弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
○ 理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告状」及び「抗告理由書」記載のと
おりである。
二 当裁判所の判断
法務大臣が出入国管理令四九条三項に基づき、同令四八条七項の判定に対する異議
の申出を棄却する裁決をするためには、所論の裁決諮問委員会の審議を経由するこ
とは、法令上要求されているものではなく、また、いわゆる告知と聴聞とを本質的
内容とする適正手続の要求するところであるともいえない。そして、東京地方裁判
所昭和五四年(行ウ)第七九号退去強制令書発布処分等取消請求事件記録によれ
ば、抗告人が提出を求めている本件文書は、右のような裁決諮問委員会の作成にか
かるものであつて、法務大臣が本件裁決をするに当たり、その適正を期するために
行政庁内部においてもつぱら自己使用の必要上作成されたものにすぎないものと認
められるから、民訴法三一二条三号後段の文書に該当するものとはいえない。
よつて、本件文書提出命令の申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理
由がないからこれを棄却し、抗告費用の負担について同法九五条、八九条を適用し
て、主文のとおり決定する。
(裁判官 園田 治 菊池信男 柴田保幸)
即時抗告状
右抗告人を原告・相手方を被告とする東京地方裁判所昭和五四年行(ウ)第七九号
退去強制令書発付処分等取消等請求事件について、原告からなした文書提出命令申
立事件(昭和五五年行(ク)第九〇号)に対し、同裁判所は昭和五六年一月二六日
「右申立を却下する」旨の決定をなし、該決定は同年同月二七日抗告人に送達され
たが、不服であるから即時抗告の申立をする。
抗告の趣旨
原決定を取消す
旨の裁判を求める。
抗告の理由
追つて提出する。
抗告理由書

一 原決定は裁決諮問委員会が法令上の根拠を有しないこと、抗告人が提出を求め
る同委員会の審議結果を記載した文書は「専ら自己使用のため作成した内部文書」
であると判示し、抗告人の文書提出命令の申立を却下しているが、右は事実を誤認
し法令の解釈を誤まつたものである。
(一) なるほどAの証言調書には裁決諮問委員会は法令にもとづくものではなく
慣例で運用しているのであるとの記載がある
(12項)。
しかし、そもそもこの裁決諮問委員会はなぜ設けられたのか。出入国管理令第二十
四条の定める退去強制は、日本国からの追放でありいわば日本での生活自体を否定
するものであるから「自由のはく奪」これにすぎるものはなく、その追放手続は
「適正手続き」(憲法三十一条)にもとづいて行なわなければならないのは当然で
ある。
入管令はこの要請にもとづき、入国審査官の審査(令四五条)、特別審理官の口頭
審理(令四八条)、法務大臣への異議の申出(四十条)、と一見三審制にも似たよ
うな手続を定めている。審理をするのは全員入管局勤務の公務員であり「裁判の独
立」はないのであるから三審制の実体はないと考えるが、それでも一見三審制の様
にみえるし、入管側もこれを理由に適正手続きの要請をみたしていると主張してい
るのである。
しかも本来退去強制事由に当然該当する不法入国事案についてさえ、ほぼ七〇%が
特別在留許可を得ている(前掲証言調書三五五項)。これだけ多くの特別在留を出
すのに大臣の胸一つだけで出すことは在留権が自由のはく奪の最たるものであるだ
けに、できることではない。これに基準を設け、適正な審議とするために設けられ
たものが本委員会なのである。殆んど全ての異議申立事案再審嘆願事案は、こめ委
員会にかけられこの委員会の結論どおりに大臣の裁決が出されているのである(前
掲調書一五・二六項)。だからこそ、出入国管理令施行規則三六条は「法務大臣の
裁決は別記第四一号様式の裁決書によつて行なうものとする」と定め、その別記第
四一号様式中には「異議申出中につき昭和 年 月 日当省において審議を行つた
結果、左の通り裁決する」と記しているのである。「審議」とは「じゆうぶんに討
議すること」であり「よく取り調べて、集まつて相談すること」(広辞林)であ
り、大臣が一人で決めることを指すものではない。この第四一号様式の定める「審
議」の実体が大体毎週木曜日に入国管理局長、審判課長、総務課長入国審査課長な
どの定例メンバーを集め(前調書一八項)、資料を集中して審議する裁決諮問委員
会なのである。たとえ慣例としてであれ、現実に長年にわたり裁決諮問委員会が継
続され、不法人国事案の七割もの特在許可につき、その審議を前提にして裁決書を
出している以上、その審議をまつたく法令上の根拠を有しないとみなすことはでき
ない。
(二) もう一点は本件文書提出命令は行政訴訟におけるものであり、まして人身
の自由がかかわる事案であるから通常の民事訴訟の場合と同列に論ずるのは妥当で
ないという点である。
本件訴訟は抗告人の退去強制、つまり日本からの追放という行政処分の効力を争う
ものである。入国管理局が一人の人間の日本での在留を認めるべきか否かについて
資料を収集し定例メンバーを集め裁決諮問委員会で「審議」したことは明白である
のに、そしてその審議結果が大臣の裁決をそのまま導びいたということが明白なの
になぜその資料の提出を認めないのだろうか。
高松高裁昭和五〇年(行ス)第二号昭和五〇年七月一七日第二部決定(判例時報七
八六号)は民訴法三一二条三号についてつぎのとおり判示している。
「右同条三号にいわゆる挙証者と所持者との間の法律関係について作成された文書
とは、挙証者と文書の所持者との間の法律関係それ自体を記載した文書だけでな
く、その法律関係に関係のある事項を記載した文書ないしはその法律関係の形成過
程において作成された文書をも包含すると解すべきところこれと行政庁のなした行
政処分の違法を主張してその取消を求める抗告訴訟に即してみれば、当該行政処分
がなされるまでの所定の手続きの過程において作成された文書であつて右行政処分
をするための前提資料となつた文書をも包含するものと解するのが相当である」。
抗告人が提出を求めているのは法務大臣が裁決をするまでの所定の手続きの過程に
おいて行政処分をするための前提資料にあたるから本件文書提出命令の申立は、認
められるべきである。
(原裁判等の表示)
○ 主文
本件申立てを却下する。
○ 理由
原告の本件文書提出命令申立ての趣旨は、別紙「文書提出命令の申立て」書のとお
りである。
本件申立ては、文書の特定性にやや欠けるところがあるものの、原告の被告法務大
臣に対する出入国管理令四九条一項の異議申出に関し、入国管理事務の担当職員が
裁決諮問委員会の審議資料として作成した文書及び同委員会の審議結果を記録した
文書の提出を求める趣旨と解される。しかし、本件記録によると、裁決諮問委員会
は、法務省入国管理局長等の入国管理事務担当職員で構成され、被告法務大臣が右
異議申出に対し裁決するについて同被告に意見具申をするため事実上設けられた補
佐機関であつて、法令上の根拠を有しないことが認められる。したがつて、右各文
書も、法令上作成を予定されたものではなく、入国管理事務の担当職員が事務処理
の便宜上専ら自己使用のため作成した内部的文書であることが明らかであり、民事
訴訟法三一二条三号後段にいう挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成
された文書には該当しないというべきである(東京高等裁判所昭和五二年三月九日
決定・訟務月報二三巻三号六四ページ参照)。また、右各文書が同条同号前段の文
書に当たらないことも明らかである。
よつて、本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。
別紙
文書提出命令の申立て
一 証すべき事実
原告に対する退去強制手続きにつき権限ある機関に対する原告の反対理由提示権が
保証されておらず、適正手続きに違反している事実。
二 文書の表示及び文書の趣旨
1 原告が出入国管理令二四条一号に該当する旨の認定には誤まりがないとの特別
審理官の判定に対し原告が出入国管理令四九条一項に基づく異議申出をし、昭和五
四年三月二〇日被告法務大臣が右異議申出は理由がないとの裁決をするまでの間、
裁決諮問委員会に対し、原告事件に関連して提出された事件概要書、メモ、裁決理
由書、同委員会議事録及びこれに関連する文書一切
2 被告法務大臣が原告からの出入国管理令四九条一項の異議申出に対し同条三項
の裁決をするに当たり被告法務大臣に提出された関係書類中、裁決諮問委員会が作
成又は同委員会に提出された書類及び同委員会に関連する書類一切
三 文書の所持者
法務省
四 文書提出義務の原因
民事訴訟法三一二条三号

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