弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,原告に対し,5万円及びこれに対する平成21年8月14
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。
4この判決第1項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,20万円及びこれに対する平成21年8月14日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2当事者の主張
1請求原因
(1)当事者
ア原告は,平成21年8月10日,京都府警察により逮捕され,同日,大
阪府四條畷警察署(以下「四條畷署」という。)へ連行され,四條畷署より指名手配を
されていた覚せい剤取締法違反事件にて逮捕され,同年10月31日,大阪地方裁
判所にて有罪判決の言渡しがあり,刑の執行により京都刑務所にて服役中である。
イ被告は,四條畷署を設置し,公権力の行使に当たる公務員にその職務を
行わせている。
(2)写真の紛失
ア平成21年8月14日,原告を含む四條畷署の職員であるA係長(以下
「A係長」という。),B係長,C刑事(以下「C刑事」という。)他1名の計5名で,覚
せい剤取締法違反事件の家宅捜索差押え(以下「本件捜索差押え」という。)のため,
原告の実家である京都府綴喜郡a町b番地のc(以下「原告実家」という。)へ行き,
そこで,原告の手錠姿などが撮影された写真(以下「本件写真」という。)を上記の警
察職員であるC刑事が撮った。
イ原告実家の家宅捜査を終え,続いて原告実家から数分の所にある祖母宅
へ移動した。全ての捜査を終え,四條畷署に戻った。
ウ平成21年8月24日,原告の実母であるD(以下「D」という。)が四條
畷署へ面会に来てDから「あの日(本件捜索差押えのことをいう。)の翌日の朝,家
のポストを見ると,あんた(原告のことをいう。)の手錠姿の写真など(手錠姿写真
1枚,他2枚をいう。)3枚が入っていたので驚き,すぐ刑事さん(四條畷署の刑事
をいう。)に連絡して,その日に写真を取りに来てもらった。警察が家の前へ落と
して帰り,近所の人が拾い,ポストへ入れはったに違いない。許せん。」という話
があった。以上のように話があり,原告は初めて本件写真のことを知った。
(3)被告の不法行為(国家賠償法1条1項)
ア被告の不法行為
①四條畷署に勤務する公務員は,被告の公権力の行使に当たる公務員で
あり,被疑者の証拠品の管理,保管は当該公務員の職務に属する。②本件写真は,
原告実家の家宅捜査を終え,祖母宅へ移動する際に紛失されており,このことは公
務員の過失による不法行為を形成する。③よって,被告は,原告に対し,国家賠償
法1条1項により,当該不法行為により原告の被った損害を賠償する責を負う。
イ原告の被った損害
本件写真は,C刑事が本件捜索差押えの際,原告の手錠姿などの写真を
撮り,その後,落とした物であり,翌日,Dの連絡によって本件写真は警察官の元
へ戻った。したがって,一度は,第三者である他人が原告の手錠姿などの写真を見
たものに違いなく,その紛失に対しては,精神的損害として慰謝料が認められるべ
きである。そして,この精神的損害を金銭で評価するとすれば10万円を下回らな
い。
また,このこととは別に本件写真が一度紛失したことが判明した後,被告側の職
員の対応は全く誠意のないものであり,原告が紛失の原因及び責任の所在の調査を
申し入れた後も明確な回答はなかった。その後,原告は,京都府田辺警察署,次に
大阪拘置所へと移送となり,大阪拘置所から大阪府警察本部本部長宛の不服申立て
として手紙を出し,初めて四條畷署に対して調査があった。四條畷署としては,全
く放置に近い状態であった。被疑者と警察署という一定の制約はあるとしても,あ
まりに誠意のないものであり,このことで原告は著しい精神的苦痛を受けた。この
精神的損害を金銭で評価するとすれば,10万円を下回らない。
以上の原告の損害合計は20万円である。
(4)よって,原告は,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,上記損害
金20万円及びこれに対する平成21年8月14日(不法行為の日)から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2請求原因に対する認否及び被告の主張
(1)請求原因(1)ア(原告の状況等)のうち,京都刑務所にて服役中については
不知,その余は認める。同イ(被告の地位等),同(2)ア(本件写真の撮影等),イ
(祖母宅への移動等)の事実,原告とDが平成21年8月24日四條畷署で面会した
こと,同(3)ア①(公務員の職務に属すること等)の事実,イのうち写真を撮ったこ
と,写真が警察官の元に戻ったこと,大阪府警察本部長宛に申入れがあったことは
認め,その余は否認ないし争う。
(2)四條畷署は,平成21年8月10日,原告を覚せい剤取締法違反で通常
逮捕した。四條畷署刑事課のB警部補,A係長(警部補),C刑事(巡査長)ほかの警
察官は,同月14日午後1時55分から午後2時5分頃までの間,原告立会のうえ
原告の元居宅先である原告実家で本件捜索差押えを行った。本件捜索差押え時にお
いて,この実施状況を明らかにするためC刑事がポラロイドカメラを使用してポラ
ロイド写真6枚の撮影を行った。A係長は,同月17日,Dへ連絡をした際,Dが
本件捜索差押え時に警察が撮影した写真3枚がポストに入っていた旨申し立てたこ
とから,状況を確認する旨回答し,本件捜索差押え時に撮影した写真を確認したと
ころ,6枚撮影したにもかかわらず3枚しか写真がなかったため,Dに対して今か
ら写真を受け取りに行く旨回答した。A係長ほかは,同日午前10時15分頃,D
宅へ赴いた。A係長は,D宅において,Dから写真を確認したところ,本件捜索差
押え時に撮影したものであったことから,Dに写真を置き忘れたことについて詫び
て,写真を受け取って帰署した。A係長は,同年9月1日,原告の取調べを行った
ところ,原告がDから聞いたとして写真の置き忘れについて申し立てた。原告は,
同月16日,別件の覚せい剤取締法違反事件の関係で京都府田辺警察署に移送され
ることとなり,同月18日,移送された。大阪拘置所に在監していた原告は,同年
10月21日,大阪府警察本部長宛に写真の件を内容とする書面を郵送した。四條
畷署の総務課長E警部(以下「E課長」という。)は,同年11月9日,大阪拘置
所において原告と面会し,原告に対して本件写真の件について事実関係を説明した。
前記1(2)ウの内容をDから聞いた原告は,第三者の他人が本件写真を見たもの
に違いないと主張するが,四條畷署においては,Dから申し立てがあった後に関係
した警察官から事実関係を調査したところ,写真撮影をしたC刑事がポラロイドカ
メラで撮影した写真のうち3枚を本件捜索差押え先の住居1階に置き忘れた事実が
判明したものである。本件写真は,屋内に置き忘れたもので,第三者の他人がこの
写真を見ることはあり得ず,このため原告の屋外で紛失したとする主張と平行線を
たどっているものであって,そもそも誠意のない対応とは言いがかりである。した
がって,原告主張の損害は発生していない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
(1)当事者間に争いのない事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の
事実が認められる。(認定の根拠は各末尾に示す。)
ア原告は,平成21年8月10日,京都府警察により逮捕され,同日,四
條畷署へ連行され,四條畷署より指名手配をされていた覚せい剤取締法違反事件に
て逮捕され,同年10月31日,大阪地方裁判所にて有罪判決の言渡しがあった。
被告は,四條畷署を設置し,公権力の行使に当たる公務員にその職務を行わせてい
る。平成21年8月14日,原告を含む四條畷署の職員であるA係長,B係長,C
刑事他1名の計5名で,本件捜索差押えのため,原告実家へ行き,そこで,原告の
手錠姿などが撮影された写真(本件写真)をC刑事が撮影した。(争いがない。)
イ本件捜索差押えには,四條畷警察署の捜査車両(以下「捜査車両」とい
う。)が使用され,同車両は原告実家の玄関前に駐車された。A係長らは,平成21
年8月14日午後1時55分頃,Dに対し,本件捜索差押えを開始する旨伝えたと
ころ,Dは「早く入ってきてや。」などと述べた。その後,A係長らは,原告に対
し,捜索差押許可状を呈示して本件捜索差押えを開始し,C刑事が同呈示状況を写
真撮影すると,Dは「何で写真撮影するの。早く終わらせて。」などと述べた。原
告方は,1階に8畳和室・6畳和室・3畳洋室・ダイニングキッチン,2階に6畳
和室・6畳洋室がある。(乙1,証人A,証人C)
C刑事は,本件捜索差押えに際し,捜索の実施状況を明らかにするため,一眼レ
フカメラを用いて,1枚目(A係長が原告に令状を呈示してる状況),2枚目(原
告が使用していた1階3畳洋室前にて原告の写真),3∼5枚目(1階3畳洋室内
の状況),6枚目(原告実家宅の外観)の計6枚の写真撮影を行った。C刑事は,
撮影にあたって,段ボール箱(横約25㎝,高さ約30㎝,奥行き約20㎝,カメ
ラ器具類や証拠品等保管用封筒などが在中)を玄関先において,段ボール内から一
眼レフカメラ,ポラロイドカメラを取り出して両カメラの紐を首からぶら下げて撮
影した。C刑事は,1枚目に令状呈示状況を撮影したポラロイドフィルムを,撮影
直後に段ボール箱の中に入れ,2∼4枚目の写真を連続で撮り,左手の指と指の間
に持っていたものであるが,5枚目に撮影したポラロイドフィルムのみを段ボール
箱に入れて,1階の見取図作成を行い,その後,既に原告実家方2階で捜索差押え
に従事していた捜査員の後に続き,2階に上がった。(乙1,証人C)
C刑事は,本件捜索差押えを終了するに際し,両カメラを首にかけた状態で玄関
に置いていた段ボール箱を手に取って,屋外に出てから捜査車両の後部ハッチを開
けて後部トランクに段ボール箱を積み込み,後部ハッチを閉めてから,6枚目の写
真となる原告実家の外観を撮影し,再び後部ハッチを開けて6枚目に撮影したポラ
ロイドフィルムとカメラ本体を段ボールの中に入れ,後部ハッチを閉めた。その際,
Dは,「周りの目もあるから早く行ってくれ。」などと述べた。本件捜索差押えは,
関連証拠品等が発見されず,同日午後2時5分頃,終了し,上記2∼4枚目の写真
(以下「本件紛失写真」という。)は,本件捜索差押えの過程で紛失した。(乙1,証人
C)
Dと原告の弟は,同日,原告実家から外出しなかった。(原告本人)
ウDは,平成21年8月15日午前6時30分から7時までの間,原告
実家のポストないし玄関横の新聞受けに本件写真が入っているのを発見した。
(証人D)
A係長は,平成21年8月17日,Dに連絡をした際,Dから本件捜索差押え
時に警察が撮影した写真3枚がポストに入っていた旨申し立てられたので,本件
捜索差押えで撮影した写真を確認したところ,6枚撮影したにもかかわらず3枚
しか写真がなかったため,写真を受け取るため原告実家に赴き,写真を確認した
ところ,本件捜索差押え時に撮影したものであったので,Dに写真を置き忘れた
ことを詫びて本件紛失写真を受け取った。A係長は,同日,原告を取り調べた際,
原告から「写真の件で,母は怒っていなかったですか。」などと言われた。(乙
2,証人A)
A係長は,平成21年8月17日から同年9月1日までの間,原告を取り調べ
た際,原告に対し,本件紛失写真を原告実家に取りに行った旨伝えた。A係長は,
同年9月1日,原告を取り調べた際,原告から「母から写真の件を聞いたんです
が,人権侵害になるのではないですか。」「母と弟がかわいそう。」「署長・副
署長の謝罪を求める。」と言われたが,「本件紛失写真を置き忘れたことは申し
訳ないが,幹部の謝罪は私の一存では決めれない。」旨伝えた。(証人A)
エ原告は,平成21年9月16日,別件の覚せい剤取締法違反事件の関係
で京都府田辺警察署に移送されることとなり,同月18日,移送された。大阪拘置
所に在監していた原告は,同年10月21日,大阪府警察本部長宛に本件紛失写真
の件を内容とする書面を郵送した。四條畷署のE課長は,同年11月9日,大阪拘
置所において原告と面会した。(証人A)
上記面会でのやりとりは次のとおりである。すなわち,E課長は「こないだ申立
ての件で来ました。写真のことは取扱が不十分やった。電報も同じやった。今後そ
のようなことにならんようにするから。」と述べた。原告は「写真のこととか,も
ういいと言ったけど連絡だけしといてと言ったけど全く放ってる。俺のプライバシ
ーとかいいんやけど,弟なんか今月結婚ですわ。そやから手紙出して,そんな杜撰
なことでいいんかと苦情を言いたかっただけですわ。課長が来て本来なら本部の監
査の人が来るべきやないですかね。」と述べた。E課長は「調査して本部にも報告
した。そしたら署長から行くように言われた。」と述べた。原告は「口頭やなくて
書面で謝るべきやないかな。」と述べると,E課長は「うん。」と述べた。原告は
「D家に対してな。」と述べると,E課長は「そやから来たんやで。話は分かっ
た。」と述べた。原告は「課長が本部の人やったら分かりますけど,電報の件もあ
るのに。これで終わりにするんやったら家族と俺に書面で謝罪して欲しい。」と述
べると,E課長は「何でそこまで言うの。」と述べた。原告は「そやから言ってま
すやん。総務課長が来るのおかしいって。写真のこともう少し詳細に教えて。」と
述べると,E課長は「これ以上のことは言われん。」と述べた。原告は「それやっ
たら話が違う。それが答えでしょう。そしたら謝罪して下さい。身内にはちゃんと
して下さい。」と述べると,E課長は「ちゃんとします。」と述べた。原告は「書
面まで言わんから。」と述べるとE課長は「次に家族の人が来たら謝罪したことが
分かるようにします。」と述べた。原告は「刑事は家族のとこに行かせて下さい
よ。」と述べるとE課長は「分かりました。」と述べた。(面会表)
その後,四條畷署のB警部補は,Dに対し,本件紛失写真に関して謝罪の電話
をした。(証人D,証人A)
(2)以上の認定に対し,被告は,本件紛失写真は屋内に置き忘れたもので第三
者の他人がこの写真を見ることはあり得ない旨主張し,証人Cも,本件紛失写真が
足りないことはDの電話で分ったが,置き忘れた場所がベッドの上だということは
記憶にあった旨(証人C調書12項),本件紛失写真をベッドに置き忘れたのは焦
っていたからではなく,私が失念してしまったからである旨(同調書14項)供述
し,同人作成の陳述書(乙3)には,計3枚のポラロイド写真を左手の指の間に挟
んだ状態で続けて室内を撮影しようとしたとき体勢が不安定であったことから,そ
れまで左手の指に挟んで持っていた3枚のポラロイド写真をベッドの上に置いたと
の記載部分がある。しかし,証人Cは,平成21年8月14日から8月16日の間
に本件紛失写真を置き忘れたことは思い出さず,8月17日にDから電話があって
思い出した旨(証人C調書13項)供述しており,ベッドの上に置き忘れたという
のを確定的に記憶していたとは認めがたい(そうであれば,C刑事らはDから電話
で指摘される前に本件紛失写真の回収に努めたはずである。)。また,前記(1)ウ
認定のとおり,C刑事は,本件紛失写真を撮影後,見取図作成,2階の捜索,段ボ
ール箱の積み込みなどの各種作業を行っていたこと,その間,Dは,終始,捜査員
をせかす言動をとっていたことが認められるから,本件捜索差押えの各過程で紛失
する可能性は否定できず,ベッドに置き忘れたとする被告の主張や証人Cの供述部
分も紛失場所の一つの可能性を示唆するものにすぎないもので,紛失場所を断定す
るには足りないというべきである。
また,被告は,原告の本件写真に関する主張,供述や証人Dの供述は,本件写真
を発見するなどした日付や発見場所に関して,一貫性を欠き,理由なく変遷してお
り,信用性が全くない旨主張する。しかし,Dが本件写真を発見するなどした日付
が本件捜索差押えの翌日であるのか,その3日後であるのか,また,発見場所が原
告実家のポストであるのか玄関横の新聞受けであるのかどうかは,記憶違いや表
現方法の違い等によって生じ得る些末な異同というべきであり,主張や供述の全
体としての信用性を減殺するものとはいえない。その他,原告の上記主張等の信
用性を減殺する事情は認められない。したがって,被告の上記主張は採用できな
い。
2被告の不法行為
(1)被告の不法行為
四條畷署に勤務する公務員は,被告の公権力の行使に当たる公務員であり,
被疑者の証拠品の管理,保管は当該公務員の職務に属するところ,前記1認定事実
によれば,本件写真は,本件捜索差押えの過程で紛失しており,このことは公務員
の過失による不法行為を構成するというべきである。したがって,被告は,原告に
対し,国家賠償法1条1項により,上記不法行為により原告の被った損害を賠償す
る責を負うというべきである。
(2)原告の被った損害
ア前記1認定事実によれば,本件紛失写真は,原告の手錠姿なども写って
いたものであるが,本件捜索差押えの過程で紛失されたことが認められる。そして,
紛失の場所は,必ずしも特定できないものの,紛失の状況からは原告実家内ない
し原告実家玄関前の近辺に限られるものと推認されるとともに,紛失の時間は,
本件捜索差押えの終了からDによる発見までの約17時間程度であることから,
第三者の目に触れた可能性は否定できないとしても,多数の者の目に触れた可能
性は少ないと考えられる。以上のほか,本件に顕れた一切の事情を考慮すると,
本件写真が紛失したことによる原告の慰謝料額は5万円が相当と認められる。
これに対し,被告は,本件写真は屋内に置き忘れたもので第三者の他人がこの
写真を見ることはあり得ず,原告主張の損害は発生していない旨主張する。しかし,
前記1(2)認定説示のとおり,本件紛失写真の紛失場所は特定できないものである
し,仮に屋内で紛失されたとしても,弟や原告実家への来訪者の目に触れる可能性
があり,およそ損害が発生していないとはいえない。したがって,被告の上記主張
は採用できない。
イ原告は,本件写真の紛失とは別に本件写真が一度紛失したことが判明し
た後,被告側の職員の対応は全く誠意のないものであり,原告が紛失の原因及び責
任の所在の調査を申し入れた後も明確な回答はなく,その後,原告は,京都府田辺
警察署,次に大阪拘置所へと移送となり,大阪拘置所から大阪府警察本部本部長宛
の不服申立てとして手紙を出し,初めて四條畷署に対して調査があったが,四條畷
署としては,全く放置に近い状態であり,被疑者と警察署という一定の制約はある
としても,あまりに誠意のないものであり,このことで原告は著しい精神的苦痛を
受けたもので,この精神的損害を金銭で評価するとすれば10万円を下回らない旨
主張する。
しかし,前記1(1)認定のとおり,A係長は,平成21年8月17日,Dからの
申立てを受けて原告実家に赴き,Dに写真を置き忘れたことを詫びて写真を受け
取り,同日から同年9月1日までの間,原告を取り調べた際,原告に対し,本件
写真3枚を原告実家に取りに行った旨伝えたこと,A係長は,同年9月1日,原
告を取り調べた際,原告に対し,「本件写真を置き忘れたことは申し訳ないが,
幹部の謝罪は私の一存では決めれない。」旨伝えたこと,四條畷署のE課長は,
同年11月9日,大阪拘置所において原告と面会し,原告の意向を汲み取りつつ対
応等を説明した上,謝罪したこと,その後,四條畷署のB警部補は,Dに対し,
本件写真に関して謝罪の電話をしたことが認められ,被告は,本件紛失写真は屋
内に置き忘れたもので原告主張の損害は発生していないとの見解に立っていたこと
が認められるから,上記の被告側職員の対応が全く誠意のないものであるとか,全
く放置に近い状態であったとはいえない。したがって,原告の上記主張は採用でき
ない。
3結論
よって,原告の請求は,国家賠償法1条1項に基づき,上記損害金5万円及
びこれに対する平成21年8月14日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由
がない。
大阪地方裁判所第13民事部
裁判官加藤員祥

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