弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人長野潔の上告趣意は末尾添附別紙記載の通りでありこれに対する当裁判所
の判断は次ぎの如くである。
 第一点に対する判断
 論旨の主張するよりに原判決の判示事実が原判決挙示の証拠たる第一回の予審訊
問調書中に引用されている司法警察官意見書記載の犯罪事実と分離しては証明でき
ないと仮定すれば所論の通り原判決は違法のものとなるであろう。しかし右第一回
予審訊問調書によれば判示第一事実の納屋がAの所有であることは、被告人の供述
中に「屋敷の一角へ同人(A)を住居さし納屋一つを同人へ遣るか売るかしたので
す。」との記載により、又第二事実の納屋がBの所有であることは、予審判事の訊
問として「B納屋へも付けたのか」に対し被告人は、「左様云々」とこれを認あて
いるところからこれを知ることができる。又納屋の所在場所、構造については、原
判決挙示の証拠たる予審判事の検証調書によつて明らかである。原判決は、右検証
調書により焼燬の部位程度のみを証明するかに見えるが必ずしもそのように狭く解
する必要はなく、これに関連した事項も証明せられるとの趣旨と解するのを相当と
し敢えて予審判事の第一回訓問調書引用の司法警察官意見書の記載を俟つまでもな
い。又日時については、必ずしも判決挙示の証拠による必要のないことは当裁判所
の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一二〇五号同二三年一二月一六日
第一小法廷判決)し、被告人の経歴も犯罪構成要件に属しないところであるから証
拠によつて説明する必要はない従つて判示犯罪事実は司法警察官意見書の記載を俟
つまでもなく予審判事に対する被告人の第一回供述調書等によつて認あられ得るの
である。されば論旨は理由がない。
 第二点に対する判断
 原審の採用しな予審判事の訓問調書における被告人の自白が所論の様な違法のも
のであると認むべき資料は何もないし又右自白を採つたことは何ら経験則又は論理
の法則に違反しない。論旨は原判決の採用しない証言により自白の真実性を疑い或
は納屋の構造についての証拠に齟齬がある等主張するけれども論旨第一点に記載し
たとおり予審判事の検証調書の記載によれば判示犯罪事実と証拠との間に齟齬はな
く結局事実誤認の主張たるに過ぎないので採用に値しない。
 第三点に対する判断
 原判決判示第一事実について所論検証調書における棟木等が新しく補修してある
という記載の外に取り替えられたものを除く柱の露出面全面は炭化しているという
記載を綜合すれば判示の焼燬の部位程度を推認するに足るのである。又第二事実の
納屋については敢えて右調書添附の写真を俟たなくても全焼したことを推認できる
記載があるそれ故原判決はこの点について理由不備はない。しかも訊問調書添附の
図面等を除いても右供述が独立性がある場合にはこの部分のみを証拠調をしてそれ
を証拠とすることを妨げないことについては当裁判所の判例とするところであり(
昭和二四年(れ)第二一四五号同年一二月一三日第三小法廷判決判例集第三巻一二
号一九八一頁)。この理は検証調書の場合にも異るものでない。
 第四点に対する判断
 原審においては所論如露について証拠調をして意見弁解をきいているのであるか
ら原審が右如露を以つて被告人が放火の手段に供したと認定したことに何ら違法は
なく予審判事がこれを被告人に示したか否かは重要ではない。
 第五点に対する判断
 検察官が任意の捜査として鑑定の嘱託をしたものは他に何らかの証拠能力を失わ
せるような事情のある場合を除いて証拠能力がないと論ずることはできない又水差
の鉱物性油の鑑定を求めただけでは末だ所論鑑定書を作成した鑑定人の喚問を請求
したものとはいい得ない。これを釈明しなかつたことについても原審の措置を違法
とすることはできないのである。論旨は何れも理由がない。
 よつて旧刑事訴訟法四四六条に従つて主文の如く判決する。
 以上は関与裁判官全員一致の意見である。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二六年一月二三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河 村 又       介
 裁判官穂積重遠は差支えの為署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎

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