弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告大阪府は,原告Aに対し,330万円及びこれに対する平成16年8
月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告大阪府は,原告Bに対し,112万5000円及びこれに対する平成2
0年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告大阪府は,原告Cに対し443万7500円及びこれに対する平成2
0年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告大阪府は,原告Dに対し,318万7500円及びこれに対する平成2
0年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被告大阪府は,原告Eに対し,318万7500円及びこれに対する平成2
0年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6原告らの被告大阪府に対するその余の請求及び被告国に対する請求並びに原
告Aの被告大阪市に対する請求をいずれも棄却する。
7訴訟費用の負担については,以下のとおり定める。
(1)原告らの負担原告ら及び被告大阪府に生じた費用の4分の3並び
に被告国に生じた費用の全部
(2)原告Aの負担被告大阪市に生じた費用の全部
(3)被告大阪府の負担原告ら及び被告大阪府に生じた費用の4分の1
事実及び理由
第1請求
1甲事件
被告らは,原告Aに対し,連帯して550万円及びこれに対する平成16年
4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2乙事件
被告国及び被告大阪府は,原告D及び原告Eに対し,連帯して,それぞれ1
426万5000円及びこれに対する平成16年6月14日から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
3丙事件
(1)被告国及び被告大阪府は,原告Cに対し,連帯して1684万5000
円及びこれに対する平成16年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
(2)被告国及び被告大阪府は,原告Bに対し,連帯して1800万円及びこ
れに対する平成16年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
第2事案の概要
1事案の骨子
(1)平成16年(以下,平成16年については年の記載を省略することがあ
る。)2月16日午後8時35分頃,大阪市a区bc丁目D番所在のマンショ
ン「e」(以下「本件マンション」という。)の南側路上(以下「本件現場」と
いう。)において,当時の大阪地方裁判所所長を被害者とする強盗致傷事件(以
下「本件事件」といい,本件事件の被害者を「本件被害者」という。)が発生
した。
原告らは,本件事件に関与したとして捜査の対象となった者である。
(2)原告A(平成2年2月22日生。)は,児童福祉法(平成16年法律第1
50号による改正前のもの。以下同じ。)25条本文にいう「保護者のない児
童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童」(以下「要保護
児童」という。)として児童相談所に通告されて一時保護を受け,本件事件に
ついて取調べを受けた後,児童自立支援施設に入所することとなった。
甲事件は,原告Aが,被告大阪府及び被告国に対しては警察官及び検察官
の違法捜査を理由として,被告大阪市に対しては大阪市中央児童相談所(以
下「市児童相談所」という。)の職員が警察による違法捜査に協力したことを
理由として,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求している事案であ
る。
(3)原告B(昭和62年3月29日生。)と原告C(平成元年4月22日生。)
は兄弟であり,両名は本件事件を被疑事実として逮捕・勾留され,中等少年
院送致の決定を受けたが,後に非行事実なしとする判断が確定した。
丙事件は,原告B及び原告Cが,被告大阪府及び被告国に対し,警察官及
び検察官の違法捜査等を理由として国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を
請求している事案である。
(4)原告D(昭和49年6月20日生。)及び原告E(昭和52年10月31
日生。)は,本件事件を被疑事実として逮捕・勾留・起訴されたが,後に無罪
判決が確定した。
乙事件は,原告D及び原告Eが,被告大阪府及び被告国に対し,警察官及
び検察官の違法捜査等を理由として国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を
請求している事案である。
2前提事実(争いがないか証拠(甲1及び甲D10のほか後掲括弧内記載のも
の。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,証拠番号は特記
しない限り枝番を含む。)
(1)本件事件の発生
ア2月16日午後8時35分頃,本件事件が発生した。
イ本件被害者は,同日,被害届を提出し,同月17日及び3月19日,被
害状況に関する取調べを受け,供述調書が作成された。同被害届及び供述
調書によれば,被害状況はおおむね以下のとおりである。
本件被害者が,本件マンションの南側にある東西方向の道路を西から東
の方向へ歩いていたところ,約30m先にある本件マンションの入口付近
に,年齢16歳から17歳くらいの男4人が立ち話をしていた。この男ら
は,その後西方向に歩き始め,いったん本件被害者の右側を通り過ぎたが,
その直後,赤色の上着を着た男が後方から本件被害者にぶつかり,同人を
その場に転倒させた。赤色の上着を着た男は,本件被害者に対し,「金を出
せ」などと言い,別の男も「殺すぞ」と脅迫したため,本件被害者は,何
をされるか分からないと思い,財布からすべての紙幣(6万3000円分)
を取り出し,赤色の上着を着た男に渡した。その後,男らは,小走りで東
の方向へ逃げていった。
(以上につき,甲C1,3,4)
(2)初期捜査
ア本件事件発生後,大阪府警察本部刑事部機動捜査隊と大阪府a警察署の
合同捜査本部(以下「捜査本部」という。)が同署内に設置された。捜査本
部は,2月19日,本件現場から約71m東にある民家に設置された防犯
カメラ(以下「本件防犯カメラ」という。)を領置したところ,本件防犯カ
メラには,2月16日午後8時35分頃,4人の人物(黒色上着を着た者
2人,白色上着を着た者1人,赤色上着を着た者1人)が一団となって西
から東へ走り去る様子が映されており,捜査本部は,この4人が本件事件
の犯人であると判断した。もっとも,本件防犯カメラの映像のみからは,
犯人を特定することができなかった。(甲A1からA4まで)
イ捜査本部は,本件事件が発生した頃に本件現場付近にいた人物に関する
目撃情報について聞込み等の捜査を進めたところ,2月16日午後7時5
0分頃に本件現場近くにあるf鉄道g線h駅近くの踏切付近において恐喝
未遂事件が発生していることを把握した(甲C8,9)。当該事件の被害者
であるFは,赤色の服を着た者を含む年齢18歳から20歳までくらいの
4人組が犯人であると供述した(甲C8,9)ことから,捜査本部は,F
の供述に基づき,犯人の1人である赤色の服を着た男の似顔絵(以下「本
件似顔絵」という。)を作成した(甲B1)上,更に捜査を進めた(捜査本
部が,本件事件の犯人と上記恐喝未遂事件の犯人とが同一であると断定し
ていたのか,同一である可能性があるという程度の前提で捜査を進めてい
たのかについては争いがあるが,上記恐喝未遂事件を以下便宜上「前兆事
案」という。)。
(3)原告Aに対する嫌疑
ア捜査本部は,本件似顔絵に似た男がいないか,捜査範囲を広げつつ聞込
み捜査を行っていたところ,本件似顔絵に似た者を含む少年グループの存
在を把握し,これにより,原告A,その兄であるG,Hほか数名が捜査線
上に浮上した(なお,この間の3月10日から,捜査本部の指揮はI警部
補(以下「I警察官」という。)が執るようになった。)。捜査本部は,これ
らの少年について補導歴を確認したところ,Jを被害者とする恐喝未遂等
事件(以下「J事件」という。)の存在を把握した。J事件は,Jが,平成
15年10月,G,Hらとともに万引きを敢行してi警察署に検挙され,
その際,他の共犯者のことを供述したことから,後にG,H,原告A及び
原告Bから脅されて金品を要求される被害を受けたというものであった。
また,捜査本部が,J及びその母親に対し,本件似顔絵及び本件防犯カ
メラの映像を基に作成された写真を見せたところ,本件似顔絵及び同写真
に写った赤色服の男は原告Aによく似ているとの供述を得た。
(以上につき,甲B11,甲C179)
イ捜査本部は,J事件に関する捜査に着手し,4月26日,J事件当時1
4歳未満であった原告Aを要保護児童として市児童相談所に通告した上,
一時保護の委託(児童福祉法33条1項)を受けて取調べを開始した。さ
らに,G及びHについては,4月27日,両名を逮捕した上で取調べを開
始し,原告Bについては,関与の程度が低かったことから,この頃,在宅
で任意の取調べを開始した。(甲B11,丁2)
ウ市児童相談所においては,上記イの通告を受け,児童福祉司であるK(以
下「K職員」という。)が,同じく児童福祉司であるL(以下「L職員」と
いう。)の統括の下,原告Aを担当することとなった(丁5)。
(4)Mの取調べ
捜査本部は,原告Aが属していた少年グループやその関係者に対する事情
聴取を進め,5月初め頃から,関係者の1人としてM(平成元年6月19日
生)を任意同行し,J事件及び本件事件について取り調べたところ,同人は,
自身が本件事件に関与したと供述し,5月18日には,原告A,原告B,原
告C及び原告Eらもこれに関与していると供述した(甲C126から138
まで)。
(5)原告B及び原告Cの取調べ
ア捜査本部は,5月19日,原告Bを任意同行して取り調べたところ,本
件事件への関与を認めたため,同日,原告Bを逮捕した。また,原告Bは,
同日の取調べにおいて,原告Dが同事件に関与している旨供述した。
原告Bは,5月20日,検察官による弁解録取において,原告A,原告
B,原告C及び原告Dの4人が本件事件の犯人であり,原告Eの指示によ
り犯行を敢行した旨供述し,裁判官の勾留質問においても,被疑事実に間
違いはない旨述べた。
(以上につき,甲C60から72まで)
イ捜査本部は,5月20日,同月21日及び22日に原告Cを任意同行し
て取り調べたところ,本件事件への関与を認めたため,同日,原告Cを逮
捕した。
原告Cは,5月23日,検察官による弁解録取において,本件事件の犯
人として,原告A,原告B及び原告Dらの名前を挙げるとともに,自身も
見張りとして関与していた旨供述し,裁判官の勾留質問においても,検察
庁での弁解録取のとおりである旨供述した。
(以上につき,甲C98から107まで)
ウ原告B及び原告Cは,その後の取調べにおいても,本件事件に関与した
旨の自白を維持し(ただし,原告Cについては,見張りをしていたにすぎ
ない旨の当初の供述を撤回し,自身も実行犯であった旨供述するに至っ
た。),原告Bは6月8日に,原告Cは同月11日に,それぞれ大阪家庭裁
判所(以下「大阪家裁」という。)へ送致された。
(6)原告D及び原告Eの逮捕から起訴までの経緯
ア捜査本部は,6月14日,原告D及び原告Eを逮捕し,取り調べたが,
両名は犯行を否認した(甲C145,154)。
イ原告Cは,6月17日,少年鑑別所での取調べにおいて,本件事件への
関与をいったん否認したものの,その後再び関与を認めた。しかし,同月
22日の取調べにおいて,再び犯行を否認し,同月24日の取調べでは,
黙秘するようになった。(甲C124,200の49頁・64頁)
ウ原告Aは,6月24日から同月30日までの取調べにおいて,原告B,
原告C,原告D及び原告Eが本件事件に関与している旨供述するに至った
(甲C37から43まで)。また,原告Aは,同日,児童自立支援施設であ
る大阪市立N学園(以下,単に「N学園」という。)に入所した(丁2の8
6頁)。
エ原告Bは,7月2日,自身の少年審判において本件事件への関与を認め,
大阪家裁は,原告Bにつき中等少年院送致の決定をした(甲D1)。
オ検察官は,7月5日,大阪地方裁判所(以下「大阪地裁」という。)に対
し,原告D及び原告Eを本件事件で起訴した(同裁判所における裁判手続
を以下「刑事第1審」という。)。
公訴事実の要旨は,「被告人両名(原告D及び原告E)は,原告B,原告
C及び原告Aと共謀の上,通行人を襲って金員を強取しようと企て,平成
16年2月16日午後8時35分頃,本件現場において,徒歩で帰宅途中
の本件被害者に対し,原告Aが本件被害者の後方から体当たりして同人を
路上に転倒させる暴行を加え,さらに,被告人D(原告D),原告A,原告
B及び原告Cがこもごも本件被害者の周りを取り囲んで「金出せ。殺すぞ。」
などと脅迫してその反抗を抑圧し,同人から現金約6万3000円を強取
し,その際,上記暴行により,同人に対し,入院加療51日間,その後通
院加療約3か月間を要する骨盤骨折の傷害を負わせた。」というものであっ
た。
(7)判決等
ア原告D及び原告Eについて
刑事第1審においては,原告A,原告B及び原告Cが証人として尋問さ
れたが,いずれも自身の犯行を否認するほか,原告D及び原告Eの関与も
否定した。
大阪地裁は,平成18年3月20日,原告D及び原告Eに対し,無罪判
決を言い渡した(甲1,D13)。
検察官は,上記判決を不服として大阪高等裁判所(以下「大阪高裁」と
いう。)に控訴したが,同裁判所は,平成20年4月17日,控訴棄却の判
決を言い渡し(甲D10),同年5月2日,上記無罪判決が確定した(同裁
判所における裁判手続を以下「刑事控訴審」という。)。
イ原告Bについて
原告Bは,中等少年院送致の決定(前記(6)エ)に対して抗告したが,
大阪高裁は,9月9日,抗告棄却の決定をした(甲D2)。原告Bは最高裁
判所に対して再抗告をしたが,同裁判所は,10月21日,これを棄却し
た(甲D3)。
付添人らが保護処分取消の申立てをしたところ,大阪家裁は,平成20
年2月28日,保護処分取消決定をした(甲D8)。検察官はこれを不服と
して抗告受理申立てをしたが,大阪高裁は,同年9月17日,抗告を棄却
するとの決定をした(甲D12)。
ウ原告Cについて
大阪家裁は,平成18年3月23日,原告Cにつき中等少年院送致の決
定をした(甲D4)。これに対して付添人らが抗告したところ,大阪高裁は,
原告Cに犯人性は認められないとして破棄差戻しの決定をした(甲D6)。
差戻し後の大阪家裁は,原告Cの犯人性を否定し,不処分決定をした(甲
D7)ところ,検察官は大阪高裁に対し抗告受理申立てをした。大阪高裁
は,審理不尽との理由により再度の破棄差戻し決定をした(甲D9)ため,
付添人らはこれを不服として最高裁判所に再抗告したところ,同裁判所は,
平成20年7月11日,上記破棄差戻し決定を取り消し(甲D11),これ
により,上記不処分決定が確定した。
(8)刑事補償等
ア原告Bは,平成21年4月30日付けで,797万5000円の少年補
償決定を受けた(甲D33)。
イ原告Cは,平成21年1月29日付けで,96万2500円の少年補償
決定を受けた(甲D40)。
ウ原告D及び原告Eは,平成20年10月15日付けで,それぞれ311
万2500円の刑事補償決定を受けた(争いのない事実)。
3争点
国家賠償法1条1項にいう「違法」とは,公務員が個別の国民に対して負担
する職務上の法的義務に違背することをいう(最高裁判所昭和60年11月2
1日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。したがって,本件の
争点は,被告らに属する公務員が各原告に対する関係で上記法的義務に違背し
たと認められるか否かであり(なお,被告大阪市については原告Aに対する違
法のみが問題となる。),具体的には以下のとおりである。
(1)被告大阪府関係
ア全原告共通
捜査本部は,客観的証拠を無視するなどして原告らを対象とする捜査を
違法に継続したか。
イ原告A関係
(ア)捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告したことは別件逮捕・勾留
に準じる違法なものであったか。
(イ)市児童相談所における原告Aの取調べは任意取調べの限界を超える
違法なものであったか。
(ウ)N学園における取調べは脅迫を伴う違法なものであったか。
ウ原告B関係
(ア)原告Bの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なものであったか。
(イ)捜査本部が原告Bを逮捕し検察官に送致したことは違法か。
(ウ)少年鑑別所における原告Bの取調べに違法があったか。
エ原告C関係
(ア)原告Cに対する任意同行は実質的な身体拘束に至る違法なものであ
ったか。
(イ)原告Cの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なものであったか。
(ウ)捜査本部が原告Cを逮捕し検察官に送致したことは違法か。
オ原告D関係
(ア)捜査本部が原告Dを逮捕し検察官に送致したことは違法か。
(イ)原告Dの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なものであったか。
カ原告E関係
(ア)捜査本部が原告Eを逮捕し検察官に送致したことは違法か。
(イ)原告Eの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なものであったか。
(2)被告国関係
ア原告A関係
(ア)捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告することを,検察官が了承
したことは違法か。
(イ)原告Aが市児童相談所で長期間取調べを受けていることに対して措
置を講じなかったことは違法か。
(ウ)検察官による原告Aの取調べは違法か。
イ原告B関係
(ア)検察官が,捜査本部による原告Bの逮捕を了承し,勾留請求をし,
勾留延長請求をしたことは違法か。
(イ)検察官が原告Bを家庭裁判所に送致したことは違法か。
(ウ)検察官が保護処分取消請求手続において原告Bの犯人性を主張し,
取消決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か。
ウ原告C関係
(ア)検察官が,捜査本部による原告Cの逮捕を了承し,勾留請求をし,
勾留延長請求をしたことは違法か。
(イ)検察官が原告Cを家庭裁判所に送致したことは違法か。
(ウ)検察官が少年審判において原告Cの犯人性を主張し続けたことは違
法か。
(エ)検察官が,中等少年院送致決定に対する抗告審等で原告Cの犯人性
を主張したことは違法か。また,その後の差戻審の決定に対して抗告受
理を申し立てたことは違法か。
エ原告D及び原告E関係
(ア)検察官が,捜査本部による原告D及び原告Eの逮捕を了承し,勾留
請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か。
(イ)検察官が原告D及び原告Eを起訴したことは違法か。
(ウ)検察官が刑事第1審において公判を維持したことは違法か。
(エ)検察官が刑事第1審判決に対して控訴を提起・追行したことは違法
か。
(3)被告大阪市関係
ア市児童相談所は原告Aに対する警察の違法な取調べを違法に放置したか。
イ市児童相談所が原告Aの取調べに担当職員を立ち会わせなかったことは
違法か。
ウ市児童相談所は原告Aと保護者との面会を違法に妨害したか。
エ市児童相談所は専ら取調べ目的のため違法に一時保護期間を延長したか。
(4)損害
4争点に関する当事者の主張
別紙「当事者の主張」記載のとおり。
第3争点(1)(被告大阪府関係)に対する判断
1争点(1)ア(捜査本部は,客観的証拠を無視するなどして原告らを対象と
する捜査を違法に継続したか)について
(1)客観的・中立的証拠の無視
ア本件防犯カメラの映像について
(ア)原告らは,本件防犯カメラに映された犯人の体型に照らすと,原告
Dは犯人ではあり得ないところ,捜査本部が,こうした客観的証拠が存
在するにもかかわらず原告Dを犯人に含めた供述証拠に信用性を認め,
原告らを対象とした捜査を継続したことは違法であると主張する。
そこで,以下,本件防犯カメラの映像により原告Dの犯人性が客観的
に否定されるか否かについて検討を加える。
(イ)本件防犯カメラは,本件現場から東方へ約71メートルの地点に設
置されていたものであり,本件現場から同防犯カメラの設置地点までは
途中に分かれ道がない一本道である(甲A4)。本件事件が発生した2
月16日午後8時35分頃,本件防犯カメラによって,4人の人物が一
団となって東方へ走り去る様子が撮影されており,本件被害者の供述と
対照させると,この4人が本件事件の犯人と認められる。
しかし,本件防犯カメラの映像は鮮明なものとはいえず,そこに映っ
ている人物の身長や体型が具体的に明らかであるとはいえない。刑事第
1審の審理の過程でも,本件防犯カメラに映っている人物の身長につき
複数の鑑定書が提出されているが,それぞれ分析結果が異なり(甲A5,
7,10),原告Dの体型等とも矛盾しない旨の意見も出されていると
ころであるし,刑事控訴審で取り調べられた鑑定書によれば,本件防犯
カメラに映された4名の身長は,原告A,原告B,原告C及び原告Dの
身長と矛盾しないと推定される(甲D10)。
各鑑定書で採用された鑑定方法は何らかの仮定を施した上で本件防犯
カメラに映された人物の身長を推定するものであるから,そこに一定の
誤差が生じることはやむを得ないところであり,いずれの鑑定方法が相
当かという問題はあるにせよ,鑑定方法のうち特定のものが明らかに不
合理であると認めるに足りる証拠もない。そうすると,捜査段階で本件
防犯カメラの映像を解析していたとしても,原告らの犯人性が客観的に
否定されるとはいい難く,本件防犯カメラの映像を根拠にして,捜査本
部が原告らを対象とする捜査を継続したことが違法とはいえない。
イ本件被害者の供述について
(ア)原告らは,本件被害者が本件事件の犯人につき「年齢16歳∼17
歳くらいの高校生風の少年4人」と供述していたこと(甲C2)から,
2月16日当時,身長183㎝・体重86㎏の29歳であった原告Dが
犯人であることはあり得ないと主張する。
(イ)しかし,本件被害者は,刑事第1審においても,犯人の人相や体型
等について明確に記憶しておらず(甲C203の8・9頁),赤い上着を
着た人物が1人いたという点は確実にいえるものの,その他については
具体的に記憶していないと証言しており(同12頁),犯人が高校生くら
いの年齢であったと認識した根拠も明確なものではない(同3頁)。
このように,犯人の年齢や体型等に関する本件被害者の供述は曖昧な
ものであるから,同供述を根拠に原告Dの犯人性を否定することまでは
できないというべきである。
ウFによる面通し
(ア)原告らは,前兆事案の被害者であるFが,面通しの際,原告Aの犯
人性を否定しているにもかかわらず,捜査本部は,原告Aを犯人扱いし
続け,原告Aが犯人の一人であることを前提とする少年らの供述を信用
するに足りるものとして扱っており,違法であると主張する。
(イ)しかし,Fは,刑事第1審の公判において,原告Aの面通しをした
際の印象について尋ねられ,「似てると思いますけども,違うと思います
という言い方をしたと思います」と証言しており(甲C218の19頁),
面通しにおいて原告Aの犯人性を明確に否定したとは認められない。し
かも,Fの作成に係る本件似顔絵を見たJ及びその母親は,似顔絵の人
物が原告Aに似ている旨申し立てており(前記前提事実(3)ア),こう
した事情に照らせば,面通しの際のFの供述によって原告Aの犯人性が
明確に否定されたことにはならないというべきである。
(2)必要な捜査の懈怠
原告らは,捜査本部が,本件被害者による面通しをしなかったこと,原告
Aのアリバイ捜査をしなかったこと,自白した少年らの携帯電話の通話履歴
に関する捜査をしなかったこと,以上の点を指摘し,捜査本部がこうした捜
査を怠ったことは違法であると主張するので,以下検討する。
ア本件被害者による面通し
前記(1)イ(イ)のとおり,本件被害者は,本件事件の犯人について
明確な記憶を有していなかったというのであるから,本件被害者による面
通しを実施したとしても,犯人について有益な情報が得られたとは考えに
くいところであり,捜査機関が本件被害者による面通しを実施しなかった
としても違法とはいえない。
イアリバイ捜査
原告らは,原告Aには明確なアリバイが成立するところ,原告Aが捜査
段階においてこれを明確に主張していたにもかかわらず,捜査本部はこれ
について適切な捜査を怠ったと主張する。
そこで,以下,原告Aにアリバイが成立するか否か,捜査段階において
アリバイの成立可能性を主張していたか否かについて検討を加える。
(ア)アリバイの成否
a平成17年2月9日,刑事第1審の第14回公判期日に証人として
出頭したOは,おおむね以下のとおり証言した(甲C220)。
原告Aとは小学校・中学校時代の同級生であるところ,平成15年
12月頃,原告Aが住んでいるマンションに引っ越し,その後,原告
Aと交際するようになった。2月16日,バレンタインデーのチョコ
レートを渡すため,自宅から,原告Aと携帯電話によるメールのやり
取りをし,午後7時55分,原告Aから,「了解!もういけるわ。お
ばはんおらんから,インターホンならしてな!」というメールを受信
した。そこで,自宅を出て原告Aと会い,原告A宅の前の通路で2時
間くらい話をした。
b刑事第1審の第14回公判期日後の平成17年2月18日,O方の
捜索がされ,同人が使用していた携帯電話が押収された。当該携帯電
話に保存されていたメールデータの解析結果によれば,2月16日午
後5時57分から午後7時55分までの間に8回,同日午後9時59
分から午後10時32分までの間に4回,それぞれ原告Aの携帯電話
からOの携帯電話に以下の内容の電子メールが送信されていた。(甲
A14,19)
時刻本文
17:57ごめんなさい朝起きられへんかってん明日こそは行くわ
18:19了解なんしか,ごめんやけど,後でまたメール送るわ
19:35ちょうど,今帰って来たところ
19:38呼びに来てくれ
19:42そう
19:48悪い1分待って
19:50下か上か
19:55了解もういけるわおばはんおらんから,インターホンな
らしてな
21:59今日はどうもありがとうしかもこんな遅くまでまた,会
おな二人っきりで
22:18わかった二人っきりな今週いけたら,一緒に学校いけへ
んいけるんやったらやけどぉ
22:26まかしといてぇじゃあ,今日はゆっくり寝て明日,また
学校で喋ろぉ
22:32じゃあねおやすみぃ
このように,原告Aは,Oに対し,2月16日午後6時19分に「了
解なんしか,ごめんやけど,後でまたメール送るわ」,同日午後7
時35分に「ちょうど,今帰ってきたところ」,同日午後7時38分
に「呼びに来てくれ」との内容のメールをそれぞれ送信している。
これらのメールによると,Oが,外出中の原告Aに対して何らかの
連絡を求める旨のメールを送信し,原告Aが,午後7時35分頃,自
宅マンションに帰宅してOに連絡を取ったこと,その後,原告Aが午
後7時55分まで自宅にとどまり,同時刻にOの来訪を求める連絡を
し,午後9時59分頃には同人と別れたこと,以上の事実を推認する
ことができる。
もっとも,以上のメールのやり取りから,2月16日午後7時55
分頃に原告Aがその自宅付近でOと会った時点と,同日午後10時頃
に原告AがOと別れた時点との間,両名が継続して面談していたこと
が当然に推認できるわけではなく,原告Aが本件事件を敢行すること
は時間的に不可能ではない。一方,その間に原告AからO宛てに送信
されたメールがないことをも考慮すると,両名は,午後7時55分頃
から9時59分頃まで,継続して面談していたことが一応推認される
というべきである。そして,前記Oの証言は,こうしたメールデータ
と整合するものであるから,その信用性は高いといえるのであって,
原告Aにはアリバイが成立する可能性が高いというべきである。
cこの点について,被告大阪府は,2月16日午後8時頃から午後1
0時頃までの大阪市の気温は約5度,風速1.6∼3.7m/sであ
り(甲B25),原告AとOが会っていたというマンションの通路は,
外壁のない吹きさらしの通路である(甲B24)から,そのような気
温の低い日に,風の当たるマンション通路で約2時間にわたって話を
していたということ自体不自然であると主張するが,原告Aのような
中学生の年代の者が,寒い中戸外で長時間にわたって雑談することが
著しく不自然とはいえないから,原告Aのアリバイを否定する理由に
はなり難い。
また,被告大阪府は,Oが,原告Eの交際相手であったPから,原
告Aが警察に捕まったと5月頃に聞き,2月16日のメールデータが
残っていないか探してほしいと言われたので,前記メールデータを見
つけ,Pに見せ,わざわざ残しておいたなどと証言していること(甲
C220),これに対して,Pが,検察官の取調べにおいて,Oのメ
ールデータについて全く言及していないこと(甲C184,215)
からすると,原告AとOが2時間にわたって一緒にいたという事実経
過は事後的に創作されたものと考えるべきであると主張する。なるほ
どPが供述調書中でOのメールデータに関して言及していない理由は
明らかではない。とはいえ,それだけでは上記メールデータの客観的
な証拠価値が左右されるとはいえず,原告Aのアリバイを否定する理
由にはならない。
(イ)アリバイ主張の有無
原告Aは,5月10日頃の取調べにおいて,バレンタインの少し後く
らいにOからチョコクッキーをもらったとの話をし,アリバイが成立す
る可能性を明確に伝えたと主張する。
しかし,捜査本部は,捜査の過程で名前が挙がったG,原告B,H等
についてはアリバイ捜査を行っており,その結果,G及びHについては
アリバイの成立が認められ,捜査対象から外れている(甲C192の2
4頁,198の109頁,証人I16頁)。このことからすると,原告
Aがアリバイを明確に主張し,捜査本部がこれを把握していながら,原
告Aについてのみアリバイ捜査を行わない理由は見当たらない。
また,原告Aは,9月22日,刑事第1審公判で証人として証言した
際も,2月16日のアリバイについては証言していない(甲C194の
6頁)。この点について,原告Aは,本件訴訟で提出した陳述書におい
て,Oとのメールの存在が客観的に明らかになっておらず,それが2月
16日のことであったかもはっきりしなかったためであると供述してお
り(甲D25の20頁),Oと会った時期に関する原告Aの記憶は相当
程度曖昧であったことがみてとれる。
さらに,原告Aの母親であるQは,市児童相談所において原告Aと数
回面接しているところ(甲C217の17頁),平成17年1月23日
になって初めて,原告Aのアリバイの有無を確認する趣旨で,Oに2月
16日夜の行動を尋ねたと供述している(甲C222の1頁)。このよ
うに,Qが平成17年1月に至るまで2月16日夜の行動をOに確認し
ていないことからすると,原告Aは,平成17年1月以前には母親にも
アリバイの成立可能性を伝えていなかったと考えるのが自然である。こ
の点について,Qは,市児童相談所で面会した際にも,原告Aから,2
月16日にOと話をしていた可能性があるとは聞いていた旨供述してい
る(同4頁)が,この時点でOと面識があったと供述しながら(同頁),
同人がどこに住んでいるか分からず,特に探すようなこともしていない
とも述べており(同5頁),アリバイの成立可能性を聞かされた母親の
行動としては不自然といわざるを得ず,Qの上記供述はにわかに信用し
難い。
以上検討したところからすると,原告Aが捜査段階においてアリバイ
を主張していたことを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず,捜
査機関において,明確な主張のないアリバイを捜査する義務があるとは
いえないから,捜査本部が原告Aのアリバイ捜査を怠ったということは
できない。
ウ携帯電話の通話履歴の捜査
原告らは,獲得された供述証拠には携帯電話によるやり取りが頻繁に登
場するにもかかわらず,捜査本部は携帯電話の通話履歴等の照会をしてお
らず,そのことが原因となって原告らを対象とする捜査が不当に継続され
たと主張する。
しかし,後に入手された携帯電話の通話記録(甲B16から18まで)
からは,原告らの犯人性を否定するような記録はうかがえない。確かに,
原告Cが使用していた携帯電話の通話記録(甲B17)によると,犯行の
約6分前の午後8時29分から原告Aの携帯電話と21秒間通話している
ことが認められ,犯行直前はほぼ同一の場所にいたとする原告Cの供述(甲
C117の6頁)と整合しないのではないかという疑問を差し挟む余地が
ある。とはいえ,犯行現場付近で待機している際,近い距離にある共犯者
同士が携帯電話で連絡をとることがあり得ないとまではいえず,原告らの
犯人性を否定するほどの証拠とはいえない。
したがって,こうした通話記録の照会をしなかったことが原告らを対象
とする捜査を不当に継続させる原因となったとの原告らの主張は理由がな
い。
(3)供述の信用性評価の誤り
原告らは,捜査本部がMの供述を信用できるものとして扱い,これを根拠
に原告らを対象とした捜査を継続したことは違法であると主張する。し
かし,Mの供述には変遷がみられ,その証拠評価上の位置づけは捜査の
進捗状況によって一様ではないというべきであるから,その信用性につ
いては,個別の原告との関係で,問題となる時点ごとに判断するのが相
当である。そこで,Mの供述の信用性については,後記2以下において
必要に応じて判断することとする。
(4)原告Aに対する違法捜査
原告らは,原告Aに対する違法捜査が原因となり,結果として原告ら
全員が長期間にわたって捜査の対象とされたとして,原告Aに対する違
法捜査は原告ら全員との関係で違法になると主張する。
この主張については,原告Aに対する捜査が違法であったか否かを判
断することが前提となるから,後記2においてこれを検討した後,必要
に応じて判断することとする。
2原告A関係(争点(1)イ)
(1)争点(1)イ(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告したこと
は別件逮捕・勾留に準じる違法なものであったか)について
ア原告Aは,捜査本部が児童福祉法25条に基づき原告Aを市児童相談所
に通告し,児童相談所長に一時保護の措置を講じさせた(同法33条)こ
とが実質的な別件逮捕・勾留に当たり違法であると主張する。
イ別件逮捕・勾留とは,いまだ逮捕状・勾留状の発付を請求し得るだけの
乙事実(本件)の証拠がそろっていないにもかかわらず,専ら乙事実につ
いて被疑者を取り調べる目的で,既に証拠がそろっている甲事実(別件)
について逮捕状・勾留状の発付を受け,同事実に基づく逮捕・勾留に名を
借りて,その身体拘束を利用し,乙事実について逮捕・勾留して取り調べ
るのと同様の効果を得ることを狙いとして乙事実の取調べを行うことをい
い,このような別件逮捕・勾留は,逮捕状又は勾留状の発付を請求し得る
だけの証拠のない「本件」の取調べのために「別件」による逮捕・勾留を
利用する点で,令状主義を潜脱し違法であると解される。
ウ他方,原告Aが問題とする児童福祉法に基づく一時保護と刑事訴訟法に
基づく逮捕・勾留とを比較すると,以下のような違いがある。
(ア)逮捕状の請求は捜査機関の判断に委ねられている(刑事訴訟法19
9条)のに対し,児童福祉法25条に基づく通告は,要保護児童を発見
した者の義務とされている。それゆえ,逮捕状・勾留状を請求する場合
においては,逮捕・勾留の必要がない被疑事実についてあえて逮捕状・
勾留状を請求するといった事態が発生し得るのに対し,要保護児童を発
見した場合においては,通告の必要性がないのにあえて通告するといっ
た事態は観念できない。
(イ)逮捕状の請求を受けた裁判官は,「明らかに逮捕の必要がない」と
認めるとき以外は逮捕状を発付するとされており(刑事訴訟法199条
2項ただし書),身体拘束の必要性に関する第1次的判断は捜査機関に
委ねられている。これに対して,要保護児童の通告を受けた児童相談所
長は,「必要があると認めるとき」に一時保護を加えることができると
されており(児童福祉法33条1項),児童の福祉に関する判断には児
童心理学等の専門的な知見が必要とされることに鑑みれば,児童に一時
保護を加えるか否かの判断は,児童相談所長の合理的な裁量に委ねられ
ていると解され,捜査機関が一時保護を捜査のために利用することは必
ずしも容易ではない。
(ウ)逮捕・勾留された被疑者については,引き続き捜査機関が取調べ等
を行うことができるが,児童相談所に通告された要保護児童については,
児童相談所による調査が開始されることになり,一時保護中の要保護児
童について警察官による取調べを許すか否かも児童相談所長が裁量によ
って決定することになるため,一時保護措置がされたとしても,警察に
よる取調べの機会が確保される保証はない。
(エ)逮捕・勾留は被疑事実を単位としてされるのに対し,児童相談所に
対する通告は要保護児童についてされ,一定の非行事実を単位として行
われることは必ずしも予定されていない。要保護児童の通告を受けた児
童相談所においては,当該要保護児童及びその家庭につき,必要な調査
並びに医学的,心理学的,教育学的,社会学的及び精神保健上の判定を
行い,当該要保護児童にどのような措置を採るかを決定しなければなら
ない(児童福祉法15条の2第1項2号,26条1項)のであって,そ
のためには当該児童について広く調査を行うことが不可欠である(同法
26条2項参照)。そうであるとすれば,たとえ通告者において要保護
児童を認知した契機が一定の非行事実であったとしても,そのことによ
って児童相談所長の調査の範囲が同非行事実の範囲に限定されることは
ないと解される。
エ上記ウのような相違点に照らせば,児童福祉法に基づく一時保護を逮
捕・勾留に準じるものとみて,別件逮捕・勾留に類する違法が生じるとす
る原告Aの主張には理由がないというべきである。
(2)争点(1)イ(イ)(市児童相談所における原告Aの取調べは任意取調
べの限界を超える違法なものであったか)について
ア長期間に及ぶ取調べ
(ア)原告Aは,市児童相談所における一時保護期間が長期間に及び,そ
の間,警察による取調べを連日受けた上,市児童相談所の職員の立会い
が常時あったわけでもないことから,原告Aは実質的な身体拘束状態に
あったとし,こうした状態で行われた取調べは違法であると主張する。
しかし,児童福祉法上の一時保護が刑事訴訟法上の逮捕・勾留とその
性格を異にするものであることは,一時保護開始の要件が「必要がある
と認めるとき」と規定されるにとどまり(同法33条1項),児童相談所
長の裁量に委ねられていると解されることや,期間制限の定めの違いか
らも明らかである。また,原告Aの取調べは,市児童相談所の要請を受
けてその時間が制限されている上,取調べにおいて職員が立ち会うこと
も許されていたのである(甲2,丁2の17頁)から,逮捕・勾留され
た被疑者に対する取調べと同視することはできず,一時保護期間が長期
化しているからといって事実上の身体拘束状態にあったとみるのは相当
でない。したがって,原告Aの上記主張には理由がない。
(イ)もっとも,一時保護は飽くまで児童の福祉のためにされる措置であ
り,これを専ら犯罪捜査等に利用することは予定されていないというべ
きであるから,その目的を離れ,専ら取調べ目的で利用されている場合
(この場合の取調べには,要保護児童を認知する契機となった非行事実
に関する取調べも含まれる。)には,当該一時保護は違法となり,それ
を利用してされた取調べもまた違法となるというべきである。
ただし,一定の非行事実が疑われる要保護児童について,児童相談所
において当該非行事実に係る証拠収集等を行うことは容易ではなく,児
童相談所独自の調査のみに委ねることにしたのでは,当該要保護児童に
対する措置を決定するに当たって正確かつ十分な情報が得られず,適切
な措置を選択することが困難になるおそれがあるばかりか,当該要保護
児童を家庭裁判所に送致するとの判断をした場合(児童福祉法26条1
項1号,27条1項4号,32条1項参照)において,必要な証拠が収
集されないままに送致され,家庭裁判所における審理に支障を来すおそ
れもある。そうであるとすれば,警察による調査を児童相談所の調査に
役立てるという観点から,児童相談所において,当該要保護児童につい
て相当な範囲で警察による取調べを認めることは許容されると解される
から,単に取調べの時間が長いという外形的事実のみをもって,一時保
護が専ら取調べ目的で利用されていると判断するのは相当でない。警察
に対してどの程度の取調べを認めるかは,取調べの対象となる非行事実
の内容,犯情等のほか,当該非行事実の存否及び内容を明らかにするこ
とが当該要保護児童に対する措置を決定するに当たりどの程度の重要性
を持つかといった観点から,児童相談所長が合理的な裁量によって決定
するほかなく,一時保護が専ら取調べ目的で利用されているか否かを判
断するに当たっては,こうした裁量権の存在も念頭に置く必要がある。
これを本件についてみるのに,原告Aは,平成15年11月20日に
も占有離脱物横領行為を行ったことにより児童相談所に通告されており,
これについては在宅指導が試みられたが効果が得られず(丁2の86頁),
再び恐喝未遂(J事件)という非行行為を行ったのであるから,保護者
に監護させることが不適当といえ,要保護児童に該当する。そして,市
児童相談所は,4月21日,a警察署から,原告Aについて恐喝未遂(J
事件)の他に強盗致傷(本件事件)の疑いがあり,本件事件について自
供させた上で市児童相談所に通告する予定であるが家庭裁判所に送致す
ることは可能かという問合せを受け,通告後の措置は児童相談所におい
て判断すると回答するなど(丁5),原告Aの本件事件への関与の有無
について関心を抱いていたと考えられること,本件事件は強盗致傷事件
という重大なもので,しかも非行少年グループによる犯行が疑われてお
り,原告Aがこれに関与したか否かは,原告Aに対する措置を選択する
に当たって重要な考慮要素になると考えられること,刑事第1審におい
て大阪地裁からされた照会に対する市児童相談所の回答書には,「平成
16年6月4日,6月24日,7月7日の3回に分けて,a警察から追
送書類として強盗致傷事件に関する本児の自供書の送付を受けたが,措
置時点ではあいまいな内容の域を出ず,事由の付加とは認識していない」
と記載されており(丁2の86頁),原告Aに対する措置を決定するに
当たって,本件事件への関与の有無が実際に考慮された形跡があること,
市児童相談所は,取調べは平日のみに制限し,5月11日以降は原告A
の学習時間確保の観点から取調べの時間を午後のみに制限するなど(丁
2の17頁),警察による取調べを最優先させているわけではないこと,
以上のことを考慮すると,市児童相談所長において,原告Aが本件事件
に関与しているか否かの調査を警察による取調べに委ねたことは,その
合理的な裁量の範囲で行われた措置といえ,一時保護が専ら取調べ目的
で利用されているということはできない。
なお,原告Aは,市児童相談所における処遇方針(児童自立支援施設
への入所)は5月20日の段階で決定しており,それ以降の一時保護は
本来的な必要性が認められないかのように主張するが,同日時点におい
ては市児童相談所としての処遇方針が決定したにすぎず,原告Aやその
保護者に処遇方針を説明して説得し(丁2の21頁・22頁),N学園
と入所日を調整するといった手続は残されており,一時保護の必要性が
消滅したとはいえない。また,大阪地裁からの照会に対する上記回答書
には,上記記載に続けて,「当所としては既に平成16年5月20日の
所内協議で処遇方針を決定しており,その後もその方針の変更の必要性
を認めなかった」との記載があり,場合によっては処遇方針を変更する
ことも考えられていたことがうかがわれ,5月20日以降に本件事件に
関する警察の取調べを認めていたからといって,一時保護が専ら取調べ
目的で利用されているとはいえない。
そして,その後一時保護期間は延長されているが,これが専ら取調べ
目的でされたものとはいえず適法であることは後記第5の4記載のとお
りである。
(ウ)よって,原告Aに対する一時保護は適法で,その間にされた取調べ
が,一時保護期間中にされたものという理由で違法になることはない。
もっとも,こうした長期に及ぶ取調べは,当時14歳の少年であった
原告Aにとって,相当な精神的・心理的圧迫となったものと推測される
から,後記イにおける取調べの違法性を判断するに当たっては,このこ
とを十分に考慮する必要がある。
イ取調べにおける暴行・脅迫・誘導
(ア)取調警察官等
原告Aの取調べは,R巡査部長(以下「R警察官」という。)が,S巡
査部長(以下「S警察官」という。)を補助者として行った(丙3)。
(イ)供述の概要
原告Aは,当裁判所における当事者尋問及び陳述書(甲D25)にお
いて,取調べの態様につきおおむね以下のとおり供述している。
a5月6日に行われたa警察署での取調べでは,R警察官が,「Gが
おっさん蹴ってるやろ」,「お前が蹴ったんか」などの質問を繰り返
し,分からないと答えても信用されず,質問は終わらなかった。
夕方頃に自供書を作成することになったが,何を書けばいいのか分
からずにいると,R警察官が机をたたいたり蹴ったりしてきた。R警
察官が,普段親しくしている友人は誰かを尋ねてきたので,兄のGや
Hの名前を挙げたところ,「じゃあそいつらとやったんちゃうか」な
どと言われ,言われるがままに自供書(甲C11)を作成することに
なった。
b5月7日の取調べでも,被害者の身長や犯行時刻等につき,R警察
官の誘導に話を合わせる形で自供書(甲C12)を作成した。
また,この日は,G及びHが犯行を認めているとも告げられた。
c5月10日の取調べは,市児童相談所職員の立会いがなかったため,
午前中から厳しい取調べがされた。R警察官から,強く机をたたかれ
たり蹴られたりしたため,同警察官の話に合わせるようにして,午前
中のうちに自供書(甲C13)を作成した。
D5月13日,L職員の立会いの下,取調べを受けていると,R警察
官から部屋の外に連れ出され,L職員を退席させるよう命じられたた
め,やむなく,L職員に対し,「明日からは立会いはいいです」と伝
えた。
e5月14日,取調べに対して答えられずにいると,R警察官から,
「分からんのやったら立っとけ」と命じられ,直立の姿勢で何時間も
立たされた。また,その状態でペンを投げつけられ,「拾え」と命令
されたり,髪の毛をつかまれたりした。
この日は,I警察官からの取調べも受けたが,同警察官からは,「お
前がちゃんと犯人を言えなければ,お前の友達を片っ端から逮捕する」
と脅された。
f5月17日,R警察官から,誰が犯人なのかを延々と聞かれたため,
分からない,Mが嘘をついていると答えたが,R警察官を納得させる
ことはできず,髪の毛を引っ張られたり,胸ぐらをつかまれて窓にた
たきつけられたりした。
g5月21日の取調べでも,R警察官から厳しい取調べを受けたが,
犯人は分からないと言った。
h5月24日はJ事件について現場検証が行われたが,現場検証が終
わると,そのまま車で本件現場まで連れて行かれた。そして,何の説
明もないまま無理矢理指差しの姿勢をとらされ,写真を撮られた。
i5月25日,R警察官から,「施設には絶対に行かせない」,「家
族のもとに戻してやる」など虚偽の利益誘導がされた。
j5月26日,R警察官の前日の言葉を信じ,同警察官の言うとおり
に本件現場の地図を書き,「僕はこの地図を書いた所を通ったことが
あります」との自供書(甲C16)を作成した。
5月27日にも同旨の自供書を作成した。
k5月28日,相変わらず犯人の名前が言えなかったため,本件現場
に連れて行かれることになった。
l6月15日には,本件事件に関する新聞記事を見せられた。
m6月17日以降の取調べは,さほど厳しいものではなかったが,早
く認めてしまった方が楽だと思い,何とか警察官の求める自供書を作
るようにした。
n6月28日,R警察官から,「お前がここで言わんかったら,Nに
行っても取調べはまだ続くし,N出てもまた逮捕して取調べしたるか
らな」などと言われた。
(ウ)供述の信用性と取調べの違法性の検討
a原告Aは,刑事第1審において,取調べ時に警察官から脅されたも
のの具体的にどのようなことを言われたかは覚えていないと証言しな
がら(甲C194の15頁・77頁),本件訴訟においては,「お前
がちゃんと犯人を言えなければ,お前の友達を片っ端から逮捕する」,
「お前がここで言わんかったら,Nに行っても取調べはまだ続くし,
N出てもまた逮捕して取調べしたるからな」と言われたなどと具体的
に供述しているが,このように具体的な言葉で脅迫されたのであれば,
刑事第1審で証言した時点において覚えていないというのは不自然で
あるし,本件訴訟においてこれを思い出した理由も不明である。
また,刑事第1審では,暴行を加えたのがどちらの警察官だったか
覚えていないと証言しながら(甲C194の80頁),本件訴訟にお
いては,R警察官からペンを投げつけられた,髪の毛をつかまれたり
胸ぐらをつかまれたりしたなどと供述している。仮に,本件訴訟で供
述するような暴行を加えられていたのであれば,刑事第1審で証言し
た時点において暴行の主体を覚えていないというのもやはり不自然で
あるし,原告Aが市児童相談所において作成していた日記(丁4。以
下「本件A日記」という。)に上記暴行に関する記載がないこと,市
児童相談所の職員に相談していないこと(原告A51頁)もまた容易
に理解し難い。
さらに,原告Aの母親であるQは,原告Aから取調べで首を絞めら
れたり窓に向かって立たされたりしたなどと聞いたとしながら,警察
に対して何ら抗議をしておらず,弁護士等に相談するといった措置も
講じていない(甲C217の27頁・45頁)。
以上のような事情は,原告Aの供述の信用性を減殺させるものであ
り,原告Aの供述する暴行・脅迫等の存在をそのまま認定することは
できない。
bしかしながら,一方で,市児童相談所作成の原告Aに係る児童記録
(丁2。以下「本件児童記録」という。)をみると,5月10日の欄
には「一時保護開始以来土日を除いて連日聴取が続いており警察
署での聴取では机を蹴られたりするなど本児にとっての精神的ストレ
スは大変高い」(17頁),5月18日の欄には「聴取が連日続いて
おり,本児が否認を続けるため刑事側の対応の厳しさが増している由。
本児の話によると,5/17には刑事に頭髪をつかまれたとのこと。
又,当所からの注意にもかかわらず,連日のように面接室から刑事の
どなり声がひびき,他の面接室にまで聞こえている。」(18頁)と
の各記載があり,上記(イ)c,fの供述と一致する。また,本件A
日記にも,5月10日の欄に「けいさつの人が机をどついたりけった
りして僕にこれやったやろとか言うてきました」との記載があり,こ
れもまた上記(イ)cの供述に整合する。本件児童記録及び本件A日
記は,本件訴訟とは無関係に作成されたものであり,虚偽の事実を記
載する理由に乏しいといえ,これらの証拠は,原告Aの供述の信用性
を高めるものといえる。
加えて,R警察官も,大声を出したことは認めていること(丙3)
を考慮すると,原告Aの取調べは,大声で怒鳴る,机をたたいたり蹴
ったりする,頭髪をつかむなどの行為を伴うものであったと認めるの
が相当である。
cまた,原告Aの自供書には,「僕はオヤジガリを1人ではしてませ
ん。理由は僕はお金にこまっていないからです。2人ではやってませ
ん。なんでかとゆうと1人が行くって言ってもう1人がいかんって言
ったら話があわんからです。話があわんかったら1人で行くことにな
るからです。3人以上でやったと思います。理由は2人が行くって言
って1人がいかんって言っても2人が行くことになったらもう1人も
じゃあ俺も行くわって事になって話が合うからです。僕が思う3人以
上は3人・4人・5人です。」(甲C28),「僕の性格はすぐちょ
うしにのって,悪いことでも俺がやると言って,僕が一番最初にやり
ます。このオヤジガリの件も仲間はおもいだされへんけどだれとおっ
ても僕が一番最初にやると言ってやってると思います」(甲C29)
といった不自然に理詰めで説明的な供述があるほか,前記1(2)イ
(ア)のとおりアリバイが成立する可能性が高い原告Aが,最終的に
本件事件への関与を認め,犯行態様等について本件被害者の供述とお
おむね一致する供述をしていること(甲C45)からすると,取調べ
において不相当な誘導がされたことが強く推認されるというべきであ
る。
これに対して,R警察官は,取調べにおいて誘導はなかった旨証言
しているが,アリバイが成立する可能性が高い原告Aがなぜ本件事件
について詳細に供述することができたのかを説明することができない
し,R警察官は,5月24日の引き当たり捜査において原告Aが任意
に本件現場付近まで警察官を案内したと証言しながら(証人R3頁),
それに関する捜査関係書類が何ら作成されていないなど不自然な点が
あり,その証言をそのまま信用することはできない。
(エ)評価
以上のとおり,原告Aに対する取調べは,怒鳴り声をあげる,机をた
たいたり蹴ったりする,頭髪をつかむといった行為を伴うものであり,
とりわけ原告Aが当時14歳の少年であったことを考慮すると,適切な
配慮を欠いた不相当に威圧的なものであったといわざるを得ない。
また,取調べにおいて誘導がされた点については,客観的事実と供述
内容とが矛盾していたり,供述者において記憶が不確かになっていたり
する場合において,これを補うために誘導をする必要があることは否定
できないから,誘導があったことをもって直ちに違法とまではいえない
が,迎合的になりがちな少年の取調べにおいては不当に供述を歪曲させ
ないよう注意しなければならないのであって,原告Aが上記のとおり不
自然に説明的な自供書を作成していることからすると,原告Aに対する
誘導が許容可能な限度にとどまっていたとは考えられず,上記のとおり
威圧的な取調べもされていることを考え併せると,原告Aに対する取調
べは国家賠償法上違法であるというべきである。
(3)争点(1)イ(ウ)(N学園における取調べは脅迫を伴う違法なもので
あったか)について
原告Aは,7月20日,N学園で取調べを受け,警察官から,翌日に行わ
れる原告Cの少年審判で自白を撤回したら偽証罪で逮捕するなどと脅迫され
たと主張する。
しかし,原告Aは,捜査段階の自白が虚偽のものであると証言した刑事第
1審の証人尋問において,原告Cの少年審判で自白を維持した理由を尋ねら
れた際,前日の取調べで脅迫を受けたという説明はしておらず(甲C194
の43頁),「偽証罪になって逮捕されるかもしれないと刑事から脅されて
いる,そういうことを言っていたが思い出したか」という趣旨の弁護人から
の質問に対しても,「はい。」と答えているものの,偽証罪になるぞと言わ
れたのはいつの時期かという弁護人からの質問に対して明確に答えていない
(同101頁)。これらの刑事第一審の証言内容からすれば,7月20日の
取調べで上記のような脅迫があったことを認めるに足りる証拠はないという
ほかない。
3原告B関係(争点(1)ウ)
(1)争点(1)ウ(ア)(原告Bの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
ア取調警察官
原告Bの取調べは,4月28日から5月31日まではT警部補(以下「T
警察官」という。)が,6月1日以降はU巡査部長(以下「U警察官」とい
う。)が,それぞれV巡査長(以下「V警察官」という。)を補助者として
行った(丙3,6)。
イ供述の概要
原告Bは,当裁判所における当事者尋問及び陳述書(甲D24)におい
て,取調べの態様につきおおむね以下のとおり供述している。
(ア)4月28日,J事件に関する取調べで警察に呼び出された際,約束
の時間に遅刻して警察署に到着したところ,エレベーターの中で,V警
察官から,警察をおちょくっているのかなどと言われ怒鳴られた。J事
件に関する取調べは4,5日続いたが,余罪について黙秘したとき等は,
V警察官から大声で怒鳴られたり,ファイルの角で頭を殴られたりした。
T警察官からは怒鳴られることはなかったものの,V警察官の暴行を止
めようとはしなかった。
4月30日には,「親から同意をもらっている」と言われ,ポリグラ
フ検査を受けた。
(イ)5月19日,J事件について調書を作成するということで任意同行
された。調書作成は10分程度で終わったが,その後,T警察官から,
何か隠していることはないか聞かれた。何を聞かれているか分からなか
ったので何もないと答えたが,同様のやり取りが30分ほど続いた。する
と,T警察官が,原告Aが自白し共犯者として自分の名前を挙げている,
ポリグラフに出ているなどと言ってきた。それでも知らないと言い続け
たが,全く信用してもらえなかったので,何の事件について聞かれてい
るかは分からなかったものの,認めたら早く帰ることができると思い,
認めた。
その後,共犯者の名前を聞かれたので,既にT警察官の話に出ていた
原告Aのほか,思いつくまま,G,H,原告C,原告D,原告Eらの名
前を挙げた。被害者の年齢についても聞かれ,適当に40歳くらいと答
えていたが,もう少し年配だろうなどと言われたため,60歳くらいと
いうことになった。現場の見取図(甲C61)については,地図を見せ
られたのでそれを真似て書いた。犯行時の服装についても,防犯カメラ
の映像を見せられながら書いた(甲C65)。
(ウ)5月22日の取調べで,おそらくT警察官から,本当に原告Dが犯
人なのかときつく問いただされたため,代わりにWの名前を出した。
(エ)6月1日の取調べにおいて,U警察官から,Wは現場を満足に案内
できず犯人とは思えない旨言われた。それでもWが犯人の一人だと言い
続けたが信用されなかったので,同月2日の取調べにおいて,仕方なく
Xの名前を出した。
しかし,同日夜の取調べで,U警察官から,Xが否認していると聞か
され,U警察官とV警察官に代わって取調室に入ってきたI警察官から
も,本当は原告Dが犯人ではないかと強く言われた。最初は否定したが,
I警察官がいきなり机を持ち上げて床にたたきつけ,大きな音を出した
ので,怖くなって再び原告Dが犯人であると言い,自供書(甲C80)
を作成した。
(オ)警察署における取調べでは,毎日のように怒鳴られ,ファイルの角
で頭をたたかれたことが50回以上,椅子を蹴られたことが約10回,
胸ぐらをつかまれて壁に押しつけられたことが約5回あった。移動中の
エレベーターの中で脅されることもあった。
(カ)6月8日に少年鑑別所に送致されたが,その1週間後くらいに見覚
えのない警察官が来て,本当に原告Dが犯人なのかと繰り返し聞かれた
ので,本当は現場にいたのは原告Eだったと言った。
すると,2日後くらいにI警察官が来て,「何でいきなりEや」と怒
られ,共犯者の名前を頻繁に変えると別の罪で再逮捕すると言われた。
再逮捕されると再び取調べを受けることになるので,怖くなって直前の
供述を撤回し,現場にいたのは原告Dだったと言った。
ウ供述の信用性と取調べの違法性の検討
(ア)原告Bは,原告Cの少年審判において証言した際には,5月19日
の取調べにおいて,怒鳴られたり,胸ぐらをつかまれたり,椅子を蹴ら
れたり,ファイルの角で頭をたたかれたりしたため,怖くなって自白し
たと証言しながら(甲C192の20頁),刑事第1審においては,5
月19日の取調べでは暴行はなく(同114頁),原告Aが自分の名前
を出しており,ポリグラフに出ていると言われたため,答えようがなく
自白したと証言し(同12頁),本件訴訟においては,前日に寝ていな
かったことから精神状態が正常でなく,認めればすぐに終わるだろうと
思ったことが一番の原因だったと供述しており(原告B22頁),自白
するに至った理由について容易に説明し難い変遷がみられる。
また,本件訴訟においては,4月28日にエレベーター内でV警察官
から怒鳴られたと供述しているが,こうした事実は刑事第1審での証言
に表れていないだけでなく,本件訴訟において提出された陳述書にも明
確には記載されていない。逮捕された後に移動中のエレベーター内で脅
迫されたという点についても,刑事第1審で証言されておらず,留置場
から取調室への移動にエレベーターは使用しないとのT警察官の証言
(証人T5頁)とも整合しない。
そもそも,原告Bは,5月19日の時点で自白し,共犯者として原告
A,原告C,原告D及び原告Eの名前を挙げ,犯行状況についても,2
月16日から18日くらいの午後8時から9時頃,赤色の上着を着てい
た原告Aとともに,本件マンションの南側道路を東方向に歩いていた6
0歳くらいの男性とすれ違い,その直後,原告Aがその男性に後方から
タックルして倒し,近くで隠れていた原告C及び原告Dを加えて倒れた
男性を4人で取り囲み,財布から金を取って東方向へ逃げたなど,おお
むね本件被害者の供述に一致する供述をし,犯行当時の4人の服装につ
いても,本件防犯カメラの映像と整合する供述をしているのであり(甲
C60から69まで),5月20日以降,警察官において,暴行・脅迫
を用いてまで原告Bから新しい供述を得る必要がどれだけあったのか疑
問である(上記のとおり,原告Bは,本件訴訟において,同月19日の
取調べでは暴行はなかったと供述している。)。
確かに,同月22日にいったん原告Dの関与を否定し共犯者としてW
の名前を挙げ(甲C75),6月2日には再び原告Dの関与を肯定する
(甲C80)など,従前の供述を変遷させ新たな供述をしている部分は
あるが,5月22日にいったん原告Dの関与を否定した際の状況につい
ては,T警察官から本当に原告Dが犯人なのかときつく問いただされた
ためその関与を否定し,代わりにWの名前を出したと供述する(甲C1
92の42頁,196の31頁)のみで,暴行を受けたことが原因で供
述を変遷させたとの説明はない。そうすると,毎日のように怒鳴られ,
ファイルの角で50回以上頭をたたかれたなど,取調べにおいて頻繁に
暴行を受けていた旨の原告Bの供述は,にわかにこれを信用することが
できない。
もっとも,再び原告Dの関与を肯定するようになった経緯については,
U警察官から,Wの関与が疑わしい旨の説明を受け,いったんはXの名
前を出したが,その後,I警察官が来て,机を持ち上げて床にたたきつ
け,大きな音を出すなどしたため,怖くなって原告Dの名前を出した旨,
ほぼ一貫して供述しており(甲C192の44頁,196の40頁),
その供述内容も具体的で迫真性のあるものといえるから,信用性が高い
といえ,こうした取調べがされた事実が認められるというべきである。
この点に関連して,U警察官は,6月2日の取調べにI警察官が関与し
ていないかのように証言している(証人U21頁)が,反対趣旨の刑事
第1審におけるI警察官の証言(甲C198の40から42頁)に照ら
し,信用できない。
(イ)また,原告Bは,前記1(2)イ(ア)のとおりアリバイの成立す
る可能性が高い原告Aを共犯者として挙げ,原告Aが本件被害者にタッ
クルしたと供述しており,この供述は原告Bが実際に体験したものでは
ない虚偽の供述である可能性が高いというべきであるが,原告Bがこう
した供述をするに至った理由を考えると,警察官から不当な誘導があっ
たことが強く推認される。特に,5月19日の取調べにおいて,犯行当
日の4人の服装を詳細に供述しているが(甲C65),3か月も前の日
の服装を,自分のものだけでなく他人のものについてまで記憶している
というのは不自然であり,警察官による誘導・暗示を疑わせる。また,
T警察官は,刑事第1審において,犯行を自白していない段階の原告B
に対し,本件現場を中心にしてコピーした地図を示し,その場所で本件
事件が発生したことを告げ,何か知っていることはないかと尋ねたと証
言しており(甲C201の6頁・31頁・74頁),こうした証言から
も,原告Bの取調べにおいて不当な誘導があったことは否定できないと
いうべきである。
(ウ)以上のような取調べ方法は,原告Bが社会的に未熟な少年であった
ことを考えると,明らかに不適切であり,国家賠償法上違法であるとい
うべきである。
(2)争点(1)ウ(イ)(捜査本部が原告Bを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
上記(1)のとおり,警察官の原告Bに対する取調べは違法であったとい
わざるを得ず,こうした違法な取調べによって得た自白を疎明資料として逮
捕状の発付を受け,これに基づいて原告Bを逮捕し,検察官に送致したこと
は国家賠償法上違法というべきである。
(3)争点(1)ウ(ウ)(少年鑑別所における原告Bの取調べに違法があっ
たか)について
原告Bは,捜査本部が,6月16日及び同月18日,J事件に関して取調
べを行うことについて家庭裁判所の許可を受けておきながら,実際には本件
事件について取調べをしており,違法であると主張するが,そのような取調
べがされたことを認めるに足りる証拠はなく(甲D32参照),原告Bの上
記主張には理由がない。
4原告C関係(争点(1)エ)
(1)争点(1)エ(ア)(原告Cに対する任意同行は実質的な身体拘束に至
る違法なものであったか)について
ア任意同行が任意捜査にとどまるか,それとも実質的な身体拘束に至って
いるかは,警察官が同行を求めた時間・場所,同行の方法・態様,同行を
求める必要性,同行後の取り調べ時間・方法,監視の状況,被疑者の対応
等の諸般の事情を総合して判断するほかない。
イこの点について,原告Cは,5月20日から22日まで,被疑事実を告
げられることなく,かつ,保護者の同行もないまま警察署に連行され,そ
の後長時間にわたって取調べを受けることになり,同月20日の取調べで
は原告Cが嘔吐したにもかかわらず,その後も取調べが継続されたといっ
た事情を指摘し,このような任意同行は,実質的な逮捕と同視される違法
な身体拘束であると主張する。
ウそこで検討するのに,警察官が原告Cを同行したのは,5月20日から
22日までのいずれの日においても,午前9時頃であり,同行を求めた場
所は原告Cの自宅であった(甲C124,195の8頁・19頁・28頁)。
そして,原告C宅には母親のYがおり,警察官は,同人に対し,原告Cに
聞きたいことがあるため警察署に来てもらいたい旨伝えている(甲C20
0の4頁・11頁・15頁,206の37頁・43頁)。午前9時という
時間はさほど早い時間とはいえないし,保護者である母親がその場にいた
以上,原告Cや母親が警察への同行を拒絶するか否かの自由が奪われてい
たとはいい難い。
また,任意同行後の取調べをみると,確かに5月20日及び同月21日
の取調べは午前9時30分頃から午後7時頃まで行われており(甲C12
4),昼の休憩を挟むとはいえ,取調べが長時間に及んでいることは否めな
いし,取調室において警察官2人による取調べを受けることが,当時15
歳であった原告Cに相当の精神的圧迫感を与えていたことは否定し難いと
ころである。しかし,取調べが長時間にわたった翌日の任意同行の求めに
対して,原告Cや母親が異議を唱えたり,苦情を申し入れたりすることな
くこれに応じており(甲C191の11頁),同月20日の取調べで原告C
が嘔吐したことは当事者間に争いがないものの,原告Cに体調を確認した
上,「大丈夫です」との回答を得て取調べを継続したのであり(甲C200
の10頁),少年に対する取調べとしてはいささか不適切な部分があるとは
いえ,実質的な身体拘束に該当するものと認めるのは相当でない。
(2)争点(1)エ(イ)(原告Cの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
ア取調警察官等
原告Cの取調べは,Z警部補(以下「Z警察官」という。)が,Aa巡査
長(以下「Aa警察官」という。)を補助者として行った(丙5)。
イ供述の概要
原告Cは,当裁判所における当事者尋問及び陳述書(甲D24)におい
て,取調べの態様につきおおむね以下のとおり供述している。
(ア)5月20日午前9時頃,3人の警察官が自宅に来て,警察署まで任
意同行することになった。取調室では,取調べに当たる警察官2人がお
り,その1人であるZ警察官が,「お前やろ」などと言ってきたため,
訳が分からず,分かりませんと答えていたら,Z警察官は,「Bもお前
がやったっていうてるぞ」などと言い,さらに,いきなり机をたたいて
「お前がやったんや」などと大声で怒鳴った。それでも訳が分からずに
いると,Z警察官に髪の毛をわしづかみにされ,そのまま頭を左右に振
られた。さらに,首をつかまれた状態で背中を壁に押しつけられ,「お
まえや」などと怒鳴られた。
午前中の取調べが終わり,休憩時間を挟んでから再び取調べが始まっ
た。取調べが再開されてすぐに嘔吐したが,取調べはそのまま継続され
た。
帰宅後,首をつかまれた痕が残っていたため,母親に暴行のことを告
げた。母親は,警察に電話すると言っていたが,そうすると再び暴力を
振るわれると思い,電話しないように言った。
(イ)5月21日の取調べにおいても怒鳴られ,原告Bが自分の名前を出
しているなどと言われた。Z警察官の意に沿わないことをいうと,同警
察官から紙を丸めたような物で頭をたたかれ,「違うやろ」と言われた。
Z警察官の言うことに話を合わせ,共犯者については示された写真の中
から選び,警察官が下書きした地図を見ながら現場の地図を書いた。
(ウ)5月22日の引き当たり捜査では,前日の取調べの内容に合わせる
形で説明した。その後,警察署に帰って再び取調べを受けたが,やはり
Z警察官から机をたたかれたり怒鳴られたりした。
(エ)逮捕後の取調べでも,警察官に合わせる形で話をした。共犯者とし
てWの名前を挙げていたが,本当にWでいいのかと言われ,いったんは
Xの名前を出したが,違うだろうと言われて,最終的には原告Dの名前
を出した。
ウ供述の信用性と取調べの違法性の検討
(ア)原告Cの上記供述と刑事第1審における証言(甲C195)を比較
すると,暴行に関する供述には以下のとおり変遷がみられる。
まず,暴行が始まった時期について,原告Cは,当裁判所において,
任意同行の初日である5月20日の午前中から暴行を受けたと供述して
いるが,刑事第1審においては,午前中はきつい取調べはなかったもの
の,夕方くらいに嘔吐し,それから暴行を受けるようになったと証言し
ている(甲C195の90頁,94頁)。
また,暴行の内容について,原告Cは,当裁判所においては,30㎝
くらいの棒のような物でたたかれたとの供述をしているが,刑事第1審
ではこうした証言はされていない。さらに,当裁判所においては,5月
21日にも初日と同様の暴行があった(原告C36頁),首を絞められ
たことは何回かあった(同頁)と供述しているが,刑事第1審では,弁
護人から「C君いいですか。首何回締められたの。あんた悔しいんやか
ら,よう思い出してよ。ここで十分言うとかなあかんからね」と,十分
に記憶を喚起して証言するよう念を押されているにもかかわらず,首を
絞められたのは初日だけだった旨供述している(甲C195の156頁)。
暴行の主体についても,当裁判所では,専らZ警察官のみが暴行を加
えていた旨供述し(原告C35頁),取調べ初日にZ警察官から首を絞
められたときは他に警察官はいなかったとも供述している(同6頁)が,
刑事第1審では,Z警察官及びAa警察官の2人に首を絞められた(甲
C195の153頁),髪をつかんだのはAa警察官だった(同157
頁)などと証言している。
このように,原告Cの供述は,暴行の主体,時期,態様等について重
要な部分が変遷しており,にわかに信用することができない。
(イ)原告Cは,5月20日の取調べが終わって帰宅した際,首を絞めら
れた痕が残っていたことから,母親であるYにそのことを指摘されたた
め,取調べにおいて首を絞められるなどの暴行を受けたことを伝えたと
ころ,母親は警察に抗議しようとしたと供述する。そして,母親は,刑
事第1審において証人として出頭し,5月20日又は同月21日,警察
から帰ってきた原告Cの首に紫色の内出血痕が残っていたので,どうし
たのかと尋ねると,警察官から首を絞められたり,髪の毛を引っ張られ
たり,蹴られたりしたなどと聞かされたと証言している(甲C206の
42頁・67頁)。
しかし,原告Cの供述するような事実があったのであれば,たとえ原
告Cに止められたとしても,母親としては警察に何らかの抗議をしてし
かるべきものと考えられるが,そうした抗議をしないばかりか,翌日以
降の任意同行にも難色を示していないというのはいささか不自然といえ
る。加えて,原告Cは,刑事第1審の尋問において,弁護人から「帰っ
て,あなたずっと泣いとったと言うたけども,お母さんものすごく怒り
ませんでしたか。警察に言うてあげるわとか言わなかったですか」との
質問を受けながら,これに答えることなく沈黙しており(甲C195の
155頁),母親との間で上記のようなやり取りがされたのか疑問の残
るところである。
(ウ)以上の検討からすると,警察官の暴行に関する原告Cの供述は,事
実を誇張した疑いが強いといわざるを得ず,そのまま信用することはで
きない。
もっとも,原告Cは,取調べの際に机をたたかれ,怒鳴られることが
あったという点については一貫して供述しており(甲C195の34頁,
原告C26頁),原告Cが,アリバイの成立する可能性の高い原告Aの
関与も認めるなど,原告Cが実際に体験したものではない虚偽の可能性
が高い供述をしていることからすると,取調べにおいて,机をたたき,
怒鳴るといった程度の行為はあったものと認めるのが相当である。
(エ)次に,取調べにおける誘導の有無についてみると,原告Cは,取調
べの早い段階から自白するに至った理由として,原告Bが自分の名前を
出していると言われた旨一貫して供述しており(甲C189の4頁・9
頁,195の93頁・102頁),Z警察官においては,5月19日の
段階で原告Bが原告Cの関与を認める供述をしていたこと(前記3(1)
イ(イ))を認識していたと考えられることに加え,原告Cの供述内容
は,見張りとして関与していたとする点で原告Bの供述内容と一致する
から,Z警察官が原告Cに対し,原告Bが原告Cの関与を認めている旨
告げたものと認めるのが相当である。
さらに,原告Cが,アリバイの成立する可能性の高い原告Aの関与を
前提として,犯行状況に関して詳しい供述をし,その最終的な供述内容
はおおむね本件被害者や原告Bの供述と一致していること(甲C87,
117)からすると,取調警察官から不当な誘導があったことが強く推
認される。特に,5月21日の取調べにおいて,犯行当日の4人の服装
を詳細に供述しているが(甲C102),3か月も前の日の服装を,自
分のものだけでなく他人のものについてまで記憶しているというのが不
自然であることは原告Bについて述べたところと同様であり,取調警察
官による誘導・暗示を疑わせる。そして,原告Cは,6月2日の取調べ
において,Wの関与を否定し,原告Dの名前を挙げている(甲C112)
ところ,原告Bもまた,同日の取調べにおいて同じように供述を変遷さ
せており(甲C80),これがI警察官による威圧的な取調べが原因と
考えられることは前記3(1)ウ(ア)のとおりであるが,原告Cの取
調べもI警察官が行っていることが認められ(甲C200の23頁),
こうした点からも,原告Cの取調べにおいて不当な誘導・暗示がされた
ものと認めるのが相当である。
(オ)以上のような取調べは,当時15歳と社会的に未熟な原告Cに対す
るものであることを考えると,穏当を欠く違法なものといわざるを得な
い。
(3)争点(1)エ(ウ)(捜査本部が原告Cを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
上記(2)のとおり,警察官の原告Cに対する取調べは,不当な誘導等を
伴うものであり,原告Cが取調べ当時15歳の少年であったことに鑑みれば,
違法であったというべきである。そして,こうした誘導等によって得た自白
を疎明資料とすることで逮捕状の発付を受け,これに基づいて原告Cを逮捕
し,検察官に送致した行為は違法といわざるを得ない。
5原告D関係(争点(1)オ)
(1)争点(1)オ(ア)(捜査本部が原告Dを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
証拠(甲B11)によれば,原告Dに係る逮捕状は,M,原告B及び原告
Cの各供述を主たる疎明資料として請求されたものと認められる。しかし,
原告B及び原告Cの取調べは前記のとおり違法なものであり,こうした取調
べによって得た供述を疎明資料として逮捕状を請求し,原告Dを逮捕したこ
とは違法であるというほかない。
なお,Mの供述に高い信用性が認められ,それによって原告Dの嫌疑が十
分に基礎付けられるのであれば,原告B及び原告Cの供述を疎明資料とした
としても逮捕状請求そのものは違法とならないと解する余地もないではない。
しかし,原告Dに係る逮捕状が請求された6月14日の時点では,Mの供述
は大きく変遷しており(この点については,後記第4の2(5)ウ以下で詳
述する。),一定限度で信用性を肯定できるとしても,それのみで原告Dの
嫌疑を基礎付けるには不十分といわざるを得ない。
よって,捜査本部が原告Dを逮捕したことは違法であり,同様の理由から,
原告Dを検察官に送致したことも違法といわなければならない。
(2)争点(1)オ(イ)(原告Dの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
ア供述の概要
原告Dは,当裁判所における当事者尋問及び陳述書(甲D23)におい
て,取調べの態様につきおおむね以下のとおり供述している。
(ア)6月14日に逮捕され,取調べを受けることとなったが,警察官は,
自分の弁解には聞く耳を持たず,「嘘ばっか言うな」,「お前は人間の
クズや」などと罵られ,耳元で大声を出されることも何度もあった。大
声を出すのは主としてV警察官であったが,U警察官から怒鳴られるこ
とも少なくなかった。
(イ)警察官から壁に向かって立っていろと命じられたこともあり,結局,
3時間くらいは立たされ続けた。
(ウ)逮捕されてから10日くらいが経過した頃,何を言っても信じても
らえないことから自暴自棄になり,「もう好きにせえや」と言ったとこ
ろ,警察官は,「ほんまに好きにしてええねんな」と笑い,「お前,特
高警察って知ってるか」と言ってきた。特高警察のことは知らなかった
が,かつては警察の取調べにおける拷問で死亡する人もいたということ
を教えられ,脅されているのだと分かった。そして,警察官から立てと
命じられ,これを拒否すると,椅子を後ろに引かれ,床に尻餅をついて
転倒させられた。警察官が2人がかりで自分を立たせようとしてきたの
で,反抗して床に座り込んでいたら,U警察官が後頭部あたりに尻で乗
ってきて,右腕をねじり上げられた。「痛い」と叫ぶと,「お前,こん
なんで音を上げるんか。Bはこんなもんやなかったぞ」と言われた。こ
のとき,偶然にも弁護人が接見に来たため,そこで暴行は終わった。暴
行のことは弁護人に伝え,その後しばらくは暴力的な取調べがなくなっ
たが,数日が経過すると,前と同じような暴言を言われ,机をたたいて
脅されるようになった。
イ供述の信用性と取調べの違法性の検討
上記アの原告Dの供述に対し,U警察官は,暴行の事実を否定し,取調
べにおける原告Dの態度につき,当初は特に問題はなかったものの,勾留
後は,「やってないんじゃ」と大声を上げて激高する,椅子から立ち上が
り「お前ら,悪魔やな」と怒鳴って座り込む,立ち上がるように指示する
と床に寝そべる,などといった反抗的態度を示していたため,取調室にパ
ソコン等を持ち込むと,これを振り上げて凶器にするなどのおそれがある
と判断し,しばらくは取調室にパソコンを持ち込まなかったなどと証言・
供述している(丙6の2頁,証人U2頁)。こうした証言・供述の内容は
相当程度具体的であるし,取調べの都度作成されていた取調べ状況復命書
(丙1)の記載と合致する上,勾留前の6月15日に作成された供述調書
がパソコンで作成されている(甲C154)のに対し,同月22日の供述
調書は手書きになっており(甲C155),同月24日から再びパソコン
での供述調書が作成されていること(甲C158)とも整合する。そして,
原告D自身,警察官が自分を立たせようとしたことに対して反抗し床に座
り込んだことがあり(上記ア(ウ)),取調べの初め頃に大声を出したこ
とも認めていること(原告D13頁)からすると,原告Dが取調べにおい
て相当程度反抗的な態度をとっていたものと推認される。
そうすると,そのように反抗的な態度を示していた原告Dが,壁に向か
って立っておけとの命令に従い,3時間程度立ち続けていたというのは容
易に理解し難い。また,U警察官は,取調べに反抗的な態度を示す被疑者
に暴行を加えるなどするとますます供述が得られにくくなるのでそのよう
なことはしないと証言しており(証人U7頁),そうした対応は少なくと
も一般論としてはうなずけるものである。また,原告Dについてはその時
点で既に弁護人が選任されており(甲C155,208の36頁),警察
官もその事実を当然認識していたと考えられるところ,それにもかかわら
ず原告Dの供述するような激しい暴行を加えるというのは疑問が残り,取
調べの頃から反抗的態度をとっていた原告Dが,取調べに対する嫌悪感か
ら,事実を誇張して供述している可能性は否定できない。
しかし,原告Dは上記アとほぼ同様のことを刑事第1審から一貫して供
述しており(甲C208の33から39頁),その供述内容は,特高警察
について言及された点など,真実そうした体験をした者でなければ語るこ
とのできないような具体的なものであり,迫真性もある。また,原告Dの
弁護人が7月2日付けで検察官に対して提出した「処分についての意見」
と題する書面においても,「弁護人から検察官に対して指摘したとおり,
被疑者に対する警察官の取調状況は,暴行や脅迫,長時間の直立あるいは
正座を強いるなど,甚だ常軌を逸している。共犯者とされる少年らに対す
る取調べも極めて苛烈であったことは,被疑者の取調べ担当刑事自らが,
被疑者に対して自慢げに述べていたところである」と記載されており(甲
D21),このうち,「共犯者とされる少年ら…ところである」の部分は,
上記ア(ウ)の「Bはこんなもんやなかったぞ」という部分と対応し,原
告Dが,取調べの段階から一貫して警察官による暴行・脅迫を訴えていた
ことがみてとれる。
そうすると,原告Dの供述する暴行・脅迫をそのまま認めることはでき
ないとしても,大声で怒鳴る,特高警察について言及するなど,不当に威
圧的な取調べがされたものと認めるのが相当であり,違法なものといわざ
るを得ない。
6原告E関係(争点(1)カ)
(1)争点(1)カ(ア)(捜査本部が原告Eを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
捜査本部は,違法に獲得した原告B及び原告Cの自白を疎明資料として逮
捕状を請求し,これによって発付を受けた逮捕状によって原告Eを逮捕した
上検察官送致をしており(甲B11),こうした行為は違法であるといわざる
を得ない。
(2)争点(1)カ(イ)(原告Eの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
ア供述の概要
原告Eは,当裁判所における当事者尋問及び陳述書(甲D27)におい
て,取調べの態様につきおおむね以下のとおり供述している。
(ア)6月14日に逮捕され,a警察署で取調べを受けた。当初から警察
官は自分の弁解に耳を傾けるという姿勢はなく,「お前の話なんか聞いて
も無駄じゃ」,「態度がでかい。長く放り込む。証拠も全部あがっている」
などと怒鳴るように言われたほか,床に倒され,机を蹴られるといった
暴行も加えられた。
(イ)6月15日以降も,否認すると取調室で立たされ,少しでも動くと
文句を言われた。
(ウ)6月17日以降は,取調室に出入りする際の挨拶の練習をさせられ
た。また,平成13年に起こしてしまった交通事故を引き合いに出され,
「人殺し」などと罵倒され,「一人殺せるのならばオヤジ狩りなんか簡単
だろう」などとも言われた。また,黙秘するとどんどん立場が悪くなる
と脅迫された。
(エ)取調べが最終的に終わったときには「刑務所に絶対ぶち込んだるか
らな」と言われた。
イ供述の信用性と取調べの違法性の検討
(ア)原告Eの供述の信用性を検討するに当たっては,原告Eが本件事件
の被疑者として逮捕・勾留された際に作成したという被疑者ノートが重
要な証拠となるから,まずはこの被疑者ノートについてその信用性を検
討することとするが,最初に指摘しなければならないのは,被疑者ノー
トが2冊存在するという点である(甲D22の1及び2。以下,前者を
「本件被疑者ノート1」,後者を「本件被疑者ノート2」という。)。原告
ら代理人作成の報告書(甲D30)によれば,被疑者ノートの作成に不
慣れな原告Eは,途中まで書いてはまた書き直すということを繰り返し,
勾留が終了した時点で2冊の被疑者ノートができあがったが,本件被疑
者ノート2が草稿段階のもので,これを基に文章等を推敲・清書して仕
上げたものが本件被疑者ノート1ということである。しかし,本件被疑
者ノート1の相当部分は本件被疑者ノート2のコピーであるし,本件被
疑者ノート1には,6月17日以降の取調べについて相当量の別紙が追
加され,取調べの状況が詳細に記載されている。そうすると,本件被疑
者ノート1は,勾留中にその都度記載されたものではなく,事後的に作
成された可能性が高いというべきであり,その信用性は相対的に低いと
いわざるを得ない。
(イ)そこで,本件被疑者ノート2について検討するのに,被告大阪府は,
本件被疑者ノート2には,6月14日付け,同月15日付け,同月17
日付けのものがそれぞれ3通ずつ,同月16日付け,同月18日付け,
同月19日付けのものがそれぞれ2通ずつあり,その記載内容を比較す
ると,同日付のものであってもその記載内容が異なっていたり記載が追
加されたりしている部分があること等から,本件被疑者ノート2もまた
後日に作成されたものであり,信用できないと主張する。
確かに,本件被疑者ノート2には,6月14日,同月15日,同月1
7日のことがまず記載され,次いで6月14日から同月19日までのこ
とが記載された後,更に続けて6月14日から同月22日までのことが
記載されており,少なくとも,記載が複数ある日付のうち,2回目以降
のものについては後日作成されたものであることは明らかである。
しかし,例えば6月14日に関する記載のうち,1回目に登場するも
の(5頁)と2回目に登場するもの(13頁)とを比較すると,1回目
では名前が分からないとされていた警察官の名前が「Bb」と特定され
るなど具体的になっている部分はあるものの,大部分の記載はむしろ簡
略になっている。この点は3回目に登場するもの(27頁)についても
同様であるし,机を蹴られた,刑務所行きは決定と言われたといった記
載は3つの記載を通じて一貫している。同月15日に関する記載につい
ても,1回目(7頁)にはなかった暴行態様が2回目(15頁)及び3
回目(29頁)には追加されている点を除けば,記載内容は次第に簡略
化されているし,反省して話をするようになるまで取調べはしない,原
告Dはお前と違ってしっかりしているなどと言われた点については一貫
した記載がある。同月17日の記載については,1回目(9頁)は簡単
な記載で,2回目(19頁)が非常に詳しく,3回目(33頁)はそれ
をやや簡略化した記載となっている点で前2日と異なっているが,人間
の血が流れていない,少年を見捨てて自分だけ助かればいいのかなどと
言われ,長時間立たされた旨の記載は一貫しているし,2回目のものに
は,「反抗も当然した」と一方的に暴行等を受けていたわけではない旨の
記載があり,こうした記載は1回目のものにはなかったことからすると,
専ら自己に有利な証拠を事後的に作成したものと断じるのは相当でない。
本件被疑者ノート2がこのような記載になった経緯は不明というほかな
いが,その記載はかなり具体的なもので,事後的に創作したものばかり
とはいい難いし,上記のとおり一方的に被害を受けていたわけではない
旨の記載もあることからすると,取調べの際の状況を記載したものとし
て一定の信用性はあるというべきである。
もっとも,原告Eは,被疑者ノートの記載はやや大げさに書いている
部分があることを認める供述をしている(原告E4頁)。その趣旨は,事
実に係る記載について言うものではなく,自分の感情に係る記載が大げ
さであることを言うもののようであるが,取調べに嫌悪感を抱く原告E
が,事実そのものを誇張して記載している可能性は否定できない。さら
に,原告Eは,暴言や暴行があれば同じことを警察官にやり返したとも
供述しており(原告E12頁),取調べがそのような状況であったことを
考慮すると,原告Eが警察官のいいなりになっていたとはおよそ考え難
く,長時間立たされたなどの事実も,警察官の何らかの言動がそのきっ
かけになった可能性はあるものの,原告Eが意固地になって自らの意思
で立っていたという可能性も否定できない。
そうすると,原告Eの供述する暴行・脅迫をそのまま認めることはで
きないが,黙秘した際に机を蹴る(本件被疑者ノート2の5頁,原告E
7頁)などの行為や,証拠はそろっている(本件被疑者ノート2の5頁),
黙秘すると不利になる(同21頁・37頁),少年らを見捨てて自分だけ
助かればいいのか(同9頁・19頁・33頁)といった程度の発言はあ
ったものと認めるのが相当である。
(ウ)このような取調べ方法は,不必要に威圧的で,原告Eの黙秘権を侵
害しかねないものであり,国家賠償法上違法といわざるを得ない。
第4争点(2)(被告国関係)に対する判断
1争点(2)ア(原告A関係)について
(1)争点(2)ア(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告すること
を,検察官が了承したことは違法か)について
原告Aは,J事件を理由とする通告及びその後の一時保護がいわゆる別件
逮捕・勾留に類するものであり,捜査本部がこうした違法行為を行うことを
了承した本件事件の主任検察官であったCc(以下「Cc検察官」という。)
の行為は違法であると主張するが,捜査本部の上記行為が適法であることは
前記第3の2(1)のとおりであり,原告Aの上記主張に理由はない。
(2)争点(2)ア(イ)(原告Aが市児童相談所で長期間取調べを受けてい
ることに対して措置を講じなかったことは違法か)について
原告Aは,市児童相談所における原告Aの取調べが成人に対する刑事事件
でも許されないほど長期間にわたり違法状態となっていたにもかかわらず,
検察官が警察官に対し捜査の適正化を指示するなどしなかったと主張するが,
市児童相談所における取調べが,その期間の長期化を理由に違法とされるも
のではないことは前記第3の2(2)アのとおりであり,原告Aの上記主張
に理由はない。
(3)争点(2)ア(ウ)(検察官による原告Aの取調べは違法か)について
Cc検察官による原告Aの取調べは,6月25日,同月30日及び7
月17日の合計3回行われている(甲C36,43,45)ところ,原
告Aは,同検察官は,原告Aが長期間の取調べに耐えかねて,警察官に
対して迎合的な供述態度をとっている可能性を疑い,慎重に取調べを行
うべきであったにもかかわらずこれを怠った違法があると主張する。
しかし,原告Aは,6月25日の時点で,原告Cの関与は認めるものの,
その他の共犯者については思い出せないとし(甲C95),原告Dの関与に
ついては同月30日のCc検察官による取調べでようやく認めるに至ったの
であり(甲C43),警察官による取調べにおいて必ずしも迎合的な供述態
度をとっていたとはいえない。また,Cc検察官は,6月25日の取調べに
おいて,原告Aが5月28日に本件現場を案内した状況について尋ね,自発
的に案内したものかどうかを確認し(甲C95,194の27頁),原告A
が犯行を自白した際には再度念押しで本当かどうかを確認しており(甲C1
94の118頁),同月30日の取調べにおいても,原告D及び原告Eを起
訴したら検察官は誤りを犯すことになるのかと尋ねており(同32頁),原
告Aの供述が真実か否かにつき相当な注意を払って見極めているといえ,こ
れを違法と評価することはできない。原告Aは,検察官が同月30日の取調
べで上記のように尋ねたことは原告Aに過度の精神的負担を課すものと主張
するが,原告A自身,刑事第1審において,その質問に対して回答すること
がどのような意味を持つのかあまり理解していなかったと証言し(同32頁),
なぜ本当のことを言えなかったのかという質問に対しても答えられていない
(同頁)のであるから,検察官のした上記質問が原告Aに精神的負担を課し
たとは認められない。
また,原告Aは,7月17日の取調べは虚偽自白を固めるための証人テス
トにすぎない違法なものであるとも主張するが,Cc検察官は,6月25日
及び同月30日の取調べにおいて,上記のとおり,原告Aが任意に供述して
いるか否かについて相当な注意を払い,その上で,7月17日の取調べに臨
んでおり,このような取調べが虚偽自白を固めるためのものとはいい難い。
原告A自身,刑事第1審において,この日の取調べがきっかけで原告Cの少
年審判で自白を維持したなどの説明はしておらず(甲C194の43頁),
検察官の取調べで怖い思いをしたことはなかったと証言している(同38頁)。
したがって,Cc検察官による原告Aの取調べが違法であるという原告A
の主張に理由はない。
2供述の信用性に関する検討
原告B,原告C,原告D及び原告Eに対する国の責任の有無を検討するに当
たっては,これら原告らの嫌疑を基礎付ける供述証拠に,検察官にとって信用
を置くだけの相当な根拠があったか否かを判断することが必要となる。そこで,
国の責任に関する各原告ごとの個別の検討(後記3から5まで)に先立って,
問題となる各時点における証拠の信用性に関する判断について順次検討する
こととする。
ところで,前記第3のとおり,各供述の中には警察官の誘導等を伴う取調べ
によって得られたものも含まれるが,検察官において,そのような取調べがさ
れていることを認識することは必ずしも容易ではない。特に,Cc検察官は,
I警察官に対し,少年は誘導に乗りやすいことを指摘した上で慎重な取調べを
行うよう指示し,I警察官もこれを了承していたのであり(証人Cc5頁,甲
C198の30頁),特段の事情がない限り,警察官が適法な取調べをしてい
るものと信頼して行動しても不合理とはいえない。したがって,違法な取調べ
がされていることを容易に認識できる場合でない限り,そうした違法な取調べ
はないものとして証拠評価することは許されるというべきであり,以下ではこ
うした観点から各供述証拠の信用性に関する判断について検討を加える。
(1)原告Bの逮捕段階(5月19日)
ア原告Bの供述の信用性
原告Bは,5月19日に任意同行されて取調べを受けているところ,取
調べ開始後わずか30分程度で本件事件に関与した旨供述しており(甲C
60),同日中に警察官を本件現場に案内している(甲C76)。しかも,
その供述内容は,2月16日から18日までの間くらいの午後8時から9
時頃,赤色の上着を着ていた原告Aとともに,本件マンションの南側道路
を東方向に歩いていた60歳くらいの男性とすれ違い,その直後,原告A
がその男性にタックルして倒し,近くに隠れていた原告C及び原告Dを加
えて倒れた男性を4人で取り囲み,財布から金を取って東方向へ逃げ,奪
った金は原告Eに渡したと思うというものであり,おおむね本件被害者の
供述に一致するし,実行犯とされる4人の服装に関する供述も,本件防犯
カメラの映像と整合する(甲C60から69まで)。
このように,原告Bは,取調べの早い段階から自己に不利益な供述をし,
本件現場を案内することもできたのであり,しかもその供述内容は具体的
で本件被害者の供述ともおおむね一致するものであるから,その供述に信
用を置くことができる状況にあったといえる。また,原告Bは,見張りと
いう限度ではあるものの,原告Cが本件事件に関与しているとし,さらに,
実行犯として原告A及び原告Dの名前を挙げ,最終的に原告Eが利益を得
たと供述しているが,原告Bがあえて上記4名に不利な虚偽供述をする理
由は見当たらず,とりわけ,原告Cは原告Bの弟であり,兄弟仲が悪かっ
たといった事情も見受けられないから,原告Cに不利な虚偽供述をすると
は考え難いのであって,このこともまた原告Bの供述の信用性を補強する。
そして,一部の自供書(甲C61)の記載を見ると,犯行前の待機場所
について本件被害者の供述(甲C5)と異なる部分がある上,それまで捜
査機関が把握していなかった原告Dの名前を挙げていること等からすると,
検察官において,原告Bが警察官による誘導等により自白するに至ったと
認識することは困難であったというべきである。
以上検討したところによると,5月19日時点での原告Bの供述は十分
に信用することができる状況にあったといえる。
イMの供述の信用性
Mは,5月4日から取調べを受けているが,同日から同月13日までに
作成された自供書(甲C126から134まで)は検察官に送致されてお
らず(甲D31),検察官においてその存在を認識していないものであっ
た。そこで,5月14日以降のMの供述に限定してその信用性を検討する
のに,同人は,同日,本件現場付近のものと思われる地図を書いた上で,
原告A,原告B,原告C,原告Eらとともに本件事件に関与した旨の自供
書を作成し(甲C135),同月16日,上記原告らを含む9名で本件事
件を敢行した旨供述するとともに,引き当たり捜査において,同行した警
察官を本件現場に案内し(甲C137),同月18日にも上記供述を維持
している(甲C138)。こうしたMの供述は,自己に不利益な事実を認
め,供述内容も一貫している上,虚偽の供述をする理由も特に見当たらな
いことから,信用性が高いものとみるだけの相当な根拠があったといえる。
一方,Mの供述には,実行犯又は本件現場の近くにいた者の人数が何人
で誰が含まれていたかという点で,5月19日時点の原告Bの供述及び本
件被害者の供述と一致しない部分があり,この点は,Mの供述の信用性を
弱める事情といえるが,複数の少年らとともに犯行を敢行したという点や
原告B及び原告Cが関与しているという点では原告Bの供述と一致してお
り,一定の信用を置くだけの相当な根拠があったといえる。
(2)原告Bの勾留請求段階(5月20日)
ア原告Bの供述の信用性
原告Bは,5月20日,検察官による弁解録取においても従前どおり自
白を維持した(甲C71)。そうすると,原告Bの供述の信用性に関する評
価は5月19日の時点と変わらない。
イMの供述の信用性
Mは,5月20日の時点において,従前の供述を変更するなどしていな
い。したがって,その信用性に関する評価については上記(1)イのとお
りである。
(3)原告Cの逮捕段階(5月22日)
ア原告Bの供述
原告Bは,5月22日の取調べにおいて,原告Cが見張りであったとの
供述を撤回し,原告Cが実行犯である旨の供述をしているように見受けら
れ,さらに,原告Dは実行犯ではなく,本当はWが実行犯の1人であった
と供述している。そして,実行犯として原告Dの名前を挙げた理由につい
ては,暴走族の元総長である原告Eの名前をうっかり出してしまったこと
で,同じく暴走族の元総長である原告Dから何かされるのではないかと怖
くなり,それならば原告Dも一緒に逮捕してほしいと考えたからであると
説明している。(甲C75)
原告Cの直接的な関与を認めるに至った点については,原告Cは原告B
の弟であるから,原告Cの刑責を少しでも軽減させるため,関与の程度を
低く供述していたとしても不自然とはいえない。しかし,原告Dの関与を
否定した部分については,それほど怖いと思っていた原告Eの名前をなぜ
安易に出したのかという点で疑問が残る上,原告Dを逮捕してもらうため
にその名前を出したという言い分も必ずしも得心のいくものではなく,原
告Bが上記のように供述を変遷させたことは,原告Bの供述の信用性を疑
わせる事情といえる。
しかしながら,原告Bは,自身の関与については一貫して認める供述を
しており,原告Cの関与についても,関与の態様について変遷はあるもの
の,関与したこと自体は一貫して認めている。そして,後記イのとおり,
この時点では原告Cも見張りとしてではあるが犯行への関与を自白し,原
告Bの関与も認めているから,原告Bの供述の信用性を補強しているとい
える。
そうであるとすれば,少なくとも原告B及び原告Cの関与を認める限度
においては,原告Bの供述に信用を置く相当な根拠があったというべきで
ある。
なお,原告Bは,本件の犯行を敢行する前に一度ファストフード店に集
まった旨供述しているところ,そこに集まったメンバーについて,5月2
0日までの取調べでは6名と供述し,Mは含まれていなかった(甲C69)
のに対し,5月22日の取調べでは,同店に集まったメンバーは12名で
あり,そこにMもいた旨供述しており(甲C73),Mの供述に合わせる
形で誘導されたのではないかという疑問も生じないではない。しかし,M
は,自身が本件現場で見張りをしていたと供述している(甲C138)の
に対し,原告Bは,Mが本件事件に関与したとまでは供述していない上,
本件現場付近にいた人数等についてもMの供述と一致しない部分があるか
ら,原告BがMの供述を前提とした誘導を受けているとみることは困難で
あったといえる。
イ原告Cの供述
原告Cは,5月20日から任意で取調べを受けていたところ,同月21
日になって,原告A,原告B,W,その他の誰かとともにjにあるマンシ
ョンの裏道に行った,原告Bに頼まれて見張りをしていたが,原告Bが逃
げろと言うので逃げた,原告Aと原告Bが誰かからお金を取ったと思うな
どと供述するに至り(甲C100),同月22日には警察官を本件現場に
案内した(甲C110)上,「逃げろ」という声が聞こえた時にその方向
に走っていったところ,道路に中年男性が倒れており,その近くに原告A,
原告B及びWがいたことから,上記中年男性に対していわゆる親父狩りを
したのだと分かったと供述している(甲C104)。そして,犯行につい
ては原告Eの指示があったと思っていたとして,原告Eの関与を認めてい
る(甲C104)。このように,原告Cは,取調べの比較的早い段階から
自己に不利益な供述をした上,本件現場を案内したものとされており,ま
た,原告A,原告B及びWが実行犯であったとする点や原告Eの指示があっ
たとする点で原告Bの供述内容と一致し,その供述に高い信用性を認める
だけの根拠があったといえる。また,原告Cが,あえて共犯者とされる原
告Aらに不利な虚偽供述をする理由は見当たらず,とりわけ,原告Bは原
告Cの兄であり,兄弟仲が悪かったという事情も見受けられないことは原
告Bについて述べたところと同様であるから,あえて原告Bに不利な供述
をするとは考え難いのであって,このこともまた原告Cの供述の信用性を
補強する。
そして,原告Cは比較的早期に自白しており,そのような早い段階で暴
行等を伴う取調べがされるとは一般に考え難いことからすると,検察官に
おいて,原告Cが警察官による誘導等により自白するに至ったと認識する
ことは容易でなかったというべきである。
以上検討したところによると,5月22日の時点での原告Cの供述は十
分に信用することができる状況にあったといえる。
ウMの供述
Mは,5月22日の時点において,従前の供述を変更するなどしていな
い。したがって,その信用性に関する評価については前記(2)イのとお
りである。
(4)原告Cの勾留請求段階(5月23日)
ア原告Bの供述
原告Bは,5月23日の時点において,従前の供述を変更するなどして
いない。したがって,その信用性に関する評価については前記(3)アの
とおりである。
イ原告Cの供述
原告Cは,5月23日の検察官による弁解録取において,原告Dもまた
本件事件に関与している(ただし,関与の態様は明確ではない。)旨の供
述をしており(甲C106),供述の変遷がみられる上,原告Dが実行犯
として関与したことを否定するようになった原告Bの供述と必ずしも整合
しない。しかし,原告Cは,原告Bの関与については一貫して認めており,
これについては原告Bの供述とも合致する。そうであるとすれば,原告B
の関与を認め,自らも何らかの形で犯行に関与していることを認める限度
においては,原告Cの供述は信用するだけの相当な根拠があったというべ
きである。
なお,原告Cは,刑事第1審において,5月23日の検察官による弁解
録取において原告Dの関与を示唆されたとして,検察官からの誘導があっ
たかのような証言をしている(甲C189の114頁)が,同月22日に
は原告Bが原告Dは実行犯でない旨供述をしている(甲C75)上,Mに
おいてもこの時点では原告Dが関与しているとは供述していなかったので
あるから,検察官が原告Dの関与を示唆するとは考え難く,上記証言は信
用できない。
ウMの供述
Mは,5月23日の時点において,従前の供述を変更するなどしていな
い。したがって,その信用性に関する評価については前記(3)ウのとお
りである。
(5)原告Bの勾留延長請求段階(5月29日頃)
原告Bについては,5月29日に勾留期間の満期を迎えることから,この
頃,勾留延長請求がされたものと認められる。
ア原告Bの供述
原告Bは,5月29日の時点において,共犯者及び犯行態様に関する従
前の供述を変更するなどしていない(5月26日の取調べで,犯行に及ん
だのは原告D及び原告Eに指示されたからであり,原告Dは本件マンショ
ンの近くまで来ていた旨供述しており(甲C78),原告Dの関与につき供
述が変遷しているようにも見受けられるが,同月22日の取調べでは,原
告Dが実行犯ではないと供述しているにとどまり,犯行に全く関与してい
ないと供述したわけではないし,同月27日の取調べでは,原告Dが実行
犯である旨供述していたのは,原告Dは本件現場の近くまで来ていたため,
実行犯であると嘘をつくのに都合がよかったからと説明しており(甲C7
9),供述が変遷しているとまではいえない。)から,その信用性に関する
評価は前記(4)アのとおりである。
なお,後記ウのとおり,Mが同月27日に供述を大きく変更しているこ
とから,検察官において,警察官による取調べが誘導等を伴うものではな
いかと疑う契機はあるといえるが,原告Bは一般的に誘導等がされるとは
考えにくい取調べの初日から自白しており,その供述には本件被害者及び
Mの供述と一致しない部分も含まれていたことは前記のとおりである(前
記(1)ア,(3)ア)から,少なくとも原告Bの関係では,警察官による
誘導等を認識することは容易でなかったというべきである。
イ原告Cの供述
原告Cは,前記(4)イのとおり,5月23日の時点で既に原告Dの関
与を認めていたが,同月26日の取調べにおいて,原告Dが本件現場の近
くまで来ていたと明確に供述し,それまで原告Dの名前を出していなかっ
た理由につき,原告Dは暴走族の元総長で,名前を出すと仕返しされると
思い,怖かったためと説明しており(甲C109),その説明は一応合理
的なものといえるし,原告Dが本件現場付近に来ていたとする上記供述は,
原告Bの供述とも整合する(上記ア)。
したがって,5月29日頃の原告Cの供述についても,一定の信用を置
くだけの相当な根拠があったといえる。
ウMの供述
Mは,5月18日の取調べまでは,見張りとして本件事件に関与したと
供述していた(甲C138)が,同月27日,本当は本件現場には行って
いないと供述するとともに,原告Dが本件事件に関与していたことを初め
て供述し(甲C139),同月28日,本件事件発生の翌日である2月1
7日に原告Eから本件事件のことを聞いたと供述するに至った(甲C14
0)。そして,当初は自分自身の関与を認める一方で原告Dの関与につい
て言及しなかった理由につき,原告Eから原告Dの名前を出すなと口止め
されていた,もし話をするなら自分自身も犯行に関与したことにしろと命
令されていたなどと説明している(甲C139)。
しかし,Mは,原告Eの関与については早い段階から認めており(甲C
131),原告Eの口止めや命令によって真実と異なる供述をしていたと
いうのは不合理であるし,引き当り捜査においても本件現場に行ったこと
を前提に同行警察官を案内するなどしておきながら,後に本件現場に行っ
たこと自体を否定している点で供述の変遷の程度は極めて大きい上,なぜ
本件現場に行っていないにもかかわらず引き当たり捜査において同行警察
官を案内できたのかという疑問が生じるから,Mの供述の信用性は大きく
減殺されるといわざるを得ない。
もっとも,5月27日時点でのMの供述は,原告A,原告B,原告C,
原告D及び原告Eの関与を認める点で原告B及び原告Cの供述と整合する。
また,実際に犯行に関与していないにもかかわらず,犯行について供述で
きた理由については,原告Eに教えられたためと説明しており(甲C14
0の12頁),その説明は必ずしも説得的ではないものの,原告Eが内輪
の話としてMに犯行を告げることも考えられないことではないし,原告E
の名前を早期に出していた点についても,自分なりの原告Eに対する仕返
しだったと一応の説明をしており(甲C139の8頁),この説明もまた
説得的とはいい難いが,いまだ社会的に未成熟で必ずしも合理的な行動ば
かりをとるとは限らない少年において,仕返しのために原告Eの名前を挙
げることもあり得ないとはいえない。さらに,Mは,5月14日に原告D
及び原告Eから公園に呼び出され,同月17日には両名が自宅へ来て,警
察での取調べについて圧力をかけられたと供述しており(甲C139の6
頁),仮にこうした事実について裏付けをとることができれば,Mの供述
の信用性は相当程度回復すると考えられるから,そのような裏付け捜査が
未了の時点においては,Mの供述の信用性を完全に否定してしまうのは相
当でないし,少なくとも,原告B及び原告Cの供述の信用性を否定させる
ようなものではないというべきである。
(6)原告Cの勾留延長請求段階(6月1日)
原告Cについては,6月1日に勾留期間の満期を迎えることから,この頃,
勾留延長請求がされたものと認められる。
ア原告Bの供述
原告Bは,6月1日の時点において,それまでの供述を変更するなどし
ていない。したがって,その信用性に関する評価については前記(5)ア
のとおりである。
イ原告Cの供述
原告Cは,5月31日の取調べにおいて,原告Eが本件現場付近に潜み,
お金を奪えそうな男性が来たら原告Cの携帯電話にワンコール(携帯電話
の呼出音を鳴らしただけで電話を切り,通話することなく着信の事実のみ
を伝える方法)の合図をすることになっていたこと,実際に原告Eからワ
ンコールの合図を受け,それを原告Aらに伝えたことを供述している(甲
C111)が,共犯者及び犯行態様に関する従前の供述を変更するなどし
ていない。したがって,6月1日時点の原告Cの供述の信用性に関する評
価については前記(5)イのとおりである。
ウMの供述
Mは,6月1日の時点において,それまでの供述を変更するなどしてい
ない。したがって,その信用性に関する評価については前記(5)ウのと
おりである。
(7)原告Bの家庭裁判所送致段階(6月8日)
ア原告Bの供述
原告Bは,6月2日の取調べにおいて再び原告Dが実行犯の1人である
と供述し(甲C80),6月4日にはWは無関係であると供述するに至った
(甲C85)。そして,原告Bは,それまで原告DではなくWが実行犯であ
る旨供述していた理由について,原告Eから,本件事件のことは絶対に警
察に話すな,原告Dの名前は絶対に出すな,代わりにWの名前を出せ,な
どと命令されており,命令に逆らうと何をされるか分からなかったため,
その命令に従ったと説明している(甲C85,86)。
こうした説明については,原告Eから上記のような命令を受けたとしな
がら,なぜ命令をした本人である原告Eの関与については当初から一貫し
て認めているのかという疑問があり,にわかに信用できないものといえな
くもない。
しかし,原告Bはいまだ社会的に未成熟な少年であるから,常に合理的
な行動をとるという前提でその供述の信用性を判断することが相当でない
場合もあるし(後記のとおり,原告Bが否認に転じた後の供述もまた,合
理的に説明できない部分が多々ある。),そもそも,原告Bは,原告D及
び原告Eを暴走族の元総長であると認識しており,「仲間の中で,悪いこ
とをして警察に捕まっても絶対仲間の名前を言わない」という決まりがあ
った(なお,こうした決まりがあることはJ事件の発生経緯からもうかが
える。)と言いながら(甲C75),取調べの初日から原告D及び原告E
の関与を認め,犯行態様に関する供述は本件被害者の供述とおおむね一致
していたのであり,この供述に高い信用を置くだけの相当な根拠があった
ことは前記(1)アのとおりである。むしろ,この当初の供述を撤回し,
原告DではなくWが実行犯であったと供述するに至った理由が説得的でな
いのであって,怖いと認識していたはずの原告Dの名前を取調べの早々に
出した理由は明らかにされないままである。そうすると,Wの関与につい
て否定に転じた上,再び実行犯として原告Dの名前を出した理由を必ずし
も合理的に説明できないからといって,原告Bの供述の信用性を直ちに否
定してしまうのは相当でない。
かえって6月2日には原告Cも原告Dが実行犯の1人である旨の供述を
しており(後記イ),同月8日時点の原告Bの供述と原告Cの供述は,見
張りをしていた原告Eから原告Cの携帯電話に合図(ワンコール)があっ
たこと,その合図を受けて本件現場付近で待機していたところ,60歳く
らいの男性が西から東へ歩いてきたこと,原告A,原告B,原告C及び原
告Dの4人で上記男性とすれ違い,直後に原告Aがタックルして倒したこ
と,原告Aが「金出せ」などと言い,原告B,原告C及び原告Dも「殺す
ぞ」などと脅したこと,倒された男性は財布から紙幣を取り出して原告A
に渡したこと,その後は4人で東方向へ逃走したこと等,共犯者や犯行態
様の点でかなり具体的に一致してきているのである(甲C87,117)
から,この時点での原告Bの供述の信用性は低いものではないと評価する
だけの相当な根拠があったというべきである。
イ原告Cの供述
原告Cは,6月2日の取調べにおいて,実は原告Dは現場の近くにいた
のではなく実行犯の一人であった旨供述するとともに,Wの関与を否定し,
自分自身の関与についても,見張りにすぎなかったとする供述を撤回し,
本件被害者に対して「殺すぞ」などと脅した旨供述するに至った(甲C1
12)。そして,それまで原告Dの関与について異なる供述をし,Wが関
与していたと供述していた理由につき,兄である原告Bから,原告Dのこ
とは黙っておけ,代わりにWの名前を出しておけ,などと言われていたと
ころ,5月23日の弁解録取でうっかり原告Dの名前を出してしまったた
め,現場近くまで来ていたなどとしてごまかした,Wについては原告Bに
言われたとおり名前を出した,などと説明している(甲C114)。
自分自身の関与について供述を変更した点については,当初は自己の刑
責を軽減させるため虚偽の供述をしていたものと考えることが可能であり,
供述の信用性を大きく減殺させる事情とまではいえないが,原告Dの関与
に関する供述を変遷させた点については,さほど厳しい追及があったとは
考え難い弁解録取の段階において原告Dの名前を出していることを十分に
説明できないことを指摘できるほか,原告Dの代わりにWの名前を出せと
命じられたとしながら,原告Dの名前を出した後もWの名前を出し続けて
いる点で説明に矛盾があるともいい得る。
しかし,取調べ当時15歳であり,いまだ判断能力や注意力が発達途上
にあったといえる原告Cにおいて,検察官による弁解録取でうっかり原告
Dの名前を出すことも考えられないではなく,そうして名前を出してしま
った以上,どうにかしてこれを取り繕うため,原告Dは現場付近に来てい
たにとどまり,実行犯はWである旨供述することはさほど不自然ではない。
そして,原告Dの関与をその限度にとどめた以上,実行犯としてWの名前
を出し続けたことはむしろ合理的ともいえ,6月2日に至ってようやくW
の関与を否定し,原告Dが実行犯であると供述するに至った経緯からする
と,原告Bの口止めが原告Cの供述に影響を与えていたのではないかと推
測することにもそれなりの合理性があるといえる。
さらに,原告Cは,6月8日の検察官の取調べにおいて,Cc検察官か
ら,犯行現場で被害者とすれ違った際の状況について説明を求められ,図
面を作成しているが,その際,自分の位置について,当初は,先頭が原告
A,そのやや後ろから原告B,その後を原告D,自分は一番最後であった
旨図面を書いて説明したが,検察官の口授の途中で,「自分の位置はDの
後ろではなく,少し右斜め後ろであったと思い出したので,図面を訂正さ
せて欲しい」旨申し出,自ら図面に訂正を加えたと認められる(甲C12
3,195の53頁,204の21頁)。このように,犯行状況を自らの
意思に基づいて具体的に供述していること,その供述内容は原告Bの供述
と整合するものであったこと(上記ア)を考慮すると,検察官からみて,
6月8日時点での原告Cの供述は十分に信用できたというべきであるし,
原告Cが警察官の誘導等により供述していると認識することは容易でなか
ったといえる。
よって,この時点での原告Cの供述の信用性は低いものではないと判断
することに相当な根拠があったというべきである。
ウMの供述
Mは,6月8日の時点において,従前の供述を変更するなどしていない。
したがって,その信用性に関する評価については前記(6)ウのとおりで
ある。
(8)原告Cの家庭裁判所送致段階(6月11日)
6月11日の時点では,原告B,原告C及びMは,いずれも従前の供述を
変更するなどしていない。したがって,それぞれの供述の信用性に関する評
価は上記(7)のとおりである。
(9)原告D及び原告Eの逮捕段階(6月14日)
ア原告B,原告C及びMの供述
6月14日の時点では,原告B,原告C及びMは,いずれも従前の供述
を変更するなどしていない。したがって,それぞれの供述の信用性に関す
る評価は上記(8)のとおりである。
イ原告Aの供述
原告Aは,5月28日,本件現場の地図を書いた上で,「この場所でオヤ
ジ狩りをしたかもしれません」との自供書を作成し(甲C19),引き当た
り捜査において同行警察官を本件現場に案内した(甲C23)後,「僕が今
日けいじさんを案内した場所でオヤジガリをしました」,「1月か2月だと
思います」との自供書(甲C20)を作成した(甲C202の17頁)。そ
して,6月1日,上記犯行は原告D及び原告Eのために行った旨の自供書
を作成した(甲C22)。
これらの供述は,原告D及び原告Eの関与の態様を明確にしたものでは
ないものの,自己に不利益な事実を認めており,原告Aがあえて両名に不
利な供述をする理由は見当たらないことからすると,その信用性を低いも
のではないと判断したことに相当な根拠があったというべきである。
なお,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,原告Aの供述は警察官の
誘導等によるものと認められるが,5月24日の引き当たり捜査に関する
捜査報告書等が作成されていないこと,6月14日の時点では原告B及び
原告Cが原告D及び原告Eの関与について具体的に供述しているにもかか
わらず,原告Aはこれを明確にしていないこと等からすると,検察官にお
いて,原告Aが誘導等によって自供したものと認識することは容易でなか
ったといえる。
(10)原告D及び原告Eの勾留請求段階(6月15日頃)
原告D及び原告Eは,6月15日頃勾留請求されたものと考えられるが,
この時点では,原告B,原告C,M及び原告Aは,いずれも従前の供述を変
更するなどしていない。したがって,それぞれの供述の信用性に関する評価
は上記(9)のとおりである。
(11)原告D及び原告Eの勾留延長請求段階(6月24日頃)
原告D及び原告Eの勾留は6月24日頃満期を迎えることから,この頃,
両名につき勾留延長請求がされたものと認められる。
ア原告Bの供述
原告Bは,6月24日頃の時点において,従前の供述を変更するなどし
ていない。したがって,その信用性に関する評価については上記(10)
のとおりである。
また,原告Bは,6月22日の検察官の取調べにおいて,原告D及び原
告Eが逮捕されてうれしいと供述する(甲C94,196の46頁)など,
両名の犯人性について虚偽の供述をしているとは思えない態度を示してお
り,検察官において,原告Bが任意に供述しているものと判断することも
やむを得ず,誘導等により供述していると認識することは容易でなかった
といえる。
イ原告Cの供述
原告Cは,6月22日の取調べにおいて否認に転じている(甲C200
の49頁・64頁)。
しかし,6月8日時点での原告Cの供述内容を信用するだけの相当な根
拠があることは前記(7)イのとおりであるし,後記エのとおり,原告A
もまた原告Cの関与をほのめかす供述をするに至っており,原告Cの否認
にかかわらず,6月8日時点での供述は6月24日時点においても信用す
るだけの相当な根拠があったというべきである。
ウMの供述
6月24日の時点においてもMの供述に変更はないが,6月20日に同
人の母親であるDdに対する事情聴取がされ,同人は,5月17日夕方頃,
帰ってきたMが,原告D及び原告Eから「お前,大人なめてんのか。ポリ
にEチクリやがって。刑事がお前言うたと言うてるやないか」などと脅さ
れたと話していたこと,その夜,原告D及び原告Eが自宅を訪ねてきて,
原告Dから,「お宅の息子さんがね,こいつ(原告E)のことね,殺人者と
か,怖くて一緒におったとか,命令されてたとか,警察に言うとるんです
わ。何もしてないのに何でそんなこと言うんかなぁと思ってね。それで,
さっきも『俺等と関わらんといてくれ』って息子さんにも言うたんですわ」
などと言われたこと等を供述した(甲C142)。
そして,原告Dも,同月23日の取調べにおいて,①原告Eは,逮捕さ
れたHと面会した同人の姉から,Mが警察の取調べで「Eという男は,人
殺しして,威張っている人間や。それで,子供を怖がらせてる。僕らがE
の所に行くのも,それに従わないとシバかれるから,行っているんだ」と
言っているようだという話を聞いており,5月中頃,自分もその話の内容
を原告Eから電話で聞かされた,②Mが「人殺し」と言っているのは,か
つて原告Eが交通事故を起こして1人の小学生を死亡させてしまったこと
を指してそのように言っているものと思い,Mに注意しなければならない
と考え,原告EとともにMに注意したが,同人はそのようなことは言って
いないと否定した,③その夜,同人宅を訪問し,母親(Dd)に対し,M
が警察の取調べで原告Eを「人殺し」などと言っているようだが,原告E
はそのような人間ではないと伝えた,などと供述している(甲C156)。
また,原告Eも,6月23日の取調べで,おおむね同旨の供述をしており
(甲C148),5月17日に原告D及び原告EがM宅を訪れ,警察での取
調べにおける供述内容に関してMに何らかの注意を与えたことは証拠上明
らかであるといえる。
Mは,上記のとおり,5月17日に原告D及び原告Eの訪問を受け,本
件事件に関する取調べについて圧力をかけられたと供述しているところ,
この供述は,Mから「j」での「親父狩り」の事件について取調べを受け
ていることを聞いていたとする原告Eの供述(甲C148の3頁)とも符
合しており,一定の信用を置くだけの根拠があったといえる。
この点について,原告D及び原告Eは,上記のとおり,Mが警察で原告
Eのことを「人殺し」などと言っていることを注意したにすぎないと説明
しており,Ddの供述もこうした説明と整合する。しかし,そうしたMの
発言のみを捉えて,わざわざ自宅を訪問し,しかも本人ではなくその母親
に注意するとは考えにくい。また,Ddは,原告Dが「さっきも『俺等と
関わらんといてくれ』って息子さんにも言うたんですわ」と言ったと供述
しており(甲C142の5頁),その発言内容からすると,Mに対し,本件
事件との関係を含め,一切の不利益供述を口止めしていたものと推測する
余地もある。
そうすると,原告D及び原告Eの口止めがあって本当のことが言えなか
ったとするMの前記供述は,それなりの裏付けを伴うものであり,あなが
ち不合理ともいい難いから,同人の供述のうち,原告D及び原告Eの関与
を認める部分については,6月24日までに一定の信用性を回復したとみ
ることにも相当な根拠があったといえる。
エ原告Aの供述
原告Aは,5月28日以降,本件事件に関与したことを認めるような供
述をする一方,共犯者については思い出せないと供述していた(甲C19
から21まで,25,28から30まで)が,6月24日の取調べで,原
告Cが近くにいたことを思い出したと供述するに至った(甲C33,35)。
原告Aには,あえて原告Cに不利な供述をする動機は見当たらない上,原
告Cが関与したとする点で原告B及び6月8日時点の原告Cの供述と整合
するから,原告Aの上記供述には信用を置くだけの相当な根拠があったと
いえる。
なお,この間の原告Aの供述には不自然に理詰めで説明的な部分があり
(甲C28,29),取調べにおける誘導を疑わせることは前記第3の2
(2)イ(ウ)のとおりであるが,共犯者が誰でありその具体的な犯行態
様はどのようなものであったかについては6月24日の時点においても明
確に供述していないのであるから,検察官において,原告Aが警察官の誘
導により供述していると認識することは困難であったというべきである。
(12)原告D及び原告Eの起訴段階(7月5日)
ア原告Bの供述
原告Bは,6月30日付けで本件被害者に宛てて謝罪の手紙を送付し(甲
C95),7月2日に行われた自身の少年審判においても自白を維持してい
る(甲C188)。こうした事実は,原告Bの供述の信用性を補強するとい
える。
イ原告Cの供述
原告Cは既に取調べで本件事件への関与を否認するようになっているが,
依然として6月8日時点での供述は信用を置ける状況にあったといえるこ
とは前記(11)イのとおりである。
ウMの供述
7月5日の時点では,Mの供述の信用性に関し,以下のような事情を指
摘することができる。
(ア)7月2日にはMの姉であるEeが事情聴取を受けている(甲C14
3)。同人の供述はおおむね以下のようなものである。
Mが警察での取調べを受け始めた5月初め頃,同人は,原告Eが関与
した「親父狩り」があると話していた。それについてMが関与していな
いか問い詰めたところ,最初は曖昧な答えしかしていなかったものの,
更に追及すると,関与していないと言い,その事件のことについて知っ
ているのは,原告Eから説明を受けたからだと言っていた。そして,そ
の事件には原告A,原告B,原告C及び原告Dが関与していると言って
いた。その後,Mが,警察の取調べで本件事件に関与していると供述し
たと言ったため,なぜそのような嘘を言ったのか尋ねたところ,原告E
が怖いという趣旨の説明をしていた。Mは,その後,原告D及び原告E
に呼び出され,「お前,何でチンコロしたんや」と,本件事件について警
察に話したことを責められたようで,別の日にも呼び出された上,「お前,
俺らのことをチクッとんやろが。大人なめんなよ」などと,警察での取
調べについて圧力をかけられたようであった。また,その日の夜には原
告D及び原告Eが自宅に訪ねてきて,母と自分が応対したところ,「お宅
の息子さんが,警察で,こいつのことを殺人者とか,怖くていつも一緒
にいたとか,命令されていたとか言っている。こいつは何もしてないの
に,何でそんなことを言うのですかね」などと言われた。
以上の供述は,5月27日のMの供述(前記(5)ウ)とおおむね一
致する。確かに,Eeは,原告D及び原告Eの訪問を受けた際,本件事
件については直接言及がなかったと供述している(甲C143の8頁)
が,Mがその直前に原告D及び原告Eに呼び出されて,「チクッとんやろ
が」などと警察で本件事件についてしゃべったことを追及されていたと
も供述しており(同6頁),原告D及び原告Eが,Mに対し,本件事件へ
の関与も含めて,一切の不利益供述を口止めしていたものと推測する余
地もある。
(イ)一方,原告Dは,7月3日の取調べで,Mの自宅を訪問した日より
も前に,同人を公園に呼び出したと供述し(甲C163の5頁),原告E
も,7月4日の取調べで,ゴールデンウィークが明けた頃,原告Dとと
もに公園でMと話をした旨供述している(甲C152)。これは,Mが5
月27日に供述していた,5月14日の出来事と推認される。
この点について,原告Dは,Mが警察の取調べで原告Eの悪口を言っ
ていること及び学校で弱い者いじめをしていることを注意するためだっ
たとし,原告Eは,Mが原告E宅から500円を盗んだことを周囲に自
慢していることについて原告Dが注意したとし,いずれも本件事件につ
いて口止めするためにMと会ったわけではないと供述している。
しかし,わざわざMを呼び出した理由として原告D及び原告Eの上記
説明は必ずしも説得力がない。また,原告Dは,Mを公園に呼び出した
際,警察でどのような事件について聴取を受けているのか尋ねていない
と供述するが(甲C165の2頁),Mが警察の取調べで原告Eの悪口を
言っていることを問題にしているのであるから,どのような事件につい
て聴取されているかを尋ねないというのは不自然であり,Mが本件事件
での取調べを受けていることを知っていたにもかかわらず,原告Dはあ
えてこの点を隠そうとしているようにも見受けられる。
(ウ)以上からすると,5月中に2回にわたって原告D及び原告Eから口
止めされたとするMの供述はそれなりに信用できる状況にあったといえ,
変遷の経緯にいささか理解し難いところがあるとしても,原告D及び原
告Eが本件事件に関与しているとするMの供述についても信用できない
ような状況にあったとはいえない。
エ原告Aの供述
原告Aは,6月28日の取調べで,原告Eが近くにいたと思うと供述し
(甲C37),同月29日の取調べでは,原告Bが共犯者の1人である旨供
述した(甲C40,42)。さらに,同月30日の取調べにおいて,それま
で供述していた「もう1人」の共犯者とは原告Dであると供述するに至っ
た(甲C43)。原告Aがあえて上記3名に不利な供述をする理由は見当た
らず,原告B,原告D及び原告Eの関与を認める点で原告B及び6月8日
時点での原告Cの供述と一致することからも,信用するに足りる相当な根
拠があったといえる。もっとも,その供述経緯をみると,6月1日に原告
D及び原告Eのために犯行に及んだと供述しながら他の共犯者の名前を挙
げず,自身の関与は一貫して認めつつ自分がどのような行動をしていたか
思い出せないなどの供述を続けており,真に犯行に関与した者の供述とし
ては不自然であることを指摘できるが,原告Aが,原告D及び原告Eに対
する恐怖心等から,自らの意思で,あえて共犯者の名前を出すことを避け,
これに伴って犯行状況等に関する具体的な供述も避けていたとみることも
十分可能である。また,Cc検察官は,6月25日,原告Aを取り調べた
際,5月28日の引き当たり捜査は自分から案内したのか尋ね,原告Aは
これを肯定しているのであり(甲C194の27頁),検察官において,原
告Aが誘導等により供述していると認識することは容易ではなかったとい
える。
(13)アリバイ立証終了後(平成17年2月18日頃)
ア原告Bの供述
平成17年2月9日に開かれた刑事第1審の第14回公判期日において
Oが原告Aのアリバイに関する証言をし,同月18日,Oが使用していた
携帯電話が押収され,メールデータが解析されることになった。前記第3
の1(2)イ(ア)のとおり,同メールデータ及びOの証言によれば,原
告Aにアリバイが成立する可能性が高く,原告Aの関与を前提とする原告
Bの供述の信用性は大きく減殺されるといわざるを得ないが,刑事第1審
における原告Bの証言には以下のとおり不可解な部分がある。
すなわち,原告Bは,刑事第1審において,5月19日には特に警察官
からの暴行はなく,机をたたかれるということもなかった(甲C196の
97頁・114頁)ものの,取調べ開始から30分程度で自白した(同1
0頁)と供述しており,真に犯行に関与していないのであれば,なぜその
ように早期に自白するに至ったのかという疑問は解決されないままになっ
ていたといえる。この点について,原告Bは,ポリグラフ検査の結果を指
摘され,機械は嘘をつかないと言われたため何も言えなくなったと供述し
ている(同12頁)が,必ずしも納得のいく説明とはいえない。認めてし
まえば早く家に帰ることができると思ったとも説明している(同143頁)
が,一方で,「僕だけ逮捕されてなかったから,多分逮捕されるというの
は,そういう勘というのはありました」と供述しており(同頁。既にG及
びHが逮捕されていることを踏まえて,自身もいずれ逮捕されるであろう
という認識を示した発言と思われる。),説明として矛盾しているといわ
ざるを得ない。
そして,原告Bは,その後も自身の関与を認める旨の供述をし,少年院
に送致される可能性も認識しながら,自身の少年審判においても自白を維
持している。このように自白を維持した理由について,原告Bは,少年院
に行くよりも取調べを受け続ける方が嫌だったと供述するが(同52頁),
取調べにおいて原告Bが供述するような暴行がされたことは認め難いこと
は前記第3の3(1)ウのとおりであり,自白を維持した理由として得心
のいくものではない。
また,原告Bは,原告D及び原告Eは暴走族の元総長であると認識して
おり(同62頁),原告Dや原告Eといった年上の人間を共犯者として供
述するのは怖いと思っていたと言いながら(同18頁),原告Dの名前を
特に理由もなく「当てずっぽう」で出したとし(同102頁),原告Eが
経済的に困窮していたことが犯行に及んだ理由であると供述した点につい
ても,自分で考えたことである旨証言しており(同19,20頁),あえ
て成人である原告D及び原告Eの名前を挙げ,しかもその責任を重くする
ような供述をした理由が不明である。この点について,原告Bは,誰でも
よかったので身近な人間の名前を挙げたと説明している(同18頁)が,
その他にも親しい友人はいた(同66頁)というのであるから,さほど親
しいわけでもなかったという原告D及び原告E(同69頁)の名前を出し
た理由にはなっていない。原告Bは,最終的には,原告D及び原告Eに命
令されていたことにすれば自分の責任を軽くすることができると思ったと
証言している(同147頁)が,弁護人からの誘導を受けてようやく供述
した内容であり,にわかに信用することができない。
さらに,原告Bは,原告Cの名前も挙げているところ,これについても
たまたま出たなどと証言するにとどまり(18頁),説得的な理由とはい
えない。しかも,原告Bは,強盗致傷罪の法定刑について警察官から聞い
ており(同60頁),強盗致傷の非行事実が認められることになれば原告
Cは少年院送致となるであろうことを認識していたと考えられる(同51
頁参照)にもかかわらず,自身の少年審判において,原告Cが否認してい
ると認識した後も原告Cの関与を認める証言をしており(同59頁),あ
えて原告Cに不利な供述を維持した理由もまた不可解である。
そうすると,原告Aに係るアリバイ立証が終了した後も,原告Bの捜査
段階の供述の信用性を直ちに否定することができるような状況にはなかっ
たというべきである。
イ原告Cの供述
原告Cもまた,原告Aの関与を前提とする供述をしていたため,原告A
についてのアリバイ立証が終了した後は,その供述の信用性が減殺される
といわざるを得ないが,刑事第1審における証言だけでなく既に否認に転
じた後の少年審判における供述にも不可解な部分がある。
すなわち,原告Cは,刑事第1審において,自白するに至った理由につ
き,否認しても信用してもらえない上,警察官から暴行を受けたためと証
言している(甲C195の33頁)が,任意同行中の取調べにおいて原告
Cが供述するような激しい暴行があったとは認め難いことは前記第3の4
(2)ウのとおりである。また,原告Bが自白していると聞かされたこと
も自白に至った理由として挙げているものの,5月20日の取調べから原
告Bの自白は聞かされていたといいながら(同93頁),翌日の取調べでは
いったん否認に転じているのであり(同99頁,甲C124),原告Bの自
白を聞かされたことが原告Cの供述に直接的な影響を与えたとも考え難い。
原告Cは,検察官による弁解録取において原告Dの名前を出したことに
つき,検察官から誘導があった旨証言している(甲C195の114頁)
が,その前日である同月22日には原告Bが原告Dは実行犯ではない旨供
述をしている(甲C75)上,Mにおいてもこの時点では原告Dが関与し
ているとは供述していなかったのであるから,検察官が原告Dの関与を示
唆するとは考え難く,上記証言は信用できない。また,原告Cは,原告D
が暴走族の元総長であると認識していながら(同C195の62頁),検
察官から原告Dの存在を示唆され「当てずっぽう」で名前を出したと証言
しており,1回しか話したことがないという原告D(甲C195の3頁)
の名前を弁解録取の段階で出した理由は明らかでない。
原告Aの名前を出した理由についても,「Aは違うかといった感じで聞
かれた」とし(甲C195の107頁),これを肯定したと証言する一方
(同108頁),「日常的には,Aとよくつるんでいるから,Aから呼ば
れたということにしたということではないんですか」との弁護人の質問に
対しては,「覚えてない」と答えており(同109頁),原告Aの名前を
出した経緯が曖昧であるし,本件事件当時最も仲が良かったとする原告A
(同68頁)の名前を出すに当たって,多少なりともちゅうちょした形跡
もうかがえない。原告Eの名前を出した点についても,食事をごちそうし
てくれたりするという原告E(同60頁)にあえて不利な供述をした理由
は明確に説明されていない。
もともとは見張りをしていたという供述をしながら,自身も直接関与し
たと供述するに至った経緯についても,本当はやっただろうと何度も言わ
れたので供述を変えたとしながら(同123頁),少年審判では,そのよ
うに供述を変えた経緯を覚えていないと供述しており(甲C189の27
頁),供述を変えた理由は明確でない。また,5月21日作成の自供書(甲
C101)に書いた地図については,警察官が別の紙に書いた地図を見な
がら書いたとし(甲C195の26頁),引き当たり捜査においてもそうし
て書いた地図を見ながら案内したと証言している(同30頁)が,少年審
判では,5月20日及び同月21日に作成した地図は押しつけられて書い
たものかとの質問に対して沈黙し(甲C189の31頁),引き当たり捜査
では自分で案内して自供書を作成したのではないかとの質問に対してもこ
れを否定することなく沈黙している(同34頁)。そして,刑事第1審にお
いてこの点を追及されても沈黙しており(甲C195の16頁),自分で書
いた地図だけを見て現場を案内することができたのかという問いに対して
も答えていない(同31頁)。
さらに,6月8日の検察官の取調べにおいて,いったん犯行状況を説明
した図面(甲C117)を書きながら,人物の位置関係を訂正した(甲C
123)理由についても,検察官から書き直せと命じられたわけではなく,
特段の理由はないまま書き直したと説明するにとどまり(甲C195の5
4頁),明確な説明はできていない。
そうすると,刑事第1審における証人尋問の後においても,原告Cが,
取調べの比較的早い段階から原告A,原告E及び原告Dの関与を認め,し
かも本件現場を案内することができた理由は明らかになっていないといわ
ざるを得ず,原告Cの捜査段階の供述の信用性を直ちに否定することがで
きるような状況にはなかったというべきである。
ウMの供述
Mは,刑事第1審公判においても,原告Eから本件事件を敢行した旨の
説明を受け,そのことについて原告D及び原告Eから口止めを受けていた
と証言し,5月14日及び同月17日の出来事についても,従前とおおむ
ね同内容の証言をした(甲C197)。
これに対して,原告D及び原告Eは,上記両日に本件事件について口止
めをしたことはなく,Mが原告E宅から500円を盗んだことを自慢して
いることや警察の取調べで原告Eの悪口を言っていることについて注意を
したにすぎないと,起訴前と同内容の供述をした(甲C205,208)。
原告Aに係るアリバイ立証がされた後の時点においても,原告D及び原
告EがMをわざわざ呼び出してまでそうした注意をするかという疑問が残
ることは前記(11)ウ,(12)ウでみたところと変わりはなく,原告D
及び原告Eから本件事件について口止めを受けたというMの証言が信用で
きない状況に至っていたとまではいい難い。
エ原告Aの供述
原告Aは,原告D及び原告Eが起訴された後,7月21日に行われた原
告Cの少年審判においても従前の供述を維持する証言をしていた(甲C1
91)が,9月22日の刑事第1審において否認に転じ,他の原告らの関
与も否定する証言をした(甲C194)。原告Aにはアリバイが成立する可
能性が高く,アリバイ立証後は自己の関与を前提とする供述の信用性が大
きく減殺されることはこれまでに述べたところと同様であるが,刑事第1
審の証言には次のような疑問も残る。
まず,自白するに至った理由について,警察に脅されて嫌になった(甲
C194の15頁),原告B,原告C及びMが自分の名前を出していると言
われた(同70頁,71頁,136頁)などと説明しているが,どのよう
に脅迫されたかは覚えていないとし(同15頁,77頁),弁護人からの「君
はずっと1か月以上にわたって否認しておったんですけれども,最後,こ
れはもう辛抱がたまらんわと思って認める一番の理由,自分にとってもう
認めざるを得ないというふうに諦めたのはどの段階ですか」との質問に対
しても,明確に答えられていない(同85頁)。そして,自白を撤回した理
由につき,自分の供述で他人が迷惑を被っている状態に耐えられなくなっ
た旨説明している(同121頁)が,原告Aは,かなり仲が良かったとす
る原告C(同4頁)の少年審判においてさえ,原告Cが否認していること
を知りながら(同44頁)自白を維持し,原告Cの関与を認める証言をし
ているのであり(甲C191),否認に転じた理由は必ずしも説得的ではな
い。
また,6月1日の取調べで原告D及び原告Eのために犯行に及んだ旨供
述した理由につき,警察官から何日も誘導を受けたためと説明するにとど
まっている(甲C194の87頁)。しかし,原告Aは,警察官の取調べに
対し,原告D及び原告Eを怖いと思っている旨供述し,その理由として,
平成15年頃,原告Eが好意を抱いている女性の自宅を原告Bとともに訪
れるなどしていたところ,原告D及び原告Eから呼び出され,車の中に連
れ込まれて大声で怒られたこと,同じく平成15年頃,原告Eが,当時交
際していた女性に声をかけた男性に対し,他人の目を気にせず暴行を加え
ていたことといった具体的事実を挙げており(甲C46),これらの事実自
体は刑事第1審においても認めている(甲C194の47頁)ことからす
ると,そのように怖いと思っている人物の名前を出した理由として原告A
の上記説明は必ずしも説得的ではない。
さらに,原告Aは,自供書には自分で考えて書いたものもある(同86
頁),原告B及び原告Cが自分の名前を出していることは警察官から聞いた
ものの,誰がどのような行動をしたかは聞いていない(同136頁,13
9頁),などと証言しており,共犯者の名前を小出しにするという供述経緯
に照らせば,原告Aは取調べにおいて自発的に供述しているのではないか
と考えることも不可能ではなく,原告Aが本件事件への関与について否認
に転じる決意をした時期が,刑事第1審で証人として証言することが決ま
った頃であると述べていること(同105頁)を考慮すると,刑事第1審
では原告D及び原告Eに対する恐怖心から犯行を否認する証言をしたので
はないかとの推測も成り立つところである。
そうすると,原告D及び原告Eの関与を認めていた原告Aの供述は,ア
リバイ立証終了後もなお一定の信用を置くことができる状況にあったとい
うべきである。
3争点(2)イ(原告B関係)について
(1)争点(2)イ(ア)(検察官が,捜査本部による原告Bの逮捕を了承し,
勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
ア違法性の判断基準
捜査機関がある被疑事実について被疑者を逮捕・勾留した場合,仮にそ
の後に無罪判決が確定したり,少年審判において非行事実なしとの判断が
確定したりしたとしても,直ちに上記逮捕・勾留が違法とされるわけでは
なく,逮捕・勾留の時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり,
かつ,必要性が認められる限りは適法というべきである(最高裁判所昭和
53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号136頁参照)。
イ逮捕了承の違法性
前記2(1)アのとおり,原告Bの逮捕時点での供述はそれ自体として
高い信用を置くだけの相当な根拠があり,しかもMの供述によってその信
用性が補強されていた。
したがって,犯罪の嫌疑について相当な理由があったといえ,具体的指
揮権の行使の有無にかかわりなく,検察官が原告Bの逮捕を了承したこと
は適法である。
ウ勾留請求の違法性
原告Bの勾留請求時点で,原告B及びMの供述の信用性を判断する上で
状況に変化がないことは前記2(2)のとおりであり,犯罪の嫌疑につい
て相当な理由があったといえるから,検察官が原告Bにつき勾留請求をし
たことは適法である。
エ勾留延長請求の違法性
原告Bに対する勾留延長請求時点での原告Bの供述の信用性は前記2
(5)のとおりである。また,弟である原告Cも原告Bの関与を認めるよ
うになった点で,その信用性は補強されているといえるし,Mの供述が変
遷していることから,原告Bの関与を認める原告B自身及び原告Cの供述
の信用性を否定するに足りるものともいえず,検察官が原告Bにつき勾留
延長請求をしたことは適法である。
(2)争点(2)イ(イ)(検察官が原告Bを家庭裁判所に送致したことは違
法か)について
ア違法性の判断基準
検察官は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑があ
るものと思料するときは,家庭裁判所から送致を受けた事件について公訴
を提起する場合を除いて,家庭裁判所に送致しなければならないとされて
いる(少年法42条)ところ,この場合の嫌疑の程度については,刑事事
件の公訴を提起する場合と同程度の嫌疑があることを必要とするか否かに
ついて議論の存するところである。少年法42条が検察官の家庭裁判所送
致については「犯罪の嫌疑があるものと思料するとき」と規定しているの
に対し,同法45条5号が家庭裁判所から送致を受けた事件を公訴提起す
る場合について「公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑があると思料すると
き」と定め,異なる表現を用いていることからすると,少年の被疑事件に
ついて家庭裁判所に送致する場合の嫌疑は,公訴を提起する場合の嫌疑よ
りも低いもので足りると解する余地もある。実際にも,誤った家庭裁判所
送致によって受ける少年の権利侵害の程度は,少年法の制度の理念からし
ても,刑事事件の公訴の提起による場合に比較して低いものと考えられる
から,検察官が家庭裁判所送致をする際に要求される犯罪の嫌疑の確実性
の程度は,刑事事件の公訴の提起の場合に要求されるそれと比較して,自
ずと差異が生ずることは否定できない。しかしながら,その場合であって
も,少年の被疑事件が検察官によって家庭裁判所に送致されることは少年
の側からみれば一種の不利益処分に当たるのであるから,検察官が事案の
性質上当然になすべき捜査を故意又は過失によって怠り,その結果,収集
した資料の証拠評価を誤るなどして,経験則に反する不合理な心証を形成
し,客観的には犯罪の嫌疑が認められないのに,「嫌疑があるものと思料し
て」少年の被疑事件を家庭裁判所に送致したような場合には,その家庭裁
判所への送致が違法になることはいうまでもない。
イ原告Bの嫌疑
家庭裁判所送致時点での原告Bの供述について信用性が低いと評価すべ
きものではないことは前記2(7)アのとおりである。特に,原告B自身
の関与については供述を変遷させているわけではないから,原告Dの関与
に関する供述の変遷があったとはいえ,自身の関与を認める部分に限れば
信用できるとする評価も十分に可能である。
そして,この時点までの原告Cの供述が信用できることも前記2(7)
イのとおりであり,原告Bの関与を認める部分についてはその一貫性ゆえ
に信用性が高いともいい得る。よって,原告Bに犯罪の嫌疑があるとの心
証を抱いたとしても不合理とはいえず,検察官が原告Bを家庭裁判所に送
致した行為に違法はない。
(3)争点(2)イ(ウ)(検察官が保護処分取消請求手続において原告Bの
犯人性を主張し,取消決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)に
ついて
ア原告Bは,保護処分取消請求手続の段階では,既に原告Aのアリバイが
明らかになっており,原告Bに対する嫌疑は消滅しているにもかかわらず,
検察官が保護処分取消請求手続において原告Bの犯人性を主張し続け,保
護処分取消しの決定に対して抗告受理申立てをしたのは違法であると主張
する。
イしかし,原告Aのアリバイ立証が終了した後も,原告Bの関与を認める
各人の供述が全く信用できないような状況にあったとはいえないことは前
記2(13)のとおりである。とりわけ,原告Bについては,暴行等を受
けることのないまま,取調べ初日の早い段階から犯行を自白し,虚偽の不
利益供述をする理由がない人物を共犯者として挙げ,本件被害者の供述と
おおむね一致する供述をしているばかりか,原告Bの弟である原告Cも,
比較的早い段階から犯行を自白し,原告Bの関与も認めていたのであり,
これだけをみれば,これらの供述になお高い信用を置いたとしても不合理
とまではいえない。
この時点で,原告Bの供述の信用性に再検討を迫る最も大きな事情は刑
事第1審での原告Aのアリバイ立証であるが,原告AとOとのメールのや
り取りから明らかにいえることは,2月16日午後7時55分頃に原告A
がその自宅付近でOと会ったこと及び同日22時頃に同人と別れたことで
あり,その間,両名が継続して面談していたことが当然に推認できるわけ
ではなく,原告Aが本件事件を敢行することは時間的に不可能ではない。
また,アリバイ主張の経緯に関する原告Aや関係者の供述がそのまま信用
することはできないことは前記第3の1(2)イ(イ)のとおりであり,
Oを始めとする関係者が,原告AとOとのメールのやり取りは原告Aのア
リバイにならないと認識していたとの見方もできないではない。
そうすると,原告Aが午後7時55分頃にいったんOと会った後,同人
と分かれて他の原告らと合流して本件事件を敢行し,その後再びOと会っ
て話をしたという事実関係も一応は想定可能である。もっとも,その場合,
原告Aがそのような行動をとったことを関係者の誰もが供述していないと
いう点をどのように評価するかという問題が残るが,犯行前の行動は犯行
そのものと比較すれば周辺的な事情として位置づけられるし,原告Bの供
述が上記のとおりそれ自体として信用性が高いと評価できる事情があり,
同じような事情のある原告Cの供述によっても補強されていることを考え
ると,犯行前の原告Aの行動について事実と異なる供述があるとしても,
犯行そのものに関する供述の信用性を減殺するものではないと評価するこ
とも可能である。
こうした考え方は,当裁判所の採用するところではないものの,原告B
及び原告Cの供述がそれ自体として信用性が高いと評価できる事情があり,
否認に転じた後の説明も必ずしも説得的でないことや,原告AとOとのメ
ールのやり取りを踏まえてもなお原告Aにアリバイは成立しないとした裁
判所の判断もあること(甲D4)に鑑みれば,その合理性を一概に否定す
ることはできないというべきである。
ウそうすると,原告Bに係る保護処分取消請求がされた時点においても,
原告Bにおいて,犯罪の嫌疑について相当な理由があったということがで
き,検察官が保護処分取消請求手続において原告Bの犯人性を主張したと
しても,国家賠償法上違法とまではいえないというべきである。
また,検察官が少年事件において抗告受理申立てをするために必要とさ
れる嫌疑の程度には議論の余地があるものの,少なくとも上記の程度の嫌
疑があれば足りると解するのが相当であるから,検察官が保護処分取消決
定に対して抗告受理申立てをしたこともまた違法ではないというべきであ
る。
4争点(2)ウ(原告C関係)について
(1)争点(2)ウ(ア)(検察官が,捜査本部による原告Cの逮捕を了承し,
勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
ア逮捕の了承
原告Cは逮捕時点で犯行を自白しており,それに信用を置ける状況にあ
ったといえることは前記2(3)イのとおりであって,この自白は原告B
及びMの供述によって補強されているから,原告Cの犯罪の嫌疑について
相当な理由があったといえる。
イ勾留請求
原告Cの勾留請求の時点における各人の供述の信用性についての判断は
前記2(4)のとおりである。よって,原告Cにおいて,犯罪の嫌疑につ
いて相当な理由があったといえ,検察官が原告Cについて勾留請求したこ
とに違法はない。
ウ勾留延長請求
原告Cの勾留延長請求の時点における各人の供述の信用性についての判
断は前記2(6)のとおりである。よって,原告Cにおいて,犯罪の嫌疑
について相当な理由があったといえ,検察官が原告Cについて勾留延長請
求をしたことに違法はない。
(2)争点(2)ウ(イ)(検察官が原告Cを家庭裁判所に送致したことは違
法か)について
原告Cの家庭裁判所送致の時点における各人の供述の信用性についての判
断は前記2(8)のとおりである。よって,原告Cにおいて,犯罪の嫌疑に
ついて相当な理由があったといえ,検察官が原告Cを家庭裁判所に送致した
行為に違法はない。
(3)争点(2)ウ(ウ)(検察官が少年審判において原告Cの犯人性を主張
し続けたことは違法か)について
原告Aのアリバイ立証が終了した後も,原告Cの関与を認める各人の供述
が全く信用できないものではないことは前記2(13)のとおりである。そ
して,原告Aにアリバイが成立しないと考えることにも合理性がないとまで
はいえないから(前記3(3)),原告Cの犯罪の嫌疑についてなお相当な
理由があったといえ,検察官が原告Cの少年審判において原告Cの犯人性を
主張したことは違法ではないというべきである。
(4)争点(2)ウ(エ)(検察官が,中等少年院送致決定に対する抗告審等
で原告Cの犯人性を主張したことは違法か。また,その後の差戻審の決定に
対して抗告受理を申し立てたことは違法か)について
原告Aのアリバイ立証終了後も原告Cにおいて犯罪の嫌疑について相当な
理由があったといえることは上記(3)のとおりである。したがって,原告
Cが中等少年院決定を不服として申し立てた抗告審等において検察官が原告
Cの犯人性を主張し,立証活動を継続したことは違法ではないというべきで
ある。
また,少年審判における抗告受理申立てに必要とされる嫌疑の程度につい
ては議論の余地があるが,少なくとも上記の程度の嫌疑があれば足りると解
すべきであるから,検察官が抗告受理申立てをしたこともまた違法ではない。
5争点(2)エ(原告D及び原告E関係)について
(1)争点(2)エ(ア)(検察官が,捜査本部による原告D及び原告Eの逮
捕を了承し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
ア逮捕
この時点における各人の供述の信用性に関する判断は前記2(9)のと
おりである。よって,逮捕時点では原告D及び原告Eのいずれにおいても
犯罪の嫌疑について相当な理由があったといえるから,検察官が原告D及
び原告Eの逮捕を了承したことは違法とはいえない。
イ勾留請求
この時点における各人の供述の信用性に関する判断は前記2(10)の
とおりであり,原告D及び原告Eのいずれにおいても犯罪の嫌疑につき相
当な理由があったといえるから,検察官が原告D及び原告Eにつき勾留請
求をしたことが違法とはいえない。
ウ勾留延長請求
この時点における各人の供述の信用性に関する判断は前記2(11)の
とおりであり,原告D及び原告Eのいずれにおいても犯罪の嫌疑につき相
当な理由があったといえるから,検察官が原告D及び原告Eにつき勾留延
長請求をしたことが違法とはいえない。
(2)争点(2)エ(イ)(検察官が原告D及び原告Eを起訴したことは違法
か)について
ア違法性の判断基準
刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに公訴の提起
が違法となるということはなく,公訴提起時の検察官の心証は,その性質
上,判決時における裁判官の心証と異なり,公訴提起時における各種の証
拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があ
れば足りるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和53年10月2
0日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁参照)。
イ原告D及び原告Eにつき公訴が提起された時点における各人の供述の信
用性に関する判断は前記2(12)のとおりであり,原告D及び原告Eの
いずれについても,合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があっ
たといえ,検察官が公訴を提起したことは違法とはいえない。
(3)争点(2)エ(ウ)(検察官が刑事第1審において公判を維持したこと
は違法か)について
ア違法性の判断基準
公訴提起時の検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心
証と異なり,公訴提起時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な
判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解すべきこと
は上記(2)アのとおりであるが,公訴の提起が違法でないならば、原則
としてその追行も違法でないと解すべきである(最高裁判所平成元年6月
29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁参照)。
イ本件において公訴の提起が違法でないことは前記(2)イのとおりであ
る。そして,刑事第1審の過程で原告Aに係るアリバイ立証がされたもの
の,同立証後も,原告D及び原告Eの犯人性を基礎付ける供述証拠に一定
の信用性があり(前記2(13)),原告Aのアリバイを否定する余地も
ある(前記3(3))と判断することには相当な根拠があったと認められ
るから,上記アリバイ立証終了後も公訴を追行したことは違法とはいえな
い。
(4)争点(2)エ(エ)(検察官が刑事第1審判決に対して控訴を提起・追
行したことは違法か)について
ア違法性の判断基準
検察官の控訴の申立て又は控訴審における訴訟の追行が国家賠償法上違
法となるのは,第1審の判断を不当とする検察官が,既に提出した証拠や
新たに提出する証拠について上級裁判所の評価,判断を求めて控訴を申し
立て,追行することが明らかに不当であり,検察官に控訴権を付与した法
の趣旨に反すると認められるような特別の事情がある場合に限られるとい
うべきである。また,控訴の提起が違法でないならば,原則としてその追
行も違法ではないと解すべきである。
イ本件においては,刑事第1審における原告Aのアリバイ立証終了後も,
原告D及び原告Eの犯人性を基礎付ける供述証拠に一定の信用を置くだけ
の相当な根拠があり(前記2(13)),原告Aのアリバイを否定する余
地もある(前記3(3))から,検察官が第1審の判決に対して控訴した
ことが,検察官に控訴権を付与した法の趣旨に反すると認められるような
特別の事情があるとはいえない。この点は控訴追行時も同様であるから,
検察官が刑事第1審の判決に対して控訴を提起し,追行したことは違法と
はいえない。
第5争点(3)(被告大阪市関係)に対する判断
1争点(3)ア(市児童相談所は原告Aに対する警察の違法な取調べを違法に
放置したか)について
(1)原告Aは,J事件による通告は違法な別件捜査を目的とするものであっ
たにもかかわらず,市児童相談所はこれを認識しながら違法捜査に積極的に
協力しており,違法であると主張する。
しかし,児童福祉法に基づく一時保護を逮捕・勾留に準じるものとみて,
別件逮捕・勾留に類する違法が生じるとする原告Aの主張には理由がないこ
とは前記第3の2(1)のとおりである。また,一時保護が専ら取調べ目的
のために利用されているような場合には当該一時保護は違法というべきであ
るが,原告Aに対する一時保護が専ら取調べ目的のために利用されたもので
ないこともまた前記第3の2(1)のとおりである。
したがって,市児童相談所が一時保護を利用した違法捜査に協力した旨の
原告Aの主張には理由がない。
(2)原告Aは,暴力的な取調べがされており,これによって原告Aが相当の
精神的苦痛を受けていることを市児童相談所の担当者が認識しながら,これ
について適切な措置を講じていないことが違法であるとも主張する。
確かに,警察官が取調べにおいて原告Aを怒鳴りつける声が市児童相談所
の職員らに聞こえることがあったことは当事者間に争いがなく,また,本件
A日記にも,取調べにより相当の精神的苦痛を受けていることがうかがえる
部分がある。しかし,原告Aから取調べが苦痛であるとの訴えを受けた5月
10日には,警察に対し,翌日以降の取調べを午後のみにするよう申し入れ,
これはそのとおり実現しているし,その後3日間は取調べ状況を確認するた
め,職員が取調べに立ち会っている(甲2)。また,取調べにおいて怒鳴り声
が聞こえたことに対しては,数回にわたって注意していることが認められ(丁
2の18頁),不適切と思われる取調べに対して一定の措置を講じたものとい
える。
そもそも,取調べにおいて大声を出すことは不適切な場合が多いとはいえ,
そのことから,警察が違法な取調べをするという前提に立って常時注意を払
うべきであるとまではいえない。また,確かに本件A日記には,取調べが苦
痛である旨の記載が多々見受けられるものの,市児童相談所職員が取調べに
立ち会い,さほど問題のある取調べが行われたとは考え難い日についても,
取調べが過酷である旨の記載がある。例えば,5月11日の欄には「けいさ
つの人とは早く終わってほしいしもう二度と会いたくありません。毎日毎日
来てるし,休けいも全然ないから死にそうなぐらいしんどいです。」との記載
が,同月12日の欄には「まぁー二度とけいさつには会いたくないし早く取
り調べが終わってほしいです。」との記載が,同月13日の欄には「だいぶ前
から月∼金曜日毎日のように取り調べです。もぉー本間にしんどいです。死
にたいような気持ちになるぐらい」との記載がそれぞれあり,取調べに対す
る嫌悪感から,やや誇張した表現が用いられていると考えられ,こうした記
載から直ちに過酷な取調べがされていると認識することはできないというべ
きである。
原告Aは,取調室から怒鳴り声が聞こえたことに対して注意するだけでは
不十分であると主張するが,5月18日以降の本件A日記の記載を見ると,
同月21日の欄に「僕はけいさつの人が大キライです。死んだら絶対うらん
でやる」との記載があるものの,それ以降,具体的な取調べ方法についての
不満を記載したものは見当たらないのであって,市児童相談所が注意したこ
とによって一定の効果があったものとみることもできる。
したがって,市児童相談所が違法な取調べを認識しながらこれを放置した
事実は認められず,原告Aの主張に理由はない。
2争点(3)イ(市児童相談所が原告Aの取調べに担当職員を立ち会わせなか
ったことは違法か)について
原告Aは,不当な取調べがされていることを認識しながら,市児童相談所の
職員が原告Aに対する取調べに立ち会わなかったことは違法であると主張す
る。
しかし,市児童相談所の職員は,原告Aから取調べが苦痛であるとの訴えを
受けた翌日である5月11日から3日間は連続して取調べに立ち会い(甲1),
同月13日,原告Aから翌日以降の立会いは不要であるとの申入れを受けた
(原告A74頁)ため,原告Aの立会希望がある場合にのみ立ち会うこととし
た(丁5)というのであり,原告Aの希望にもかかわらず立ち会わなかったこ
とはない(原告A77頁)のであるから,市児童相談所の職員が立会いを懈怠
したとは認められない。
原告Aは,5月13日に翌日以降の立会いを断ったのは,警察官がそれを強
制したためで,原告Aの真意ではなかったと主張するが,5月13日以降の原
告A日記には,取調べに対して不満を述べる記載がある一方で立会いを求める
ような記載はないし,前記1のとおり,警察による違法な取調べがされている
ことを認識するのは困難であったというべきであり,立会いを断ったのが警察
官の強制によるもので真意に基づくものではないことを認識するのはなおさ
ら困難であったというべきであるから,市児童相談所において,原告Aの立会
希望がないにもかかわらず取調べに立ち会うべき義務があったとまでは認め
られない。
3争点(3)ウ(市児童相談所は原告Aと保護者との面会を違法に妨害したか)
について
原告Aは,市児童相談所に入所した当初から母親との面会を希望しており,
母親もまた原告Aとの早期の面会を希望していたにもかかわらず,市児童相談
所は警察による取調べを優先させ,入所後3週間が経過するまで面会をさせな
かったと主張する。
しかし,原告Aに関して作成された児童記録によれば,4月30日,原告A
が母親との面会を希望したが,ケースワーカーが,母親との面接が終了する連
休明けまでは我慢するよう伝え,母親に対しても,5月6日の家庭訪問を約束
し,連休中の面会は控えるよう伝えたことが認められる(丁2の16頁)。こ
れは,要保護児童が「保護者に監護させることが不適当であると認める児童」
であることから,ケースワーカーがいったん保護者と面接した後でなければ保
護者と児童とを面会させないとしたものと解され,こうした措置が違法とはい
えない。
また,K職員は,原告Aと母親との面会が5月18日まで実現しなかったこ
とにつき,母親の仕事の都合によるものと思う旨証言しており(証人K6頁),
家庭訪問から12日後の面会は著しく遅いものとはいえないことや本件児童
記録に母親からの苦情が申し入れられたなどの記載がないことからすれば,K
職員の上記証言は特段不自然なものとはいえない。本件児童記録には,警察か
らの要望や捜査情報が少なからず記載されており(丁2の6頁・19頁・21
頁),仮に警察から面会よりも取調べを優先させてほしいなどの申し入れがあ
ったならばその旨記載されていると考えられるところ,そうした記載はない。
そうであるとすれば,市児童相談所が警察による取調べを優先させ,原告A
と保護者との面会を不当に拒絶していたことを認めるに足りる証拠はないと
いうべきである。
4争点(3)エ(市児童相談所は専ら取調べ目的のため違法に一時保護期間を
延長したか)について
原告Aは,市児童相談所が5月20日の時点で原告Aの処遇方針を決定して
いたにもかかわらず,取調べ目的のために一時保護期間を延長したことが違法
であると主張する。
しかし,一時保護の延長は「必要があると認めるとき」に許されるとされて
おり(児童福祉法33条4項),いかなる場合にどの程度の延長を認めるかは,
児童相談所長の合理的な裁量に委ねられているというべきである。
本件においては,原告Aが,6月17日,「事件のことが思い出せそうな気が
するのでもう少し時間がほしい」と申し述べた(丁2の24頁)ことから,一
時保護期間が延長されたものであるが,取調べに応じて自己の非行事実と向き
合うことは児童福祉の観点から必要なことといえるし,取調べに積極的に応じ
ようとする児童の意向を尊重して一時保護期間を延長することが裁量権の範
囲の逸脱又は濫用とはいい難い。
原告Aは,延長を希望したのは原告Aの真意に基づくものでないと主張する
が,この頃の原告A日記には,取調べに積極的に応じようとする記載があり,
延長希望が原告Aの真意に基づくものではないと認識することは容易ではな
い。原告Aは,こうした日記の記載も警察官に迎合したものであると主張する
が,たとえそうであったとしても,取調べの状況や供述調書の内容をすべて把
握しているわけではない児童相談所が,原告Aが警察官に迎合していると認識
することは困難であったといえ,いずれにせよ,一時保護期間の延長が裁量権
の範囲の逸脱又はその濫用により違法となることはないというべきである。
第6争点(4)(損害)に対する判断
1原告Aについて
原告Aが,警察官による違法な取調べを受けたことは前記第3の2(2)の
とおりである。取調べは4月26日に始まり,不連続ながら8月6日まで継続
されており,すべての取調べにおいて暴行等が行われたわけではないと考えら
れるものの,遅くとも5月10日には一定の暴行があり,原告Aが当時14歳
の少年であったことを考慮すると,それ以降は取調べがない日であっても一定
の精神的負担を感じていたものと考えられる。そうすると,原告Aは89日の
間そうした精神的負担を抱えていたことになり,その間の取調べが前記第3の
2(2)イのとおり違法なものであったことを考慮に入れると,その慰謝料と
しては300万円が相当である。また,弁護士費用としては,その1割である
30万円をもって相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
なお,遅延損害金については,最終の取調日である平成16年8月6日まで
に全損害が発生しているといえるから,同日から付すのが相当である。
2原告Bについて
原告Bは,5月19日,警察官の違法な取調べによって自白し,本件事件の
被疑者として逮捕され,引き続き同月20日に勾留された。そして,6月8日,
家庭裁判所へ送致されるとともに少年鑑別所に収容され,7月2日に中等少年
院送致の決定を受けて同月5日に中等少年院に入院し,平成18年2月15日
に仮退院したものであり,その身体拘束期間は合計638日間という長期間に
及んでいる(甲D33)。その後は身体拘束こそないものの,平成20年9月
17日に非行事実なしとする裁判が確定する(前記前提事実(7)イ)まで,
極めて不安定な地位に置かれることとなった。そして,原告Bの取調べが前記
第3の3(1)のとおり違法なものであったことをも考慮に入れると,原告B
が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては900万円が相当である。一方,
原告Bは,平成21年4月30日付けで,797万5000円の少年補償決定
を受けているから,これを控除した102万5000円が賠償すべき損害とな
る。また,弁護士費用としては,賠償すべき損害額の約1割である10万円を
もって相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
なお,遅延損害金については,上記裁判が確定した時点までに全損害が発生
しているといえるから,平成20年9月17日から付すのが相当である。
3原告Cについて
原告Cは,5月22日,警察官の違法な取調べによって自白し,本件事件の
被疑者として逮捕され,引き続き同月23日に勾留された。そして,6月11
日,家庭裁判所へ送致されるとともに少年鑑別所に収容され,7月21日にい
ったん退所したものの,平成17年1月31日に再び同所に収容され,同年2
月14日に再び同所を退所した。その後,平成18年3月23日に中等少年院
送致の決定を受けて少年鑑別所に収容されたが,執行停止決定がされたため,
即日退所したのであり,その身体拘束期間は合計77日間に及ぶ(甲D40)。
その後は身体拘束こそないものの,平成20年7月11日に非行事実なしとす
る裁判が確定する(前記前提事実(7)ウ)まで,極めて不安定な地位に置か
れることになった。そして,原告Cの取調べが前記第3の4(2)のとおり違
法なものであったことをも考慮に入れると原告Cが受けた精神的苦痛に対す
る慰謝料としては500万円が相当である。一方,原告Cは,平成21年1月
29日付けで,96万2500円の少年補償決定を受けているから,これを控
除した403万7500円が賠償すべき損害となる。また,弁護士費用として
は,賠償すべき損害額の約1割である40万円をもって相当因果関係にある損
害と認めるのが相当である。
なお,遅延損害金については,上記裁判が確定した時点までに全損害が発生
しているといえるから,平成20年7月11日から付すのが相当である。
4原告D及び原告Eについて
原告D及び原告Eは,いずれも6月14日に逮捕,7月5日に起訴され,平
成17年2月17日に至り保釈されることとなったが,それまでは接見禁止処
分も付されており,自由が大きく制約される状態が継続していたといえる。そ
して,無罪判決が確定した平成20年5月2日までの間,刑事被告人として極
めて不安定な地位に置かれていたものであり,両名に対する取調べが前記第3
の5(2)及び6(2)のとおり違法なものであったことをも考慮に入れると,
原告D及び原告Eが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては600万円が
相当である。一方,原告D及び原告Eは,平成20年10月15日付けで,そ
れぞれ311万2500円の刑事補償決定を受けているから,これを控除した
288万7500円が賠償すべき損害となる。また,弁護士費用としては,賠
償すべき損害額の約1割である30万円をもって相当因果関係にある損害と
認めるのが相当である。
なお,遅延損害金については,上記無罪判決が確定した時点までに全損害が
発生しているといえるから,平成20年5月2日から付すのが相当である。
第7結論
以上の次第であり,原告Aの請求は被告大阪府に対して330万円及び
これに対する平成16年8月6日から支払済みまで年5分の割合による金員
の支払を求める限度で,原告Bの請求は被告大阪府に対して112万5000
円及びこれに対する平成20年9月17日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員の支払を求める限度で,原告Cの請求は被告大阪府に対して443万
7500円及びこれに対する平成20年7月11日から支払済みまで年5分
の割合による金員の支払を求める限度で,原告D及び原告Eの請求は被告大阪
府に対して各自318万7500円及びこれに対する平成20年5月2日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度でそれぞれ理由
があるからこれを認容し,原告らの請求のうち被告大阪府に対するその余の請
求及び被告国に対する請求並びに原告Aの被告大阪市に対する請求はいずれ
も理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
なお,仮執行宣言は相当でないのでこれを付さない。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田徹
裁判官小林康彦
裁判官金森陽介
(別紙)
当事者の主張
第1被告大阪府関係
(原告らの主張)
1争点(1)ア(捜査本部は,客観的証拠を無視するなどして原告らを対象と
する捜査を違法に継続したか)について
(1)客観的・中立的証拠の無視
捜査本部は,原告らの犯人性を否定する以下のような客観的証拠があるに
もかかわらず,これを無視して原告らを対象とする捜査を継続しており,違
法である。
ア本件防犯カメラの映像
本件防犯カメラに映された犯人像からすると,原告Dが犯人に含まれな
いことは一見して明らかである。にもかかわらず,捜査本部はこれを無視
し,本件防犯カメラの映像について追加的な解析も行わないまま,原告D
を犯人に含めた供述証拠を信用し,原告らを捜査の対象とし続けた。
イ本件被害者の供述
本件被害者は,本件事件の犯人像につき「年齢16歳∼17歳位の高校
生風の少年4人」と供述していた。ところが,原告Dは,身長183㎝,
体重86㎏の29歳であり,上記供述と整合しない。
ウFによる面通し
前兆事案の被害者であるFは,面通しにおいて,前兆事案の犯人と原告
Aとの同一性を否定した。捜査本部は,前兆事案と本件事件の犯人が同一
であるとの前提で捜査を行っていたのであるから,Fが前兆事案の犯人と
原告Aとの同一性を否定した時点で,原告Aの嫌疑は消滅するはずである。
(2)必要な捜査の懈怠
捜査本部は,当然行うべき以下のような捜査を行わず,原告らを対象とす
る捜査を継続した。こうした捜査を早期に行っていれば,原告らの嫌疑は早々
に消滅したはずであり,捜査本部がこれを怠ったことは違法である。
ア本件被害者による面通しの不実施
捜査本部は,犯人を唯一目撃している本件被害者に対して,原告らの面
通しを実施しなかった。
イアリバイ捜査の懈怠
原告Aは,2月16日午後7時56分頃から同日午後9時59分頃まで
の間,当時の交際相手であったOとマンションで話をしていた。このこと
は,同人の携帯電話のメールデータから明らかである。そして,原告Aは,
5月頃の取調べで,本件事件の起こった日時には当時交際していた女性と
話していた可能性がある旨を明確に伝えていた。
捜査本部が原告Aの主張に耳を傾け,原告Aの携帯電話の通信記録等を
調査するなどしていれば,原告Aの嫌疑は早期に消滅していたはずである。
にもかかわらず,捜査本部はこれを怠った。
ウ携帯電話の通話履歴の確認の懈怠
捜査本部によって獲得された供述証拠には,携帯電話によるやり取りが
頻繁に登場してくる。にもかかわらず,捜査本部は,携帯電話の通話履歴
等の照会をしておらず,裏付け捜査の懈怠である。
(3)供述の信用性評価の誤り
原告らが本件事件に関与していることを最初に供述したのは,Mであった。
その意味で,同人の供述は重要な証拠であり,その信用性は慎重に判断され
なければならないにもかかわらず,捜査本部は,不合理な変遷を繰り返すM
の供述を信用性が高いものと強引に判断し,原告らを対象とする捜査を継続
したのであり,違法である。
(4)原告Aに対する違法捜査
後記2のとおり,捜査本部は,J事件を理由に原告Aを市児童相談所へ通
告し,一時保護状態を利用して違法な別件捜査を行った。しかも,その期間
は不当に長期にわたるものであり,原告Aの取調べは,原告Aに対する違法
行為であることはもちろん,その他の原告らとの関係でも,不要な捜査を継
続する原因となった点で違法である。
2争点(1)イ(原告A関係)について
(1)争点(1)イ(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告したこと
は別件逮捕・勾留に準じる違法なものであったか)について
捜査本部は,4月26日,原告Aを,J事件を理由に市児童相談所へ通告
した。これによって原告Aは,事実上の身体拘束状態に置かれることとなっ
た。しかし,J事件は管轄警察署が半年近くも放置していた事件であること
等からすると,捜査本部が,本件事件について取り調べる目的で原告Aを市
児童相談所に通告したことは明らかであり,別件逮捕に類する違法な行為で
ある。
(2)争点(1)イ(イ)(市児童相談所における原告Aの取調べは任意取調
べの限界を超える違法なものであったか)について
ア長期間に及ぶ取調べ
原告Aに対する取調べは,市児童相談所による一時保護期間を利用して
80日余りの長期にわたって継続された。取調べにおいて必ずしも市児童
相談所の職員の立会いがなかったこと等からすると,原告Aは実質的な身
体拘束状態にあったというべきであり,この間にされた取調べは違法であ
る。
イ取調べにおける暴行・脅迫・誘導
(ア)原告Aは,5月6日以降,本件事件に関して取調べを受けたが,警
察官は,原告Aを何時間も立たせ,大声で怒鳴りつけ,机をたたくなどの
ほか,頭を殴る,小突く,蹴る,椅子を蹴り倒して転倒させる,首を絞め
るといった数々の暴行を加えた。
(イ)警察官は,取調べにおいて,本件被害者の供述等に基づき,原告A
を不当に誘導した。また,「施設には絶対に行かせない」,「家族のも
とに戻してやる」などとして利益誘導をすることもあり,こうした取調
べの結果,原告Aから自白を獲得した。
(3)争点(1)イ(ウ)(N学園における取調べは脅迫を伴う違法なもので
あったか)について
原告Aは,7月20日,N学園で取調べを受け,警察官から,翌日に行わ
れる原告Cの少年審判で自白を撤回したら偽証罪で逮捕するなどとして脅迫
された。
3争点(1)ウ(原告B関係)について
(1)争点(1)ウ(ア)(原告Bの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
原告Bは,取調べにおいて,怒鳴られる,胸ぐらをつかまれる,椅子を蹴
られる,ファイルの角でたたかれるといった数々の暴行を受けた。また,供
述内容を変えると再逮捕するなどと脅迫されたこともあった。
さらに,原告Bは,警察官から,原告Aが原告Bの関与を認める供述をし
ており,原告Bのポリグラフ検査の結果が原告Bの犯人性を示している旨の
不当な誘導を受けた。その他,現場の場所,事件発生の日時,自身の服装,
被害者の年齢等についても,警察官からの誘導により供述した。
(2)争点(1)ウ(イ)(捜査本部が原告Bを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
捜査本部が原告Bを逮捕した時点で,原告Bの嫌疑を基礎付ける十分な証
拠はなかった。しかも,捜査本部は,5月13日以前に原告A及びMが作成
した各自供書(甲C11から13まで,126から134まで)を検察官に
送致しておらず,こうした行為は検察官による証拠評価を不当に誤らせるも
のであるから,捜査本部が原告Bを逮捕し,検察官に送致した行為は違法で
ある。
(3)争点(1)ウ(ウ)(少年鑑別所における原告Bの取調べに違法があっ
たか)について
少年事件においては,観護措置がされた後の送致事件に関する補充捜査は
許されず,余罪取調べについては,裁判所の許可を得た上,少年鑑別所の了
解があれば可能と解されている。
ところが,捜査本部は,6月16日及び同月18日,家庭裁判所からJ事
件に関する取調べを行うことについて許可を受けておきながら(甲D32),
実際には送致事件である本件事件について取調べをしており,違法である。
4争点(1)エ(原告C関係)について
(1)争点(1)エ(ア)(原告Cに対する任意同行は実質的な身体拘束に至
る違法なものであったか)について
警察官は,原告Cに対し,被疑事実を明示せず,かつ保護者の同行を求め
ることもないまま原告Cを任意同行し,その後長時間にわたって取調べを行
っている。このような任意同行は,少年一般に対するものとして許容される
限度を超えており,また実質的な逮捕と同視される違法な行為である。
(2)争点(1)エ(イ)(原告Cの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
警察官は,原告Cの取調べにおいて,原告Cの髪の毛をつかんで頭を振り
回す,椅子を蹴るなどの暴行を加え,さらには,原告Cの首を手で絞めた上
で原告Cを壁に押さえつけ,鼻先で怒鳴ることもあった。
また,原告Cは,兄である原告Bが原告Cの名前を出し,一緒に犯罪を行
ったと供述していると言われるなど,警察官から不当な誘導を受けた。
(3)争点(1)エ(ウ)(捜査本部が原告Cを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
捜査本部が原告Cを逮捕した時点では,前記1のとおり必要な捜査が遂げ
られておらず,原告Cの嫌疑を基礎付ける十分な証拠はなかった。しかも,
捜査本部は,5月13日以前に原告A及びMが作成した各自供書(甲C11
から13まで,126から134まで)を検察官に送致しておらず,こうし
た行為は検察官による証拠評価を不当に誤らせるものであるから,捜査本部
が原告Cを逮捕し,検察官に送致した行為は違法である。
5争点(1)オ(原告D関係)について
(1)争点(1)オ(ア)(捜査本部が原告Dを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
原告Dは,6月14日,本件事件の被疑者として逮捕されたが,前記1の
とおり,必要な捜査が遂げられておらず,原告Dの嫌疑を裏付ける証拠は乏
しいものであった。しかも,捜査本部は,5月13日以前に原告A及びMが
作成した各自供書(甲C11から13まで,126から134まで)を検察
官に送致しておらず,こうした行為は検察官による証拠評価を不当に誤らせ
るものであるから,捜査本部が原告Dを逮捕し,検察官に送致した行為は違
法である。
(2)争点(1)オ(イ)(原告Dの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について取調べの違法
取調警察官は,取調べにおいて,原告Dの話を聞くことなく,大声で怒鳴
ったり,原告Dの座っている椅子を引いて転倒させたり,床に座り込んだ原
告Dの後頭部に乗ったりするなどの暴行を加えた。また,取調室内で壁に向
かって長時間立っておくことを強要し,戦前の特別高等警察に言及して原告
Dを脅迫したこともあった。このような取調べが違法であることは明らかで
ある。
6争点(1)カ(原告E関係)について
(1)争点(1)カ(ア)(捜査本部が原告Eを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
捜査本部が原告Eを逮捕し検察官に送致したことが違法であることは,原
告Dについて述べたところと同様である。
(2)争点(1)カ(イ)(原告Eの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
警察官は,犯行を否認する原告Eに対し,取調室への入退室に際して大声
で挨拶をすることを強要し,声が小さいなどの理由で何度もやり直しをさせ
た。また,連日,大声で怒鳴り,机をたたく,足で蹴りつける,顔や頭を小
突く,首を絞めるなどの直接的な暴行や威力を示した取調べが行われた。さ
らに,「犯人のくせに態度がでかい,いくら否認しても,刑務所へぶち込む」,
「認めなくても,意地でも確実に送ってやる」などと発言することもあった。
このような取調べが違法なものであることは明らかである。
(被告大阪府の主張)
1争点(1)ア(捜査本部は,客観的証拠を無視するなどして原告らを対象と
する捜査を違法に継続したか)について
(1)客観的・中立的証拠の無視
ア防犯カメラの映像
本件防犯カメラに映された犯人と原告Dの身長・体型に矛盾はなく,原
告Dの犯人性を否定する証拠にはならない。
イ本件被害者の供述
本件被害者の犯人識別供述は必ずしも明確なものではなく,これによっ
て原告らの犯人性が否定されるものではない。
ウFによる面通し
Fは,原告Aの面通しの際,犯人と原告Aとの同一性を否定するような
供述はしていないし,Fの供述に基づいて作成した本件似顔絵を見たJや
その母親は,原告Aに似ていると申し立てている。そもそも,Fは飽くま
で前兆事案の被害者にすぎず,同人が原告Aの犯人性を否定したとしても,
原告Aに対する本件事件の嫌疑が消滅することはない。
(2)必要な捜査の懈怠
ア本件被害者による面通しの不実施
本件被害者は,暗がりで後方から突然襲われたことや負傷による激痛等
から,犯人について明確な記憶を有していなかった。そのため,捜査本部
においては,犯人の識別が期待できないと考え,本件被害者による面通し
をしなかったのであり,そのことが捜査の違法となるものではない。
イアリバイ捜査の懈怠
(ア)アリバイの成否
原告らは,原告Aにはアリバイが成立することを前提として,捜査本
部が原告Aのアリバイを適切に捜査しなかったことは違法であると主張
する。しかし,原告Aの主張するアリバイには疑問があり,アリバイが
成立するとはいい難い。
(イ)アリバイ主張の有無
仮に原告Aにアリバイが成立するとしても,原告Aは,捜査段階にお
いてこのアリバイを主張していなかったから,捜査本部がこれについて
捜査しなかったとしても違法とはいえない。
(3)供述の信用性評価の誤り
Mの供述は多少の変遷はあるものの,全体として信用できるものであり,
これに依拠した捜査が違法となることはない。供述の変遷は,同人が刑事第
1審において証言しているように,原告Eから脅されたためと考えられる。
Mの供述は刑事控訴審の判決においても信用できるものと判断されている。
(4)原告Aに対する違法捜査
J事件は,Jが共犯者の名を明らかにしたことで,暴行を受けたり,現金
を要求されたり,自宅への嫌がらせをされたりした結果,その追及を逃れる
ため転居を余儀なくされたという極めて悪質な事案であって,それ自体捜査
の必要性が大きい事件であるから,違法な別件捜査とはいえない。
2争点(1)イ(原告A関係)について
(1)争点(1)イ(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告したこと
は別件逮捕・勾留に準じる違法なものであったか)について
原告Aは,捜査本部がJ事件を理由に原告Aを補導し,市児童相談所に通
告したことが別件逮捕に相当する違法な行為であると主張するが,J事件が
極めて悪質な事件であることは上記1のとおりであり,これについて原告
Aを補導し市児童相談所に通告する行為に何ら違法はない。
(2)争点(1)イ(イ)(市児童相談所における原告Aの取調べは任意取調
べの限界を超える違法なものであったか)について
ア長時間に及ぶ取調べ
児童相談所における原告Aの取調べは,通算30日にわたって行われた
が,平日のみに実施し,時間も主として午後1時から午後4,5時までで
あったから,不当に長時間の取調べとはいえない。
イ取調べにおける暴行・脅迫・誘導
原告Aが嘘をついたり,供述が頻繁に変遷したときには,取調べに当た
る警察官が大声でたしなめることはあったが,原告Aの主張するような暴
行,脅迫又は誘導の事実はない。
(3)争点(1)イ(ウ)(N学園における取調べは脅迫を伴う違法なもので
あったか)について
7月20日の取調べは,原告Aの要望によって行われたものであり,警察
官が,自白を撤回したら逮捕するなどと告げたことはない。
3争点(1)ウ(原告B関係)について
(1)争点(1)ウ(ア)(原告Bの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
原告Bが主張するような暴行・脅迫の事実はない。
警察官が本件現場の地図を見せたことはあるが,原告Bらは,本件事件に
ついて警察がMを取り調べていることを認識しており,原告Eらとともに対
応を話し合っていたのであるから,本件事件の発生現場は当然に知っている
はずであり,本件現場の地図を見せることが不当な誘導になるとはいえない。
原告Bは,ポリグラフ検査の結果が原告Bの犯人性を示しているなどと言
われたと主張するが,そのような事実はない。
(2)争点(1)ウ(イ)(捜査本部が原告Bを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
原告Bは,5月19日に任意同行した上で取り調べたところ,取調べ開始
後1時間から1時間半が経過した頃自白するに至った。そこで,現場を案内
させたところ,正確に案内することができたため,嫌疑が認められると判断
し,逮捕状の発付を受けて逮捕した。逮捕要件に欠けるところはなく,違法
はない。そして,検察官送致の段階でも,上記供述に変更はなく,検察官送
致もまた適法である。
なお,原告らは,捜査本部が証拠の一部を検察官に送付していなかったこ
とを問題視するが,本件事件と直接関係がなく,意図的に送らなかったわけ
でもないから,違法性はない。
4争点(1)エ(原告C関係)について
(1)争点(1)エ(イ)(原告Cの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
原告Cの主張するような暴行・脅迫・誘導の事実はない。5月20日
の取調べで原告Cが嘔吐したことは事実であるが,Z警察官が何度も原
告Cに体調を確認し,「大丈夫です」との回答を得たため取調べを継続
したものであり,違法とはいえない。
(2)争点(1)エ(ウ)(捜査本部が原告Cを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
原告Cは,5月20日,21日及び22日に任意同行した上で取り調
べたところ,同日,本件犯行を自白するに至った。そこで,現場を案内
させたところ,正確に案内することができた。加えて,原告Bは,5月
19日,原告Cが共犯者である旨供述していた。これらの証拠関係から
原告Cに嫌疑が認められると判断し,逮捕状の発付を受けて逮捕したも
のであって,逮捕要件に欠けるところはなく,違法はない。そして,検察
官送致の段階でも,上記供述に変更はなく,検察官送致もまた適法である。
証拠の一部を検察官に送致しなかったことが違法でないことは原告Bにつ
いて述べたところと同様である。
5争点(1)オ(原告D関係)について
(1)争点(1)オ(ア)(捜査本部が原告Dを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
捜査本部は,関係者の供述調書等の関係証拠により,本件事件につき
原告Dに十分な嫌疑が認められるとして逮捕状を請求し,検察官に送致
したものであり,何ら違法はない。
証拠の一部を検察官に送致しなかったことが違法でないことは原告Bにつ
いて述べたところと同様である。
(2)争点(1)オ(イ)(原告Dの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
原告Dの主張するような暴行等の事実は一切ない。むしろ,取調べに
おいては,原告Dの方が,大声を出したり,横柄な態度を取ったり,時
には取調べに当たる警察官を挑発するような振る舞いをしたりしていた。
警察官は,原告Dのこのような態度を受け,挑発に絶対乗らないとして
対応していたのであり,暴行等を加えるはずがない。
6争点(1)カ(原告E関係)について
(1)争点(1)カ(ア)(捜査本部が原告Eを逮捕し検察官に送致したこと
は違法か)について
原告Eの逮捕及び検察官送致が適法であることは原告Dについて述べ
たところと同様である。
(2)争点(1)カ(イ)(原告Eの取調べは暴行・脅迫等を伴う違法なもの
であったか)について
原告Eの主張するような暴行の事実等は一切ない。むしろ,取調べに
おいては,原告Eの方が,大声を出したり,机をたたいて立ち上がった
り,横柄な態度を取ったり,時には取調べに当たる警察官を挑発するよ
うな振る舞いをしたりしており,この点は,原告E自身,「何度か暴力
的に出ることがあった」と自認しているところである。警察官は,原告
Eのこのような態度を受け,挑発に絶対乗らないとして対応していたの
であり,暴行等を加えるはずがない。
第2被告国関係
(原告らの主張)
1争点(2)ア(原告A関係)について
(1)争点(2)ア(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告するこ
とを,検察官が了承したことは違法か)について
Cc検察官は,本件事件の主任検事として,いまだ原告Aが同事件の
犯人であると特定するに足りる程度の証拠が得られておらず,本件事件
のためにJ事件の別件捜査が行われようとしていることを認識しつつ,
市児童相談所への通告を了承した。そして,こうした行為は,司法警察
員に対する具体的指揮(刑事訴訟法193条3項)の行使として行われ
たものであり違法である。
被告国は,児童相談所への通告は逮捕・勾留とは異なるので別件逮捕・
勾留には該当しないと主張するが,身体の自由を制約され事実上取調べ
に応じざるを得ない状況にあったことに変わりはないから,被告国の主
張は失当である。
(2)争点(2)ア(イ)(原告Aが市児童相談所で長期間取調べを受けて
いることに対して措置を講じなかったことは違法か)について
原告Aに対する取調べは,本件事件を自白し始めた5月末の時点で既
に約1か月に及んでおり,その後も更に1か月余りの期間,市児童相談
所での取調べが行われた。取調べは平日の連日にわたって行われ,時に
は終日に及ぶこともあった。こうした長期間にわたる取調べは,成人の
刑事事件においても許されないものであり,任意取調べの限界を超えた
ものであるから,その違法性は明らかである。
それにもかかわらず,Cc検察官は,上記のことを認識していながら
捜査本部に対して捜査の適正化を指示するなどしなかった。
(3)争点(2)ア(ウ)(検察官による原告Aの取調べは違法か)につい

Cc検察官は,6月25日,同月30日及び7月17日にそれぞれ原
告Aの取調べをしている。6月25日の時点では,原告Aの一時保護(4
月26日)から61日が,7月17日の時点では83日が経過しており,
この間,原告Aは,市児童相談所又は児童自立支援施設において,事実
上の身体拘束状態に置かれ,保護者等の立会いもないまま長期間にわた
る取調べを受けていたのであり,その供述内容も不合理な内容であった
から,Cc検察官としては,原告Aが,長期間の取調べに耐えかねて,
警察官に対して迎合的な供述態度をとっている可能性を疑い,慎重に取
調べを行うべきであった。
ところが,Cc検察官は,原告Aが本件事件に関与した方向での供述
を得ることを目的とする取調べを行っており,6月30日の取調べにお
いては,「EとDの2人を起訴して裁判にかけることになったら,僕は
誤りを犯したことになるのか」などと原告Aに尋ね,過重な精神的負担
を課している。さらに,7月17日の取調べにおいては,その4日後で
ある同月21日に原告Aが原告Cの少年審判で証言する予定であったこ
とから,「君が今まで話してきたようなことを正直に話せばいい」など
と指示しており,こうした取調べは,虚偽自白を固めるための証人テス
トとしてしか作用しない違法なものである。
2争点(2)イ(原告B関係)について
(1)争点(2)イ(ア)(検察官が,捜査本部による原告Bの逮捕を了承
し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
Cc検事は,Mの供述や原告Bの供述は信用できないものであったに
もかかわらず,捜査本部から相談を受け,原告Bの逮捕を了承した。こ
れは,具体的指揮権に基づく指揮であり,違法な逮捕については国もま
た責任を負うべきである。
また,Cc検事が勾留請求及び勾留延長請求をした段階においても,
原告Bの嫌疑は信用性の低い供述証拠に支えられており,十分な嫌疑が
あるとはいえなかった。
(2)争点(2)イ(イ)(検察官が原告Bを家庭裁判所に送致したことは
違法か)について
検察官は,本件防犯カメラの映像についての矛盾点が解消されていな
かったにもかかわらず,嫌疑不十分として不送致とすることなく,十分
な嫌疑のないまま原告Bを違法に家庭裁判所に送致した。
(3)争点(2)イ(ウ)(検察官が保護処分取消請求手続において原告B
の犯人性を主張し,取消決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)
について
平成17年2月9日に行われた刑事第1審の第14回公判において,
原告Aのアリバイが明らかになり,これによって,原告Aが犯行に関与
している旨の原告Bらの供述は,客観的事実に反するものであることが
明らかになった。それにもかかわらず,検察官は,その後の保護処分取
消請求の手続において,原告Bが犯人である旨の主張を続け,公益代表
者として適切な対応をとらなかった。こうした活動は,正当な理由なく,
原告Bの地位を長期にわたって不安定にするものであり,違法である。
さらに,検察官は,原告Bについて保護処分取消決定がされるや,抗
告受理申立てを行い,従前の主張立証を繰り返した。少年審判における
検察官の抗告権は,成人の刑事手続における控訴権よりも慎重に行使し
なければならないにもかかわらず,十分な嫌疑もないまま抗告受理申立
てを行ったことは違法である。
3争点(2)ウ(原告C関係)について
(1)争点(2)ウ(ア)(検察官が,捜査本部による原告Cの逮捕を了承
し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
検察官は,Mの供述や原告B及び原告Cの供述が信用できないもので
あったにもかかわらず,捜査本部から相談を受け,原告Cの逮捕を了承
した。これは,具体的指揮権に基づく指揮であり,違法な逮捕について
は国もまた責任を負うべきである。
また,検察官が勾留請求及び勾留延長請求をした段階においても,原
告Cの嫌疑は信用性の低い供述証拠に支えられており,十分な嫌疑があ
るとはいえなかった。
(2)争点(2)ウ(イ)(検察官が原告Cを家庭裁判所に送致したことは
違法か)について
送致の段階でも,防犯カメラの映像についての矛盾点が解消されてい
なかったから,十分な嫌疑なく原告Cを家庭裁判所に送致した違法があ
る。
(3)争点(2)ウ(ウ)(検察官が少年審判において原告Cの犯人性を主
張し続けたことは違法か)について
平成17年2月9日に行われた刑事第1審の第14回公判において,
原告Aのアリバイが明らかになり,これによって,原告Aが犯行に関与
している旨の原告Cらの供述は,客観的事実に反するものであることが
明らかになった。それにもかかわらず,検察官は,その後の少年審判の
手続において,原告Cが犯人である旨の主張を続け,公益代表者として
適切な対応をとらなかった。
(4)争点(2)ウ(エ)(検察官が,中等少年院送致決定に対する抗告審
等で原告Cの犯人性を主張したことは違法か。また,その後の差戻審の決定
に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)について
原告Cは,中等少年院送致の決定に対して抗告したところ,検察官は,
犯人の身長に関してより大きな推定の幅を持たせる新たな鑑定書を提出
したり,原告らとは体型が明らかに異なる捜査官を原告らに見立てた再
現実験のDVDを報告書化して提出したりするなどの不当な立証活動を
行った。そして,抗告審が,原告Cの犯人性に疑問があるとして差戻し
の決定をしたところ,検察官は,差戻審においても,不当な立証活動を
執拗に繰り返した。
さらに,少年事件における抗告権は,成人の刑事事件における控訴権
よりも慎重に行使しなければならないにもかかわらず,検察官は,差戻
審において非行事実なしとの決定がされると,十分な嫌疑もないまま抗
告受理申立てをした。
このような検察官の行為は,原告Cに対する審判手続を不当に長期化
させるものであり,違法である。
4争点(2)エ(原告D及び原告E関係)について
(1)争点(2)エ(ア)(検察官が,捜査本部による原告D及び原告Eの
逮捕を了承し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
原告D及び原告Eが逮捕された時点において,両名の嫌疑を基礎づけ
る証拠が不十分であったことは前記第1の5(1),6(1)のとおり
である。にもかかわらず,Cc検察官は,証拠を適切に評価せず,こう
した逮捕を指揮し,更に勾留請求及び勾留延長請求をしたものであり,
違法である。
(2)争点(2)エ(イ)(検察官が原告D及び原告Eを起訴したことは違
法か)について
Cc検察官は,7月5日,原告D及び原告Eを強盗致傷の罪により起
訴したが,両名を本件事件の犯人とする合理的な根拠はなく,かえって,
両名が犯人であることと矛盾する証拠さえ存在した。検察官において,
本件被害者に対する面通しや,携帯電話の通話記録の調査といった必要
な捜査を怠り,十分な嫌疑のないまま原告D及び原告Eにつき公訴を提
起したことは違法である。
(3)争点(2)エ(ウ)(検察官が刑事第1審において公判を維持したこ
とは違法か)について
刑事第1審においては,捜査段階で自白していた少年らがことごとく
自白を撤回する証言をした。そして,本件防犯カメラの映像の鑑定によ
り,原告Dの犯人性が明白に否定されるとともに,原告Dの関与を前提
としていた少年らの捜査段階の供述が信用できないことも明らかになっ
た。さらに,平成17年2月9日の第14回公判において,原告Aが本
件事件当時交際していたOの携帯電話のメールデータから,原告Aが,
本件事件当時,本件現場にいなかったことが明らかになった。
こうした経緯により,検察側の立証は崩壊したのであるから,検察官
としては,直ちに原告D及び原告Eが犯人でないことを前提として無罪
の論告をするなど,適切に対応すべきであった。
にもかかわらず,検察官は,本件防犯カメラの映像に関する鑑定結果
の信用性を争う立証をするなどして不当な訴訟活動を継続した上,論告
においては,前兆事案の犯人と本件事件の犯人とが同一であるというそ
れまでの前提を覆すことまでして公判を維持した。
こうした公判活動は公益代表者にあるまじき行為であり違法である。
(4)争点(2)エ(エ)(検察官が刑事第1審判決に対して控訴を提起・
追行したことは違法か)について
検察官は,原告Aのアリバイが明らかになり,他の少年らの捜査段階
での自白が信用性を失ったにもかかわらず,刑事第1審の無罪判決に対
して,事実誤認を理由に控訴を提起した。原判決が破棄される見込みが
皆無であるにもかかわらず控訴提起を強行する行為は違法といわなけれ
ばならない。
(被告国の主張)
1争点(2)ア(原告A関係)について
(1)争点(2)ア(ア)(捜査本部が原告Aを市児童相談所に通告するこ
とを,検察官が了承したことは違法か)について
ア原告Aは,J事件を理由とする通告及びその後の一時保護がいわゆる別
件逮捕・勾留に類するものであり,捜査本部がこうした違法行為を行うこ
とを黙認又は積極的に了承したCc検察官の行為は違法であると主張する
が,以下のとおり,捜査本部の行為に何ら違法はない。
(ア)児童福祉法に基づく一時保護は,逮捕又は勾留と異なり,身体を拘
束するわけではなく,いわゆる取調受忍義務もない。また,一時保護を行
うか否かは児童相談所長の判断によるとされており,警察の一存で決め
られるわけではないから,これを警察が取調べのために利用するのは困
難である。
(イ)J事件は,Jが原告A及びGらとともに敢行した万引き事件につい
て,警察で供述したことへの腹いせに,原告A及びGがJを呼び出して
同人に執拗な暴行を加えて金員を要求し,その後も同人が母親と2人で
住む住居等に押しかけて口封じをしたり,脅迫を繰り返したりするなど
した恐喝未遂等の事案であり,事案の内容及び犯情は極めて悪質であっ
た。それゆえ,それ自体として捜査の必要性が高かった。
イそもそも,検察官は,組織法上警察官に対する指揮監督権限を有してお
らず,原則として警察官の違法行為について責任を負わないのであるから,
仮に捜査本部の行為に違法があったとしても,そのことが当然に検察官の
違法行為になるわけではない。
この点について,原告Aは,検察官がJ事件の捜査を認めたことは検察
官による具体的指揮権の行使に当たると主張するが,具体的指揮権を行使
するには,検察官が自ら捜査を行っている必要があるところ,Cc検察官
がJ事件の捜査について相談を受けたのは,事件が検察官に送致される前
であるから,検察官が自ら捜査を行っていたとはいえない。
(2)争点(2)ア(イ)(原告Aが市児童相談所で長期間取調べを受けて
いることに対して措置を講じなかったことは違法か)について
ア児童福祉法に基づく一時保護は,取調受忍義務がある逮捕・勾留とは異
なるものであり,原告Aに対する一時保護が長期間に及び,その間に取調
べがされたとしても,そのことから直ちに違法となるわけではない。
イ実際の取調べの経緯をみると,4月26日から5月18日までの間は,
同月6日頃から本件事件に関する取調べが始まり,合計8回の取調べが行
われているところ,うち7回は午前又は午後いずれかのみの取調べである
し,そのうち少なくとも4回は市児童相談所の職員が立ち会っている(甲
2)。
そして,Cc検察官は,警察官に対し,取調べの対象が少年であること
を考慮し,後で任意性又は信用性が問題となるような無理な取調べを行う
ことなく慎重に対応するよう指導しており,取調べに当たる警察官からは,
原告Aとの信頼関係を築くべく努力していることを確認していたのである。
以上のことからすれば,Cc検察官において,原告Aの取調べを中止さ
せるべき職務上の法的義務があったとはいえない。
(3)争点(2)ア(ウ)(検察官による原告Aの取調べは違法か)につい

原告Aは,Cc検察官が6月25日,同月30日及び7月17日に行っ
た取調べが違法であると主張するが,以下のとおり理由がない。
ア任意取調べの限界を超えるか否かは,事案の性質や被疑者の態度等諸般
の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法,態様及び限度で行
われたかどうかで判断すべきであり,単に帰宅できない状態が長期間にわ
たっていたとか,その間の取調べ回数が多かったとか,立会人がいなかっ
たなどの事情のみから取調べが違法となるものではない。
イCc検察官が行った3回の取調べは,いずれも長時間に及ぶものではな
いし(甲C49),原告Aが少年であることに留意し,原告Aがあっさりと
犯行を認めた場合には,本当にやったのかと再度尋ねるなどして,供述内
容が真実かどうかについて適切に確認していたのであり,このような穏当
な取調べは違法とはいえない。
ウ原告Aは,Cc検察官が「EとDの2人を起訴して裁判にかけることに
なったら,僕は誤りを犯したことになるのか」と問いかけたことを問題視
するが,Cc検察官が上記のように問いかけたのは,原告Aに供述を押し
つけることなく率直な供述を得ようとしたためであることは明らかであり,
何ら違法はないというべきである。
2争点(2)イ(原告B関係)について
(1)争点(2)イ(ア)(検察官が,捜査本部による原告Bの逮捕を了承
し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
ア成人の刑事事件については,無罪が確定したというだけで逮捕・勾留が
違法となることはなく,犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必
要性が認められる限り適法であると解されているところ,この点は,少年
の逮捕・勾留についても同様に解されるべきである。
イ原告Bを逮捕した時点においては,原告Bの犯人性に関する証拠として,
Mの供述及び原告B自身の供述があった。Mは,自らも犯罪を敢行したと
いう不利益事実を供述した上で,本件現場に警察官を案内したのであるか
ら,同人の供述に信用性を認め,これに依拠して捜査を展開したことは何
ら不当なことではない。また,原告Bは,本件に関与したという不利益事
実を自白した上で,本件現場に警察官を案内したのであるから,一定の信
用性が認められた。
そして,原告Bは,逮捕後も自白を維持し,弁解録取においても関与を
認めていたから,勾留請求の段階では更に嫌疑が強まっていた。
その後,原告Cもまた原告Bが本件事件の犯人である旨供述するに至り,
勾留延長請求の段階では,原告Bの嫌疑は更に強まっていた。
ウこのように,逮捕,勾留請求及び勾留延長請求のいずれの段階において
も,原告Bには本件事件の嫌疑について相当な理由があったといえ,検察
官の行為に違法はない。
(2)争点(2)イ(イ)(検察官が原告Bを家庭裁判所に送致したことは
違法か)について
ア検察官による家庭裁判所送致が違法となるのは,検察官が事案の性質上
当然にすべき捜査を故意又は過失により怠り,その結果収集した資料の証
拠評価を誤るなどして,経験則上到底受け入れられないような不合理な心
証を形成し,客観的には犯罪の嫌疑が認められないのに,少年の被疑事件
を家庭裁判所に送致したような場合に限られると解すべきである。
イ原告Bを家庭裁判所に送致した6月8日の時点では,原告B自身が本件
犯行への関与を認めており,その供述内容は原告Cのものとおおむね一致
していたから,原告Bには十分な嫌疑が認められたといえる。
(3)争点(2)イ(ウ)(検察官が保護処分取消請求手続において原告B
の犯人性を主張し,取消決定に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)
について
ア本件防犯カメラの映像は,原告Bの犯人性を否定するものではなかった
し,原告Aのアリバイについても,客観的かつ明白に認められるようなも
のではなかった。そうであるとすれば,検察官が,保護処分取消請求の手
続において,原告Bが犯人である旨の主張をすることは違法ではない。
イ原告Bは,保護処分取消決定に対して検察官が抗告受理申立てをしたこ
とが違法であると主張するが,検察官が抗告を申し立て,抗告審において
審判を追行する行為は原則として適法であり,検察官に抗告権を付与した
法の趣旨に反すると認められるような例外的な場合を除いて,検察官の抗
告申立て及び追行が違法となることはないというべきである。
原告Bの嫌疑が客観的に否定されたわけではないことは上記アのとおり
であり,裁判所においても判断が分かれているのであるから,上記例外的
な場合には当たらない。
3争点(2)ウ(原告C関係)について
(1)争点(2)ウ(ア)(検察官が,捜査本部による原告Cの逮捕を了承
し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
ア犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められる限り,
逮捕・勾留・勾留延長が適法であることは原告Bについて述べたところと
同様である。
イ原告Cが逮捕された5月22日の段階では,原告Cの犯人性を基礎づけ
る証拠として,Mの供述及び原告Bの供述があった。また,原告Cも,見
張りの限度ではあるが,本件事件に関与したことを認めていた。
原告Cは,自身の関与を認めるにとどまらず,あえて不利な虚偽供述を
する必要のない原告A及び原告Bについてもその関与を認めており,その
後もこうした供述を維持していた。
ウよって,逮捕,勾留請求及び勾留延長請求のいずれの段階においても,
原告Cには本件事件の嫌疑について相当な理由があったといえ,検察官の
行為に違法はない。
(2)争点(2)ウ(イ)(検察官が原告Cを家庭裁判所に送致したことは
違法か)について
ア家庭裁判所送致が違法となる場合が極めて限定されることは前記2(2)
アのとおりである。
イ原告Cを家庭裁判所に送致した6月11日の時点では,原告C自身が本
件犯行への関与を認めており,その供述内容は原告Bのものとおおむね一
致していたのであって,家庭裁判所送致が違法となるような例外的場合に
は当たらない。
(3)争点(2)ウ(ウ)(検察官が少年審判において原告Cの犯人性を主
張し続けたことは違法か)について
ア審判追行の違法性の有無の判断基準についても,家庭裁判所送致時にお
ける各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により嫌疑があれば
足りると解すべきである。そして,少年の被疑事件の家庭裁判所への送致
が違法でないならば,審判を維持するだけの嫌疑があるのであるから,審
判の追行は原則として違法ではなく,審判で嫌疑を客観的かつ明白に否定
する証拠が提出され,もはや到底非行事実の認定を期待し得ない状況に至
らない限り,違法とされることはないと解すべきである。
イ本件では,平成17年2月9日に行われた刑事第1審の第14回公判
において,Oが原告Aのアリバイを証言したが,寒空の中で2時間も話
し込むという不自然な内容であり,原告Aのアリバイを客観的に証明す
るものではなかった。事実,原告Aにアリバイが成立するか否かについ
ては,裁判所の判断も分かれているところである。そうすると,Oの証
言等を考慮しても,もはや到底非行事実を認定し得ない状況に至ったと
いうことはできず,少年審判における検察官の行為が違法となることは
ない。
(4)争点(2)ウ(エ)(検察官が,中等少年院送致決定に対する抗告審
等で原告Cの犯人性を主張したことは違法か。また,その後の差戻審の決定
に対して抗告受理を申し立てたことは違法か)について
ア検察官が抗告を申し立て,抗告審において審判を追行する行為は原則と
して適法であり,検察官に抗告権を付与した法の趣旨に反すると認められ
るような例外的な場合を除いて,検察官の抗告申立て及び追行が違法とな
ることはないというべきである。
イ原告Aのアリバイが客観的に証明されたものではないことは上記(3)
イのとおりであり,原告Cの嫌疑は依然として存在していたといえるから,
検察官の抗告申立て及び追行は適法である。
4争点(2)エ(原告D及び原告E関係)について
(1)争点(2)エ(ア)(検察官が,捜査本部による原告D及び原告Eの
逮捕を了承し,勾留請求をし,勾留延長請求をしたことは違法か)について
ア逮捕
原告D及び原告Eの逮捕前の段階で,既に原告B及び原告Cはいずれも
自らの犯行を認めた上で,原告D及び原告Eの関与についてそれぞれ供述
していた。そして,原告B及び原告Cの供述には変遷もみられるものの,
逮捕後の早い段階から,自己の関与という核心部分では一貫して認めてい
たものであるし,原告D及び原告Eに不利な虚偽供述をあえてするとは考
え難いことを考慮すると,これらの供述には一定の信用性が認められる。
イ勾留請求及び勾留延長請求
検察官の勾留請求及び勾留延長請求が違法となるのは,検察官として事
案の性質上当然行うべき捜査を著しく怠り又は収集された証拠についての
判断・評価を著しく誤るなどの合理性を欠く重大な過失により,これを看
過して勾留請求がされた場合であることを要する。
原告D及び原告Eにつき勾留請求及び勾留延長請求をした段階で,既に
原告B及び原告Cが原告D及び原告Eの関与を認める供述をしていたこと
は,逮捕時と同様であり,合理性を欠いた重大な過失はない。
(2)争点(2)エ(イ)(検察官が原告D及び原告Eを起訴したことは違
法か)について
検察官の公訴提起が違法となるのは,当該被告人について有罪と認められ
る嫌疑があると判断した検察官の証拠評価及び法的判断が,法の予定する一
般的検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考
慮しても,論理則・経験則に照らして到底その合理性を肯定することができ
ない程度に達している場合に限られるというべきである。
公訴提起時点では,原告Cが否認に転じていたものの,原告D及び原告E
が本件事件の犯人であることの直接証拠として,原告A及び原告Bの供述が
あった。原告Bにあっては,6月30日付けで被害者に謝罪の手紙を送付し,
7月2日に行われた自身の少年審判においても自白を維持していた。
これらの直接証拠に加え,原告Eから犯行の告白を受け,更に原告D及び
原告Eから口止めをされたとのMの供述をも総合すれば,公訴提起の段階で,
原告D及び原告Eには有罪と認められる嫌疑があったといえる。
なお,原告らは,被害者の面通しや携帯電話記録の捜査を行わなかったこ
とを理由に,なすべき捜査を怠ったと主張するが,本件被害者に犯人を識別
することは期待できず,面通しを実施しなかった検察官の判断はやむを得な
いものである。また,原告Aはそもそもアリバイを主張していなかったし,
携帯電話会社の通話記録等の保存期間は3か月で,2月時点の記録は4月ま
でしか保存されないというのが捜査機関の常識であったから,検察官が通話
記録等の捜査を行わなかったとしても違法ではない。
(3)争点(2)エ(ウ)(検察官が刑事第1審において公判を維持したこ
とは違法か)について
公訴追行の違法性の有無の判断基準についても,公訴提起時における各種
の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑が
あれば足りると解すべきであるが,公訴追行時の検察官は,公訴を提起した
検察官の収集した証拠及び心証を引き継いで公訴を追行することになるから,
公訴提起が違法でないならば,公訴の追行は原則として違法でなく,公訴提
起後に公判で嫌疑を客観的かつ明白に否定する証拠が提出され,もはや到底
有罪判決を期待し得ない状況に至らない限り,違法とされることはないと解
すべきである。
原告AとOとのメールは,本件事件当時,原告Aがどこにいたかを直接証
明するものではなく,メールのやり取りがない時間帯については,時間的・
場所的に,原告Aが交際相手と離れて本件現場に赴いた可能性が否定できな
い以上,原告Aには高度な証明力をもってアリバイが立証されたとまではい
えない。
一方,捜査段階で得られていた少年らの供述には一定の信用性が認められ
たから,なお有罪の見込みをもって公訴を追行することに何ら違法はない。
(4)争点(2)エ(エ)(検察官が刑事第1審判決に対して控訴を提起・
追行したことは違法か)について
検察官の控訴提起・追行は原則として適法であり,それが明らかに不当で,
検察官に控訴権を付与した法の趣旨に反すると認められるような特別の場合
を除いては,検察官の権限に属する適法な行為であると解すべきである。
本件では,刑事第1審判決が問題とした諸点について,いずれも検察官が
刑事控訴審において異なる判断を得る見込みがあると考えたことは不合理で
はなく,違法はないというべきである。
第3被告大阪市関係
(原告Aの主張)
1争点(3)ア(市児童相談所は原告Aに対する警察の違法な取調べを違法に
放置したか)について
(1)被告大阪市は,法令に基づき,児童相談所を設置し,その職務を行うに
当たっては,児童福祉法の基本理念に基づき,児童を愛護し(同法1条2項),
保護者とともに,又はこれに代わって,児童を心身ともに健やかに育成する
責任を負う(同法2条)。このような児童福祉法の理念からすると,児童相談
所は,一時保護されている児童が何らかの違法行為にさらされる可能性があ
るか又は現にさらされている場合,児童保護という観点から,積極的にこれ
を是正する義務があると解される。
(2)ところが,市児童相談所は,警察が原告Aを要保護児童として通告して
きた時点で,警察が別件捜査を行う目的を有していることを認識していたに
もかかわらず,警察の違法な別件捜査から原告Aを守るための何らの措置も
講じていないのであって,上記(1)の義務に違反している。
(3)また,原告Aの取調べが進む中で,警察官が原告Aを怒鳴りつける声が
市児童相談所の職員らにしばしば聞こえており,また,原告Aが,夕食時刻
を過ぎても取調べから解放されないことがあったにもかかわらず,市児童相
談所は,警察官を抑止したり,抗議したり,その後の取調べに同席したりす
るなど,児童保護の趣旨に即した措置を全く採らなかった。
本件A日記(丁4)の記載を見れば,原告Aが取調べによって大きな精神
的負担を負っていることは明白であり,また,警察官から暴行を受けていた
ことも明らかである。市児童相談所は,こうした事実を把握していたにもか
かわらず,「今後の聴取のあり方や継続期間等について,改めて警察側の意向
を聴取の上,所としての対応を検討することとし,その旨a警察にも伝えた」
(丁2の18頁)だけであり,不十分な対応というほかない。
2争点(3)イ(市児童相談所が原告Aの取調べに担当職員を立ち会わせなか
ったことは違法か)について
年少者に対する取調べは特に慎重にされるべきであり,これを保護する立場
にある者の立会いが望ましいことはいうまでもない。これについては,原告A
が取調べを受けていた当時の「児童相談所運営指針について」(平成2年3月
5日児発第133号)が,児童福祉法33条1項に基づいて児童を一時保護す
る際に留意すべき事項について,「一時保護中の児童に対して警察等による聴
取がある場合には,児童福祉の観点から,本人及び外の一時保護児童に与える
影響に特に注意し,本人,保護者等の同意,保護者,職員の立ち会い,聴取の
場所,時間等について十分留意する。」と定めているところである。
ところが,市児童相談所においては,警察官の怒鳴り声が職員の耳にも届い
ており,原告Aからも,取調警察官から髪をつかまれた旨の申告がされていた
にもかかわらず,職員が積極的に取調べに立ち会うことはなかったのであり,
立会義務を懈怠しているというほかない。
3争点(3)ウ(市児童相談所は原告Aと保護者との面会を違法に妨害したか)
について
原告Aは,市児童相談所に入所した当初から母親との面会を希望しており,
母親もまた原告Aとの早期の面会を希望していたにもかかわらず,最初の面会
が実現したのは入所後3週間が経過してからであった。これは,親子の面会よ
りも警察の取調べを優先させた結果であり,違法である。
4争点(3)エ(市児童相談所は専ら取調べ目的のため違法に一時保護期間を
延長したか)について
一時保護の期間は必要最小限でなければならず,これを延長する場合におい
ては,児童保護の観点からその可否及び延長期間を決定しなければならないと
ころ,原告Aについては,5月20日の時点で処遇方針が決定していたにもか
かわらず,法律上の上限である2か月を超えて一時保護期間が延長された。原
告Aに対する一時保護延長は,取調べ目的のためにされたことが明らかであり,
違法である。
この点について,被告大阪市は,一時保護が延長されたのは原告Aの希望に
基づいてのことである旨主張するが,原告Aがそのように申し述べたのは,取
調べの担当警察官2名が同席している状況においてであるから,その発言が真
意に基づくものでないことは明らかであり,これを理由に一時保護延長が適法
となることはない。
(被告大阪市の主張)
1争点(3)ア(市児童相談所は原告Aに対する警察の違法な取調べを違法に
放置したか)について
(1)本件児童記録(丁2)には,警察からの連絡内容を書き留めたものとし
て「恐喝未遂であげ,強盗致傷自供させる予定。その上で身柄付通告→家裁
送致して欲しい」と記載されており,市児童相談所としては,強盗致傷事件
での身柄付通告がされるものと予想していた。また,警察から捜査方針を聞
いていたわけでもないから,原告Aが主張するように,市児童相談所におい
て警察が別件捜査を行う目的を有していることを認識していたという事実は
ない。
(2)原告Aは,本件A日記(丁4)の記載内容から,原告Aが取調べによっ
て大きな精神的負担を負っていたことは容易に認識できたと主張するが,上
記日記には,原告Aが反省の情を示して積極的に取調べに応じようとしてい
るようにみえる記載もあり,原告Aが精神的負担を負っていたことが容易に
認識できたとはいえない。
(3)取調べに問題があると感じた場合は,警察に対して是正を申し入れてい
る。すなわち,5月10日には,原告Aから取調べが苦痛であるとの訴えが
あったため,午前中の取調べを中止するよう警察に申し入れており,翌日以
降の取調べは午後のみになった。また,同月14日及び17日の取調べに際
し,取調警察官の声が面談室の近くを通った職員に聞こえたことから,警察
に対して善処方を申し入れた。さらに,同月18日には,原告Aの体調を考
慮して警察に対して取調べの中止を申し入れ,実際に取調べは中止となって
いる。
2争点(3)イ(市児童相談所が原告Aの取調べに担当職員を立ち会わせなか
ったことは違法か)について
市児童相談所の職員は,4月30日,5月7日,同月11日,同月12日,
同月13日,同月25日及び同月26日の計7回,原告Aの取調べに立ち会っ
ている。5月10日には原告Aから取調べが苦痛であるとの訴えがあったため,
翌日から3日間は連続して立ち会っており,それ以降も,取調べに先立って,
原告Aに対し,職員の立会いを希望するか否かを確認している。結局,原告A
からの立会希望はなかったが,それでも慎重を期して,以後4回の取調べに立
ち会っている。
3争点(3)ウ(市児童相談所は原告Aと保護者との面会を違法に妨害したか)
について
市児童相談所では,原告Aの福祉向上を図り,原告Aに対する的確な援助方
針を決めていく必要から,原告Aと保護者との最初の面会は,ケースワーカー
(児童福祉司)が家庭訪問を行って保護者の面接調査を経た後,ケースワーカ
ー立会いの下で行う方針とし,ケースワーカーのK職員は,その旨を原告Aに
説明し,了解を得ていた。
そして,K職員は,5月6日,原告A宅の家庭訪問を実施して面接調査を行
うとともに,仕事で多忙な母親に対し,面会の時間ができたならば市児童相談
所に電話で連絡をするよう依頼していたところ,同人から原告Aの面会に行く
ことができるとの連絡を受けて日程調整の上,5月18日に原告Aと母親との
面会が行われたのであって,市児童相談所が合理的な理由もなく同日まで面会
を許さなかったのではない。
4争点(3)エ(市児童相談所は専ら取調べ目的のため違法に一時保護期間を
延長したか)について
市児童相談所の所長が,原告Aの一時保護期間を延長したのは,職員が,6
月17日,原告Aに対し,同月20日付けでN学園へ入所することとなった旨
を伝えたところ,原告Aが,事件のことが思い出せそうな気がするのでもう少
し時間がほしいなどと訴えたためである。
第4損害
(原告らの主張)
1原告Aについて
原告Aは,違法捜査によってその心身に著しい苦痛を与えられた。この苦痛
を金銭に換算すれば,500万円は下らない。そして,原告Aが本件訴訟を提
起するための弁護士費用としては,その1割である50万円が相当である。
なお,遅延損害金については,原告Aが補導された4月26日から付すのが
相当である。
2原告Bについて
原告Bは,5月19日,本件事件の被疑者として逮捕され,その後,家族に
も会うことができないなど,自由が大きく制約される日々が続き,平成20年
9月17日になってようやく,非行事実なしとする裁判が確定した。
こうした中で,原告Bは,肉体的・精神的・経済的に大きな負担を強いられ,
こうした苦痛を金銭に換算するならば,1500万円は下らない。そして,原
告Bが本件訴訟を提起するための弁護士費用としては,その2割である300
万円が相当である。
なお,遅延損害金については,原告Bが逮捕された5月19日から付すのが
相当である。
3原告Cについて
原告Cは,5月22日,本件事件の被疑者として逮捕され,その後,家族に
も会うことができないなど,自由が大きく制約される日々が続き,平成20年
7月11日になってようやく,非行事実なしとする裁判が確定した。
こうした中で,原告Cは,肉体的・精神的・経済的に大きな負担を強いられ,
こうした苦痛を金銭に換算するならば,1500万円は下らない。そして,原
告Cが本件訴訟を提起するための弁護士費用としては,その2割である300
万円が相当である。
なお,遅延損害金については,原告Cが逮捕された5月22日から付すのが
相当である。
4原告D及び原告Eについて
原告D及び原告Eは,いずれも6月14日に逮捕され,7月5日に起訴され
た。平成17年2月17日に至り保釈されることとなったが,それまでは接見
禁止処分が付され,自由が極めて制限される日々が続いていた。これにより原
告Eは新たな職に就く機会を失い,原告Dは,当時勤務していた職場を辞めざ
るを得なくなった。しかも,検察官が第1審判決に対して控訴を提起したため,
無罪判決が確定したのは平成20年5月2日のことであり,それまでは刑事被
告人という立場を強いられ,物心両面での損害を受けた。
このような原告D及び原告Eの損害を金銭で評価するとすれば,各人につき
1500万円は下らないが,原告D及び原告Eについては,平成20年10月
15日付けでそれぞれ311万2500円の刑事補償決定がされているため,
この額は請求から控除する。弁護士費用については,残余部分の2割に相当す
る237万7500円が相当である。
なお,遅延損害金については,原告D及び原告Eが逮捕された6月14日か
ら付すべきである。
(被告らの主張)
争う。

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