弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所へ差し戻す。
         理    由
 一 昭和五二年(オ)第六六〇号上告代理人小野原肇の上告理由第三点について
 原審の適法に確定したところによれば、被上告人B株式会社(以下「B」という。)
は運送業を営む者であるところ、上告人Aから被上告人BD支店に保管されていた
本件物件を福岡市所在の訴外株式会社E商会宛に運送するよう委託されながら、誤
つてこれを同市所在の訴外F商事株式会社(以下「F商事」という。)宛に配送し、
同会社からその返還を受けることができなかつたため、被上告人Bの本件物件を荷
受人に引き渡すべき運送契約上の債務は履行不能に帰したものである。
 右事実関係に照らせば、右債務不履行は、特段の事情のないかぎり被上告人Bの
係員の重大な過失に基づくものと推認すべきである。ところが、原審はなんらその
ような特段の事情を認定することなく右重大な過失のあつたことを否定しているの
であつて、右は審理不尽、理由不備の違法を犯したものというべきである。論旨は、
理由がある。
 二 昭和五二年(オ)第六六一号上告代理人灘岡秀親の上告理由について
 所論は、原審において主張がなく、したがつて原判決が確定しない事実関係に基
づいて原判決を論難するものであつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用す
ることができない。
 職権で調査するに、本件記録によれば、上告人Bは、本件反訴において、本件物
件はF商事の所有に属するものであり、被上告人Aはこれにつきなんらの権利をも
有しないから、右物件が同会社に配送されたことによつて被上告人Aに損害は生ぜ
ず、したがつて、右被上告人は、上告人Bから本件誤配送によつて生ずることがあ
るべき損害に充当すべき保証金として受け取つた金一六八万円を上告人Bに対し不
当利得として返還すべき義務がある旨主張し、その支払を求めているものである。
しかるに、原審は、本件物件がF商事に配送されその返還を受けられなくなつたこ
とは商法五八〇条一項にいう運送品の全部滅失と同視されるので、運送人たる上告
人Bに同法五七七条所定の免責事由が存することにつき主張立証のない本件におい
ては、右上告人は本件物件の引渡があるべかりし日における到達地の価格によつて
損害賠償をなすべき義務を負う旨判示している。
 おもうに、右五八〇条一項が運送品の価格による損害賠償責任を定めている趣旨
は、運送品の全部滅失により荷送人又は荷受人に損害が生じた場合、これによる運
送人の損害賠償責任を一定限度にとどめて大量の物品の運送にあたる運送人を保護
し、あわせて賠償すべき損害の範囲を画一化してこれに関する紛争を防止するとこ
ろにあるものと解される。したがつて、実際に生じた損害が右条項所定の運送品の
価格を下回る場合にも、原則として運送人は右価格相当の損害賠償責任を負うので
あつて、運送人に悪意又は重過失がありその損害賠償責任について同法五八一条が
適用される場合にも、その責任が右価格より軽減されることがないのは、もちろん
である。しかしながら、前記のような立法趣旨からして、右五八〇条一項は、運送
品が全部減失したにもかかわらず荷送人又は荷受人に全く損害が生じない場合につ
いてまで運送人に損害賠償責任を負わせるものではなく、このような場合には、運
送人はなんら損害賠償責任を負わないものと解するのが相当である。
 ところで、本件において、仮に上告人Bの前記主張のとおり本件物件が被上告人
Aの所有ではなく、たまたま右物件の配送を受けたF商事の所有であるとすれば、
右被上告人に損害が発生したか否かを判断するためには、更に具体的事実関係を審
究することを要するものというべきである。この点について審理することなく漫然
上告人Bに商法五八〇条一項の定めるところによる損害賠償義務があるものと認め
た原判決は、法の解釈適用を誤つたものというべく、右違法は判決に影響を及ぼす
ことが明らかである。
 三 結   論
 以上の次第であるから、原判決を破棄し、本件を本訴反訴いずれの請求にかかる
部分についても原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨

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