求はいずれも理由がないから棄却すること
とし,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民事訴訟法61条,同法65条1項
本文に従い,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第3民事部
裁判官森田浩美
裁判官豊田里麻
裁判長裁判官水上敏は,転補のため署名押印することができない。
裁判官森田浩美
※別紙省略

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すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛