弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、右部分につき本件を福岡高等裁判
所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人高橋猪兎喜、同梶谷丈夫、同宮田耕作、同梶谷玄、同舟辺治朗の上告
理由第三点および第七点について。
 論旨は、まず、本件土地・建物に設定された共同根抵当権の被担保債権額の合計
は、売買当時の抵当物件の価額を超過しているから、右売買は詐害行為となりえな
いといい、かりに然らずして、抵当物件の価額が被担保債権額を超過していたとし
ても、余剰金の限度における価格賠償のみを認めるべきであると主張する。
 よつて按ずるに、抵当不動産について詐害行為の成否が争われる場合は、不動産
の価額と抵当債権額との多寡がまず問題となるので、その数額の確定を要するとこ
ろ、根抵当権については、一般に民法三七四条の適用はないが、元本極度額として
の登記がある場合には同条の適用があり、最後の二年分の利息・損害金については、
元本との合計額が極度額をこえる場合においても、抵当債権者は優先弁済をうけ得
るものと解すべきである(大審院昭和一三年(オ)第一二八六号同年一一月一日判
決、民集一七巻二一六五頁参照)。
 これを本件についてみるのに、まず、本件土地・建物につき、共同担保として、
株式会社D銀行のため債権元本極度額二五〇万円、被上告人のため債権極度額二〇
〇万円の根抵当権が設定されていたこと、これに対し債務者たるE株式会社の負担
する債務の額が、本件土地・建物の譲渡(原判決にいう売買)当時、D銀行につき
二五〇万円、被上告人につき一六〇〇万円以上であつたことは、原判決の確定する
ところである。したがつて、右にいうD銀行分の債務二五〇万円が元金のみの謂で
あつて、他に利息・損害金の存するものがあるとすれば(この点については原判決
はなんら判示するところがない)、同銀行の有すべき被担保債権額は、元本二五〇
万円のほか、これに対する最後の二年分の範囲内の利息・損害金を含むこととなり、
その額はかりに商事法定利率によるとして、二年分で三〇万円となることが計数上
明らかであるから、これら元利金の合計は二八〇万円以上となることもありうべく、
他方、被上告人の有すべき被担保債権額は前記極度額二〇〇万円にとどまるから、
これによると、両者の合計は四八〇万円以上となりうることも予想される。しかる
に、原判決の確定するところによれば、本件詐害行為取消しの目的たる譲渡(売買)
当時の、丹下周市所有の本件土地の価額は四二〇万円、E所有の本件建物の価額は
六二万円、その合計四八二万円であるというのであるから、前記根抵当権の被担保
債権額の合計額として予想されうる四八〇万円以上と対比するときは、抵当不動産
の価額と被担保債権額とその多寡いずれとすべきか、すこぶる分明を欠き、本件に
おいてはたして詐害行為が成立しうるか否か、疑いなしとせず、かりに詐害行為が
成立するとしても、原判決認定の事実関係のもとにおいては、一部取消しの限度に
おいて価格賠償が許されるにとどまるものとすべきである(最高裁判所昭和三〇年
(オ)第二六〇号同三六年七月一九日大法廷判決、民集一五巻七号一八七五頁参照)。
 しかるに、原判決が、前記債権元本極度額二五〇万円のほか最後の二年分の範囲
内の利息・損害金についても担保権のありうべきD銀行分の債務につき、これをた
んに債務二五〇万円とのみ判示して、利息・損害金の有無ないし額を確定せず、ま
た、丹下周市所有の本件土地につき譲渡行為の全部を取り消して、上告人に対する
所有権移転登記等の抹消を命じたのは、民法三七四条または四二四条の適用につき
審理不尽、理由不備の違法あるものというべく、論旨はけつきよく理由あるに帰し、
原判決は、その余の点につき判断するまでもなく破棄を免れない。本件は、以上指
摘の諸点および要すればさらに本件土地・建物の価額の確定について、なお審理を
要すると認められるので、これを原審に差し戻すべきものとし、民訴法四〇七条に
従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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