弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴および附帯控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴の費用は被控訴人の負担とす
る。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却
する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。被控訴人の附帯控訴を棄
却する。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。原判決中被
控訴人敗訴の部分を取り消す。控訴人は被控訴人に対し、さらに六万二千十六円お
よびこれに対する昭和三十二年十一月二日から支払済に至るまで年五分の金員を支
払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決および仮執行の
宣言を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述および立証は、控訴代理人において、末尾添付別紙第
一の準備書面記載のとおり陳述し、被控訴代理人において、末尾添付別紙第二の附
帯控訴の理由書記載のとおり陳述したほか、いずれも原判決の事実摘示と同一であ
るから、これを引用する。
         理    由
 (一) 成立に争のない甲第二号証、原審における証人Aの証言により真正に成
立したと認める甲第一号証、同第三号証ないし第七号証、同第八号証の一ないし
六、同第十一号証、原審における証人Bの証言により真正に成立したと認める甲第
九号証、同第十号証、並びに右証人A、同Bの各証言によれば、次の事実が認めら
れる。すなわち、被控訴人は、昭和二十八年四月二十九日、訴外東邦通商株式会社
(以下、東邦通商という)に対し、被控訴人主張の如き約定で金員を貸与すること
を契約し、同日その担保として訴外Cから同人所有にかかる被控訴人主張の建物
(以下、本件建物という)の上に第一順位の根抵当権の設定を受け、翌三十日その
登記を経たこと、Cは昭和二十九年一月八日本件建物を大洋セメント興業株式会社
(当時の商号は株式会社相互金庫、以下大洋セメントという)に売却し、翌九日そ
の所有権移転登記を経たこと、(本件建物につき右根抵当権設定登記および所有権
移転登記を経た事実は、当事者間に争がない)他方、被控訴人は、前掲約旨に従い
その主張の如く東邦通商に対し金員を貸与し、結局、昭和三十年九月二十八日現在
の計算において、被控訴人主張の如き元本百万円、遅延損害金二十八万五十円、合
計百二十八万五十円の貸金債権につき本件建物の上に抵当権を有していたこと、以
上の事実を認めることができる。
 しかして、控訴人を代表する関東信越国税局が、昭和二十九年六月十二日、大洋
セメントの控訴人に納付すべき昭和二十八年度源泉所得税および源泉徴収加算税合
計千五百八十五万八千九十一円の滞納処分として本件建物を差し押え、昭和三十年
十月十七日公売に付した結果、訴外Dがこれを代金百五十万円で競落し右代金を納
付したこと、関東信越国税局は右競落代金全部を、大洋セメントの昭和二十八年度
の源泉所得税(納期は昭和二十八年十一月三十日ないし昭和二十九年二月十日)お
よび源泉徴収加算税合計百五十万円の支払に充当したことは、当事者間に争がな
い。
 (二) ところで被控訴人は、本来被控訴人は前記抵当権に基き、右競落代金の
内から優先的に前記貸金元利金百二十八万五十円の弁済を受ける権利を有するにか
かわらず、控訴人が前記の如く右代金全部を滞納国税に充当したのは、国税徴収法
(昭和三十四年法律第百四十七号による改正前のもの。以下、単に法という)第三
条の解釈を誤まつたもので、これにより控訴人は被控訴人の損失において右百二十
八万五十円を不当に利得したものである旨主張する。これに対し控訴人は、先ず抗
弁として、仮りに右充当が法律上失当であるとしても、元来、充当は法第二十八条
の規定に基く行政処分であつて、それは法第三十一条の二以下の規定による再調
査、審査および訴訟の対象となるものであるが、本件充当行為については重大明白
な瑕疵があるものとは認め難いのみならず、被控訴人は右取消を求め得る期間を徒
過しているから、右充当は有効な行政処分に基くものであつて、その間不当利得の
成立する余地はないと主張するので、その当否につき判断する。おもうに充当の法
律的性質が行政処分であるかどうかについては、学説上議論の存するところである
が、今、仮りにそれが行政処分であるという見解に立つとしても、法第二十八条の
規定による充当処分は、税務官庁が公売代金等を配当し、租税債権の弁済を受け、
これにより滞納処分手続を終了させるものにすぎず、それは実体上、配当金を受け
るべき者の権利の存否、額、順位を確定する行為ではないと解するを相当とする。
これ恰かも競売手続に関し、競売法第三十三条により競売代金を交付する行為は、
実体上の権利を確定するものでないと解すべきこと(大審院昭和十六年十二月五日
言渡判決、民集二〇巻一四四九頁)と、その軌を一にするものというべきである。
 (ちなみに民事訴訟法による強制執行については、配当に関する一連の手続が法
律上特に定められており、また民事訴訟法第六百九十七条、第六百三十四条等の規
定とも関連し、本件の場合と同一に論じ得ないものがある。尤も、登記簿に記入さ
れた物上担保権者は、強制執行手続においても配当要求をする必要はなく、法律
上、当然の利害関係人として配当にあずかり得べき筋合であるから、右の如き担保
権者は、たとえ配当表に対し異議を述べなくても、後日に至り、本来自己が有して
いた実体上の優先権を主張して不当利得の返還を求めることを妨げないとする見解
も、理論上成立する余地があるけれども、この点は本件に直接の関係がないから、
ここに<要旨第一>詳論すべき限りでない。)いずれにしても、法第二十八条の充当
配分に当つては、税務官庁は、実体上の権利関係を確定するものではな
く、またこれを確定し得る権限を有するものと解すべき根拠は存しないから、法律
上、抵当権者に配当すべき金員を誤まつて滞納国税へ充当した場合においては、た
とえ右充当配分により滞納処分手続が終了し、かつ再調査、審査または訴訟によつ
てこれが取消変更を求め得べき期間が徒過したとしても、それがため抵当権者の実
体上の権利関係(殊に租税債権に対するその優先権)に消長を及ぼすべきいわれは
ない。つまり右の場合は、国家の充当行為があつたというだけでは、国庫が実質
上、その利益を保有し得べき根拠とはなし難く、したがつて国庫は民法第七百三条
の規定に従い、本来配当を受けるべき権利があつた抵当権者に対して、右利益を返
還する責に任じなければならないことは当然である。それ故、控訴人の前記抗弁は
採ることを得ない。
 <要旨第二>(三) 次に、被控訴人の本件抵当権付債権と控訴人の前記大洋セメ
ントに対する国税債権との優先劣後の関係につき按ずるに、法第三条の
規定は、本件の如く、抵当物件が、抵当権設定後第三者に譲渡され、右譲受人の国
税債務に基き滞納処分か行われる場合においても、その適用があるものと解すべき
である。しかして右規定によれば、国税に対し優先し得る抵当権の適格としては、
先ずその設定が国税の納期限より一箇年前に在ることを必要とするところ、右にい
わゆる一箇年前という要件を具備するかどうかを判定するに当つては、抵当物件の
譲受人の納税義務を基準とすべきものではなく、抵当権設定当時における抵当権者
と設定者との関係を基本とし、設定者の納税義務を基準とすべきものであると解す
るを相当とする(最高裁判所昭和三十二年一月十六日言渡判決、民集十一巻一頁参
照)。けだし、抵当権を設定させて金員を貸与しようとする者は、予め当該抵当権
設定者の性格、資産信用、納税状況等につき十分な調査をなす機会があり、したが
つて設定者が当初から国税を滞納していた場合はもちろん、将来一年以内に滞納を
生じた場合においても、その滞納額の範囲で国税を抵当権に優先させることとして
も、未だ必ずしも抵当権者に対する不当に苛酷な取扱であるとはいい難いのに反
し、譲受人の納税義務を基準とすべきものとすれば、抵当物件が多額の国税を滞納
している第三者(譲受人)に対し譲渡されたような場合、抵当権者としては、自己
の全く予測不可能な偶然の譲渡により、優先弁済を受ける権利を不当に奪われると
いう不合理な結果を招来するに至るのであつて、かくの如きは到底法第三条の趣旨
に適合した解釈であるとは認め得ないからである。それ故、本件において前記法第
三条の規定を適用するに当り、同条所定の一箇年前の要件を具備するかどうかを判
定するについては、抵当権設定者であるCの納税義務を基準とすべきものであり、
結局、被控訴人において、本件抵当権の設定がCの国税の納期限より一箇年前に在
ることを公正証書をもつて証明した範囲において、被控訴人の債権は国税に優先す
るものというべきである。以上と見解を異にする控訴人の主張(原判決事実摘示
(二)の(1)および(2)参照)は、これを採用し難い。
 ところで成立に争のない乙第一号証によれば、Cは前記根抵当権設定登記のなさ
れた日から一年後である昭和二十九年四月三十日現在において、原判決末尾添付の
別表一記載の如く合計六万二千十六円の国税を滞納していたことが認められ、右以
外には国税の滞納がなかつたことは弁論の全趣旨に照らし明白であり、かつ原審に
おける証人Bの証言および前顕甲号各証並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人
は、本件滞納処分に当り、当該収税官吏に対し、証憑書類(国税徴収法施行規則第
十二条第三項参照)を添えて右抵当債権の存在を証明し、その支払を求めたことが
推知できる。しからば、右事実関係の下においては、本件建物の抵当権者である被
控訴人の前記百二十八万五十円の債権は、前段説示の理由に照らし、前記Cの滞納
国税額六万二千十六円の限度においては国税に優先し得ないけれども、これを控除
した百二十一万八千三十四円の限度においては国税に優先する関係にあつたこと
は、もちろんというべきである。
 なお控訴人は、Cには原判決末尾添付の別表二ないし五記載の如き合計十四万四
百八十円の地方税の滞納があり、これについては地方税法の規定により、当然地方
団体が抵当権者に優先するから、その範囲においても、被控訴人は優先権を主張で
きないことは、当然の筋合である旨主張する(原判決事実摘示(二)の(3)およ
<要旨第三>び本判決末尾添付の控訴人の準備書面の三参照)。しかし、地方団体が
一般の私債権に優先して地方税を徴収し得るのは、地方団体が自らその
租税債権に基き滞納処分または交付要求等の手続を採つた場合に限られるのであつ
て、かかる手続を採らない以上、たとえ債務者の財産が換価された場合において
も、地方団体が法律上当然にその代金から優先配当を受ける権利を有するものとい
うことはできないのである。(このことは、債務者がその財産を任意に処分した場
合を例に採れば極めて明白であるが、なお以上の関係は、恰かも不動産に対する強
制執行または任意競売の手続において、登記簿に記入のない一般の先取特権者は、
特にその権利を証明して届け出た場合でなければ、当然には優先配当を受ける権利
を有しないのと同様の関係にあるというべきである。)ところで、乙第二号証、第
三号証によれば、Cには控訴人主張の如き地方税の滞納があつたことは明らかであ
るが、しかし右地方税については、当該地方団体が交付要求をした形跡は認められ
ないのみならず、控訴人は、そもそも大洋セメントが地方税を滞納した事実をなん
ら主張立証していないから、本件において地方団体が交付要求をなし得る根拠も存
しないわけであり、要するに、この点に関する控訴人の主張は、全く法理を無視し
た不当の見解というの外なく、これを採用できないことは、もちろんである。
 (四) 次に不当利得の額につき按ずるに、被控訴人の前記百二十八万五十円の
債権のうち、被控訴人が国税に優先できるのは百二十一万八千三十四円の限度であ
り、爾余の六万二千十六円の債権については国税に優先できないものであること
は、すでに説示したとおりである。しからば、本件競落代金中、右百二十一万八千
三十四円は、本来、被控訴人に対し当然交付されるべき筋合にあつたものであるか
ら、これを国税に充当したのは、その限度において、まさしく控訴人がこれを不当
に利得したものというべきである。(法第二十八条第二項によれば、競落代金のう
ちから、先ず滞納処分費を控除すべきであるが、滞納処分費の存在および額につい
ては、控訴人の主張立証がないから、本件においては、これを顧慮するに由ないも
のである。)しかして本件競落代金中、右以外の部分については、被控訴人は、も
ともと国税に優先する権利を有しないのであるから、これについては、国税徴収権
が抵当債権に優先することは、法第二条第一項の規定に照らし疑を容れないところ
であり、したがつて右百二十一万八千三十四円を超える部分については、控訴人が
これを国税に充当したのは、控訴人において、これを不当に利得したものといい得
ないことは当然である。被控訴人は、附帯控訴の理由として、右と異なる解釈を主
張するが(本判決末尾添付の附帯控訴の理由書参照)、ひつきょう独自の見解であ
つて、採用に由なきものである。
 (五) 結論
 以上の次第であるから、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し前記百二十一万八
千三十四円およびこれに対する本件訴状が控訴人に送達された日の翌日であること
が記録上明白である昭和三十二年十一月二日以降支払ずみに至るまで年五分の遅延
損害金の支払を求める限度においては正当であるから、これを認容すべく、その余
は理由かないから、棄却すべきである。それ故、右と結論を同じくする原判決は相
当であつて、本件控訴および附帯控訴は、いずれも理由がないから、これを棄却す
べきである。なお、被控訴人は、当審において仮執行の宣言を求めているが、被控
訴人敗訴の部分については仮執行の宣言を付する余地はないし、また被控訴人勝訴
の部分については、すでに原判決が仮執行の宣言を付しているから、当審において
重ねてその宣言を付すべき限りでない(尤も、当裁判所は、さきに控訴人の申立に
より、原判決の付した右仮執行の宣言に基く執行を停止する旨の決定を発している
けれども、右執行停止の決定は、本判決の言渡と同時に当然効力を失い原判決中、
被控訴人勝訴の部分は、これについて今後、新たに執行停止の決定がなされない限
り、当然に執行し得べきものである)。よつて、控訴費用および附帯控訴の費用に
つき、それぞれ民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用し、主文のとおり判決す
る。
 (裁判長判事 岡咲恕一 判事 田中盈 判事 土井王明)

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