弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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        主         文
   1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
         事実及び理由
第1 申立て
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,317万9000円及びこれに対する平成13
年12月12日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
 3 被控訴人は,控訴人に対し,71万4000円及びこれに対する平成14年
3月31日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の概要は,次のとおり付加,訂正し,次項に控訴人の当審における主張
を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」に記載のと
おりであるから,これを引用する。
1 原判決1頁23行目の「本件は,」の次に「控訴人において,後記の」を
加える。
2 同2頁3行目の「本件車両」を「ボルボ850エステート(車両番号和歌
山〇〇〇A××××。以下「本件車両」という。)」と,同頁13行目から14行
目にかけての「ボルボ850エステート(車両番号和歌山〇〇〇A××××,以
下,「本件車両」という。)」を「本件車両」と,それぞれ改め,同頁15行目の
「諸費用等」の次に「を」を加える。
3 同3頁8行目の「553条」の次に「本文」を,同頁同行の「注文書」の
次に「(甲1。以下「本件注文書」という。)」を,それぞれ加え,同頁22行目
の「原告に移転」を「所有者を控訴人の父,使用者を控訴人とする移転登録手続
が」と改め,同頁25行目の「負っており(」の次に「商法552条2項,」を加
える。
2 控訴人の当審における付加主張
   控訴人と被控訴人間における本件車両の取引は,売買契約である。
 控訴人と被控訴人間で取り交わされた本件注文書(甲1)には,「申込金は
契約成立後は,売買代金等の一部に充当されるものとします」(特約条項(1)③)な
ど売買契約を前提とした規定が存在するし,控訴人代理人がオークションの主催者
である株式会社B(以下「主催者」ともいう。)に対し,本件車両の購入者に対し
て瑕疵担保責任を負う者を照会したところ,同株式会社の回答(甲9)は,控訴人
と被控訴人間の取引が売買であることを当然の前提としていることなどからする
と,控訴人と被控訴人間における本件車両の取引が売買契約であることは明らかで
あり,被控訴人は瑕疵担保責任を負う。
第3 当裁判所の判断
 1 前提となる事実関係
 前記争いのない事実に証拠(甲1,2の1・2,3,乙1,3ないし5,
7,原審における証人C,控訴人,被控訴人代表者)及び弁論の全趣旨を総合する
と,次の各事実が認められる。
1 被控訴人は,中古自動車の売買等を業とする株式会社であり,中古自動車
を店頭に展示し,その売買をしているほか,インターネットを利用したオークショ
ンによる中古自動車売買の仲介業務をしている。
 被控訴人が会員となって参加していたのは,株式会社Bが主催・運営する
「B会」との名称で実施されているオークションであり,その仕組みは,概要,次
のようなものである。
① B会の会員は,古物営業法3条に定める公安委員会による営業許可を受
けている必要があり,主催者指定の端末を設置しなければならず,会員以外は本オ
ークションに参加することはできない。
② 出品店は,出品しようとする車両の検査・点検を実行し,所定の出品車
カードに不具合箇所等を明記し,出品車両の写真を記録したスマ-トメディア等と
ともに,主催者に交付する。
 出品店は,出品車両の検査をするに当たっては,公正かつ的確に客観的
な立場で正確に行い,その内容を提示しなければならず,成約後の申告不備による
クレームは,出品店が一切その責任を負う。
 主催者において,出品店が提出した出品車カードに基づき出品車両の検
査をし,主催者が定めた基準に則り評価点を付す。
③ 取引は,会員が専用端末を使用して競り上げる方法により行う。
④ 落札店は,落札しようとする出品車両の内容を十分に把握した上で,落
札し,成約車の代金,自動車税相当額,手数料等を支払う義務を負う。
⑤ 成約後,成約車両の引渡しに関しては,出品店と落札店とが責任をもっ
て行うものとし,出品店及び落札店は,成約車の引渡しに立ち会い,双方で車両状
態の確認をする。落札店は,成約車両受領後,速やかに成約車両とその出品表記載
内容を確認する義務を負う。
⑥ 登録名義の移転については,出品店は,譲渡書類等をオークション起算
日より7日以内に主催者に送付しなければならず,落札店は,オークション起算日
より45日以内に移転登録の手続を完了しなければならない。
⑦ 成約車両に関する苦情については,出品店の故意・過失を問わず,成約
車両が修復歴車である場合など通常の瑕疵については,7日あるいは10日以内に
契約の解除又は代金の減額請求をすることができ,成約車両がメーター巻戻し車で
あるなど重大な瑕疵があることが判明した場合には,1か月ないし6か月の一定の
期間内に契約の解除をすることができ,成約車両が盗難車であるなど法的問題車両
であることが判明した場合は,無期限に契約を解除することができる。契約が解除
された場合は,出品店は落札店に対し,主催者が認めた損害を賠償しなければなら
ない。
⑧ 主催者に支払う手数料は,出品店が出品手数料7500円,成約手数料
7000円等であり,落札店は落札手数料7000円等である。
2 被控訴人の従業員であるC(以下「C」という。)は,親戚から控訴人の
紹介を受け,控訴人と連絡を取り,オークションによる中古自動車の購入を勧め
た。その際,Cは,控訴人に対し,料金として,落札価格と被控訴人に支払う手数
料等が必要であること,手数料は外車の場合20万円であるが,親戚の紹介なので
10万円とすることなどを説明したほか,ネットオークションの性質上,落札した
中古自動車に対するクレームは被控訴人では基本的に受けられない旨説明した。
3 控訴人は,平成13年9月10日,被控訴人本社において,有限会社Dが
出品している本件車両をパソコン画面(乙3はそれを印刷したもの)で確認した上
で,本件車両を購入することに決め,被控訴人に対し,入札価格を300万円まで
とすることなどを指示した。
 被控訴人は,同日,専用端末を使用して本件車両の入札に参加し,272
万5000円で本件車両を落札することができた。Cは,同日,控訴人に落札する
ことができた旨連絡したが,落札価格につき誤って282万5000円であると説
明した。
 まもなく,控訴人は,被控訴人の求めに応じ,本件車両を購入する旨を記
載した本件注文書(甲1)に署名押印したが,本件注文書には,落札価格(車両価
格)につき282万5000円と記載されていた。なお,本件注文書は,被控訴人
において,オークションで落札したことにより契約が成立した場合のほか,店舗販
売で契約が成立した場合にも利用している書式である。
4 平成13年9月14日,本件車両が被控訴人E支店に搬送され,出品店か
ら落札店への受渡しがされた。控訴人も,その場に立ち会い,車両の確認や試乗を
し,マフラー等の装備が不良であることがわかったが,出品店にその責任を問うこ
とができる事項ではなかったため,被控訴人に対し,その修理を依頼した。また,
その際,Cは,控訴人に対し,本件車両につき点検整備をすることを勧めたが,控
訴人は,直前の車検が平成13年6月であったことから,その必要はないものと考
え,それを断った。
 また,そのころ,控訴人は,被控訴人に対し,本件車両の売買代金として
落札価格より10万円高い282万5000円のほか,手数料10万円や消費税,
登録費用等の合計317万9000円に,予め控訴人が被控訴人に注文していた本
件車両のPROコーティング等の代金8万6993円のうちの一部として1000
円を加えた合計318万円を支払った。
5 被控訴人は,平成13年9月21日,PROコーティングや修理が完了し
たため,控訴人に本件車両を引き渡した。また,同日,本件車両につき,所有者を
控訴人の父,使用者を控訴人とする登録名義変更手続がされた。
 被控訴人は,翌22日ころ,控訴人に対し,PROコーティングや修理代
として合計8万6993円から支払済みの1000円を差し引いた8万5993円
の明細請求書(乙7)を交付した。
6 平成13年10月9日,本件車両につき,走行中に本件火災が発生した。
2 争点1(本件車両の取引の種類及び被控訴人の責任)について
1 控訴人は,本件車両の取引につき,控訴人と被控訴人間の売買契約であ
る,仮に売買契約でないとしても,問屋契約であり,被控訴人は本件車両を瑕疵が
ない状態で引き渡すべき義務を負っている旨主張する。
 しかしながら,本件車両は,いわゆるネットオークションによる取引であ
るところ,そのネットオークションの仕組みは,上記のとおりであり,出品店が出
品する車両につき,公正かつ的確に客観的な立場で車両の点検・検査を正確に行わ
なければならず,成約後の申告不備によるクレームは,出品店が一切その責任を負
うとされていること,落札店では,パソコン画面上でしか車両を確認することはで
きず,落札して車両が搬送されてきて初めて車両を見ることができ,その後は直ち
に買主に引き渡されることが予定されていること,登録名義も,被控訴人を経由す
ることなく,直接買主に移転されていること,Cは,控訴人に対し,事前に,本件
車両に関する取引はオークションによるものであり,車両に関するクレームは被控
訴人では基本的に受けることができない旨説明していることなどの事実関係からす
ると,被控訴人は本件車両の落札を代行したものにすぎず,被控訴人としては,指
定された価格で落札し,出品店から本件車両の引渡しを受け,パソコン画面での内
容と相違ないことを確認した上,これを控訴人に引き渡し,控訴人あるいは控訴人
が指定する者への登録名義の変更手続をすれば足りるものというべきであり,被控
訴人は,本件車両の売主ではなく,また,問屋契約に基づき本件車両を瑕疵がない
状態で引き渡すべき義務を負っているものとも解されない。
2 なお,控訴人と被控訴人との間で取り交わされた本件注文書(甲1)中に
は,申込金は契約成立後は売買代金の一部に充当される(特約条項(1)③)など,売
買契約を前提としたかのような規定が存するが,他方,価格ステッカー(展示中古
自動車に貼付されている価格表)等に表示の走行距離について一切異議を述べない
(同(11))など,店舗取引を前提とし,オークション取引に適用できない規定も存
在するのであり,本件注文書から直ちに売買契約が成立したと認めることはできな
い。
 また,控訴人は,株式会社Bの回答書(甲9)において,オークションの
主催者は控訴人と被控訴人間の取引が売買であることを当然の前提としている旨主
張するが,上記回答書は,落札店と購入者との契約は,現状のままの販売や保証を
つけての販売など様々な形態があることを述べているのであって,上記認定,判断
の妨げとなるものではなく,他に上記認定,判断を左右するに足りる証拠はない。
3 よって,本件車両の取引を売買契約あるいは問屋契約であるとして,被控
訴人は瑕疵担保責任を負う旨の控訴人の主張は,採用できない。
3 争点2(本件火災の原因)及び同3(レンタカーリース料の支払義務)につ
いて
 争点2につき判断する必要がなく,同3につき控訴人の主張が採用できない
ことは,原判決6頁3行目から同頁15行目までに記載のとおりであるから,これ
を引用する(ただし,5行目の「前項摘示」,11行目及び12行目の各「前記1
摘示」を,いずれも「前述」と改める。)。
4 結論
  以上のとおり,控訴人の請求はいずれも理由がない(なお,上記認定のとお
り,被控訴人は,控訴人から本件車両の落札価格につき10万円高いものとして代
金を受領しているので,それを控訴人に返還すべき義務はあるが,控訴人は本件訴
訟においてその返還請求をしていない。)。
  よって,控訴人の請求を棄却した原判決は正当であり,本件控訴は理由がな
いのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
  大阪高等裁判所第5民事部
         裁判長裁判官   太  田  幸  夫
            裁判官   川  谷  道  郎
           裁判官   大  島  眞  一

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