弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     当審証人A1、同A2、同A3(第六、七回)、同A4(第七、八
回)、同A5に関する分は全被告人らの連帯負担とし、当審証人A6に関する分は
被告人B1、同B2、同B3、同B4、同B5の連帯負担とし、当審証人A7(第
八、第一三回)に関する分は被告人B1、同B6、同B3、同B4、同B7、同B
5、同B8、同B9の連帯負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、被告人九名の弁護人重松蕃、同高橋清一、同莇立明、同村
山晃、同稲村五男、同中島晃、同高田良爾、同岩佐英夫、同川中宏、同平田武義、
同矢野修共同作成の控訴趣意書(同趣意書中、二四七丁七行目から八行目にかけて
の「明らかに理由不備若しくは理由齟齬の違法があるといわなければならない。」
との記載は独立した主張ではなく、単なる事情として述べたものである旨釈明し
た。)及び各被告人それぞれ作成の各控訴趣意書(ただし、被告人B1、同B3、
同B7、同B9各作成の控訴趣意書では、右被告人らは何ら暴行はしておらず、原
判決で認定された暴行等の事実は存在しないことを述べているのであつて、これら
は要するに、被告人B1については原判示の第一ないし第五の各事実、被告人B3
については同第三及び第四事実、被告人B7については同第二及び第三事実、被告
人B9については同第三事実についてそれぞれ判決に影響を及ぼすべき事実誤認及
び法令適用の誤りを主張するものである旨釈明した。)にそれぞれ記載のとおりで
あり、これに対する答弁は大阪高等検察庁検察官検事高橋哲夫作成の答弁書記載の
とおりであるから、いずれもこれらを引用する。
 第一 弁護人の控訴趣意中、不法公訴受理の主張について
 論旨は、要するに、本件各公訴提起は、(一)教育に対する政治的支配を維持す
るために教職員組合との交渉を拒否してあくまで不当人事を強行しようとする京都
市教育委員会、(二)組合と組合の人事闘争を中傷・ひぼうし、組織的打撃を加え
ることによつて組合に左たんしてきたC1市長の失点を作り出し、誕生間もないC
1民主市政に揺さぶりをかけ、市長選敗北の失地回復を図ろうとするC2党、C3
党などの反動的政治諸勢力、(三)労働組合、民主勢力などに対し異常な敵意を示
し、その弾圧に躍起になつていた京都府警及び京都地方検察庁、以上の三者が、そ
れぞれの政治目的を貫徹するために結託してなした政治的起訴であり、したがつて
検察官が公訴権を濫用したものであるから、本来は、本件各公訴棄却の判決がなさ
れるべきであつたといい、原裁判所が本件各公訴を受理して実体判決をしたのは不
法に公訴を受理したものとして刑事訴訟法三七八条二号の控訴理由にあたるもので
あるから、原判決を破棄し、あらためて本件各公訴を棄却するよう求める、という
もののようである。
 しかしながら、検察官は、現行法制の下では、公訴の提起をするかしないかにつ
いて広範な裁量権を認められており、単にその裁量が不当であるからといつて、公
訴の提起が直ちに無効となるものではなく、ただ、たとえば公訴の提起自体が職務
犯罪を構成するような極限的な場合に限り無効とされることがあり得るものと解さ
れる(最高裁昭和五五年一二月一七日決定、刑集三四巻七号六七三頁参照)とこ
ろ、原審及び当審において取り調べた関係証拠を検討しても、原判決が「争点に対
する判断」中の公訴棄却の主張に対する判断に説示するとおり、本件公訴の提起自
体が職務犯罪を構成するような極限的な訴追裁量権の逸脱濫用によつてなされたも
のと認められる事実は存在しないことはもとより、その事案の態様等からみて、本
件公訴の提起が所論のような政治的弾圧を企図してなされたものとも認められな
い。論旨は理由がない。
 第二 本件に至る経緯について
 原判決挙示の関係証拠及び当審における事実取調べの結果を総合すると、本件に
至る経緯は、おおむね以下のとおりであることが認められる。すなわち、京都市教
育委員会(以下、C4委という。)では、昭和三六年ころまでは教職員の具体的な
人事問題等についても、京都市内の教職員組合の協議体であるC4協議会(以下、
C4協という。)、あるいはその構成団体であるC4(同市立の幼稚園及び小学校
に勤務する教職員により組織された職員団体、以下、C4組という。)、C5組合
(同市立の中学校に勤務する教職員により組織された職員団体、以下、C5組とい
う。)、C6組合(同市立の高等学校に勤務する教職員により組織された職員団
体、以下C6組という。)との間で交渉が持たされていた(昭和四〇年法律七一号
により地方公務員法五五条が大幅に改正され翌四一年六月一四日に施行されたが、
その改正前の同法条においては、改正法のような「管理運営事項は交渉の対象とす
ることができない」旨の規定は設けられていなかつたけれども、交渉事項は、改正
法と同様、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件及びこれに附帯して社交的又は
厚生的活動を含む適法な目的のための事項とされていた。)が、昭和三七年に行わ
れた学カテスト反対闘争に関して、C4委がこれに参加した四名の教諭に対して懲
戒免職処分を含む懲戒処分をしたころ以降、C4協側組合との対立が深刻化し、C
4委では、教員の人事問題等いわゆる管理運営事項については、交渉事項ではない
との立場から組合との交渉に応じなくなり、教職員の給与、その他の勤務条件に関
するものについては一応組合との交渉が行われていたものの、その交渉の際に組合
側出席者が相当多数でうしろの方での無責任な発言があつたり、交渉時間が長過ぎ
たりなどのことがあつたため、C4委側では協議の結果、C4協に対し、事前に交
渉の議題を提示すること、交渉の時間を設定すること、C4協側組合出席者の人員
を一五名にすることなど交渉のルールの取決め方を申し入れたが、合意をみるに至
らず、昭和四〇年ころからは両者の交渉は途絶する状態となつた。かくして、C4
委では昭和三七年以来、人事問題は管理運営事項であるとしてC4協らとの交渉を
経ずに教職員の配置換え、転任、勧奨退職等を実施し、これを不満とするC4協側
組合は、かねてからC4委に対し、これら人事問題を含めて団体交渉に応ずるよう
に強く要求していた。C4委では、昭和四二年の人事異動についても前年までと同
様に、C4協側と交渉することなく、同年一月三一日開催の教育委員会において、
学校格差の解消、学校運営管理体制の充実の二項目を目的とする同年度の人事異動
方針を決定し、同年二月八日の校長会の席上でこれを発表した。これに対し、C4
協側では、C4委が従来どおりの方針で組合との交渉を経ないまま年度末人事異動
を強行しようとしているものとして、これまで要求していたように人事問題につい
ても交渉の対象とするようC4委に要求するとともに、同年度の人事異動について
本人の意思を尊重すること、強制配置転換、強制退職勧奨をしないこと、などの要
求をC4委に提出していたが、同年二月の京都市長選挙で、C4協の推すC7C8
統一候補のC1候補と保守系対立候補との間で教育のあり方が争点の一つとなり、
同年二月二六日投票の結果、C1候補が初当選するや、C4協ではこれを機会にあ
らためて従来の教育行政のやり方を根本的に改めさせ、前記の要求を一気に押し通
そうと考え、C4協議長B4、外、C4組、C5組、C6組の各執行委員長連名の
京都市長及びC4委委員長宛ての(イ)退職勧奨は直ちにやめること、(ロ)本人
の希望を無視した強制配置転換はやめること、(ハ)高校副校長は従来どおり職場
公選制の覚え書を再確認すること、小中高等学校校長、教頭、幼稚園長について
は、職場教職員の意向を前提として決定すること、(ニ)人事異動の内示は、二週
間前に行い、苦情の処理については、府教委でも行われているように、組合との団
体交渉によつて民主的に解決すること、との四項目の要求を含む原判示の昭和四二
年三月一日付要求書を作成し、更にC6組では別個に同教組執行委員長B6名義の
京都市長及びC4委委員長宛ての右とほぼ同様の要求を記載した右回日付要求書を
作成したうえ、C1新市長が初登庁した同年三月一日に、被告人B1らがC4委事
務局総務部総務課に赴いたところ、隣室の教育次長室との間の扉が開いていて、C
9教育次長の姿が見えたので、同次長室に行つて同次長に右二通の要求書を手渡し
て説明し、右要求項目についての団体交渉の日時を同月四日までに組合側に通知さ
れたい旨申し入れた。以後、C4協では、右三月一日付要求書についての回答を求
めると共に、C4委が行つている教職員の退職勧奨、配置転換等の措置について抗
議する等の行動を展開し、本件はいずれもその過程で起こつたものである。以上の
事実が認められる。
 第三 弁護人の控訴趣意中、憲法二八条及び地方公務員法五五条の解釈適用の誤
りの主張について
 論旨は、要するに、原判示第一ないし第五の各事案は、いずれも、C4協の各組
合所属の教職員の人事間題等に関し、組合役員である被告人らのC4委側に対する
団体交渉要求の過程において発生したものであるところ、原判決は、(一)「争点
に対する判断」中の「判示第二第三の各建造物侵入、公務執行妨害等に関する弁護
人の正当行為等の主張について」の項において、交渉事項に関し、「本件教職員の
人事異動のように職員の定数及びその配置に関する事項は、地方公務員法(以下地
公法と略す。)五五条三項に定める管理運営事項に該当し、元来、交渉の対象とす
ることができず、単に異動の結果が教職員の純粋な個人の問題にとどまらず、勤務
条件の基準的事項と密接に関連し、これを問題とする場合には、その面において勤
務条件に関するものとして交渉の対象になると解すべきである。」旨説示し、交渉
事項について狹い判断を示し、これを前提としつつ、(二)人事主事の当局性につ
いて、交渉の相手方は、「当該事項について、適法に管理し、又は決定することの
できる地方公共団体の当局」であるところ、人事主事は右当局に該当しないとし
(原判示第三の三の指導主事についても同様の解釈をとつたものと考えられ
る。)、原判示第二、第三については適法な団体交渉とはいえないとし、(三)予
備交渉に関し、その判示第四の事実に関する説示の項において、教育長に対する交
渉申入れであるものの、予備交渉を経ていないから、適法な交渉とはいえないと説
示して、予備交渉を経ることについて硬直的な解釈をとり、(四)その判示第一の
事実についてはC4委の団体交渉拒否の態度、組合に対する不誠実な態度には全く
目をつぶり、またその判示第五の事実については交渉申入れに対する企画労務係員
の不誠実な態度に対して同様に目をつぶり、結局は被告人らの所為を正当化し得な
い旨説示している。しかし、教職員の使用者側との団体交渉権は、憲法二八条によ
り保障された権利であり、地公法五五条の交渉の規定は右憲法二八条の団体交渉権
の保障とその保障内容を受けて規定されたものであるから、憲法二八条に沿うよう
に解釈適用されなければならない。したがつて、C4委としては、C4協あるいは
その関係教職員組合から団体交渉の申入れがあれば、これを応諾して誠実に交渉す
べき義務があるわけである。また、地公法五五条一項所定の交渉事項の範囲は、い
わゆる「勤務条件」に関する事項と職員団体の「適法な活動」に係る事項一般とさ
れており、前者については労働関係における労働者の側の「利害関係事項」を指
し、後者については職員団体の目的・活動方針に基づく行動にかかわりのある一切
の事項を指すものと解すべきである。同条三項は「地方公共団体の事務の管理及び
運営に関する事項は、交渉の対象とすることができない」と定めているので、右交
渉事項と管理運営事項との関連が問題となるが、ある事項が管理運営事項に関する
ものとしても、それが勤務条件に直接あるいは間接に関連する限り、その側面では
すべて団体交渉の対象になるものである。もともと、使用者の側で処理される事項
で勤務条件や組合活動に関連する事項であるからこそ交渉する必要があるのであつ
て、この両者にまたがる事項について交渉事項の範囲外とすることは団体交渉権の
保障と相容れないことというべきである。したがつて、前記(一)に掲記の交渉事
項に関する原判決の説示にいう教職員の人事異動は勤務条件である「就業の場所及
び就業すべき業務に関する事項」(労働基準法施行規則五条一号参照)であり、勤
務条件の変更であることは明らかであり、退職勧奨の問題が勤務条件である「退職
に関する事項」(同施行規則同条四号参照)であることも明白であつて、いずれも
団体交渉事項となるものであり、また地公法五五条四項に規定する「交渉事項につ
いて適法に管理し、又は決定することのできる当局」(以下単に「当局」とい
う。)とは、勤務条件に関して最終的な決定権限を有する機関のみに限定しなけれ
ばならない根拠はないから、その機関のほかに、交渉事項について調査研究し、企
画立案する事務を掌理する職にある者、本件の場合、教育委員会及び教育長のほか
に、調査、企画などの権限を有する人事主事、指導主事も「当局」に当たるもので
あるから、被告人らは人事主事に対し人事異動や退職勧奨の問題等について、ま
た、指導主事に対し教育課程や研修の問題等について団体交渉を要求しうる正当な
権利を有し、人事主事、指導主事はこれを応諾すべき法的義務があるのである。更
に地公法五五条五項の予備交渉についての規定も弾力的に解釈運用されるべきもの
で、交渉事項がその性質上急を要し、予備交渉の時間的余裕がない場合や、当局側
が嫌つている交渉事項であるため予備交渉で議題を予告すると、当局側が交渉を回
避し、本交渉が持てなくなるおそれがあるという場合や、また当局側が管理運営事
項論を楯にとつて当該事項が交渉の対象外であるとして交渉拒否の態度をとつてい
る場合などは、予備交渉なしに本交渉を求めてもこれを不適法と解すべきではな
い。以上のところからして、原判決は、地方公務員に団体交渉権を保障する憲法二
八条の解釈適用を誤り、ひいては右憲法の規定に沿つて解釈適用すべき地公法五五
条の解釈適用を誤つたものであるというのである。
 そこで、検討するに、
 一 地方公務員には、憲法二八条の団体交渉権が保障されている旨の主張につい
て、
 案ずるに、地方公務員(非現業の地方公務員、以下単に地方公務員という。)に
は私企業の労働者の場合のような労使による勤務条件の共同決定を内容とする団体
交渉権の保障はなく、右の共同決定のための団体交渉過程の一環として予定される
争議権も、憲法上、当然に保障されているものではないことは、C10事件につい
ての最高裁判所大法廷判決以来、累次にわたる判例の示すところから明らかであ
り、当裁判所もこの意見に賛同するものである。すなわち、地方公務員も憲法二八
条の勤労者であるが、地方公共団体の住民全体の奉仕者として、住民全体の利益の
ために労務を提供すべき義務を負い、その給与の財源は主として地方公共団体の税
収等によつて賄われるところから、一般の私企業における労働者の給与その他勤務
条件が、労使間の自由な団体交渉に基づいて自主的に決定される方式であるのとは
異なり、地方公務員の給与その他の勤務条件は、すべて財政民主主義に表れている
議会制民主主義の原則により地公法の定める基準(同法二四条ないし二六条、一四
条等)により、地方議会における民主的論議の上での判断を待たざるを得ない特殊
な地位を有しており、そのため、地方公務員は労使による勤務条件の共同決定を内
容とするような団体交渉権ひいてはこれを裏付ける争議権を憲法上当然には主張す
ることのできない立場にあるものといわなければならない(最高裁判所昭和四八年
四月二五日C10事件大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁、同昭和五一年五月二
一日岩手教組事件大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁、同昭和五二年五月四日
名古屋中郵事件大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁参照)。これを認めると、議
会における民主的な手続によつてなされるべき勤務条件の決定に対して不当な圧力
を加え、これをゆがめるおそれがあるからであり、しかも、公務員の争議について
はその職務の公共的、独占的、非代替的なものが多く、公務の停廃により地方住民
全体ないしは国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあ
り、更にいわゆる市場の抑制力を欠くため、労働者にとつて倒産、失業の心配がな
く、歯止めのない争議に走り易いことなどからして議会に対する圧力も極めて強力
となる可能性があるという悪影響もあるのである。しかし、地方公務員には憲法上
の団体交渉権及び争議権の保障がないことについては、これに代わる代償措置のあ
ることを必要とし、本件当時の地公法五五条が職員団体の交渉制度を設けているほ
か、同法二四条が給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準につき、同法二七条
ないし二九条が分限及び懲戒の基準、分限(降任、免職、休職等)等の身分保障に
つき、同法七条ないし九条が人事委員会又は公平委員会の設置、その権限、委員
(構成)につき、同法二六条が国の人事院勧告制度と同趣旨の人事委員会の給料表
に関する報告及び勧告につき、同法一四条が給与、勤務時間その他の勤務条件につ
いての情勢適応の原則につき、同法四六条ないし四八条が人事委員会又は公平委員
会に対する勤務条件に関する措置要求につき、同法四九条ないし五〇条が不利益処
分に関する不服申立につきそれぞれ規定していることなどは、適切な代償措置とし
て理解されるところである。
 所論は、地方公務員の勤務条件の中には、条例や予算により決められるものもあ
るが、その場合にも使用者たる当局は、条例及び予算の原案を作成する権限を有
し、したがつて議会の決定を必要とする勤務条件決定の過程において枢要な地位を
占め役割を担つているのであるから、地方公務員の組合は、当局と団体交渉をする
ことにより、自己の要求を実現し、あるいは最終的な勤務条件決定にその要求を反
映することが初めて可能となるのであつて、その意味における団体交渉権が憲法上
保障されている旨主張する。しかしながら、もし右の意味における当局の作成すべ
き勤務条件の原案決定について地方公務員の団体交渉権が憲法上保障されているも
のとすれば、勤務条件の原案につき労使間に合意が成立しない限り、地方公共団体
の長はこれを地方議会に提出することができないこととなり、常に合意をもたらし
うるという制度的保障が欠けていることと相まつて、議会の決定権の行使が損なわ
れるおそれがあり、他に所論のような権利が憲法上保障されていると解すべき根拠
は存在しない。
 以上のところからして、地方公務員の組合には憲法二八条の団体交渉権が保障さ
れているものとはいえないのである。
 なお、以上に説示するところは、憲法上の解釈として説示したにとどまるもので
あつて、国会が、その立法、財政の権限に基づき、地公法五五条に、地方公務員の
給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに附帯して、社交的又は厚生的
活動を含む適法な活動に係る事項に関し、地方公務員の職員団体と地方公共団体の
当局との交渉規定を設けたのは、憲法二八条の法意にかんがみ国会の立法裁量に基
づき定められたものとして理解すべきものと考えられるのである。
 二 地方公務員法五五条の解釈の誤りの主張について
 前記一に説示したとおり、地方公務員には憲法二八条の団体交渉権が保障されて
いるものではないのであり、したがつて、地公法五五条の交渉の規定は、憲法二八
条の法意にかんがみ、国会の立法裁量により定められた規定であると解すべきもの
であるから、その解釈は右地公法の規定の設けられた趣旨に沿つて解釈すべきもの
と考えられるのである。
 ところで、地公法五五条一項は、「地方公共団体の当局は、登録を受けた職員団
体から、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに附帯して、社
交的又は厚生的活動を含む適法な活動に係る事項に関し、適法な交渉の申入れがあ
つた場合においては、その申入れに応ずべき地位に立つものとする。」旨規定し、
登録を受けた職員団体から適法な交渉事項について適法な交渉の申入れがあつたと
きは、地方公共団体の当局はその申入れに応ずべき地位に立つものとされるのであ
つて、登録職員団体の交渉における地位は、地公法により保障されたものである以
上、広義の権利であり、当局側としてはこれに応ずべき義務があるが、右の義務は
労働組合法による団体交渉応諾義務のように不当労働行為制度によつて、その履行
を法の力によつて強制しうるものとされていないのは、当局が地公法の趣旨に従
い、これを十分に尊重することが期待されていることによるものと考えられるので
ある。
 そして、地公法五五条の規定から明らかなように、地方公共団体の当局が交渉に
応ずべき義務を負うのは、適法な交渉の申入れがあつた場合、すなわち、(イ)交
渉の申入れ自体が平穏、かつ、社会常識に連合していること、(ロ)交渉事項が地
公法五五条一項の勤務条件に関する事項で、地方公共団体の管理運営に関する事項
ではないこと、(ハ)地方公共団体の当局が同法条四項の適格を有するものである
こと、(ニ)同条五項の予備交渉を経ていること、(ホ)交渉は職員団体が役員の
中から指名する者と当局の指名する者との間において行なわれること、以上の要件
を備えた場合である。
 そこで、所論中、主要な主張について検討する。
 (1) 交渉事項についての解釈の誤りの主張について
 地公法五五条一項所定の交渉事項にいう勤務条件とは、「職員が地方公共団体に
対し勤務を提供するについて存する諸条件で職員が自己の勤務を提供し、またはそ
の提供を継続するかどうかの決心をするに当たり一般的に当然考慮の対象となるべ
き利害関係事項であるもの」をいうものと解されるから、所論がこれを労働関係に
おける労働者の「利害関係事項」を指すものとするところは正当ではあるが、同条
項の「適法な活動に係る事項」とは「勤務条件の維持改善の枠内の活動に係る事
項」を指すものと解されるところ、所論がこれを「職員団体の目的・活動方針に基
づく行動にかかわりのある一切の事項」を指すものと解すべきであるとするのは、
同条項の規定の法意に照らし、その範囲が広きに過ぎ正当とはいい難い。
 次に、管理運営事項が勤務条件に関連がある場合に関し、所論は、ある事項が管
理運営事項に関するものとしても、それが勤務条件に直接あるいは間接に関連する
限り、その側面では、すべて団体交渉の対象となるといい、そのような関連のある
場合は管理運営事項に関するものも交渉事項となる旨主張するもののよう<要旨第
一>である。思うに、管理運営事項は、地方公共団体の機関がその職務、権限として
行う地方公共団体の事務の処理に関する事項であつて、法令、条例、規
則、規程及び議会の議決に基づき、その機関が自らの判断と責任において処理すべ
き事項であるから、これについて職員団体の介入を許さず、これを交渉の対象から
除外されたものであるが、管理運営事項の処理の結果生じた事項が、職員個々の問
題にとどまらず、ある勤務条件の基準とされる事項と密接に関連する場合、例えば
人事異動は管理運営事項であるが、その人事異動命令に伴う職員住宅の支給は勤務
条件であり、それが職員住宅支給の基準に関連して問題がある場合には、勤務条件
である以上、これを交渉の対象とすることはできるけれども、人事異動そのものに
ついては交渉の対象とすることはできないのである。職員団体としては勤務条件に
ついて交渉をすれば、必要かつ十分であり、その交渉の結果、管理運営事項につい
ても撤回、変更などの措置がとられる場合もあり得るのである。この理は、管理運
営事項と解される退職勧奨、職務命令による研修参加についても同様である。所論
は人事異動、退職勧奨も勤務条件であるとして、労働基準法施行規則五条一号及び
四号の労働条件を指摘するが、右規定は、労働基準法一五条一項の「使用者は、労
働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しな
ければならない。」との規定に基づき、明示すべき労働条件として規定されたもの
であつて、使用者が労働者を雇い入れる際における労働条件の明示を義務づけたも
のであるから、この規定からして、本来管理運営事項である雇入れ後の人事異動、
退職勧奨が、地方公務員の勤務条件に関する事項であると解することはできない。
 したがつて、原判決が、その判示第二、第三の事実に関する「弁護人の正当行為
等の主張について」の項において、管理運営事項は元来交渉の対象とすることがで
きないが、人事異動の結果が教職員の純粋な個人の問題にとどまらず、勤務条件の
基準的事項と密接に関連し、これを問題とする場合には、その面において勤務条件
に関するものとして交渉の対象になると解すべきである旨説示している点は、交渉
の対象事項についての表現がやや明確さを欠くきらいがあるけれども、これを勤務
条件のみに限定する趣旨で説示したものと解する限りは是認できるところである。
 (2) 人事主事及び指導主事が地公法五五条四項の「地方公共団体の当局」に
該当するとの主張について
 原判決が、その判示第二、第三の事実に関する「正当行為等の主張について」の
項においてC4委事務局総務部教職員課人事主事室所属の人事主事が地公法五五条
四項にいう「当局」に該当しない旨説示していることは所論のとおりであるが、所
論にかんがみ人事主事に加え指導主事も「当局」に該当するか否かについて判断す
ることとする。
 <要旨第二>職員団体が交渉することのできる地方公共団体の当局は、交渉事項に
ついて適法に管理し、又は決定することのできる地方公共団体の当局で
なければならないところ(地公法五五条四項)、教職員の勤務条件は、原則として
教育委員会が所管し、執行する権限を有し(地方教育行政の組織及び運営に関する
法律二三条)、教育長も教育委員会の指揮監督の下に、同委員会の権限に属するす
べての事務をつかさどる職務を有する(同法一七条)ので、教育委員会及び教育長
が前記「当局」に該当することは明らかであるが、右人事主事は、上司の命を受
け、教職員の人事に関する事務に従事し(京都C4育委員会通則二二条七項)、ま
たC4委事務局指導部学校指導課指導主事室所属の指導主事は、上司の命を受け、
学校教育に関する専門的事項の指導事務に従事する(右通則二二条二項)にすぎ
ず、その従事する事務について教育長から人事主事又は指導主事に権限を委任する
規定もないから、人事主事や指導主事は、右「当局」に該当せず、また、C4育委
員会又は教育長から、原判示第二の際に人事主事に対し、原判示第三の際に人事主
事、指導主事に対し、いずれも職員団体との交渉に関する何らかの権限を委任ない
し付与した事実も認められないことからして、本件人事主事及び指導主事は被告人
らの交渉の申入れに応ずべき法的地位にあるものではなく、したがつて、これに応
ずべき義務もないのである。なお、地公法五五条四項は、「交渉」の当局を明らか
にしたものであるが、同項は「当局」以外の地方公共団体の職員、例えば本件のよ
うな人事主事や指導主事が職員団体と勤務条件その他の事項について、事実上の話
合いをすることまでを禁じたものではなく、それは、同法とは関係のない話合い、
陳情、意見の具申等の性質を持つものとして、職員団体の人事主事らに対する申入
れに対して、人事主事らにおいて、これに任意に応ずる場合にのみ認められるもの
であつて、職員団体が権利として当然に要求し得る性質のものではない。
 以上のところからして、人事主事及び指導主事が「当局」に該当するとの主張は
理由がない。
 (3) 予備交渉の手続を経なかつたことを不適法としたことは地公法五五条五
項の解釈適用を誤つたものであるとの主張について
 原判決が、「争点に対する判断」中、原判示第四についての二において、「被告
人らは予備交渉を経ることなく、突然教育長室に押しかけ、直ちに教育長と交渉し
ようとしたものであるうえ、交渉はあらかじめ取り決めた員数の範囲内で行なわれ
なければならないにもかかわらず、約三〇余名もの多数で押しかけたものであるこ
とからすると、被告人らの交渉申入れ自体が不適式なものであることは明白であ
り」と説示していることは原判文に徴し明らかである。
 地方公共団体の当局と職員団体が交渉を行う場合には、地公法五五条五項の規定
により、必ず予備交渉を行わなければならないのであり、したがつて予備交渉を経
ないでなされた交渉の申入れについては、当局がこれを拒否しても正当であり、か
つ、交渉を行わないことについて正当な理由のある場合に当たるのであり、また、
職員団体が予備交渉を行わなかつたり、予備交渉を平穏静粛に行わなかつたり、あ
るいは客観的にみて不当な条件にこだわる等のために予備交渉で取り決める事項の
合意が得られなかつた場合には、そのため本交渉に入れなくとも、当局が本交渉を
拒否したことにはならないものと解されるのである。所論は、交渉事項が急を要す
る場合等は予備交渉なしに本交渉を求めても不適法と解すべきではないというが、
独自の見解であつて採用の限りではない。
 以上の点から、本件各事案における所論の交渉の申入れが適法であるかどうかに
ついてみるに、この点は、後に各事案についての判断に際し説示するところである
が、結論をのべると、原判示第一の場合は、三月一日付C4協からC4委に対する
交渉申入れの要求項目は、前記第二の「本件の経緯について」の項に説示するとお
り、退職勧奨をやめること、本人の希望を無視した配置転換はしないことなど、い
ずれも交渉の対象とすることができない管理運営事項であるから、適法な申入れで
はなく、C4委の対応に違法はなく、原判示第二の場合は、被告人らの話合いを求
めるという事項は、特定の教職員に対する退職勧奨を中止させること、個別の人事
異動について事前に組合と交渉することなど管理運営事項であり、話合いの相手と
する人事主事は「当局」に当たらず、かつまた、その申入れの態様が平穏ではない
から、適法な交渉の申入れとはいい難く、原判示第三の場合は、のちに説示すると
おり、交渉の申入れというよりは追及、抗議であり、これを交渉の申入れと解して
も、話合いの結果からみて、その対象事項は特定の教職員に対する退職勧奨に抗議
し、これを中止させること、過去の特定の人事異動等の責任追及、一般職員のいわ
ゆる伝達講習会参加問題に抗議し謝罪を求めることにあつたもので、いずれも管理
運営事項であり、話合いの相手の人事主事及び指導主事は「当局」に当たらず、か
つまたその申入れの態様が平穏ではないから、到底適法な交渉の申入れではなく、
原判示第四の場合は、のちに説示するとおり、人事異動案の作成作業に対して抗議
し、本人の意思を尊重するように要請する目的に出たもので、これを交渉の申入れ
とみるには疑問があるが、これを交渉の申入れと解しても、その対象事項は管理運
営事項であり、仮にその申入れが人事異動の結果によつて生ずる勤務条件を交渉事
項とするものであるとしても、予備交渉の手続を経ておらず、かつまた、その申入
れの態様が平穏ではないから、到底適法な交渉の申入れとはいい難く、また、原判
示第五の場合は、四月一〇日付要求書の要求項目中には不当人事の取消し、撤回等
管理運営事項があるけれども、配置転換による勤務条件の是正という具体性に欠け
るものの一見勤務条件に関するものもあり、この点を交渉事項とする余地があると
解することはできるが、その申入れの態様が平穏ではないから、適法な交渉の申入
れとはいい難い。
 三 以上に検討したところからして、原判決には所論のような憲法二八条及び地
公法五五条の解釈適用の誤りはないから、論旨は理由がない。
 第四 弁護人並びに被告人B1、同B2の各控訴趣意中、原判示第一の事実に関
する事実誤認及び法令の解釈、適用の誤りの主張について
 各論旨は、弁護人において、原判決は、その判示第一の一において、被告人B1
につき、同被告人が京都C4委事務局総務部総務課企画労務係長A8に対する暴行
の事実を認定し、更にその判示第一の二において被告人B2につき、同被告人が企
画労務係員A9に対する暴行の事実を認定し、刑法二〇八条を適用しているが、原
判決は被告人B1らが三月四日に右A8に交渉を申し入れるに至つた経緯、同被告
人ら組合員らが当日総務課室に赴き藪本と交渉を行つた際、同人の応対が極めて不
誠実であつた経緯を正しく評価しようとせず、組合の組合活動に対する予断、偏見
に基づいた結果、前記被告人B1、同B2の暴行の事実が存在しないのに、証拠の
選択、評価を誤り、事実誤認し、かつ、誤つた事実を前提にして法令の解釈を誤
り、これを適用したものであり、仮にその事実があるとしても、実質的遠浅性がな
いから、これに暴行の法条を適用した原判決は右法令の解釈適用を誤つたものであ
り、以上の事実誤認、法令の解釈、適用の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らか
であるといい、被告人B1、同B2において、それぞれ原判示第一の一又は二の暴
行の事実がないのに、暴行の事実を認定し該当浅条を適用した原判決には判決に影
響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というのである。
 そこで検討するに、原判決挙示の対応各証拠によれば、原判示第一の各事実を認
めるに十分である。すなわち、右証拠によれば
 (一) C4委ではC4協からの前記三月一日付要求書につき、三月二日開催の
定例教育委員会においてその対応を協議した結果、右要求書の要求項目は管理運営
事項であるから交渉事項ではないとの従来の方針を再確認したが、右要求書に対す
る回答は、教育委員が新市長と会い、教育問題について話し合つた後にする旨決定
し、右申入れに対する回答を留保し、C4委事務局総務課では右回答内容を三月四
日にC4協に通知することとした。
 (二) そうしたところへ、翌三日昼ころ、被告人B1から組合との窓口になつ
ている総務課企画労務係長A8に電話で「明日、市長に一二時半から市長室で会う
ので、それまでに回答をしてくれよ。」と言うて来たので、A8としては、三月四
日は土曜日であるが、被告人B1らがC4委とは同じ庁舎三階の市長室へ行く前に
四階の総務課に寄つてくれるであろうから、その際に回答内容を伝え、寄つてくれ
ない場合には、いつものように電話で伝達することとした。
 (三) 本件当日の三月四日、被告人B1、同B2は、他のC4協関係組合役員
らと共に、市庁舎に赴き、三階第一応接室において、C1新市長と面談して従来の
C4委との間の事情について説明し、人事問題は教職員の勤務条件にかかわり合う
問題であるから、組合とC4委とが人事問題で交渉できるように市長の力を借りた
い旨述べて、前記三月一日付要求書の要求項目について同市長の善処方を要望し
た。
 (四) 市長との面談を終え、同日午後一時三〇分ころ、被告人B1、同B2
は、C4協関係組合役員七、八名と共に、前記三月一日付要求書に対するC4委側
の回答を求めるため、同庁舎四階のC4委総務課事務室に赴き、被告人B1を先頭
にして順次入室したが、同室には企画労務係のA8係長とA9ほか二名り係員が在
室していた。被告人B1は右組合役員らと入室するや否や、右の者らと共に右A8
係長に詰め寄り、「この前、市長に会う前に回答せいと言つているのに、なんで今
まで回答せんのや。けしからん。早う回答せんかい。」と語気するどく前記要求書
についての回答を求めたところ、同人が「ああ、回答するわ。」「きのう、電話で
市長のところへ来ると言うていたので、市長室へ行くまでに来ると思つていた。」
と答えたところ、被告人B1を初め他の役員らは、こもごも「市長が代わつておる
のに、お前らの態度はまだ変わらんのか。」と言い、A8係長が「今までも法律ど
おりやつて来た。今後も法律どおりやつて行くつもりや。」と言つて、前記教育委
員会決定の回答として「教育の基本問題について、教育委員が市長にまだ会つてい
ないので、それからにしてほしい。」旨答え、他の組合役員の「C4委は、いつ市
長に会うんや。」との発言に対し、A8係長が「市会の開会中は無理やと思う。」
旨答えたところ、被告人B1はこれに激高し、同人に対し「そんなものは回答にな
つておらん。市長が代わつているのに、まだ態度を変えんのか。その態度は生意気
や。市長の前でもう一ぺんこの態度をとつてみろ。」などと言い、周囲にいた組合
役員らも「市長のところへ連れて行け。」などと怒号し、やにわに被告人B1が同
人の着ていた事務服の襟を両手で強く掴んで引つ張り上げるなどし、これに対して
「暴力はやめろ。」と言いながら、立たされまいとして机の端を持つていた同人を
強いて椅子から立たせ、同人が立つたとたんに被告人B1の手が離れたので、同人
が椅子に座つたところ、同被告人は再び「市長のところへ行こう。」と言いなが
ら、同人の首に右手をかけ、左手でその胸倉を掴んで同人を椅子から立たせ、その
まま同人を引きずり始め、その途中両手で同人の左手を掴んで同室北側の企画労務
係のロツヵー付近まで三メートル位引きずるなどした。
 (五) また、被告人B2は、被告人B1がA8係長を引きずるなどしていた
際、これを制止するため同人のところへ行こうとして他の組合役員らに制止されて
いたA9係員に対し、「お前も一緒に来い。」と言いながら、両手でA9係員の両
手首を強くつかんで引張り、同人が「無茶するな。痛い痛い。」と言うにもかかわ
らず、同人を同室内北側出入口扉付近まで引きずつて行つた。
 以上の事実が認められる。
 そして、右認定の事実関係によれば、右被告人B1のA8係長に対する有形力の
行使及び被告人B2のA9係員に対する有形力の行使が、いずれも暴行に当たるこ
とが明らかである。
 弁護人の所論は、被告人B1がA8係長に対し、市長のところへ行こうと言つ
て、同人の左肩に右手を添えて促したことはあるものの、これは、同人がC1市長
の民主的教育行政に挑戦する発言をするので、被告人B1としては、同人を市長に
面会させ、同人の態度を改めさせる目的でしたものであり、同人も「従来どおり法
律に従つてやるだけだ。」とたんかを切つた手前、被告人B1の要請に答えて、自
発的に自席から歩きかけたものであつて、原判決の「当時A8が市長と面会しなけ
ればならない理由、必要性は全く認められない。」との説示は誤つており、被告人
B1はA8係長に対し暴行を加えていないというが、前記認定の事実関係及び原審
証人A8の「自分は市長のところへ行く気はなかつた。」旨の証言に徴しても、原
判決の右説示は正当で、右所論は到底採用の限りではなく、所論に沿う原、当審に
おける証人A6、被告人B1、同B2の各供述、原審における相被告人B6の供述
は措信し難い。
 弁護人の所論は、原判決は、「争点に対する判断」中の「A8、A9に対する各
暴行を認定した理由の要旨」の項において、被告人B1のA8に対する暴行の点に
ついて「証人A8、同A9、同A10の各証言は、細部に若干のくい違いは認めら
れるものの、被告人B1が、自席に座つていたA8の胸元をつかむなどして引つ張
り、二回にわたつて同人を立ち上がらせようとし、二回目に同人を立ち上がらせ、
そのあと同人の腕を掴んで、企画労務係の机と庶務係の机の間を通つて総務課室入
口の方へずるずると引つ張つていつた旨の本件暴行の核心部分について、いずれも
一致した供述をしている。」旨説示しているが、原判決の指摘する本件暴行の核心
部分についても、右各証人は三人三様の証言をしていて一致してはおらず、A10
証人に至つては被告人B1がA8を二回立たそうとしたその状況は全く目撃してい
ないのであつて、右各証言は信用し難いというのである。
 しかしながら、右A10証人の証言(原審第四二回公判、記録第六分冊二四三五
丁裏ないし二四三九丁裏、及び二五一九丁裏ないし二五二〇丁裏)によれば、同証
人は、被告人B1がA8係長の左側からその胸倉と後ろ襟首を持つて立たせようと
したが、同係長が机の端を持つて立つまいとしてふんばり、結局そのときは立たな
かつた。そこで、同被告人が再び同係長の後ろへ回つて両腕を同人の中に入れて引
き上げ、同係長を立たせた、旨を証言しているのであつて、この点、同証人が、被
告人B1がA8係長を二回立たそうとした状況を全く目撃していないとの所論は採
用することはできず、右三証人の証言は、原判決も説示するとおり、細部に若干の
くい違いが認められるが、それは事件発生後六、七年を経過し、若干記憶も薄れた
後の証言であるうえ、各人の目撃の位置も違つていることからすれば、やむをえな
いものであつて、むしろ若干のくい違いのあるのが自然であり、被告人B1が椅子
に座つているA8係長に手を掛け、同人が立つまいとするのに、同人に対して有形
力を行使して、結局はむりやりに立たせ、同人の意思に反して同人に対して有形力
を行使しながら同人を総務課入口の方へ連れて行つたとの点においては、右三名の
証言は一致しているのであつて、右各証言は、その証言内容によつて明らかなよう
に、それぞれの経験事実を記憶のままに率直に述べていて迫真力があり、十分信用
することができる。所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、被告人B2のA9係員に対する暴行の点について、前記のよう
にA8係長が自発的に市長のところへ行こうとして自席を立つて歩きかけたので、
同係長が市長のところへ行くのはまずいと判断したA9係員が、同係長が総務課入
口に向かつて歩いているのを阻止するために、突差に被告人B1とA8係長の間に
割り込み、同係長の腰あたりにしがみつくようにしてこれを阻止しようとしたの
で、被告人B2がこれを見て、「A8が市長のところに行くと言つているから、阻
止しなくてもいいじやないか。」と言つて、A9係員を制止したものであつて、そ
れ以上の有形力の行使をしたことはなく、逆にA9係員から両手をつかまれ、総務
課入口扉付近まで引つ張つて行かれたというのである。
 しかしながら、A8係長が自発的に市長のところへ行こうとしたものでないこと
はさきに説示したとおりであり、また、前記認定の事実関係によれば、A9係員
は、A8係長が被告人B1にむりやりに引きずられるなどして総務課入口の方へ連
れて行かれるのを見て、これを制止すべく同係長のところへ行こうとしていた際
に、被告人B2から暴行を受けたことが明らかであつて、右所論はとうてい採用し
難く、右所論に沿う原、当審における証人A6、被告人B1、同B2の各供述、原
審における相被告人B6の供述は措信し難い。
 弁護人の所論は、更に、被告人B1、同B2の各行為が暴行に当たるとしても、
教職員組合の正当な団体交渉申入れの行動の一環としてなされたもので、A8係長
らの不誠実な応答、態度が原因となつてなされたものであり、その有形カの行使は
極めて軽微で、同係長やA9係員の受けた被害も極めて軽微であり、実質的違法性
がない、というのである。
 しかし、所論の各暴行は、被告人B1らが三月一日付要求書に対するC4委側の
回答を求めるためC4委総務課に赴いた際になされたもので、組合活動としての行
動に際して行われたものではあるが、右要求書に記載の交渉の対象とする要求項目
は、いずれも地公法五五条三項にいわゆる管理運営事項で交渉の対象とすることが
できないものであるから、組合の交渉の申入れは適法なものとはいえず、C4委側
としてはこれに応ずる義務はなく、したがつて、右交渉の申入れを受けたC4委
が、右要求項目は管理運営事項であるから交渉事項ではないとの従来の方針を再確
認したのは正当であり、ただ市長も代わつたことでもあるので、右要求に対する回
答としては、教育委員が新市長と教育の基本問題について話し合つた後にする旨決
定したのも是認することができるところである。もつとも、さきに認定したとお
り、右回答内容は三月二日の定例教育委員会において決定していたもので、従つて
三月三日昼ころ、被告人B1から、A8係長に明日市長に一二時半から会うので、
それまでに回答をくれるよう電話があつたのであるから、その際、同係長において
右決定内容を伝達すればよかつたとも考えられるが、同係長としては三月四日
(土)に被告人B1らが同じ市庁舎の三階の市長室に行く前に四階の総務課に寄つ
てくれるであろうから、その際に回答を伝達しようと思つたことも一概に不誠実と
はいえず、組合側としても、当日の市長との面談の前に回答が必要であるならば、
総務課に電話するなり、市長室に行く前に総務課に寄るなどして回答内容を知るこ
とができたものと考えられ、この点一方的にA8係長らのみを責められないのみな
らず、当日総務課室に入つた当初の被告人B1の発言にもやや穏当を欠くきらいが
あり、A8係長がC4委側の回答を伝えたにもかかわらず、同人の応答内容ないし
応答態度を不満とし、右C4委の決定を組合側に伝達するのみの立場にある同係長
に対し、「そんなものは回答になつておらん。市長が代わつているのに、まだ態度
を変えんのか。」「その態度は生意気や。市長の前でもう一ぺんこの態度をとつて
みろ。」などと、同人を非難攻撃し、非難はともかくとしても、これにとどまら
ず、同人をむりやり市長のところへ連れて行こうとして同人に暴行を加え、更にこ
れを制止しようとしたA9係員に対しても暴行を加えたものであり、本件犯行に至
る経緯、被告人らの行為の目的、態様、侵害された法益の程度等、一切の事情を考
慮しても、本件暴行について実質的違法性がないとはいえないから、所論は理由が
ない。
 以上のとおりであつて、原判示第一の各事実に関しては、原判決には各所論のよ
うな事実誤認及び法令の解釈、適用の誤りはないから、各論旨は理由がない。
 第五 弁護人並びに被告人B1、同B6、同B4、同B7、同B5の各控訴趣意
中、原判示第二の事実に関する事実誤認及び法令の解釈、適用の誤りの主張につい

 各論旨は、要するに、弁護人において、原判決は、その判示第二において、被告
人B1、同B6、同B4、同B7、同B5の五名共謀による昭和四二年三月一一日
の京都C4委総務部教職員課a分室会議室への建造物侵入、並びに右五名共謀によ
る首席人事主事A11、人事主事A12に対する暴行を手段とする公務執行妨害の
各事実を認定したが、右被告人五名は人事主事に対し相次ぐ老齢教職員に対する退
職勧奨を直ちに中止することと目前に迫つた人事異動について交渉するため前記a
分室会議室に入室したもので、人事主事には交渉応諾義務があり、また入室当初は
人事主事らは入室を拒否したが、被告人らの説得によつて事実上話合いとなり、更
に室外へ出て本式の交渉に入つたものであるから、全体的にみて建造物侵入とはな
らず、この点建造物侵入罪の法条を適用した原判決は法令の解釈、適用を誤つたも
のである。また、被告人B1はA11首席人事主事の椅子の後ろに回つて、椅子の
後ろから座つている同人の脇の下に両手を差し入れて、外へ出て話合いをしょうと
促したのであつて、話合いを求めて行つている被告人らが自らの手で話合いの揚を
つぶすような暴力を振うはずはなく、したがつて、右被告人ら五名が共謀して、被
告人B1においてA11首席人事主事に対して暴行を加えたことも、同被告人と他
の被告人らにおいてA12人事主事に対して暴行を加えたこともなく、かつ、A1
1(首席)、A12各人事主事らはいずれも公務を一応終了していたか、あるいは
右被告人らの申入れ、要求に応じて任意に公務を中断していたものであるから、い
ずれにしても公務執行妨害の事実はなく、この点、その事実を認定した原判決は事
実を誤認したものであり、仮に、その事実があるとしても、実質的違法性がないか
ら、これに公務執行妨害の法条を適用した原判決は右法令の解釈、適用を誤つたも
のであつて、以上の法令解釈、適用の誤り及び事実誤認は判決に影響を及ぼすこと
が明らかであるといい、被告人B1、同B6、同B4、同B7、同B5において、
それぞれ、原判示第二の暴行等の事実がないのに、これらの事実を認定し、該当法
条を適用した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用
の誤りがあるというのである。
 そこで、検討するに、原判決挙示の対応各証拠によれば、原判示第二の事実は所
論の共謀の成立を含め、優にこれを認めることができ、原判決が「争点に対する判
断」中、「判示第二について」の項において説示するところは、十分首肯すること
ができるのであつて、当審における事実取調べの結果によるも、右認定を左右する
ことはできない。すなわち、右対応各証拠によれば、
 (一) 被告人B1、同B6、同B4、同B7及び同B5は、同年三月一一日午
後零時三〇分ころ、老齢教職員に対する退職勧奨を即時中止すること、昭和四二年
度の人事異動については本人の意思を尊重し、事前に組合と交渉することなどの事
項を人事主事らに要求する目的をもつて原判示教職員課a分室会議室入口前に赴い
た。
 (二) 同分室では、従前から例年二月上旬より三月下旬までの間、同課人事主
事において管下教職員に対する定例人事異動に必要な資料の作成、新規採用者の面
接試験など、とくに機密保持を要する事務を行つており、昭和四二年度においても
例年どおりa分室において右事務が開始されたため、教職員課長が、a分室の管理
権者であるC4委教育長の指示により、会議室北東部の出入口扉の外側に、「許可
なくして入室を禁止する。」旨の貼紙を掲示し、関係者以外の同室への無断入室を
禁止し、以後来訪者については、臨時用務員が応対し、用件を担当の人事主事に連
絡し、入室の可否を決めており、本件当日である昭和四二年三月一一日(土)は、
同分室会議室において、午前九時三〇分から午後二時ころまでの予定で、中学校、
小学校教員採用の第二次面接試験が行われていたので、同室にはA11首席人事主
事以下一〇名が在室し、首席人事主事A11、人事主事A12、同A13の三名が
一組となつて中学校関係の面接試験を、首席人事主事A14と人事主事A15、人
事主事A16と同A17がそれぞれ一組となつて小学校関係の面接試験を、それぞ
れ実施し、人事主事A18、同A19、同C12らは人事異動、関係の仕事で在室
していたが、前記会議室北東の出入口扉の無断入室禁止の貼紙のほかに、北西出入
口の扉には「面接室」の貼紙が掲示されていた。
 (三) 前記被告人五名は、前記日時ころ、C4委側にあらかじめ連絡すること
もなく、右無断入室禁止の貼紙が掲示されていたにもかかわらず、これを無視して
入室することの意思を相通じ、同室北東出入口の扉を開け、被告人B1を先頭に
「ああ、A11もおるおる。」と言いながら、無断で同室に入つた。折柄、同室に
おいて、小学校関係の二組の人事主事ら四人はいずれも新規採用予定者と面接中で
あり、中学校関係の前記A11(首席)、A12、A13の三人事主事は当日面接
予定の新規採用予定者七名のうち六名との面接を一応終了したものの、あと一名の
面接未了者の書類に目を通して、右面接未了者が来訪すれば面接を実施すべく待機
するとともに、右面接結果についての整理並びに総括検討を行うなど、右面接試験
事務に従事中であつたが、右被告人五名は、A11(首席)、A12、A13の三
人事主事に対し、こもごも「退職勧奨を中止しろ。人事異動について話をしろ。表
へ出ろ。市長も代わつたんや、出て話をせい。出えへんかつたら、いつまでもここ
にがん張つてやる。」などと怒号し、これに対してA11、A14両首席人事主事
が「人事問題については交渉をしないことになつている。」「面接試験、人事異動
に必要な資料の作成事務の支障になる。」ことを理由に再三室外への退去を要求し
たところ、右被告人五名は、これに激高し、A11首席人事主事に対し、口々に
「表へ出ろ。」と怒鳴りながら同人を取り囲み、被告人B1が中心となつて「民主
市長が代わつたのに、お前の態度はちつとも変わつとらん。市長のところへ連れて
行つて対決させてやる。表へ出ろ。出なければ、いつまでもここにがん張つてや
る。かついででも市長のところへ連れて行つてやる。」などと怒号しながら、被告
人B1が同人の右上膊部を引つ張つて、むりやり椅子から立たせようとしたが、同
人がこれに応じないとみるや、「立たんかつたら、こうしたるわ。」と言いなが
ら、同人の着席していた椅子をいきなり後方に引つ張り、これに驚いて立ち上がつ
た同人から「何するんや、暴力はやめておけ。」と大声で抗議されるや、「なに」
と言つて、同人の胸倉を両手でつかみかかつたが、同人に両手で振り払われたの
で、更に同人の胸倉を両手でつかんで押し、その身体を前後に三、四回揺さぶるな
どの暴行を加え、他の被告人らは右被告人B1の暴行を目撃しながら、これを制止
することなく、むしろ認容する状況であつた。このような被告人B1の暴行を目撃
したA12人事主事が「暴力はやめておけ。」と言つて、同被告人の暴行を制止し
ようとして中に割つて入るや、被告人B6、同B7、同B4らもかけ寄り、右被告
人五名でA12人事主事を取り囲み、被告人B1が同人に対し、「お前は誰や。黙
つてい。」と怒号しながら、同人の胸倉をつかんで前後に揺さぶり、両人の胸の名
札をもぎ取り、被告人B6が同人の胸倉をつかんで押し、被告人B7が、同人の背
後から両肩に手をかけて引つ張り、被告人B4が同人の手をつかむなどの暴行を加
えた。このようにして、右A11首席人事主事及びA12人事主事は前記公務に従
事中、不意に無断入室して来た右被告人らから前記暴行を受けたため、公務をとる
ことができない状態となつた。
 (四) その後も主として被告人B1が中心となつてA11首席人事主事らに対
し、「今日は動員をかけているから、どんどん来るぞ。」「話合いに応じなかつた
ら動員をかける。」などと怒号し、同室内の電話で組合本部に対して「話にならん
から来てもらいたい。」旨の電話を掛けるなど、同主事らに対し執ように話合いの
ため外に出ることを要求したため、A11(首席)、A18の両主事は、このまま
では面接試験ができなくなることをおそれ、午後一時過ぎころ、やむなく被告人ら
の要求に応じ、被告人らと話合いをするため校庭に出た。
 以上の事実が認められる。右認定に反し、被告人B1がA11主事の椅子の後ろ
から座つている同主事の脇の下に両手を差し入れ、外へ出て話を聞いてほしいと促
したことはあるが、それ以上に有形力は行使しておらず、更にA12主事が被告人
B1とA11主事の間に体当りするように割つて入り、被告人B1にぶつかつてき
たので、被告人B1がA12主事のネームプレートを掴んで抗議したことはある
が、それ以上に被告人B1や他の被告人らがA12主事に対し有形力を行使したこ
とはない旨の被告人B1、同B6、同B4、同B7、同B5の原審及び当審におけ
る各供述は、原審証人A11、同A12、同A18、同A14、同A19の各証言
に対比し措信し難い。
 以上の認定事実によれば、前記被告人B1ら五名は、無断入室禁止の掲示を無視
してa分室会議室に入室するについて意思連絡があつたこと、A11首席人事主事
に対する被告人B1の暴行並びにA12人事主事に対する被告人B1及び前記その
他の被告人らの暴行のあつたことと右両名の公務の執行を妨害したものであること
は明らかであるが、右被告人五名が右各暴行、したがつて公務執行妨害について共
謀したものであるかどうかについてみるに、右被告人五名は、いずれも人事主事に
対し前記共通の意図、目的の下に、意思相通じて共にa分室会議室に無断で入室し
た上、A11(首席)、A12、A13の三人事主事に対し、こもごも前記認定の
ような「表へ出ろ、……かついででも市長のところへ連れて行つてやる。」などと
いう、はげしい言辞を申し向けて怒号し、A11主事らが人事問題については交渉
しない、面接試験に支障になることなどを理由に再三室外への退去を要求したのに
激高し、是が非でもA11主事らと外へ出て話し合いたいとの意図もあつて、口々
に「表へ出ろ。」と怒鳴りながら、右被告人ら五名でA11主事を取り囲み、被告
人B1が同人の上膳部を引つ張つて立たせようとしたが、立たないので、同人の座
つている椅子をいきなり後方に引いて同人を立たせ、これに抗議する同人に対し前
記認定のような暴行を加え、他の被告人らはこれを制止もしなかつたとの経過から
考えると、他の被告人らは被告人B1がA11主事を室外へ連れ出すため暴力にわ
たる有形力を行使することのあることを認容していたことがうかがわれ、したがつ
てA11首席人事主事に対する暴行、ひいては同暴行を加えての公務執行妨害につ
き被告人五名の共謀があつたものというべきであり、また、右A11主事に対する
暴行に引き続き、右暴行を制止しようとしたA12人事主事に対する被告人B1及
び前記他の被告人らの暴行も、前記経過にかんがみA11首席人事主事を室外へ連
れ出すのを妨害したことに対する反発・憤激から出たものと考えられ、右被告人五
名がA12主事を取り囲み、B6、B7、B4の各被告人らも前記認定の暴行に及
んでいることからすれば、A12主事に対する暴行、ひいては同暴行を加えての公
務執行妨害についても右被告人五名の共謀があつたものと認めるのが相当である。
 弁護人の所論は、原審証人A11の証言は反組合的態度で貫かれ、作為的で誇張
があり、また同A12の証言は組合に対する敵がい心が強く、誇張があり、いずれ
も信用性がないといい、更に原判決が右A11の証言と大筋基本において」致する
旨説示する原審証人A14、同A18、同A19の各証言も信用性がない旨主張す
るのである。
 しかしながら、右所論の各証言の信用性に関する当裁判所の判断は、原判決が
「争点に対する判断」中の「A11、A12に対する各暴行を認定した理由の要
旨」の項に説示するところと同一であつて、暴行に関する右各証言は、本件発生後
早いもので約八年八か月後、おそいもので約一一年三か月後ものちになされたもの
であるから、若干のくいちがいがあるのは無理もないことであり、むしろそれが自
然であり、大筋基本において互いに符合しているところからして、右各証言は十分
信用することができる。右所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、被告人B1がA11首席人事主事に対して暴行を加えたものと
しても、被告人B4、同B5は机の東側にいて、被告人B1の位置から離れてお
り、被告人B6、同B7も、後ろからA11主事が被告人B1の胸を突き離した時
点で同主事に抗議のため近づいたのであるが、原判決が暴行が行われたと認定して
いる時点、すなわち、被告人B1が同主事の後ろから立つて外へ出るように促して
いる時点においては、未だ机を隔てて東側に立つていたのであつて、いずれも被告
人B1のA11主事に対する暴行について共謀してはいない、また、原判決はA1
2主事に対する暴行につき、被告人B1のみをその行為者として特定し、その余の
行為者として「他の被告人ら」とのみ判示しているが、被告人らの間に暴行の共謀
はなく、(一)「被告人ら五人全員がA12を取り巻いて身体をゆするというか、
小突くという状態であつた」旨の被告人五名の共謀の存在をうかがわせる原審証人
A18の証言は、当時A18の隣りにいた原審証人A19がこのような証言をして
いないところからみて信用性に乏しく、しかも、原判決自体がA18の証言中、被
告人B6がA12主事の胸倉をつかんだとの証言及び被告人B7がA12主事の後
ろから両肩を引張つたとの証言については、被害者である原審証人A12がそのよ
うな証言をしていないとの関連で、原判決において右被告人B6、同B7の行為を
判示していないのは、両被告人の行為として特定できないものと判断したもので、
この点からみても、原判決自体もA18の証言に全面的な信用をおいていない表れ
であり、さらに、(二)原判決は被告人B4がA12主事の手をつかんだという論
告主張部分を事実認定から欠落し、被告人B5の行為についても全く触れていない
から、少なくとも右両被告人に共謀責任を問うことはできない、というのである。
 しかし、A11(首席)、A12各人事主事に対する暴行につき、前記被告人五
名が共謀したものであることはさきに説示したとおりであり、また、右所論(一)
のA18の証言の信用性の点については、所論の原審証人A19は、当時A18の
隣りにいたものであるが、同人の証言によれば、被告人B1が立つているA11主
事を外に出そうとして、その左方から同主事の腕を引つ張つていたので、A12主
事が制止に入つたところ、次に被告人B7がA12主事を後ろから押したので、同
主事が、二、三歩よろよろとよろけた状況は目撃したが、その時電話がかかつて来
て、電話に出たので、その直後のことはよく見ていない。電話が終つて元のところ
に戻ると、静かになつていて、A11主事が被告人B1に手を引つ張られて出て行
こうとしていたと述べているから、A19証言とA18証言の内容に精粗があるの
は当然であつて、所論のようにA18証人が言及している状況をA19証人が言及
していない点を捉えて原判決がことさらA18証言だけを特に信用する合理的根拠
に乏しいと論難するのは失当であり、また、原判決がA18の証言中の所論の被告
人B6、同B7の行為につき、その認定事実中に右両被告人の名を掲げていないこ
とは所論のとおりであるが、原判決は、被告人五名は共謀の上、……被告人B1の
暴行のほかに、「他の被告人らも加わつてA12を取り囲み、同人の胸倉をつかん
で押す、あるいは背後から両肩に手をかけて引張る等の暴行」をも判示しているの
であつて、被告人五名が共謀の上暴行を加えたものである以上、個々の暴行の主体
を特定して判示することを要しないことは多言を要しないから、原判示のように
「他の被告人らも加わつて」と記述して、あえて暴行主体を特定しないことも別段
不当とするに足りず、まして、これをもつて原判決がA18証言に全面的な信用性
をおいていない表れであると受け取ることは不当である。また右所論(二)の原判
決は、被告人B4がA12の手をつかんだという論告主張部分を事実認定しない
で、その部分を欠落し、さらにB5被告人の行為については全く何も触れていない
との点については、原審証人A11の証言(第五九回公判)によれば、「被告人B
6と同B4がA12の右側へ寄つて来て、A12にかかつて行き、被告人B4は
『暴力つてなんや、お前黙つてえ。』と言いながらA12の手をつかんだ。」旨供
述しており、右証言は迫真性に富み、信用性があると考えられ、手をつかむ行為
が、その前後の状況からみて暴行とみられるけれども、原判決は、この被告人B4
の行為を特に記述しないで、「……等の暴行を加え」として等の中に包含せしめた
ものとも考えられ、このことをもつて不当とはいえず、また「被告人B5の行為に
ついては全く何も触れていないという点については、原審証人A18の証言(第七
三回公判)によれば、「被告人ら五名はA12を取り巻いて身体を揺する、小突く
状態であつた」旨供述しているところ、原判示によれば、行為主体は特定されてい
ないけれども、「他の被告人らも加わつて同人を取り囲み」と判示されており、右
判示をもつて罪となるべき事実の記載として不十分と論難することはできないか
ら、各所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、被告人B1ら五名は、組合役員として、不当な退職勧奨の即時
中止、目前に迫つた人事異動という緊急な問題について人事主事と交渉する目的を
もつて会議室に入室したもので、人事主事は当局の一部として交渉応諾義務がある
から、被告人らの入室には正当な理由があり、入室禁止の貼紙の対象は青友会や地
域のボス、市会議員などであつて、組合は校長などと同様に、部外者の取扱いでは
ない慣例となつており、組合員の人事に関して組合役員が交渉を求めることをも禁
止した趣旨ではなく、少なくとも被告人らはこのような認識の下に入室したもので
あるから、侵入の故意はなく、当初はA11首席人事主事らは入室を拒否していた
が、被告人らの説得によつて事実上の話合いとなつたことなどの経過からすれば、
被告人らの入室行為は、全体的にみて住居者の意思に反した「故なき侵入」とはい
えない。仮に住居者の意思に反したとしても、前記のとおり組合活動の一環とし
て、それまで組合の交渉申入れをかたくなに拒否し不誠実の態度をとる人事主事に
対し入室して交渉を要求したのであるから、被告人らの入室行為は、刑法三五条の
正当行為として違法性が阻却されるというのである。
 そこで考えてみるに、刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する
建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管
理権者があらかじめ立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であつても、
該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみ
て、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されると
きは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免
れないと解すべきところ(最高裁判所昭和五八年四月八日判決、刑集三七巻三号二
一五頁参照)、本件についてこれをみるに、本件当日、a分室において人事主事が
行つていた新規教員採用者の面接試験、教職員の定期人事異動に必要な資料の作成
などは、特に機密保持を要するものであるため、会議室北東出入口扉の外側に「許
可なくして入室を禁止する」旨の貼紙を掲示し、部外者の立入りを厳重に規制して
いたものであり、右部外者には右事務処理関係者以外のすべての者、すなわち組合
員の人事に関して交渉を求めにくる組合役員らをも含むものと解されるのであり、
しかるところ、被告人ら五名は老齢教職員に対する勧奨退職の中止、個別の人事異
動についても事前に組合との交渉を経ることなどを人事主事に要求する目的で、あ
らかじめ何の連絡をすることなく、突如として右会議室に入室したものであり、右
のような要求事項は管理運営事項で交渉の対象事項ではなく、また、人事主事には
交渉当事者適格がないから、地公法五五条の適法な交渉の申入れとはいい難く、こ
のような人事問題についてはC4委側に交渉に応ずる意思のないことは、従来のC
4委の態度からみても、また、三月八日の京都市議会本会議におけるC4育委員長
C13の「人事異動の問題は、人事管理の問題であるから、教育委員会に任せて頂
きたい」との答弁(検甲四二号議事録一〇三頁、一〇六頁)によつても明らかで、
被告人らもそのことは十分知つていたはずである。したがつて、A11首席人事主
事らは入室して来た被告人五名に対し、「人事問題については交渉しないことにな
つている。」「面接試験、人事異動に必要な資料の作成事務の支障になる。」こと
を理由に再三室外への退去を求めたところ、右被告人らはこれを無視してA11主
事らに対し暴言を吐き、暴力を加え、実力を用いてでも同人らをa分室から連れ出
して強制的に話合いに応じさせようとし、同主事らもやむなく運動場に出て被告人
らの要求を聴取することとして室外に出るに至つたが、それまで三〇分以上もの
間、同室に滞留するに至つたものであるから、被告人らは、その入室について管理
権者の意思に反していることを知りながら入室したもの、すなわち侵入の故意があ
つたものというべきであり、また、本件入室行為はその目的、方法、態様がいずれ
も違法であり、到底刑法三五条の正当行為とも認められず、建造物侵入罪を構成す
るものといわなければならない。所論は理由がない。
 弁護人の所論は、また、原判決は、前記被告人五名がa分室会議室に入室した際
に、A11(首席)、A12、A13各人事主事は、あと一名の面接未了者が来訪
すれば面接を実施すべく待機するとともに、それまでに終了した面接結果について
の整理並びに総括検討を行なう等面接試験事務なる公務に従事中であつた旨判示し
ているが、A11らは公務を一応終了して雑談中であり、仮に公務に従事中であつ
たとしても、この面接試験は第二次面接で採用内定者の勤務地を定めるための面接
であつて、中学校関係の当日の面接試験受験者は八名で全員午前九時半に呼び出
し、うち一名については事前に欠席通知があり、六名については正午ころ面接を終
了し、残り一名も九時半に呼出しているのに来ないので待つていたというのである
が、三時間経つても来ないことは面接を受ける意思がないとみるのが妥当であつ
て、「待機」という公務は余り意味のないことであり、また「総括検討」は、この
時にどうしてもやり遂げなければならない必要はなく、結局、被告人らが入室した
時点では、A11主事らは大して重要な仕事に従事していたわけではなかつたの
で、被告人らの申入れ、要求に応じて任意に公務を中断したのであるから、公務執
行妨害にいう公務は存在しないというのである。
 しかし、さきに認定したとおり、被告人らが入室した際には、面接試験を担当し
ていたA11(首席)、A12らの人事主事は、執務机で面接終了者について総括
検討、面接書類の整理をしたり、あと一名の面接予定者の書類に目を通すなどする
と共に、右面接予定者が来訪すれば面接を実施すべく待機していたのであり、A1
1(首席)、A12人事主事らが引き続き公務である面接事務に従事していたこ
と、ところが、前記被告人五名は退職勧奨の中止、人事異動について人事主事に要
求する目的をもつて、あらかじめ何の連絡もなく不意に無断で前記会議室に入室
し、A11(首席)、A12人事主事らに対し、こもごも「退職勧奨を中止しろ。
 人事異動について話をしろ。表へ出ろ。市長も代わつたんや、出て話をせい。出
えへんかつたら、いつまでも、ここに頑張つてやる。」などと怒号し、A11、A
14両首席人事主事が「人事問題については交渉しないことになつている。面接試
験、人事異動に必要な資料の作成事務の支障になる。」と言つて退去を要求したの
に、被告人五名はこれに激高して、A11首席人事主事を室外に連れ出そうとして
同主事に対し暴行に及び、更にこれを制止しようとしたA12人事主事に対しても
暴行に及んだものであつて、被告人らの目的は、さきに説示したとおり交渉の「当
局」に当たらない人事主事に対するものであつて、地公法五五条にいう適法な交渉
の申入れとは認められないものであり、被告人らの入室により、右人事主事らは各
職務の執行を事実上一時的に中断せざるをえなくなつたものであつて、その職務の
執行を自ら放棄し、又は自発的にその職務の執行から離脱したものでないことが明
らかであり、したがつて、右人事主事らの各職務の執行が一見中断ないし停止され
ているかのような外観を呈したとしても、その状態が被告人らの不法な行動によつ
て作出されたものである以上、これをもつて人事主事らが任意、自発的にその職務
の執行を中断し、その職務執行が終了したものと解するのは相当ではない(最高裁
判所昭和五三年六月二九日判決・刑集三二巻四号八一六頁参照)。所論の「待機」
及び「総括検討」の公務についての見解も独自の見解に基づくものであつて採用で
きない。もつとも、さきに認定したとおり、その後被告人B1が中心となつてA1
1首席人事主事らに対し、動員をかけると言つたり、室内電話で組合本部に対し来
室を呼びかけるなどして、執ように話合いのため外に出ることを要求したため、A
11(首席)、A18両人事主事が、このままでは面接試験ができなくなることを
おそれ、やむなく被告人らの要求に応じ、校庭に出て被告人らと話合いをしたこと
が認められるが、これは前記公務執行妨害成立後の事情に過ぎず、これを目して公
務を任意に中断して交渉に応じたものといえないことはいうまでもないところであ
る。以上のとおり、A11(首席)、A12両人事主事に対する公務執行妨害罪の
成立することは明らかであるから、所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、被告人B1らのA11(首席)、A12各人事主事に対する行
為が公務執行妨害行為に当たるとしても、被告人らは組合役員として人事異動の差
し迫つた直前の時期に、組合員に対する退職勧奨、配置転換などで人事主事と緊急
に交渉、話合いを持つ必要があつたので、教職員組合の正当な団体交渉申入れの行
動の一環としてなされたものであり、これに対して人事主事の不誠実な応対、とり
つくしまのない態度等、労使の対抗関係の中で相手の対応から起つた一瞬の偶発的
出来事であり、A11主事に対する有形力の行使について被告人B1がA11主事
の背後から外へ出るように促す際に、立つように力を入れて立ち上がらせる動作が
あつたとしても、瞬時のトラブルでA11の身体に対する被害といつても、取り立
てていうほどのものではなく、またA12主事に対する有形力の行使について、被
告人B1が突然体当りをして来たA12主事に対して、不意の唐突な動作に抗議し
て胸の名札で名前を確認した際、被告人B1の手が同主事の胸に当たるとか、また
同主事を押し返す動作の際、被告人B7、同B6も現場にいて同じように押し返す
行為に加わつたと認定されたとしても、これまた積極的な加害行為ではなく、同主
事の異常な行動に対応した瞬間的、偶発的ハプニングであつて、特に同主事の身体
に対して被害があつたわけではなく、公務に対する支障についても、前述のように
中学校の面接は終わつており、待機並びに総括検討中の状態なのだから、差し支え
といつてもさほどのことはなく、総括検討にしても、その時どうしても仕上げなけ
ればならない仕事ではなく、融通性のきくもので、公務への影響は小さく、被告人
らが同室内に入室したのは原判決認定でも一二時三〇分ころであり、退室時刻は零
時五〇分ころであるから、最大限でも約二〇分間同室内で滞留したにとどまり、そ
の間も、後半の七、八分はA11主事を挾んでの比較的平穏な話合いがなされてい
たことは、同人らも認めているところであつて、仮に公務に支障があつたとしても
短時間であり、また、現に実施中の小学校教職員新規採用予定者との面接試験を一
時中断させたとしても、その面接の邪魔にならないようにとの配慮もあつて外へ出
ることになつたもので、小学校関係の面接に与えた支障も僅かで、被害は軽微であ
り、事後に校庭に出てA11主事らとの交渉は約一時間にわたつて行われ、交渉の
実を挙げたことなどを考慮すると、予備交渉・事前連絡を経なかつたことのかしは
治癒され、被告人らの行為を全体的に観察して、団体交渉を実現するための組合役
員としての正当な行為であつたというべきであつて、被告人らの公務執行妨害の行
為は実質的違法性がない、というのである。
 しかし、さきに説示したとおり、被告人らの話合いを求めるという事項は特定の
教職員に対する退職勧奨に抗議し、その中止を要求することを主眼としたもので、
地公法五五条三項にいう管理運営事項に係るもので交渉の対象とすることはできな
いものであり、話合いの相手とする人事主事らは交渉当事者適格を欠くなど適法な
交渉の申入れとはいいがたく、陳情の性質を持つものとして、人事主事らにおい
て、これに任意に応ずる場合にのみ認められるものであるのに、これに応じない人
事主事らを無理矢理に外へ引つ張り出して話合いをしようとし、A11主事らに対
し、さきに認定したとおりの暴言をあびせ、同主事及びA12主事に対し暴行を加
えて両主事の公務の執行を妨害したものであつて、入室してからの状況、被告人ら
の行為の態様、人事主事らの対応についての事実関係は、所論にいうものとは全く
異なるものであり、さきに認定の被告人らの動機目的等を十分考慮しても、被告人
らの本件行為は正当な組合活動とは認められず、暴行の態様、程度、公務執行妨害
の程度等一切の事情を考慮しても、本件公務執行妨害について実質的違法性がない
とはいえない。所論は採用し難い。
 以上のとおりであつて、原判示第二の事実に関しては、原判決には各所論のよう
な事実誤認及び法令の解釈、適用の誤りはないから、各論旨はいずれも理由がな
い。
 第六 弁護人並びに被告人B1、同B6、同B3、同B4、同B7、同B5、同
B8、同B9の各控訴趣意中、原判示第三の事実に関する事実誤認及び法令の解
釈、適用の誤りの主張について
 各論旨は、要するに、弁護人らにおいて、原判決は、その判示第三において、被
告人B1、同B6、同B3、同B4、同B7、同B5、同B8、同B9の八名のC
6組、C5組、C4組の組合員約四五名との共謀による昭和四二年三月一四日分前
記a分室会議室への建造物侵入、同室及びその東隣りの作法室において人事異動に
要する資料作成等の公務に従事中の首席人事主事A14、人事主事A18、同A1
7、同A12外六名及びたまたま同分室に来合わせていた首席指導主事A20外一
名に対し同日午後四時四〇分過ぎころから翌日午前一時三〇分ころまでにかけて人
事異動等について理由を糺すなどしていた際における、一右被告人八名の前記教組
員約四五名との共謀によるA18人事主事に対する共同暴行を手段とする公務執行
妨害、二被告人B3を除く右被告人七名の教組員約四五名との共謀による(一)A
17人事主事に対する共同暴行を手段とする公務執行妨害、(二)A14首席人事
主事に対する暴行を手段とする公務執行妨害、(三)A12人事主事に対する共同
暴行を手段とする公務執行妨害、三右被告人八名の右教組員約四五名との共謀によ
るA20首席指導主事に対する共同暴行の各事実を認定し、それぞれ該当法条を適
用しているが、被告人ら八名は、原判示第三の冒頭に記載の経緯等から、a分室へ
出頭するよう呼出しを受けた老齢教諭二名に対する退職勧奨を即時中止することと
人事異動に関して人事主事と交渉することの目的をもつて教組員らとともに前記a
分室に赴き、まず右被告人八名を含むC4協役員約一〇名が会議室に入室してA1
1首席人事主事らに交渉の申入れをし、同主事らも結局交渉に応ずる旨答えたの
で、廊下で待機していた組合員らに指示し、組合員約四〇名も入室したものであつ
て、被告人らの入室行為は建造物侵入とはならないから、建造物侵入罪の法条を適
用した原判決は法令の解釈、適用を誤つたものである。また、原判示の被告人や組
合員らが同判示の首席人事主事、人事主事あるいは首席指導主事に対して暴行を加
えた事実はなく、したがつて、同判示の八名又は七名の被告人が会議室内にいた約
四五名の教組員らと共謀して右主事らに暴行を加えた事実もなく、かつ、人事主事
らとの交渉開始によつて同主事らの公務は任意に中断されていたものであり、いず
れにしても公務執行妨害の事実はないから、人事主事らに対する公務執行妨害、首
席指導主事に対する共同暴行の各事実を認定し、該当法条を適用した原判決は、証
拠の取捨選択、評価を誤つた結果、事実を誤認し、法令の解釈、適用を誤つたもの
であり、仮にその事実があるとしても、実質的違法性がないから、これに公務執行
妨害又は暴力行為等処罰に関する法律の各法条を適用した原判決は右法令の解釈、
適用を誤つたものであつて、以上の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである
といい、被告人B1、同B6、同B3、同B4、同B7、同B5、同B8、同B9
において、それぞれ、原判示第三の各関係事実につき、建造物侵入、暴行を手段と
する公務執行妨害の事実がないのに、これを肯定し、該当法条を適用した原判決に
は判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがあるというの
である。
 そこで検討するに、原判決挙示の対応各証拠によれば、原判示第三の事実は、所
論の共謀の点を含め、優にこれを認めることができ、原判決が「争点に対する判
断」の項中、原判示第三の建造物侵入、A18、A17、A14(首席)、A12
各人事主事に対する暴行を手段とする公務執行妨害並びにA20首席指導主事に対
する共同暴行を認定した理由を説示するところは首肯することができるのであつ
て、当審における事実取調べの結果によつても、右認定を左右することはできな
い。すなわち、右証拠によれば、
 (一) 昭和四二年三月一四日(火)の朝、C4協C14会が行われていた際、
市立高等学校の老齢教諭二名に対して、同日午後にa分室に出頭を求める旨のC4
委からの呼出しがあつたとの報告が入つたことから、右両教諭に対する退職勧奨に
抗議し、これを即時中止させるとともに、人事主事らに対し、これまでのC4協側
の要求を無視した人事異動等の責任を追及し、あわせて今後の人事異動について要
求するため、人事主事らと交渉することを決定し、これを受けて、C6組、C5
組、C4組においても右決定を了承し、各組合の執行委員並びに各分会の人事対策
委員らが、同日午後、右a分室へ赴くこととなり、被告人B1、同B6、同B3、
同B4、同B7、同B5、同B8、同B9ら八名は、同日午後四時四〇分ころ、C
4協関係組合員約四五名と共にa分室へ押しかけた。
 (二) 当時、a分室会議室には、教職員課首席人事主事A14、人事主事A1
8、同A17、同A19、同A16、同A15、同A13、同C12の八名、その
東隣りの作法室には、同課首席人事主事A11、人事主事A12合計一〇名の人事
主事が在室して、それぞれ教職員の定期人事異動に関する資料作成事務等を行つて
おり、学校指導課首席指導主事A20、指導主事A21が人事異動に関する事務連
絡のため右作法室に来ていた。a分室では教職員の人事異動という機密保持を必要
とする事務が行われていたため、会議室北東部出入口扉の外側には無断入室禁止の
貼紙が掲示されていた。
 (三) 前記被告人B1ら被告人八名は、前記日時ころ、C4委側にあらかじめ
連絡をすることもなく、前記無断入室禁止の貼紙を無視して会議室北東部出入口扉
を開け、被告人B1を先頭にして、被告人B1が「これまでの人事行政をただしに
来た。抗議しに来た。」と大声で叫びながら、数名の教組員らとともに無断で入室
し、引続きその余の約四〇名の教組員らも続々となだれ込むように同室に入室し
た。被告人B1らが入室当初は、同室にいて小学校の新規採用教員数の整理、交流
人事の資料の整理をしていた前記A14首席人事主事が、また、しばらくして東隣
りの作法室でA20首席指導主事、A21指導主事らと教員配置に関する連絡協議
後、懇談中に騒々しさに気づいて会議室に来た前記A11首席人事主事が、それぞ
れ被告人B1らに対し「公務中であるから出て行つてもらいたい。」と退去を要求
したが、右被告人らはこれを無視し、右A14、A11両首席人事主事並びに同じ
く人事異動に要する資料作成事務等に従事中のA18、A17、A12、A19、
A13、A16、A15、C12の八人事主事らに対し、「この前退職勧奨はする
なと言つてあるのに、なぜ呼び出した。抗議に来たんや。人事主事は全部並ベ。」
「仕事を早くやめんか。」「今日は話合いをしなければ絶対に帰らん。」などと言
つて、右一〇名の人事主事ら全員をそれぞれの執務していた位置から同室南西隅に
移動させ、西側と南側の壁を背に横に鍵型に並べた椅子に座らせた。その間、当
日、年度末人事異動に関する事務連絡のため同分室を訪れ人事主事らとの事務連絡
協議後作法室でA11首席人事主事と懇談していたC4委指導部学校指導課のA2
0首席指導主事は、指導課から電話がかゝつていたとの連絡でa小学校校長室へ電
話を掛けに行つた際、廊下で監視していた教組員三、四名にその往き来の間、絶え
ずつききりで監視されたうえ、分室会議室に連れ込まれ、同室南側の人事主事らの
椅子に並んで座らされ、また作法室で一人残つていたA21指導主事も同室をのぞ
き見した被告人B5に言われて会議室に入り南側壁を背に人事主事らの椅子に並ん
で座らされた(右A20(首席)、A21両指導主事がそれぞれ会議室に入つた際
には、A18人事主事が教組側から詰問を受けていた。)。右被告人八名は、南西
隅に座らせた人事主事らの前に、他の教組員らは出入口のある廊下に面した北側と
東側を背にして立ち、右人事主事らを取り囲む状態にあつた。その上で、後記
(四)ないし(八)記載のとおり、被告人らが中心となつて、こもごも、高等学校
担当のA18、A19、小学校担当のA16、A17、A14(首席)、中学校担
当のA12、A13の各人事主事及びA20首席指導主事の順に一人ずつ名前を呼
び上げ、初めは椅子に座つたまま、のちには起立させ、同主事らがこれまでとつて
来た教職員に対する退職勧奨、人事異動、その他の人事に関する措置等について、
個々の具体的事例を挙げながら、執ように難詰、追及し、その措置の適否について
返答を求め、あるいは謝罪を要求するなどし、返答が気に入らないと「態度が悪
い。生意気だ。」と怒号、難詰しながら、後記主事らに暴行を加え、あるいは「立
つておれ。」、「頭を冷やしてこい。向うへ一ぺん歩いてこい。」などと命じ、A
12主事に対しては二回、A13主事に対しては一回、数メートル離れた東側壁ま
でそれぞれ往復歩行させ、A18主事に対しては「こいつはしぶといやつや。」な
どと非難し、同人を午後五時二〇分ころから午後一〇時ころまで立たせたまま座る
ことを許さず、また、その間、「市長が代わつたのに、お前らの態度は変わつてい
ない。」、「今日は徹底的にやる。」、「徹夜してでもやる。」などと言い、周囲
の教組員らも口々に「そうや、そうや。」、「やれ、やれ。」、「やつてやれ」、
「うそをつけ。」などと怒号し、暴行の実行行為者でない被告人や教組員らも、あ
るいは実行行為者と共に追及を受けている主事を取り囲んで追及、抗議、謝罪要求
をし、あるいは暴行行為を眼前にしながら制止せずに、かえつてこれに同調し、も
しくは助勢する状況にあつた。なお、被告人B3は、右高等学校担当の人事主事に
対する追及が終わつたのちからA20首席指導主事に対する追及が始まる前ころま
での間、所用のためa分室を離れていた。
 (四) 最初に指名した高等学校担当のA18人事主事に対しては、被告人B1
がC15高校の老齢教諭(明治三三年八月六日生、本件当時六八歳)に対する退職
勧奨の件について「退職勧奨のために呼び出したのはけしからん。」と言つて激し
く追及し、答えが納得できないとして「お前は悪い奴や、立て。」と怒号して起立
を命じ、更に「前へ出え。」と言つて二、三歩前へ出させて追及を続け、しばらく
して、被告人B1が同主事の胸倉をつかみ、二、三名の組合員も背中を押すなどし
て、二、三メートル前の同室ストーブ付近まで引つ張り出し、その後も、被告人B
1、同B7が中心となつて「早う返事せい。」、「こいつはしぶとい奴や。」退職
勧奨を受けた先生に「謝れ。」などと怒号しながら約二時間にわたつて詰問し、そ
の終了後元の席に座ろうとした同主事に対し、被告人B1が「お前みたいな悪い奴
は腰かけんでもええ。」と言つて、その場に立たせ、その後小学校関係の人事主事
に対する詰問に移る際に同室南側机の前に移動させ、午後一〇時ころまで立たせた
ままで着席を許さなかつた。
 (五) 小学校担当人事主事に対する詰問の二番目に指名されたA17人事主事
に対しては、被告人B7、同B4、同B1らが中心となつて、被告人B7がC16
小学校からC17小学校へ配置転換した教諭を校長が特殊学級の担任にしようとし
ているのはC4委の指示に基づくのかと追及し、同主事が知りませんと答えたのに
対し、更にC17小学校のC18校長に電話を掛けて指示を受けたかどうかを確認
するよう要求し、被告人B1が職員録を持ち出して来て同校長宅の電話番号を示
し、電話するよう要求したが、同主事がこれに応じなかつたので、被告人B7らは
これに激高し、同主事に対し、「前へ出え。」と命じて前に出た同主事に対し「態
度が悪い。」と怒号して、被告人B7が同主事の右腕上部を二回押し、「もつと前
へ出よ。きようは、C1市長がC17の方へ行つているから、お前もC17の方へ
連れて行く。」旨申し向け、同主事の右腕をつかんで引つ張り、被告人B1のほか
二、三名の組合員もこれと共同して同主事をつかみ、背中を押すなどして同主事を
同室内ストーブの西南側付近から北東辺まで引つ張り出した。そのうちに、A14
首席人事主事とC17小学校校長との電話による話合いの結果、同校長が指示を受
けたのは人事主事ではないことが分つたので、A17主事に対する詰問は終つた。
 (六) A17人事主事の次に指名されたA14首席人事主事に対しては、被告
人B7、同B4らが中心となつて詰問に当たり、同室西側の同主事の机を挾んで東
を向いて椅子に座つている同主事に対し、被告人B7も椅子に座つたままで、机上
に置いてあつた同主事の長さ約三〇センチメートルくらいのセルロイドの物指しで
机をバンバン叩きながら、中学校から小学校への人事異動について、「なんで、こ
んな人事やんのや。
 強制配転やないか。市長が代わつてんのに同じやり方やつとるやないか。」と厳
しく追及し、他の組合員もこぶしで机を叩いて同様に詰問したのに対し、同主事が
人口のドーナツ化現象と小学校の教員不足からどうしても周辺の小学校に教員を配
置する必要があるなどC4委の人事異動の基本方針を説明するとともに、市長が交
替しても、右方針に変更はなく、新たな指示も受けていない旨応答したところ、被
告人B7はこれに激高し、いきなり椅子から立ち上がつたうえ、右机の南側を回つ
て同主事に近づき、椅子に座つていた同主事の右方向からその右肩付近を右手で一
回突きとばし、椅子ごと左斜め後方に左を下にして床上に転倒させ、そのために同
主事が掛けていた眼鏡が外れて、その手のひらの上に落ち、転倒したとき両足が上
にあがつて両足のスリツパが脱げて飛んだ。同主事が起き上がつて、椅子を元に戻
したとき、「悪い奴や、立つとれ。」と言われて立つていると、右のスリツパが約
二・五メートル右方の隅の花びんの下にあつたので、それをはき、左のスリツパは
誰かがほつてくれたので、それをはいた。その後も若干の詰問があつて、午後一〇
時ころ同主事に対する追及は終わつた。ここでA11首席人事主事が、時刻もおそ
くなつたところから、「用務員にも迷惑を掛けるので、帰つてほしい。」旨、二、
三回申し出たが、被告人B1や被告人B7らが「まだまだやるぞ。」とか、「徹夜
でもやるぞ。」と怒号した。
 (七) 小学校担当人事主事に次いで中学校担当人事主事に対する追及に移り、
その最初に指名されたA12人事主事に対しては、被告人B1、同B7、同B9ら
が中心となつて、同主事が行なつた六六歳位のC19中学校教諭に対する退職勧奨
について一時間以上もの間詰問した上、同主事がこれに対して、当該教諭には勤務
状況についてとかくの風評があり、投書などもある旨答えたことに激高し、被告人
B7が同主事の胸を手で一回西側に向けて強く突いたため、同主事がよろよろと後
方の机の前あたりに後退し、そこへ同被告人が近寄つた際、同被告人の膝が同主事
の睾丸部に当たつたため、同主事が自分の股のあたりにこぶしを当てたところ、こ
れを身構えたものと思つた同被告人が「こいつ、暴力を振いよるぞ。」と言い、他
の組合員らも「悪い奴や。引つ張り出せ。」と怒号し、同被告人や氏名不詳の数名
の組合員らが同主事の胸倉をつかむなどして同室のストーブの西北角付近まで引つ
張り出し、更に、その位置で、被告人B7、同B1、同B4、同B9、同B8、同
B6らが、同主事を取り囲んで、口々に「謝れ。」と怒号しながら、同主事を小突
き、あるいは同主事の後頭部を上から押えながら、二、三度前へ下げさせ、その後
被告人B1が同主事に対し「一回頭を冷やして来い。」と言つて、同主事をして東
の側壁あたりまで二回歩いて往復させた。A11首席人事主事はA12主事の顔色
が真つ青であるのを見、これ以上同主事に対する詰問が続くのを案じて、同主事の
そばに寄つた上、同主事が投書や風評云々と言つたことについて、C4委は投書や
風評などによつて人事異動はやらない旨申し述べ、これに対し被告人B8が「今、
こいつが言いよつたやないか。」「どうするのや。」と言い、A11首席人事主事
が自分の責任で措置する旨答えて、A12主事に対する詰問が終わつた。
 (八) 中学校担当のA19人事主事に対する詰問が終わつたのち、そのころ会
議室に戻つて来ていた被告人B3を含めて前記被告人八名は、他の教組員約四五名
とともに、A20首席指導主事に対する追及に移り、被告人B1、同B7、同B4
らが中心となつて、同主事に対し、前に出るよう命じ、事務室西南隅の位置で一メ
ートル位前に出て立つた同主事に対し、文部省の行ういわゆる伝達講習会に職務命
令で参加させたことについて追及し、「命令研修は今後やらないと言え。」などと
迫つたが、これに対し、同主事が「今後やらないとは言えない。」旨答えたとこ
ろ、この応答を不満として激高し、口々に「命令研修はやめろ。」などと怒号し、
被告人B1が「お前はそんなに悪い奴か。もつと前へ出よ。」などと怒号しなが
ら、同主事の胸倉をつかみ、被告人B4と数名の他の組合員とが同主事の背中を押
して、同主事を同室西南隅から前記ストーブの西北角付近にまで引つ張り出し、被
告人B6、同B3、同B9らも加わつて同主事を取り囲み、同主事の体を小突くな
どして追及しながら、更に同主事を同室北側に置かれた長机の際まで押して行き、
長机に阻まれ立ち止つて南側を向いていた同主事に対し、「研修をさせたことを謝
れ。学校に国旗を配り、道徳教育をやり、軍国主義の教育をやつているのはこいつ
や。」などと追及し、その際同主事の北側にいた組合員の一人が「高知での倫理社
会の研修に命令で参加させられ迷惑した。」との発言があつたのをきつかけに、同
主事に謝罪を要求し、同主事が「あの時は大変ご苦労をおかけしました。」と言つ
たところ、これに対して「そんなわびの仕方があるか。」「お前は悪い奴や。詫び
ろ。」などと怒号しながら、腰を後ろの机に当てて立つている同主事に対し、被告
人B1、同B4ら数人でその前方から胸や肩を押して同主事の上半身を二回机の上
にのけ反らせ、同主事がようやく「詫びる。」と言つたので、手を離したところ、
同主事が「どうもすみませんでした。」と言つて詫びた。すると、被告人B1が
「あんたが、もつと早く詫びたら、こんな目に合わんとすんだんや。」と言つた。
同主事に対する詰問が終つたのは翌一五日午前一時三〇分ごろであつた。
 (九) このようにして、前記A18、A17、A14(首席)、A12の各人
事主事は、前記公務に従事中、無断入室して来た被告人らから、前記暴行を受け、
公務をとることができない状態となつた。
 以上の事実が認められる。
 右認定に反する前記被告人八名の原審及び当審公判廷における各供述、原審証人
A22、同A23、同A24、同A25、同A26、同A27、同A28、同A2
9、当審証人A3、同A4、同A5、同A7の各証言は、原判示第三の事実認定に
用いた関係証拠に対比し措信し難い。
 以上に認定の事実によれば、前記被告人B1ら八名は教組員約四五名と共にa分
室会議室に無断入室するについて意思連絡があつたこと、及びA18人事主事に対
する被告人B1外二、三名の組合員らの暴行、被告人B3退席中におけるA17人
事主事に対する被告人B7、同B1外二、三名の組合員らの暴行、A14首席人事
主事に対する被告人B7の暴行、A12人事主事に対する被告人B7、氏名不詳の
数名の組合員、被告人B1、同B4、同B9、同B8、同B6らの暴行、右A1
8、A17、A14(首席)、A12各人事主事に対する公務の執行の妨害並びに
被告人B3が戻つたのちのA20首席指導主事に対する被告人B1、同B4、氏名
不詳の数名の組合員、被告人B6、同B3、同B9らの暴行のあつたことが明らか
であるが、右A18人事主事に対する暴行したがつて公務執行妨害につき右被告人
八名と約四五名の教組員とが共謀したものかどうか、また、右A17、A14(首
席)、A12各人事主事に対する暴行したがつて公務執行妨害につき被告人B3を
除く右被告人七名と約四五名の教組員とが共謀したものかどうか、更にA20首席
指導主事に対する暴行につき右被告人八名と約四五名の教組員とが共謀したものか
どうかについてみるに、被告人八名及び約四五名の教組員は、いずれも前記共通の
意図、目的の下に意思相通じて共にa分室会議室に無断で入室した上、前記のとお
り各主事に対し、起立させ、怒号をあびせるなどして、いわばつるし上げ同然に長
時間にわたり詰問ないし追及をし、前記被告人や教組員の一部の者が前記A18ら
五名の主事に対し次々に暴行に及んだ際、又はその前後において、実行行為に出て
いない者も、単に同席して傍観していたのではなく、あるいは実行行為者と共に被
害者を取り囲んで追及・抗議・謝罪要求等を行い、あるいは暴行行為を眼前にして
も制止せずに、かえつてこれに同調し、もしくは助勢する挙動を示していたことな
どの事実に徴すると、暴行の実行行為者を中心として前記被告人八名又は七名と約
四五名の教組員とがまさに一心同体となつて、相互に犯行の認識、認容の下に原判
示第三の各行為に及んだものであることが認められるから、被告人らにつき前記認
定の暴行ないしは公務執行妨害について、その被告人相互間及び約四五名の教組員
らとの共謀があつたものというべきが相当である。
 弁護人の所論は、原判決が、「争点に対する判断」中、原判示第三の一の「A1
8主事に対する暴行を認定した理由の要旨」の項において、原審証人A18の供述
内容を掲記し、同証人が被告人から有形力の行使を受けたことについて具体的かつ
詳細な供述をしていること及び原審証人A11、同A14、同A16、同A21、
同A15は、いずれも、A18が追及を受ける過程で被告人らから引つ張り出され
た旨一致して供述していることをA18証言の信用性を肯定する理由にあげてい
る。しかしながら、証人A18の供述内容は、原判決がいうほど具体的でもなけれ
ば詳細でもなく、殊に原判決が判示第三の一で認定している被告人らがA18人事
主事の胸倉をつかんだ旨の具体的な供述は、どこにも見当たらない。更に前記のよ
うに証人A11、同A14、同A16、同A21、同A15が被告人らから引つ張
り出された旨一致して供述しているというが、胸倉をつかんで引つ張り出した点に
ついては、その供述内容は、まちまちであつて全く一致していない。なるほど、A
18主事が引つ張り出されたという点では一致している供述もないではないが、そ
の供述内容を具体的に検討すると、暴行の態様、位置関係、時期、場所、暴行を加
えた被告人が誰か、一人か複数か等について、いずれも相互に食い違いや矛盾が多
数存在する。他方、原審におけるA13、A17、A20の各証人がその供述中に
おいて、A18人事主事に対して暴行が加えられたことを明確に否定していること
は重要である。しかるに、原判決は前記項中の説示において「証人A12、同A1
3、同A17、同A20はいずれも右A18に対する暴行の存在を否定したとも解
しうる供述をしていることは、弁護人主張のとおりであるが、右各証言の供述経
過、内容を詳細かつ具体的に検討すると、いずれも右A18に対する暴行を明確に
否定する証言内容であると解されず、これら証言をもつて前記A18らの各証言の
信用性を否定することはできないと、いうべきである。」という。
 確かに証人A12の供述には若干不明確なところがあるけれども、A13、A1
7、A20の各証人の供述はA18主事に対する暴行を明確に否定しているのであ
つて、これを明確に否定した証言内容とはみない原判決の証拠評価は偏見と予断に
基づく以外のなにものでもなく、全く恣意的としかいいようがない。右各証人は、
被告人らに対し悪感情を持ちこそすれ、殊更に有利な証言をすることなど、およそ
考えられない立場にあることからすれば、前記暴行を否定する証言の信用性は極め
て高いといわなければならない。旨るる主張し、原審証人A18、同A11、同A
14、同A16、同A21、同A15の各証言は、いずれも信用性がないというの
である。
 しかしながら、右所論のA18ら六名の証言の信用性に関する当裁判所の判断
は、原判決が「争点に関する判断」中の前記項において詳細に説示するところと同
一であつて、所論中、原判決が判示第三の一に認定している被告人らがA18人事
主事の胸倉をつかんだ旨の具体的な供述はどこにも見当たらないことを指摘する点
は、原審第七八回公判(昭和五三年五月八日)において、証人A19が「被告人B
1が、A18がなかなか返事をしなかつたので、立つているA18の胸倉をつかん
で後ろの方に手をまわして揺さぶつていた。」と明確に供述し、原審第八二回公判
(同年七月一七日)において、証人A12が「A18主事が胸倉をつかまれたり突
き飛ばされたりして……」と供述しているところからして、右の指摘が誤りである
ことは明らかであり、また、所論中、本件現場にいあわせた証人A12、同A1
3、同A17、同A20は、いずれもA18に対する暴行の存在を否定したとも解
しうる供述をしていることは弁護人主張のとおりであるが、右各証言の供述経過、
内容を詳細かつ具体的に精査すると、この点に関する証言内容はいずれも単純に過
ぎ、右A18に対する暴行を明確に否定するものであるとは解されず、これらの各
証言をもつて具体的かつ詳細なA18証言及びこれと大綱において一致している証
人A11、同A14、同A16、同A21及び同A15の各供述の信用性を否定す
ることはできない。この点に関する原判決の説示に採証法則上不合理な誤りがある
とは考えられないから、所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、原判決が「争点に対する判断」中、原判示第三の二の(一)の
「A17主事に対する暴行を認定した理由の要旨」の項において、原審証人A17
の証言は具体的かつ明確であつて自然であるうえ、原審証人A16、同A14の証
言によつて補強され、同A11、同A20、同A19、同A21、同A15らの証
言は、大筋において、A17、A16と同趣旨の証言をしているということで、A
17に対する暴行のあつたことは明らかである旨説示しているが、右A17証言に
よれば、被告人B7がA17主事に対しC17小学校のC18校長に電話をかける
よう要求したが、同人がこれに応じないので、同人の右腕上部を二回押し、その後
きょうはC1市長がC17の方へ行つているから、お前もC17の方へ連れて行く
ということでストーブの北東の方まで連れていかれたということであるが、C18
校長に電話をかける件はA14首席人事主事が電話をかけたことによつて解決でき
たことで、A17主事に対して電話をかけさせることに固執してストーブ北東まで
引つ張り出す必要性は何ら存在せず、更にC1市長が山間部の僻地校であるC17
小学校へ、しかも夜間に行つているはずもなくそういうことを組合側が言うはずも
ないのであつて、このようないいかげんな証言をするA17証言自体信用性がな
く、また原判決が迫真性の高い具体的供述をしているというA16証言は、被告人
B7の暴行の点について、検察官の主尋問ですらあいまいであつたものが反対尋問
では完全にこれを否定しているのであつて、このような証言をもつて迫真性の高い
供述とはいいがたく、更に、A14、A11、A20、A19、A21、A15の
各証言も、それぞれがあいまい、かつ、矛盾をはらみ、証言相互の間においてもそ
ごし整合性を欠いていて信用性がない旨るる主張するのである。
 しかしながら、所論の原審証人A17の証言に関しては、C18校長との電話の
話があつたのは、所論とは異なり、さきに(五)に認定したごとく、A17主事を
ストーブの北東辺まで引つ張り出したのちのことであつて、それまでに被告人B
7、同B1らの暴行があつたものであり、また、C1市長が真実はC17へ行つて
いた事実がなかつたとしても、所論の点から直ちに右証言がいいかげんなものとは
いい難く、同証人の証言内容(原審第八四回、第八五回公判)を検討しても、同証
言は十分信用するに足るものであり、また、所論の原審証人A16の証言に関して
は、同証人は原審第八七回公判(昭和五三年一〇月一六日)において「被告人B7
が特殊学級のことでA17主事を追及し、二、三歩前へ引つ張つたようだ。二、三
名の者がA17主事を急につかんで引き出した。それがストーブの西側あたりま
で、つまり立つていた場所から二、三メートル、引きずり出して更に東の方へ行く
ような勢いであつたわけです。そこで私がそのそばにストーブがありますので、そ
こにでも倒されたらストーブは燃えていますので、危険だと思つて立ち上がつて止
めようとしたときにはストーブをよけて東に行つてましたが、そこに被告人B4が
おりましたので、『話せばわかる、暴力を使うな。』という意味のことを被告人B
4に言つた覚えがあります。引つ張つて行つたのは、三、四名で、引つ張つた距離
は、最初立つたところから三、四メートルか、もう少しあつたかもしれません。」
旨証言し、A17主事を引つ張り出し、引つ張つて行つたことについては繰り返し
証言しており、次の第八八回公判(昭和五三年一一月六日)において、弁護人の反
対尋問に対し、次の問答がなされている。(問)A17さんが前の方へ引つ張り出
されたというふうにあなたはおつしやつてますね。前回ね。(答)……(うなづ
く)。(中略)(問)A17さん何メートル位前に出たんですか。(答)最初はあ
まり出ないで立つて答えておりました。(問)その次に、また前へ出たんですか。
(答)立つた場所で答えておりました。あるいは立つ時に一歩位は出たかもわかり
ません。(問)その後前へ出たことはないわけですか。(答)……となつていて、
右最後の問いに対しては答がないままにこの点に関する尋問は終わつていて、主尋
問の際の引きずり出したとか引つ張り出したとの証言に対する真否については反対
尋問をせずに終わつている。したがつて、このような反対尋問をもつて検察官の主
尋問の際の有形力行使を肯定した証言を完全に否定したものとはいい難く、右肯定
したA16証言は措信するに足るものであつて、原判決が「迫真性の高い具体的供
述」と評価したことが過大であるとはいえない。その他所論のA14、A11、A
20、A19、A21、A15の各証言に関しては、右各証言は、本件発生後早い
もので約八年一〇か月後、おそいもので約一一年一一か月後ものちになされたもの
であり、それぞれの知覚、記憶、表現、注意力、場所的関係等にもより、ある程度
の差異があることは無理もないところであるものの、本件有形力行使の態様の大筋
においては前記A17、A16の証言とも互いに符合しているところからして、右
各証言も措信し得るものと考えられる。右所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、原判決が「争点に対する判断」中、原判示第三の二の(二)の
「A14主事に対する暴行を認定した理由の要旨」の項において、A14証言を引
用し、同証言が「真実体験したものでなければ到底述べられない程の詳細かつ具体
的なものである」とし、A11、A18、A19、A12、A13、A17、A1
6、A20、A21、A15の各証言が、(1)A14が椅子ごと後方に転倒し、
あるいは転倒しそうになつた旨、A14証言に沿う供述をし、(2)メガネが外れ
た、あるいはスリツパが飛んだなど具体的な事実についてA14証言と一致する供
述をし、(3)併せて、当時a分室が相当険悪な状況にあつたこと、をもつて、A
14証言が十分信用できるとしている。しかし、原判決は、単にA14証言の一部
を引用し、あとは、他の検察側証人の証言を十把一からげにして、A14主事が椅
子ごと後方に転倒し、あるいは転倒しそうになつたこと、あるいは眼鏡が外れた
り、スリツパが飛んだという部分的証言だけを取り出してA14証言と一致する供
述をしていると説示し、A14証言を信用できるものとしているにすぎない。すな
わち、A14証言を含め前記証人らの証言は、(1)暴行の加えられた方向、
(2)暴行の加えられたA14主事の部位、(3)行為の態様、(4)暴行を受け
た後のA14主事の状態等、重要な点においてことごとくバラバラであり、到底信
用のおけるものではない旨るる主張するのである。
 しかしながら、右所論のA14らの証言の信用性に関する当裁判所の判断は、原
判決が前記要旨の項において詳細に説示するところと同一であつて、前記原判決の
説示に掲記するA14証言は、当の被害者の供述として、詳細かつ具体的で迫真性
があり、その他のA11、A18、A19、A12、A13、A17、A16、A
20、A21、A15ら一〇名の証人は、A14が被告人B7(但し、A13、A
16、A21、A15の各証人は、行為主体が誰れであるかを特定していない。)
に突かれ、あるいは押されて椅子ごと後方に転倒し、あるいは転倒しそうになつた
旨供述し、しかもその際、A14の眼鏡が外れたことをA11、A18、A12、
A16、A20、A15ら六名の証人が供述し、A14のはいていたスリツぱが飛
んだことをA11、A18、A19、A12、A17、A16、A21、A15ら
八名の証人が供述しているのであつて、右A11ら一〇名の証人の証言は、いずれ
も事件発生後早いもので約八年一〇か月後、おそいもので一一年一一か月後ものち
になされたものであり、目撃証言として互いにある程度の差異があることは長年月
後に記憶を喚起して供述する際避け難い事象であるけれども、本件被告人B7のA
14に対する有形力行使の態様の大筋においては、前記A14証言とも符合してい
るところからして、A14証言を含め、右各証言は措信し得るものと考えられる。
右所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、更に、原判決が「争点に対する判断」中、原判示第三の二の
(三)の「A12主事に対する暴行を認定した理由の要旨」の項において、原審証
人A12の証言内容及び同A11の証言内容を掲記し、両証言内容がほぼ一致する
とし、右両証言は充分信用できる旨説示しているが、右両証言内容はくい違つてお
り、ことにA12証言は誇張、わい曲が多く、両証言とも信用性に欠けるというの
である。
 しかしながら、原判決が右理由の要旨の項に摘示する証人A11の原審第六一回
公判(昭和五一年一月二九日)におけるA12主事に対する有形力行使に関する証
言内容は、その供述の経過に照らし迫真的で臨場感があり、同証人は同公判におい
て「A12主事が投書その他で教育委員会が人事計画を策定するというようにとら
れそうな言葉を言つたので私は組合員らのつるし上げがこれ以上ひどくなつたらい
かんと判断し、その弁明のためストーブの南東、A12の南に移動し、組合員らに
対し、『委員会は投書とかそんなことで人事異動はやらない。』と言明したとこ
ろ、被告人B8が『今、こいつが言いよつたやないか。』と反ばくするので、私は
率直に『言うたことについてそれは悪い事や。』『私の責任で措置する。』と答え
たところ、事態が一応収拾した。」旨供述しており、この供述も事態の推移に一致
する具しな供述と受けとれるのである。もつとも、所論も指摘するように、証人A
11は原審第六一回公判(昭和五一年一月二九日)においては、「被告人B7がA
12の胸か、その辺が今記憶が確かでないけれども、つかんで前へ出し、後ろから
押すという人もあつて、ストーブの西北角あたりまで引つ張り出した。」旨供述し
たが、それから約三年後の原審第九二回公判(昭和五四年二月五日)(同証人とし
ては七回目で最終の尋問)においては、弁護人の尋問に対し、次のとおり答えてい
る。すなわち、(問)A12さんがストーブの西北まで移動したのは、先程のあな
たの証言ですと、だれか組合員知らないけれども、後ろから押した人がおつたと、
それと前に出えと言う組合員の促す発言があつて、西北まで移動したと言われまし
たね。(答)はい。(問)そうすると、B7さんが胸倉なんかを引つ張つて連れて
行くし、後ろからはだれか組合員が押しているんではないんですね。(答)今、こ
こで明確に言われると、ちよつと、その辺の記憶はあいまいですけれども、その押
す、引つ張るというのはB7さんか、B1さんか、だれになつてくるかというと、
この人ということは……。(問)証言を変えちやいけませんよ、あなたが自ら証言
したのち、私が確認したでしよう。そのときは、だれか知らないけれども、組合員
が押したと、それと前に出えと言う促す発言でですね、西北まで移動したと言うた
んじやないんですか。(答)引つ張つた人おると思うけれども、明確じやないか
ら、名前を出さなかつたんです。との問答のように、引つ張つた人はおると思う
が、それがだれか明確ではない旨証言していることが認められるが、前者の証言は
事件当時の経過について詳細に供述している際の証言で、前後の供述内容からして
信用性があるのに対し、後者の証言はその約三年後の、病気による約三年間の中断
後になされたもので、しかも事件当時の経過の一部についての尋問に対しての証言
で、証人としても記憶の薄れのために記憶喚起ができないところから出た証言であ
ることがうかがわれるので、後者の証言をもつて前者の証言を左右するには足りな
いと思料される。また、原判決が右理由の要旨の項に摘示する証人A12の証言内
容は、その供述の経過に照らし、特に誇張、わい曲として指摘できる部分はなく、
A11証言とのそごもそれ程なく、A11証言によれば、「B7かB1のどちらか
がA12の後頭部を上から押えながら『謝れ。』『謝れ。』と二、三度上から押え
つけるような形で前へ下げさせた。」というのに対し、A12証言は「退職勧奨の
追及に対して返事が適当でないということで被告人B7、同B1が中心になつて首
筋をつかんだり、『謝れ。』と言つて小突いて連れ回されて、最後にストーブの横
へ引き出され、そこで相当厳しく胸倉をつかまれたり、みんなで寄つてたかつて暴
力を振るわれた。」というのであつて、原判決がA11証言とA12証言とほぼ一
致すると評価したことに誤りがなく、所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、原判決が前記理由の要旨の項において、「証人A18(澤
蔵)、同A17、同A21、同A14、同A16、同A19、同A20、同A15
はいずれも右A12、同A11の各証言と大筋において一致した具体的な供述をし
ている。」と説示しているが、なぜかA13証言を挙示していないが、A12と同
じく中学校関係の人事主事でこの日A12のすぐ南隣にいたA13証言を普通なら
他の人事主事の証言にもまして信用すべきなのに、なぜ原判決は信用しないのか、
挙示すらしていないのが全く不自然である。前記説示内容も粗雑であるが、A13
証言によれば、「A12がA13の真横にいるときは、A12が倒れるとか、そう
いうようなことはなかつた。」というのであり、また「A12がストーブ北西まで
行つたのについても何らかの有形力の行使があつたかどうか不明である。」という
ことになる旨主張する。
 しかしながら、原審証人A13に対しては、A12に対する被告人らの暴行の有
無について検察官の的確な質問がなされておらず、A13証人は、C20教諭の退
職勧奨について、A12は組合員らからきびしく追及されたと抽象的に供述するに
とどまつており、弁護人の質問に対しても、あいまいな供述をしているけれども、
全体としてA12に対する暴行の点を積極的、かつ、明確に否定する趣旨の供述を
しているものとは認められず、原判決がA13証言を特に重視しなかつたことは、
それなりに理由があると認められるから、所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、原判決の前記理由の要旨の項には被告人B5が全く出てこない
不自然さがある。同被告人は当時C5組の書記長であつて、本件の際も中学校関係
では同被告人が中心となつてA12、A13を追及しているのに、原判決は同人の
行動に全く言及していない不自然な点がある旨主張する。
 しかしながら、関係証拠殊に原審第七八回公判(昭和五三年五月八日)における
証人A19の供述によれば、人事主事らに対する追及の中心には被告人B5はなつ
ておらず、A12に対する暴行の実行行為そのものにも加担した証跡は見当たらな
いから、原判決が被告人B5をいわゆる現場共謀者として処理するにとどめたのは
相当であつて、所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、原判決が「争点に対する判断」中、原判示第三の三の「A20
主事に対する暴行を認定した理由の要旨」の項においてA20首席人事主事に対す
る暴行を認定した証拠としてA20証言及びA11証言を具体的に掲記して、両証
言がほぼ一致し、A14、A19、A16、A12、A13、A17の各証言はい
ずれも右A20、A11の各証言と大筋で一致した供述をしていることからして、
A20、A11を含め右各証言は充分信用できる旨説示しているが、右説示が引用
するA20証言内容中、被告人B1に「お前はそんな悪いやつか。もつと前へ出
よ。」と言われたとの点は、同証言調書を検討しても、右文言を被告人B1が言つ
たものとの証言記載は全く見当たらず、更に右A20証言については、(一)原判
示の「被告人B1がA20主事の胸倉をつかみ……ストーブの西北角付近にまで引
つ張り出した」との点に関して、同証人は検察官の主尋問に対しては、「押すよう
にして連れて行かれた。」とか「押された。」とか供述していたのに、反対尋問に
対しては、突然として、「被告人B1から胸倉を引つ張られた。」とか「二の腕も
持たれ、胸倉もつかまれた。」とか供述するに至り、また、(二)原判示の「被告
人B1が……被告人B6、同B3とも加わつて同主事を取り囲み、同主事の体を小
突く等して追及した。」との点に関してはA20証人は、右のような小突く等の有
形力の行使があつた旨を一切供述しておらず、更に、(三)原判示の「同主事を同
室北側に置かれた長机の前まで押して行き、『お前は悪い奴や。詫びろ。』などと
怒号しながら同主事の胸や肩を押して同主事の上半身を右机上にのけ反らせた。」
との点に関し、A20証人は二回のけ反らされたというが、その契機についての証
言が主尋問と反対尋問とでは矛盾しており、また同証人は、のけ反らされた状況と
して、「数人が前方から両手で胸や肩を押した。」と供述するが、数人が同時に前
から両手で押すということが可能であろうか、この点からみても同証人の事実認識
の誤りであることが明らかであり、このような有形力の行使を同席していた他の主
事らは誰一人として目撃していないのである。(四)A20証言が信用できる一事
情として、同証人の「燃えているストーブに危険を感じた」との証言部分を掲記し
ているが、A20主事との交渉が行われた時刻や、石炭の補給及び燃焼状況につい
て証拠調もなされておらず、真実はその時刻にはストーブは燃えていなかつたので
あるから、右証言部分は作文にすぎない。また、前記説示が掲記するA11証人の
証言については、前記A20証言について掲記する(一)の原判示の点に関して
は、同証人は、検察官の主尋問に対し「誰かひとりが胸を引つ張つた。」と供述し
て、それが被告人B1であるとは証言していないのみならず、第九二回公判におけ
る反対尋問に対して「ストーブの西北辺りに出たのは自分(A20)で出たのか、
押されたのかは、はつきりしない。」、「誰かが力を加えたという記憶はない。」
旨供述して、主尋問に対する供述を訂正しており、同じく前記(二)の原判示の点
に関しては、同証人は検察官の主尋問に対し「小突くのは見ていない。」と供述
し、その全証言中にも小突く等して追及したという有形力の行使の目撃状況につい
ての供述は存在せず、同じく前記(三)の原判示の点に関しては、前記説示が引用
するA11証人の「被告人B1が『何という悪い奴や、お前は一番悪い奴や。』と
言いながら、右A20の胸をつかんで北東に向つて北側の机まで押して行き、同机
につまつた同人を二、三回机の上にのけぞらせるように押したり突いたりした。」
旨の証言は、弁護人の第九二回公判における同証人の「A20がやめてくれと言つ
たこと、B1がお前悪いやつちやと言つていたこと、A20の身体が三〇度傾いた
ことから攻撃が加えられたのではないか。」と推定したものであることを証言して
いることからして、目撃事実の証言ではなく推測に基づくものにすぎない。更にま
た、A14、A19、A16、A12、A13、A17の各証言も有形力の行使を
めぐる関係についてみても、主尋問と反対尋問で異なつたり、推測に基づくもので
あつたり、誇張によるものである。その他、以上の各証言についてるる主張し、い
ずれも信用し難いというのである。
 記録を検討すると、A20証人は、原審第八六回公判において、検察官の主尋問
に対し、次のように答えている。すなわち、(問)それで終つたんですか。(答)
それから、そのほか口々にいろんな怒声がとびまして、お前はそんな悪い奴かと、
もつと前へ出よと押すようにして更に斜め前方の方に連れて行かれました。
 (問)何人くらいがそうしたんですか。一人ですか。(答)数人だつたと思いま
す。(問)その中に名前の知つている人がありますか。(答)後の方で、その人が
おられたということを知つたということから、B1さんが確かにそこにいたと思い
ます。以上の問答がなされており、右供述によれば、同証人は、「お前は、そんな
悪いやつか。もつと前へ出よ。」と言われたことは証言しているが、その発言をし
た者が被告人B1であるとは証言していないことが明らかであり、同証人の右原審
第八六回公判のほか第八七回、第八九回、第九〇回各公判における証言内容を検討
してみても、右文言の発言者が被告人B1である旨の証言は存在しないから、原判
決の前記説示中のA20証言の引用は、右の部分において引用を誤つたものといわ
なければならないが、この引用の誤りは同証人の証言の信用性及び原判決の事実認
定には影響を及ぼさない(A11証人が被告人B1の発言である旨証言してい
る。)。所論は、A20、A11両証言の供述の矛盾点等を指摘するが、両証言の
内容を検討すると、いずれも具体的かつ詳細で真しな証言であることがうかがわ
れ、両証言の間にある程度の差異があるにしても、ほぼ一致しており、ある程度の
差異があるのも本件後約八年一〇月から約一二年近くを経たのちの証言であつてみ
れば、やむを得ないところであり、A20証言については前記(一)ないし(四)
の点を検討してみても、A20証言の信用性を左右するものではなく、またA11
証言について指摘する前記(一)の点については、同証人の原審第六一回公判の証
言中に、被告人B1がA20主事の胸をつかんでストーブの近くまで引つ張り出し
た旨の証言が存在しており、前記(二)の点については、同証人は右原審第六一回
公判において、検察官の主尋問の際に、次のような証言、すなわち、(問)その追
及する組合の人達はどんな状態で追及したのですか。(答)わたしの記憶では、A
20首席指導主事の身体が、相当前後左右に揺れておりましたし、A20さんが、
やめてくれ、やめてくれ、というふうなことも言うておりましたので、相当体に触
れるような、身体に対して小突くというのですか、そういうふうなことで、割合い
に強い追及があつたように記憶しております。(問)小突くと言われたのですが、
あなたはそれを見たのですか。(答)それは、うしろからですから、見ておりませ
んけれども、その身体の揺れ具合いから見て、そういうふうに判断をしたわけで
す、との証言をしていて、右証言は首肯されるものであり、また、前記(三)の点
については、同証人は、主尋問後病気による約三年間の中断後の原審第九二回公判
において、弁護人の反対尋問の際に、(問)押しておるのをはつきり見たという趣
旨ですか。(答)A20さんのやめてくれ、という声と、お前悪いやつちやという
声と、そういう状態の三〇度くらいに傾くという、そういうことから、被告人B1
がA20さんに対して攻撃を加えていたというふうに確信しているわけです。
(問)A20さんの体は見ていたと。(答)はい。(問)それから、声は聞いた
と。(答)はい。(問)そのことから推定したのが、B1さんが持つていたんじや
ないかということですか。(答)これは、私あとからA20さんにも聞きまして。
(問)そういうことでなくて、その段階であなたが見られたことなんですよ。
(答)そうです(一四冊六一〇五丁裏~六一〇六丁表)。と証言しており、同証人
は必ずしも推定した事実を述べているものではなく、右反対尋問の際の前後の証言
を検討すれば、所論の主尋問の際の証言を訂正したものとも認められず、したがつ
て、前記所論指摘の点をもつてA11証言の信用性を左右するには足りない。右両
証言は十分信用することができる。また、所論のA14、A19、A16、A1
2、A13、A17の各証言は、前記A20、A11の各証言を含め、その証言の
間にある程度の差異はあるものの、原判示第三の三の事実に照応する供述をしてお
り、こまかい点について差異があるのも前記のところからしてやむを得ないものが
あり、十分信用することができる。所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、被告人らの本件入室行為は、教職員組合の団体交渉権の行使と
して、緊急の必要性のある事項について団体交渉及び交渉申入れという正当な目的
のもとに行われたものであり、また最初にC4協役員約一〇名が会議室に入室して
A11人事主事らに交渉の申入れをし、当初同主事は執務中であることを理由に交
渉に応じられないとしていたが、結局は交渉に応ずる旨答えたので、その段階で約
四〇名の組合員も入室したものであるから、「故ナク」侵入したものではなく、建
造物侵入罪の構成要件に該当しないというのである。
 しかし、さきに認定したとおり、当日a分室では、人事主事一〇名が機密保持を
要する教職員の定期人事異動に関する資料作成に当たつていたため、会議室出入口
扉の外側に無断入室禁止の貼紙を掲示し、部外者の立入りを厳重に規制していたも
のであるところ、被告人B1ら被告人八名はC4協関係教組員約四五名と共に、人
事主事に対し、特定の老齢教諭二名に対する退職勧奨に抗議し、これを即時中止す
ること、過去の特定の人事異動等の責任追及、今後の人事異動について要求する目
的で、あらかじめ何の連絡をすることもなく、突如として、まず被告人B1ら八名
と数名の教組員が、被告人B1を先頭にして「これまでの人事行政をただしに来
た。抗議しに来た。」と叫びながら会議室に入室し、その場にいた人事主事らが公
務中を理由に退去を要求したのに、引続きその余の約四〇名の教組員らも続々とな
だれ込むように入室し、その後も人事主事らが再三退去を要求したが、これに応ぜ
ず、右のような要求はその態様からみて交渉の申入れというよりは追及、抗議であ
り、これを交渉の申入れと解しても、その対象事項は管理運営事項であり、人事主
事には交渉当事者適格がないから、地公法五五条の適法な交渉の申入れとは到底認
められず、さきに第五において原判示第二の建造物侵入に関して説示したごとく、
このような人事問題についてはC4委側に交渉に応ずる意思のないことは被告人B
1らにおいて十分知つていたもので、三月一一日の出来事があつた直後のことであ
るから、なおさらのことである。しかるに、被告人らはあえて要求を名目に入室
し、退去要求を無視して同室に滞留し、人事主事全員及びたまたま来合わせていた
指導主事二名を並ばせて強制的に話合いに応じさせ、夜更けまで約九時間にわたつ
て、つるし上げ同然の追及に及んだものであるから、本件被告人らの入室行為はそ
の目的、方法、態様がいずれも違法であり、故なく侵入したものであつて、建造物
侵入罪の成立を免れない(前記第五において原判示第二の建造物侵入に関する説示
に際して掲記の最高裁判所昭和五八年四月八日判決・刑集三七巻二一五頁参照)。
所論は理由がない。
 弁護人の所論は、原判決は、前記被告人八名が教組員約四五名と共に会議室に入
室した際に、A18、A17、A14(首席)、A12各人事主事は、人事異動に
要する資料作成事務等の公務に従事中であつた旨判示しているが、被告人らがA1
1首席人事主事らに対し正当な団体交渉を申し入れたのに対し、同主事らがこの申
入れを受け入れて交渉が開始されることになつたため、任意に右公務を中断したの
であるから、公務執行妨害にいう公務は存在しないというのである。
 しかし、さきに認定したとおり、被告人らが入室した際には、A18、A17、
A14(首席)、A12各人事主事らは、前記会議室において人事異動に関する公
務に従事していたところ、前記被告人ら八名及び組合員約四五名がA14、A11
各主事らからの退去要求にもかかわらず、次々に無断入室し、「この前に退職勧奨
はするなと言つてあるのに、なぜ呼び出した。抗議に来たんや。人事主事は全部並
べ。」などと言つて、同室及び隣室に在室していた人事主事や及び指導主事を会議
室西南隅に並ばせたうえ、翌日の午前一時過ぎころまでの約九時間にわたつて、各
主事らへの追及を続け、この間、前記A18、A17、A14(首席)、A12各
人事主事に対して暴行に及んだものであつて、さきに説示のとおり、被告人らの目
的は人事主事らとの話し合いというよりは、むしろ抗議のためのものであつて、地
公法五五条にいう適法な交渉の申入れとは到底認められないものであり、これがた
め右人事主事らは各職務の執行を事実上一時的に中断せざるをえなくなつたもので
あつて、その職務の執行を自ら放棄し、又は自発的にその職務の執行から離脱した
ものでないことが明らかであり、したがつて、右人事主事らの各職務の執行が一見
中断ないし停止されているかのような外観を呈したとしても、その状態が被告人ら
の不法な目的をもつた行動によつて作出されたものである以上、これをもつて人事
主事らが任意、自発的にその職務の執行を中断し、その職務執行が終了したものと
解するのは相当でない(最高裁判所昭和五三年六月二九日判決・刑集三二巻四号八
一六頁参照)から、右所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、A18、A17、A14(首席)、A12各人事主事に対する
行為が公務執行妨害行為に当たり、A20首席人事主事に対する行為が共同暴行に
当たるとしても、各事実の当該被告人らは、C21、C22両教諭に対し理不尽な
退職勧奨行為が行われるという差し迫つた事態の下で、こうした不当な退職勧奨に
抗議し、その中止を求めるために直ちに交渉を行わなければならない緊急の必要性
があり、更に年度末人事異動についても、教育委員長が教職員の人事異動は、その
希望を尊重して行う旨を市会で言明したにもかかわらず、現実の人事異動作業はそ
うした希望を徴することもなく現に進行しているという差し迫つた状況のもとで、
直ちに教職員組合の人事異動に関する要求を伝えて交渉を行うことは、教職員の身
分保障、権利保護を目的とする教職員組合として当然の行為であり、緊急的課題で
あつたのであり、交渉の内容は各組合の切実な議題で交渉したもので、長時間にな
つたのも各主事らが不誠実な対応をくり返したためであり、かりに各主事に対する
何らかの有形力の行使があつたとしても、いずれも正当な団体交渉の過程で偶発的
に起こつた出来事で、その法益侵害の程度は軽徴であり、被告人らの公務執行妨害
及び共同暴行の行為は実質的違法性がないというのである。
 しかし、さきに説示して来たとおり、被告人らの本件行為は、交渉というよりは
むしろつるし上げ同然の追及、抗議ともいうべきものであつて、これを交渉申入れ
と解しても、その対象事項はいずれも管理運営事項であり、話合いの相手は交渉当
事者適格のない人事主事、指導主事であり、その申入れの態様も平穏ではないこと
など、およそ適法な交渉の申入れといわれないものであつて、正当な組合活動とは
認められず、その他暴行の態様、程度、公務執行妨害の程度等一切の事情を考慮し
ても、本件各人事主事に対する公務執行妨害及び指導主事に対する共同暴行につい
て実質的違法性がないとはいえない。所論は採用し難い。
 以上のとおりであつて、原判示第三の事実に関しては、原判決には各所論のよう
な事実誤認及び法令の解釈、適用の誤りはないから、各論旨はいずれも理由がな
い。
 第七 弁護人並びに被告人B1、同B2、同B3、同B4、同B5の各控訴趣意
中、原判示第四の事実に関する事実誤認及び法令適用の誤りの主張について
 各論旨は、要するに、弁護人において、原判決は、その判示第四において、被告
人B1、同B2、同B3、同B4、同B5の五名のC4協関係組合員約三〇名との
共謀による昭和四二年三月一五日のC4委教育長室における不退去の事実、その間
における、一被告人B1、同B3のC4委総務部総務課主幹A30に対する共同暴
行を手段とする公務執行妨害、二被告人B1、同B2、同B3、同B4と外数名の
組合員との同課企画労務係長A8に対する共同暴行を手段とする公務執行妨害及び
傷害、三被告人B1の同課企画労務係員A10に対する暴行を手段とする公務執行
妨害、四被告人B5の企画労務係員A31に対する暴行を手段とする公務執行妨
害、五被告人B3の右A31に対する暴行を手段とする公務執行妨害の各事実を認
定し、該当法条を適用しているが、被告人B1、同B2、同B3、同B4、同B5
らは原判示第四の経緯からC4委の人事異動案の作成作業が教職員の意思を無視し
た不当なものであるとして、教育長に直接面会して抗議、要請する目的をもつて、
C4協関係組合員約五〇名と共に教育長室に整然と入室したものであり、教育長不
在のため交渉申入れに一時間足らず同室に滞留したが、企画労務係員らは組合の正
当な申入れに全く耳をかそうとしなかつたもので、被告人らの滞留行為は正当な組
合活動であり、しかも、企画労務係らは教育長から教育長室の看視・管理につき特
命を受けた事実がなく、したがつて退去を求める権限がないから、不退去罪は成立
せず、仮に企画労務係に退去を求める権限があつたとしても、被告人ら組合員らの
要求に緊急性・正当性があることなどからして退去要求行為は正当なものではない
から、不退去罪は成立しない。したがつて、不退去の事実を認定し該当法条を適用
した原判決は事実を誤認し、法令の解釈、適用を誤つたものである。また、被告人
B1が、A30主幹やA10係員に対し、被告人B5がA31係員に対し、被告人
B3がA31係員に対し、それぞれ暴行を加えた事実はなく、被告人B1、同B
2、同B3、同B4と外数名の組合員らがA8係長に対し共同して暴行を加えた事
実、したがつて傷害を負わせた事実もなく、かつ、鳥居主幹や企画労務係員らの本
来的な職務は組合との交渉を円滑に運営することであるのに、これを誠実に執行せ
ずに組合の正当な交渉権限をふみにじる退去要求行為に出たもので、このような行
為は法律によつて保護された公務ではなく、いずれにしても公務執行妨害の事実は
ないから、前記被告人らの公務執行妨害ないし傷害の各事実を認定し該当法条を適
用した原判決は、証拠の取捨、選択、評価を誤つた結果、事実を誤認し、法令の解
釈、適用を誤つたものであり、仮にその事実があるとしても、実質的違法性がない
から、これに公務執行妨害、傷害の各法条を適用した原判決は法令の解釈、適用を
誤つたものであつて、以上の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるとい
い、被告人B1、同B2、同B3、同B4、同B5において、それぞれ、原判示第
四の各関係事実につき、不退去、暴行、公務執行妨害、傷害の事実がないのに、こ
れを肯定し、該当法条を適用した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事
実誤認及び法令適用の誤りがあるというのである。
 そこで、検討するのに、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第四の各事実
は、優にこれを認めることができ、原判決が「争点に対する判断」の項中、原判示
第四の不退去、各被告人らの暴行ないし共同暴行を手段とする公務執行妨害及び傷
害を認定した理由を説示するところは、首肯することができるのであつて、当審に
おける事実取調べの結果によつても、右認定を左右するには足りない。すなわち、
右証拠によれば、
 (一) 昭和四二年三月一五日(水)、C4協では緊急C14会を開き、C4委
が進めている人事異動案の作成作業が教職員の意思を無視した不当なものであると
して、教育長に直接面会して抗議、要請する旨決定し、同日午後、被告人B1、同
B2、同B3、同B4は、C4協関係の組合員約五〇名とともに、市庁舎四階中央
踊り場において、「不当人事粉砕総決起集会」を開いたのち、同日午後五時一〇分
ころ、右被告人四名は、右集会参加者の中から選ばれた約三〇名の組合員ととも
に、前記のとおり教育長に抗議、要請する目的をもつて、同庁舎四階西側にある教
育長室に向かい、総務課室に入室した。
 (二) その当時、教育長室の北側の廊下に通ずる出入口の扉は常時施錠のうえ
閉鎖され、その扉の廊下側には教育長に面会を求める向きは隣室の総務課に申し出
られたい旨掲示され、部外者が教育長室に立ち入るについては東側に隣接する総務
課係員の取次ぎを経たうえ総務課北西部にある教育長室に通ずる出入口より入室す
ることになつていた。当時、教育長は公用で不在であつたが、東隣りの総務課室に
は、総務課主幹A30、庶務係長A32、庶務係(教育長秘書)C23(女子)、
企画労務係長A8、同係A10、同A31、同A9の七名が在室していた。
 これより先、C4委では、本件前日(三月一四日)のa分室における出来事につ
いての報告を受け、本件当日相当数の組合員らがC4委に来るとの情報を得たの
で、本件当日正午ころ、教育長、同次長、総務課長、教職員課長ら幹部が集つて、
その対策を協議した結果、組合員らが不当人事粉砕の運動で各事務局の部屋に大挙
して押しかけて部屋に入つて来たときは、退去要求をすることに決し右決定に基づ
き、企画労務係員らに対しては、右教育長の命により総務課長から右のような場合
には退去要求をするように指示すると共に、当日は土曜日であるが、組合の動員が
あるので、席を外さず勤務時間後も待機するよう指示し、更に、他の課係の職員に
も応援を求める態勢を整え、当日は、前記鳥居総務課主幹、A8企画労務係長、A
10、A31、A9の同係員らはC4委の使用する庁舎の管理権限、したがつて庁
舎内の秩序を維持し、公用に供するという庁舎の目的に対する障害を防止し除去す
るための看視管理の権限を有する教育長からの特命により、教育長室の看視管理の
任に当つていた。
 (三) 前記被告人四名及び組合員らは、前記教育長室扉の掲示を無視し、総務
課係員の取次ぎを経ないまま、被告人B1を先頭に、「C24いるか。」と言いな
がら、前記総務課室内北西部の教育長室に通ずる出入口より教育長室に大挙して入
室したが、その際、教育長室入口前にはC23秘書が在席していたのに、同女に対
して教育長への取次ぎを求めなかつたのみならず、同秘書が「教育長は不在である
ので、お入り頂かないように。」と言つて制止し、事態に気づいて自席からかけつ
けたA8係長も同様に制止したにもかかわらず、「教育長に会わせろ。」と言いな
がら、二人を押しのけるようにして、教育長室に入室したものである。
 (四) 当時、教育長は不在であつたが、教育長の事務机の上には、教育長の決
裁を求める人事関係、予算関係の書類や、教育長の人事に関するメモ等機密を要す
る書類が置かれていたため、前記鳥居、A8、A10、A31らが被告人らを追う
ようにして教育長室に入り、「教育長は不在であるから、退出してもらいたい。」
旨再三退去を要求したが、前記被告人四名は約三〇名の組合員とともに応ぜず、そ
の後被告人B5もこのような状況を知りながら教育長室に入室し、前記被告人四名
及び約三〇名の組合員とともに右企画労務係員らの退去要求に応ぜず、いずれも同
日午後六時一五分ころまで一時間余にわたつて同室に滞留して退去しなかつた。
 (五) 被告人B1らが教育長室に入つてから間もなく、鳥居主幹から退去を求
められたのにこれに応ぜず、被告人B1、同B3が鳥居主幹に対し教育長を呼んで
来るよう要求したのに、同主幹がこれを無視して教育長の机の南側で机上の書類等
の整理を続けたのに激高し、「泥棒や思てんのか。」、「そんな書類みたいなも
ん、誰も盗らへん。早う教育長を呼んでこい。」などと怒号しながら、被告人B1
が同主幹に近づき、その右方から右手で同主幹のネクタイの結び目をつかんで引き
寄せたので、同主幹がこれに対し「先生としてそんなことをするのははずかしいや
ないか、そんなことをするな。」と言つて抗議するや、同被告人が「そんなことを
言えた義理か。今日は一〇何年来の恨みを晴らしに来たんや。」と言い、両手で同
主幹の胸倉をつかんで同室西側の書棚の方へ五回位突き上げるようにして約二メー
トルほど押して行くとともに、その押している途中に被告人B3が近寄つて来て、
「早う教育長を呼びに行つたらええのや。」と言いながら、右手で同主幹の右肩を
三回位突くなど共同して暴行を加えた。
 鳥居主幹はこれに対して何ら抵抗することなく、その後も教育長の机上の書類を
片付け、これを持つて総務課室へ出て行つた。
 (六) 被告人B1、同B2、同B3、同B4は、前記A8係長に対しても、教
育長を呼んで来るよう要求したが、同係長がこれに応じないばかりか、同係長から
再三退去を要求され、前記鳥居主幹が片付けた書類を持つて教育長室から出て行つ
たのちも、被告人B1がA8係長に対し「お前ら、何ボーツト立つてるんや。早う
教育長を呼んで来い。」と言い、これに対し同係長が「教育長は外勤して不在で
す。出て行つて下さい。」と答えたところ、同被告人が「何を言うとるんか。呼ん
で来い。」と言いながら、同係長の事務服の胸倉をつかみ、前後に四、五回揺すつ
たうえ、教育長机の南東角付近から同室北東隅の総務課室に通ずる出入口に向けて
突き放し、同係長が後ろ向きのまま後方へよろけた際、氏名不詳の組合員に後ろか
ら腰を突かれて前へ二、三歩よろけて行くと、被告人B2が同係長の胸を手で突い
たので、同係長が再び後方へよろけ、同係長が同室南側にいるA9、A31、A1
0ら三名の方へ行こうとしたところ、被告人B1、同B3、同B4らを含む数名の
組合員らがこもごも「お前ら出て行つて、早う教育長を呼んで来い。」などと言つ
て、同係長を取り囲み、同係長の胸部や肩を小突き、腕をつかんで引つ張り、足を
蹴りつけ、背後から押すなどして、同係長を教育長室から総務課室へ押し出した。
しかし、教育長室をそのまま放置しておくわけにはいかないと考えた同係長が、間
もなく再度総務課室から教育長室出入口近くにあるついたての辺りまで入室したと
ころ、これを認めた組合員二、三名が「こいつ、また入つて来た。」「出て行かん
かい。」と言つて、同係長を右出入口近くまで押し戻し、同係長の体が南西向きに
なつていた際、被告人B4が同係長の右肩を力強く突きとばしたため、同係長の体
が右に半回転して右出入口の観音開きになつている扉のうち、固定されている南側
扉の北角にドスンという音を立てて右肩から右腕にかけて激突し、同人はその場に
うずくまるように倒れた。すると、被告人B1が来て、「何を大げさにひつくり返
つとる。」と言いながら、転倒している同係長の背後から両脇に手を入れて引き起
こし、これに対して同係長が「ひつくり返しときやがつて、何を言うてるねん。」
と抗議したところ、同被告人は「出て行け。」と言いながら、同係長の背中を突い
て同室外に突き放し、同係長が総務課室の方へよろけて行つたところを、総務課室
内の右出入口付近に立つていた鳥居主幹に支えられ、同係長は一旦その場にしやが
みこんだ。
 鳥居主幹は、A8係長の顔が青ざめ、小さな声で痛い痛いと苦しそうに言うので
三階の医務室へ行くよう指示し、A8係長は一人で医務室へ行つたが、医師が不在
で、看護婦から外部の医師に診てもらうよう言われたけれども、自己の職責上教育
長室の事態を放置したまま医者に行くわけにも行かず、また当日午後六時から市庁
舎前広場で春闘総決起大会が予定されていたので、そのころには被告人らも引き揚
げるものと予想し、そのころまでは庁舎内にとどまろうと考え、医務室にとどまつ
ていたところ、総務課庶務係の女子職員が心配せずに休養しているようにとの鳥居
主幹からの指示を伝えに来たので、午後五時三〇分ころ、市庁舎を出、空車のタク
シーもないので雨中を徒歩で付近のA33病院に行き、午後六時ころ院長のA33
医師の診察を受け、人に押されて右肩、胸部をドアをぶつけた旨説明し、診察の結
果、右肩、右胸には外見上異常はなく、レントゲン検査の結果も同様で、右下腿内
くるぶしから四センチ位上のところに二、三日で治る程度の擦過傷が認められ、A
8の訴え、触診、運動検査、レントゲン検査等を総合して、右肩胛部及び右側胸部
打撲傷及び下腿部擦過傷で約一週間の安静加療を要し、更に自覚痛が消退するには
なお一週間を要する旨の診断を受けて診断書を作成してもらうとともに治療を受
け、その後、C4委総務課に戻つて右診断書を企画労務係に渡し、しばらく勤務を
休む旨告げて帰宅したが、当夜相当の発熱(九月三〇日に風邪と診断された)もあ
り、同年四月六日まで勤務を休んで療養していたが、その間、三月二四日(C25
医師が診察)、二九日(C26医師が診察)、三〇日(A33医師が診察)に通院
して右肩から右胸にかけて湿布をしてもらうなどの治療を受け、三月三〇日には右
肩胛部及び右側胸部打撲傷によりなお約一週間の安静加療を要するとの診断を受け
るとともに、暴行を受けた当日の帰宅後の悪感、発熱等の症状と当日の診察の結果
風邪と診断され、その投薬も受けた。
 (七) A8係長が医務室へ行つた後、しばらくして、教職員課人事係のC2
7、C28の両名が教育長室内の看視管理支援のために同室に入つて来た。被告人
B1らはこれを見て、同人らに対し、「お前ら関係ないやないか。部屋から出
ろ。」と言いながら、同人らを押し返そうとし、C28の手を持つなどしていたの
で、企画労務係のA10係員がC28の左手をつかみ、被告人B1らに対し「無茶
するな。」と言いながら、C28をA10係員らのいる教育長机の南側付近に引き
込み、C27もこれに続いたところ、被告人B1はA10係員から制止されたこと
に激高し、同人に対し、「お前は黙つておつたらいいんや。」と怒号しながら、教
育長机の東南角付近に北向きに立つていた同人に近寄り、同人の右の方から右手で
同人の右肩付近を持ち、左手を同人の脇復辺りに入れて同人を右前方に向けて勢い
よく振り飛ばす暴行を加え、同人は約二メートルの位置(ソフアー北側)に立つて
いた被告人B5にぶつかつた。
 (八) その後、被告人B1がA32庶務係長に対し、C24教育長を早く探し
て呼んで来い、と言い、同人が教育長室を出て行つたあと、組合員らが口々に、
「われわれは保守反動に一七年間苦しめられた。市長が代わつたのだから態度を変
えろ。」、「態度を変えんとお前ら首にしたる。」、「ギロチンにかけたる。」な
どと暴言を吐いたので、前記企画労務係のA31がたまりかねて「失礼なことを言
うな。あなた方はそんな無茶なことを言いにここへ来られたのか。」と大声で反論
したところ、組合員らから、「生意気な奴や。やめてしまえ。」、「今に、みんな
今まですみませんでしたと言つて謝らしたる。」など同人を非難し、被告人B5も
A31から反論されたことに激高し、教育長机の南側にいた同人の背後から、その
首筋を持つて、「こうして謝らしてやるんだ。」と怒号しながら、同人の額を同机
上に敷いてあつたガラス板に、二、三回ごんごんと押えつける暴行を加え、同人が
右横を向いて「あほなことやめときいな。」と言うと、同被告人が手を引いた。
 (九) しばらくして、A10係員が「こんな先生に教えてもらう子供はかわい
そうや。はずかしいことないか。」と言うたのに対し、組合員らから「重大な発言
や。政治的発言や。取り消せ。」などと怒号することがあつたが、A10係員から
の取消しもないまま一応おさまつた。その後、被告人B1は、さきに教育長と連絡
をとるということで教育長室を退室したA32庶務係長が戻つてこないので、A3
1に対し、早くA32を捜し教育長と連絡をとるよう要求したが、同人が容易に応
じないばかりか、同人が教育長室を出ようとして歩きかけたとき、組合員の一人か
ら「何をぼやつとしとるんや。早う行かんかい。」と言われたので、同人が「今、
行こうとしているとこや。いらんこと言うな。」と言い返したところ、被告人B3
がこれに激高して同人に近づき、「それが組合幹部に対する態度か。生意気や。」
などと怒号しながら、右手で同人ののど元をどんと一回突き、同人を後方によろめ
かせる暴行を加え、同人の掛けていた眼鏡が外れそうになつたが、同人も興奮して
「いちいちいらんこと言うもんが悪いやないか。」と言い、追いかけて来た同被告
人と対面するような形で、後ろ向きに出入口の方へ行こうとした際、同被告人が
「ごたごた言うな。ばかやろう。」と言つて、同人の首をどんと一回突き、同人を
後方によろめかせる等の暴行を加えた。
 (一〇) このようにして、鳥居主幹、A8、A10、A31の各係員は前記公
務に従事中、前記(五)ないし(九)のとおり各被告人から暴行を受け、公務の執
行を妨害された。
 以上の事実が認められる。
 右認定に反する前記被告人五名の原審及び当審における各供述、原審証人A2
2、同A34、同A35、同A36、当審証人A6、同A2の各証言は原判示第四
の事実認定に用いた関係証拠に対比し措信し難い。
 以上に認定の事実によれば、前記被告人B1ら五名は教組員約三〇名と共に教育
長室に入室し、退去要求権限のある鳥居総務課主幹ほか企画労務係員らから再三退
去要求を受けたのに、約一時間余にわたり滞留するについて意思連絡があつたこと
並びに被告人B1、同B3の鳥居総務課主幹に対する共同暴行を手段とする公務執
行妨害、被告人B1、同B2、同B3、同B4ら四名のA8企画労務係長に対する
共同暴行を手段とする公務執行妨害及び傷害、被告人B1のA10企画労務係員に
対する暴行を手段とする公務執行妨害、被告人B5のA31企画労務係員に対する
暴行を手段とする公務執行妨害、被告人B3の右A31企画労務係員に対する暴行
を手段とする公務執行妨害の各事実のあつたことが明らかである。
 弁護人の所論は、原判決が「争点に対する判断」中、原判示第四の一の「鳥居に
対する暴行を認定した理由の要旨」の項において、原審証人A30の供述内容を掲
記し、同証人の供述が極めて具体的かつ自然で、原審証人A10、同A8、同A3
1、同A32の各証言と大筋において一致することから鳥居の証言は十分信用でき
るとし、原審証人A9の鳥居が組合員から乱暴されるということは無かつた旨の証
言をもつてしても鳥居らの各証言の信用性を左右するに足りないとして、A9証言
を全く恣意的に排除しているが、右信用性があるという鳥居らの各証言は、その証
言相互間には、(1)被告人B1の鳥居に対する暴行につき、鳥居証人は右手でし
たというのに対し、A10証人は両手であるといい、(2)A31証人は鳥居の体
が移動したことはなかつたというのに対し、他の証人はこれと矛盾する証言をし、
(3)被告人B3の位置につき、鳥居・A32証人は被告人B1の左側(南側)に
いたというのに対し、A8、A31、A10証人は被告人B1の右側(北側)とい
うなど、互いに矛盾し、弁護人側の原審証人A36の証言とも相反し、到底信用す
ることができないというのである。
 しかし、所論の鳥居の証言は、その内容を検討しても、当の被害者として暴行を
受けた際の状況について具体的かつ自然な供述がなされており、ただ右証人を含め
前記A10、A8、A31、A32ら各証人の証言は、いずれも事件発生後相当の
年月を経過したのちの証言であるから、互いにある程度の差異のあることは、記憶
を喚起して供述する際避け難い事象であるけれども、被告人B1やB3の鳥居に対
する有形力行使の態様の大筋においては相符合しており、十分措信し得るものと考
えられる。なお所論のA9証言については、同証人は、原審第三九回公判(昭和四
八年七月二六日)において、「被告人B1と同B3が教育長の机の南のあたりから
鳥居に対し『お前は用がない、教育長を呼んで来い。』と言つて、後ろから同人の
肩を押しながら、又は突きながら総務課の入口へ押し出したのを、私はついたての
西側付近に立つておつて、そのそばを押されながら出て行かれたのを見ているが、
押し出される最初からは見ておりません。」と供述しているから、原判示第四の一
記載の暴行状況自体は目撃していない可能性はあるものの、右目撃状況は全体の事
態の推移と無関係ではなく、むしろ自然の成り行きともいえるもので、証人鳥居ら
の供述の信用性を減殺するものとは到底評価し難く、原審証人A36、同A34の
各供述は右鳥居らの各証言に比照し、いずれも不自然であり、殊更真相をわい曲し
ている感を免れず、信用し難い。前記所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、原判決が「争点に対する判断」中、原判示第四の二の「A8に
対する傷害を認定した理由の要旨」の項において、原審証人A8の供述内容を掲記
し、右供述は極めて具体的かつ自然であるうえ、診断書の記載や医師に対する訴え
とも符合し、鳥居証言と暴行の主体、順序、その態様にわたつて細部までよく符合
し、A9、A31、A10、A32の各証言とも大筋において一致しているなどと
してA8証言の信用性を肯定しているのであるが、しかし、A8証言と鳥居、A
9、A31、A10、A32の各証言との間にはくい違いがあり、医師の診断もA
8の虚偽の受傷の訴えに基づくものであり、三月一五日当初からの風邪の症状を見
落としており、A8の休養はその殆んどすべて風邪によるものであり、右の各証言
は、右のようなくい違いや当時組合役員ではなかつた原審証人A35の証言に照ら
しても、信用性がないというのである。
 しかし、A8証言と鳥居らの各証言との間にくい違いがあるとして所論が指摘す
る点はこまかい点に関するもので、その程度の差異があることはやむを得ないとこ
ろであり、A8証言を含む鳥居らの各証言内容を検討してみても、原判決が適切に
説示するとおり、右各証言は十分信用することができる。なお、所論は医師の診断
はA8の虚偽の受傷の訴えに基づくものであるというが、右各証言及び原審証人A
33医師の証言に徴し到底そのような事情は認められず、また右医師の診断は当初
からの風邪の症状を見落としているというが、さきに認定したとおりA8が悪感、
発熱等の症状を自覚したのは当日診察を受けて帰宅したのちのことであつて、それ
まで風邪の症状の自覚もなかつたところからA33医師の診察を受けた際にはその
訴えもしなかつたもので、その後三月三〇日にA33医師の二度目の診察を受けた
際、打撲傷についてなお約一週間の安静加療を要するとの診断を受け、その治療を
受けるとともに、体温及び咽喉の症状から風邪と診断されたことが明らかであり、
したがつて、当初風邪の診断をしなかつたということから打撲傷の診断まで虚偽の
訴えに基づく誤つたものとはいえず、原判決が右三月三〇日にA33医師が風邪と
診断した事実を考慮に入れて、本件暴行による安静加療期間を検察官主張の約三週
間とは認めず約一五日間と縮少認定したのは相当である。また、所論の原審証人A
35の証言は前記A8らの各証言により認められる本件当時の状況の推移に照らし
不自然であり、右各証言の信用性を左右するには足りない。所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、原判決が「争点に対する判断」中、原判示第四の三に関する
「A10に対する暴行を認定した理由の要旨」の項において、原審証人A10の供
述内容を掲記し、右供述は具体的かつ詳細であるうえ、当時被告人ら多数の組合員
が企画労務係員らから何度も退去要求を受けているにもかかわらず、これを無視
し、右鳥居、A8に対し順次判示のとおりの暴行を加えるなど極めて険悪かつ異常
な状況にあつたことからすると、応援要員の投入という事態を知つた被告人ら組合
員としては応援の教職員課のC28、C27の両名を教育長室から無理にでも押し
返そうとするのがむしろ自然かつ合理的であると解され、しかも、証人A31は、
本件暴行に至る経過、暴行の際の被告人B1とA10の位置、暴行の態様、暴行の
結果右A10が飛ばされてソファー北側にいた被告人B5につき当つたことなどに
ついて、右A10の証言とほぼ一致した供述をしており、証人A9もほぼこれと同
趣旨の証言をしていることなどをあわせ考慮すれば、右A10の証言は十分信用で
きる旨説示しているが、被告人らとしては教育長への連絡方を要求していたもので
あつて、C28、C27のC4委職員を追い出す意図はなく、その行動もしていな
いから、右両名を室内から押し返そうとするのが自然かつ合理的とは解されないの
みならず、暴行の契機、暴行態様及びその結果等においてA31証言はA10証言
と矛盾するか、少なくともA10証言を裏付けておらず、A9証言もA10証言と
明らかに矛盾しており、右A10の証言を含めA31・A9らの各証言は右のよう
なくいちがいのあることや、右暴行を否定する原審証人A36の証言に照らし信用
性がないというのである。
 しかし、所論のように暴行の契機、暴行の態様及びその結果等において目撃者で
あるA31証言は、当の被害者であるA10証言と比較すれば一部不一致の部分や
不分明な部分があり、A10証言の方が詳細かつ臨場感に富んでいることは否定で
きないが、これは両者の立場を考慮すればやむを得ないものと考えられるし、両証
言は大綱において符合しており、A31証言はA10証言の信用性を補強している
といつて過言ではなく、A9証言もA10証言と比較すれば詳細さの点で劣ること
は否めないけれども、両証言も大筋において一致しているものであり、右各証言
は、十分信用することができる。これに対し原審証人A36は、加害者はA10
で、被告人B1の方が被害者である旨供述しているが、事態の推移に照らし不自然
であり到底措信し難い。
 所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、原判決が「争点に対する判断」中、原判示第四の四に関する
「被告人B5のA31に対する暴行を認定した理由の要旨」の項において、原審証
人A31の供述内容を記載し、右供述は極めて具体的かつ詳細であり、当時の非難
攻撃の続く険悪異常の状況下から考えて自然なものであるうえ、証人A10、同A
9もほぼ同趣旨の証言をしていることからすると、右A31の証言は十分信用でき
るといわなければならず、そうすると、本件有形力の行使の程度は、単に右A31
の身体を前へ少し倒す程度にとどまらず、同人の額をその意に反して机上のガラス
板に二、三回も押しつけたもので、かなり強い力で行われたことが認められるうえ
に、多数の組合員の眼前で同人らに謝罪するかの如き姿勢をとらせたもので、相当
侮辱的な行為であつたと解されることをもあわせ考慮すれば、本件行為が、ほんの
数秒という瞬間の出来事であつて、被害者が特段の痛みを感じない程度のものであ
つたとしても、社会的に是認される範囲を逸脱した不法な有形力の行使に該当する
ものと評価せざるを得ない旨説示しているが、被告人B5がその左隣にいたA31
に対し、同人の横柄、不誠実な対応を注意する座興に「君らなあ、そんなこと言う
ておつたら、そのうちあやまらんならんようになるよ。」と言いながらA31の肩
に後ろから左手を軽く当てて、同人の身体を前へ少し倒すような行為をとつたのみ
で、それを目して暴行を加えたといわれる筋合はないことはA31証言を全体的に
考察し、被告人B5の供述に徴し明らかであるというのである。
 しかし、A31証言は臨場感にあふれ、迫真的かつ自然であつて、真実体験した
者でなければ供述できない真しな内容の供述と評価しうるものであり、証人A1
0、同A9も同趣旨の証言をしていることをも併せ考慮すると十分措信できると考
えられる。そして、右A31証言により認められる被告人B5の有形力行使の程度
は、原判決が適切に説示するとおり、社会的に是認される範囲を逸脱した不法な有
形力の行使に該当するものといわなければならない。被告人B5は原審においては
本件有形力の行使について具体的に供述しておらず、当審においてこれについて供
述してはいるものの、実態をわい小化して供述している趣きが強く、そのまま採用
することはできない。所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、原判決が「争点に対する判断」中、原判示第四の五に関する
「被告人B3のA31に対する暴行を認定した理由の要旨」の項において、原審証
人A31の供述内容を掲記し、同証人の供述は、同証人自身が組合員らとの応答の
際に挑発的とも解される言葉を発した点を認めるなど具体的かつ詳細なものである
うえ、証人A9、同A10も右A31と同趣旨の証言をし、とくに、右暴行によつ
てA31の眼鏡が外れそうになつたとの本件における特異な状況についても一致し
て供述していることに加え、当時教育長室が相当険悪な状況にあり、被告人らが企
画労務係員らに対し、順次判示のとおりの暴行を加えていた点をもあわせ考慮すれ
ば、右A31の証言は十分信用できるといわなければならない旨説示するが、A3
1、A9、A10の三証言の内容については、眼鏡の点、暴行の態様、暴行の回数
及び暴行の場所的位置について看過できないそごがあり、それぞれの信用性は薄弱
であるというほかない。本件の実態は、被告人B1らに言われ、A32がどうなつ
たかを見てくるため、A31が退室途中、「教育長に連絡したつて、教育長が会う
はずがない。」と言つたのに対し、被告人B3が近寄つて注意したに過ぎず、およ
そ同被告人がA31に対し暴行を働く動機、理由はもとより、その必要も全くない
わけであるというのである。
 しかし、さきに(九)において認定した事実関係によれば、被告人B3がA31
に対し暴行を加えた動機、理由等もそれなりに了解可能であり、またA31、A
9、A10の三証言の内容については、暴行の態様等について若干そごするところ
があるけれども、基本的部分については合致して矛盾する点が見当たらず、原判決
が適切に説示するとおり、右三証言の信用性を肯認するに十分であり、被告人B3
が原判示第四の五のようにA31に暴行を加えたことは明らかである。所論は採用
し難い。
 弁護人の所論は、企画労務係らには退去を命ずる権限はない旨主張するが、この
点については、さきに(二)に認定した事実によれば、鳥居総務課主幹のほか、同
課企画労務係らは、教育長からの特命により退去要求をする権限を有していたこと
が認められるから、所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、被告人らが本件当日教育長室へ赴いたのは、その前日の一四日
のa分室における人事主事との交渉(原判示第三の事実)の結果、教育委員長の三
月八日の市議会における教職員の人事異動に際しては本人の希望を尊重したい旨の
答弁の趣旨が人事主事に伝わつていないことが明らかとなつたため、教育長に対し
三月一日付要求書と基本的に同一内容である右答弁の趣旨を人事主事らに徹底させ
るよう要求しようとしたものであつて、右の事項は適法な交渉事項であり、事柄が
緊急の必要性のあつたがため予備交渉を経る時間的余裕もなかつたもので、「当
局」である教育長としても、誠実にこれに対応すべき責務があつたものである。か
ように、被告人らの行為は、憲法及び地公法により認められた団体交渉権の行使と
いう正当な目的に出たものであり、その入室の態様も整然としており、教育長の不
在を知つた後は、鳥居主幹、A8ら企画労務係員らに対して教育長への取次ぎを求
めて交渉の申入れをしたのに、右の者らが不誠実な対応をして教育長への取次ぎを
拒否したため、同室に滞留する結果となつたものの、その滞留時間も比較的に短時
間であり、入室した被告人らの人員も、以前に教育長室での交渉の際に認められて
来た人数であるから、被告人らの入室及び滞留行為は正当なものであつて、企画労
務係員らの退去要求は不当であるから、被告人らの行為は不退去罪を構成しない。
なお、原判決は、「争点に対する判断」中、判示第四についての二の「不退去及び
公務執行妨害等に関する弁護人の正当行為等の主張について」の項において、「予
備交渉を経ていないこと」、「員数があらかじめ取り決められていないこと」を根
拠に教育長への申入れ行為を「不適式なもの」と断定し、「三月一三日に予備交渉
を持つている事実があり」「当時、予備交渉自体を持つことが不可能なほど差し迫
つた段階にあつたとは考えられない。」ときめつけているが、三月一三日の予備交
渉については、当初は交渉をどのようにして行うのかということが話し合われるこ
ととなつていたにもかかわらず、C29総務課長が出て来て、「教育委員会におい
て検討した結果、人事問題は管理運営事項であるから、それについて交渉はできな
い。」と一方的に答え、予備交渉そのものを持つこと自体が不可能な状態になつて
いたものであると同時に、当局が交渉を持とうとしないのであるから、あらかじめ
員数の取決めができない情況にあつたものであつて、この点において、原判決は基
本的な誤りをおかしているというのである。
 しかし、被告人らが本件当日教育長室へ赴いたのは、前記(一)に認定したとお
り、C4委の進めている人事異動案の作成作業が教職員の意思を無視した不当なも
のであるとして、教育長に抗議し、本人の意思を尊重するように要請する目的に出
た組合の活動であるが、その入室の態様自体、前記(一)の市庁舎四階中央踊り場
におけるC4協の「不当人事粉砕総決起集会」の直後に、あらかじめ何ら連絡する
こともなく総務課係員の取次ぎを経ないまま、「C24いるか。」と言いながら、
総務課室を経て、機密を要する書類が机上に置かれている教育長室に大挙して入室
したものであることからすれば、右要請の目的は要請にとどまるもので、地公法五
五条にいう交渉の申入れをする目的であつたものとみるには疑問があるところであ
る。しかし、これを教育長との交渉を申し入れたものと解しても、右のような事項
は地公法五五条三項にいう管理運営事項であつて交渉の対象とすることができない
ものであることはさきに説示するとおりである。人事異動の問題が、もともと管理
運営事項であることは、それまでにC4委側から組合に対し繰り返し伝えて来てい
たものであり、所論のC13教育委員長の三月八日の市議会での答弁においても、
同委員長は、「人事異動は、個々の教職員にとつては色々な影響のある問題である
ので、個々の教職員から提出された詳細な希望書を基にして、できる限りその希望
を取り入れ納得のいくような異動をしたいというのが、われわれの本心であるが、
しかし、希望を集めてみると、その希望があるところに集中していたり、児童生徒
数の変動が激しく中学校の先生がうんと余り、小学校では反対に足らなくなるとい
う現在のような時期においては、希望どおりでは円満な教員の組織ができないとい
う実情にあるので、各学校の教育力の均衡、適材適所を考え、教職員に異動して頂
くようお願いするつもりである。…組合との交渉の問題であるが、人事異動の問題
は法の上で人事管理の問題であるので、どうかわれわれ教育委員会におまかせ頂き
たい。」旨述べており(なお、同委員長が所論のように「人事異動は本人の希望を
尊重したい」とのみ述べているものでないことは、右答弁内容から明らかであ
る。)、このことは組合の役員である被告人らにおいて十分知つていたはずであ
る。したがつて、被告人らにおいて人事異動が交渉の対象事項である勤務条件に該
当するとの見解の下に交渉を申入れたものとしても、それはもともと交渉の対象と
することができないものをあえて交渉事項とするものであつて、不適法な申入れで
あるから、教育長としてはこれに応ずる義務はないのである。仮に被告人らの申入
れが、人事異動の結果によつて生ずる教職員の一般的な勤務条件を交渉事項とする
ものであるとするならば、さきに説示のとおり予備交渉の手続を経なければならな
いものであるのに、これを経ないで約三〇名もの多数で押しかけ教育長に交渉を求
めることは不適法であることは明らかであり、また、地方公務員である被告人らに
所論のような憲法二八条の団体交渉権が当然には保障されているものでないこと
は、さきに説示のとおりであるから、被告人らの申入れが不適法である以上、憲法
上も教育長において被告人らの申入れに応ずるべき義務がないことはいうまでもな
いところである。そして、入室の態様は、約三〇名もの多数の組合員と共に、教育
長室の看視管理に当たつていた鳥居総務課主幹及び企画労務係員らの制止を無視し
て強引に入室したもので、所論のような整然とした入室とはいえるものではなく、
他方、C4委当局としては、本件前日に被告人らを含む多数の組合員らがa分室に
押しかけ、人事主事を長時間にわたり追及した事態があつたことから、このような
事態の再発を避けるための措置をとることはやむを得ないものというべきであり、
被告人らが教育長室に大挙入室した際には、現に教育長は不在で、その事務机の上
には機密を要する書類が置かれ、これが外部の者の目に触れると教育行政上支障が
生ずるおそれがあり、しかも、このような状況下にある教育長室に、被告人ら多数
の組合員らが自由に滞留することを本人である教育長が承諾し、許容するはずもな
いことから、鳥居主幹及び企画労務係員らが教育長室の看視管理の必要上、被告人
らに対し退去を要求し、被告人らがこれに応じないのみか鳥居らC4委側の職員に
ばり雑言を浴びせ、暴力を加えるなどの事態となつたので、引き続き再三退去要求
をしたものであつて、右退去要求はもとより正当な理由があり、反面、被告人ら
は、教育長の不在中に教育長室に立ち入り、前記鳥居らから退去要求を受けたにも
かかわらず、退去せず一時間余りも同室に滞留し喧騒を極めたものであつて、不退
去につき相当の理由が存しないことも明白であるから、被告人らの行為が不退去罪
を構成するものであることは明らかである。所論は採用し難い。
 弁護人の所論は、判示第四の一ないし五の場合において保護されるべき公務と公
務遂行性の不存在を主張し、原判決は、「争点に対する判断」中の前記項におい
て、鳥居らの本件公務の内容は、教育長の特命に基づく教育長室内の秩序を維持す
るため、その看視管理することにあつたのであるから、単に被告人らに対し、言
語、動作によつて、退去要求をすることに尽きるのではなく、不測の事態に備える
ため、被告人ら組合員の動静を看視し、あるいは右退去要求意思を明確化し、これ
を継続させるべく、同室にとどまつていることも、その職務内容に含ませるのが相
当である。」旨説示するが、右教育長の「特命」については何らこれを肯認するに
足りる証拠の存しないことは前述したところであり、しかも、鳥居主幹や企画労務
係員らの本来的な職務は、組合との交渉を円滑に運営することであり、右職務をこ
そ第一義的に執行すべき責務を負つているにもかかわらず、この本来の公務を誠実
に執行せず、逆に組合の交渉権限という憲法や地公法で保障された権利をふみにじ
る行為が、本件の退去要求行為であつたわけであるから、このような職務は、法律
によつて保護されるべき公務とはいえない。さらに、本件で、被告人らが、鳥居主
幹や企画労務係員らに暴行を加えたとされる際、同人らが、公務の執行中であつた
か否かであるが、この点につき原判決は前示のように同人らが部屋の中に存在する
ことのみをもつて、公務の執行中といいうるという、極めて無限定な解釈をしてい
るが、鳥居は、退去要求するのではなく、組合員を無視して机上の書類の整理をし
ていたに過ぎず、A10、A31の件についてみても、同人らはいずれも退去要求
行為とは全く無関係な行為をしていたものであり、また、鳥居、A10及びA8ら
は、必ずしも看視、管理のため組合員の動静を見守つていたものでもない。とりわ
けA8係長が組合との話をうけて部屋を退出したあと、あるいは、A32係長が組
合員と話合いをしたのち、出て行つたあとは、いずれもその連絡を待つていたもの
で、企画労務係員らも、A8係長退出のあとは、全く退去要求をしていないのであ
る。しかも、本件各行為時の状況をみるとき、看視、管理とは全く無関係に、むし
ろ、不当にも交渉拒否を続ける態度に抗議をするような形で各事件が発生したもの
とされており、「職務を執行するに当り」とは到底いえない、というのである。
 しかしながら、いわゆる「特命」の存在したことについては、さきに説示したと
おりであり、鳥居総務課主幹、A8企画労務係長、A10、A31の同係員らは、
教育長室内の秩序を維持するため、その看視、管理の任に当つていたものであり、
右の公務は公務執行妨害罪にいう公務として保護されるべきものであり、また、そ
の公務の内容は、原判決が説示するとおり、正当な理由なしに室内に滞留する被告
人らに対し、言語、動作によつて退去要求をすることのほか、不測の事態に備える
ため、被告人ら組合員の動静を看視し、あるいは右退去要求意思を継続維持してい
ることを明確にするために同室内にとどまつていることも、その職務内容に属する
ものと解するのが相当である。そして、前記(四)ないし(九)に認定の事実関係
によれば、右鳥居らが右の職務を執行するに当り、当該被告人らがこれを認識しな
がら、右鳥居ら企画労務係員らに暴行を加え、右公務の執行を妨害したことが認め
られるのである。所論中、鳥居は、退去要求をしないで組合員を無視して机上の書
類の整理をしていたに過ぎないという点については、原審第五一回公判(昭和四九
年一二月一九日)において証人鳥居は「自分も西南にある教育長の机の北側で北の
方へ向つて後から入つて来る人達に相当大きな声で何度も「この部屋から出て下さ
い。」と言つたと供述しており、右供述の信用性に疑いをはさむ余地はなく、した
がつて右の所論は、証拠の裏付けを欠いており、また、その他の所論の諸点も独自
の見解を前提とし、あるいはさきに認定した事実に反する誤つた事実に基づくもの
というほかはなく、さきに説示したとおり、被告人らの教育長に対する要請が交渉
の申入れであると解しても、適法な交渉の申入れとは認められず、また、適式な予
備交渉を経ていないのであるから被告人らは企画労務係員らに対し、不在の教育長
へ取次ぎを強要する何ら正当な根拠を有しないことは明らかである。結局、公務執
行妨害罪の成立は免れないから、所論は理由がない。
 弁護人の所論は、鳥居、A8、A10、A31に対する暴行があり、その公務の
執行が妨害されたとしても、各暴行は、組合の正当な団体交渉申入れに対し、鳥居
や企画労務係員らが極めて不誠実な、しかも挑発的な態度をとり続けたことに端を
発して発生した偶発的な犯行であり、積極的な加害意思によるものではなく、暴行
は瞬間的な出来事で、その程度も軽微であり、鳥居や企画労務係員の受けた被害も
極めて軽微で、A8に対する傷害の程度も軽微であり、当該被告人らの公務執行妨
害及びA8に対する傷害の行為は実質的違法性がないというのである。
 しかし、さきに説示したとおり、被告人らの教育長に対する要請なるものが、交
渉の申入れをいうものとしても、その対象事項、申入れの態様などから適法なもの
といえず、また対象事項か人事異動の結果によつて生ずる教職員の一般的な勤務条
件を交渉事項とするものであるとしても予備交渉の手続を経ない不適式なものであ
つて、教育長においてこれに応ずべき義務がないものであることからすれば、正当
な組合活動とは認められず、その他退去要求を受けてからの滞留の態様、暴行、傷
害及び公務執行妨害の態様、程度等一切の事情を考慮しても、本件各公務執行妨害
及びA8に対する傷害について実質的違法性がないとはいえない。所論は採用し難
い。
 以上のとおりであつて、原判示第四の事実に関しては、原判決には各所論のよう
な事実誤認及び法令解釈、適用の誤りはないから、各論旨はいずれも理由がない。
 第八 弁護人並びに被告人B1の各控訴趣意中、原判示第五の事実に関する事実
誤認及び法令の解釈、適用の誤りの主張について
 各論旨は、要するに、弁護人において、原判決は、その判示第五において、被告
人B1がC4委総務課企画労務係員A31に対し暴行を加えて、その公務の執行を
妨害したとの事実を認定し、該当法条を適用しているが、被告人B1は、教職員ら
の人事問題、勤務条件に関するC4協のC4委委員長宛要求書をC4委当局に手交
する目的をもつてC4委総務課に赴いたもので、A31に対し暴行を加えた事実は
なく、したがつて、その公務の執行を妨害した事実もないのに、これを認定した原
判決は、証拠の取捨、選択、評価を誤つた結果、事実を誤認し、かつ、誤つた事実
を前提にして法令の解釈を誤り、これを適用したものであり、仮にその事実がある
としても、実質的違法性がないから、これに該当法条を適用した原判決は法令の解
釈、適用を誤つたものであつて、以上の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかで
あるといい、被告人B1において、同被告人がA31に対し暴行を加えた事実がな
く、したがつて、その公務の執行を妨害した事実もないのに、これを認定した原判
決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがある、と
いうのである。
 そこで、検討するのに、原判決挙示の対応証拠によれば、原判示第五の事実は、
優にこれを認めることができ、原判決が「争点に対する判断」の項中、原判示第五
の被告人B1の暴行及びこれを手段とする公務執行妨害を認定した理由を説示する
ところは首肯することができるのであつて、当審における事実取調べの結果によつ
ても、右認定を左右するには足りない。すなわち、右証拠によれば、
 (一) C4協では、昭和四二年四月一日付で発令された退職勧奨に応じない者
に対して行われた不当人事の取消し、組合役員に対する不当配置転換の撤回、企画
労務係の廃止、配置転換によつて改悪された勤務条件の是正、宿日直の全廃等、教
職員等の人事問題、勤務条件、更にはC4委の組織等に関する要求事項を掲げ、団
体交渉を要求する旨を記載したC4協議長B4、C6組執行委員長B6外二名名義
のC4委委員長C13あての同年四月一〇日付け要求書を作成したうえ、被告人B
1は、同月一〇日午前一一時三〇分ころ、右要求書をC4委当局に手交するため、
C4協役員のB4、B5と共にC4委事務局総務課事務室に赴いた。
 (二) 当時総務課室では、企画労務係A31と庶務係(教育次長秘書)A37
らが執務しており、総務課長C29は教育長室の西側に隣接する教育委員室におい
て、毎週月曜日に開催されるC4委事務局幹部の定例幹部会(部課長会議)に出席
していて、総務課室には不在であつた。
 (三) 被告人B1らは、黙つて総務課室のソファーに座り、A31から用件を
尋ねられるや、「お前らに用がない。C29君を呼んでこい。」と言つたので、同
人が「総務課長は定例幹部会に出席しているので、少し待つていただきたい。」と
答えたが、同被告人が「お前らには用がない。」と言つて立ち上がり、会議の席へ
行こうとした。そこで、A31は、やむなく総務課室から教育長室を経て教育委員
室へ行き、C29課長に右の経過を伝えて指示を求めたところ、同課長から、今手
が離せないから、少し待つてもらうようにとの指示を得たので、総務課室に戻つ
て、その旨を被告人B1に伝えた。ところが、同被告人は納得せず、「五分程でい
いからちよつと出てきてほしいと、もう一度C29課長に言つてくれ。」と言うの
で、同人が「非常に重要な用件なら会議を中断してでも出てくるように取り次ぐ
が、用件が分からなければ取り次ぎようがない。」と言つて、更に用件を尋ねる
と、「企画労務係を窓口とは認めない。お前らでは話にならん。」と言つて、立ち
上がり、教育長室の入口の方へ歩いて行つたので、同人は、会議の席上に入られる
のは好ましくないと考え、教育長室の入口前に立ち塞がり、「勝手に入つてもらつ
たら困る。」と言うと、同被告人が「どけどけ。」と怒号しながら同人の胸を五、
六回両手拳で突き押した。同人が「無茶をするな、暴力を振うな。」と言うと、同
被告人は「でつち上げをしゃがつて、何がこんなもの暴力や。」と言いながら、再
度二、三回同人の胸をたたいたので、同人が「これが暴力やなかつたら、何を暴力
というね。」と言い返すと、同被告人は「早う呼んでこい。」と言つて元の場所に
戻つた。同人が繰り返し用件を尋ねたが、同被告人は用件については答えず、再び
教育長室の入口の方へ行つたので、同人が前同様制止すると、同被告人は同人の頭
越しに、「C29、何しとるんか。」と言いながら、教育長室のドァをどんどんた
たいたので、背の低い同人が「無茶をするな。」と言つて両手を上げて制止しよう
としたところ、同被告人は再度両手拳で同人の胸部を二、三回突く等の暴行を加え
た。
 (四) A31は企画労務係として教職員組合の役員らが総務課を来訪した際に
はこれに応対する職務を有し(C4委事務局事務分掌細則二条・総務部総務課企画
労務係(6)参照。)、本件の際も四月一〇日付要求書を手交するため総務課長を
訪ねて来た被告人B1に対し応対する職務に従事していたものであつて、前記被告
人B1の暴行により右公務の執行が妨害された。
 以上の事実が認められる。
 右認定に反する被告人B1の原審及び当審における供述、被告人B4、同B5の
原審における供述は、原判示第五の事実認定に用いた関係証拠に対比し措信し難
い。
 弁護人の所論は、原判決が「争点に対する判断」中、「判示第五について」の項
において、原審証人A31の供述内容を掲記し、右供述は、具体的かつ詳細である
うえ、当時被告人ら組合とC4委とは深刻な対立関係にあり、とくに被告人B1は
昭和四二年三月三〇日に判示第一ないし第四の件で逮捕、勾留され、四月五日釈放
されたばかりの状況にあつたことを考慮すると、同被告人が、右A31に対し「企
画労務係は窓口と認めとらん。お前らとは話しをするつもりは一切ない。」と言つ
て、企画労務係をかたくなに無視する態度をとるとともに、右暴行に際して、同被
告人が「デツチ上げをしやがつて。」「何がこんなもん暴力や。」などと言つたと
の右A31の証言部分は、当時の同被告人の心情を如実に反映しているものと解さ
れ、同証人の作為によるものとは到底考えられないうえに、当時右A31と並んで
右ドアの前に立ら、同被告人を制止していたA37、A9は、いずれも右A31の
証言と大筋において一致する証言をしている(証拠を仔細に検討すると、証人A9
は二回にわたる教育長室出入口扉前における入室等阻止行為のうち、第一回目が終
了した後に総務課室に入室したものと考えられるし、証人A37は第二回目の暴行
について言及していないが、同証人の供述によれば、恐怖感のためよく見ていなか
つたことがうかがわれる状況が述べられているうえに、被告人B1がA31の頭越
しに扉をたたきつづけ、その間にA31の胸を突いたという状況であるところ、A
31、A37が共に扉を背にしており、A31の胸を突いたことが当然に目撃され
る関係でもないことから、同証人が第二回目の暴行に言及していないことをもつて
暴行の存在を否定する根拠とはなし得ない。)ことをもあわせ考慮すれば、右A3
1の証言は十分信用できるといわなければならない旨説示しているが、A31証言
は矛盾が多く、不自然であり、かつ、断片的であり、被告人らとの会話についての
供述内容も定型化していて迫真性を欠いており、それらはC29課長の会議が終り
かけであることも、いつになつたら会えるかということも被告人らには言つていな
い旨のA9証言と対比すれば明らかであり、被告人B1に二回にわたつて暴行を受
けた旨供述するA31証言は、同被告人が教育長室のドアの前に行つたのは一回で
あるとするA9証言や、あるいは二回であるが、二回目のときは暴行は何もなかつ
た旨供述するA37証言とも矛盾する。要するにA31証言は作為的で措信できな
いのに、原判決の証拠評価は全く恣意的であり、採証法則に違反しているというの
である。
 しかし、関係各証拠によれば、被告人B1らが持参した四月一〇日付要求書の内
容は、主として四月一日付で実施された人事異動の不当な部分の是正等を要求する
ことが主要な一内容であつたから、右要求書の内容の一部は明らかに管理運営事項
に関するもので、交渉の対象たりえないものも含んでいたうえ、およそ会議中の総
務課長を呼び出してもらうためには、まず用件を伝えることが社会的常識と解され
るから、用件を伝えないまま即時同課長との面接を要求されても、企画労務係とし
ては会議の進捗状況如何にかかわらず、先ず来意の目的の説明を求める事は当然で
あると考えられるので、A9証人が言う被告人B1らに右会議の進捗状況を伝えな
かつたことをもつて、それほど非難すべきこととは解されず、被告人B1から二回
にわたつて暴行を受けた旨供述するA31証言は、同被告人が教育長室の前に行つ
たのは一回であるとするA9証言と矛盾するという点は、A9証人は右のような証
言はしておらず、証人A9は原判示の二度目の暴行の目撃状況を供述しているにと
どまり、それは原判決が説明するように同人は定例幹部会に出席して会議の記録を
とつていた関係上、二回にわたる教育長室出入口扉前における入室等阻止行為のう
ち、第一回目が終了した後に総務課室に入室したためであると推測するのが相当で
あり、被告人B1が教育長室のドアの前へ二回行つたが、二回目のときはA31は
何ら暴行を受けていなかつたというA37証言の点は、同証言はそのような趣旨の
ことまで供述しておらず、ただ第二回目の際は恐怖感のため必死でドァを持つてい
たと供述しているのであるから、原判決が同証人は恐怖感のため第二回目の暴行を
よく見ていなかつたものとうかがわれると説示しているのは合理的であり、A31
証言はA9証言及びA37証言と矛盾するとはいえず、A31証人の供述内容は自
然かつ合理的であり、臨場感にもあふれていて十分措信できる。所論は採用できな
い。
 弁護人の所論は、被告人B1の行為が公務執行妨害に当たるとしても、同被告人
が四月一日付で行われた不当人事の撤回、その他勤務条件等に関する要求事項を掲
げ、団体交渉を要求する旨を記載した四月一〇日付のC4委委員長あて要求書をC
29総務課長に手渡すという教職員組合の正当な団体交渉申入れ行動の一環として
なされたもので、A31係員の不誠実な応対、態度が原因となつてなされたもので
あり、その有形力の行使の程度は極めて軽微で、被害法益も極めて軽微であり、実
質的違法性がない、というのである。
 なるほど、所論の四月一〇日付要求書の内容は、前記(一)に認定のとおり、主
として四月一日付で実施された不当人事の取消し、撤回等、いわゆる管理運営事項
に関するもので交渉の対象とすることができないものがあるけれども、一見交渉の
対象となる勤務条件に関するものも含まれており、この点を交渉事項とする限り
は、交渉の申入れは適式といえると思料される。しかし、被告人B1らがC29総
務課長に面会を求めた際は同課長は定例幹部会に出席していて総務課室には不在て
あつたのであり、しかも同被告人らはあらかじめ何の連絡もなく来室したのである
から、前段にも説示したとおり会議に出席中の総務課長を呼び出してもらうために
は、窓口となつている企画労務係に来意の目的ないし用件を伝えることが社会的常
識であり、企画労務係員においてそれをたずねるのも当然であり、前記(三)に認
定のA31係員の応対態度をもつて、不誠実であるとか、面会要求を妨害しようと
したものとは認め難いほか、被告人の犯行の罪質、目的、態様、暴行の程度、侵害
された法益の程度等、一切の事情を法秩序全体の見地から考慮しても、本件公務執
行妨害について実質的違法性がないとはいえない。所論は理由がない。
 以上のとおりであつて、原判示第五の事実に関しては、原判決には各所論のよう
な事実誤認及び法令の解釈、適用の誤りはないから、各論旨はいずれも理由がな
い。
 第九 結論
 よつて、本件各控訴はいずれも理由がないから、刑事訴訟法三九六条によりこれ
らを棄却し、当審における訴訟費用の負担につき同法一八一条一項本文、一八二条
を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 尾鼻輝次 裁判官 木村幸男 裁判官 近藤道夫)

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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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