弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人Aの上告理由は末尾添付の書面記載のとおりである。
 上告理由に対する判断
 被上告人等の主張する請求原因によれば、本訴は民事訴訟法第五百四十六条の執
行文付与に対する異議の訴<要旨第一>と認められる。而して執行文付与に対する異
議の訴においては、異議の原因の有無は判決の基本たる口頭弁論終結の
時を標準としてこれを定むべきものと解するから、たとい執行文付与に必要な条件
の成就前に執行文を付与し、かかる執行力ある正本に基いて強制執行がなされて
も、異議の訴の口頭弁論終結の時までに条件が成就すれば、右の執行文の付与及び
かかる執行力ある正本に基く強制執行はもはや不適法としてその取消または不許の
宣言をなすことができないものと解すべきである。而して上告人は本件強制執行の
なされた昭和二十八年六月二十六日当時は兎に角として、その後の同年八月以降は
被上告人等において賃料不払であるという事実は原判決の認むるところであるか
ら、その事実によつて本件賃貸借解除の効果を生じていると主張するにより、この
点について判断するに、およそ家屋の賃貸借条項中に賃料の支払を二回以上連続し
て怠つたときは、何等の手続をなさずして賃貸借は解除され賃借人は直ちに家屋を
明渡すべき旨の定めがある場合、賃借人が賃料債務につき債務の本旨にしたがつた
弁済の提供をしたならば、進んで弁済の供託をしなくても、その提供の時から履行
遅滞の責を免れ、家屋明渡の前提たる賃貸借解除の効果を生じないことは明かであ
る(民法第四百九十三条、第四百九十二条)。また通常の場合賃貸人が予め賃料の
受領を拒んでおつても、民法第四百九十三条但書所定の通知及び催告は必要であつ
て、もしこれをしなければ賃借人は賃料債務につき履行遅滞の責を免れ<要旨第二>
るわけにはゆかないのである。しかしながら賃貸借契約の如く継続的に債権債務が
発生する契約において賃料につき債務の本旨にしたがつた弁済の提供を
したにも拘らず、賃貸人がその受領を拒絶し、たといその後何度これを提供しても
その受領を拒絶することが明白であつて、これを反覆継続させることが全く無意味
であると認められるような事情のある場合には信義誠実の原則により賃借人はその
後の賃料債務について民法第四百九十三条所定の手続をしなくても、履行遅滞の責
を負わぬものと解すべきである。
 原審の確定した事実によれば被上告人等は昭和二十八年八月以降引続き賃料の支
払をしていないけれども、それは、これよりさき昭和二十八年四月二十八日と同年
五月中との二回にわたりそれぞれ同年四、五月分の賃料各金三干円を上告人方に持
参して提供したのに、上告人において賃料を金五千円に値上げすると称してその受
領を拒絶し、あまつさえ賃貸借終了を主張して同年六月二十六日本件家屋明渡の強
制執行をしてきたので、たとい契約所定の月三千円の割合による賃料を提供したと
ころで、上告人がこれを受領しないことが明かであつたからだというのであるか
ら、かかる場合にもなお毎月毎月民法第四百九十三条所定の弁済の提供乃至は同条
但書所定の通知催告を要求することは全く無意味だといわざるをえない。ぞうすれ
ば被上告人等はたとい昭和二十八年八月以降の賃料債務について債務の本旨に従つ
た弁済の現実の提供をせず若くは言語上の提供をしなかつたとしても履行遅滞の責
を負わず、家屋明度の前提たる賃貸借解除の効果を生じないのともいうべきであ
る。原判決の判示は簡に過ぎ意を尽していないきらいがないではないが、賃貸借解
除の効果を生じなかつたと判定したのは結局正当であつて、論旨は理由がない。
 よつて民事訴訟法第四百一条、第九十五条、第八十九条にしたがい主文のとおり
判決する。
 (裁判長裁判官 高木常七 裁判官 臼居直道 裁判官 松永信和)

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