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平成24年(受)第349号未収金請求事件
平成25年6月6日第一小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人今村峰夫ほかの上告受理申立て理由について
1本件は,亡Aの遺言執行者である上告人が,被上告人に対し,亡Aが死亡時
に有していた未収金債権(以下「本件未収金債権」という。)の支払を求める事案
である。上告人は,既に,本件未収金債権の一部を請求する訴えを提起し,この請
求を全部認容する旨の確定判決を得ており,本件訴訟は,その残部を請求するもの
である。上記の一部請求に係る訴えの提起が残部についても消滅時効の中断の効力
を生ずるか否かが争われている。
2原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)上告人は,平成10年9月3日に死亡した亡Aの遺言により,その遺言執
行者に就職した者である。
(2)本件未収金債権は,商行為によって生じた債権であり,その消滅時効期間
は5年である。
(3)被上告人は,平成12年6月24日,上告人に対し,本件未収金債権につ
き,残高証明書を発行し,その債務を承認した。
(4)上告人は,平成17年4月16日到達の内容証明郵便で,被上告人に対
し,本件未収金債権の支払の催告(以下「本件催告」という。)をした。
(5)上告人は,平成17年10月14日,大阪地方裁判所に対し,被上告人を
被告として,本件未収金債権のうち5293万3243円の支払を求める訴え(以
下「別件訴え」という。)を提起した。上告人は,別件訴えに係る訴訟において,
本件未収金債権の総額は3億9761万2141円であり,その一部である529
3万3243円を請求すると主張した。これに対し,被上告人は,本件未収金債権
の上記総額には,相殺処理によって既に消滅した分が含まれていると主張した(以
下,この主張を「別件抗弁」という。)。
(6)大阪高等裁判所は,平成21年4月24日,別件抗弁に理由があると判断
した上,現存する本件未収金債権の額は7528万3243円であると認定して,
上告人の請求を全部認容する旨の判決(以下「別件判決」という。)を言い渡し,
別件判決は同年9月18日に確定した。
(7)上告人は,平成21年6月30日,本件訴えを提起し,別件判決の認定に
沿って,現存する本件未収金債権の額は7528万3243円であり,別件訴えに
係る訴訟で請求していなかった残部(以下「本件残部」という。)の額は2235
万円であると主張して,その支払を請求した。これに対し,被上告人は,本件残部
については,本件催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以
上は,消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。
3原審は,本件残部について,その額が2235万円であると認定したもの
の,消滅時効が完成していると判断して,上告人の請求を棄却した。
4所論は,①別件判決においては,本件未収金債権の一部が消滅している旨の
別件抗弁に理由があると判断された上,現存する本件未収金債権の額が7528万
3243円であると認定されたのであるから,別件訴えの提起は,請求の対象とな
っていなかった本件残部についても,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の
中断の効力を生ずる,②仮に上記①のように解することができなくとも,別件訴え
の提起は,本件残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずる
と解すべきであり,別件訴えに係る訴訟の係属中に本件訴えが提起されたのである
から,本件残部につき確定的に消滅時効の中断の効力が生じているというのであ
る。
5(1)所論①について
ア数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提
起された場合,当該訴えの提起による裁判上の請求としての消滅時効の中断の効力
は,その一部についてのみ生ずるのであって,当該訴えの提起は,残部について,
裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない(最
高裁昭和31年(オ)第388号同34年2月20日第二小法廷判決・民集13巻
2号209頁参照)。そして,この理は,上記訴え(以下「明示的一部請求の訴
え」という。)に係る訴訟において,弁済,相殺等により債権の一部が消滅してい
る旨の抗弁が提出され,これに理由があると判断されたため,判決において上記債
権の総額の認定がされたとしても,異なるものではないというべきである。なぜ
なら,当該認定は判決理由中の判断にすぎないのであって,残部のうち消滅してい
ないと判断された部分については,その存在が確定していないのはもちろん,確定
したのと同視することができるともいえないからである。
イしたがって,明示的一部請求の訴えである別件訴えの提起が,請求の対象と
なっていなかった本件残部についても,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効
の中断の効力を生ずるということはできない。
(2)所論②について
ア明示的一部請求の訴えにおいて請求された部分と請求されていない残部と
は,請求原因事実を基本的に同じくすること,明示的一部請求の訴えを提起する債
権者としては,将来にわたって残部をおよそ請求しないという意思の下に請求を一
部にとどめているわけではないのが通常であると解されることに鑑みると,明示的
一部請求の訴えに係る訴訟の係属中は,原則として,残部についても権利行使の意
思が継続的に表示されているものとみることができる。
したがって,明示的一部請求の訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって
残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の
意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提
起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべ
きであり,債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定
の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができ
ると解するのが相当である。
イもっとも,催告は,6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなければ,
時効の中断の効力を生じないのであって,催告から6箇月以内に再び催告をしたに
すぎない場合にも時効の完成が阻止されることとなれば,催告が繰り返された場合
にはいつまでも時効が完成しないことになりかねず,時効期間が定められた趣旨に
反し,相当ではない。
したがって,消滅時効期間が経過した後,その経過前にした催告から6箇月以内
に再び催告をしても,第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じ
なかった以上は,第1の催告から6箇月を経過することにより,消滅時効が完成す
るというべきである。この理は,第2の催告が明示的一部請求の訴えの提起による
裁判上の催告であっても異なるものではない。
ウこれを本件についてみると,上告人は,本件催告から6箇月以内に,別件訴
えを提起したにすぎず,本件残部について民法153条所定の措置を講じなかった
のであるから,本件残部について消滅時効が完成していることは明らかである。
6以上の次第であるから,上告人の請求を棄却した原審の判断は,是認するこ
とができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官横田尤孝裁判官
白木勇裁判官山浦善樹)

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