弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、被上告人らの上告人に対する第一審判決添付別紙第二物件目
録(三)ないし(七)の各土地に関する請求部分を破棄する。
     前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人貞家克己、同仙田富士夫、同岩渕正紀、同遠藤きみ、同村長剛二、同
仲村参郎、同冨田穰、同小山内宏、同山内敏男の上告理由について
 一〇年の取得時効の要件としての占有者の善意・無過失の存否については占有開
始の時点においてこれを判定すべきものとする民法一六二条二項の規定は、時効期
間を通じて占有主体に変更がなく同一人により継続された占有が主張される場合に
ついて適用されるだけではなく、占有主体に変更があつて承継された二個以上の占
有が併せて主張される場合についてもまた適用されるものであり、後の場合にはそ
の主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点においてこれを判定すれば
足りるものと解するのが相当である。
 しかるに、原審は、原判示第二物件目録(三)ないし(七)の土地に関し、上告人か
ら提出された、訴外Mの占有から訴外国の占有を経て訴外Nに至る占有期間中に一
〇年の時効が完成した旨の抗弁を判断するにつき、占有主体に変更があつて悪意又
は有過失の者が善意・無過失の者の占有を特定承継した場合には、前主の占有に瑕
疵のないことについてまで承継してその者が瑕疵のない占有者となるものではなく、
かつ、瑕疵のある中間者から更に占有を特定承継した者について取得時効の完成を
いう場合には、前々主及び自己の占有に瑕疵がないときであつても、瑕疵のある中
間者の占有期間を併せて主張する以上は全体として瑕疵のある占有となる旨の判断
を示したうえ、本件の場合、右にいう中間者である訴外国の占有に過失があつたこ
とを理由として取得時効の完成を否定し、上告人の右抗弁を排斥したものであつて、
前記説示に照らせば、原審の右判断には民法一六二条二項、一八七条一、二項の解
釈を誤つた違法があるというべきである。そして、右違法は、原判決中前記土地に
関し被上告人らの上告人に対する所有権確認並びに所有権移転登記手続及び引渡し
の各請求を認容した部分につき、その結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、
論旨は理由があり、右部分は破棄を免れないところ、上告人の主張にかかる最初の
占有者である訴外Mの善意・無過失の点につき更に審理を尽くさせる必要があるか
ら、右部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    吉   田       豊
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    本   林       讓
            裁判官    栗   本   一   夫

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