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平成24年5月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第28388号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成24年3月22日
判決
大韓民国ソウル特別市<以下略>
原告原告1
大韓民国ソウル特別市<以下略>
同原告2
大韓民国ソウル特別市<以下略>
同原告3
大韓民国京畿道龍仁市<以下略>
同原告4
大韓民国ソウル特別市<以下略>
同原告5
大韓民国ソウル特別市<以下略>
同原告6
大韓民国京畿道議政府市<以下略>
同原告7
大韓民国京畿道高陽市<以下略>
同原告8
大韓民国ソウル特別市<以下略>
同原告9
原告ら訴訟代理人弁護士藤田清文
同松川雅典
同田積司
同冨來真一郎
同川井一将
原告ら訴訟復代理人弁護士大場規安
東京都品川区<以下略>
被告株式会社第一興商
訴訟代理人弁護士原秋彦
同野宮拓
同中川直政
名古屋市瑞穂区<以下略>
被告株式会社エクシング
訴訟代理人弁護士田中豊
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告株式会社第一興商は,原告らに対し,それぞれ別紙請求一覧表(1)の「請
求額」欄記載の各金員及びこれに対する平成21年9月12日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
2被告株式会社エクシングは,原告らに対し,それぞれ別紙請求一覧表(2)の
「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する平成21年9月12日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,別紙目録1の「曲名」欄記載の各楽曲(以下「本件各楽曲」と総称
する。)を作詞又は作曲した原告らが,被告らが,本件各楽曲のデータを作成
し,これを被告らの製造に係る業務用通信カラオケ装置の端末機に搭載された
ハードディスクに記録し,又は上記端末機を通信カラオケリース業者等に対し
て出荷した後に発表された本件各楽曲(新譜)のデータを被告らの管理するセ
ンターサーバに記録し,上記端末機にダウンロードさせた行為が,本件各楽曲
について原告らが有する複製権(著作権法21条)又は公衆送信権(同法23
条1項)を侵害する旨主張して,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償及
び遅延損害金の支払を求める事案である。
2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全
趣旨により認められる事実である。)
(1)当事者
ア原告らは,いずれも大韓民国(韓国)の国籍を有する作詞家又は作曲家
である。
イ被告株式会社第一興商(以下「被告第一興商」という。)は,音響,映
像機器の製造,販売,賃貸及びリース,電気通信設備による音響,影像,
符号等の送信事業及び同設備の運営等を目的とする株式会社である。
ウ被告株式会社エクシング(以下「被告エクシング」という。)は,電子
音響機器及び電子通信機器の製造,販売,賃貸及び輸出入,通信回線を利
用した各種情報提供サービス等を目的とする株式会社である。
(2)原告らの本件各楽曲の作詞・作曲及び著作権信託契約の締結
ア原告らは,昭和47年(1972年)から平成17年(2005年)6
月までの間,別紙目録1の「出版年度」欄記載の時期に,「曲名」欄記載
の各楽曲(本件各楽曲)を作詞又は作曲し,これを発表した。
イ原告らは,次のとおりの各締結日に,社団法人韓国音楽著作権協会(以
下「KOMCA」という。)との間で,KOMCAが制定した後記(3)の
著作権信託契約約款に基づいて,原告らの作詞又は作曲に係る楽曲につい
て著作権信託契約(以下「本件各信託契約」と総称する。)を締結した。
(ア)原告1
平成3年(1991年)1月3日締結(甲7の1の1,2)
(イ)原告2
平成15年(2003年)9月19日締結(甲7の2の1,2)
(ウ)原告3
平成3年(1991年)2月2日締結(甲7の3の1,2)
(エ)原告4
平成11年(1999年)10月22日締結(甲7の4の1,2)
(オ)原告5
昭和55年(1980年)9月2日締結(甲7の5の1,2)
(カ)原告6
昭和61年(1986年)12月31日締結(甲7の6の1,2)
(キ)原告7
昭和61年(1986年)9月10日締結(甲7の7の1,2)
(ク)原告8
昭和61年(1986年)6月27日締結(甲7の8の1,2)
(ケ)原告9
昭和55年(1980年)1月25日締結(甲7の9の1,2)
(3)KOMCAの著作権信託契約約款
アKOMCAは,昭和48年(1973年)3月7日,KOMCAとその
会員との間で締結する著作権信託契約の内容を定めることを目的として,
著作権信託契約約款(甲7の5の1,2,7の9の1,2)を制定した。
その後,著作権信託契約約款は,昭和61年(1986年)7月4日,
昭和62年(1987年)2月23日,平成3年(1991年)6月21
日,平成5年(1993年)5月17日,平成7年(1995年)3月1
8日,平成11年(1999年)1月20日,平成14年(2002年)
12月30日及び平成21年(2009年)3月18日にそれぞれ変更さ
れており,また,その変更(ただし,昭和61年7月4日の変更を除く。)
の都度,主務官庁である大韓民国文化体育観光部(以下「文化体育観光部」
という。)の承認を受けている(甲24の3の1,2,乙3の2の1,2。)。
(以下,著作権信託契約約款について,制定の年又は変更の年に従って,
それぞれを「昭和48年約款」(制定時のもの),「昭和61年約款」の
ようにいい,また,これらの各約款を総称して「本件各約款」という場合
がある。)
イ本件各約款には,次のような規定がある。
(ア)昭和48年約款(甲7の5の1,2,7の9の1,2)
「第1条(信託契約の当事者)本契約を締結するにおいて便利上著作権
信託者を甲と称して,社団法人韓国音楽著作権協会長…を乙と称す
る。」
「第2条(信託内容)甲は甲が所有している全ての著作権及び将来取得
する音楽著作権を信託財産として管理を委任して乙は著作権を管理
してこれによって得る著作物使用料を甲に支給する。」
「第4条(著作権の信託期間)乙が管理している著作権は乙が法律によ
って解散されない限り乙によって永久に管理することとする。」
「第5条(著作権の管理)
1.乙は甲が信託した著作物を管理して,其の著作物の管理に関して告
訴,訴訟を代行する。
2.甲は乙に信託した著作権に対して使用者から著作物使用料を直接徴
収や告訴,訴訟の提起または訴訟の取下げ,和解などをすることがで
きない。」
「第7条(著作物使用料の支給)
1.乙は著作物使用者から著作物使用料規定によって著作物使用料を徴
収する。
2.前項に著作物使用料は乙が制定した分配方法によって甲に直ちに通
報支給する。」
(イ)昭和61年約款(甲7の6の1,2,7の7の1,2)
「第1条(目的)本約款は音楽著作物の著作権を擁護し,その利用の円
滑をはかるために便宜上音楽著作権者(作詞者,作曲者,その他音楽
著作権を持った者)を甲と称して社団法人韓国音楽著作権協会を乙と
称して著作権信託契約の内容を決めることを目的とする。」
「第2条(著作権の信託)甲は現在所有している著作権及び将来取得す
る音楽著作権を信託財産として受託者である乙に管理を委任して乙
は委託者である甲のために著作権を管理してこれによって得る著作
物使用料を甲に支給する。」
「第4条(外国地域に対する管理)乙は外国地域に対する信託著作権の
管理を外国著作権管理団体等に委託することができる。」
「第5条(著作権の信託期間)契約締結日から著作権の存続期間満了ま
でとする。」
「第7条(訴権)受託者である乙は信託著作権及び著作権使用料等管理
に関して刑事上告訴または民事上訴訟を申し立てることができる。」
「第8条(著作物使用料の徴収及び支給)著作物使用料は乙が別に決め
た音楽著作物使用料規定及び分配規定によって使用者から徴収して
該当の著作権者に支給する。」
「第20条(付則)本の著作権信託契約約款は1986年7月4日改正
されたもので,旧信託契約約款は廃棄して本信託契約約款に改替して
交付する。」
(ウ)昭和62年約款(甲7の1の1,2,7の3の1,2)
「第1条(目的)本約款は音楽著作物の著作権を擁護してその利用の円
滑をはかるために社団法人韓国音楽著作権協会を″受託者″と,著作
物の著作権を委託する作詞者,作曲者,編曲者,音楽出版者等著作権
を所有している者を″委託者″として,著作権信託契約の内容を定め
ることを目的とする。」
「第2条(著作権の信託)
1.委託者は現在所有している著作権及び将来取得する著作権を本契約
期間中信託財産として受託者に管理を移転し,受託者は委託者のため
に信託著作権を管理してこれによって得られた著作物使用料等を委
託者に分配する。
2.前項の規定にかかわらず委託者は事前に受託者の承認を受けて次の
各号の場合著作権の全部または一部を譲渡することができる。
(中略)
ナ.委託者が他の委託者である音楽出版者に著作物の利用開発をはか
るために管理を委任する目的で著作権を譲渡する場合」
「第3条(著作権の信託期間)信託契約の期間は契約締結日から5年ま
たは著作権の存続期間満了までとする。」
「第6条(外国地域に対する管理)受託者は外国地域に対する信託著作
権の管理を外国著作権管理団体等に委託することができる。」
「第7条(著作物使用料の徴収及び分配)著作物使用料は受託者が主務
官庁の許可を得て定めた著作物使用料徴収規程規定及び分配規程に
よって徴収し分配する。」
「第10条(業務管轄地域)受託者は主務官庁の許可を受けて,次の地
域で業務を遂行する。
1.韓国内
2.外国著作権管理団体等に管理を委託した場合においてその外国著作
権管理団体等の業務執行地域」
「第11条(訴権)受託者は信託著作権及びこれに属する著作物使用料
等の管理に関して刑事告訴及び民事訴訟を提起することができる。」
「第19条(信託契約の終了)委託者は信託契約の終了した場合は遅滞
なく受託者に信託証書を返還して著作権の移転を受けなければなら
ない。」
「第25条(信託契約約款の変更)
1.受託者は主務官庁の許可を受けて本約款を変更した際は遅滞なくこ
れを公告しなければならない。
2.前項の約款変更に異議がある委託者は公告日から3月以内に信託契
約を解除できる。
(中略)
4.公告日から3ヶ月が経過しても解除権を行使しないときは第1項の
変更事項を委託者が承諾したことと見做す。」
(エ)平成11年約款(甲7の4の1,2)
「第1条(目的)本約款は音楽著作物の著作権を委託する作詞者,作曲
者,編曲者,音楽出版者等著作権を所有している者を″委託者(甲)″
といい,音楽著作物の著作権を保護してその利用の円滑をはかるため
に設立された社団法人韓国音楽著作権協会を″受託者(乙)″といい,
著作権信託契約の内容を決めることを目的とする。」
「第2条(著作権の信託)
①委託者は現在所有している著作権及び将来取得する著作権を本契
約期間中信託財産として受託者に著作権を移転して,受託者は委託者
のために信託著作権を管理してこれによって得られた著作物使用料
等を委託者に分配する。
②前項の規定にかかわらず委託者は事前に受託者に承認を受けて次
の各号の場合著作権の全部または一部を譲渡することができる。
(中略)
2.委託者が音楽出版者に著作物の利用開発をはかるために受託者に
再委託することを条件にして著作権の条件付譲渡をする場合
(中略)
⑤委託者はいかなる場合にも第1項によって受託者に信託した著作
物一体を第三者に利用承諾することができない。」
「第3条(著作権の信託期間)信託契約の期間は契約締結日から5年と
して相互異議がない限り5年単位でその期間が自動延長されること
とする。但し,委託者の著作権保有期間が5年未満の場合にはその期
間とする。」
「第6条(外国地域に対する管理)受託者は外国地域に対する信託著作
権の管理を外国著作権管理団体等に再委託することができる。」
「第7条(著作物使用料の徴収及び支給)著作物使用料は受託者が主務
官庁の承認を受けた著作物使用料徴収規定及び分配規定によって徴
収し分配する。」
「第10条(業務管轄地域)受託者は次の地域で業務を遂行する。
1.韓国内
2.外国著作権管理団体等に管理を委託した場合においてその外国著作
権管理団体等の業務執行地域」
「第11条(訴権)委託者は信託著作権に対して民事,刑事上の訴訟等
を提起できず,受託者が提起した訴訟等に関して合意または取下げ等
ができない。」
「第19条(信託契約の終了)受託者は信託契約の終了または解除後6
ヶ月以内に該当の著作物使用料の未支給分及びこれに対する決算書
を委託者に支給及び提出しなければならず,受領時委託者は遅滞なく
信託証書または信託を証明する文書を返還して著作権の移転を受け
なければならない。」
「第23条(信託契約約款変更)
①受託者は総会決意と主務官庁の承認を受けた約款を変更した際は
直ちにこれを公告しなければならない。
②前項の約款変更に異議がある委託者は公告日から3月以内に信託
契約を解除できる。
(中略)
④公告日から3ヶ月が経過しても解除権行使しない時は第1項の変
更事項を委託者が承諾したことと見做す,本約款施行以前の規定によ
って信託契約を締結した委託者は別途の手続きなしに本約款によっ
て信託契約が締結されたことで見做す。」
(オ)平成14年約款(甲7の2の1,2)
「第1条(目的)本約款は音楽著作物の著作権を委託する作詞者,作曲
者,編曲者,音楽出版者等著作権を所有している者を″委託者(甲)″
といい,音楽著作物の著作権を保護してその利用の円滑をはかるため
に設立された社団法人韓国音楽著作権協会を″受託者(乙)″といい,
著作権信託契約の内容を決めることを目的とする。」
「第2条(著作権の信託)
①委託者は現在所有している著作権及び将来取得する著作権を本契
約期間中信託財産として受託者に著作権を移転して,受託者は委託者
のために信託著作権を管理してこれによって得られた著作物使用料
等を委託者に分配する。
②前項の規定にもかかわらず委託者は事前に受託者に承認を受けて
次の各号の場合著作権の全部または一部を譲渡することができる。
(中略)
2.委託者が音楽出版者に著作物の利用開発をはかるために受託者に
再委託することを条件にして著作権の条件付譲渡をする場合
(中略)
⑤委託者はいかなる場合にも第1項によって受託者に信託した著作
物一体を第三者に利用承諾することができない。」
「第3条(著作権の信託期間)信託契約の期間は契約締結日から5年と
して相互異議がない限り5年単位でその期間が自動延長されること
とする。但し,委託者の著作権保有期間が5年未満の場合にはその期
間とする。」
「第6条(外国地域に対する管理)受託者は外国地域に対する信託著作
権の管理を外国著作権管理団体等に再委託することができる。」
「第7条(著作物使用料の徴収及び支給)著作物使用料は受託者が主務
官庁の承認を受けた著作物使用料徴収規定及び分配規定によって徴
収し分配する。」
「第10条(業務管轄地域)受託者は次の地域で業務を遂行する。
1.韓国内
2.外国著作権管理団体等に管理を委託した場合においてその外国著作
権管理団体等の業務執行地域」
「第11条(訴権)委託者は信託著作権に対して民事,刑事上の訴訟等
を提起できず,受託者が提起した訴訟等に関して合意または取下げ等
ができない。」
「第19条(信託契約の終了)受託者は信託契約の終了または解除後6
ヶ月以内に該当の著作物使用料の未支給分及びこれに対する決算書
を委託者に支給及び提出しなければならず,受領時委託者は遅滞なく
信託証書または信託を証明する文書を返還して著作権の移転を受け
なければならない。」
「第23条(信託契約約款変更)
①受託者は総会決意と主務官庁の承認を受けた約款を変更した際は
直ちにこれを公告しなければならない。
②前項の約款変更に異意がある委託者は公告日から3月以内に信託
契約を解除できる。
(中略)
④公告日から3ヶ月が経過しても解除権行使しない時は第1項の変
更事項を委託者が承諾したことと見做す,本約款施行以前の規定によ
って信託契約を締結した委託者は別途の手続きなしに本約款によっ
て信託契約が締結されたことで見做す。」
(カ)平成21年約款(乙3の2の1,2)
「第1条(目的)本約款は,音楽著作物の著作権(以下「著作権」とい
う)を委託する作詞者,作曲者,編曲者,音楽出版者など音楽著作権
者(以下「委託者」という)と音楽著作権を保護し,その利用の円滑
を図るために設立された社団法人韓国音楽著作権協会(以下「受託者」
という)の両者間の著作権信託契約の内容を定めることを目的とす
る。」
「第3条(著作財産権の信託)
①委託者は現在所有している著作権及び将来取得する著作権を本契
約期間中に信託財産として受託者に移転し,受託者は委託者のために
信託著作権を管理し,これによって得た著作物使用料等を委託者に分
配する。
②前項の規定にかかわらず,委託者は予め受託者の承認を受け,次の
各号の場合は著作権の全部又は一部を譲渡することができる。
(中略)
2.委託者が音楽出版社に,著作物の利用開発を図るために,受託者
に再委託することを条件として,著作権を条件付で譲渡する場合
(中略)
④第1項に基づき,委託者が受託者に信託した著作物に対して,委託
者はいかなる場合にも第三者に利用許諾及び権利の行使をすること
ができない。」
「第4条(著作権の信託期間)
①信託契約の期間は契約締結日から5年とし,相互異議がない限り,
5年単位でその期間が自動延長されるものとする。ただし,委託者の
著作権保有期間が5年未満である場合は,その期間とする。
②本契約は,両当事者がそれぞれ相手方に信託期間満了3ヶ月前に書
面にて信託契約を更新しない旨の通知をしていない場合には,従前と
同一の条件で信託契約期間が自動延長されるものとする。」
「第7条(外国地域に対する管理及び再委託)
①受託者は信託著作権の外国地域での管理のために,外国著作権管理
団体に再委託することができる。」
「第8条(著作物使用料の徴収及び分配)受託者は主務官庁の承認を得
た著作物使用料の徴収規定及び分配規定によって著作物使用料を徴
収し,委託者に分配する。」
「第11条(業務管轄地域)受託者は次の地域で業務を遂行する。
1.韓国内
2.外国著作権管理団体などに管理を委託した場合における,その外国
著作権管理団体などの業務執行地域」
「第12条(訴権)委託者は信託著作権に対して民事・刑事上の訴訟な
どを提起することができず,受託者が提起した訴訟などについて合意
または取下げなどをすることができない。」
「第20条(信託契約の終了)受託者は信託契約の終了または解除後6
ヶ月以内に,当該著作物使用料の未払い分及びこれに対する決算書を
委託者に支給及び提出しなければならず,受領時に委託者は遅滞なく
信託証書または信託を証明する文書を返還し,著作権の移転を受けな
ければならない。」
「第24条(信託契約の約款の変更)
①受託者は総会の議決と主務官庁の承認を得て約款を変更したとき
は,遅滞なくこれを公告しなければならない。
②前項の約款の変更に異議がある委託者は,公告日から3ヶ月以内に
信託契約を解除することができる。
(中略)
④公告日から3ヶ月が経過しても解約権の行使がないときには,第1
項の変更事項を委託者が承諾したものと認め,本約款の施行以前の規
定によって,信託契約を締結した委託者は別途の手続なく本約款によ
って信託契約が締結されたものとみなす。」
(4)KOMCAと社団法人日本音楽著作権協会との間の相互管理契約
KOMCAと社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)
は,平成19年(2007年)12月10日,KOMCAが管理する韓国の
楽曲の日本国内における管理をJASRACが行い,JASRACが管理す
る日本の楽曲の韓国国内における管理をKOMCAが行う旨の相互管理契
約(以下「本件相互管理契約」という。)を締結し,同契約は,平成20年
(2008年)1月1日,発効した。
(5)被告らの行為
ア被告らは,それぞれ,カラオケ用の楽曲データ(歌詞データを含む。以
下同じ。)を作成し,複製した楽曲データが記録されたハードディスクを,
自らの製造に係る業務用通信カラオケ装置の端末機(以下,単に「端末機」
という。)に搭載するなどし,通信カラオケリース業者等に対して端末機
の販売を行っている。
また,被告らは,それぞれ,端末機の販売後に新たに発表された楽曲(新
譜)を使用することができるようにするために,新譜の楽曲データを被告
らがそれぞれ管理するセンターサーバに記録し,センターサーバから各端
末機においてダウンロード可能な状態にした上,実際に端末機に新譜の楽
曲データをダウンロードさせている。
このように被告らは,それぞれ,楽曲データを端末機に搭載されたハー
ドディスクに記録することにより楽曲データを複製し,かつ,新譜の楽曲
データを端末機に搭載されたハードディスクに記録するために,楽曲デー
タを公衆送信する行為(送信可能にする行為を含む。)を行っている。
イ被告第一興商が平成6年から平成19年12月31日までの間に日本
国内で製造,販売した端末機の機種には,「BBcyberDAMシ
リーズ(DAM-G100,DAM-G100F1/F2等)」,「cy
berDAMシリーズ(DAM-G50,DAM-G50Ⅱ,DAM-
G70等)」,「DAMシリーズ(DAM-6400,DAM-6400
Ⅱ,DAM-6400Ⅲ,DAM-G128,DAM-G30等)」(以
下,これらの端末機を「被告第一興商端末機」という。)がある。
ウ(ア)被告エクシングが平成4年10月から平成19年12月31日ま
での間に日本国内で製造,販売した端末機の機種には,「JOYSOU
NDシリーズ」(以下「被告エクシング端末機」という。)がある。
(イ)株式会社タイトー(以下「タイトー」という。)は,平成4年から
平成18年7月2日までの間,日本国内で「X2000シリーズ」,「L
avcaシリーズ」の機種名の端末機(以下,これらの端末機を「タイ
トー端末機」という。)の製造,販売を行った。
タイトーは,平成18年7月3日,新設分割の方法により株式会社J
AX(以下「JAX」という。)を設立し,その後,被告エクシングは,
平成19年4月1日,JAXを吸収合併した。
(ウ)株式会社JLS(旧商号・ビクターレジャーシステム株式会社。以
下「JLS」という。)は,平成7年から平成18年6月30日までの
間,日本国内で「孫悟空(SONGOKU)シリーズ」の機種名の端末
機(以下「JLS端末機」という。)の製造,販売を行った。
被告エクシングは,平成18年7月1日,JLSを吸収合併した。
3争点
本件の争点は,①被告らによる本件各楽曲の複製権侵害及び公衆送信権侵害
の有無並びにその不法行為責任の成否(争点1),②本件相互管理契約発効前
における原告らのKOMCAに対する本件各楽曲の著作権の信託譲渡の有無
(争点2),③被告らが賠償すべき原告らの損害額(争点3)である。
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告らの複製権侵害及び公衆送信権侵害の有無等)について
(1)原告らの主張
ア被告らの複製権侵害又は公衆送信権侵害による不法行為責任
(ア)原告らは,別紙目録1の「出版年度」欄記載の時期に,「曲名」欄
記載の本件各楽曲を作詞又は作曲し,これを発表したものであるから,
本件各楽曲について著作権を有する。
(イ)被告らは,本件相互管理契約の発効前において,原告らの許諾を得
ることなく,本件各楽曲の楽曲データを作成し,被告ら各自が製造,販
売する端末機に搭載されたハードディスクに記録することによって本
件各楽曲の楽曲データを複製し,かつ,端末機の出荷後は,新譜として
発表された本件各楽曲の楽曲データを作成し,端末機に搭載されたハー
ドディスクに記録するために,当該楽曲データを公衆送信する行為(送
信可能にする行為を含む。)を行った。
具体的には,被告第一興商は,平成6年から平成19年12月31日
(本件相互管理契約の発効日の前日)までの間,被告第一興商端末機の
製造,販売に当たり,別紙目録2の「BBcyber」,「cyber」,
「DAM」欄記載の本件各楽曲の楽曲データを複製し,これを公衆送信
し,また,被告エクシングは,平成4年から平成19年12月31日ま
での間,被告エクシング端末機の製造,販売に当たり,別紙目録3の「J
oyESF」,「JoyEF」,「Joy5」,「Joy3」,「MA
JOR」欄の本件各楽曲の楽曲データを複製し,これを公衆送信した。
(ウ)被告らの上記各行為は,原告らの許諾を得ることなく行われたもの
であって,原告らが有する本件各楽曲の複製権又は公衆送信権を侵害す
る違法な行為であり,また,被告らは,原告らに本件各楽曲の著作権が
帰属することを認識していたにもかかわらず,原告らに対して,その利
用に係る対価を支払っていなかったことからすると,被告らには故意又
は過失があり,原告らに対する複製権侵害又は公衆送信権侵害の不法行
為を構成する。
イタイトー等の著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償債務の被告エク
シングの承継
(ア)タイトー及びJAXの損害賠償債務の承継
a(a)タイトーは,平成4年から平成18年7月2日までの間,タイ
トー端末機の製造,販売に当たって,原告ら(ただし,原告7を除
く。)の許諾を得ることなく,故意又は過失により,本件各楽曲の
楽曲データを複製し,これを公衆送信した(別紙目録3の「X20
00」及び「Lavca」欄参照)。
したがって,タイトーの上記行為は,原告らに対する複製権侵害
又は公衆送信権侵害の不法行為を構成する。
(b)タイトーは,平成18年7月3日,新設分割の方法により,タ
イトーの業務用通信カラオケ事業につき会社分割をし,これにより
設立されたJAXは,上記事業に関するタイトーの権利義務(前記
(a)の不法行為に基づく損害賠償債務を含む。)を承継した。また,
JAXは,同日以降,前記(a)と同様の行為を継続した。
そして,被告エクシングは,平成19年4月1日,JAXを吸収
合併した。
したがって,タイトー及びJAXの原告らに対する本件各楽曲の
著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償債務は,会社分割及び吸収
合併を通じて,被告エクシングが承継している。
bこれに対し,被告エクシングは,後記のとおり,本件の新設分割に
係る分割計画書の一部を成す「承継権利義務明細」(丙1の2)には,
JAXがタイトーから承継する「負債」について,タイトーの不法行
為に基づく損害賠償債務は全く挙示されていないので,被告エクシン
グがタイトーの上記損害賠償債務を承継しない旨を主張する。
しかしながら,「承継権利義務明細」(丙1の2)には,新設会社
が承継する流動負債として,「本営業に属する,支払手形,買掛金,
未払金,未払費用,前受金,借受金」が記載されているところ,未払
金には不法行為債務の未払も当然に含まれることから,タイトーの不
法行為債務もJAXに承継されることは明らかである。
したがって,被告エクシングの上記主張は理由がない。
(イ)JLSの損害賠償債務の承継
aJLSは,平成7年から平成18年9月30日までの間,JLS端
末機(株式会社ワキタ(以下「ワキタ」という。)へのOEM供給製
品である機種名「Syncomシリーズ」を含む。)の製造,販売に
当たって,原告ら(ただし,原告5及び原告6を除く。)の許諾を得
ることなく,故意又は過失により,本件各楽曲の楽曲データを複製し,
これを公衆送信した(別紙目録3の「Songoku」及び「Syn
com」欄参照)。
したがって,JLSの上記行為は,原告らに対する複製権侵害又は
公衆送信権侵害の不法行為を構成するものである。
b被告エクシングは,平成18年7月1日,JLSを吸収合併したか
ら,JLSの原告らに対する著作権侵害の上記不法行為による損害賠
償債務は,被告エクシングが承継している。
ウまとめ
以上によれば,被告らは,原告らに対し,本件各楽曲の複製権侵害及び
公衆送信権侵害の不法行為責任を負う。
(2)被告第一興商の主張
原告らの主張は争う。
(3)被告エクシングの主張
原告らの主張は争う。
アタイトー及びJAXの損害賠償債務の承継の主張に対して
新設分割の場合には,設立会社が分割会社から承継する資産,債務,雇
用契約その他の権利義務に関する事項は,新設分割計画に定められ(会社
法763条5号),その定めに従い,各権利義務が分割会社と設立会社の
いずれに帰属するかが決定される(同法764条1項)。
タイトーの新設分割に係る分割計画書の一部を成す「承継権利義務明
細」(丙1の2)には,新設分割による設立会社であるJAXが分割会社
であるタイトーから承継する資産及び負債が挙示されているところ,JA
Xがタイトーから承継する「負債」には,流動負債として「本営業に属す
る,支払手形,買掛金,未払金,未払費用,前受金,借受金」のみが,固
定負債として「本営業に属する,預かり保証金」のみが挙示され,タイト
ーの不法行為に基づく損害賠償債務は挙示されていない。
以上からすると,JAXがタイトーの負った原告らに対する不法行為に
基づく損害賠償債務を承継した旨の原告らの主張は,会社分割における債
務承継に関する経験則に反し,丙1の2に照らしても,誤りであることが
明らかである。
イJLSの損害賠償債務の承継の主張に対して
JLSが通信カラオケ事業を展開していたのは,平成7年から平成1
8年6月30日までの間である。
そもそも,ワキタとOEM供給契約を締結して,ワキタに業務用通信
カラオケ機器を供給していたのは,JLSではなく,株式会社日本ビク
ターであり,また,「Syncom」のブランドで通信カラオケ事業を
展開してきたのは,ワキタであるから,JLSは,本件各楽曲の楽曲デ
ータの複製や公衆送信に関与していない。
したがって,被告エクシングが,JLSを吸収合併することによって,
JLSの本件各楽曲の著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償債務を承
継することはない。
2争点2(本件相互管理契約発効前における本件各楽曲の著作権の信託譲渡の
有無)について
(1)被告第一興商の主張
ア原告らが本件各楽曲の著作権を喪失していること
原告らは,KOMCAとの間で,本件各楽曲を含む原告らの作詞又は作
曲に係る楽曲に関する本件各信託契約をそれぞれ締結したことによって,
日本を含む全世界における本件各楽曲の著作権は,本件相互管理契約発効
前に,原告らからKOMCAに信託譲渡されたものであり,原告らは,本
件各楽曲の著作権を喪失した。
(ア)原告らに適用される本件各約款について
a原告らは,本件各約款が変更される都度,KOMCAとの間で著作
権信託契約の締結をやり直すことのないままに,変更事項を承認して
いるから,著作権侵害が主張されている本件の場合,その主張に係る
侵害の時点における本件各約款の意味内容を解釈すべきことになる
と解される。
具体的には,原告らは,被告第一興商との関係において,平成6年
から平成19年12月31日までの著作権侵害を問題にしているこ
とから,その期間に応じて,平成5年約款,平成7年約款,平成11
年約款,平成14年約款がそれぞれ適用され,その解釈が問題となる。
bもっとも,本件各約款は,少なくとも本件相互管理契約の発効前に
おける本件各楽曲の著作権の帰属を検討する上で関係する条項につ
いては,旧来の約款から現行の平成21年約款に至るまで,多少,条
項の移動があったり,規定の趣旨をより明確にする趣旨の変更があっ
たにすぎず,実質的な差異はないので,平成21年約款に則って解釈
をすることで何ら差し支えない。
(イ)本件各約款の解釈
a本件各約款に基づく本件各信託契約が全世界におけるすべての著
作権を信託譲渡の対象とすること
(a)本件各約款は,昭和48年約款が制定された当初から,現在に
至るまで,その規定された文言において,信託譲渡の対象について
何ら地域的な限定をしておらず,全世界におけるすべての著作権を
信託譲渡の対象としていることは明らかである(昭和48年約款2
条,平成11年約款2条1項,平成14年約款2条1項,平成21
年約款3条1項)。
そして,本件各約款は,そのように全世界におけるすべての著作
権が委託者からKOMCAに信託譲渡されていることを前提とし
て,KOMCAが外国地域に対する信託著作権の管理を外国著作権
管理団体等に委託することができる旨を規定し(平成11年約款6
条,平成14年約款6条,平成21年約款7条),また,KOMC
Aが信託著作権等に関して民事訴訟を提起することができ,委託者
が信託著作権に関して民事訴訟を提起することができないこと等
(平成11年約款11条,平成14年約款11条,平成21年約款
12条)を規定している。
(b)KOMCAは,本件各約款に基づく著作権信託契約によってK
OMCAに信託されている著作権が,韓国国内における著作権のみ
ならず,日本における著作権を含む全世界における著作権であり,
その中にはKOMCAが相互管理契約を締結している著作権管理
団体が存在しない外国の著作権も含まれることを,正規の用箋を用
い,会長印が押捺され,韓国語で記載された平成22年(2010
年)6月3日付けの意見書(乙2の2の1)をもって,その公式見
解として明らかにしている。
そして,この公式見解に沿うように,KOMCAは,本件相互管
理契約の発効前に,日本の会社3社との間で,KOMCAの会員が
KOMCAに信託譲渡した著作権の著作物を,日本国内において使
用することを許諾する旨の「音楽著作物の使用に関する基本契約
書」と題する契約を締結し,上記3社に対し,直接的に信託譲渡を
受けた著作権の権利行使をしている。具体的には,KOMCAは,
タニー株式会社(旧商号・有限会社タニー・コンピュータエンタテ
インメント。以下「タニー」という。)との間で,平成18年1月
10日付け上記契約(乙5の1,2)を,SOFTBANKMedia&Marketing
Corp.(以下「ソフトバンクメディア」という。)との間で,平成
17年1月26日付け上記契約(乙6の1,2)を,アミュー株式
会社(以下「アミュー」という。)との間で,平成16年3月15
日付け上記契約(乙7の1,2)をそれぞれ締結している(以下,
それぞれ「乙5契約」,「乙6契約」,「乙7契約」という。)。
また,KOMCAは,JASRACとの間で,本件相互管理契約
を締結するに当たっての交渉段階で,契約締結前の著作物使用料の
補償に関する協議をしており,このことはKOMCAが,本件相互
管理契約発効前から,各会員の日本における著作権の信託譲渡を受
けた者として,上記協議に当たっていたことを示すものといえる。
さらに,本件相互管理契約の発効前において,本件各楽曲の日本
における著作権が原告らに留保されていたというのであれば,本件
相互管理契約の締結に際して,KOMCAと原告らとの間で,日本
における著作権について新たに追加的な著作権信託契約が締結さ
れる必要があると解されるが,そのような追加的な著作権信託契約
は締結されていない。
(c)以上のとおり,本件各約款は,全世界におけるすべての著作権
を信託譲渡の対象としており,KOMCAもそのような解釈を前提
とする行為を実際に行っている。
b原告らの主張に対する反論
(a)原告らは,後記のとおり,本件各約款の業務管轄地域に関する
規定(平成11年約款10条2項,平成14年約款10条2項,平
成21年約款11条2項)によって,信託譲渡の対象となる信託財
産の範囲が,KOMCAの業務管轄地域に限定されているので,本
件各約款に基づく本件各信託契約の締結にかかわらず,KOMCA
が相互管理契約を締結した著作権管理団体が存在しない外国地域
における著作権については,委託者である原告らに留保され,原告
らがそれらを保有する旨を主張する。
しかしながら,そもそも,本件各約款の「業務管轄地域」に関す
る規定は,あくまでKOMCAの業務管轄地域及びその限度におけ
る責任の制限を定めたものにすぎず,信託譲渡の対象そのものを定
めたものではない。
また,原告ら提出のKOMCAの主務官庁である文化体育観光部
の見解書(甲22の1,2,23)は,原告ら代理人らの恣意的か
つ誘導的な質問によって導かれたものであり,信用することはでき
ない。
本件各約款の解釈は,平成22年(2010年)6月3日付けの
KOMCAの公式見解(前記a(b))及び著作権法を専門とする高
麗大学校法学専門大学院のA教授がその意見書(乙4の2の1)で
述べる見解が正しく,これらに反する原告らの解釈は誤りである。
したがって,原告らの上記主張は理由がない。
(b)なお,KOMCAが相互管理契約を締結した著作権管理団体が
存在しない外国地域との関係で,当該外国地域における著作権が委
託者に留保されているという原告ら主張の解釈を採らなかったと
しても,著作物使用料の収受の観点からすると,委託者にとって不
都合はない。
まず,本件相互管理契約発効前において,KOMCAは,日本の
会社に対し,委託者であるKOMCA会員から信託譲渡を受けた著
作権を直接的に行使していたものである。
次に,本件各約款は,KOMCAの承諾の下で,韓国国内のみな
らず,外国地域との関係でも,著作物使用料を委託者が収受するこ
とのできるスキームを用意している。
すなわち,KOMCAの会員は,本件各約款の規定(平成11年
約款2条2項2号,平成14年約款2条2項2号,平成21年約款
3条2項2号)に基づき,KOMCAの承諾を得て,他のKOMC
Aの会員である音楽出版社(オリジナルパブリッシャー)との間で
「条件付著作権譲渡契約」と称する契約(乙3の2の1ないし3)
を締結することによって,KOMCAに一旦信託されたある外国地
域における著作権をオリジナルパブリッシャーに対して譲渡する
ことが認められている。そして,そのオリジナルパブリッシャーが,
その著作権を当該外国地域の音楽出版社(サブパブリッシャー)に
譲渡することにより,作家は,当該外国地域における著作物使用料
を収受することができる仕組みとなっている。実際に,このスキー
ムを利用して,KOMCAの承諾の下で,外国地域における著作物
使用料を収受していた会員は相当数にのぼる。
したがって,著作物使用料の収受という実質的な観点からして
も,原告ら主張の本件各約款に基づく本件各信託契約における信託
譲渡の対象に関する解釈を採用すべき必然性はない。
(ウ)小括
以上のとおり,原告らに適用される本件各約款の解釈,それを前提と
してKOMCAが実際に行っている行為等に鑑みれば,原告らがKOM
CAとの間で著作権信託契約約款に基づく本件各信託契約をそれぞれ
締結したことによって,本件相互管理契約の発効前に,日本を含む全世
界における本件各楽曲の著作権は,原告らからKOMCAに信託譲渡さ
れており,原告らは,本件各楽曲の著作権を喪失している。
イ本件相互管理契約の締結及び発効が停止条件であるとの原告らの主張
に対し
原告らは,後記のとおり,仮に本件各信託契約による信託譲渡の対象が
全世界における著作権であったとしても,KOMCAの業務管轄地域外に
おいては,KOMCAと当該地域の著作権管理団体との間で相互管理契約
が締結及び発効されることを停止条件として,当該地域における著作権の
移転の効果が生じるので,KOMCAと当該地域の著作権管理団体との間
で相互管理契約が締結され,発効するまでの間は,本件各約款の締結にか
かわらず,原告らの著作権は,原告らに帰属する旨を主張する。
しかしながら,本件各約款には,そのような停止条件を定めた規定は存
在しないから,原告らの上記主張は理由がない。
ウまとめ
以上のとおり,本件各楽曲の著作権は,日本におけるものを含め,その
すべてが,著作権信託契約約款に基づく本件各信託契約の締結によって,
本件相互管理契約の発効前に,原告らからKOMCAに信託譲渡されてお
り,原告らは,本件各楽曲の著作権を喪失しているから,原告らが,被告
第一興商に対し,本件相互管理契約の発効前における本件各楽曲の著作権
侵害行為について,不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできない
というべきである。
(2)被告エクシングの主張
ア原告らが本件各楽曲の著作権を喪失していること
被告第一興商の主張と同様に,原告らに適用される本件各約款を解釈す
れば,原告らがKOMCAとの間で本件各約款に基づく本件各信託契約を
それぞれ締結したことによって,本件相互管理契約の発効前に,日本を含
む全世界における本件各楽曲の著作権は,原告らからKOMCAに信託譲
渡されたものであり,原告らは,本件各楽曲の著作権を喪失している。
(ア)原告らに適用される本件各約款について
原告らは,被告エクシングに対し,平成4年から平成19年12月3
1日までの著作権侵害行為についての損害賠償を請求するものである
から,原告らに適用される本件各約款は,原告らが不法行為の成立を主
張する上記期間の各時点において適用のある約款ということになる。
具体的には,被告エクシングとの関係では,昭和62年約款,平成
11年約款,平成14年約款が,本件における解釈の対象となるもの
である。
一方で,平成21年約款3条1項は,「委託者は現在所有している
著作権及び将来取得する著作権を本契約期間中に信託財産として受
託者に移転し…」と規定するところ,ここにいう「著作権」とは,利
用許諾をする排他的権利としての著作権のみならず,過去の著作権侵
害に基づく損害賠償請求権をも含むものと解される。
そうすると,結局のところ,平成21年約款を解釈すれば足りると
いうべきである。
(イ)本件各約款の解釈
被告第一興商の主張と同様に,①本件各約款における,信託譲渡の対
象,外国地域に対する管理,訴権等に関する規定の文言からすると,本
件各約款が,全世界におけるすべての著作権を包括的に信託譲渡の対象
としていることが明らかであること,②KOMCAの公式見解も①と同
様であり,それに沿うように,本件相互管理契約発効前の時点で,KO
MCAが,日本の会社との間で,乙5契約ないし乙7契約を締結して,
直接的に著作権の権利行使をしたり,KOMCAの承諾の下で,韓国の
オリジナルパブリッシャーと日本のサブパブリッシャーを通じて,日本
における著作物使用料を収受する仕組みを構築していたりしているこ
と(平成21年約款3条2項2号とそれに基づく音楽著作権条件付譲渡
契約(乙3の2の1ないし3))等を総合すると,本件各約款に基づく
本件各信託契約の締結によって,原告らの全世界における本件各楽曲の
著作権は,KOMCAに信託譲渡されたもので,原告らが本件各楽曲の
著作権を喪失していることは明らかである。
イ本件相互管理契約の締結及び発効が停止条件であるとの原告らの主張
に対し
被告第一興商の主張と同様に,本件各約款は,そのような停止条件を何
ら規定していないから,原告らの主張は理由がない。
ウまとめ
以上のとおり,本件各楽曲の著作権は,日本におけるものを含め,その
すべてが,本件各約款に基づく本件各信託契約の締結によって,本件相互
管理契約の発効前に,原告らからKOMCAに信託譲渡されており,原告
らは,本件各楽曲の著作権を喪失しているから,原告らが,被告エクシン
グに対し,本件相互管理契約の発効前における本件各楽曲の著作権侵害行
為について,不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできないという
べきである。
(3)原告らの主張
ア本件各約款に基づく本件各信託契約の締結にかかわらず本件各楽曲の
日本における著作権は原告らに留保されていること
原告らに適用される本件各約款を解釈すれば,次のとおり,本件各約款
に基づく本件各信託契約の締結によって委託者である原告らからKOM
CAに移転する信託財産の範囲は,その契約締結の時点でKOMCAが業
務を管轄する地域における著作権に限定されており,本件相互管理契約の
発効前において,日本はKOMCAの業務管轄地域ではなかったから,本
件各楽曲の日本における著作権は,原告らに留保されていたものである。
(ア)原告らに適用される本件各約款について
a原告らに適用される本件各約款は,原則として,それぞれの信託契
約締結時の約款である(具体的には,原告5,原告8及び原告9につ
き昭和48年約款,原告6及び原告7につき昭和61年約款)。
ただし,昭和62年約款,平成11年約款,平成14年約款には,
「約款の変更」についての規定(昭和62年約款25条,平成11年
約款23条,平成14年約款23条)が存在し,約款の変更について
の公告日から3か月を経過しても委託者が解除権を行使しないとき
は,自動的に変更後の約款が適用される旨が定められているので,最
初にこれら約款に基づきKOMCAとの間で信託契約を締結した原
告ら(具体的には,昭和62年約款による原告1及び原告3,平成1
1年約款による原告4,平成14年約款による原告2)については,
各侵害行為の時点で効力を有する約款が適用されることとなる。
bもっとも,本件各約款は,少なくとも本件相互管理契約締結以前に
おける本件各楽曲の著作権の帰属を検討する上で関係する条項につ
いては,旧来の約款から平成21年約款に至るまで,多少,条項の移
動等があったにすぎず,実質的な差異はないので,平成21年約款に
則って解釈をすることで何ら差し支えない。
(イ)本件各約款の解釈
aKOMCAの業務管轄地域に限定された信託譲渡であること
(a)本件各約款に基づく本件各信託契約を締結した当事者である
原告ら及びKOMCAの意思は,本件各約款のうち昭和62年約款
10条,平成11年約款10条,平成14年約款10条,平成21
年約款11条に「業務管轄地域」として記載された地域に限定され
た著作権を信託譲渡の対象とするというものであった。
すなわち,本件各約款の上記「業務管轄地域」に関する規定によ
れば,KOMCAは,相互管理契約を締結した著作権管理団体が存
在しない外国地域においては,そもそも業務を遂行することができ
ず,委託者である原告らが,KOMCAが業務を遂行することので
きない外国地域における著作権まで信託譲渡するとは考えられな
いから,KOMCAの業務管轄地域外における原告らの著作権は,
本件各約款に基づく本件各信託契約の締結後も,原告ら自身に留保
されていたものである。
この点に関し,本件各約款には,①受託者であるKOMCAが,
外国地域に対する信託著作権の管理を外国著作権管理団体等に委
託することができる旨の規定(昭和61年約款4条,昭和62年約
款6条,平成11年約款6条,平成14年約款6条,平成21年約
款7条)や,②受託者であるKOMCAが信託著作権等に関して民
事訴訟を提起することができるもので,委託者が信託著作権に関し
て民事訴訟を提起することができないこと等の規定(昭和61年約
款7条,昭和62年約款11条,平成11年約款11条,平成14
年約款11条,平成21年約款12条)が存在するが,これらの規
定は,本件各約款における前記「業務管轄地域」の規定を前提とし,
この規定によって,KOMCAが,その主務官庁である文化体育観
光部の許可を受けた上で,ある外国地域における著作権の信託譲渡
を委託者から受けた場合に初めて適用のあるものであって,KOM
CAが当該外国地域における著作権の信託譲渡を委託者から受け
ていない場合には,KOMCAは,当該外国地域に対する信託著作
権の管理を外国著作権管理団体等に委託することはできないし,ま
た,KOMCAの業務管轄地域外における原告らの訴権が制限され
るものではない。
(b)本件各約款の信託譲渡の対象に関する上記解釈は,KOMCA
の見解,つまりKOMCAとJASRACが本件相互管理契約を締
結した当時のKOMCAの会長であるBの認識とも合致するし,K
OMCAの主務官庁である文化体育観光部の見解書(甲22の1,
2,23)とも合致する。
そして,このように,本件各約款に基づく本件各信託契約の信託
譲渡の対象は,KOMCAの業務管轄地域における著作権に限定さ
れ,KOMCAの業務管轄地域外における著作権は,本件各約款の
締結にかかわらず,各会員に留保されていたものであるから,本件
相互管理契約の発効前において,各会員がKOMCAの業務管轄地
域外である日本国内においてその著作権を管理し,行使するために
は,自らこれを行うか,日本国内の著作権等管理事業者や出版社に
対して管理を委託するしかなかった。
実際には,KOMCAの会員が,KOMCAの承諾を得ることな
く,韓国の音楽出版社(オリジナルパブリッシャー)及び日本の音
楽出版社(サブパブリッシャー)を通じて,JASRACに日本で
の音楽著作物の管理を委託するなどしているケースが多かったも
のである。KOMCAは,そのように各会員が個別に締結していた
管理委託契約(例えば,KOMCAの会員と株式会社アジア著作協
会(ACA)との間で締結された日本における音楽著作物の管理委
託契約)について,本件相互管理契約締結後も,それら個別の管理
委託契約を尊重する旨の書面を発出しており(甲31の1),これ
は,本件相互管理契約の発効前において,KOMCAが,その会員
から,日本を含む業務管轄地域外での著作権の信託譲渡を受けてお
らず,その管理権限を有していなかったことの証左であるといえ
る。
b被告らの主張に対する反論
(a)被告らは,著作権信託契約の締結によって,日本を含む全世界
における著作権がKOMCAに信託譲渡されることを前提として,
KOMCAが,本件相互管理契約の発効前においても,日本の会社
に対し,乙5契約ないし乙7契約を締結し,会員から信託譲渡を受
けた著作権を直接行使している旨を主張する。
しかしながら,前記a(a)のとおり,本件各約款の前記「業務管
轄地域」に関する規定に鑑みれば,本件相互管理契約の発効前に,
KOMCAは日本において音楽著作権の管理権限を有しておらず,
業務を執行することができないのであるから,乙5契約ないし乙7
契約は,KOMCAの一部職員の無理解や誤解によって締結された
ものと考えざるを得ず,それに沿うように,乙5契約ないし乙7契
約の相手方当事者3社のうち2社(アミュー,タニー)は,平成1
9年12月までの日本における音楽著作物の使用について,KOM
CAに対して使用料の支払をしていない。
したがって,被告らの上記主張は理由がない。
(b)また,被告らは,著作権信託契約の締結によって,日本を含む
全世界における著作権がKOMCAに信託譲渡されていることを
前提として,KOMCAとJASRACが,本件相互管理契約を締
結するに際して,同契約締結よりも前の時点における音楽著作物の
使用に対する補償の問題を協議していた旨を主張する。
しかしながら,KOMCAがJASRACとの間で,そのような
補償の問題を協議すること,そしてそのような協議をするだけの権
限を有しているかどうかということと,著作権の帰属とは直接的に
関係のないことであって,KOMCAが,日本における著作権を有
していなくとも,JASRACとの間で,事実上そのような協議を
行うことは何ら妨げられるものではない。
したがって,被告らの上記主張は理由がない。
(ウ)小括
以上のとおり,本件各約款に基づく本件各信託契約の締結にかかわら
ず,本件相互管理契約の発効前において,本件各楽曲の日本における著
作権を原告らは喪失しておらず,被告らの主張は理由がないというべき
である。
イ本件相互管理契約の締結及び発効を停止条件として原告らからKOM
CAに対する本件各楽曲の日本における著作権の移転の効果が生じるこ
と(予備的主張)
仮に被告らが主張するように本件各約款に基づく本件各信託契約の締
結によって,原告らの日本を含む全世界における本件各楽曲の著作権がK
OMCAに信託譲渡されたものと解したとしても,KOMCAの業務管轄
地域外における著作権の喪失の効果は,KOMCAが当該地域の著作権管
理団体との間で相互管理契約を締結し,その契約が発効することを停止条
件として発生するものである。
したがって,KOMCAの業務管轄地域ではなかった日本との関係で
は,KOMCAとJASRACとの間で本件相互管理契約が締結され,発
効するまでの間は,本件各約款に基づく本件各信託契約の締結にかかわら
ず,原告らの本件各楽曲の日本における著作権は,原告らに帰属していた
ものである。
ウまとめ
以上によれば,KOMCAとJASRAC間の本件相互管理契約の締結
及びその発効前には,原告らが,本件各楽曲の日本における著作権を有し
ていたから,原告らは,被告らに対し,本件各楽曲の著作権侵害行為につ
いて,不法行為に基づく損害賠償請求をすることができるというべきであ
る。
3争点3(原告らの損害額)について
(1)原告らの主張
ア著作権法114条3項に基づく損害
(ア)被告第一興商について
a原告らが,本件各楽曲の複製権又は公衆送信権の許諾の対価として
受けるべき金銭の額は,JASRACの使用料規程(甲5)における
「カラオケ用ICメモリーカード」に著作物を利用する場合の利用料
に関する規定に照らせば,作曲者,作詞者ともに,1曲につき5.5
円を下回るものではない。
bまた,被告第一興商が,平成6年から,本件相互管理契約が発効す
る前日である平成19年12月31日までの間に製造,販売した端末
機の合計台数は,55万2000台を下回るものではない。
c上記a,bを踏まえ,原告らは,被告第一興商に対し,著作権法1
14条3項に基づき,次のとおり,それぞれが作詞,作曲した楽曲数
に応じて,1曲当たり5.5円の利用料に,被告第一興商が製造,販
売した端末機の合計台数を乗じた額に相当する金額を,損害として,
その賠償を請求することができる。
(a)原告11518万円(作曲5曲)
(b)原告2607万2000円(作詞2曲)
(c)原告33946万8000円(作詞13曲)
(d)原告4303万6000円(作詞1曲)
(e)原告5607万2000円(作詞2曲)
(f)原告6910万8000円(作詞3曲)
(g)原告71821万6000円(作曲3曲,作詞3曲)
(h)原告86072万円(作曲10曲,作詞10曲)
(i)原告96072万円(作曲10曲,作詞10曲)
(イ)被告エクシングについて
a被告エクシングが,平成4年から平成19年12月31日までの間
に製造,販売した端末機の合計台数は,タイトー,JAX,JLSが
製造,販売した端末機を含め,25万台を下回るものではない
b上記(ア)cと同様に,原告らは,被告エクシングに対し,著作権法
114条3項に基づき,次のとおり,それぞれが作詞,作曲した楽曲
数に応じて,1曲当たり5.5円の利用料に,被告エクシングが製造,
販売した端末機の合計台数を乗じた額に相当する金額を,損害とし
て,その賠償を請求することができる。
(a)原告1412万5000円(作曲3曲)
(b)原告2275万円(作詞2曲)
(c)原告31650万円(作詞12曲)
(d)原告4137万5000円(作詞1曲)
(e)原告5412万5000円(作詞3曲)
(f)原告6550万円(作詞4曲)
(g)原告7275万円(作曲1曲,作詞1曲)
(h)原告82750万円(作曲10曲,作詞10曲)
(i)原告93162万5000円(作曲12曲,作詞11曲)
イ被告第一興商の主張(JASRACに対する支払による弁済の抗弁)(後
記(2)イ)に対する反論
被告第一興商は,原告らが,仮に本件各楽曲の日本における著作権を有
していたとしても,被告第一興商は,JASRACに対して本件相互管理
契約に基づく使用料を支払っており,それによって,被告第一興商端末機
についての本件各楽曲の複製及び公衆送信による使用の対価は既に支払
済みであるので,原告らの被告第一興商に対する損害賠償請求権が消滅し
ている旨を主張する。
しかしながら,原告らが,被告らに対し,損害賠償の支払を求めている
のは,KOMCAとJASRACとの間の本件相互管理契約が発効した日
よりも前の時点における著作権使用料相当の損害金であるから,被告第一
興商が,同日以降,JASRACから本件各楽曲について利用許諾を受け
た上で,その使用料を支払っていたとしても,それよりも前の時点の侵害
を念頭に置く原告ら主張の損害額は,何らの影響を受けるものではなく,
JASRACに対する支払と重複するものではない。
また,著作物の使用による対価の支払回数と,複製行為及び公衆送信行
為の回数は,論理必然的に結びつくものではないから,本件相互管理契約
の発効後に,被告第一興商が,JASRACに対し,本件各楽曲の使用料
を一度支払ったからといって,同契約の発効後のみならず,同契約の発効
前における複製行為及び公衆送信行為に対しても使用料の支払がなされ
たことになるものではない。
したがって,被告第一興商の上記主張は理由がない。
ウまとめ
以上のとおり,原告らは,①被告第一興商に対し,著作権侵害の不法行
為による損害賠償請求権に基づき,別紙請求一覧表(1)の「請求額」欄記
載の各金員及びこれに対する平成21年9月12日(訴状送達の日の翌
日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,②被告
エクシングに対し,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づ
き,別紙請求一覧表(2)の「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する平
成21年9月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めることができる。
(2)被告第一興商の主張
ア原告らの主張は争う。
イ本件相互管理契約発効後におけるJASRACに対する支払による弁
済の抗弁
原告らの損害論に係る主張が,端末機への収載期間の長短や演奏回数の
多寡とは関係なく,複製行為又は公衆送信行為の回数,すなわち,被告ら
が製造,販売した端末機の台数によるものであることを前提とするなら
ば,原告らが,仮に本件各楽曲の日本における著作権を有していたとして
も,被告第一興商は,JASRACに対して本件相互管理契約に基づく使
用料を支払っており,それによって,被告第一興商端末機についての本件
各楽曲の複製及び公衆送信による使用の対価は既に支払済みであるとい
える。
つまり,本件各楽曲は,被告第一興商端末機には,1回きり公衆送信な
いしは複製行為が行われるのみで,複数回行われることはない。原告らは,
KOMCAとJASRACとの間の本件相互管理契約が発効した日以降
に,JASRAC及びKOMCAを通じて,被告第一興商が本件各楽曲を
複製及び公衆送信したことによる使用料を既に受領しているのであるか
ら,本件における原告らの請求は,二重請求にほかならないというべきで
ある。
以上のとおりであるから,原告らの被告第一興商に対する損害賠償請求
権は,本件相互管理契約の発効後におけるJASRACに対する支払によ
って消滅している。
(3)被告エクシングの主張
原告らの被告エクシングに対する主張は争う。
第4当裁判所の判断
1本件の準拠法について
本件は,韓国人である原告らが,日本法人である被告らに対し,原告らが作
詞又は作曲した本件各楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償を求める点におい
て,渉外的要素を含むものであるから,準拠法を決定する必要がある。
本件各楽曲は,原告らが作詞又は作曲した音楽の著作物であり,その著作者
である原告らが韓国人であるところ,日本と韓国は,「文学的及び美術的著作
物の保護に関するベルヌ条約(昭和50年3月6日条約第4号)」(以下「ベ
ルヌ条約」という。)の「同盟国」であるから,ベルヌ条約3条(1)(a)及び
著作権法6条3号により,本件各楽曲は,我が国の著作権法の保護を受ける。
原告らの著作権侵害に基づく損害賠償請求については,その法律関係の性質
が不法行為であると解されるから,法の適用に関する通則法(平成18年法律
第78号。以下「通則法」という。)附則3条4項により,なお従前の例によ
ることとされた同法による改正前の法例11条によってその準拠法が定めら
れることになる。そして,本件において,「原因タル事実ノ発生シタル地ノ法
律」(同条1項)は,本件各楽曲の楽曲データを複製し,かつ,公衆送信する
行為が行われたのが日本国内であること,我が国の著作権法の保護を受ける著
作物の侵害に係る損害が問題とされていることから,日本の法律と解すべきで
あり,日本法が適用される。
さらに,本件においては,原告らとKOMCAとの間の信託譲渡に伴う本件
各楽曲の著作権の帰属について争いがあるところ,信託譲渡に伴う著作権の帰
属について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては,信託譲渡の原因関
係である法律行為と,目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別
し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきものと解する。
すなわち,本件の著作権の信託譲渡の原因行為である法律行為の成立及び効
力については,通則法附則3条3項により,なお従前の例によることとされた
同法による改正前の法例7条(以下,単に「法例7条」という。)によって適
用されるべき準拠法を決定し,本件著作権の譲渡(移転)の第三者に対する効
力に係る物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は,保護国
の法令である我が国の著作権法が準拠法となるものと解される(東京高等裁判
所平成13年5月30日判決(平成11年(ネ)第6345号)参照)。
そして,原告らとKOMCAが著作権信託契約約款に基づき締結した本件各
信託契約は,韓国人である原告らと韓国の著作権管理団体であるKOMCAが
韓国で締結した契約であり,原告らとKOMCAとの間には,著作権信託契約
の成立及び効力についての準拠法は韓国の法律とする旨の合意が存在するも
のと認められるから(甲7の1ないし9の各1,2,弁論の全趣旨),法例7
条1項により,その準拠法は,韓国の法律である。
以上を前提に,本件の各争点について判断する。
2争点2(本件相互管理契約発効前における本件各楽曲の著作権の信託譲渡の
有無)について
本件の事案に鑑み,争点2から判断することとする。
被告らは,原告らが,KOMCAとの間で,KOMCAの著作権信託契約約
款に基づいて,原告らの作詞又は作曲に係る楽曲について本件各信託契約をそ
れぞれ締結したことにより,日本を含む全世界における本件各楽曲の著作権
は,本件相互管理契約発効前に原告らからKOMCAへ信託譲渡され,原告ら
は本件各楽曲の著作権を喪失した旨主張する。
そこで,以下においては,本件に適用のある著作権信託契約約款について検
討した上で,本件相互管理契約発効前に原告らが日本を含む全世界における本
件各楽曲の著作権を信託譲渡したかどうかについて判断する。
(1)本件に適用のある著作権信託契約約款
ア前提事実
(ア)KOMCAは,昭和48年(1973年)3月7日,その会員との
間で締結する著作権信託契約の内容を定めることを目的として,著作権
信託契約約款(昭和48年約款)を制定し,その後,著作権信託契約約
款は,数次にわたり変更がされ(昭和61年約款,昭和62年約款,平
成3年約款,平成5年約款,平成7年約款,平成11年約款,平成14
年約款),平成21年3月18日から,平成21年約款が施行されてい
る(前記争いのない事実等(3))。
(イ)原告らは,KOMCAとの間で,著作権信託契約約款(原告5,原
告8及び原告9は昭和48年約款,原告6及び原告7は昭和61年約
款,原告1及び原告3は昭和62年約款,原告4は平成11年約款,原
告2は平成14年約款)に基づいて,原告らの作詞又は作曲に係る楽曲
について本件各信託契約をそれぞれ締結した(前記争いのない事実等
(2),(3))。
イ本件に適用のある著作権信託契約約款について
本件各約款(甲7の1ないし9の各1,2,24の3の1,2,乙3の
2の1,2)には,信託の効力の発生時期に関する特段の定めがないこと
からすると,委託者と受託者との間で著作権信託契約が締結されたことに
よって信託の効力が生じるものと解されるから,信託の対象となる信託財
産の範囲を定める約款は,原則として,原告らがKOMCAとの間でそれ
ぞれ本件各信託契約を締結した時点において適用されている約款である。
一方で,原告らの本訴請求は,被告らに対し,被告らが平成4年又は平
成6年から平成19年12年31日(本件相互管理契約の発効日の前日)
までの間に行った本件各楽曲の著作権侵害行為の不法行為に基づく損害
賠償を求めるものであり,上記期間内の各侵害行為が行われた各時点にお
ける本件各楽曲の著作権の帰属が問題となるから,上記期間の終期よりも
後に定められた平成21年約款は,本件では適用されないものと解され
る。
ところで,平成14年約款23条4項は,同条1項の規定により著作権
信託契約約款を変更した場合について,KOMCAがその変更を公告した
日から3か月が経過しても,委託者が解除権の行使をしないときには,「第
1項の変更事項を委託者が承諾したことと見做す,本約款施行以前の規定
によって信託契約を締結した委託者は別途の手続きなしに本約款によっ
て信託契約が締結されたことで見做す。」と定めている。これと同趣旨の
規定が,昭和62年約款(25条4項),平成11年約款(23条4項)
にも存在することからすると,本件では証拠提出のない平成3年約款,平
成5年約款及び平成7年約款にも,同趣旨の規定が存在するものとうかが
われる。
そして,前記ア(イ)のとおり,原告らは,KOMCAとの間で,それぞ
れ昭和48年約款,昭和61年約款,昭和62年約款,平成11年約款又
は平成14年約款に基づいて本件各信託契約を締結したものであるが,平
成14年約款に至る各約款に変更があった際に公告された変更事項に異
議を述べて,著作権信託契約の解除権を行使することをしていないこと
(弁論の全趣旨)に照らすならば,原告ら(ただし,平成14年約款に基
づいて契約締結をした原告2を除く。)は,KOMCAとの間で,各約款
の変更事項をその変更の都度承諾したものとみなされ,平成14年約款に
基づいて著作権信託契約が締結されたものとみなされるので,平成14年
約款が施行された以降は,すべての原告らとの関係において同約款が適用
されることになる。
そうすると,本件においては,原告らとKOMCAとの間の本件各信託
契約の契約内容を規律する著作権信託契約約款が平成14年約款である
ことを前提に検討して差し支えないものと解される。
(2)本件各信託契約により信託譲渡された著作権の対象範囲(本件各楽曲の
日本における著作権の信託譲渡の有無)
ア平成14年約款の解釈等
(ア)平成14年約款は,「本約款は音楽著作物の著作権を委託する作詞
者,作曲者,編曲者,音楽出版者等著作権を所有している者を″委託者
(甲)″といい,音楽著作物の著作権を保護してその利用の円滑をはか
るために設立された社団法人韓国音楽著作権協会を″受託者(乙)″と
いい,著作権信託契約の内容を決めることを目的とする。」(1条),
「委託者は現在所有している著作権及び将来取得する著作権を本契約
期間中信託財産として受託者に著作権を移転して,受託者は委託者のた
めに信託著作権を管理してこれによって得られた著作物使用料等を委
託者に分配する。」(2条1項),「委託者はいかなる場合にも第1項
によって受託者に信託した著作物一体を第三者に利用承諾することが
できない。」(同条5項),「受託者は外国地域に対する信託著作権の
管理を外国著作権管理団体等に再委託することができる。」(6条),
「著作物使用料は受託者が主務官庁の承認を受けた著作物使用料徴収
規定及び分配規定によって徴収し分配する。」(7条)と規定し,また,
「委託者は信託著作権に対して民事,刑事上の訴訟等を提起できず,受
託者が提起した訴訟等に関して合意または取下げ等ができない。」(1
1条)と規定している。
これらの規定は,平成14年約款に基づいて締結された著作権信託契
約においては,委託者は,委託者が現に保有する音楽著作物の著作権及
び将来保有することになる同著作権を受託者であるKOMCAに信託
譲渡し,KOMCAは,これらの著作権を信託財産として委託者のため
に管理し,徴収した著作物使用料等を分配するものとし,外国地域に対
する管理においては,自ら管理するだけではなく,外国著作権管理団体
等に再委託することによって管理することができるものとし,一方,委
託者は,KOMCAに信託譲渡した著作物を第三者に利用許諾すること
ができず,同著作物の著作権に関し民事訴訟等を提起することができな
いことを定めたものと解される。
加えて,平成14年約款には,2条1項の規定により信託譲渡される
著作権の範囲及び内容を制限することを定めた明文の規定がないこと
を併せ考慮すれば,上記信託譲渡される著作権は,韓国国内及び国外を
問わず,委託者が現に保有し,将来保有することになるすべての著作権
を意味するものであって,地域的な限定はないものと解される。
このような解釈は,①KOMCA作成の平成22年(2010年)6
月3日付け意見書(乙2(枝番を含む。))に,本件各約款に基づきK
OMCAに信託されている著作権は,韓国国内の著作権のみならず,K
OMCAが相互管理契約を締結している著作権管理団体が存在しない
外国を含む全世界の著作権であり,日本に関する著作権についても,J
ASRACとの本件相互管理契約の発効前から,KOMCAが本件各約
款に基づき保有しており,委託者が保有していたものではなく,当該委
託者との間で,本件相互管理契約締結後に,別途の追加的な契約や合意
がされたことはない旨の記載があること,②KOMCAは,本件相互管
理契約発効前の平成16年3月ないし平成18年1月までの間,日本の
会社3社(タニー,ソフトバンクメディア,アミュー)との間で,KO
MCAが委託者から信託を受けた音楽著作物について,それら音楽著作
物の一定の態様での使用を許諾する旨の「音楽著作物の使用に関する契
約」(乙5契約ないし乙7契約)を締結し,会員から信託譲渡された著
作権を行使していること(乙5ないし7(枝番を含む。))にも合致す
るものである。
なお,上記②の点に関し,原告らは,乙5契約ないし乙7契約が,K
OMCAの一部職員の無理解や誤解によって締結されたもので,契約の
一方当事者である3社のうち2社は,KOMCAに対し著作権使用料の
支払をしていない旨を主張するが,乙5契約ないし乙7契約がKOMC
Aの一部職員の無理解や誤解によって締結されたことを認めるに足り
る証拠はなく,また,上記3社が著作権使用料の支払をKOMCAにし
ていなかったとしても,KOMCAが,日本における著作権の信託譲渡
を受けたことを前提として権利行使に及んだことには変わりがないか
ら,原告らの上記主張は,上記認定を左右するものではない。
(イ)以上のとおり,平成14年約款は,信託譲渡の対象となる信託財産
の範囲について,地域的なものを含めて何らの制限をすることなく,委
託者が現に保有するすべての音楽著作物の著作権及び将来保有するこ
とになるすべての同著作権をその対象とすることを定めたものと解さ
れる。
また,平成14年約款2条1項と同様の規定が,昭和48年約款2条,
昭和61年約款2条,昭和62年約款2条1項,平成11年約款2条1
項にも置かれており,これらの各約款にも,信託譲渡される著作権の範
囲及び内容を制限することを定めた明文の規定がないことに照らすな
らば,上記各約款は,平成14年約款と同様,委託者が現に保有するす
べての音楽著作物の著作権及び将来保有することになるすべての同著
作権をその信託譲渡の対象とすることを定めたものと解される。
そうすると,原告らが,KOMCAとの間で,著作権信託契約約款(昭
和48年約款,昭和61年約款,昭和62年約款,平成11年約款又は
平成14年約款)に基づいて本件各信託契約をそれぞれ締結したことに
より,本件相互管理契約発効前の各契約締結時点で,原告らが保有する
すべての音楽著作物の著作権及び将来保有することになるすべての同
著作権が原告らからKOMCAへ信託譲渡されたものと認められ,その
信託譲渡の対象には本件各楽曲の著作権も含まれるから,本件各楽曲の
著作権は,本件相互管理契約発効前に原告らからKOMCAへ信託譲渡
されたものと認められる。
イ原告らの主張について
原告らは,①著作権信託契約約款に基づく本件各信託契約を締結した当
事者である原告ら及びKOMCAの意思は,著作権信託契約約款の「業務
管轄地域」に関する規定(昭和62年約款10条,平成11年約款10条,
平成14年約款10条,平成21年約款11条。以下「業務管轄地域規定」
という。)に「業務管轄地域」として記載された地域に限定された著作権
を信託譲渡の対象とするものである,②業務管轄地域規定によれば,KO
MCAは,相互管理契約を締結した著作権管理団体が存在しない外国地域
においては,そもそも業務を遂行することができず,委託者である原告ら
が,KOMCAが業務を遂行することのできない外国地域における著作権
まで信託譲渡するとは考えられないから,KOMCAの業務管轄地域外に
おける原告らの著作権は,本件各信託契約の締結後も,原告ら自身に留保
されており,本件相互管理契約発効前には,日本における本件各楽曲につ
いての著作権は原告らからKOMCAへ信託譲渡されていない旨主張す
る。
しかしながら,以下のとおり,原告らの主張は理由がない。
(ア)平成14年約款の業務管轄地域規定(10条)は,柱書きで「受託
者は次の地域で業務を遂行する。」とし,「次の地域」として,「1.
韓国内」,「2.外国著作権管理団体等に管理を委託した場合において
その外国著作権管理団体等の業務執行地域」と規定している。
これと同様の業務管轄地域規定が,昭和62年約款10条,平成11
年約款10条にも置かれている(なお,昭和48年約款及び昭和61年
約款には,このような業務管轄地域規定が存在しない。)。
原告らは,業務管轄地域規定によれば,KOMCAは,相互管理契約
を締結した著作権管理団体が存在しない外国地域においては,そもそも
業務を遂行することができず,委託者である原告らが,KOMCAが業
務を遂行することのできない外国地域における著作権まで信託譲渡す
るとは考えられない旨主張する。
しかしながら,平成14年約款には,KOMCAが外国著作権管理団
体等に管理を委託していない場合に,当該外国地域においてKOMCA
が業務を遂行することができないことを明示した規定は存在せず,ま
た,「外国地域に対する管理」に関する6条は,「受託者は外国地域に
対する信託著作権の管理を外国著作権管理団体等に再委託することが
できる。」というものであり,その文言上,あくまで,KOMCAが信
託譲渡を受けた著作権を,外国地域での管理のために外国著作権管理団
体等に再委託することができる旨を規定しているにすぎず,KOMCA
が,ある外国地域において信託著作物を管理するに当たって,当該外国
地域の著作権管理団体等に管理を委託しなければならないことを義務
付けたり,KOMCAが当該外国地域において著作権を自ら行使するこ
とを禁じているものとはいえない。
また,実際にも,KOMCAは,本件相互管理契約発効前の平成16
年3月ないし平成18年1月までの間,日本の会社3社の間で,KOM
CAが委託者から信託を受けた音楽著作物について,それら音楽著作物
の一定の態様での使用を許諾する旨の「音楽著作物の使用に関する契
約」(乙5契約ないし乙7契約)を締結し,会員から信託譲渡された著
作権を行使していることは,前記ア(ア)のとおりである。
さらに,原告らが主張するように,業務管轄地域規定によって,信託
譲渡の対象となる著作権の範囲がKOMCAの業務管轄地域における
ものに限定されるとの解釈を採用した場合には,例えば,韓国国内で管
理をしていた信託著作物について,KOMCAが外国地域にある著作権
管理団体等にその管理を委託する旨の契約を新たに締結する場合には,
委託者とKOMCAとの間で,当該外国地域における著作権の著作権信
託契約を改めて追加的に締結しなければならなくなるものと解される
が,そのような手続は煩雑であるし,実際に原告らその他のKOMCA
の会員(委託者)とKOMCAとの間で,そのような追加的な著作権信
託契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,平成14年約款10条は,KOMCAが外国著作権管理
団体等に管理を委託していない場合に,当該外国地域においてKOMC
Aが業務を遂行することができないことまでを定めたものと解するこ
とはできない。結局のところ,平成14年約款は,KOMCAが,外国
著作権管理団体等に管理を委託せずに,自ら外国地域で著作権を行使す
ることを禁止せず,これを許容していながら,そのような権利行使をす
る場合と業務管轄地域規定との関係についての明確な定めを欠いてい
る点で不備があるといわざるを得ないが,このことは,上記認定判断を
左右するものではない。
(イ)また,原告らは,本件相互管理契約締結当時のKOMCAの会長で
あったBは,KOMCAの業務管轄地域外における原告らの著作権が,
本件各信託契約の締結後も,原告ら自身に留保されており,本件相互管
理契約発効前には,日本における本件各楽曲についての著作権は原告ら
からKOMCAへ信託譲渡されていないとの認識をしていた旨主張す
る。
そこで検討するに,証人Bの供述中には,①Bは,韓国の作詞家であ
り,平成18年(2006年)2月から平成22年(2010年)2月
まで,KOMCAの会長を務めた者であるところ,文化体育観光部の立
場によると,契約(相互管理契約)が締結されている国以外の地域にお
いては,著作権の権利というのは作家に留保されているというふうに言
っているので,私もそのように解釈をしている,②Bは,B自身を含め,
多くのKOMCAの会員が,本件相互管理契約発効前の時点では,KO
MCAの承諾を得ることなく,自ら韓国の出版社(オリジナルパブリッ
シャー),日本の出版社(サブパブリッシャー,Bの場合はACA)を
通じて,独自に,日本における著作権の権利行使や管理を行っていた旨
の供述部分があり,これに沿うB作成の見解書(甲17の1,2,甲2
7の1,2)の記載部分がある。
しかし,他方で,証人Bの供述中には,「KOMCAが日本における
著作権を譲渡されなかったというわけではなく,このような約款を締結
する際には,全世界を相手に,KOMCAが作家からその権利の委託を
受けます。そういった約款を締結した後に,KOMCAが相手国1か国
1か国と相互管理契約を締結していきます。締結された瞬間に,私ども
KOMCAはその地域において管理することができるようになるわけ
です。」との供述部分があり,これは,KOMCAの業務管轄地域外に
おける原告らの著作権が,本件各信託契約の締結後も,原告ら自身に留
保されていたとの上記主張と矛盾するものである。
また,Bが上記②で供述するようなKOMCA会員の行為は,当該会
員が,平成14年約款2条5項の規定に違反し,KOMCAの承認を得
ずに信託著作権の行使をしていたという事実を示すにすぎないもので
あり,KOMCAの業務管轄地域外における原告らの著作権が,本件各
信託契約の締結後も,原告ら自身に留保されていたことの根拠となるも
のではない。
(ウ)さらに,原告らは,KOMCAの主務官庁である文化体育観光部の
見解書(甲22の1,2,23)は,本件相互管理契約の発効前におい
て,著作権信託契約の締結にかかわらず,委託者の日本における著作権
は,委託者に留保されていたことを裏付けるものである旨主張する。
そこで検討するに,原告ら代理人が,法務法人有限会社ロゴスを通じ
て,文化体育観光部に送付した質疑書に対する文化体育観光部の「(社)
韓国音楽著作権協会に関する質疑に対する回答」と題する書面(原文・
韓国語)(甲22の1,2,23)中には,①「質疑1.(KOMCA
-JASRAC間の)相互管理契約の効力が発生する前である2007
年12月31日以前に作家らの著作権が日本において侵害された事案
について,作家らが日本で原告となり訴訟を提起できるか否か?」との
質疑に対し,「○(社)韓国音楽著作権協会(以下KOMCA)の信託
約款上,相互管理契約以前の権利行使についてはKOMCAが管理でき
る業務ではないため,同時点までの権利行使については個別の権利者ら
に著作財産権が留保されているとみるのが妥当であり,したがって個別
の著作権者らが著作権侵害訴訟を提起できると思われます。」との回答
が,②「質疑3.上記約款を貴文化体育観光部が承認する際,上記約款
11条の意味をどのように理解して承認したのか?」との質疑に対し,
「○約款11条は,いわばKOMCAが受託著作権を管理できない範囲
について規定したもので,これについては質疑1への回答と同じく,個
別の著作権者が権利を行使できるとする解釈ですが,信託契約の原理お
よび著作財産権者の権利保護の点からみて妥当なものと思われます。」
との回答が記載されていることが認められる。
しかしながら,上記各回答は,「約款11条」が平成21年約款11
条の業務管轄規定に相当するので,平成21年約款を前提とする回答で
あることがうかがわれるところ,上記各回答には,「約款11条」と平
成21年約款の3条1項,3項等の他の規定との整合性や,平成21年
約款には,信託譲渡される著作権の範囲及び内容を制限することを定め
た明文の規定がないことなどについての説明がされていない。
加えて,上記各回答は,KOMCA作成の平成22年(2010年)
6月3日付け意見書(乙2(枝番を含む。))の内容や,著作権法を専
門とするA作成の意見書(乙4(枝番を含む。))の内容とも相反する
ものであることに照らすならば,上記各回答を直ちに採用することはで
きない。
したがって,原告らの上記主張は,理由がない。
(エ)以上によれば,本件相互管理契約発効前には,日本における本件各
楽曲についての著作権は原告らに留保されているとの原告らの主張は
理由がない。
ウ原告らの予備的主張について
原告らは,仮に被告らが主張するように本件各約款に基づく本件各信託
契約の締結によって,原告らの日本を含む全世界における本件各楽曲の著
作権がKOMCAに信託譲渡されたものと解したとしても,①KOMCA
の業務管轄地域外における著作権の喪失の効果は,KOMCAが当該地域
の著作権管理団体との間で相互管理契約を締結し,その契約が発効するこ
とを停止条件として発生する,②KOMCAの業務管轄地域ではなかった
日本との関係では,KOMCAとJASRACとの間で本件相互管理契約
が締結され,発効するまでの間は,本件各約款に基づく本件各信託契約の
締結にかかわらず,原告らの本件各楽曲の日本における著作権は,原告ら
に帰属していた旨主張する。
しかしながら,本件各約款には,信託の効力の発生時期に関する特段の
定めがなく(前記(1)イ(ア)),外国における著作権について,その信託
譲渡の効力がKOMCAと当該外国地域の著作権管理団体との間の相互
管理契約の締結やその発効を停止条件として生ずる旨の明文の定めもな
い。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
エ小括
以上によれば,原告らが,KOMCAとの間で,著作権信託契約約款に
基づく本件各信託契約をそれぞれ締結した時点で,日本を含む全世界にお
ける著作権が,原告らからKOMCAに信託譲渡され,これにより本件各
楽曲の著作権は,本件相互管理契約発効前に原告らからKOMCAへ信託
譲渡されたものと認められる。
(3)まとめ
以上のとおり,原告らは,本件相互管理契約発効前に本件各楽曲の著作権
を本件各信託契約に基づいて信託譲渡し,これを保有していなかったから,
その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告らに対する本件各楽
曲の複製権又は公衆送信権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれ
も理由がない。
なお,付言するに,本件各楽曲の著作物使用料や使用料相当の損害金等の
収受及びに分配の問題は,本来,原告らとKOMCAとの間の本件各信託契
約の債務の履行に関する問題であり,仮に本件相互管理契約の発効前の日本
における本件各楽曲の利用について著作物使用料等の未収受があるとすれ
ば,それは,本件各信託契約に係る法律関係の下において原告らとKOMC
Aとの間で解決すべき問題であると解される。
3結論
以上によれば,原告らの請求は,理由がないからいずれも棄却することとし,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官上田真史
裁判官大西勝滋は,転補により署名押印することができない。
裁判長裁判官大鷹一郎
(別紙)請求一覧表(1)
番号原告請求額
1原告11518万円
2原告2607万2000円
3原告33946万8000円
4原告4303万6000円
5原告5607万2000円
6原告6910万8000円
7原告71821万6000円
8原告86072万円
9原告96072万円
(別紙)請求一覧表(2)
番号原告請求額
1原告1412万5000円
2原告2275万円
3原告31650万円
4原告4137万5000円
5原告5412万5000円
6原告6550万円
7原告7275万円
8原告82750万円
9原告93162万5000円
※別紙目録1ないし3は省略※

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