弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を禁錮参月に処する。
     原審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人山田清壱提出の控訴趣意書記載のとおりであるからここ
にこれを引用する。
 右控訴趣意第一点(事実誤認)について。
 所論は、被告人は本件事故発生当時酒に酔つては居らず従つて正常な運転ができ
ない虞があるにかかわらず運転したものではなく、正常な運転をなしたものであ
り、又本件発生は被告人の業務上過失に基因するものではないから本件は無罪たる
べきものである。しかるに、原判決が有罪と認定して被告人を道路交通取締法違反
罪並びに業務上過失致死罪に問擬したりは事実を誤認したものであるというにあ
る。
 しかし、原判決挙示の各証拠を綜合すると、被告人は原判示の本件事故発生当時
酒に酔い正常な運転ができない虞があるにかかわらず、貨物自動車を運転し無謀な
操縦をしたこと、右無謀な操縦をしなお原判示のような注意義務を怠り、因つて業
務上過失により、Aに原判示の傷害を負わせ死亡するに至らしめたことを充分に認
めることができる。原審第二回公判調書中証人Bの右認定に反する供述記載は、原
判決挙示の証拠に徴しこれを措信するに足らず、その他記録を精査するも、原判決
には事実誤認が認められないから、論旨は理由がない。
 <要旨>職権を以つて調査するに、原判決の(一)に、「被告人が酒に酔つて正常
な運転ができない虞があつたに拘らず札幌市ab丁目C店前から同市cd丁
目D店前まで貨物自動車を運転し以つて無謀な操縦をし」と判示された自動車運転
の行為は原判決の(二)に「前記D店前附近路上を時速三十粁にて東進中」と判示
されている運転行為に継続したもので右両者は前後一体をなした一個の自動車運転
行為であることは、判文上明白である。而して原判決は、判示(二)において「被
告人は当時酒に酔つていたせいもあつて、之等の義務を怠り」と判示しているとお
り、被告人が無謀な操縦をしたことが事故発生の一原因と認定しているのである。
然らば「被告人は酒に酔い正常な運転ができない虞があるにもかかわらずこれを認
識しながら、自動車を運転し以て無謀な操縦をすると共に、右のように無謀な操縦
をするにおいては、事故を発生する虞があるにもかかわらず、不注意にも漫然これ
なきものと軽信して、自動車を運転した過失と、前認定の業務上過失とが、競合一
体をなして、本件事故を発生したものである故、行為は一個であるが無謀な操縦と
業務上過失致死とは法律的価値を異にし、前者は道路交通取締法違反罪に、後者は
業務上過失致死罪にそれぞれ触るるものであり、すなわち一個の行為にして二個の
罪名に触るる場合である」から、刑法第五十四条第一項前段第十条により、重い後
者の刑に従い処断すべきものであるところ、原判決が右二罪を同法第四十五条前段
の併合罪として処断したのは、法令の適用を誤つたものというべく、その誤は判決
に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れな
い。 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条により原判決を破棄し同法第
四百条但書に従い当審において更に判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は、運転免許を受けた普通自動車の運転者であつたところ、昭和二十八年
九月十九日夜十一時過頃、酒に酔い正常な運転ができない虞があるにもかかわらず
これを認識しながら、札―E号貸物自動車を運転し札幌市ab丁目C店前より空知
郡e町字f方面に向け時速約三十粁にて東進中、同夜十一時二十五分頃同市cd丁
目D店前附近路上において、約十米の間隔を距てて前進していたBの運転するジー
プを追越そうとしたが、該道路は、幅員約十四米(舗装部分は約七、七米)の直線
道路で、その両側には人家が櫛比し当時は深夜に近く人車の交通が少かつたとはい
え、なお若干の通行人のあることは充分予測し得る市街道路であるから、自動車運
転者としては、かかる箇所で前車を追越そうとする場合には、警音器を鳴らす等の
方法により前事並びに通行人に合図をするのは勿論、前方、左右の交通状況を注視
して交通の安全を確認した上、追越すよう細心の注意を払い最も安全な運転をなし
て、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにかかわらず、これを
怠り、先行のジープのみに気を取られ殊に、前方を充分に注視せず、且つ警音器も
鳴らさず、ジープの右側より追越すべくハンドルを右に切り道路の右端を進行し始
めた際、A(当時十九年)が前方を歩行しているのを発見するを得ず、なお、前記
のように酒に酔い正常な運転がで昏ない虞があるにかかわらず、運転したため、自
己の操縦する自動車を同人に激突して地上に顛倒させ、因つて同人に対しその頭
部、前額部裂創及び脳膜出血の傷害を負わし、同所附近において、間もなく死亡す
るに至らしめ、以て無謀な操縦をすると共に業務上過失に因り人を死に致したもり
である。
 (証拠の標目)
 原判決拳示のとおりであるからここにこれを引用する。
 (法令の適用)
 法律に照すと、被告人の判示所為中無謀な操縦をなした点は、道路交通取締法第
二十八条第一号第七条第一項罰金等臨時措置法第二条に、業務上過失致死の点は刑
法第二百十一条前段同措置法第二条第三条に、それぞれ該当するところ、右は一個
の行為にして、二個の罪名に触るる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段第
十条により、重い後者の罪の刑に従い、所定刑中禁錮刑を選択し、その刑期範囲内
において、被告人を禁錮三月に処し、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法
第百八十一条第一項本文に従い、被告人の負担とすることとし、主文のとおり判決
する。
 (裁判長判事 熊谷直之助 判事 水島龜松 判事 臼居直道)

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