弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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                   主     文
1 被告は原告に対し,金2444万8243円及びこれに対する平成11年10月2日から
支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
                事     実
第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
   被告は原告に対し,金1億1153万0689円及びこれに対する平成11年10月2日
から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
   第1項につき仮執行宣言
 2 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
 1 請求の原因
  (1) 事故の発生
    原告は,平成11年10月2日午前1時ころ,鹿児島市立A高等学校(以下「A」とい
う。)硬式野球部グラウンド向かいにある雨天練習場横の高さ約2メートル,幅約
5メートルの鉄棒(以下「本件鉄棒」という。)をジャンプしてつかみ,逆上がりに
移行しようとして足を上げた。そのとき本件鉄棒の金属製の支柱が折れて本件
鉄棒が倒れ,原告はそれに引っ張られるように地面に落下し,雨天練習場脇に
置かれた金属板やコンクリート床等で頭を強打した(以下,この事故を「本件事
故」という。)。
  (2) 原告は本件事故の結果,頸髄損傷,第2頸椎歯突起骨折等の傷害を負い,第2
頸神経以下の完全麻痺を呈していると診断された。その後,回復して若干の仕
事もできるようになったが,四肢不全麻痺,上肢脱力,可動域制限及び手指の
巧緻運動障害などがあり,自動車損害賠償保障法施行令第2条の後遺障害別
等級表第5級2号に該当する後遺障害がある。
(3) 被告の責任
    本件鉄棒は被告が管理する公の営造物である。本件鉄棒の金属製支柱は根本
部分が老朽化していたため,原告が飛び乗って逆上がりに移行しようとしただけ
で支柱から折れたのであるから,本件鉄棒は鉄棒として通常有すべき安全性を
客観的に欠いていた。本件鉄棒は,客観的には鉄棒と見えるものであるから,
本件鉄棒が鉄棒として通常有すべき安全性を客観的に欠いている本件で,被告
は国家賠償法2条1項の責任を免れない。
    なお,公の営造物の設置,管理の瑕疵を考える場合には本来の利用者を対象に
してのみ安全性を確保すればよいものではない。本件鉄棒は,公道のすぐそば
に位置して公道からも見える。本件鉄棒の敷地付近は住宅街で,その公道を車
や人がよく通行した。公道から本件鉄棒がある敷地に入る通路は本件鉄棒のす
ぐそばにあり,公道と敷地の間には門塀やチェーン,立ち入り禁止の表示もなく
部外者が入り,つい本件鉄棒を使用してしまいかねない地理的状況にあった。
また,現実に同校硬式野球部関係者以外の者(部外者)が本件鉄棒がある敷地
に入ることも多かったし,本件鉄棒を利用することもあった。その出入りを見た同
校関係者からも侵入者に対して敷地に出入りしないようにとの注意がされること
もなかった。また,敷地の近くに住んでいたAの柔道部等の生徒が本件鉄棒でト
レーニングをしていたこともあった。したがって部外者によって本件鉄棒が使用さ
れるかもしれないことは容易に予想された。そして本件鉄棒の前方床はコンクリ
ート敷きになっており,本件のような鉄棒からの落下事故が起きた場合,重大な
事故になる可能性が高かった。被告は本件鉄棒の危険性を認識して,平成11
年7月以降,老朽化のため本件鉄棒を使用していなかった。被告は,危険性を
認識していたのであるから広く関係者に利用状況を確認して,部外者が鉄棒を
使用する可能性があることも考え,部外者にも分かるように使用禁止の警告をし
たり,公道と本件鉄棒がある敷地との出入口に門塀を設置して同敷地への部外
者の進入を防ぐべきであったのにそれをしなかった。
  (4) 損害
   ア 治療費                   167万0460円
     本件事故による傷害等のため原告が支払ったB病院での治療費34万4360
円,C病院での治療費47万9805円,D病院での治療費83万9995円,ステ
ッキ代6300円の合計
   イ 付添看護費 94万9500円
     原告は,B病院(26日間)及びC病院(72日間)に入院していた期間中付添看
護が必要であったほか,D病院での205日の入院治療のうち週1回の割合で
計29日の付添看護が必要であった。これら合計127日についての1日あたり
6500円の近親者の付添看護費及びD病院を退院した平成12年7月31日
以降,症状固定日である平成12年9月30日までの62日についての1日あた
り2000円の自宅における近親者の付添看護費の合計 
     6500円×127+2000円×62=94万9500円
   ウ 入院雑費                   45万4500円
     入院合計303日につき1日あたり1500円の入院雑費
     1500円×303=45万4500円
   エ 休業損害                      360万円
     原告は本件事故前少なくとも月額30万円程度の収入を得ていた。平成11年1
0月から症状が固定した平成12年9月末までの1年間(12か月間)の休業損
害額は360万円を下らない。
     30万円×12=360万円
   オ 逸失利益 7770万6229円
     原告はその努力と友人の援助から若干の仕事もできるようになったが,日常生
活に多大な不便を感じている。原告の後遺障害は前記後遺障害別等級表第
5級2号に該当し,原告は症状固定日である平成12年9月30日には24歳で
あったので,その後の43年間の就労可能年数(ライプニッツ係数17.5459)
にわたり,労働能力を79パーセント喪失したものとして,賃金センサス平成1
2年度第1巻第1表の男子労働者学歴計の560万6000円を基礎として逸失
利益が計算される。
     560万6000円×0.79×17.5459
                        =7770万6229円
   カ 慰謝料1715万円
     入院10か月,通院2か月に対応する入通院慰謝料である315万円と前記後遺
障害別等級表第5級に対応する後遺障害慰謝料である1400万円の合計
   キ 弁護士費用                    1000万円
  (5) よって,原告は被告に対し,国家賠償法2条1項に基づき,金1億1153万068
9円及びこれに対する本件事故日である平成11年10月2日から支払済みに至
るまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
 2 請求の原因に対する認否
  (1) 請求原因第1項のうち,本件事故発生の時刻,事故発生の態様は不知。その余
は認める。
  (2) 請求原因第2項のうち,原告が本件事故の結果,頸髄損傷,第2頸椎歯突起骨
折等の傷害を負い,第2頸神経以下の完全麻痺を呈していると診断されたこと
は認め,現在の原告の後遺障害が前記後遺障害別等級表第5級2号に該当す
ることは否認する。原告は現に介護なしに生活でき,一人で電車通勤が可能で,
仕事に従事しており,その後遺障害は,神経系統の機能又は精神に障害を残
し,服することができる労務が相当な程度に制限されるものとして前記後遺障害
別等級表第9級10号に相当する。
  (3) 請求原因第3項のうち,本件鉄棒が公の営造物であることは否認する。本件鉄
棒は,A硬式野球部の施設で直接に公の目的に供用されていたものではなく,
公の営造物ではない。
    本件鉄棒の根本部分が老朽化していたこと,本件鉄棒がある敷地と公道との間
に門塀やチェーンなどがなかったこと,雨天練習場横がコンクリート敷きになって
いること,平成11年7月以降,老朽化のため本件鉄棒を使用していなかったこ
と,本件鉄棒に使用禁止の警告の表示などがなかったことは認める。本件鉄棒
の設置,管理に瑕疵があったことは否認する。本件鉄棒はA硬式野球部の専用
敷地内にあり,同部員の専用施設であり同部員以外の者に使用されることは予
定されていなかった。また,同敷地内にAの校長の許可を得ることなく立ち入り,
かつその施設を利用することは許されない。したがって,被告には不特定多数
の者に対して本件鉄棒の使用禁止を告知すべき義務はない。被告は,同部員
に対しては平成11年7月以降,老朽化のため本件鉄棒の使用を禁止しており,
本件鉄棒は同部員らの物干しとしてしか利用されておらず,本件鉄棒の設置,
管理に瑕疵はなかった。また,本件鉄棒がある敷地に練習の見学目的で出入り
する者が野球練習施設に触れることはほとんどなく,仮にあったとしてもその場
で注意等が可能である。原告は人の全くいない深夜に無断で侵入しているので
練習見学者と同様のレベルで論ずることはできない。
    本件は十分な判断力がある大人の事故であり,原告は本来立ち入りが禁止され
ている場所に無断で立ち入っており,自己の違法行為を十分に認識し得た。
  (4) 請求原因第4項のうち,原告が症状固定日に24歳であったことを認め,その余
はいずれも不知又は争う。
 3 抗弁
  (1) 過失相殺
    原告は深夜に部外者の立ち入りが禁止されている場所に無断侵入した上で本件
事故を惹起している。原告は十分な判断能力がある大人でありその違法性を十
分に認識し得た。また,本件鉄棒はA硬式野球部員以外の者の使用が禁止され
ていたし,本来的な意味での鉄棒としての使用も禁止されていた。これらのこと
から原告には過失があり,本件事故惹起についての原告の帰責性は極めて大
きいと言える。損害の公平な分担の観点からして,過失相殺の法理の適用ない
し類推適用が認められるべきである。
 4 抗弁に対する認否及び原告の主張
  (1) 争う。
    原告には過失はない。原告は,A在籍中,部外者が本件鉄棒の設置された敷地
に自由に出入りして,トイレを使ったり,鉄棒にぶら下がったりしていたのを見て
いた。平成11年10月,原告がA硬式野球部のグラウンドを訪ねたところ,昔と
同様,本件鉄棒がある敷地の出入り口には何らの遮蔽物もなく自由に出入りで
きる状況であったので,原告が同校在学中に野球部OBがよくしていたように,
本件敷地に立ち入り,懐かしさもあり本件鉄棒にぶら下がっただけである。
               理      由
1 本件鉄棒の設置及び管理について,当事者間に争いのない事実に甲14,15,16,
18ないし27,乙1ないし7,9,15(枝番があるものは各枝番を含む。),証人E,原
告本人及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
 (1) Aには鹿児島市坂元町に,主に同校の硬式野球部が使用する施設がある。同施
設がある敷地は,一般人が通行する道路をはさんで,主に,野球のグラウンドがあ
る敷地(以下「野球グラウンド敷地」という。)と屋根付きの雨天練習場等がある敷
地(以下「雨天練習場敷地」という。)からなっている。
   これらの敷地は,Aの校舎等がある敷地とは別であり,本件事故当時,同グラウン
ドや雨天練習場敷地の施設は同校の硬式野球部員の練習のために使用されてい
た。
   本件鉄棒は,雨天練習場敷地にある高さ約2メートル幅約5メートルの金属製の鉄
棒であり,主たる支柱が両端と中央の合計3本あり,各支柱に細い補助的な支柱
がついている。
   雨天練習場敷地には,本件鉄棒の他に雨天練習場や便所,更衣室,部室などの
施設がある。
 (2) 野球グラウンド敷地はフェンスで囲まれており,「お願い 無断で野球場の使用を
禁止します A高等学校長」と記載された看板がフェンスに取り付けられている。
   雨天練習場敷地は道路より位置的に少し低く,道路から同敷地内の施設に行くた
めには,道路から分岐した長さ数メートルの下り坂の道(以下「本件導入路」とい
う。)を通る。雨天練習場敷地の出入り口は本件導入路だけである。一般人が通行
する道路はアスファルト舗装されているのに対して,本件導入路はコンクリートで舗
装されている。本件導入路と道路との間には本件事故以前は門扉やチェーンなど
の外部からの進入を妨げる施設は設けられておらず,また部外者の立ち入りを禁
止する旨の看板などはなかった。本件事故後,本件導入路の入り口付近に金属製
の扉が設置された。
   本件鉄棒は,雨天練習場と道路にはさまれた場所に位置し,道路から下に見る形
で見ることができる。道路から本件鉄棒に行くには,雨天練習場敷地の出入り口で
ある本件導入路を下まで行き,左に曲がって雨天練習場横に少し行くこととなる。
 (3) Aでは,その体育施設使用規程により,グラウンドなどの同校の体育施設を外部
の者が利用することは原則的に禁止され,利用を希望する者は,利用許可申請を
出した上で学校長の許可を得る必要がある。平成11年には鹿児島市中学校体育
連盟から同市中学校野球競技大会で野球場を利用したいとの申請があったためこ
れを許可したことがあった。この際,利用期間中事故が発生した場合には利用者
側が責任をとること,利用許可施設以外は使用しないことを条件に利用が許可さ
れている。
 (4) しかし,前記のとおり,雨天練習場敷地の出入り口には門扉など特に障壁となる
物もなく道路から雨天練習場敷地に出入りすることが可能であった。現にAの硬式
野球部員やその指導者以外の者も,雨天練習場敷地内に立ち入り,雨天練習場
での練習を見学したり,同敷地内のトイレを利用したりしていた。同校関係者も練
習や練習試合などの際,その父兄などが同敷地内のトイレを利用していることに気
付いていた。同トイレの利用は,練習風景を見学する部員の父兄や練習試合の際
の関係者が多かったとは推測されるが,そのような雨天練習場敷地内への立ち入
りについて,同校関係者が同敷地への立ち入りの目的を問うたり,立ち入りをとが
めたりしたことはなく,また,硬式野球部関係者と第三者とを分けて取り扱っていた
ことも認められない。本件事故当時の同校硬式野球部長だった証人E(以下「E」と
いう。)も,硬式野球部員に対して,安全性の点から子供の立ち入りについて注意
するように指示していたことが伺える。
 (5) 本件鉄棒は,原告が硬式野球部に在籍していた平成4年から7年ころには部員
の筋力トレーニングのため使用されていた。当時,硬式野球部員は鉄棒にぶら下
がって,懸垂をし,腹筋等を使って逆上がりに移行するというトレーニングをしてい
た。
 (6) Aでは学校施設の点検を毎月行っており,平成11年当時はEが本件鉄棒を含む
硬式野球部の施設の安全点検を行っていた。本件鉄棒は平成11年6月11日の
点検で土台がぐらつくなどの異常が発見された。同年7月12日の点検では本件鉄
棒の支柱が地面に接する付近で腐食が進み,ぐらつきがあるので,安全上の問題
から硬式野球部員の使用を禁止することとし,そのころ,同部員に対して本件鉄棒
の禁止が伝えられた。また,同年9月13日の点検の際には使用禁止の注意喚起
の意味を込めて,本件鉄棒の支柱と近辺の電柱とを白いひもや黄色い縄跳びの縄
で結んだ。しかし同年9月終わりころには,それらのひもなどはいずれもなくなり,
本件事故当時も特に使用禁止の旨を示す表示などは何もなかった。
2 本件事故の状況等について,甲3,15,16,28(枝番のあるものは各枝番を含
む。),原告本人及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
  原告は,昭和51年5月10日生まれの本件事故当時23歳の男性であり,Aの卒業
生で,同校在学中は同校硬式野球部に在籍していた。原告は,平成7年,同校を卒
業後に東京の専門学校に入り,その後,東京でモデルなどの仕事をするようになり,
本件事故当時もモデル,俳優などの仕事をしていた。
  平成11年10月,原告は,当時交際していたF(以下「F」という。)とともに鹿児島市に
来て,同月1日,Fとともに原告の母親宅を訪ねた。その夜,原告は,自ら運転する車
に同じく母親宅に来ていた兄弟やFらを乗せて原告の母親宅を出て,兄弟を送った
後,FとともにAの野球部グラウンドに向かった。
  原告は,同月2日午前1時ころ,野球部グラウンド前の路上に車を停車して,懐かし
さから,雨天練習場敷地に入り,同敷地の部室の方などを見た後,本件鉄棒で逆上
がりをすることとした。当時,本件鉄棒の辺りは街灯などの光のため,鉄棒が見えるく
らいには明るかった。
  原告は,雨天練習場の建物の方を向いて,高校生のときと同様に,鉄棒の真下から
ジャンプして鉄棒をつかみ,そのまま逆上がりに移行しようと足を上げた。原告がそれ
以外に本件鉄棒に異常な力を加えたりしたことは認められない。
  原告が本件鉄棒につかまって足を上げたところ,本件鉄棒の金属製支柱が地面と接
する辺りですべて折れ,本件鉄棒は雨天練習場側に倒れ,原告も本件鉄棒に引っ張
られる形で雨天練習場の横にあるコンクリート床に落下し,その際,雨天練習場の壁
面付近にあった鉄板に頭頂部をぶつけたりした。
  原告は本件事故後直ちにB病院に搬送され,頸髄損傷と診断され,同病院に入院し
た。
3 被告の責任について
 (1) 前記によれば,本件鉄棒は市立高校であるAが管理していた運動施設であり公
の営造物といえる。被告は本件鉄棒がAの硬式野球部員のみの使用を想定してい
て公の営造物ではないと言うが,利用の対象者が限定されていることによって直ち
に公の営造物でなくなるものではない。
 (2) 本件事故は,原告が本件鉄棒で逆上がりをしようとして,鉄棒につかまり足を上
げたところ本件鉄棒の支柱が折れ,倒壊したため発生したものである。原告が上記
以外に特別な力を本件鉄棒に加えたとは認められず,前記1(6)の事実も考慮する
と,本件鉄棒の倒壊の原因は本件鉄棒の支柱が地面で接する付近で腐食してい
たことと考えられる。原告の本件鉄棒の使用方法に照らすと,本件鉄棒は,構造的
には鉄棒として通常有すべき安全性を欠いていたと認めることができる。
   なお,被告は本件鉄棒が物干しとして利用されていたとも主張するが,本件鉄棒は
客観的形状からも運動用具としての鉄棒であり,またそのようなものとして被告も
安全点検をしている。
 (3) 国家賠償法2条1項にいう営造物の設置,管理の瑕疵とは,当該営造物が通常
有すべき安全性を欠く状態をいうと解されるが,この安全性の有無を判断するに際
しては,単に営造物の構造だけでなく,その用法,場所的環境,利用状況等諸般
の事情を総合的に考慮するのが相当である。
   この点,被告は,本件鉄棒を使用するAの硬式野球部員に対してはその使用を禁
止しており,本件鉄棒がある敷地に第三者が進入し本件鉄棒を利用することは予
測できないので,被告の設置,管理に瑕疵はなかったと主張する。
   しかし,前記1の認定のとおり,本件鉄棒がある雨天練習場敷地には,出入り口に
門扉等もなく一般人が通行する道路から入ることができ,部外者の立ち入りを禁止
する旨の表示などもなかったこと,本件鉄棒は一般人が通行する道路からも見え
る位置にあったこと,同敷地には現実に見学者も含む第三者が入ることもあり,そ
れに対してAの関係者が注意をしたり特段の立入禁止措置をとったりしたことはな
かったことなどの諸事情がある。これらによれば,被告は,Aの硬式野球部員以外
の者が,雨天練習場敷地内に立ち入り,本件鉄棒を使用する可能性を予測,予見
することができたとするのが相当である。そして,本件では,前記1のとおり,本件
事故当時本件鉄棒には使用禁止の旨の表示などは何もされていなかった。このよ
うな諸事情を考慮すると,被告には本件鉄棒の設置,管理について瑕疵があった
とするのが相当である。
   したがって,被告には国家賠償法2条1項によって原告に生じた損害を賠償する責
任がある。
4 被告の負担割合について
  本件鉄棒があるのはAの敷地であることは客観的にも明らかで,同校の卒業生であ
る原告もそのことを知っていた。また,本件鉄棒は同校の運動施設であり,そのことも
原告は知っていた。 
  確かに雨天練習場敷地や本件鉄棒の管理状況について前記1(2)及び(4)の各事実
が認められ,それらは損害の公平な分担の見地においても考慮される。しかしそれら
の各事実によって,直ちに,公園ではなく学校敷地である雨天練習場敷地が時間を
問わず第三者が自由に立ち入ることができる場所になるとか,学校施設である本件
鉄棒が卒業生も利用することができる施設となるものではない。本件において,学校
施設である雨天練習場敷地内のトイレについて,硬式野球部の練習等の際に関係者
が利用することは事実上認められていたともいえるところ,原告は本件鉄棒について
も硬式野球部員以外の同校生徒や卒業生が利用していたことがあったと主張する。
しかし,その利用頻度や本件事故直前の利用状況を別としても,A硬式野球部員以
外の者が同校関係者の許可のもとに本件鉄棒を利用していたことを認めるに足りる
証拠はない。そのような状況で,本件事故当時Aに在籍していない原告が,同校の敷
地に立ち入った上,運動施設である高さ2メートルの本件鉄棒を利用して,本件事故
が発生した。本件事故当時の原告の年齢など本件に現れた諸事情を考慮すると,原
告の損害のうち被告が負担するのは損害の公平な分担の見地から相当の程度にと
どまるとするのが相当である。
  被告については,雨天練習場敷地の出入り口に門扉を設置していなかったなど前記
1(2)及び(4)の諸事実が認められるが,他方,雨天練習場敷地はAの敷地として,一
般人が通行する道路等からは敷地として明確に区別でき,本件鉄棒の利用者として
想定されていた同校硬式野球部員に対しては本件鉄棒の使用禁止の旨を伝えてい
る。また本件鉄棒の高さから幼児がこれを使用することは想定しにくい。
  そこでそれらの事情を総合し,損害の公平な分担をはかる過失相殺の法理により,
被告が負担するのは原告に生じた損害のうちの3割とするのが相当とする。
5 損害について
 (1) 甲3ないし7,15,乙11ないし14(枝番のあるものは各枝番を含む。),原告本人
によれば以下の事実が認められる。
   本件事故により原告は直ちにB病院に搬送され,頸髄損傷と診断された。事故直
後は自発呼吸もできず人工呼吸器を装着し,首から下の体を自分では動かせない
状態であった。B病院には事故が発生した平成11年10月2日から同月27日まで
入院し,同月27日,手術目的でC病院に転院し,同病院に入院した。同年11月4
日には,同病院で第2頸椎歯突起骨折に対する骨接合の手術を行い,手術が成功
しその後原告は人工呼吸器もとることができた。C病院には平成12年1月7日まで
入院し,同月7日,リハビリテーションの目的でD病院に転院し,同病院に入院し
た。同病院においては頸髄損傷,第2頸椎歯突起骨折のほか神経因性膀胱直腸
障害などと診断され,移動は車椅子(他人の介助を要する。)によっていたが,その
後,杖を使用して自力で歩けるようになり,同年7月30日には同病院を退院した。
その後,同病院やG整形外科クリニックに通いリハビリテーションを続けている。
   その間,平成12年5月17日,D病院において,障害名を頸髄損傷による四肢不全
麻痺(第2頸椎歯突起骨折),総合所見として「1本杖歩行で約100m可能,右握力
5kg左握力25kg,右上肢筋力低下,巧緻運動障害強い,頸部以下運動知覚障害
あり,日常生活ほぼ可能だが食事はスプーン使用,排便後処理など半介助を要す
る頸部可動域制限+」などと診断され,推定の症状固定日は同年9月30日とされ
た。同年6月には頸髄損傷による体幹機能障害(3級),右上肢機能障害(3級)と
して,東京都により身体障害者福祉法別表の2級相当の障害があるとされた。同
年8月31日には,前記病院において,障害内容として四肢不全麻痺,他覚所見と
して,「杖使用にて歩行可能,握力右6キログラム,左28キログラム,手指巧緻運
動障害があり」などとされ,その他神経因性の軽度の膀胱直腸障害,頸椎部の運
動障害及び上下肢の関節機能障害が存在し,労働能力は平均人の4分の1程度
であるとされた。 
   現在,原告は東京で一人で生活し,生活には他人の介助を要さない。杖を使わず
自力で歩行でき,電車に乗ることも不可能ではなく,自動車の運転もしている。しか
し左半身には麻痺はないがしびれや感覚障害が残り,右半身は上肢,下肢ともに
運動障害が残り,天候などによっては右下肢が硬直し,歩行に他人の助けを借り
ることもある。また長距離の歩行は困難である。自動車の運転も主に左手足を使
用している。原告は右利きであるが,現在は右手で書くと字形が崩れるため左手で
文字を書いたりするなど日常生活も主に左手を使用している。便意についても十全
でない。
   原告は,現在,知人の洋服関係の仕事の企画や経理などをして収入を得ている。
 (2) 治療関係費                   166万5620円
   甲8ないし11(枝番のあるものは各枝番を含む。)によれば,平成11年10月2日
から症状固定日とされる平成12年9月30日までの治療費として,B病院,C病院
及びD病院において計165万9320円が必要であったこと及び下肢の麻痺のため
にステッキ代として6300円が必要であったことが認められる。
 (3) 付添看護費     60万4000円
   甲3,15,乙11,12の1,原告本人によれば,原告はB病院入院期間中及びC病
院に入院していた期間のうち平成11年12月20日までは介護が必要な状態で,原
告の家族がその介護をしていたことが認められ,それら計80日について1日あた
り6000円の付添看護費を認める。甲15及び弁論の全趣旨によれば,D病院にお
いては病院による完全介護であったこと,D病院退院後も上下肢の障害などから
他人の介助が必要であったことが認められることから,D病院退院後の平成12年
7月31日から症状固定日とされる同年9月30日までの62日間,自宅等において
近親者の介助を得ていたとして1日あたり2000円の付添費を認める。
6000円×80+2000円×62=60万4000円
 (4) 入院雑費       39万3900円
   前記(1)のとおり,原告の入院期間は計303日間であり,1日あたり1300円の入
院雑費を認める。
1300円×303=39万3900円
 (5) 休業損害                    404万4396円
   甲12,13,15,原告本人によれば,本件事故以前,原告はモデル等の仕事によ
り株式会社Hから出演料を得ており,平成10年には計327万6538円の収入が
あり,平成11年には本件事故にあう9月までの就業により303万3300円の収入
があったことが認められる。そこで,平成11年の1月から9月までの平均月収額3
3万7033円を基礎として,本件事故後,症状固定日とされる平成12年9月末まで
の12か月間の休業損害を認める。
33万7033円×12=404万4396円
 (6) 入通院慰謝料                      287万円
   前記(1)の入通院期間を考慮し,これに対応する慰謝料として,287万円が相当で
あると認める。
 (7) 逸失利益                   5508万2896円
   前記(1)のとおり,原告については右上下肢について運動障害を残し,その程度も
かなり重い。そしてその他の障害も考慮し,原告は症状固定日とされる平成12年
9月末日から就労可能年数である43年にわたり,労働能力を56パーセント喪失し
たものと認める。また前記(3)の原告の本件事故前の収入状況に鑑み,逸失利益
の算定にあたっては,平成12年度賃金センサス第1巻第1表の男子労働者学歴
計である560万6000円を基礎とする。
   560万6000円×17.5459(43年に相当するライプニッツ係数)          
         ×0.56=5508万2896円
 (8) 後遺障害慰謝料950万円
   前記(1)のとおり,原告は,現在一人で日常生活が可能ではあるが,右上下肢の運
動障害を中心とするかなり程度の高い後遺障害が残った。原告は俳優になるとい
う目標に向かい仕事が順調であったところこの障害のためその夢が絶たれたこと
の無念さなどを述べる。その他,本件に現れた諸事情を考慮し,後遺障害について
の慰謝料として950万円が相当と認める。
 (9) 前記(2)から(8)までの損害計7416万0812円のうち,前記4のとおり被告はそ
の3割にあたる2224万8243円について責任を負うのが相当である。
 (10) 弁護士費用
   本件事案の内容等に鑑み,弁護士費用として220万円が相当と認める。
6 以上によれば,原告の請求は被告に対し2444万8243円及びこれに対する平成1
1年10月2日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員の支払を請求する限
度で理由があるのでこれを認容し,その余の請求はこれを棄却することとして,主文
のとおり判決する。
 
  (口頭弁論終結日 平成14年9月30日)
          鹿児島地方裁判所民事第2部
裁判官      柴 田 義 明 

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