弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取り消す。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件再抗告の理由は、別紙再抗告申立書(二通)記載のとおりである。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、原決定は、次の理由により取消を免
れない。
 一 事件の経過
 1 少年は、昭和五六年六月一四日千葉県柏市a町所在柏市立b小学校の校庭内
で通行中のA(当時一一歳)を所携の果物ナイフで殺害したという殺人の非行事実
により、千葉家庭裁判所松戸支部の審判に付せられ、同年八月一〇日、初等少年院
送致の決定を受けた。これに対しては、少年側が抗告を申し立てなかつたので、右
決定はそのころ確定した。
 2 附添人Bは、昭和五七年五月三一日、少年が右非行事実を犯したことがなく、
審判権がなかつたことを認めうる明らかな資料を新たに発見したとして、同支部に
対し少年法二七条の二第一項による保護処分の取消の申立をしたところ、同支部に
おいては、これを保護処分取消事件として立件し、審判期日を重ねたうえ、同五八
年一月二〇日、右非行事実がないにもかかわらず保護処分をしたことを認めうる明
らかな資料を新たに発見したときに該当するとはいえないという理由により、本件
初等少年院送致の決定は取り消さない旨の決定をした。
 3 同附添人は、右決定に対し重大な事実誤認を理由として抗告を申し立てたが、
東京高等裁判所は、同年二月二三日、少年法二七条の二第一項に基づいてした保護
処分を取り消さない旨の決定(以下「不取消決定」ともいう。)は、抗告の対象と
なる同法三二条所定の「保護処分の決定」にあたらず、また、右の決定に対し少年
側が抗告をすることを是認する旨の規定もないという理由により、右抗告を不適法
として棄却した。本件再抗告は、右抗告棄却決定に対してされたものである。
 二 当裁判所の判断
 1 少年法の定める少年保護事件の手続は、少年の健全な育成と保護を窮極の目
的とするものではあるが(同法一条参照)、右の目的のもとにされる保護処分が、
一面において、少年の身体の拘束等の不利益をも伴うものである以上、保護処分の
決定の基礎となる非行事実の認定については、慎重を期さなければならないのであ
つて、非行事実が存在しないにもかかわらず誤つて少年を保護処分に付することは、
許されないというべきである。そして、誤つて保護処分に付された少年を救済する
手段としては、少年法が少年側に保障した抗告権のみでは必ずしも十分どはいえな
いのであつて、保護処分の決定が確定したのちに保護処分の基礎とされた非行事実
の不存在が明らかにされた場合においても何らかの救済の途が開かれていなければ
ならない。
 2 現在、少年審判の実務においては、少年法二七条の二第一項にいう「本人に
対し審判権がなかつたこと……を認め得る明らかな資料を新たに発見したとき」と
は、少年の年齢超過等が事後的に明らかにされた場合のみならず、非行事実がなか
つたことを認めうる明らかな資料を新たに発見した場合を含むという解釈のもとに、
同項を保護処分の決定の確定したのちに処分の基礎とされた非行事実の不存在が明
らかにされた少年を将来に向つて保護処分から解放する手続をも規定したものとし
て運用する取扱いがほぼ確立されており、同項に関するこのような解釈運用は、前
記のような観点から、十分支持することができるというべきである。また、同法二
七条の二第一項が、一定の事由のある場合に保護処分の取消を家庭裁判所に義務付
けていることに加え、保護処分取消事件につき「その性質に反しない限り、少年の
保護事件の例による。」こととしている少年審判規則五五条の趣旨などからすると、
少年法二七条の二第一項による保護処分の取消の申立を受けた原原審裁判所(千葉
家庭裁判所松戸支部)が当該保護処分の基礎とされた非行事実の存否につき審理を
遂げたうえ、新たな資料をも加味して保護処分の取消の要否に関する判断を示した
ことは、正当であつたというべきである。
 3 ところで、原決定は、少年法二七条の二第一項に基づいてした保護処分を取
り消さない旨の決定は、同法三二条にいう「保護処分の決定」にあたらず、他に少
年側の抗告を是認する旨の規定もないから、これに対する抗告は許されないとして、
本件抗告を棄却したのである。しかし、非行事実の不存在を理由として保護処分の
取消を求める申立に対し保護処分を取り消さないとした決定は、少年に対する保護
処分を今後も継続することを内容とする家庭裁判所の決定であるから、同法二四条
所定の保護処分の決定とその実質を異にするものではない。これに、前記少年審判
規則五五条等の規定の趣旨をも加味して勘案すると、同法二七条の二第一項による
保護処分の取消を求める申立に対してされたこれを取り消さない旨の決定に対して
は、同法三二条の準用により少年側の抗告が許されると解するのが相当である。な
お、最高裁昭和四〇年(し)第七号同年六月二一日第二小法廷決定・刑集一九巻四
号四四八頁は、家庭裁判所が少年法一八条二項により強制的措置を指示して事件を
児童相談所長に送致した決定のように、児童相談所長のする強制的措置に対する許
可の性質を有し同法二四条に基づく保護処分の決定とはその性質を明らかに異にす
る決定に対しては同法三二条の抗告をすることができない旨を判示するに止まり、
同法二四条に基づく決定と実質を同じくする不取消決定に対する抗告が許されない
との趣旨まで判示したものではないと解すべきである。
 4 そうすると、これと異なり、少年法二七条の二第一項に基づいてした不取消
決定に対しては同法に基づく抗告をすることができないという理由により附添人の
抗告を不適法として棄却した原決定は、同法三二条の解釈適用を誤つたものという
べきであり、右法令の違反は決定に影響を及ぼし、これを取り消さなければ著しく
正義に反すると認められるから、同法三五条、三六条、少年審判規則五四条、四八
条、少年法三二条、少年審判規則五三条二項、五〇条によりこれを取り消したうえ
(なお、少年法三五条は、抗告棄却決定に対する再抗告事由を、憲法違反、憲法解
釈の誤り及び判例違反のみに限定しているが、刑訴法上の特別抗告につき同法四一
一条の準用を認める確立された当審判例の趣旨に照らせば、たとえ少年法三五条所
定の事由が認められない場合であつても原決定に同法三二条所定の事由があつてこ
れを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは、最高裁判所は、そ
の最終審裁判所としての責務にかんがみ、少年法及び少年審判規則の前記一連の規
定に基づき、職権により原決定を取り消すことができると解すべきである。)、抗
告の理由の有無につき実体審理をさせるため、本件を原審である東京高等裁判所に
差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
  昭和五八年九月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    安   岡   滿   彦

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