弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人山口貞昌の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。
 第一点について。
 所論検事訊問調書中「裁判所書記」の傍に「検察事務官」と添記し而かも其加除
の字数を明らかならしめる為めの記載なくまた認印も施していないことは所論の通
りである。しかし同調書を調査するに右添記した検察事務官の五字は其位置及び同
調書末尾に検察事務官Aが検事小宮益太郎と共に署名捺印している事実等に鑑み裁
判所書記の五字を検察事務官と訂正する為めであることを推認し得るから、同調書
は検事小宮益太郎が検察事務官A立会のもとに作成されたものと認め得るものであ
る。従つて、論旨は理由ない。
 第二点について。
 原判決は、Bに対する検事訊問調書中の「御読聞けの強盗は私はやりませんが皆
がやつたことは間違ありません」との供述記載を証拠として挙示したこと、及び右
読聞けの書類の内容を引用していないことは所論の通りである。しかし原判決は所
謂読聞けの書類内容を証拠にしたものとは認め難い。従つて読聞けた書類の内容を
引用しないからとて違法とはいい得ない。もつとも右御読聞けの強盗とあるだけで
は、何時何処で如何なる強盗行為をしたのであるか具体的に明らかではない為め、
右の証拠によつては被告人以外の者がある強盗行為をなしたこと、並に其強盗行為
には被告人は関係のない事実を知り得るに止り、本件犯罪の証拠としては極めて価
値少なきものであるが証拠能力なきものではなく、挙示の証拠と綜合して判示事実
を認定したものであるから、之れを証拠としたことは採証法則に違反するものでは
ない。従つて論旨は理由がない。
 第三点について。
 本点の論旨は多岐にわたつているから番号の順を追うて説明する。
 (一) 一、二、三、六、について。
 論旨は判事がBに対して為した逮捕状の日附は昭和二二年一二月二二日であると
主張する。よつて所論逮捕状を調べて見るに日附「二三日」は「二二日」と誤読し
易い書体ではあるが右は三の字の一劃が重なつた為めであつてよく注意して見れば
二三日であることを認め得る従つて右逮捕状の日附を二二日であることを前提とす
る論旨は採用しがたい。なお論旨はBについては所謂緊急逮捕に該当する罪を犯し
たことを疑うに足る理由が存在しないと主張するが同人に対する逮捕手続書を見れ
ば刑訴応急措置法第八条第二号の罪を犯したことを疑うに足る理由があると認めら
れるから論旨は理由がない。
 (二) 四、五、について
 司法警察官が刑訴応急措置法第八条第二号に基き所謂緊急逮捕を為すに当り各被
疑者に対し逮捕状を得ることができない理由を告知したことを証明し得べき記録の
ないことは所論の通りである。按ずるに刑訴応急措置法第八条第二号により被疑者
を逮捕した場合においては逮捕手続に関する調書を作成すべき旨の規定はなく、ま
た判事の逮捕状を得ることができない旨を被疑者に告知したことを書面上明らかに
しなければならない旨の規定もない、従つて本件の所謂緊急逮捕について司法警察
官が被疑者に対し判事の逮捕状を得ることができない理由を告知した事実を確かむ
べき記録のない一事を以て右告知をしなかつたものと断定することはできない。仮
に所論の如く司法警察官が右告知をしないで逮捕したものとすれば右逮捕は正に違
法であることは所論の通りであるが、記録に徴すれば所論検事の訊問調書は判事の
発した逮捕状の日附の翌日(昭和二二年一二月二四日)であるから適法な判事の逮
捕状が発せられた後に作成されたものあることが明らかである従つて仮に所論の如
く逮捕其ものは違法であるとしても適法な逮捕状発令後に作成された検事訊問調書
を不法抑留中に作成された違法のものであるとはいい得ない、従つて所論検事訊問
調書を証拠としたことは何等法則に反するものではない。
 なお所論の如く承諾同行の美名のもとに其実強制を加えて被疑者を警察署に連行
することは違法であつて厳に之れを禁止しなければならない、しかし本件において
は承諾の美名のもとに強制を加えて被疑者を警察署に連行したと認むべき形跡はな
い、従つて本件の承諾同行を以て違法と断定することはできない。論旨は理由がな
い。
 (三) 七について。
 論旨は司法警察官が逮捕状を請求する場合は其理由を記載した請求書により検事
を通じてなすべきであるのに本件においては逮捕状請求に関する書類が記録中に存
在しないから逮捕状発令が違法であると主張する、しかし刑訴応急措置法第八条第
二号は司法警察官は直接判事に対し逮捕状の発令を請求し得る旨を規定している、
そして本件各逮捕状発令に付いては司法警察官Cから逮捕状請求をしたものである
ことが明らかであり且つ各逮捕手続書の記載により各被疑者に対し緊急逮捕をなす
に充分な理由のあることが明らかであるから逮捕状発令については何等違法はなく、
論旨は理由がない。
 (四) 八、九、一〇、一一、について。
 論旨は本件検事の勾留状請求は刑訴応急措置法第八条第四号によるものであるに
かかわらず旧刑訴法第二五五条の強制処分請求と誤認し刑訴応急措置法第八条の範
囲内において改正され効力を失つた右第二五五条に基きすでに逮捕状を発せられた
被疑者に対し重複して勾引状を発し且つこれを執行した上勾留状を発したものであ
るが逮捕中の被疑者に対し勾引状を発することは無用であり且つ違法であるばかり
でなく効力なき刑訴法第二五五条に基き勾留状を発し之れによつて被疑者を勾留し
たことは不法拘禁である、もつとも右不法勾留は後に至つて適法な手続により更新
されたが最初の勾留が不法である為め其瑕瑾は更新後も継承されるから右不法な勾
留中になされた公判廷における被告人の述は違法性を失はないと主張する。しかし
記録に徴するに判事は刑訴応急措置法第八条四号により勾留状の請求を受け適法な
手続を経て勾留状を発したものであるから、勾留状を発する以前に勾引状を発した
瑕疵があるとしても、之れが為めに適法な手続を経て発せられた勾留状を無効であ
るとはいえない、従つて所論の勾留状による勾留を目して不法拘禁であるとはいい
得ないから、本件勾留状は違法であることを前提として、右勾留状による勾留中に
なしたる被告人の公判廷における供述は不法拘禁中になした違法性のものであると
の論旨は当を得ない。論旨は理由がない。
 よつて旧刑訴法第四四六条により主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年一二月一四日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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