弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄する。
       本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人高山征治郎の上告受理申立て理由について
 1 原審の確定した事実関係は,次のとおりである。
 (1) D(以下「D」という。)は,昭和60年4月,被上告人との間で被上
告人の経営するゴルフクラブであるEゴルフクラブ(以下「本件クラブ」という。)
への入会契約を締結し,預託金900万円を支払って,本件クラブの個人正会員権
(以下「本件会員権」という。)を取得した。
 本件クラブの会則により,預託金は,ゴルフ場の正式開場の日から10年間据え
置き,その後,退会の際に返還する旨定められていたが,平成11年6月までに据
置期間は経過した。
 (2) Dは,平成11年6月2日ないし4日ころ,本件会員権を株式会社Fゴ
ルフに700万円で譲渡し,名義書換えに関係する一件書類として,会員資格保証
金預り証,印鑑登録証明書並びにいずれもDの署名押印のあるゴルフ会員権譲渡通
知書及び退会届等を交付した。その際,Dは,本件会員権の最終譲受人に対し,D
に代わってゴルフ会員権譲渡通知書及び退会届を被上告人に提出する権限を与えた。
 株式会社Fゴルフは,同月4日,株式会社Gに対し,本件会員権を725万円で
譲渡して前記一件書類を交付し,同社は,同日,上告人に対し,本件会員権を80
0万円で譲渡して同書類を交付した。
 (3) 本件クラブの会則には,会員権の譲渡には,本件クラブの理事会の承認
を受けるなどの手続を要すると規定されているが,上告人はこの手続を経ていない。
 (4) 上告人は,Dに代わって,被上告人に対し,平成11年6月5日ころ,
前記退会届を提出し,同月7日ころ,前記ゴルフ会員権譲渡通知書により,Dが上
告人に本件会員権を譲渡した旨を通知した。
上告人は,被上告人に対して,同月10日に到達した内容証明郵便をもって預託金
の返還を請求し,同年7月5日,預託金の返還を求める本件訴訟を提起した。
 (5) 上告人は,ゴルフ会員権の売買等を業とする会社であるが,利益を得る
目的で,預託金の額を下回る価格でゴルフ会員権を譲り受け,ゴルフ場経営会社を
被告として預託金の返還を求める訴訟を提起するという行為を反復継続の意思の下
に行っており,東京地方裁判所に提起したものだけでも,本件以外に4,5件の同
種訴訟がある。本件会員権の購入も同様の行為の一環としてされたものである。
 2 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判示し,上告人の請求を棄
却すべきものとした。
 (1) 上告人は,会員権の譲渡について本件クラブの理事会の承認を受けてい
ないから,会員権に基づく権利を行使することができず,自ら被上告人に対して預
託金の返還請求をすることはできない。また,ゴルフ会員権は契約上の地位であっ
て,預託金返還請求権のみを分離して譲渡することはできないから,上告人は,預
託金返還請求権のみを取得することができない。上告人がD作成に係る退会届を被
上告人に送付したことは,上記の結論を左右しない。
 (2) 上告人は,上記1(5)のとおり,ゴルフ会員権を譲り受け,訴訟によ
って預託金の返還を求めることを業としており,本件会員権の購入もその一環とし
てされたものであるから,上告人による本件会員権の譲受けは,弁護士法73条に
違反し無効である。
 3 しかしながら,原審の上記各判断はいずれも是認することができない。その
理由は,次のとおりである。
 (1) 原審の上記2(1)の判断について
 上記事実関係によれば,本件会員権は,いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの会
員契約に基づく契約上の地位として,会則に従ってゴルフ場を利用し得る権利及び
年会費納入等の義務と共に,会則に定める据置期間の経過後は,退会に伴って入会
時に預託した預託金の返還を請求することができる権利を内容とするものと解され
る。したがって,会則に定める据置期間の経過後に,会員が被上告人に対して退会
の意思表示をした場合には,退会によって会員契約が終了し,会員は,被上告人に
対して預託金の返還を請求することができる。そして,本件クラブの会則には会員
権の譲渡について理事会の承認等の手続を要するとの定めがあるが,これは会員契
約が継続している場合の規定であるから,退会した会員が預託金返還請求権を譲渡
することについて,この承認等の手続が必要となるものではない。
 そうすると,Dから上告人に至る本件会員権の譲渡は,本件クラブの理事会の承
認等の手続を経ていないから,譲渡後においても,被上告人との関係では本件会員
権を有する者はDであったというべきであるところ,上告人が前記D作成名義の退
会届を同人に代わって被上告人に提出したことによって当該会員契約は終了し,D
は被上告人に対して預託金の返還を請求することができることになる。そして,本
件の事実関係の下においては,退会によって行使が可能となる預託金返還請求権は
,上記1(2)の各譲渡契約によって上告人に順次譲渡され,退会届の提出後,上
記1(4)の譲渡通知によって,被上告人に譲渡の通知がされたものと解するのが
相当である。したがって,上告人は,預託金返還請求権の取得を被上告人に対抗す
ることができるものというべきである。
 以上によれば,原審の上記2(1)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明ら
かな法令の違反がある。
 (2) 原審の上記2(2)の判断について
 弁護士法73条の趣旨は,主として弁護士でない者が,権利の譲渡を受けること
によって,みだりに訴訟を誘発したり,紛議を助長したりするほか,同法72条本
文の禁止を潜脱する行為をして,国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるこ
とを防止するところにあるものと解される。このような立法趣旨に照らすと,【要
旨】形式的には,他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行を
することを業とする行為であっても,上記の弊害が生ずるおそれがなく,社会的経
済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には,同法73条に違反するも
のではないと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに,ゴルフ会員権の売買には,ゴルフ会員権市場ともい
うべき市場が存在し,その市場において多数の会員権の売買が日常的に行われてい
ることは公知の事実である。そして,ゴルフ会員権の売買等を業とする者が,業と
して,上記市場から,会員権取引における通常の方法と価格で会員権を購入した上
,ゴルフ場経営会社に対して社会通念上相当な方法で預託金の返還を求めたもので
あれば(記録によれば,上告人は,自己の行為がそのようなものであると主張して
いることが明らかである。),利益を得る目的で会員権を購入していたとしても,
上記の見地から同条に違反するものではないと解される場合もあるというべきであ
る。そうすると,上記1(5)の事実関係のみから,上告人の行為が同条に違反す
るものと即断することは許されず,さらに,上告人による本件会員権を含むゴルフ
会員権の譲受けの方法・態様,権利実行の方法・態様,上告人の業務内容やその実
態等を審理して,上告人の行為が濫訴を招いたり紛議を助長したりするおそれがな
いかどうかや同法72条本文が禁止する預託金の取立て代行業務等の潜脱行為に当
たらないかどうかなどを含め,社会的経済的に正当な業務の範囲内の行為であるか
どうかを判断する必要があるというべきである。
 以上によれば,原審の上記2(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明ら
かな法令の違反がある。
 4 以上のとおり,論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
 そして,上告人の行為が弁護士法73条に違反するものであるかどうかについて
さらに審理判断させるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁判所第三小法廷
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田
昌道)

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