弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       1 上告人A1の上告を棄却する。
       2 原判決中上告人A2,同A3及び同A4
         に関する部分を破棄し,第1審判決中同部分を取り
         消す。
       3 被上告人の上告人A2に対する訴えを却下し,
         被上告人の上告人A3及び同A4に対する請
         求を棄却する。
       4 上告人A1の上告費用は同上告人の負担とし,
         その余の上告人らと被上告人との間で生じた訴訟の
         総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 第1 本件の事実関係の概要等
 1 本件は,徳島県(以下「県」という。)の住民である被上告人が,県議会の
議員及び事務局職員が第49回全国都道府県議会議員軟式野球大会(以下「本件野
球大会」という。)に参加するために行われた旅費の支出は違法であると主張して
,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)
242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,① 議会事務局長の職にあった
上告人A2及び議会事務局次長兼総務課長の職にあった上告人A3に対して,同号
所定の「当該職員」に該当するとして旅費総額相当の損害賠償を,② 議員の職に
あった上告人A1及び議会事務局総務課長補佐の職にあった上告人A4に対して,
同号所定の「怠る事実に係る相手方」に該当するとして旅費総額相当の不当利得又
は損害賠償の返還を,それぞれ求めた事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 全国都道府県議会議員軟式野球大会(以下「全国野球大会」という。)は
,昭和24年以降,国民体育大会(以下「国体」という。)に協賛する趣旨で,そ
の開催都道府県において,毎年国体の時期に合わせて開催されてきた。全国野球大
会に参加した都道府県は,第1回大会には19都県であったが,同62年の第39
回大会にはすべての都道府県議会が参加するようになり,県議会も,同27年の第
4回大会以降,同52年の第29回大会を除くすべての大会に参加してきた。
 (2) 本件野球大会は,全国都道府県議会議長会及び大阪府議会が主催し,大阪
府,大阪市,堺市,八尾市がこれに協賛して,「第52回国民体育大会(なみはや
国体)に協賛し,あわせて議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図り,地方自治
の発展に寄与する」旨の目的の下に,平成9年8月23日から25日までの3日間
,大阪市内等で開催された。本件野球大会には,全国47都道府県議会から議員1
400人余りが参加し,県議会からは議員26人が参加し,議会事務局職員9人が
実行委員会本部との連絡調整,用具の運搬管理,本件野球大会の記録その他補助業
務に従事するために随行した。
 (3) 当時の県議会議長は,本件野球大会の実行委員会会長である大阪府議会議
長からの開催通知を受けて参加を決定し,平成9年8月18日本件野球大会に参加
する議員26人に対して旅行命令を発した。また,上告人A3は,本来の旅行命令
権者である上告人A2が病気療養中であったため,代決により例年の随行職員数を
勘案して議会事務局職員9人に対する旅行命令を発した。
 (4) 上告人A3は,本件野球大会に参加する議員及びこれに随行する議会事務
局職員に支給する旅費合計183万2761円についての支出負担行為及び支出命
令をした。
 (5) 上告人A1は,議員として本件野球大会に参加し,旅費の支給を受けた。
上告人A4は,議会事務局職員として本件野球大会に随行し,旅費の支給を受けた。
 第2 上告代理人島内保夫,同島内保彦の上告理由について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条
1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,違憲及び理由の不備・
食違いをいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって
,上記各項に規定する事由に該当しない。
 第3 職権による検討
 法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは,当該訴訟において適否が問
題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている
者及びその者から権限の委任を受けるなどして上記権限を有するに至った者をいう
ところ(最高裁昭和55年(行ツ)第157号同62年4月10日第二小法廷判決・
民集41巻3号239頁参照),県においては,議会に係る旅費の支出負担行為及
び支出命令は,議会事務局の総務課長が専決するものとされており(徳島県事務決
裁規程(昭和42年徳島県訓令第160号。平成9年訓令第13号による改正前の
もの。以下「決裁規程」という。)12条,別表第三),法令,訓令等により,議
会事務局長に対し旅費の支出に関する権限が付与されていたとみるべき根拠は存し
ない。そうすると,本件においては,議会事務局長である上告人A2は法242条
の2第1項4号にいう「当該職員」に該当しないというべきであるから,同上告人
に対する訴えは不適法というほかない。したがって,原判決及び第1審判決中,上
告人A2に対する請求を認容すべきものとした部分には,判決に影響を及ぼすこと
が明らかな法令の違反があるから,原判決中上記部分を破棄して,第1審判決中上
記部分を取り消し,同上告人に対する訴えを却下することとする。
 第4 上告代理人島内保夫,同島内保彦の上告受理申立て理由第五について
 普通地方公共団体の議会は,当該普通地方公共団体の議決機関として,その機能
を適切に果たすために合理的な必要性がある場合には,その裁量により議員を国内
や海外に派遣することができるが,上記裁量権の行使に逸脱又は濫用があるときは
,議会による議員派遣の決定は違法となるというべきである(最高裁昭和58年(
行ツ)第149号同63年3月10日第一小法廷判決・裁判集民事153号491
頁参照)。
 そこで,これを本件についてみると,国体に協賛してスポーツの振興普及を図る
とともに,議員相互の交流により地方自治の発展に役立つ知識経験を得ることを目
的として開催される野球大会に議員を派遣することは,議会の権能を適切に果たす
ために必要のないものであるとまでいうことはできないが,原審は,① 本件野球
大会の内容は,単に議員が野球の対抗試合を行って優勝を競うというものにすぎず
,他の都道府県議会の議員との意見交換や相互交流等の機会は設けられておらず,
現に,地方公共団体間の連携・協力関係の形成に役立つような意見交換や相互交流
等が行われた事実はなかったこと,② 本件野球大会の公式行事として競技施設の
視察等は予定されておらず,徳島県議会チームが敗退後に実施した秋季国体の公開
競技の会場予定地である大阪ドームの視察に参加した議員は,26人中8人にすぎ
なかったこと,その他の事実を認定し,これらの事実を総合して,本件野球大会に
議員を派遣するために行われた議員に対する旅行命令及び議員に随行する議会事務
局職員に対して発せられた旅行命令にはいずれも裁量権を逸脱,濫用した違法があ
るとしたものである。この原審の判断は,是認することができ,所論引用の判例に
抵触するものではない。論旨は,採用することができない。
 第5 上告代理人島内保夫,同島内保彦の上告受理申立て理由第六について
 1 原審は,前記第1の事実関係の下において,次のとおり判断し,被上告人の
上告人A3に対する請求を全部認容し,被上告人の上告人A1及び同A4に対する
請求を一部認容すべきものとした。
 (1) 議員及び議会事務局職員に対する旅行命令はいずれも違法であるから,議
員及び議会事務局職員に支給する旅費の支出負担行為及び支出命令も違法である。
 (2) 上告人A3は,旅費の支出負担行為及び支出命令をするに当たり,それま
での慣行にとらわれることなく,通常要求される程度の注意をもってその必要性を
検討すれば,旅費の支出が違法なものであることを認識し得たにもかかわらず,こ
れを怠ったものであり,過失があったことは明らかである。
 (3) 上告人A1は,本件野球大会に参加して旅費を受領しているところ,これ
は違法な支出に基づくものであり,法律上の原因を欠くから,不当利得として,受
領した旅費相当額を返還する義務を負う。
 (4) 上告人A4は,本件野球大会に参加する議員に随行するため旅費を受領し
ているところ,これは違法な支出に基づくものであり,法律上の原因を欠くから,
不当利得として,受領した旅費相当額を返還する義務を負う。
 2 しかしながら,原審の上記判断のうち,上告人A1に対する不当利得返還請
求を一部認容すべきものとした部分は是認することができるが,その余の部分は是
認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 上告人A1に対する請求について
 【要旨1】前記第4で説示したところによれば,本件野球大会に参加することが
議員としての職務であるということはできないから,本件野球大会に参加した議員
は,法律上の原因なくして旅費を利得したものというべきである。そうすると,上
告人A1の不当利得返還義務を肯定した原審の判断は,正当として是認することが
できる。
 (2) 上告人A3に対する請求について
 ア 法242条の2第1項4号に基づき当該職員に損害賠償責任を問うことがで
きるのは,先行する原因行為に違法事由がある場合であっても,上記原因行為を前
提にしてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なもの
であるときに限られる(最高裁昭和61年(行ツ)第133号平成4年12月15
日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。
 ところで,議会がその裁量により議員を派遣することができることは前示のとお
りであるところ,予算執行権を有する普通地方公共団体の長は,議会を指揮監督し
,議会の自律的行為を是正する権限を有していないから,議会がした議員の派遣に
関する決定については,これが著しく合理性を欠きそのために予算執行の適正確保
の見地から看過し得ない瑕疵がある場合でない限り,議会の決定を尊重しその内容
に応じた財務会計上の措置を執る義務があり,これを拒むことは許されないものと
解するのが相当である。
 【要旨2】これを本件についてみると,県議会議長が行った議員に対する旅行命
令は違法なものではあるが,前記第1の2(1)及び(2)の事実関係及び原審の適法に
確定した旅行命令の経緯等に関するその余の事実関係の下において,県議会議長が
行った旅行命令が,著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地か
ら看過し得ない瑕疵があるとまでいうことはできないから,知事としては,県議会
議長が行った旅行命令を前提として,これに伴う所要の財務会計上の措置を執る義
務があるものというべきである。そうすると,決裁規程12条,別表第三に基づき
,知事に代わって専決の権限を有する上告人A3が議員に対する旅費についての支
出負担行為及び支出命令をしたことが,財務会計法規上の義務に違反してされた違
法なものであるということはできない。
 イ また,普通地方公共団体の支出負担行為及び支出命令をする権限を有する職
員の損害賠償責任については,故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当
該行為をした場合に限り責任を負うものとされている(法243条の2第1項,9
項)。そうすると,上告人A3が議員及び議会事務局職員に支給する旅費の支出負
担行為及び支出命令をしたことにつき県に損害賠償責任を負うというためには,同
上告人に故意又は重大な過失があることが確定されなければならない。ところが,
原審は,上告人A3に重大な過失があることを確定しないで同上告人の損害賠償責
任を肯定したものであるから,法243条の2の解釈適用を誤るものといわざるを
得ない。そして,前記アで指摘した事実関係に加え,上告人A3は,専決を任され
た補助職員として,議会において本件野球大会に議員を派遣することが決定された
ことを前提にして上記旅費の支出負担行為及び支出命令をしたものであることなど
,原審の適法に確定したその余の事実を総合すれば,同上告人が上記旅費の支出負
担行為及び支出命令を行ったことにつき故意又は重大な過失があったということは
できない。この趣旨をいう論旨は理由がある。
 ウ 以上によれば,上告人A3の損害賠償責任を肯定した原審の判断には,判決
に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決中上記部分は破棄を免れ
ない。そして,前記説示によれば,被上告人の上告人A3に対する請求は理由がな
いから,第1審判決中この請求を認容した部分を取り消し,同請求を棄却すべきで
ある。
 (3) 上告人A4に対する請求について
 徳島県議会事務局規程(昭和39年徳島県議会規程第1号。平成13年徳島県議
会規程第3号による改正前のもの。)の規定によると,議会事務局長は,議会事務
局の職員の県外出張に関することについて専決することができ(12条1号),議
会事務局長が不在のときは,議会事務局次長が代決する(8条)ものとされている
ところ,前記第1の事実によれば,議会事務局次長である上告人A3は,代決によ
り,上告人A4を含む議会事務局職員9人に対する旅行命令を発したというのであ
るから,上告人A4は,職務命令である旅行命令に従って旅行をしたものである。
 ところで,地方公務員法の規定によれば,地方公共団体の職員は,上司の職務上
の命令に忠実に従わなければならないものとされており(同法32条),上司の職
務命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り,これに従う義務を負うものと解される。
上記服務関係からすれば,地方公共団体の職員が職務命令である旅行命令に従って
旅行をした場合には,職員は,旅行命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り,当該旅
行に対して旅費の支給を受けることができ,それが不当利得となるものではない。
 【要旨3】これを本件についてみると,原審の適法に確定したところによれば,
議会事務局職員に対する旅行命令は,議会において本件野球大会に議員を派遣する
ことが決定されたことを受けて,議会事務局職員を議員に随行させ,実行委員会本
部との連絡調整,用具の運搬管理,本件野球大会の記録その他の補助業務に当たら
せるために発せられたものであるから,上記旅行命令に重大かつ明白な瑕疵があっ
たとはいえない。したがって,これに従って旅行をした上告人A4に支給された旅
費は不当利得とはならない。この趣旨をいう論旨は理由がある。
 そうすると,上告人A4の不当利得返還義務を肯定した原審の判断には,判決に
影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決中上記部分は破棄を免れな
い。そして,以上説示したところによれば,被上告人の上告人A4に対する不当利
得返還請求は理由がなく,同上告人に対する損害賠償請求に理由がないことも明ら
かであるから,第1審判決中上記不当利得返還請求を認容した部分を取り消し,被
上告人の上告人A4に対する請求を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷
 玄 裁判官 滝井繁男)

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