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平成21年12月28日判決言渡
平成21年(行ケ)第10199号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年12月9日
判決
原告X
被告特許庁長官
指定代理人関根裕
同山口由木
同紀本孝
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2009−936号事件について平成21年6月15日にした審
決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成20年2月28日,発明の名称を「抜脱阻止機能と雨水浸入阻
止機能と破壊阻止機能とを有するルーバー羽根及びそれらの機能の付与方法」
とする発明について,特許出願(特願2008−47131号)をしたが,同
年12月4日付けで拒絶査定を受け,平成21年1月9日,拒絶査定不服審判
(不服2009−936号事件)を請求した。
特許庁は,平成21年6月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年7月4日,原告に
送達された。
2特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,
請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】「ルーバー窓の保持アームに挿着されて回動するルーバー羽根
であって,該ルーバー羽根は,その本体を成す板ガラスの縁部が,断面が溝形
であって表面が平滑な金属フレームによって覆われて成り,該ルーバー羽根が
鎧における鎧板の如く接触して閉じる際には該金属フレームの平滑な表面同士
の接触となって雨水の浸入が阻止される構成であると同時に,本体を成す板ガ
ラスは断面が溝形の金属フレームによって縁部が保護されるようになって破壊
が阻止される構成であることを特徴とするところの雨水浸入阻止機能と破壊阻
止機能とを同時に有するルーバー羽根。」
3審決の理由
(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平11−
324522号公報(以下「引用例」という。甲3)に記載された発明(以
下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たと判断したものである。
(2)上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用
発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア引用発明の内容
「ルーバー窓の窓枠に軸着された支持金具13の本体部28内に挿入さ
れ,支持金具13へ取り付けられるルーバー33であって,
該ルーバー33は,断面が溝形の金属から成るフレーム53がガラスの
類の縁部に設けられて成り,
該ルーバー33が閉じる際には,ルーバー33の表面同士が接触する,
ルーバー33。」
イ一致点
「ルーバー窓の保持アームに挿着されて回動するルーバー羽根であって,
該ルーバー羽根は,その本体を成す板ガラスの縁部が,断面が溝形の金属
フレームによって覆われて成り,該ルーバー羽根が閉じる際には,表面同
士の接触となると同時に,本体を成す板ガラスは断面が溝形の金属フレー
ムによって縁部が保護されるようになって破壊が阻止される構成である,
破壊阻止機能を有するルーバー羽根。」
ウ相違点
ルーバー羽根が閉じる際の雨水侵入阻止機能について,本願発明は,金
属フレームの表面を平滑とし,その平滑な表面同士を鎧における鎧板の如
く接触させて雨水の浸入を阻止するものであるのに対し,引用発明は,ル
ーバー羽根の表面同士が接触する構成ではあるものの,接触部がルーバー
羽根の板ガラス部分なのか金属フレーム部分なのか明らかでなく,また,
雨水侵入阻止機能を有することの明示がない点。
第3当事者の主張
1取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)本願発明と引用発明の相違点の認定の誤り
(取消事由1),(2)本願発明と引用発明の相違点の看過(取消事由2),(
3)本願発明と引用発明の相違点についての容易想到性判断の誤り(取消事由
3)がある。
(1)本願発明と引用発明の相違点の認定の誤り(取消事由1)
審決は,「引用発明は,・・・接触部がルーバー羽根の板ガラス部分なの
か金属フレーム部分なのか明らかでなく,」と述べ,この点において本願発
明と引用発明は相違すると認定した。
しかし,引用例の発明の詳細な説明【0043】には,「ルーバー33に
はフレーム53が折り曲げられて板ガラス41の縁部に配属されている。」
と記載され,【図8】には板ガラスの縁部にフレーム53が設けられた構成
が示されている。
そうすると,本願発明と引用発明は,接触部が金属フレームである点で一
致しているから,審決の認定は誤りである。
(2)本願発明と引用発明の相違点の看過(取消事由2)
ア審決は,「ルーバー窓の保持アームに挿着されて回動するルーバー羽根
であって,」と述べ,本願発明と引用発明は,取付け手段が挿着である点
において,一致すると認定しているが,同認定には相違点の看過がある。
本願発明は,架設される際の接続(取付態様)を,「弾性を有する緩衝
材を介在させた間接結合」としたものであり,「保持アームへ挿入した際
の間隙が固定されることなく残っている取付手段」を採用したものであ
る。「挿着」とは,このような取付手段を指す。
これに対し,引用発明は,「ネジの増締めによる直接結合」であって,
「保持アームへ挿入した際の間隙が固定されることによって消失している
取付手段」を採用したものである。このような取付手段は,一般的な定義
によれば「固着」である。
このように,本願発明と引用発明は,その取付手段が,本願発明では
「挿着」であり,引用発明では「固着」である点において,相違する。審
決は,取付手段における「固着」と「挿着」を一致すると認定した点で,
相違点を看過している。
イ上記構成の相違により,本願発明と引用発明はその機能上の差異が生ず
る。
(ア)本願発明は,「挿着」した上で「位置決め手段」を設けることによ
って,前後方向と上下方向の両方向から密着性を向上させるようにし,
これにより「雨水浸入阻止機能」の効果を一層高めるようにした。
すなわち,ホルダ40は本体が弾性を有する挿入用具であり,これが
保持アーム本体部との間に介在されることによって,保持アーム本体と
ルーバー羽根との間に「ガタつきのない間隙(遊び空間)」が形成さ
れ,ルーバー羽根は,前後方向に微動可能(フレキシブル)な状態に取
り付けられている(ここで,前後方向,上下方向とは,ルーバー羽根が
閉じた状態における方向をいう。)。また,弾性を有する掛合ボタン4
1が「間隙(遊び空間)」を損なわないように,ルーバー羽根11を保
持アーム本体の所定位置に位置決めしているのであり,これにより「間
隙(遊び空間)」は存在し続けたまま,上下方向に位置ズレのない接触
(並行に重なった接触)となるように工夫されている。
本願発明は,このような構成を採用したことにより,ルーバー羽根が
保持アームからの押圧力を受けて閉じる際には,「間隙(遊び空間)」
はルーバー羽根相互の間に生じている間隙を埋める方向に作用し,ルー
バー羽根は前後方向に右端部も左端部も全長にわたり均一に歩み寄り,
他方,上下方向には所定位置に位置ズレがないように保持されていて,
すべてのルーバー羽根が密着状態に整列させられて,雨水の浸入が阻止
される。
(イ)これに対し,引用発明は,「固着」するのみで,「位置決め手段」
が設けられていないため,「コスト低減」の効果は得られるものの,
「雨水浸入阻止機能」は得られないという点において相違する。
すなわち,引用発明の取付手段は,「ネジの増締めによる固着」であ
り,増締めされることによって「間隙(遊び空間)」は消滅している。
ルーバー羽根が「ネジの増締めによる固着」によって取り付けられる場
合には,金属フレームが鏡面のごとく平滑であっても,ルーバー羽根を
左右双方の保持アームに取り付けるに際し,左右のバランスを完全に一
致させて固定することは不可能であって,間隙や歪みは常に生じる。こ
のようにして生じた間隙や歪みは,閉じる際に保持アームからの押圧力
を受けたとしても,ネジ等で固定されている限り不動であって,接触す
る部分と接触しない部分が生じる。また,位置決め手段が設けられてい
ないため,上下方向には不揃いな並びになっている。このため,ルーバ
ー羽根相互の隙間は埋まらず,雨水が浸入する。引用発明は,取付手段
が「ネジの増締めによる固着」であるため,「雨水阻止機能」は存しな
い。
ウ被告の主張に対し
(ア)被告は,間隙(遊び空間)の存在が明細書に記載されていないと
主張する。しかし,「間隙」は「保持アームへ挿入した際の間隙(遊
び空間)が固定されることなく残っている」状態を指す。特許請求の
範囲及び本願明細書に,「固定される」と記載されていない以上,間
隙(遊び空間)が存在すると解するのが合理的である。
(イ)被告は,部品の製作精度や組付け精度を高めることは当業者の常
套手段であり,引用発明でも雨水浸入阻止は可能であると主張する。
しかし,引用発明は,コスト低減を課題(引用例【0009】参照)
とするものであり,コストのかかる「製作精度や組み付け精度を高め
る手段」を採用せず,コストのかからない「モールを用いる手段」を
採用しているから,精度を高めるという技術は記載されていない。モ
ールを用いることなく雨水の浸入を阻止するには,保持アーム本体部
内におけるルーバー羽根の微調整が必要となるが,「挿着」状態を保
つことにより,はじめて微調整をすることができる。
(ウ)被告は,「間隙(遊び空間)の存する挿着」により「雨水浸入阻
止機能」の効果を奏するという点は,本願明細書(甲1)の記載に基
づいたものでないと主張する。しかし,請求項1に「挿着」との記
載,発明の詳細な説明中,「保持アームへ挿入した際の間隙が固定さ
れることなく残っている取付手段」によって解決され,経年劣化によ
って機能の低下する「シリコーンゴム等からなる弾性材を設ける必要
はなく」するとの記載(【0016】3行,4行)から,「間隙(遊
び空間)の存する挿着」を読み取ることができる。
(3)本願発明と引用発明の相違点についての容易想到性判断の誤り(取消事
由3)
本願発明は,ルーバー羽根が保持アームに架設される際の接続を,「弾性
を有する緩衝材を介在させた間接結合」とし,かつ,「位置決め手段」を設
けることによって,前後方向と上下方向の両方向から密着性を向上させるよ
うにし,これにより「雨水阻止機能」の効果を一層高めようとする発明であ
る。本願発明は,弾性を有する緩衝材を介在させることによって「ガタつき
のない間隙(遊び空間)」を生じさせるという点,及び弾性を有する位置決
め部材を用いることによって「間隙(遊び空間)を損なうことのないように
位置決めする」という点において,技術上の特徴がある。
これに対し,引用発明においては,単にネジの増締めによって直接に固定
する技術である。ストッパをー設けずに,目測によってネジを増締めするこ
とによっては,「雨水阻止機能」を得ることができない。
したがって,引用発明における,「製造コストの低減」に係る技術から,
「雨水の浸入阻止」に係る技術を容易に想到することはできない。
2被告の反論
(1)本願発明と引用発明の相違点の認定の誤り(取消事由1)に対し
審決が,「引用発明は,・・・接触部がルーバー羽根の板ガラス部分なの
か金属フレーム部分なのか明らかでなく,」と認定した点は,一致点といえ
るか明らかでない構成について,相違点と認定したものであり,誤りはな
い。
引用発明の模式図である引用例(甲3)の【図35】には,ルーバー羽根
の端部が接触した様子が示されている。このルーバー羽根の接触部につい
て,金属フレームの折り返し幅が十分広い場合には金属フレーム同士が接触
するが,金属フレームの折り返し幅が狭い場合は,金属フレーム同士が接触
することなく,金属フレーム部分と板ガラス部分とが対向した状態が生じ得
る。この状態では,板ガラスと金属フレームの間隙から雨水が浸入するおそ
れがある。以上のとおり,引用例の記載からは,ルーバー羽根の接触部で金
属フレーム同士が接触するか,金属フレームと板ガラスが対向するか不明で
ある。
したがって,ルーバー羽根の接触部を相違点とした審決の認定は,誤りと
はいえない。
(2)本願発明と引用発明の相違点の看過(取消事由2)に対し
ア本願発明の「挿着」を,「間隙(遊び空間)の存する挿着」に限定解釈
すべき理由はなく,また,本願発明の詳細な説明又は図面には,「間隙
(遊び空間)」の存在について,何ら記載されていない。
本願発明の特許請求の範囲には,「間隙(遊び空間)の存する」と限定
する記載がされることなく,単に「挿着」と記載されている。「挿着」と
は,挿して着けることを意味する。したがって,本願発明の「挿着」は,
「遊び空間の存する挿着」に限定解釈されない。
発明の詳細な説明又は図面にも,本願発明の「挿着」が間隙(遊び空
間)の存するものであること,及び「ホルダ40」が弾性を有する緩衝材
であることは何ら記載されていない。
発明の詳細な説明及び図面の記載等によれば,ホルダ40の掛合ボタン
41が保持アーム50の掛合窓53に嵌まることから,掛合ボタン41を
備えたホルダ40が板バネのような弾性を有するものである可能性は推認
できるものの,ホルダ40が遊び空間を形成するような弾性を有する緩衝
材であることについては記載も示唆もされていない。
原告は,「間隙(遊び空間)」の存する根拠について,「間隙(遊び空
間)」がなければ挿入そのものが不可能であり,特許請求の範囲に記載す
るまでもなく,ルーバー羽根と保持アーム本体との間には,必ず「間隙
(遊び空間)」が存在している旨主張する。しかし,「間隙(遊び空
間)」が存するかどうかは,ルーバー羽根の厚さ,ホルダ40の厚さ,保
持アーム50の挿着部の間隔などの設計や,製作精度に依存するものであ
って,「間隙(遊び空間)」がない限り,装着できないものではないし,
「挿着」しさえすれば「間隙(遊び空間)」が生じるものでもない。
イ引用発明の「ネジの増締め」は「挿着」の一形態である。引用発明の
「ルーバー33」が「支持金具13の本体部28内」に挿入され,「ネジ
の増締め」によって取り付けられた状態は,「挿着された状態であるとい
える。また,引用発明においても,「ネジの増締め」により,雨水の浸入
を阻止することは可能である。
原告は,引用発明は,取付手段が「ネジの増締め」による固着であるか
ら,「雨水浸入阻止機能」が存しない旨主張し,その根拠として,引用発
明では,雨水の浸入を阻止するためには,「モール」を用いる構成が必須
であることを挙げる。
しかし,密着させたい場所に間隙ができないようにするために,正確な
設計を行い,部品の製作精度や組付け精度を高めることは,当業者の常套
手段であるから,ルーバー羽根の取付手段が「ネジの増締め」による固着
であっても,金属フレームの表面が平滑であれば,閉じた時のルーバー羽
根同士が平行に接するような設計を行い,部品の製作精度や組付け精度を
高めることにより,ルーバー羽根同士が閉じた時の隙間をなくし,雨水の
浸入を阻止することが可能である。したがって,取付手段が「ネジの増締
め」による固着であっても,金属フレームの表面が平滑であれば,雨水の
浸入を阻止することが可能であるから,引用発明に「雨水浸入阻止機能」
が存しない旨の原告の主張は失当である。
また,引用例には,モールがなければ雨水の浸入を阻止できないという
ことは記載されていないから,引用発明では雨水の浸入を阻止するために
モールを用いる構成が必須であるとの原告の主張は失当である。
ウ原告は,本願発明は,ルーバー羽根の取付けが「間隙(遊び空間)の存
する挿着」によりされていることにより,「雨水浸入阻止機能」という効
果を奏する点において,引用発明と相違すると主張する。
しかし,原告の同主張は,本件明細書の記載に基づいたものではないこ
と,引用発明は「雨水浸入阻止機能」が得られないとの誤った前提に基づ
くことから,その主張は失当である。
本願明細書及び図面の記載によれば,本願発明は,ルーバー羽根の接触
部表面の凹凸による微小な間隙から雨水が浸入するという従来技術の問題
点を,「ルーバー羽根の接触部の表面を平滑にして密な接触にする」とい
う構成によって解決し,微小な間隙を無くし,雨水の浸入を阻止するもの
と理解することができる。ルーバー羽根の取付けが,「間隙(遊び空間)
の存する挿着」によりされていること,及び,これにより雨水の浸入が阻
止されることは,本件明細書及び図面に記載されていない。また,引用発
明は,ルーバー羽根の取付けが「ネジの増締め」によるものであるが,上
記イで述べたとおり,雨水の浸入を阻止することが可能である。
以上のとおり,本願発明と引用発明が「雨水阻止機能」の点において相
違するとはいえない。
(3)本願発明と引用発明の相違点についての容易想到性判断の誤り(取消事
由3)に対し
原告の主張は,本願発明と引用発明は,取付手段が相違し,本願発明はル
ーバー羽根の取付けが「間隙(遊び空間)の存する挿着」により,されてい
ることにより「雨水浸入阻止機能」という効果を奏することを前提とした主
張であるが,前記のとおり,その前提が誤りであるから,主張自体失当であ
る。
ルーバー羽根の取付手段が「ネジの増締めによる」固着であっても,金属
フレームの表面が平滑であれば雨水の浸入を阻止することが可能であるか
ら,審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本願発明との引用発明の相違点の認定の誤り(取消事由1)について
原告は,引用発明の接触部は金属フレームであるから,本願発明と引用発明
は,接触部が金属フレームである点で一致すると認定されるべきであるとし
て,審決が,引用発明の接触部は金属フレームか否か明らかでないから,その
点において相違すると認定した点に誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
アまず,原告の主張は,審決の結論に影響を与える誤りを指摘するものでは
なく,その主張自体失当である。すなわち,仮に,原告が主張するように,
本願発明と引用発明とは,接触部が金属フレームであることを一致点と認定
すべきであるならば,本願発明の当該構成については,容易想到性の判断を
するまでもなく同一とされることになり,審決の容易想到であるとの判断に
影響を与えることにはならない。したがって,原告の主張は,その主張自体
失当である。
イのみならず,以下のとおり,同構成を本願発明の相違点とした審決の認定
に誤りはない。
すなわち,引用例の記載によれば,①引用発明は,従来のルーバー窓にお
ける,防犯上の問題,防火上の問題,コストアップを招くという問題,ルー
バーの面積とフレームの太さの不均衡から生ずる美観上の問題の解決を目的
とする発明であることが記載されているが,ルーバー間の隙間から雨水が浸
入するという問題点の解決を目的する発明であることは記載されてないこ
と,②引用発明は,ルーバーが支持金具に取り付けられる際の支持金具によ
って,フレームがガラス類の縁部に拘束されるようになっており,ルーバー
を支持金具に取り付ける取付手段がフレームの拘束手段を兼ねる構成のみが
示されていること,③図35をみても,各ルーバーが単に長方形に表示され
ているだけであり,金属からなるフレーム同士が接触しているかは明らかで
ないことに照らすならば,引用発明は,金属からなるフレーム同士が接触し
ているかどうかは明らかでない。
したがって,「引用発明は,ルーバー羽根の表面同士が接触する構成では
あるものの,接触部がルーバー羽根の板ガラス部分なのか金属フレーム部分
なのか明らかでなく,」とし,この点を本願発明の相違点とした審決の認定
に誤りはない。
2本願発明と引用発明の相違点の看過(取消事由2)について
原告は,その取付手段が,本願発明では「挿着」であり,引用発明では「固
着」である点において相違するにもかかわらず,取付手段における「挿着」と
「固着」とを一致するとした審決の認定には,相違点を看過した違法があると
主張する。
この点,本願明細書(甲1)には「保持アームに挿着され(る)」との構成
が記載されているのに対して,引用例(甲3)では「ルーバーを本体部内に挿
入し,予め螺入されているネジを増締めする」との構成が存在し,これらの文
言を形式的に読む限りにおいては,一応,相違点として認定した上で,その相
違点に係る構成につき,容易想到性の有無を判断すべきであるとする余地があ
る。
しかし,本願明細書及び引用例の記載を詳細に検討すると,それぞれの構成
に相違はないと解すべきであるから,相違点の看過に関する原告の主張は,採
用できない。その理由は,以下のとおりである。
ア本願発明の「挿着」の意義について
(ア)特許請求の範囲の請求項1には,次の構成が記載されている(それぞ
れの部材の名称に付された番号の表記は省略した。以下同じ。)。
aルーバー窓の保持アームに挿着されて回動するルーバー羽根であっ
て,
b該ルーバー羽根は,その本体を成す板ガラスの縁部が,断面が溝形で
あって表面が平滑な金属フレームによって覆われて成り,
c該ルーバー羽根が鎧における鎧板の如く接触して閉じる際には該金属
フレームの平滑な表面同士の接触となって雨水の浸入が阻止される構成
であると同時に,
d本体を成す板ガラスは断面が溝形の金属フレームによって縁部が保護
されるようになって破壊が阻止される構成であることを特徴とするとこ
ろの
e雨水阻止機能と破壊阻止機能とを同時に有するルーバー羽根。
(イ)本願明細書には,以下の記載がある。すなわち,住宅等建造物の開口
部に設置されるルーバー窓に用いられるルーバー羽根における従来技術に
は,問題点として,風雨の際にはルーバー羽根を閉じた状態であっても型
板ガラスを用いたルーバー窓では型板ガラス同士の接触部から雨水が浸入
するという「雨水浸入被害」と,ルーバー羽根のガラスはガラス切り等の
小道具を用いることによって簡単に割られる等の「破壊被害」があり,本
願発明は,「雨水浸入被害」と「破壊被害」とを同時に阻止することがで
きるルーバー羽根を提供することを目的とする発明である旨の記載があ
る。
本願発明は,上記目的を達成するために,各構成を採用したものであ
る。本願発明において,「雨水浸入阻止」の効果は,上記「c該ルーバー
羽根が鎧における鎧板の如く接触」する構成により達成され,「破壊阻
止」の効果は,「d本体を成す板ガラスは断面が溝形の金属フレームによ
って縁部が保護されるように」する構成により達成される。他方,「aル
ーバー窓の保持アームに挿着されて回動するルーバー羽根」であるとの構
成は,ルーバー羽根が回動することにより窓の開閉がされるということに
は関連するものの,「雨水浸入阻止」や「破壊阻止」の各効果と直接的な
関連性を有する旨の記載はない。本願発明の構成相互の関係に照らすなら
ば,「aルーバー窓の保持アームに挿着されて回動するルーバー羽根」と
の構成中の「挿着」とは,端的に,保持アームの間にルーバー羽根が挿し
込まれて定着させることを指すものと理解すべきである。
(ウ)これに対し,原告は,ルーバー羽根は,「間隙(遊び空間)の存する
挿着」によって取り付けられていて,弾性を有する緩衝材(ホルダ40)
が保持アーム本体部との間に介在されることによって「ガタつきのない間
隙(遊び空間)」が形成され,微動可能(フレキシブル)な状態に取り付
けられており,ルーバー羽根が保持アームからの押圧力を受けて閉じる際
には,「間隙(遊び空間)」はルーバー羽根相互の間に生じている間隙を
埋める方向に作用し,その結果,「間隙(遊び空間)」自身は消失してル
ーバー羽根は相互に密着し,雨水の浸入が阻止されると主張する。
しかし,「挿着」について,「間隙(遊び空間)」を設けたとの限定を
加えて解釈すべき根拠はなく,原告の上記主張は,採用の限りでない。
本願明細書において,ルーバー羽根の保持アームに対する「挿着」につ
いて記載された【0021】をみても,ルーバー羽根が保持アームに挿着
されるとの記載はあるものの,挿着された際の,ルーバー羽根と保持アー
ムとの接着の程度,その間に間隙(遊び空間)があることについては記載
がなく,他に,「挿着」の語が,原告の主張するような「間隙(遊び空
間)」を有するものを指すと解する記載箇所はない。
イ引用発明における「ルーバーを本体部内に挿入し,予め螺入されているネ
ジを増締めする」の意義について
(ア)引用例(甲3)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりで
ある。
「【請求項1】金属から成るフレームがガラスの類の縁部に設けられて成
るルーバーを窓枠に軸着された支持金具に取り付けて成るルーバー窓にお
いて,上記ルーバーに設けられるフレームはそのルーバーが支持金具に取
り付けられる際の支持金具によってガラスの類の縁部に拘束されるように
なっており,ルーバーを支持金具に取り付ける際の取り付け手段がフレー
ムの拘束手段を兼ねる構成になっていることを特徴とするルーバー窓。」
また,発明の詳細な説明の【0035】の記載によれば,ルーバーを支
持金具へ取り付ける際には,ルーバーは突条を支持金具の挿着溝に挿入
し,突条がストッパーに当たるまで押し込むこと,このことにより,ルー
バーは支持側の突条が支持金具の装着溝に収まった状態になり,所定の位
置に位置決めされると同時に,支持金具に一旦留め置きされた状態になる
こと,その後,ネジを突条に当たるまで増締めすることが示されている。
以上の記載に照らすならば,引用発明におけるルーバーの支持金具への
取付態様は,「挿しこんで着ける」ことを指すと解するのが合理的であ
る。したがって,引用例の「「ルーバーを本体部内に挿入し,予め螺入さ
れているネジを増締めする」の意義は,本願発明における「挿着」と同義
であると理解するのが相当である。
(イ)原告は,「ネジで増締めされる」点は,本願発明における「挿着」と
は異なる意味に理解すべきであると主張する。
しかし,引用発明における取付態様において,増締めがされることが記
載されていたとしても,本願発明における「挿着」の意義を,間隙(遊び
空間)が存在する取付態様に限定することはできない以上,取付態様に相
違はない。原告の主張は,採用することができない。
ウ小括
以上によれば,本願発明も引用発明も,ルーバー(羽根)の保持アーム又
は支持金具への取付けは「挿着」といえるのであって,取付手段が「挿着」
である点において一致するとした審決に,相違点の看過はない。
3本願発明と引用発明の相違点についての容易想到性判断の誤り(取消事由
3)について
原告は,本願発明が,ルーバー羽根が保持アームに架設される際の接続を
「弾性を有する緩衝材を介在させた間接結合」とすることにより,ルーバー羽
根と保持アームとの間に「間隙(遊び空間)」を存在され,これによる前後方
向の微動及び掛合ボタンによる上下方向の位置決めによって密着性を向上さ
せ,雨水浸入阻止機能を発揮できるようにした点において,本願発明は引用発
明と比較して格段に進歩したものであると主張する。
しかし,前記2で判断したとおり,本願発明の構成は,原告の主張するよう
な構成であるということはできず,原告の主張する構成によって雨水浸入阻止
機能が発揮されるものでもないから,本願発明は当業者が容易に想到できるも
のではないとの原告の主張はその前提を欠き,採用することができない。
なお,審決の認定した相違点に係る本願発明の構成について,引用発明から
想到することは,当業者にとって容易というべきである。この点の審決の判断
に誤りはない。
4結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は
縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がない
から,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
大須賀滋
裁判官
齊木教朗

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