弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決を次のとおり変更する。
二 控訴人は被控訴人に対し、金七三万九五〇〇円及びこれに対する昭和五五年七
月一日から同五八年四月一二日まで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人のその余の請求を棄却する。
四 被控訴人は控訴人に対し、金二万八二五一円及びこれに対する昭和五八年四月
一三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
五 控訴人のその余の申立を棄却する。
六 訴訟費用は第一、二審を通じて一〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴
人の各負担とする。
       事   実
第一 申立
(第六三九号事件)
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
(第一七二〇号事件)
一 控訴人
 被控訴人は控訴人に対し、金一三万一、一七三円及びこれに対する昭和五八年四
月一三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被控訴人
本件申立を却下する。
第二 主張
次のように訂正、付加するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用
する。
一 原判決二枚目表一一行目の「勤務年限」を「勤続年数」に、裏一行目の「主と
した」を「主な」に各訂正する。
二 同九枚目裏三行目の「就業規則の」の次に「明文に反しかつ」を付加する。
三 同一五枚目裏二行目の「もられる」を「もらえる」に訂正する。
四 控訴人の主張
1 控訴人従業員の賃金、退職金の額は、被控訴人のごとく勤続年数の極めて短い
中途入社社員についても長期の勤続者についても、相当の高水準にある。そのた
め、昭和五三年度まで行われてきたように、各年度の賃金協定の締結に伴い、基本
給の昇給分とベースアツプ分を退職金の計算に当たり共に一〇〇パーセント取り入
れると、将来ベース・アツプが毎年行われた場合、控訴人が従業員に支払う退職金
が、控訴人にとつて非常に重い負担となることが予想された。
2 そこで控訴人は、従業員組合及び外銀労に対し、昭和五四年度以降の退職金に
ついては、同年度以降の基本給の昇給分は、従来通り退職金の算定に当たり一〇〇
パーセント反映させるが、同年度以降のベース・アツプ分についてはその一部を反
映させることを提案し、両組合と団体交渉に入つた。
3 その結果、従業員組合との間では、昭和五五年一〇月一六日退職金計算の基礎
として、賃金協定の基本給表の代りに、事務行員については年齢、勤続年数別に、
又非事務行員については勤続年数別に、それぞれ退職金算定の基礎となる月給(い
わゆる第二基本給)を定めた体系表(B表という)を添付した昭和五四年度退職金
協定が締結されたが、同協定の有効期間は昭和五四年一二月三一日までであつた。
4 昭和五九年七月二五日、控訴人と従業員組合との間で、昭和五五年一月一日か
ら同年末日までを有効期間とする同年度退職金協定(乙第一六号証の一、二)及び
昭和五六年一月一日から同年末日までを有効期間とする同年度退職金協定(乙第一
七号証の一、二)がいずれも締結された。
5 昭和五九年八月二一日控訴人は、大阪支店を管轄する大阪中央労働基準監督署
に対し、控訴人と従業員組合との間の昭和五五、五六年度退職金協定の英文及び訳
文要旨を添付した就業規則変更届(乙第一八、一九号証)に、同組合のこれに対す
る意見書を添えて提出する一方、その翌日変更後の就業規則を控訴人大阪支店内に
掲示するとともに、同支店総務課に備え付けて全従業員に周知させる手続をした
後、昭和五六年までに退職した者全員に対する退職金の最終清算による追加支払等
を同日中に完了した。
6 ところで控訴人と従業員組合との間の昭和五五年度退職金協定によると、被控
訴人と同職種(メツセンジヤー)、同一勤続年数の従業員組合に属する従業員が、
被控訴人と同様昭和五五年六月三〇日に退職した場合、退職金計算の基礎となる第
二基本給(月給)は、同年度退職金協定に添付された「一九八〇年度退職金の為の
非事務行員月給表」(乙第一六号証の一、二)により一四万九〇〇〇円となり、こ
れを基本として同協定の定めた方法により退職金額を計算すると、別紙計算書記載
のとおり退職一時金五五万一三〇〇円、退職年金一時払金一八万八二〇〇円合計七
三万九五〇〇円となる。
7 昭和五五年六月三〇日当時控訴人大阪支店の従業員は、スタツフオフイサー
(部長代理職)以上の者で控訴人と組合との間の退職金協定、賃金協定等の適用を
うけない管理職一〇名と一般従業員七七名で構成され、後者の内訳は、従業員組合
に加入している者五二名、外銀労に加入している者一九名、何れの組合にも加入し
ていない者六名であつたが、右非組合員には従来控訴人と従業員組合との間で締結
された各年度の退職金協定が適用されてきたので、一般従業員総数七七名の四分の
三以上にあたる五八名が同協定の適用を受けていた。
8 そうすると、労働組合法一七条の定める一般的拘束力により、少数組合である
外銀労に加入している被控訴人に対しても、右退職金協定が適用されることとな
り、被控訴人に支払うべき退職金の額は、前記のとおり七三万九五〇〇円である。
9 しかるに被控訴人は、原判決の仮執行宣言に基づく大阪地方裁判所の差押命令
により、昭和五八年四月一二日控訴人から七六万四三〇〇円とこれに対する昭和五
五年七月一日から同五八年四月一二日まで年五分の割合による遅延損害金一〇万六
三七三円の合計八七万〇六七三円の支払をうけ、前記退職金七三万九五〇〇円との
差額一三万一一七三円を不当に利得した。
10 よつて、控訴人は被控訴人に対し、民訴法三七八条、一九八条二項に基づき
右差額金一三万一一七三円の返還と、これに対する前記支払日の翌日である昭和五
八年四月一三日から支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による損害金の支
払を求める。
五 被控訴人の主張
1 控訴人の仮執行による給付の一部返還及び損害賠償を求める申立並びに労働組
合法一七条の定める一般的拘束力に関する主張は、故意又は重大な過失に基づく時
機に遅れた攻撃防禦方法であるから、不適法として却下されるべきである。
2 控訴人の当審における主張中、控訴人と従業員組合との間で昭和五九年七月二
五日控訴人主張の内容の昭和五五、五六年度退職金協定が締結され、控訴人主張の
日に管轄労働基準監督署に主張のように届出られたこと、右五五年度退職金協定を
被控訴人に適用するとその退職金の額は七三万九五〇〇円となること、控訴人大阪
支店における昭和五五年六月三〇日当時の管理職である従業員数、一般従業員数、
従業員組合加入者数、外銀労加入者数、一般従業員中の非組合員数がいずれも主張
のとおりであること、被控訴人が原判決の仮執行宣言に基づく大阪地方裁判所の差
押命令により、主張の日に主張の金額の支払を受けたことは認めるが、その余は争
う。管理職のうち、組合員資格を有しない者は、二名である。
3 労働協約中の規範的部分は、労働条件を定める労働契約の内容となるものであ
るから、協約の失効後もなお効力を有し、個々の労働者の同意のない限り変えるこ
とはできない。
 したがつて、昭和五九年七月二五日に控訴人と従業員組合との間で締結された昭
和五五年度退職金協定によつて、既に同五五年六月三〇日に発生し、就業規則又は
労働契約により確定した被控訴人の退職金請求権は、何ら影響をうけるものではな
い。労働基準法九二条、労働組合法一六条は、労働協約、就業規則、労働契約が、
同時期、並列的に存在している場合のことを規定したに過ぎず、新協定で、労働条
件が労働者側に不利になつた場合には適用されないものである。
4 労働組合法一七条は、労働協約の適用をうけず、低い労働条件に甘んじている
少数労働者がいると、労働協約の維持、改善に支障を来すので、一工場事業場に常
時使用される労働者の四分の三以上に適用される協約規範を四分の一に満たない同
種労働者に拡張適用することにより、協約規範と協約当事者である組合の地位を安
定させることを目的としている。したがつて、右四分の三の数には事実上協約の適
用をうけているに過ぎない非組合員は含まれない。また少数労働者が労働組合を結
成している場合はその団結権を制約されるから右少数労働者に対し同条の適用はな
いと解すべきである。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 被控訴人は、控訴人が当審においてなした被控訴人の仮執行による給付の一部
返還、損害賠償の申立及び被控訴人の本件退職金につき労働組合法一七条により控
訴人と従業員組合との間に締結された昭和五五年度退職金協定の適用があるとの主
張は、いずれも時機に遅れた攻撃防禦方法として不適法であると主張するので考察
する。
 民訴法一三九条は、民事訴訟における攻撃防禦方法の提出についての原則である
随時提出主義(同法一三七条)に対し、迅速な裁判を求める公益上の要請に基づく
制約として設けられたものであるところ、本件の弁論の全趣旨に照らして控訴人の
右訴訟行為に故意又は重大な過失があつたと認められないことはもとより、本件記
録によれば控訴人の右申立及び主張は、再開後の当審第一〇回口頭弁論期日(昭和
五九年八月六日)に提出されたものではあるが、第一二回口頭弁論期日(同年一一
月六日)には弁論が終結されかつ判決言渡期日が指定されているのであるから、右
訴訟の経過に鑑みると、これらが時機に遅れて提出されたため訴訟の完結を遅延せ
しめたということはできない。
 したがつて、被控訴人の右主張は採用できないので、本案につき順次判断する。
二 当事者間に争いのない事実については、原判決理由一、二及び三の1(原判決
一六枚目裏九行目から一八枚目裏六行目まで)に記載のとおりであるから、これを
引用する。たゞし、同一七枚目表三行目の「勤務年限」を「勤続年数」に、裏四行
目の「現在」から五行目の「ところ、」までを「昭和五八年六月三〇日まで勤務し
たこと、」に、六行目の「担当」を「相当」に各訂正し、九行目から一一行目まで
と同一八枚目裏二行目から六行目までを各削除する。
三1 ところで、労働組合法一七条は、一の工場事業場に常時使用される同種労働
者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用をうけるに至つたときは、当
該工場事業場に使用される他の同種労働者に対しても当該労働協約が適用される旨
のいわゆる労働協約の一般的拘束力を定めている。
2 右同条にいう一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の
数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときとは、次のように解され
る。すなわち右同条が、労働組合又は組合員を対象とするものではなく、個々の労
働者自体を対象として定められ、一定範囲における最低労働条件の統一的規整並び
に同種労働者間における労働条件をめぐる紛議の防止解決等を主たる目的とする立
法の趣旨に照らせば、当該協約の適用を受けている限り、単にその協約を締結した
協約当事者である労働組合の組合員のみでなく、非組合員である一般従業員も加え
た数が、一の工場事業場で常時使用される同種労働者の四分の三以上であるとき
は、右協約の適用をうけていない少数労働者にもその効力が及ぶものと解すべきで
ある。もつとも、少数労働者が多数組合の外に別に労働組合を結成している場合
に、多数組合の締結した労働協約の一般的拘束力が及ぶか否かについては、議論が
ある。
3 しかし、当該工場事業場の一般従業員の四分の一に満たない労働者が別個に労
働組合を結成している場合であつても、右少数組合が、いまだ労働協約を結ぶに至
つていない労働条件その他労働者の待遇に関する基準(いわゆる規範的部分)につ
き、又は過去において当該事項につき協約を締結したことはあるが、既に右協約が
失効している場合においては、労働組合法一七条に基づく労働協約の一般的拘束力
は、右少数労働者に及ぶものと解するのが相当である。その理由は次のとおりであ
る。
 まず、労働組合法一七条は、個々の労働者を対象とする労働者保護の規定であつ
て、少数組合の存否は直接の関係がなく、同条の文言からみても、少数組合の存在
は同条適用につき除外事由とならないものである。これを実質的に考察しても、仮
に少数組合が存在するからといつて、同組合が後記のような事情により労働協約を
締結せず、又は過去において締結したことはあるが同協約が既に失効している場合
には、多数組合が締結した協約により少数労働者を保護し、少くとも規範的部分に
ついては最低的保障を与えるべき切実な実際上の必要性が存在する。それのみでは
なく、少数組合が弱体であるとか、交渉能力が十分でないため協約締結を危ぶまれ
る場合においては、これによつて協約締結の基礎を与えられることになるのであつ
て、被控訴人主張のように団結権を制約されるどころか、むしろ、これを手掛りと
して、多数組合の締結した協約よりも一層有利な内容の協約の成立を目指して団体
交渉及び団体行動をなす自由と可能性を有するのであり、何ら少数組合の自主性を
害される虞れはなく、対抗関係で弱い立場に立つことが多いとみられる少数組合に
多数組合の協約の限度までの利益を常に保障することによつて、実質的に、少数組
合の自主性を支え、団結権の行使に役立つと解されるからである。
四 前記当事者間に争いのない事実、前掲各証拠、成立に争いのない甲第一、第二
号証、第四、第五号証、第八号証の一、二、第九号証、乙第一ないし第四号証、第
五、第一二号証の各一、二、第一三、第一五号証、第一六、第一七号証の各一、
二、第一八ないし第二〇号証、第二一号証の一ないし四、第二二号証、原、当審に
おける控訴人代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が
認められ、これに反する証拠はない。
1 控訴人大阪支店においては、以前から控訴人と労働組合との間でほとんど毎年
のように全従業員につき画一的統一的に賃金を改定し、退職金についても僅か一年
の有効期間を定めてこれを更新し又は改定し、その度毎に就業規則を変更して、所
轄労働基準監督署に届出するのを例としていた。
2 昭和五五年一〇月一六日控訴人と従業員組合との間において、同五三年一二月
三一日失効した同五〇年六月二六日発効の退職金協定の基本給を別に作成したB表
の月収(いわゆる第二基本給)に改めることを骨子とし、その他所要の改正を施
し、昭和五四年一二月三一日まで有効期間を延長した改定退職金協定が締結され、
書面に作成し両当事者がこれに署名したが、外銀労との間では昭和五四年度の退職
金協定は締結されなかつた。
3 昭和五九年七月二五日、控訴人と従業員組合との間において、前記改定退職金
協定の有効期間を一年ずつ延長する形式により昭和五五年度及び同五六年度の退職
金協定が締結され、いずれも書面に作成し両当事者がこれに署名したが、外銀労と
の間では昭和五五、五六年度の退職金協定は締結されず、現在に至るも締結される
見通しは立つていない。
4 控訴人は、昭和五九年八月一六日従業員組合との間で締結した前記退職金協定
に基き変更される就業規則は、外銀労加入者及び非組合員にも適用がある旨を口頭
で外銀労等に通告した。
5 昭和五九年八月二一日控訴人大阪支店は、従業員組合との間で締結された昭和
五五、五六年度退職金協定の英文原本写及び訳文の要旨を添付した各就業規則変更
届に、同支店の従業員の過半数を占める労働組合である従業員組合の意見書を添
え、大阪中央労働基準監督署に届け出た。
 翌二二日同支店は、変更後の就業規則を同支店内に掲示して告知するとともに、
同支店総務課にこれを備え付け、全従業員の縦覧に供した。
6 被控訴人の退職日である昭和五五年六月三〇日当時における控訴人大阪支店の
従業員の構成は、スタツフオフイサー(部長代理職)以上の従業員で、控訴人と組
合間の賃金協定、退職金協定等の適用を受けない管理職一〇名を除く一般従業員七
七名中、従業員組合加入者五二名、外銀労加入者一九名、いずれの組合にも加入し
ていない非組合員六名であつたが、前記昭和五五、五六年度退職金協定が締結され
た昭和五九年七月二五日当時においては、管理職一〇名、従業員組合加入者四三
名、外銀労加入者一五名、非組合員六名の構成であつた。(被控訴人は、右管理職
中にも組合員資格を有する者がいた旨主張するが、その事実は認められない。)
7 控訴人大阪支店においては、古くから非組合員に対しても従業員組合との間で
締結された賃金協定、退職金協定が適用されてきたので、前記昭和五五年六月三〇
日及び同五九年七月二五日のいずれの時点においても、前記従業員組合との間の退
職金協定の適用をうける常時使用される同種労働者数は、同支店一般従業員総数の
四分の三に達していた。
8 昭和五四年一月一日から同五六年一二月三一日までの間における控訴人大阪支
店の一般従業員の退職者は、被控訴人を除き三名であつたが、そのうち二名は、従
業員組合加入者、他の一名は非組合員であり、いずれも前記従業員組合との間の各
年度退職金協定が適用され、すべて清算を了している。
五 前記認定事実によれば、昭和五五年六月三〇日付退職者である被控訴人に対し
ては、昭和五三年一二月三一日失効した本件協定は適用がなく、労働組合法一七条
により控訴人と従業員組合との間で締結された昭和五五年度退職金協定が適用され
るものと認めるのが相当であるところ、同協定に基づき被控訴人の退職金を計算す
ると、別紙計算書記載のとおり七三万九五〇〇円となることは、当事者間に争いが
ない。
六1 被控訴人は、過去に締結した労働協約の規範的部分は、労働契約の内容とな
るから、労働協約が失効してもなお効力を保有し、個々の労働者の同意を得ない限
り変更できない旨主張する。
 しかし前記のように、使用者と労働組合とがほとんど毎年全従業員につき画一的
統一的に賃金を改定し、退職金についても短期一年の有効期間を定めてこれを更新
し又は改定し、その度毎に就業規則を変更して所轄労働基準監督署に届出するのを
常態としていた本件の過去における労使関係に鑑みると、失効した過去の労働協約
が当然に労働契約の内容となるものは容易に解し難いのみでなく、失効した筈の労
働協約がなお実質上効力を保有し、他の有効な労働協約の労働組合法一七条に定め
る一般的拘束力に優先する効力を有するものとは到底解することができない。それ
故、被控訴人の右主張は採用できない。
2 被控訴人は又、昭和五九年七月二五日に控訴人と従業員組合との間で締結され
た昭和五五年度退職金協定は、既に同五五年六月三〇日に発生した被控訴人の退職
金請求権に対し遡及して影響を及ぼさないと主張する。
 しかし、被控訴人主張の日を退職日とすることに合意したとはいえ、被控訴人が
その後昭和五八年六月三〇日まで控訴人の従業員たる身分を有していたことは、前
記認定のとおりであり、形式的に賃金又は退職金請求権が発生していても、具体的
金額が未定である場合に後の労働協約によりその金額を協定し、過去に遡つて適用
することは何ら妨げられるべき理由はなく、成立に争いのない甲第一九、第二〇号
証、第二一号証の一ないし七、乙第九ないし第一一号証の各一、二によれば、控訴
人と従業員組合との間では勿論のこと、控訴人と外銀労との間においても、従来各
年度の賃金、ボーナス協定においてほとんど常に遡及適用をしており、被控訴人の
賃金については昭和五八年度まで遡及適用していたことが明らかであり、その内容
において賃金の後払いと異ならない退職金について取扱いを異にすべき理由は全く
存しない。
したがつて、被控訴人の右主張も採用できない。
七1 控訴人は、控訴人銀行では退職金協定の失効時における基本給月額を基礎と
して算定した金額を退職日に仮払いし、後日新退職金協定締結時に過不足を清算す
るという慣行があると主張するが、右主張に対する判断は、原判決理由中の同二二
枚目裏五行目から同二三枚目表九行目までに記載の説示と同一であるから、これを
引用する。たゞし、同二三枚目表七行目の「証人aの証言」を「控訴人代表者aの
原審における供述部分」に訂正する。
2 次に控訴人は、昭和五五年六月二八日、同年一二月三一日、同五六年四月一〇
日の三回にわたり主張の金額を提示し、受領方を告知し、支払準備を完了して弁済
の提供をしたのに、被控訴人はこれを受領しなかつたから、受領遅滞の責任がある
と主張する。
 しかし、被控訴人の退職金は、前記のとおり七三万九五〇〇円であつて、控訴人
の提示した金額はいずれもこれに満たなかつたから、債務の本旨に従つた弁済の提
供ではなく、被控訴人に受領遅滞の責任はないというべきである。
八 被控訴人が、昭和五八年四月一二日控訴人から原判決の仮執行宣言に基づく大
阪地方裁判所の差押命令により、七六万四三〇〇円とこれに対する昭和五五年七月
一日から右同日まで年五分の割合による遅延損害金一〇万六三七三円の合計八七万
〇六七三円の支払をうけた事実は、当事者間に争いがない。
九 そうすると、被控訴人が控訴人から支払をうけた金額から、被控訴人の退職金
七三万九五〇〇円とこれに対する昭和五五年七月一日から同五八年四月一二日まで
年五分の割合による遅延損害金一〇万二九二二円(円未満切捨て)の合計八四万二
四二二円を控除した差額二万八二五一円は過剰給付として控訴人に返還すべきもの
である。
一〇 よつて、被控訴人の本訴請求中、七三万九五〇〇円とこれに対する退職日の
翌日である昭和五五年七月一日以降強制執行日である同五八年四月一二日まで、控
訴人の本件申立中、二万八二五一円とこれに対する強制執行日の翌日である昭和五
八年四月一三日以降完済に至るまでそれぞれ民事法定利率年五分の割合による遅延
損害金の支払を求める限度で正当であるから、これを認容し、その余は失当である
からいずれも棄却すべく、右と異る原判決を主文表示のとおり変更することとし、
第一、二審の訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤野岩雄 仲江利政 蒲原範明)
別紙計算書(省略)

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