弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
押収してある回転弾倉式けん銃1丁(平成27年押第31号の1),実
包5個(同号の2,7,9)及び金属片2片(同号の4)を没収する。
本件公訴事実中殺人未遂の点については,被告人は無罪。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1法定の除外事由がないのに,平成26年4月27日午後8時4分頃,神奈川
県藤沢市内のマンション駐車場北側において,所携の回転弾倉式けん銃(平成
27年押第31号の1)で弾丸1発を発射し,もって不特定又は多数の者の用
に供される場所において,けん銃を発射した。
第2法定の除外事由がないのに,同日午後8時25分頃,同市内の路上において,
前記回転弾倉式けん銃1丁をこれに適合するけん銃実包6発(平成27年押第
31号の2,7,4,9。ただし,同号の2及び9は鑑定時の分解検査により
弾頭,薬莢及び火薬に分離したもの,同号の4は鑑定時の試射により弾頭及び
空薬莢に分離したもの。)と共に携帯して所持した。
(争点に対する判断-一部無罪の理由)
1争点等
本件殺人未遂の公訴事実は,被告人が,判示第2記載の日時場所において,同
所に停車中の警ら用無線自動車(以下「パトカー」という。)の後部座席に乗っ
ていたA警部に対し,殺意をもって,その身体に判示第2記載の回転弾倉式けん
銃の銃口を向け,弾丸を発射しようと引き金を引いたが,弾丸が発射されず,殺
害の目的を遂げなかったというものである。
本件における争点は,殺人未遂罪の成否,すなわち,①被告人が本件けん銃の
銃口をパトカーの後部座席に向けて引き金を引いたか,②銃口を向けたとされる
パトカーの後部座席にA警部がいたことを被告人が認識していたかである。そこ
で,以下検討する。
2争点①(被告人が本件けん銃の銃口をパトカーの後部座席に向けて引き金を引
いたか)
座席窓ガラスに正対し,同窓ガラスにけん銃を突き付けているときに,けん銃が
上下に動くと同時にカチャカチャという音がしたが,その音はけん銃の引き金を
引いたときに生じる音と同じであった旨のパトカーに乗務していたB巡査部長
8時23分59秒から午後8時24分00秒の間に録音されている「カチカチ」
というような音(以下「カチカチ音」という。)は,けん銃の引き金の音と考え
られることなどを根拠として,被告人が本件けん銃の銃口をパトカーの後部座席
に向けて引き金を引いたことが認められる旨主張する。
A証言の評価
A警部が,銃口が自分に向けられているのを見たというのは,いずれも一瞬
であり,その際の被告人の顔や視線の方向は確認していないことや,恐怖によ
り混乱状態にあったと考えられるA警部の精神状態等を考慮すれば,A証言に
よって,銃口がA警部に向けられた瞬間があり,その際に人差し指が引き金に
かかっていたという事実は認められるとしても,さらに,被告人が引き金を引
いたという事実までは認めることはできない。
B証言の信用性
そこで,次に,B証言の信用性を検討する。
車載カメラ映像と判示第1記載のマンションに設置された防犯カメラ2の
映像につき,同一出来事が起こった際の各表示時刻を基準にすると,その表示
時刻の差は弁護人指摘のとおり約3分42秒であると認められる。これを前提
にカチカチ音がした瞬間に相当する時間の防犯カメラ映像(同表示時刻午後8
時27分41秒から午後8時27分42秒)を見てみると,その際,被告人は
パトカーの運転席脇付近を後方から前方へと移動中であったことが認められ
る。このことは,被告人が後部座席窓ガラスに正対し,同窓ガラスにけん銃を
突き付けているときにカチカチ音が聞こえた旨のB証言と明らかに矛盾して
おり,B証言はその点のみでも信用できないといわざるを得ない。
また,B巡査部長は,パトカーのトランクを開けている際,バンという音が
したので音のした運転席側を見ると,被告人が後部座席窓ガラスにけん銃を突
き付けていた旨も供述しているところ,車載カメラ映像によれば,B巡査部長
の言うバンという音とカチカチ音との間には二,三秒の間隔があり,その間,
被告人の近くにいたB巡査部長が,上司のA警部がけん銃で撃たれてしまうか
もしれない状況であるのに,この二,三秒間に被告人を何ら制止することなく
様子を見ていたというのは非常に不自然である。
これらに加えて,B証言を前提とすれば,被告人を殺人未遂罪により現行犯
逮捕した現場において,B巡査部長としては,自らが見聞きしたことに基づき
被告人がけん銃の引き金を引いたと上司であるA警部に告げてしかるべきで
あるのに,これを告げていないことも不自然であるといわなければならない。
以上からすると,B証言は,B巡査部長が直接体験した事実だけでなく,その
後に関係者と共に行われた犯行再現や車載カメラ映像の確認等の過程におい
て見聞きした事情の影響をも受けていることが否定し難いところである。
以上によれば,B証言の信用性には疑問があるといわざるを得ない。
カチカチ音について
それから,カチカチ音は,確かに本件けん銃の引き金を引いた音と類似して
おり,本件けん銃の引き金を引いたことによって生じた音である可能性は否定
できない。しかしながら,これが同一の音であるとの科学的な解析結果に関す
る証拠はない上,以下に述べるとおり,本件けん銃の差押え時の実包等の装塡
状況等に照らせば,カチカチ音が本件けん銃の引き金を引いたことによって生
じた音であると認めるには疑問が残るといわざるを得ない。
ア本件けん銃の鑑定をした証人Cによれば,本件けん銃の操作方法には,シ
ングルアクションとダブルアクションの2通りがあり,シングルアクション
の場合は,まず,撃鉄を起こすと弾倉が反時計回りに回転して次の薬室が銃
身の延長上に位置し,次に,引き金を引くと撃鉄が勢いよく戻って撃針が実
包の雷管を叩き,弾丸が発射されるという2段階の操作が必要であるが,ダ
ブルアクションの場合は,引き金を引く操作のみにより,撃鉄が起き,弾倉
が回転し,撃鉄が戻って撃針が実包の雷管を叩き,弾丸が発射されるという
一連の動作が行われるところ,本件けん銃を用いて試射実験をした結果,シ
ングルアクションによる場合は,正常に動作し弾丸が発射されたのに対し,
ダブルアクションによる場合は,引き金を引いても弾丸が発射されず不発と
なることが6発中3発あったが,その場合でも弾倉は回転し,実包の雷管を
撃針が叩いた痕(撃針痕)が残った事実が認められる。
イそして,証拠によれば,差押え時における本件けん銃の実包等の装塡状況
は,銃身の延長上の薬室には撃針痕のある空薬莢(以下「空薬莢①」という。)
が入っており,そこから反時計回りに撃針痕のある実包(以下「実包①」と
いう。),撃針痕のある空薬莢(以下「空薬莢②」という。),さらに,撃
針痕のない実包が3つ並ぶという順で弾倉の各薬室に実包等が入っている
というものであった。
C証言及び本件けん銃の実包等の装塡状況からすると,引き金を引く以外
の方法で弾倉が回転したという事情がない限り,3回引き金が引かれ,まず
空薬莢②の弾丸が発射し,次に実包①の雷管を撃針が叩いたが不発となり,
最後に空薬莢①の弾丸が発射したものと考えられる。そして,判示第1の犯
行の後は本件けん銃の引き金を引いていないなどの被告人の供述は,これと
整合する内容となっている。
ウそこで,検察官主張のとおり最後に引き金を引いた際に不発となったもの
の,空薬莢①が銃身の延長上に位置するに至ったという理由として考えられ
るのは,まず,最後に不発となった後,差押えまでの間に本件けん銃が落下
などの衝撃等によって弾倉が回転した可能性である。これについては,C証
言が,本件けん銃の造りが粗悪であったため回転しないとは言い切れないと
しているとおり否定はできない。しかし,C証言によれば,本件けん銃の弾
倉は,試射実験のときまでは正常に動作していたというのであるから,銃台
に装着されている場合に固定されているはずの弾倉が,衝撃等によって回転
する可能性は低いと考えられる。
次に,考えられるのは,被告人が判示第1の犯行の前か後に弾倉を開いて
回転させたため,被告人が最後に引き金を引いたときに,弾倉が回転して銃
身の延長上の薬室に既に空薬莢となっていた空薬莢①が装塡されている状
態となり,撃針が空薬莢①の雷管を叩いたために不発となった可能性であ
る。しかしながら,この場合,空薬莢①の雷管は,弾丸が発射されたときと
最後に不発となったときの2回撃針により叩かれているはずであるが,外観
上は,撃針痕は一つしか認められない上,被告人は発射後に弾倉を開いたこ
とを否定する供述をしている。そして,関係証拠の中に被告人が弾倉を開き
回転させたことを裏付ける証拠がほかに一切存在しないことからすると,被
告人が弾倉を開いたと認定することはできず,あくまで可能性が認められる
に留まる。
エ以上のとおり,差押え時における本件けん銃の実包等の装塡状況が,被告
人が最後に引き金を引いた際に不発となったことと整合するためには,可能
性の低い偶然の事情が存在しなければならないのであり,そうすると,カチ
カチ音が本件けん銃の引き金を引いた音と類似しているとしても,これが同
一と認定するにはなお疑問が残るといわざるを得ないから,カチカチ音が本
件けん銃の引き金を引いた音であると認定することはできない。
小括
以上からすれば,被告人がけん銃の銃口をパトカーの後部座席に向けて引き
金を引いたと認めるには,なお合理的な疑いが残るといわざるを得ず,被告人
がけん銃の銃口をパトカーの後部座席に向けて引き金を引いたという事実を
認定することはできない。
3争点②(銃口を向けたとされるパトカーの後部座席にA警部がいたことを被告
人が認識していたか)
関係証拠によれば,被告人は,パトカーの運転席と助手席のドアが開き二人の
警察官が降りた直後にパトカーに向かって走り始め,二人の警察官がトランクを
開けるなどしていた際には「どこだ。」などと発言したことが認められる。この
ような被告人の言動は,被告人の意識がパトカーから降車してきた二人の警察官
に向いていたことを示しており,被告人には,パトカー内に更に人が残っている
のではないかということに意識が向きにくい状態にあったと考えられる上,車載
カメラ映像等の表示時刻等からすれば,そのような時間的余裕があったともいい
難い。また,被告人がパトカーのすぐそばにいると考えられる間(車載カメラ映
像の表示時刻午後8時23分49秒から午後8時24分00秒の間),A警部が
声を発していないことからすれば,被告人が声によりパトカー内に人がいると気
付いた可能性も低い。さらに,A警部の体勢によっては,被告人の視点からパト
カー内に人がいるのを確認するのがかなり困難な状況であった。これらの事情か
らすると,被告人が車内にいたA警部の存在を認識していたと認定するには大い
に疑問が残る。
なお,被告人は,捜査段階において,パトカーの車内を覗いたところ,運転席
側の窓越しに,警察官らしい影が見えた旨供述しているが,他方で,パトカーの
車内には,降りた二人の警察官以外に誰かが乗っていたとは思わず,窓ガラス越
しにパトカーを挟んで自分と対角線のところに助手席の警察官がいると認識し
たとも供述していることからすれば,影が見えたとの前記供述は,降車した警察
官を窓越しに見たという趣旨の供述とも捉えられ,明確にパトカー車内に人がい
たと認識したことを供述するものではない。
以上からすると,被告人がパトカー内にA警部がいたことを認識していたと認
めることについても疑問が残るといわざるを得ず,被告人がパトカーの後部座席
にA警部がいたことを認識していたと認定することはできない。
4結論
以上のとおり,争点①②はいずれも肯定することができず,本件公訴事実中殺
人未遂の点については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条に
より被告人に対し無罪の言渡しをする。
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為銃砲刀剣類所持等取締法31条1項,3条の13
判示第2の所為銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項(1項,3条1項)
刑種の選択
判示第1の罪有期懲役刑を選択
併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の
刑に法定の加重)
未決勾留日数算入刑法21条(180日を算入)
没収刑法19条1項1号,2項本文(押収してある回転弾倉式け
ん銃1丁[平成27年押第31号の1],実包5個[同号の
2,7,9]及び金属片2片[同号の4]は,判示第2のけ
ん銃加重所持の犯罪行為を組成した物で,被告人以外の者に
属しない。)
訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の事情)
1本件の量刑の中心となるけん銃発射罪の犯行についてみる。まず,その犯行動
機は弾丸が発射するかを確認するために発射したというものであるが,暴力団抗
争等における威嚇や脅しなどの目的で行われることが多いけん銃発射事案(処断
罪がけん銃発射罪のもの,以下同じ。)の中では,人や物に対する明確な害意を
持って発射されたのではない点で,その動機の悪質性の程度は高くはないといえ
る。
次に,本件発射行為の態様をみると,雑木林の方に向けて弾丸1発を発射した
というものであり,他のけん銃発射事案でよく見られる人通りの多い場所で発射
する場合や特定の建物等を狙って発射する場合,あるいは,弾丸を複数回発射し
た場合と比較すると,発射によって生じた不特定又は多数の者の生命等に対する
危険は小さい。もっとも,被告人がけん銃を発射した地点と雑木林の間には駐車
場の出入口に通じる通路があり,雑木林との距離や付近には民家が複数存在して
いたなどの発射場所の状況からすると,危険性の低い度合いはそれほど大きいも
のとはいえない。また,計画性についてみると,本件発射行為が計画的に行われ
たものであるということはできず,計画した上での犯行が多いけん銃発射事案の
中では悪質性が弱いといえる。
それから,被告人は,けん銃発射罪とともにけん銃加重所持罪も犯しているが,
多くのけん銃発射事案で,同時にけん銃加重所持罪も成立していることからする
と,この点は,量刑を左右する事情とはいえない。
以上を踏まえると,本件の犯情は,けん銃発射事案の中では,中程度を下回る
事案といえ,法定刑の最下限を若干上回る刑が相当である。
2その上で,その他の一般事情についてみると,被告人は,反省の程度としては
不十分ながら,一応反省の言葉を述べている。また,体調の悪い母が,被告人の
社会復帰後は共に生活したい旨証言している。それに,刑の執行が被告人の健康
状態に与える影響等も考えられる。そこで,これらの事情をも併せ考慮した上で,
主文の刑期が相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(検察官の求刑:懲役14年並びにけん銃1丁,実包5個及び金属片2片の没収)
(裁判員裁判)
平成27年7月7日
横浜地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官成川洋司
裁判官大森直子
裁判官西沢諒

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