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平成14年(行ケ)第602号 審決取消請求事件
平成16年4月22日口頭弁論終結
            判       決
      原      告    光陽産業株式会社
        訴訟代理人弁護士    寒河江孝允
      同           武藤元
        訴訟代理人弁理士    渡辺昇
      被      告    株式会社藤井合金製作所
      訴訟代理人弁理士    園田敏雄
      同           宮崎栄二
            主       文
    原告の請求を棄却する。
    訴訟費用は原告の負担とする。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が無効2002-35050号事件について平成14年10月28日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯
  原告は,考案の名称を「ガスコツク」とする登録第2078022号実用新
案(昭和62年7月10日出願(以下「本件出願」という。),平成7年9月4日
設定登録(以下「本件実用新案登録」という。)。請求項の数は1である。)の実
用新案権者である。
 被告は,平成14年2月14日,本件実用新案登録を無効にすることについ
て審判を請求した。
 特許庁は,この請求を無効2002-35050号事件として審理した。原
告は,この審理の過程で,明細書の実用新案登録請求の範囲の訂正(以下「本件訂
正」という。)をした。特許庁は,審理の結果,平成14年10月28日,「訂正
を認める。実用新案登録第2078022号の実用新案登録を無効とする。」との
審決をし,審決の謄本を同年11月8日に原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲(本件訂正後のもの。別紙図面A参照)
「互いの軸線を一致させた流入通路および流出通路とこれらの間に形成された
栓挿入孔とを有するコック本体と,このコック本体の栓挿入孔に回動自在に挿入さ
れ,回動軸線と直交する方向に貫通するガス通路が形成された栓とを備え,前記ガ
ス通路の両端部が流入通路と前記流出通路とにそれぞれ連通した開状態と,この開
状態から正逆方向へそれぞれ所定位置まで回動させることにより,前記ガス通路の
両端部が前記栓挿入孔の内周面によって遮蔽されるとともに,前記流入通路と前記
流出通路とが前記栓によって遮断された閉状態とに切り換えられるガスコックにお
いて,前記コック本体の外面に,外周部に柔軟性を有する検査用のガス用ゴム管が
挿入される突出部を一体に形成し,前記コック本体に,一端が前記突出部の先端面
に開口するとともに,他端が前記栓挿入孔の内周面に開口し,栓挿入孔の内周面に
おける開口部が閉状態時には前記ガス通路と連通する検査用の流出孔を形成し,こ
の流出孔を遮蔽する閉栓を,流出孔にねじ込むことにより前記コック本体の突出部
に着脱自在に設け,前記栓に,一端が前記ガス通路の内面に開口し,他端が栓の外
周面に開口し,外周面における開口部が,開状態時には前記流出孔と連通し,閉状
態時には前記栓の回動位置に応じて前記流入通路と前記流出通路とのいずれか一方
と対向して連通し,他方に対して遮断される連通孔を形成したことを特徴とするガ
スコック。」(以下「本件考案」という)
3 審決の理由
 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件考案は,実願昭51-41
252号(実開昭52-132335号)のマイクロフィルム(本訴甲第4号証・
審判甲第1号証。以下「刊行物1」という。)に記載された考案(以下「引用考
案」という。別紙図面B参照)に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることが
できたものであるから,実用新案法3条2項に違反して登録されたものであり(以
下「無効判断1」という。),また,本件考案は,実願昭62-11142号(実
開昭63-118463号)のマイクロフィルム(本訴甲第5号証・審判甲第2号
証。以下,審決と同様に「先願」という。)に記載された考案(以下,審決と同様
に「先願考案」という。別紙図面C参照)と同一のものとみることができ,実用新案
法3条の2に違反して登録されたものであり(以下「無効判断2」という。),い
ずれの理由によっても無効とすべきことになる,とするものである。
(1)審決が,無効判断1の結論を導くに当たり,本件考案と引用考案との一致
点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点
「流入通路および流出通路とこれらの間に形成された栓挿入孔とを有するコ
ック本体と,このコック本体の栓挿入孔に回動自在に挿入され,回動軸線と直交す
る方向に貫通するガス通路が形成された栓とを備え,前記ガス通路の両端部が流入
通路と前記流出通路とにそれぞれ連通した開状態と,前記流入通路と前記流出通路
とが前記栓によって遮断された閉状態とに切り換えられるガスコックにおいて,前
記コック本体の外面に,柔軟性を有する検査用のガス用ゴム管を挿入して接続でき
るようにするための突出部を形成し,前記コック本体に,一端が前記突出部の先端
面に開口するとともに,他端が前記栓挿入孔の内周面に開口し,栓挿入孔の内周面
における開口部が閉状態時には前記ガス通路と連通する検査用の流出孔を形成し,
前記栓に,一端が前記ガス通路の内面に開口し,他端が栓の外周面に開口し,外周
面における開口部が,開状態時には前記流出孔と連通し,閉状態時には前記流出通
路と対向して連通し,他方(流入通路)に対して遮断される連通孔を形成したガス
コック」
相違点1
「流入通路と流出通路との配置関係が,本件考案では「互いの軸線を一致さ
せた」としているのに対し,甲第1号証記載の考案では「90°の間隔」(互いの
軸線が直交する)としている点。」
相違点2
「本件考案における,「開状態から正逆方向へそれぞれ所定位置まで回動さ
せることにより,前記ガス通路の両端部が前記栓挿入孔の内周面によって遮蔽され
た」閉状態に切り換えられる構成と,「前記栓の回動位置に応じて」連通孔が「前
記流入通路」とも「対向して連通」できる構成について,甲第1号証に言及がない
点。」
相違点3
「検査用のガス用ゴム管と突出部の接続関係が,本件考案では,ゴム管を突
出部の外周部に直接挿入して接続するのに対し,甲第1号証記載の考案では,ホー
スニップルを介して挿入接続する点。」(以下「相違点3」という。)
相違点4
「本件考案における,「流出孔を遮蔽する閉栓を,流出孔にねじ込むことに
より前記コック本体の突出部に着脱自在に設け」る構成について,甲第1号証に言
及がない点。」(以下「相違点4」という。)
(2) 審決が,無効判断2の結論を導くに当たり,本件考案と先願考案との一致
点及び一応の相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点
「互いの軸線を一致させた流入通路および流出通路とこれらの間に形成され
た栓挿入孔とを有するコック本体と,このコック本体の栓挿入孔に回動自在に挿入
され,回動軸線と直交する方向に貫通するガス通路が形成された栓とを備え,前記
ガス通路の両端部が流入通路と前記流出通路とにそれぞれ連通した開状態と,この
開状態から正逆方向へそれぞれ所定位置まで回動させることにより,前記ガス通路
の両端部が前記栓挿入孔の内周面によって遮蔽されるとともに,前記流入通路と前
記流出通路とが前記栓によって遮断された閉状態とに切り換えられるガスコックに
おいて,前記コック本体の外面に,柔軟性を有する検査用のガス用ゴム管が接続で
きるようにした突出部を一体に形成し,前記コック本体に,一端が前記突出部の先
端面に開口するとともに,他端が前記栓挿入孔の内周面に開口し,栓挿入孔の内周
面における開口部が閉状態時には前記ガス通路と連通する検査用の流出孔を形成
し,この流出孔を遮蔽する閉栓を,流出孔にねじ込むことにより前記コック本体の
突出部に着脱自在に設け,前記栓に,一端が前記ガス通路の内面に開口し,他端が
栓の外周面に開口し,外周面における開口部が,閉状態時には前記栓の回動位置に
応じて前記流入通路と前記流出通路とのいずれか一方と対向して連通し,他方に対
して遮断される連通孔を形成したガスコック」
一応の相違点
「検査用のガス用ゴム管と突出部の接続関係について,本件考案では,ゴム
管を突出部の外周部に直接挿入して接続する構成をとるのに対し,先願考案では,
プラグやコンセントを介して接続する構成をとる点」(以下「一応の相違点1」と
いう)。
「本件考案における「(連通孔が)開状態時には前記流出孔と連通」する構
成が,先願明細書又は図面に明確には開示されていない点」(以下「一応の相違点
2」という)。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決は,無効判断1において,相違点3及び相違点4についての各判断並び
に相違点3及び4に係る本件考案の各構成の組合せについての判断を誤り(無効判
断1についての取消事由1ないし3),本件考案の顕著な作用効果を看過し(無効
判断1についての取消事由4),本件考案が引用考案に基づき当業者がきわめて容
易に考案をすることができたと誤って判断するとともに,無効判断2において,本
件考案が先願考案と実質同一であると誤って判断したものであり(無効判断2につ
いての取消事由),これらの誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,
違法なものとして取り消されるべきである。
1 無効判断1についての取消事由1(相違点3についての判断の誤り)
 審決は,相違点3について,「ガス用ゴム管をコックに接続するに際して
の,本件考案のようにゴム管を突出部の外周に直接挿入する手段と,甲第1号証
(判決注・本訴甲第4号証)記載のようにホースニップルを介して接続する手段と
は,いずれも周知の接続手段であって,いずれの接続手段を採用するかは,通常の
選択的な設計事項である。」(審決書8頁17行~21行)と認定判断した。しか
し,審決のこの認定判断は誤りである。
(1)本件考案のように,コック本体に一体に形成された検査用の突出部(ガス
漏れ検査用のガス通路となる流出孔を形成した突出部)の外周に,ガス用ゴム管を
直接挿入するとの手段は,周知でも公知でもない。
 審決が認定した周知の手段とは,一般のホースガスコック(ホースガス
栓)におけるもののことであり,このホースガスコックでは,コック本体にホース
エンドが一体に形成されており,このホースエンドの外周に直接ガス用ゴム管が挿
入される。しかし,ここでは,ガス用ゴム管は燃焼器具に接続されるものであり,
ホースエンドは,本件考案におけるように燃焼用ガスの通路として提供されるもの
であって,検査用の通路として提供されるものではないから,「本件考案のように
ゴム管を突出部の外周に直接挿入する手段」が周知であるとした審決の認定は誤り
である。
(2)引用考案の検査用のホースエンドは,一時的にガス用ゴム管を接続するた
めのものである。このような検査用のホースエンドについては,ガスコックの大形
化を避け,保管,搬送等の利便性を考慮するため,コック本体と一体に形成するの
を回避するのが,当業者の自然な発想である。
 したがって,検査用のものである引用考案の着脱可能なホースエンドを,
本来燃焼器具に接続されるべきものであるコック一体型のホースエンドに置き換え
ると発想することは,当業者には困難なことである。
2 無効判断1についての取消事由2(相違点4についての判断の誤り)
 審決は,相違点4について,「弁等に設けた通常使用しない開口や,使用頻
度が小さい開口を,「閉栓」を「ねじ込むことにより」遮蔽することは,請求人の
挙げた二つの参考文献(実願昭47-57395号(実開昭49-18136号)
のマイクロフィルム(判決注・本訴甲第6号証,以下「甲6文献」という。),特
公昭40-20806号公報(判決注・本訴甲第7号証,以下「甲7文献」とい
う。))にも示されるように当該技術分野において常套手段といえるものであり,
甲第1号証(判決注・刊行物1)記載の,圧力検査に使用される「第2排出口」の
ように,頻繁に使用する必要がない開口に対して,上記の常套手段を採用すること
に格別の困難性は認められない。」(審決書8頁22行~29行)と認定判断し
た。しかし,この認定判断は誤りである。
(1)甲6文献に開示されたプラグ32は,ガスの流通ポートを着脱自在に閉塞
するものではない。また,甲7文献は,閉栓を開示しているものの,この閉栓は対
等の二つの流出ポートの一方を選択的に遮蔽するものであって,本件考案のように
検査用の流出孔をふさぐものではない。
(2)実開昭48-34131号公報(乙第4号証,以下「乙4文献」という。)
に示されたガスコックは,燃焼器具側の二つの管口のうち,使用する管口には継手
を介してガス用ゴム管を接続し,不使用の管口には閉栓を圧入して閉じるものであ
る。しかし,乙4文献は,本件考案のような,検査用の突出部に,ゴム管を直接挿
入し,閉栓をねじ込み装着することを開示していない。
 実公昭31-1863号公報(乙第5号証,以下「乙5文献」という。)
のガスコックは,コック本体と一体をなすL字管の先端部がホースエンドの形状を
なし,ゴム管の直接挿入が可能となっており,不使用時にはその先端部に閉栓をね
じ込めるようになっている。しかし,このL字管は,燃焼器具に接続すべき部位で
あり,検査に用いられる部位ではない。また,このような特異なL字管を,引用考
案の着脱可能なホースエンドと置き換えることは,前述したガスコックの大形化を
避けるとの理由により,当業者にとって容易に想到し得ることではない。乙5文献
のL字管は,もともと,特異な構造であり,本件考案の突出部になり得るようなも
のではない。さらに,公知ではあるものの,よく知られた構造であるとはいえな
い。
3 無効判断1についての取消事由3(相違点3,4に係る本件考案の各構成の組
合せについての判断の誤り)
 審決は,上記のとおり,相違点3について,「本件考案のようにゴム管を突
出部の外周に直接挿入する手段」は周知であり,相違点4について,「通常使用し
ない開口や,使用頻度が小さい開口を,「閉栓」を「ねじ込むことにより」遮蔽す
ること」は周知である,と認定した。
 しかし,これら二つの周知の構造は,互いに異なるケースに適用されるもの
であり,両者を組み合わせて引用考案に組み込むことは,当業者がきわめて容易に
想到し得ることではない。
甲6文献に開示されているように,不使用の開口に閉栓をねじ込んで,ガス
漏れを塞ぐことは周知であるとしても,このねじ付きの開口は配管(鋼管等)をね
じ込むためのものであり,ガス用ゴム管を直接接続するためのものではない。ま
た,一般のホースガスコックのコック本体と一体のホースエンドにガス用ゴム管を
直接装着することは周知であるとしても,そのホースエンドの先端に閉栓をねじ込
むことはない。
 引用考案に一方の周知手段を適用することにより,ホースエンドをコック本
体と一体にした場合には,閉栓をホースエンドの先端にねじ込んで第2排出口
(4)を塞ぐことはない。
4 無効判断1についての取消事由4(顕著な作用効果の看過)
 本件考案は,次のⅰないしⅴ記載の効果を奏する。これに対し,引用考案の
ガスコックは,ⅲ記載の効果を奏することができるものの,ⅰ,ⅱ,ⅳ,ⅴ記載の
効果を奏し得ない。
 引用考案に一般のホースガスコックの周知構造を組み込んだ場合には,ⅰ,
ⅱ,ⅲ記載の効果を奏することができるものの,ⅳ,ⅴ記載の効果を奏することは
できない。甲7文献記載の周知構造を引用考案に組み込んだ場合には,ⅳ記載の効
果を奏することができるものの,ⅰ,ⅱ,ⅲ,ⅴ記載の効果を奏することができな
い。しかも,ⅴ記載の効果は,各周知構造から予測し得ない効果である。
ⅰ ガス圧検査時あるいは漏洩検査時には,検査器に取り付けられたガス管
を突出部にはめ込むだけで検査器をガスコックに接続することができ,検査器の接
続を容易に取り付けることができる等の効果が得られる。
ⅱ 突出部がコック本体と一体をなすので構造が簡単である。
ⅲ ガス用ゴム管を装着するための部品ないしは器具を必要とせず,その管
理も不要である。
ⅳ ガスコックの通常の使用時には,流出孔が閉栓によって遮蔽されるの
で,流出孔からガスが漏れることはない。
ⅴ 検査を経て閉栓装着に至るまでの工程を簡略化することができる。
5 無効判断2についての取消事由(一応の相違点についての判断の誤り)
 本件考案は,ガス用ゴム管を装着できる突出部を備えているのに対し,先願
考案は,その構成を備えていない。本件考案の上記の作用効果ⅰ,ⅲ,ⅴは,先願
考案が奏することができないものである。本件考案のゴム管接続構造と先願考案の
ゴム管接続構造との違いは,単なる周知のゴム管接続構造の置換えで得られるもの
ではない。
第4 被告の反論の骨子
 審決に,原告主張の誤りはない。
1 無効判断1についての取消事由1(相違点3についての判断の誤り)につい

 相違点3は,ガス用ゴム管のガスコック本体への接続構造の違いにすぎな
い。同相違点に係る本件考案の構成は,引用考案の,コック本体の突出部にホース
ニップルを介してガス用ゴム管を接続する構成を,コック本体の突出部にガス用ゴ
ム管をはめて接続するとの,周知の接続構造に変更したものにすぎない。
2 無効判断1についての取消事由2(相違点4についての判断の誤り)につい

 ガスコックの検査用流出口も,通常のガス流出口も,ともに3方ガスコック
における一つのガス流出口(流出ポート)であることに違いはない。不使用状態に
おいて,これらのガス流出口からガスが流出するのを防ぐために,これに閉栓をは
めて閉塞することは当業者の技術常識である。
 引用考案のホースエンドをねじ込んでいる排出口にプラグをねじ込むことに
よって,当該排出口を閉塞し得ることは常識的に明らかなことであり,そのために
格別の工夫を要するものでない。
3 無効判断1についての取消事由3(相違点3,4に係る本件考案の各構成の組
合せについての判断の誤り)について
 相違点3及び相違点4に係る本件考案の各構成は,それぞれ周知事項に基づ
いて当業者が容易に想到し得た事項である。また,両相違点は,一体となって特有
の格別顕著な作用効果を奏するというものでもない。そうである以上,相違点3及
び相違点4に係る本件考案の各構成を組み合わせたものについても,上記周知事項
に基づいて当業者がきわめて容易に想到し得た事項ではない,というべき理由はな
いことが明らかである。
 引用考案の検査用口4の突出部にガス管をはめて接続するようにするととも
に,その突出部のねじ孔に閉栓をねじ込んでこれを閉塞することは,上記各周知技
術の単なる適用であり,当業者が格別の創意工夫を要することなく,その技術常識
により容易に想到し得たことである。
4 無効判断1についての取消事由4(顕著な作用効果の看過)について
 原告が主張する本件考案の効果は,引用考案に上記周知事項を適用した構成
により,当然に生じる効果であるにすぎない。
5 無効判断2についての取消事由(一応の相違点についての判断の誤り)につ
いて 
本件考案のゴム管接続構造と先願考案のゴム管接続構造との違いは,周知の
ゴム管接続構造同士の間のものにすぎず,その一方を他方に置き換えることは,当
業者が適宜成し得る,単なる設計変更である。本件考案と先願考案とが実質的に同
一の考案である,との審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 無効判断1についての取消事由1(相違点3についての判断の誤り)につい

(1)刊行物1(昭和52年公開公報)には,「三方バルブは,ガス供給源に接
続されたガス吸入口と,2個のガス排出口とを備えているが,従来上記排出口は何
れも端部にガス管螺入用のめねじが刻設されているため,ガス圧測定等の場合には
圧力計に附属のゴムホースを直接挿し込むことができなくて,わざわざ接続用のガ
ス管を螺着し,その先端にホースエンドを取付けねばならないため,きわめて面倒
であった。」(甲第4号証1頁14行~2頁4行),「しかも第2排出口(4)に
はホースエンド(5)が螺着されているため,圧力計等に附属のゴムホースを随時
直接挿し込むことができきわめて便利である。」(同8頁7行~10行),「本考
案は・・・レバーの回動操作だけで燃焼,燃焼時の圧力検査および配管気密検査を
きわめて手軽に行うことができる」(同9頁5行~9行)との記載がある。
 刊行物1の上記記載からすれば,本件出願時において,ガスの漏洩検査の
際には,圧力計のゴムホース(ゴム管)をガスコックに接続して圧力を測定するこ
とが行われていたこと,及び,このように圧力を測定する際に,ゴム管をガスコッ
ク本体に直接かつ容易に着脱することができ,手軽に検査作業を行えるようにする
ことが,一般的な課題であったことが認められる。
(2)実開昭55-3039号公報(乙第3号証,以下「乙3文献」という。)に
は,「第1図ないし第4図において・・・筒状部1からガスの導管Dへの接続部2
を突出させ,更にこの接続部2と反対方向への筒状部1の両側方からL字形状にゴ
ム管の差し込み口3,3’を突出させた本体4を設ける。」(4頁3行~8行)と
いう記載がある。この記載とその図面の記載からして,乙3文献には,ガスコック
本体の外面に,外周部に柔軟性を有するガス用ゴム管が挿入される突出部を一体に
形成することが記載されていると認められる。
 また,このような証拠がなくとも,一般のホースガスコックにおいては,
コック本体にホースエンドが一体に形成され,このホースエンドの外周に直接ガス
用ゴム管が挿入されるものであることは,一般によく知られているところである。
 したがって,審決が「ガス用ゴム管をコックに接続するに際しての,本件
考案のようにゴム管を突出部の外周に直接挿入する手段と,・・・は,いずれも周
知の接続手段であ」ると認定したことに誤りはない。
(3)上記のとおり,検査用のゴム管をガスコック本体に直接着脱し,手軽に検
査作業を行えるようにすることが周知の課題であったことを考慮すれば,ゴム管を
ガスコックに直接接続する構成に係る上記周知技術を,引用考案のガスコックに適
用して,同考案における,検査用のゴム管をホースエンド(5)を介してガスコッ
ク本体に接続するとの構成を,ガスコック本体の外面に,外周部に柔軟性を有する
ガス用ゴム管が挿入される突出部を一体に形成するようにし,相違点3に係る本件
考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易に成し得る程度の事項であったと
いうことができる。
 審決が,相違点3について,「通常の選択的な設計事項である。」(審決
書8頁3段)とした判断に誤りはない。
(4)原告は,本件考案のように,コック本体に一体に形成された検査用の突出
部(ガス漏れ検査用のガス通路となる流出孔を形成した突出部)の外周に,ガス用
ゴム管を直接挿入するとの手段は,周知でも公知でもない,と主張する。
 しかしながら,相違点3は,ゴム管を突出部の外周部に挿入して接続する
構成に係るものである。突出部が検査用ガスの通路として提供されるものである
か,燃焼用ガスの通路として提供されるものであるかという供給するガスの用途の
相違が,ゴム管をガスコックに直接接続する構成に係る上記周知技術を引用考案の
ガスコックに適用することを妨げる事情となることは,あり得ない。本件考案にお
けるようにコック本体に一体に形成された検査用の突出部の外周にガス用ゴム管を
直接挿入する手段自体は,周知でも公知でもないとしても,検査用ガスコックにお
いて,前記のとおり,検査用のゴム管をガスコック本体に直接着脱し,手軽に検査
作業を行えるようにすることが周知の課題であったことを考慮すれば,ゴム管をガ
スコック(検査用でないガスコック)に直接接続する構成に係る上記周知技術を,
引用考案のガスコックに適用することがきわめて容易であることは,明らかであ
る。
 原告は,引用考案の検査用のホースエンドは,一時的にガス用ゴム管を接
続するためのものであるから,当業者であれば,ガスコックの大形化を避け,保
管,搬送等の利便性を考慮するため,コック本体と一体に形成するのを回避するの
が当業者の自然な発想である,と主張する。
 しかしながら,引用考案の検査用のホースエンドが,一時的にガス用ゴム
管を接続するためのものであるため,当業者であれば,ガスコックの大形化を避
け,保管,搬送等の利便性を考慮するとしても,ガスの漏洩検査においては,検査
用のゴム管をガスコック本体に直接かつ容易に着脱することができ,手軽に検査作
業を行えるようにすることも,当業者にとっての周知の課題であったことは,前記
認定のとおりである。そして,保管,搬送等の利便性と検査作業におけるゴム管の
着脱の容易性のどちらをどの程度優先させるかは,設計の段階において適宜決定さ
れる程度の事項であるというべきである。原告が主張する上記の点は,上記周知の
課題に基づいて,ゴム管をガスコックに接続する構成に係る上記周知技術を引用考
案のガスコックに適用することを妨げる事情には当たらない。
2 無効判断1についての取消事由2(相違点4についての判断の誤り)につい

(1)「都市ガス工業 器具編」(社団法人日本瓦斯協会,昭和47年3月20
日第1版第7刷発行。乙第2号証,以下「乙2文献」という。)には,「c.ゴム
キャップ」の項に,「不使用時のコックにゴムキャップをかぶせることは不測の漏
れによる事故防止上きわめて有効で」(同258頁)と記載され,また,乙5文献
には,「19はゴム管接続口2の螺蓋」(乙第5号証1頁左欄26行),「本案は
叙上の様に構成したので・・・所要の際に蝶蓋22を開きゴム管節続(判決注・
「接続」の誤記)口2の螺蓋19を取外し所要の器具例えば瓦斯コンロ,瓦斯スト
ーブ等に接続するものであってコツクは把手cを回動させ栓体bの透孔4と連通孔
3とを一致させ或は不一致として瓦斯の供給,遮断を行う」(乙第5号証1頁左欄
28行~右欄2行)と記載されている。
 乙2文献及び乙5文献(昭和31年公開公報)の上記各記載に照らすと,
本件出願前において,ガスコックについては,使用しないガス流出孔からのガス漏
れを防ぐことが周知の課題であり,ガス流出孔に閉栓をねじ込むことによりガス流
出孔を遮蔽して同課題を解決することが周知の技術であったことが認められる。
 上記周知の課題及びその課題を解決するための周知技術に照らせば,引用
考案のガスコックに検査用のゴム管を接続する突出部を設けたとしても,ガスの流
出孔である限り,その「流出孔を遮蔽する閉栓を,流出孔にねじ込むことにより前
記コック本体の突出部に着脱自在に設け」(本件考案に係る実用新案登録請求の範
囲)て相違点4に係る本件考案の構成とすることは,そこからのガス漏れを防ぐた
めに本来検討されるべき程度の事項にすぎない,ということができる。したがっ
て,審決が「弁等に設けた通常使用しない開口や,使用頻度が小さい開口を,「閉
栓」を「ねじ込むことにより」遮蔽することは,・・・当該技術分野において常套
手段といえるものであり,甲第1号証(判決注・刊行物1)記載の,圧力検査に使
用される「第2排出口」のように,頻繁に使用する必要がない開口に対して,上記
の常套手段を採用することに格別の困難性は認められらない。」(審決書8頁22
行~29行)と認定判断したことに誤りはない。
(2)原告は,乙5文献のガスコック本体と一体をなすL字管の先端部は,燃焼
器具に接続すべき部位であり検査に用いられる部位ではなく,このような特異なL
字管を引用考案の着脱可能なホースエンドと置き換えることは,前述したガスコッ
クの大形化を避けるとの理由により,当業者にとって容易に想到し得るものではな
い,と主張する。
  しかしながら,乙5文献のL字管が,燃焼器具に接続すべき部位であって
検査に用いられる部位ではないとしても,そこにガス漏れを防止する周知の課題が
あることに変わりはない。また,L字管の構造が特異であるとしても,このような
配管に係る構造のいかんによって,上記で認定したガス漏れを防止するとの周知の
課題があることにも,ガス漏れを防止する手段として「閉栓」を「ねじ込むこと」
が有効であることにも変わりが生まれるわけではなく,その課題を解決するための
周知技術についての前記認定が左右されるものではない。
3 無効判断1についての取消事由3(相違点3,4に係る本件考案の各構成の組
合せについての判断の誤り)について
 審決は,「以上のとおり,上記いずれの相違点も格別のものとはいえな
い。」(審決書8頁下から9行)とした上で,「本件考案は,甲第1号証記載の考
案に基づいて,当業者が極めて容易に考案することができたものといえる」(審決
書9頁9行~10行)と判断した。
 原告は,「本件考案のようにゴム管を突出部の外周に直接挿入する手段」
と,「閉栓」の二つの周知の構造は,互いに異なるケースに適用されるものであ
り,両者を組み合わせて引用考案に組み込むことは,当業者がきわめて容易に想到
し得ることではない,と主張する。
 しかし,ガスコック本体の外周部に検査用のゴム管が挿入される突出部を一
体形成して,相違点3に係る本件考案の構成とすることは,突出部の外表面の形状
に係る事項であるのに対して,突出部の流出口を使用しないときに,同流出孔に閉
栓をねじ込むようにして,相違点4に係る本件考案の構成とすることは,突出部の
内部の形状に係る事項であって,両者について技術的関連性はないのであるから,
相違点3と相違点4に係る本件考案の各構成を組み合わせたものに想到することを
困難にする事情はない,というべきである。
 引用考案に,「ゴム管を突出部の外周に直接挿入する手段」という周知技術
と,「通常使用しない開口や,使用頻度が小さい開口を,「閉栓」を「ねじ込むこ
とにより」遮蔽すること」という周知技術との両者を組み合わせて適用することを
困難にする事情は認められないのである。原告の上記主張は採用し得ない。
4 無効判断1についての取消事由4(顕著な作用効果の看過)について
 原告は,引用考案は,本件考案の前記ⅰ,ⅱ,ⅳ,ⅴ記載の効果を奏するこ
とができず,仮に,一般のホースガスコックの周知構造や甲7文献記載の周知構造
を引用考案に組み込んだ場合でも,前記ⅴ記載の効果(検査を経て閉栓装着に至る
までの工程を簡略化するという効果)は予測し得ない効果である,と主張する。
 しかしながら,原告が主張する本件考案の前記ⅰないしⅴ記載の効果は,い
ずれも,本件考案の構成のものとして,きわめて容易に予測し得るもの(むしろ,
自明のもの)にすぎず,本件考案の構成が前記のとおり,きわめて容易に予測し得
るものである以上,本件考案の構成のものとしてこのようにきわめて容易に予測し
得る効果をもって本件考案の進歩性を根拠付け得るものとみることはできないとい
うべきである。審決の「上記いずれの作用効果も,甲第1号証(判決注・刊行物
1,本訴甲第4号証)及びその他の周知技術等を開示した文献の記載から予測しが
たいものではない。」(審決書9頁6行~7行)とした判断に誤りはない。
第6 結論
 以上に検討したところによれば,原告が無効判断1について主張する取消事
由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,無効判断1についてこれを取り消
すべき誤りは見当たらない。そうすると,無効判断2について判断するまでもな
く,原告の本訴請求は理由がないことが明らかである。そこで,これを棄却するこ
ととし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用
して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所知的財産第3部
        裁判長裁判官    山  下  和  明
        
           裁判官     設  樂  隆  一
 
           裁判官    高  瀬  順  久
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