弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告らに対し,それぞれ1500万円及びこれに対する平成14年
6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,Aの相続人である原告らが,Aが死亡したのは,被告が開設する病
院(以下「被告病院」という。)の医師らの下肢閉塞性動脈硬化症等の治療に
おける過失によるものであると主張して,被告に対し,主位的には債務不履行
に基づき,予備的に不法行為(使用者責任)に基づき,損害の賠償(いずれも,
訴状送達日の翌日である平成14年6月1日以降民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の請求を含む。)を求めた事案である。
1前提事実(争いのない事実並びに括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨によ
って容易に認定できる事実)
当事者
ア原告X1はAの妻であり,原告X2はAの養子である(甲2,3)。
イ被告は,医療施設を経営し,科学的でかつ適正な医療を普及することを
目的とする医療法人であり,奈良県内において被告病院を開設している。
診療経過等
ア診療契約の締結
Aは,平成8年11月26日ころから,B病院において,下肢閉塞性動
脈硬化症及び高血圧症の治療を受けていた(甲62。ただし,特に断りが
ない限り枝番を含む。以下同じ。)。
Aは,平成11年6月14日(以下,年月の記載のない日は平成11年
6月のそれである。),C内科を受診したところ,間欠性行,顔色不良跛
等,下肢閉塞性動脈硬化症の病態の増悪が見られたため,同日B病院を受
診し,15日,同病院の紹介で被告病院を受診した。そして,Aは,同日,
被告との間で,下肢閉塞性動脈硬化症の治療を目的とする診療契約を締結
した(甲9∼11,61,62)。
イ入院後DSA検査までの経過
Aは,17日,被告病院に入院した。その後,1日当たり1回(30
分ないし40分),リプル(プロスタグランジンE製剤。末梢閉塞性1
動脈疾患治療薬)の点滴を受けた。また,Aは,11日,C内科におい
て14日分のパナルジン(血栓・塞栓の治療及び血流障害の改善薬)を
処方されており,被告病院においても,24日まで服用していた(甲4
5,49)。
Aは,リプルの点滴を受けていた当時,24日までは,食欲旺盛で,
被告病院内を散歩したり,税務書類等を見るなどして,入院前と変わら
ず元気であった。
ウDSA検査の実施
Aは,24日午後4時ころから同日午後5時30分ころまで,両下肢に
ついて,造影剤を用いた下肢の血管撮影検査(血管造影(Angio)の
一種であるDSA検査。以下「本件DSA検査」という。)を受けた(甲
14∼16)。なお,Aは,本件DSA検査に際して,ラクテック500
4本の投与を受けた(乙2)。ml
エドルミカム(鎮静剤)の投与
同日午後9時ころ,Aに強度の興奮状態が見られたため,ドルミカム
(鎮痛剤)が投与された(甲37)。
オ小脳出血の発見
Aは,25日午後1時ころ,頭部のCT検査(以下「本件CT検査」と
いう。)を受けたところ,水頭症(頭蓋内に脳脊髄液が過剰に貯留し,腔
が異常に拡大した状態)に伴う脳室拡大(脳室が,髄液流通障害又は脳の
萎縮などのために拡張すること)及び小脳中央部に小脳出血に伴う血腫
(出血により局在性に相当量の血液が組織内に貯留していること)が認め
られた(甲17,20,29,40,弁論の全趣旨)。
カ小脳出血発見後の経過
Aは,25日午後5時ころから同日午後6時ころまで,脳室−腹腔シ
ャント術(以下「本件VPシャント術」という。)を受けた(甲17,
18,35)。
Aは,25日から27日午前10時ころまで,ペルジピンの投与を点
滴により継続的に受けていた(甲37,39,40)。
その他,Aは,小脳出血が判明した後,ラクテック,ニトロール,デ
カドロンの投与を受けた(甲12,37)。
なお,24日には,翌25日以降はパナルジンからプレタール(慢性
動脈閉塞症治療薬)へ変更されることとなっていた(甲36,39)。
Aの死亡
Aは,28日午前6時5分,突然,徐脈発作と意識レベルの低下を来し,
救命処置を受けるも改善せず,同日午前7時54分,被告病院において死亡
した(当時81歳)。
解剖の結果
Aは,死亡後直ちにB病院において病理解剖に付され,主診断として,小
脳出血(小脳半球左より,4×4×4.5)及び第四脳室に穿破,副診断cm
として,①脳軟化症(小脳後面に4×2×1,大脳左後頭葉後面に4×2cm
×1),②大動脈硬化症(高度),左腸骨仮性動脈瘤及び腎動脈硬化症,cm
③肺うっ血及び左肺出血,④脳室−腹腔シャント術術後状態,直接死因は小
脳出血及び第四脳室穿破と考えられるとの所見を得た(甲7)。
被告病院での治療等において使用された各薬剤
上記各薬剤の副作用,禁忌等について,次のような記載のある文献が存在
する(ただし,本件のAの症状に関係する部分に限る。)。
アリプル(甲45)
注意高齢者には慎重に
副作用重大なものとして脳出血
イパナルジン(甲49)
禁忌出血(止血が困難)
注意用法・用量に関し,手術の場合,出血を増強するおそれがある
ので,手術の10日ないし14日前に投与を中止すること
副作用重大なものとして出血(脳出血)
ウラクテック(甲50)
副作用大量・急速投与(脳浮腫)
エドルミカム(甲60)
警告「重要な基本的注意」に留意し,呼吸及び循環動態の連続的な
観察ができる施設においてのみ用いること(呼吸抑制及び呼吸停
止を引き起こすことがあり,速やかな処置が行われないために死
亡又は低酸素脳症に至った症例が報告されている。)
適応麻酔前投薬,全身麻酔の導入及び維持,集中治療室における人
工呼吸中の鎮静
慎重①高度重症患者,呼吸紆余微力制限患者(無呼吸,心停止が起
こりやすい。),②高齢者
副作用その他のものとして,①循環器(血圧低下,血圧上昇,血圧
変動),②精神神経(興奮,ふるえ),③その他(体動,発
汗)
オペルジピン(甲8)
禁忌①頭蓋内出血で止血が完成していないと推定される患者(出血
が促進する可能性がある。),②脳卒中急性期で頭蓋内圧が亢進
している患者(頭蓋内圧が高まるおそれがある。)
注意重要な基本的注意として,作用には個人差があるので,血圧,
心拍数等を十分に管理しながら慎重に投与すること
カニトロール(甲89)
禁忌脳出血(頭蓋内圧上昇)
キデカドロン(甲90)
禁忌原則的なものとして,高血圧症
クプレタール(甲47)
禁忌出血(助長)
相互併用注意としてプロスタグランジンE製剤1
慎重出血傾向及びその素因(出血した時,それを助長)
副作用重大なものとして出血(脳出血,肺出血)
2争点
本件DSA検査を実施したことに関する責任の有無
本件DSA検査の実施に際しラクテック及びパナルジンを投与していたこ
とに関する責任の有無
本件DSA検査後の検査が遅れたことに関する責任の有無
小脳出血判明後に本件VPシャント術を施行したことに関する責任の有無
小脳出血判明後にペルジピン,ラクテック,ニトロール,デカドロン及び
プレタールを投与したことに関する責任の有無
説明義務違反の有無
損害額
3争点についての当事者の主張
争点(本件DSA検査を実施したことに関する責任の有無)について
(原告らの主張)
ア過失
①Aは入院当初から毎日リプルの点滴投与を受けていたところ,これに
関しては前記1アのような指摘がある。②Aはパナルジンの投与を受け
ていたところ,これに関しては前記1イのような指摘がある。③Aは本
件DSA検査を受けた当時81歳であったところ,高齢者は一般的に血管
が老化している上,Aは既に閉塞性動脈硬化症に罹病しそれが慢性化して
より劣化していたし,高血圧症でもあった。④Aは,本件DSA検査を受
けたとき血色不良であった。⑤一般的に,DSA検査は,超音波検査,C
T検査,MRA検査などの各検査に比べ最も侵襲性の高い検査であるし,
副作用として,浸透圧による血管拡張作用等を伴い必然的に出血の可能性
を生じさせ,また,当該穿刺部位以下の血栓又は塞栓を生じさせるもので
ある。⑥Aは3年前にB病院においてDSA検査を受けておりそのフィル
ムを取り寄せれば再検査としてはMRA検査でも十分であった。
これらのことを総合的に判断すれば,Aの血管は下肢のものに限らず脳
内のものももろくなって破れ易い状態になっており,本件DSA検査を実
施すれば脳出血が発生することは十分予見することができたし,他の検査
方法により,下肢(骨盤内動脈を含む。)閉塞性動脈硬化症の状態(閉塞
の部位及び程度)を観察し,手術適応か薬物療法で足りるかを判断するこ
とができたのであるから,本件DSA検査を実施すべきではなかった。そ
れにもかかわらず,被告病院の医師は,本件DSA検査を実施したのであ
り,この点に過失が認められる。
イ因果関係
本件DSA検査を実施したことにより,Aに小脳出血(高血圧性脳出
血)が発生し,急性水頭症を招来したり,実質内血腫,頭蓋内圧亢進,脳
室への穿破を招来し,Aは死亡したのであり,上記検査を実施しなければ,
Aの死亡を回避することができたはずである。
したがって,上記検査の実施とAの死亡との間には相当因果関係が認め
られる。
(被告の主張)
ア過失
DSA検査は,閉塞性動脈硬化症において,血管閉塞の部位と程度を精
密に診断するために有用であるだけでなく,外科的な血行再建術の実施を
検討するために必須の検査であるし,本件DSA検査を実施するに至った
のは,Aが,閉塞性動脈硬化症を治療したいという意思を有していたから
である。
①リプルは,閉塞性動脈硬化症の治療薬として一般的なものであり,A
が被告病院に受診する前にB病院においても処方されている,⑤DSA検
査の侵襲性がMRA検査やCT検査に比べて高いのは,飽くまでこれらの
検査の中での相対的なものである,⑥3年前にB病院において実施された
DSA検査のフィルムがあっても,現在の状態及び病状の進行を確認する
ためには再検査が必要であるし,MRA検査とDSA検査とでは診断の精
度に大きな差異があるから,MRA検査では不十分であり,DSA検査を
否定する理由にはならない。
イ因果関係
本件DSA検査の実施によって小脳出血が生じたとは考え難い。
争点(本件DSA検査の実施に際しラクテック及びパナルジンを投与し
ていたことに関する責任の有無)
(原告らの主張)
アラクテックの投与
過失
①ラクテックに関しては前記1ウのような指摘がある。②前記
(原告らの主張)アのとおり,Aの年齢は高く,Aには高血圧血管病変
(下肢)があり,出血や梗塞の可能性は明らかに高かった。
これらのことからすれば,本件DSA検査の実施に際しラクテックを
投与すべきではなかったにもかかわらず,被告病院の医師は,本件DS
A検査の実施に際してラクテックを投与したのであり,この点に過失が
認められる。
因果関係
本件DSA検査の実施に際して多量にラクテックを点滴したために,
長時間リプルを使用したこと及び本件DSA検査を実施したこととの競
合相乗作用により,小脳出血を誘発したのであり,かかる点滴をしなけ
れば,Aの死亡を回避することができたはずである。
したがって,上記ラクテックの投与とAの死亡との間に相当因果関係
が認められる。
イパナルジンの投与
過失
①被告は,Aが入院した時,既にパナルジンを服用していることを十
分認識していた。②パナルジンに関しては前記1イのような指摘があ
る。③被告は,DSA検査の実施を予想して観察していた。
これらのことからすれば,出血予防のため,いち早くパナルジンの服
用中止処置をとるべきであったにもかかわらず,被告病院の医師は,パ
ナルジンの服用を漫然と放置し,本件DSA検査実施後25日に中止す
るまで服用を継続させたのであり,この点に過失が認められる。
因果関係
被告は,本件DSA検査の実施に際してパナルジンの服用を継続させ,
25日に小脳出血が判明した後もパナルジンを服用させたことにより,
Aに再度の小脳出血が生じたのであり,パナルジンの服用を中止させて
いれば,Aの死亡を回避することができたはずである。
したがって,上記パナルジンの投与とAの死亡との間に相当因果関係
が認められる。
(被告の主張)
アラクテックの投与
過失
本件DSA検査を実施する前から丸1日かけて2000を投与したml
のであるし,量的にも一般的なものであるから,大量急速投与というも
のではなく,何ら問題はない。
因果関係
ラクテックの投与が小脳出血の誘因となった可能性は考え難い。
イパナルジンの投与
過失
Aは,閉塞性動脈硬化症の治療目的で被告病院に入院したのであるか
ら,入院前に処方されていたパナルジンの服用を継続するのは当然であ
る。また,本件DSA検査とAの小脳出血との間の因果関係は不明で,
本件DSA検査の実施前に小脳出血の発生を予見することは不可能であ
り,これを予見すべき義務はなく,本件DSA検査の前に,小脳出血を
予防すべくパナルジンの服用を中止すべきであるという注意義務はない。
なお,前記1イのパナルジンに関する指摘は,手術手技によって術
中に直接に生じる出血のことを指しているのであり,本件のように,D
SA検査後にたまたま発生した小脳出血を指しているものではない。
因果関係
パナルジンの投与が小脳出血の誘因となった可能性は考え難い。
争点(本件DSA検査後の検査が遅れたことに関する責任の有無)につ
いて
(原告らの主張)
ア過失
①Aの身体には,本件DSA検査直後から明らかな異状が生じ,その後
24日午後8時以降も継続的に異状が生じていた。すなわち,同日午後1
0時ころから,しきりに起き上がろうとする,四肢をバタバタ動かす,強
度興奮,冷汗(顔面∼前胸),悪心,夕食全部嘔吐,しきりにえづく,上
体をしきりに左右に揺らしたりするなどの異状が次々に発生していた。②
悪心・嘔吐は小脳出血の特徴で,特に,Aに生じたような小脳中央部の出
血の場合は,強い嘔吐とともに体のふらふら感が強い。③ドルミカムの副
作用には,起き上がろうとしたり,上体を左右に揺らすといったことは含
まれていない。
これらのことからすれば,Aに小脳出血等が生じていることは予想する
ことができたのであるから,より早期に検査(CT検査,MRI検査,脳
血管造影検査)を実施すべきであった。それにもかかわらず,被告病院の
医師は,上記異状をドルミカムの副作用であると誤診して,25日午後2
時ころに本件CT検査を実施するまでの約15時間,検査をしなかったの
であり,この点に過失が認められる。
イ因果関係
本件DSA検査後いち早く上記各検査を実施していれば,もっと早く脳
内の異常(小脳出血)を発見することができ,いち早く適切な治療(開頭
減圧,血腫除去術等)をすることにより,小脳出血の増幅等を防止し,A
の死亡を回避することができたはずである。
したがって,上記各検査を実施しなかった不作為とAの死亡との間に相
当因果関係が認められる。
(被告の主張)
ア過失
被告病院の医師は,24日の本件DSA検査直後,同日午後10時ころ,
25日午前9時前及び同日午前10時ころに回診し,被告病院の看護師は,
24日の本件DSA検査後一夜のうちに十数回Aの病室を訪室し,Aの観
察を行ったのであり,Aを長時間放置したということはない。
そして,Aには,本件DSA検査終了後である24日午後6時ころには
何らの異状は認められず,同日午後8時ころから同日午後9時ころにかけ
て興奮状態が認められたにすぎない。また,鎮静剤(ドルミカム)の投与
後25日午前1時ころには興奮状態も治まり,四肢の麻痺その他の異状は
認められず,同日午前9時及び同日午前10時の診察では,やや意識レベ
ルの低下が認められたものの鎮静剤の影響が考えられたこと,脳神経学的
所見に明らかな左右差はなく,脳神経の異常を示す症状や四肢の麻痺その
他の異状は認められなかったことから,経過を観察していたところ,同日
昼食時に,明らかな麻痺は認められなかったが,食事動作が困難であった
ため,脳血管障害の可能性も考えて本件CT検査を実施したところ,小脳
出血が発見されたのである。
このような経過に照らすと,同日の昼食時が,Aの小脳出血を疑い得た
最初の時期であるから,小脳出血の発見に至る経過について過失は存在し
ない。
イ因果関係
24日に小脳出血が生じたものの,本件CT検査後,水頭症に対する本
件VPシャント術を施行したことにより脳室が小さくなり,脳圧も下がり,
出血も増加せず,意識レベルも回復し,その後28日にAの容態が急変し
た時も出血巣は拡大していなかったのである。したがって,24日に生じ
た小脳出血はAの死亡に影響を与えておらず,本件CT検査以前に小脳出
血を発見してそれに対する治療をしていたとしても,Aが死亡したことに
変わりはないのであり,本件CT検査以前に検査をしなかった不作為とA
の死亡との間に因果関係は認められない。
争点(小脳出血判明後に本件VPシャント術を施行したことに関する責
任の有無)について
(原告らの主張)
ア過失
①VPシャント術により脳圧が低下し,小康状態を保った出血巣が拡大
して,圧の低い脳室に穿通し死に至ることも考えられ,Aに対して施行す
る適合性を欠いていた。②水頭症に伴う脳室拡大の所見を見て頭蓋内圧亢
進を危惧したのであれば,減圧のコントロールが容易で,侵襲の少ない経
頭蓋骨的外瘻で,圧流量調節可能な脳室ドレナージを選択すべきであった。
③Aに生じた小脳出血の原因は,小脳内の血腫であったところ,一般に,
小脳出血の場合,大脳の出血とは異なり,血腫除去はほとんどすべての場
合に推奨することができる方法である。④血腫除去の術前検査として血管
撮影は必須の検査ではなく,CT検査の結果に基づく所見だけで血腫除去
は可能である。
これらのことからすれば,Aに対しては血腫除去をするべきで,VPシ
ャント術をすべきではなかった。それにもかかわらず,被告病院の医師は,
本件VPシャント術を施行したのであり,この点に過失が認められる。
イ因果関係
Aには,本件DSA検査の実施により小脳出血が生じ,それに伴い血腫
が生じてその周辺には浮腫(組織液又はリンパ液が何らかの原因により細
胞内・細胞間隙又は体腔内に貯留する状態)があり,脳幹部は不均一で,
周囲に脳脊髄液の通路がなく,非交通性水頭症(水頭症のうち通過障害に
よるもの)が生じ,脳幹部の脳ヘルニアが生じていたところ,本件VPシ
ャント術(急速な脳内(テント上の側脳室)のドレナージ)を施行したこ
とにより,水頭症の進行は抑えられたものの,小脳テント上の脳圧が低下
し,テント切痕ヘルニアが増強悪化し,脳幹及び小脳テント下の小脳のヘ
ルニア(小脳テント下が上方に食い込む)が増悪し,①脳幹部が圧迫され
たことにより,また,②小康状態を保っていた出血巣が拡大して,更なる
出血を招くとともに,圧の低い脳室に穿通したことにより,Aは死亡した
のであり,本件VPシャント術を施行しなければ,本件死亡の結果を回避
することができたはずである。
したがって,本件VPシャント術の施行と本件死亡の結果との間に因果
関係が認められる。
(被告の主張)
ア過失
①Aには水頭症に伴う脳室拡大があり,VPシャント術の適応があった。
②Aの場合,高齢であり,実際に本件DSA検査後に安静がとれない傾向
にあったため,外脳室ドレナージではチューブの自己抜去などの危険が考
えられたことから,より安全な方法であるVPシャント術を選択した。③
被告病院が血腫除去を行わずにVPシャント術を行ったのは,被告病院で
は,小脳出血に対する治療法として,血管撮影を行った上での血腫除去又
はVPシャント術を提案したところ,原告らが,血管撮影の実施を拒絶し
たことに加え,直接の血腫摘出術は,Aが高齢であり,また,全身麻酔下
での後頭蓋の手術であるから負担が重いこと,一方で,Aの意識状態は窩
比較的良く,四肢も動いており,直ちに血腫を除去しないと生命に危険が
あるというほどの血腫による圧迫症状もなかったことから,まず,VPシ
ャント術で急性期を超えれば予後は良いと考えられたからである。④CT
検査の所見だけで血腫除去を行うことも不可能ではないが,仮に血管の異
常があった場合には,術中に予想外の事態が発生するおそれがあり,また,
手術の術式も変わるところ,Aの場合には,収縮期血圧が180を超mmHg
えていないにもかかわらず出血を生じていたこと,脳出血の頻度の高い部
位以外からの出血であったことから,脳動脈奇形のような血管の異常が否
定しきれなかった上,血管に直接処置を加える穿刺,吸引等をする前提で
あったから,血管撮影は必要であった。
イ因果関係
本件VPシャント術を施行した後,Aの脳室が小さくなり,脳圧が低下
したのであるが,出血は増加せず,CT検査の結果によると出血巣も拡大
していないし,また,意識レベルも回復していた上,座位になって食事を
摂るまでに回復したのであり,テント切痕ヘルニアが生じていたとは考え
られないのであるから,本件VPシャント術を施行したことと28日の急
変との間には因果関係がない。
争点(小脳出血判明後にペルジピン,ラクテック,ニトロール,デカド
ロン及びプレタールを投与したことに関する責任の有無)について
(原告らの主張)
ア過失
①本件DSA検査終了後,Aはぐったりし,しばらくしたら盛んに起き
あがろうとし,上体が左右に振れだしたりした。また,血圧は収縮期血圧,
拡張期血圧ともに上昇した。②Aに小脳出血が生じ本件CT検査によって
大きな出血が存在することが確認された後,25日早朝に出血が完了し同
日昼には止血が完成したことを示す客観的資料は存在しなかった。仮に,
一時的に止血していたとしても,数時間前には多量の出血があり,その後
ある程度の時間出血は持続していたと推定されるのであるから,出血を促
すような薬剤を投与すれば,いずれ何時間か後に再度出血を招来する蓋然
性があった。③ペルジピンに関しては前記1オのような,ラクテックに
関しては前記1ウのような,ニトロールに関しては前記1カのような,
デカドロンに関しては前記1キのような,プレタールに関しては前記1
クのような各指摘があり,いずれも出血時には禁忌とされ,小脳出血の
増幅拡大を促すような薬剤であった。
これらのことからすれば,Aに対し上記ペルジピン等を投与すれば小脳
から再出血することは十分予測し得たのであるから,上記ペルジピン等の
各禁忌薬剤の投与は回避すべきであった。それにもかかわらず,被告病院
の医師は,漫然とこれらを投与し続けたのであり,この点に過失が認めら
れる。
イ因果関係
Aには24日夜半ころから小脳出血及び頭蓋内圧亢進が継続して存在し
ていたところ(なお,小脳テント上の脳圧は本件VPシャント術により物
理的に下がったが,小脳テント下は頭蓋内圧亢進状態であった。),禁忌
薬剤(ペルジピン,ラクテック,ニトロール,デカドロン及びプレター
ル)を投与したことにより,ペルジピンやリプル等と相乗的に作用して,
小脳出血が増幅し,更なる出血を招いた上,第四脳室の穿破や左肺出血等
が生じ,本件死亡の結果が発生したのであり,上記各薬剤を投与しなけれ
ば,Aの死亡を回避できたはずである。
したがって,上記各薬剤の投与とAの死亡との間に相当因果関係が認め
られる。
(被告の主張)
ア過失
ペルジピンの投与に関しては,①Aの血圧を下げる必要があったところ,
血圧を下げる薬剤として,頭蓋内出血を助長しないヘルベッサーもあった
が,これには徐脈にする傾向や心不全を来す副作用があり,脈拍を下げる
ことは良くないと考えられた,②25日に実施した本件CT検査の所見及
びAの24日夜半の症状に照らすと,Aが小脳出血を来したのは同日夜半
であり,25日早朝には出血は治まっていたと考えられ,同日昼には出血
が治まってから6時間を経過しており,止血は完成していると判断された。
そこで,Aに対して同日午後4時10分以降にペルジピンを投与したので
あり,この点に過失は存在しない。
ニトロールの投与に関しては,これを使用したのは,手術後でもあり心
電図においてSTの低下やT波の陰性化が見られ,狭心症や心筋梗塞等の
発作も起こり得ると考えたからであり,使用量も多くはないのであるから,
これを投与した点に過失は認められない。
イ因果関係
プレタールの投与に関しては,プレタールを投与したことと28日に再
出血したこととの関連性は考えられない。そもそも,Aは,25日朝に服
用するためのプレタールを処方されたが,同日午前3時ころ嘔吐し,潜血
が認められたため,プレタールの服用は中止され,服用していない。
また,ペルジピン,ラクテック,ニトロール及びデカドロンを投与した
ことと28日に再出血したこととの関連性も考えられない。
争点(説明義務違反の有無)について
(原告らの主張)
ア本件DSA検査前の説明
過失
①Aは本件DSA検査の実施前に出血を予測させる薬剤(リプル,パ
ナルジン)を継続して服用し,かつ,その年齢や症状からして,DSA
検査を実施すれば脳出血が生じる可能性は十分あった。②下肢閉塞性動
脈硬化症の診断方法には,DSA検査の他にMRA検査やCT検査もあ
り,その方が安全性は高かった。
これらのことからすれば,本件DSA検査を実施する前に,A又はそ
の家族に対し,DSA検査の危険性及びMRA検査,CT検査の説明を
すべきであった。それにもかかわらず,被告病院の医師は,本件DSA
検査を実施するに当たり,その目的,必要性,危険性を十分に説明せず,
また,MRA検査等についての説明を全くしなかった。
因果関係
被告が,A及びその家族に対し,MRA検査やCT検査について説明
しなかったため,A及びその家族の検査方法を選択する機会が失われた。
A及びその家族が上記説明を受けていれば,MRA検査やCT検査を依
頼し,本件DSA検査を受けなかった結果,小脳出血が発生することも
なく,Aは死亡しなかった。
また,A及びその家族は,本件DSA検査の危険性(出血や,血栓又
は塞栓形成による四肢の更なる血行不全)について十分な説明を受けな
かったため,自己決定権が侵害された。
イ小脳出血判明後の薬剤投与の説明
過失
①本件CT検査により小脳出血が判明した。そして,それが止血した
との客観的な証拠は見当たらなかった。仮に,一時的に止血していたと
しても,数時間前には多量の小脳出血があったのであるから,出血を促
すような薬剤を投与すれば,再度出血を招来する蓋然性があった。②出
血時には使用することが禁忌とされている薬剤を2種類(リプル,パナ
ルジン)も投与した。③リプル,パナルジン,ペルジピン,プレタール
等の各薬剤は,いずれも出血時に禁忌とされる薬剤であった。
これらのことからすれば,小脳出血が判明した後にこれらの薬剤を投
与するのであれば,それに当たって,A又はその家族に対し,その必要
性及び危険性を十分説明すべきであったにもかかわらず,被告病院の医
師はこれを全くしなかった。
因果関係
A及びその家族は,Aが小脳出血判明後に出血を促す可能性がある薬
剤の投与を受けるに際し,その必要性,危険性について十分説明を受け
なかったため,自己決定権が侵害された。
(被告の主張)
ア本件DSA検査前の説明
被告病院の医師は,本件DSA検査の実施に当たって,初診時から本件
DSA検査前日までの入院中の回診時に,Aに対し,その目的,必要性及
び一般的な合併症について十分な説明を繰り返し行っており,説明義務違
反はない。
イ小脳出血判明後の薬剤投与の説明
原告らが説明義務の前提としている事実に誤りがあり,原告らの主張は
失当である。
争点(損害額)について
(原告らの主張)
ア逸失利益
Aは,税理士としての収入が1年間当たり300万円ほどあり,84歳
まで働くことができたとすると,生活費として50パーセントを要したと
しても,少なくとも500万円を得られたはずである。
イ慰謝料
Aが受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,少なくとも2500万円を下
らない。
ウまとめ
したがって,Aが被った損害額は合計で3000万円であり,原告らは,
これを法定相続分に応じ2分の1ずつ相続した。
よって,原告らは,被告に対し,主位的には債務不履行に基づき,予備
的に不法行為に基づき,それぞれ1500万円及びこれに対する訴状送達
の日の翌日である平成14年6月1日以降支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
上記(原告らの主張)はいずれも争う。
第3当裁判所の判断
1被告病院におけるAの診療経過
前記前提事実に加え,証拠(甲9,11,12,14,17∼20,35∼
40,乙1,2,5∼7,証人Y,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の各事実が認められる。
初診時の状況等
Aは,15日,B病院の紹介で,被告病院の循環器科を受診し,被告病院
の医師であるK医師の診察を受けた。Aには,既に,閉塞性動脈硬化症及び
高血圧症との診断がされており,紹介状には,「右下腿末梢,右足が冷感あ
り。入院加療が必要である事を説明致しました。他の内服加療あるいはDS
A再検も含め御高診,御加療の程宜しくお願い申し上げます。」との記載が
あった。
Aは,K医師に対し,前日(14日)夜の安静時に,右下肢に痛みがあっ
たと訴え,K医師は,右大腿動脈以下の脈拍は触れなかったが,虚血症状の
進行は認められなかったので,外来診療での経過観察とした。
再診時の状況等
Aは,17日,前日(16日)に少しの歩行で痛みがあったと訴えて,再
び被告病院を受診した。そこで,K医師は,当日から入院加療を行うことと
し,リプルの点滴投与を行った。また,その際,K医師は,Aに対し,必要
であればDSA検査を行うことを説明した。
本件DSA検査の実施
アK医師は,Aに対してDSA検査を実施することに決め,A及びX1に
対し,24日,局所麻酔にて,大腿部からカテーテルを挿入して血管造影
を行うこと,造影剤を使用すること,合併症としてアレルギーや出血が起
こり得ることを説明し,A及びX1は,DSA検査に対する同意書に署名,
押印した。
イ同日午後4時40分ころから午後6時ころにかけて,Aに対して,本件
DSA検査が実施された。本件DSA検査実施時及び実施直後において,
Aの全身状態に特段の変化や異状は認められなかった。
ウ本件DSA検査の結果,Aには,閉塞性動脈硬化症,左大腿動脈閉塞及
び右外腸骨動脈不完全閉塞との確定診断が付された。
本件DSA検査実施後の状況
アAは,同日午後8時ころ,しきりに起きあがろうとするなどやや興奮気
味で,午後9時ころには強度の興奮状態となり,起きあがろうとして服を
脱いだり,点滴を引っ張ったりしたため,ドルミカム(鎮痛剤)が投与さ
れた。すると,Aは,夕食を全部嘔吐した後,眠りに入り,いびきをかい
た。顔面から前胸にかけて冷や汗をかいていた。
イ午後10時ころ,付き添っていた家族から,「またえづいており,何か
おかしい。」との報告を受けた看護師が,Z医師に回診を依頼した。Aは,
目がトロンとしており,眼球が上方を向いていたが,呼び掛けには反応し,
眼球の左右・上下運動,両下肢の屈曲に異常は見られなかった。
ウ翌25日午前1時ころ,Aの興奮状態は治まり,Aは,看護師に対して,
「さっきはどうも迷惑をお掛けしました。」と述べた。
エ午前3時ころ,Aは,異色物が混じったものを嘔吐した。
オ午前6時ころ,Aに呂律困難が認められたが,呼び掛けには反応し,両
手の握力及び両下肢の屈曲に異常はなかった。
カ午前9時ころ,Aは,呼び掛けには反応するが,やや傾眠状態であった。
K医師は,前日の夜に使用したドルミカムの影響であると考え,経過観察
とした。
小脳出血の発見
Aは,同日の昼食時に食事動作が困難であったため,午後1時ころ,本件
CT検査を受けたところ,水頭症に伴う脳室拡大及び小脳中央部に小脳出血
に伴う血腫が認められた。
本件VPシャント術の実施
アK医師から引継ぎを受けた被告病院代表者のY医師は,X1及びX2夫
婦に対し,本件CT検査の結果,小脳出血が見付かったこと,動脈瘤か血
管奇形の可能性が高く,これを確認するためには脳の血管撮影が必要であ
るが,危険を伴うため,緊急の処置として脳室ドレナージをした方がよい
と説明し,Aに対し,本件VPシャント術を施行した。
イ翌26日午前10時のAの状態は,意識状態がJCS(急性期の意識障
害を評価する指標)のⅠ−1(意識清明とはいえないが,刺激しないでも
覚醒している状態)で,命令運動には従うが,時々,測定中の体温計を布
団の上に投げたり,創部のガーゼを外そうとするなどの行動に出ていた。
ウ同日午後3時ころ,Y医師がX1及びX2に対してAの病状説明をした
際,X2から,このままの状態で置いておくよりも血管撮影をして手術を
して欲しいとの希望があったが,Y医師は,血腫除去した場所は良くなる
が,その後体に起こり得る侵襲の方が大きいとして,血管撮影はしない方
がよいと説明した。
エ同日撮影した頭部CT検査の結果では,脳室拡大は消失し,血腫の変化
も見られず,また,バルブ(VPシャント)の機能は良好であった。
オ26日から27日にかけてのAの状態は,意識状態はJCSⅠ−1ない
し2(見当識障害があるが,刺激しないでも覚醒している状態),自力で
座位をとり,飲水することができる状態であった。また,Aは,何度も起
きあがろうとしたり,手足を動かして抑制帯を外そうとするなどの行動を
取っていた。
Aの死亡
Aは,28日午前5時55分ころ,巡回した看護師に対し,「おはよう」
と挨拶するなど特に異状は見られなかったが,午前6時5分ころ,突然,徐
脈発作と意識レベルの低下を来し,救命処置を受けるも改善せず,午前7時
54分,被告病院において死亡した。
なお,急変時に撮影した頭部CT検査によると,明らかな出血の増大は見
られず,脳室は拡大傾向であるが一応脳溝は見えており,また,バルブの状
態も良好であった。
2本件に関する医学的知見
証拠(甲48,63∼65,67,69,73,77,86,92,93,
乙3∼5)によると,以下の医学的知見がそれぞれ認められる。
閉塞性動脈硬化症
閉塞性動脈硬化症は,腹部大動脈又は四肢の主要動脈が粥状硬化病変のた
めに狭窄又は閉塞して,四肢に慢性の循環障害を来す疾患である(乙3)。
臨床症状としては,間欠性跛行が特徴的である。一定の距離を歩くと下腿
の筋に疲労感・疼痛が生じる。休息により数分で軽減するので,再び歩行が
可能となる。また,安静時の疼痛は,虚血の進行に伴って生じる。筋肉・皮
膚・神経の虚血症状で虚血性神経炎になると,夜間臥床時の疼痛を訴える
(乙3)。
一般に,閉塞性動脈硬化症の治療は,症候の重症度判定と合併疾患の評価
を行った後に,侵襲の軽い順番に検討される。すなわち,薬物療法(運動療
法を含む。),血管内治療,腰部交感神経節切除術,手術的血行再建術の順
番である。手術による患者のQOL改善効果は劇的であるが,侵襲性の観点
からの考慮も必要となる。したがって,重症の間欠性跛行(少しの歩行で痛
みが生じ,日常生活にも難渋)などの場合を除いて,手術的治療(侵襲的治
療)の対象とするか否かは,患者の日常の活動性への要求度と初期跛行距離
との乖離の大きさに依存するとするのが,多くの我が国の血管外科医の見解
であるとされている(甲69)。
血管造影検査
血管造影検査は,撮影装置,造影器具,造影剤などの改良・普及により,
以前より比較的容易に施行されるようになったが,超音波,CT,MRIな
どに比べ依然として最も侵襲性の高い検査である。しかし,血管造影は,動
脈疾患の画像診断に不可欠な検査法である(甲48,67,乙4)。
血管造影検査は,ルチーンの診断法として使用すべきではないが,血行再
建術の前には施行すべきである。手術計画を確立するための解剖学的所見の
決定に有用であり,経皮経管血管形成術や血栓溶解術のような非手術的操作
を考慮する場合にも適応がある(甲70)。
血管造影の合併症は,造影剤による合併症と手技に由来する合併症とがあ
る。前者は,造影剤注入局所における熱感や痛み,アレルギー性皮膚症状,
嘔気,嘔吐などで,これらはその高い発生頻度にもかかわらず反応は一過性
である。循環器系に現れる反応としては,脳,心臓,肺,大血管などの
を刺激することによる徐脈,心拍出量低下,血圧低下などもpressurereceptor
重篤な合併症につながることもある。後者のうち特に問題となるものとして
は,穿刺部の出血や血腫形成等が発生頻度の高い合併症として挙げられてい
る(甲92)。
小脳出血
ア非外傷性脳出血は主として高血圧が原因とされ,持続性高血圧→細動脈
の血管壊死→破綻・出血という機序で起こる。高血圧性脳出血の好発部位
の一つとして小脳が挙げられている(甲65)。
イ小脳出血は,①短時間で死亡する劇症型,②後頭部痛,めまい,嘔吐な
どがあり,少し時間をおいて意識障害が出現する重症型,③ごく軽い小脳
症状のみで,出血が小脳半球に限局している軽症型に分類される。頻度に
ついては,劇症型はまれで,重症型が最も頻度が高い(60∼70%)と
されている(甲63)。
ウ小脳出血の最も多い初発症状は,頭痛(後頭部痛が最も多い。),嘔気
と嘔吐,めまい又はめまい感,不安定歩行又は歩行不能,構音障害,そし
てより少ないが傾眠である(甲93)。
エ意識が清明で麻痺などの神経症状が軽度な症例に対しては,血圧管理及
び全身状態の管理を行う保存的治療が第一選択である。高齢者などの手術
ハイリスクな症例に対しても,保存的治療が第一選択となる。
しかし,最大径が3以上の小脳出血で神経学的に症候が増悪しているcm
場合又は小脳出血が脳幹を圧迫し水頭症を生じている場合には,手術が推
奨されるとされている(甲86)。
水頭症
水頭症とは,頭蓋内に余分な髄液が溜まり,脳室が拡大した状態をいう。
水頭症の治療としては,急性期を乗り切る目的で,まずは脳室ドレナージ
(頭蓋骨に1個穴をあけ,そこから脳室まで細い管を入れ,その管から髄液
を外に流し出す方法)を施行し,それでもなお水頭症が持続する場合や,長
期にわたり水頭症が持続することが初めから分かっている場合には,脳室−
腹腔短絡術(VPシャント術)や脳室−心房短絡術(VAシャント術)が施
行される(甲73)。
3Aが死亡に至った機序等
問題の所在
原告らは,Aの直接死因は,小脳出血ないし小脳出血後に発症した脳ヘル
ニア等の脳の異常であり,その小脳出血は,本件DSA検査によって生じた
か,又はAが服用した薬剤によって誘発されたと主張するので,まず,この
点について検討する。
Aの直接死因
前記認定の診療経過に加え,証拠(甲7,34,35,40,被告代表者
本人,鑑定の結果)によると,本件CT検査により小脳出血が確認された後
の25日から27日にかけてのAの意識レベルはJCSⅠ−1∼2であり,
28日朝の病状急変までは意識状態は比較的良い状態に保たれていたのであ
って,小脳出血及びそれに続発した水頭症による頭蓋内圧は良好にコントロ
ールされており,28日朝の時点においてはこれらが原因となって意識障害
を突発する状態ではなかったと考えられること,28日の病状急変時に撮影
した頭部CT画像によっては,明らかな出血の増大は見られず,再出血が起
こったとは認められないこと,解剖所見等において,脳ヘルニア(テント切
痕ヘルニア)は認められていないこと,他方,病状急変後の同日午前6時1
3分に測定された心電図には著明な徐脈と広汎な心筋梗塞を示す所見が見ら
れたこと,Aの死亡時刻はそれから約1時間40分後の同日午前7時54分
であったこと,担当医師は,剖検依頼書に「通常,脳で死亡の場合は徐々に
意識が悪くなり,昏睡状態となり死亡されるのですが,急に死亡されました。
この様に直前まで意識がよく,急な再出血又は梗塞(心房細動あり)の様な
ことがあったのでしょうか。それとも循環器系の発作でしょうか。最後のE
KGではSTの上昇がみられたのですが。」と記載し,心臓死を疑っていた
こと,Y医師は,死亡診断書には直接死因として小脳出血と記載したが,一
応の判断であり,十分には納得していなかったことがそれぞれ認められる。
また,証拠(鑑定の結果)によると,一般的に,心筋梗塞発症後余りにも
早い死亡の場合には,心臓壊死などの肉眼的病理所見が完成されず,顕微鏡
的な病理所見においても判断は容易ではないことが認められる。
これらの事実を総合すると,Aの死亡直後の病理解剖において,直接死因
は小脳出血及び第四脳室穿破と考えられていたとしても,Aは,小脳出血な
いしその他の脳の異常が原因で急変死亡に至ったとは考えがたく,急性心筋
梗塞を直接の死因として死亡した可能性が高いと考えるのが相当である。
小脳出血の原因
前記認定の診療経過及び医学的知見に加え,証拠(甲7,36∼38,鑑
定の結果)によると,Aはもともと高血圧症で治療を受けていたが,被告病
mm院入院後のAの血圧は,本件DSA検査実施前で拡張期血圧が度々100
を超え,本件DSA検査実施後の24日午後11時から翌25日午前6時Hg
にかけては,収縮期血圧が172∼188,拡張期血圧が90∼100mmHg
であり高血圧状態が続いていたこと,非外傷性脳出血は主として高血圧mmHg
が原因とされ,高血圧性脳出血の好発部位の一つとして小脳が挙げられてい
ること,AのCT所見は,高血圧が基礎疾患となって発症する高血圧性脳出
血の典型的な所見であること,Aのように全身に動脈硬化を示す閉塞性動脈
硬化症と高血圧症を併せ持つ患者は,ストレスや緊張などで容易に血圧が上
昇しやすいこと,Aは,動脈硬化を増強させる危険因子である喫煙を1日当
たり10本程度続けていたこと,Aの剖検所見において,小脳出血の原因と
なり得る脳動脈瘤や脳動脈奇形等の脳血管病変の指摘がないことがそれぞれ
認められる。
また,前記認定の医学的知見によれば,血管造影の副作用(合併症)とし
て脳出血は挙げられていないし,証拠(被告代表者)によると,全身の血液
量は約13リットルであるところ,血管造影の際に造影剤を20∼25注cc
入したことによって,血管全体の圧力が高くなるとは考えられないことに照
らすと,本件DSA検査の実施が,直接,Aの小脳出血を引き起こしたと認
めることはできない。
これらの事実を総合すると,Aの小脳出血は,本件DSA検査や同検査実
施後の体位固定によるストレスや緊張が付加され,血圧が上昇して小脳出血
を来す遠因の一つとなったことは否定できない(鑑定の結果)としても,臨
床的には,Aの高血圧症から合併した高血圧性脳出血であったというべきで
ある。
使用薬剤の影響
原告らは,被告病院において使用された各薬剤が,①単独で又はAの高血
圧症と相まって小脳出血を誘発した,②他の薬剤と相まって小脳出血を増幅
させ,更なる出血を招き,Aを死亡に至らせたと主張する。
確かに,前記前提事実のとおり,個々の薬剤情報における注意事項,副作
用等として,Aの予後を悪化させ得る可能性のある記載が存在するが,上記
①の点については,本件全証拠によっても,ラクテック及びパナルジンの投
与が小脳出血を誘発したとの事実を認めることはできないし,上記②の点に
ついても,前記認定のとおり,本件VPシャント術の実施後のAの意識状態
は保たれていたこと,28日の急変時においても明らかな血腫の増大は認め
られなかったことに照らすと,Aにおいて,小脳出血の増大や更なる出血は
なかったというべきであり,これに加え,前判示のとおり,Aの直接死因は
急性心筋梗塞である可能性が高いことをも併せ考えると,被告病院において
投与されたペルジピン等の薬剤がAの予後を悪化させ,ひいてはAの死亡に
影響を与えたと認めることはできない。
したがって,この点についての原告らの主張は,いずれも採用することが
できない。
小括
以上のとおり,Aの直接死因は急性心筋梗塞である可能性が高く,また,
小脳出血が生じた原因はAの高血圧症によるものである。そうすると,原告
らが問題とする被告病院医師による作為及び不作為は,いずれもAの死亡に
直接結び付くものはないことになる。
4争点(本件DSA検査を実施したことに関する責任の有無)について
前記認定の診療経過及び医学的知見に加え,証拠(甲9,10,92,94,
乙6,証人K,鑑定の結果)によると,Aが前回DSA検査を受けたのは平成
8年12月12日であり,被告病院入院時には既に2年半が経過していたこと,
Aは,以前は薬物療法によって300∼400mの歩行は可能であったが,平
成11年6月13日の朝には100mの歩行にて跛行が生じる程度,翌14日
には3歩くらい歩くと休みたくなる程度にまで間欠性跛行の症状が進行してい
たこと,B病院のM医師は,K医師に対して,Aを紹介するに当たり,DSA
検査の実施も考慮するよう依頼していること,DSA検査には,患部動脈内に
造影剤を直接注入して血管病変を明瞭かつ精確に描出できるという利点がある
こと,DSA検査を実施する際の身体に対する侵襲は,鼠径靱帯の約2下のcm
部位を2∼3切開するにとどまることがそれぞれ認められる。mm
そうすると,被告病院入院時においては,Aの下肢閉塞性動脈硬化症に対す
る治療につき,薬物療法以外の治療も含めて検討すべき時期にあったというこ
とができるところ,その検討のためには血管病変の進行の程度を精査する必要
があったといえる(鑑定の結果)。そして,K医師は,そのための検査として,
多少の手術侵襲はあるものの,鮮明度において他の検査より優れているDSA
検査を選択したのであって,その選択は医師の裁量の範囲内であるということ
ができ,ルチーンとして実施すべきではないとする前記医学的知見も,このよ
うな必要性がある場合にまで検査を否定する趣旨とは認められない。
したがって,原告らが縷々主張する点を考慮したとしても,Aに対して本件
DSA検査を実施した点につき,K医師に注意義務違反があったということは
できず,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。
5争点(本件DSA検査の実施に際しラクテック及びパナルジンを投与して
いたことに関する責任の有無)について
ラクテックの投与
原告らは,ラクテックを大量・急速投与した場合の副作用として脳浮腫が
指摘されていることなどを根拠に,Aに対してラクテックを投与した点に注
意義務違反があると主張する。
確かに,前記前提事実及び証拠(甲50)によると,ラクテックの投与量
は,1回当たり500∼1000,1時間当たり300∼500の点滴mlml
静注とされているのに対し,Aには1日で2000を投与したことが認めml
られるが,本件全証拠によっても,それが急速かつ大量投与であるとまでは
認めることはできないし,仮に,この投与を問題とする余地があるとしても,
前判示のとおり,ラクテックの投与によって,小脳出血が誘発されたと認め
ることはできない。
したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。
パナルジンの投与
原告らは,パナルジンについて,手術の場合出血を増強するおそれがある
こと,重大な副作用として脳出血が指摘されていることなどを理由に,Aに
パナルジンを服用させた点に注意義務違反があると主張する。
しかしながら,証拠(甲49)によると,パナルジン投与の注意事項とし
て記載された手術の場合に増強のおそれがある出血とは,術中の手術手技に
よって直接的に生じる出血であると解されるし,また,前判示のとおり,パ
ナルジンの服用によって,小脳出血が誘発されたと認めることはできない。
したがって,Aに対してパナルジンの服用を継続させた点につき,K医師
に注意義務違反は認められないから,この点に関する原告らの主張は,採用
することができない。
6争点(本件DSA検査後の検査が遅れたことに関する責任の有無)につい

過失
前記認定の診療経過及び医学的知見によると,Aは,25日午後9時ころ
に嘔吐し,午後10時ころにもえづくなどの異状が見られ,その後,いった
ん症状は落ち着いたものの,翌26日午前3時ころに再び嘔吐し,6時ころ
には呂律困難が認められ,午前9時ころには傾眠状態であったのであるが,
これらのAの症状は,いずれも小脳出血の初発症状(頭蓋内圧亢進を示す症
状)であるといえる。
そうすると,被告が主張するように,Aの上記各症状がドルミカムの副作
用と鑑別しにくいものであったとしても,Aの病態を的確に把握するために
は,同日朝か遅くとも午前中のうちには頭部CT検査を実施すべき注意義務
があったというべきである(鑑定の結果)。
したがって,K医師が,同日午後1時まで頭部CT検査を実施しなかった
点につき注意義務違反が認められる。
因果関係
しかしながら,前記認定の診療経過によると,25日深夜から翌26日午
前中にかけて,Aは,終始,呼び掛けには反応し,意識状態もJCSⅠ−1
∼2と比較的良い状態が保たれており,26日午前1時ころには,看護師に
対して「さっきはどうも迷惑をお掛けしました。」と述べ,いったんは状態
が回復している。これに加え,前判示のとおり,本件CT検査後に行われた
本件VPシャント術によりAの頭蓋内圧は安定していたこと,Aの直接死因
は小脳出血ではなく,心筋梗塞である可能性が高いことをも併せ考えると,
本件CT検査の実施が遅れたことによる影響は,Aの予後を左右するもので
はなかったというべきである。
そうすると,仮に,本件CT検査を26日の朝か午前中に行っていたとし
ても,Aの死亡を回避し又は死期を遅らせることができたと認めることはで
きないから,上記の注意義務違反とAの死亡との間には相当因果関係はな
いといわざるを得ない。
したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。
7争点(小脳出血判明後に本件VPシャント術を施行したことに関する責任
の有無)について
前記認定の医学的知見及び証拠(鑑定の結果)によると,小脳出血は血腫が
大きく(3以上が目安),神経症状が進行性に増悪している場合や,脳幹をcm
圧迫して水頭症を合併している場合に手術が行われ,神経症状が軽度な場合に
は手術を行わずに保存的治療による経過観察が第一選択とされていること,水
頭症を合併している場合には,脳室ドレナージなどの水頭症に対する治療を行
うとされていることがそれぞれ認められる。
そして,前記前提事実及び前記認定の診療経過に加え,証拠(鑑定の結果)
によると,Aの小脳出血の血腫は4大ではあったものの,25日の早朝からcm
午後にかけてのAの意識障害の程度はJCSⅠ−1であって,神経症状は軽度
のまま維持されており,頭痛の訴えもなかったこと,Aは当時81歳であり,
その脳は若年者に比べて萎縮していたため,小脳出血が起こった後も頭蓋内圧
の上昇の程度が比較的軽度であったと考えられることからすると,26日の時
点において,Aの生命に危険が及ぶほどの血腫による圧迫は認められず,手術
による血腫除去の必要性は低かったといえる。むしろ,血腫除去手術は,胸腹
部が圧迫されがちな腹臥位の姿勢で,手術時間及び麻酔時間が長時間にわたる
開頭手術によって行われる(鑑定の結果)ため,81歳のAには負担が重く,
その選択は慎重に行うべきであり,この点からも保存的治療が第一選択であっ
たというべきである。
なお,前記認定のとおり,Aの水頭症に対する治療として本件VPシャント
術が行われているが,Aは,本件DSA検査後及び本件VPシャント術後にお
いて,安静を保てず起きあがろうとしたり,点滴や抑制帯を外そうとするなど
の行動に出ており,そのAに対して脳室ドレナージを行うと,上記同様の行動
によってドレーンが外れ,感染や出血などの合併症を引き起こす危険性が高い
と考えられるから,体内埋め込み型のVPシャント術が行われたことは妥当で
あるといえる(鑑定の結果)。
したがって,Aに対して本件VPシャント術を実施した点につき,Y医師に
注意義務違反は認められないから,この点に関する原告らの主張は,採用する
ことができない。
8争点(小脳出血判明後にペルジピン,ラクテック,ニトロール,デカドロ
ン及びプレタールを投与したことに関する責任の有無)について
ペルジピン,ラクテック,ニトロール及びデカドロンの投与
原告らは,出血時には投与が禁忌とされていることなどを根拠に,Aに対
してペルジピン等の上記各薬剤を投与した点に注意義務違反があったと主張
する。
しかしながら,本件全証拠によっても,これら各薬剤の投与が適応を外れ
た誤使用であったと認めることはできないし,仮に,これら各薬剤の投与を
問題とする余地があるとしても,前判示のとおり,Aは再度の脳出血を起こ
していないし,これら各薬剤の投与が,Aの死亡に対して影響を及ぼしたと
認めることはできない。
したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。
プレタールの投与
前記前提事実及び証拠(甲40)によると,25日以降は,パナルジンか
らプレタールに変更する旨の指示が出ていたが,Aは,同日午前10時には
プレタールを服用しなかったことが認められ,また,本件全証拠によっても,
それ以降,Aがプレタールを服用した事実を認めることはできない。
したがって,Aはプレタールを服用していない以上,この点についての原
告らの主張は,採用することができない。
9争点(説明義務違反の有無)について
本件DSA検査前の説明
ア原告らは,本件DSA検査前に,DSA検査の危険性等についての説明
を受けなかったと主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,K医師は,A及びX1に対し,DS
A検査の方法及び合併症等についての一般的な説明をし,A及びX1は,
本件DSA検査の実施に同意したのであるから,この点につき,K医師に
説明義務違反があったということはできない。
また,前記認定のとおり,一般的には,DSA検査によって脳出血が起
こることは考えがたい上,本件においても,臨床的に,本件DSA検査の
実施がAの小脳出血ないし死亡に対して影響を及ぼしたとは認められない
のであるから,DSA検査に際して,脳出血の発生や死亡についての危険
性まで説明すべき義務は存在しないというべきである。
イさらに,原告らは,K医師が,MRA検査やCT検査についての説明を
しなかった点も問題とする。
しかしながら,そもそも患者に対する医師の説明は,患者が当該療法を
受けるか否かについて熟慮し,決断することを助けるために行われるもの
である。本件のように考え得る検査方法が複数存在する場合,医師の合理
的な裁量に基づいて選択された検査が行われることが診療契約の内容とな
り,かつ,患者もそれを望んでいるのが通常であるところ,身体への侵襲
がない検査方法が他に存在するからといって,その検査方法を積極的に選
択すべき事情がないにもかかわらずその検査方法について説明したとして
も,患者の決断に影響を及ぼすことはないばかりか,かえって患者を混乱
させる危険性もあり得るのであるから,患者から特に説明を求められてい
ないのであれば,それらの検査方法について説明すべき義務があると解す
ることはできない。
本件においては,K医師が,A及びその親族に対して,MRA検査やC
T検査についての説明をしなかったことにつき被告は特に争わないが,A
において,DSA検査ではなく,MRA検査やCT検査を積極的に行うべ
き事情や,A及びその親族から,これらの検査方法についての説明を求め
た事実を認めるに足りる証拠はないから,MRA検査やCT検査について
説明しなかった点につき,K医師に説明義務違反があると認めることはで
きない。
ウしたがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。
小脳出血判明後の薬剤投与の説明
原告らは,Aに小脳出血が見付かったのであるから,リプル,パナルジン
など出血時に禁忌とされる薬剤を用いるのであれば,その必要性及び危険性
について説明すべきであったなどと主張する。
そこで検討するに,証拠(甲8,37,乙7,被告代表者,鑑定の結果)
によると,Aの小脳出血は25日未明に発症した可能性があること,Aに対
するぺルジピンの投与は,高血圧に対する処置として,同日午後4時10分
以降に行われたが,この時点では,小脳出血の発症から半日以上が経過して
おり,小脳からの出血は止まっていた可能性が高いことがそれぞれ認められ
る。そうすると,Aに対するペルジピンの投与は禁忌とされている投与には
当たらないし,また,ペルジピンの副作用として再度の出血を来す危険性が
あることを認めるに足りる証拠はないから,原告らの主張は,その前提を欠
くといえる。
なお,本件全証拠によっても,Aに小脳出血が生じた可能性のある25日
未明以降,Aに対して,リプル,パナルジン,プレタールが投与された事実
を認めることはできないから,やはり,原告らの主張は,その前提を欠くと
いわざるを得ない。
したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。
第4結論
よって,その余の点を判断するまでもなく,本訴請求はいずれも理由がない
からこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条1項
本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
奈良地方裁判所民事部
裁判長裁判官坂倉充信
裁判官齋藤憲次
裁判官福田敦

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