弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し本件を東京高等裁判所に差戻す。
         理    由
 上告人の上告理由は末尾添附刷紙記載のとおりである。
 よつて案ずるに民法第七〇八条は社会的妥当性を欠く行為を為し、その実現を望
む者に助力を拒まんとする私法の理想の要請を達せんとする民法第九〇条と並び社
会的妥当性を欠く行為の結果の復旧を望む者に助力を拒まんとする私法の理想の要
請を達せんとする規定であるといわれて居る。社会的妥当性を欠く行為の実現を防
止せんとする場合はその適用の結果も大体右妥当性に合致するであろうけれども、
既に給付された物の返還請求を拒否する場合はその適用の結果は却つて妥当性に反
する場合が非常に多いから、その適用については十分の考慮を要するものである。
本件は給付の原因たる行為の無効を主張して不当利得の返還請求をするものではな
く、消費貸借の有効を主張してその弁済を求あるものである。それ故第一次におい
ては民法九〇条の問題であるけれども、要物契約である関係上不法な動機の為めの
金銭の交付は既に完了してしまつて居り、残るはその返還請求権だけであつてこの
請求は何等不法目的を実現せんとするものではない。それ故実質的には前記民法九
〇条に関する私法理想の要請の問題ではなく、同七〇八条に関する該要請の問題で
あり、その適用の結果は妥当性を欠く場合が多いのであつて、この事を考慮に入れ
て考えなければならない。
 本件においで原審の認定した処によると、上告人は一旦被上告人の密輸出計画に
賛同したけれども、後にこれを思い止まり被上告人に対して出資を拒絶した処、被
上告人から「既に密輸出の準備を進めたことでもあるから、せめて一航海の経費と
して金十五万円を貸与して貰いたい」と要請され、(一審判決では強制といつて居
る)止むを得ず金十五万円を貸与するに至つたのであつて、密輸出に対する出資で
はなく通常の貸借である。即ち利益の分配を受けるのでもなく、損失の分担もしな
いのであり、又貸した金につき被上告人がこれを密輸出に使用する義務を負担した
とか、密輸出に使用することを貸借の要件としたとかいうものでもない(原審認定)。
即ち密輸出に使用することは契約の内容とされたわけではなく、上告人は只密輸出
の資金として使用されるものと告げられながら貸与したというだけのことである。
されば上告人は被上告人の要請により已むを得ず普通の貸金をしたに過ぎないもの
で、本訴請求が是認されてももともと貸した金が返つて来るだけで何等経済上利益
を得るわけではない。しかるに若し七〇八条が適用されて請求が棄却きれると丸々
十五万円の損矢をしてしまうわけである。これに対して被上告人は上告人を欺罔し
て十五万円を詐取し、これを遊蕩に費消して居ながら(原審認定)民法九〇条、七
〇八条の適用を受けると右十五万円の返還義務もなくなり、甚しい不法不当の利得
をすることになるであろう。此の場合上告人の貸金の経路において多少の不法的分
子があつたとしても右法条を適用せず本訴請求を是認して弁済を得させることと、
右法条を適用して前記の如く上告人の損失において被上告人に不法な利得をさせる
ことと、何れがより甚しく社会的妥当性に反するかは問う迄もあるまい。考えなけ
ればならない処である。前記の如き事実であつて見れば、上告人が本件貸金を為す
に至つた経路において多少の不法的分子があつたとしても、その不法的分子は甚だ
微弱なもので、これを被上告人の不法に比すれば問題にならぬ程度のものである。
殆ど不法は被上告人の一方にあるといつてもよい程のものであつて、かかる場合は
既に交付された物の返還請求に関する限り民法第九〇条も第七〇八条もその適用な
きものと解するを相当とする。しかるに原審が第七〇八条の法理により上告人の請
求を棄却したのは法律の解釈適用を誤つた違法あり、此違法は判決主文に影響を及
ぼす可能性あること勿論であるから、此点において原判決は破棄を免れない。
 そして原審はなお、弁済期が既に到来したりや否、年一割の利息の約が現実に成
立したりやについて判断して居ないから(原審は借用証書にその記載のあることは
判示して居るけれども、これは真実右利息の契約が成立したりや否やの判断として
書いたものではないであろう)本件は原審に差戻すべきものとし民事訴訟法第四〇
七条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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