弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告代理人石川金次郎同伊藤俊郎の上告理由(後記)について。
 同第一点について。
 所論は、原判決が、本件土地は被上告人の長男Eの所有名義となつていたが実質
上は依然被上告人の所有であるという趣旨の認定をしたのを非難し、かくのごとき
は所有名義が虚偽仮装であるから民法九四条一項により無效であり、二項により右
意思表示の無效は善意の第三者たる上告人に対抗することはできないとして、原判
決は法令の解釈を誤つた違法があると主張する。しかし専ら私法上の取引の安全を
保護するため定められた民法九四条は、国家の権力作用によつて行われる自作農創
設特別措置法に基く農地買収処分に適用がないと解するのは当裁判所の判例とする
ところである。従つて論旨は採用することはできない(昭和二四年(オ)第三二七
号同二八年六月一二日第二小法廷判決、集七巻六号六四九頁参照。なお農地買収処
分と民法一七七条との関係について昭和二五年(オ)第四一六号同二八年二月一八
日大法廷判決、集七巻二号一五七頁参照)。
 同第二点について。
 論旨は、原判決が、目録第八の土地につき被上告人が実姉に耕作させていたこと
を認定しながら、結局小作地でないと認定したのは法令違反又は理由不備の違法が
あると主張する。しかしながら遡及買収計画は遡及時の小作人を保護する規定であ
るから、その時の小作人が何人であるかによつて買収することが適当であるかどう
か定まるわけである。ところで原判決の認定するところによれば本件土地は戦時中
小作人であつたFからすでに被上告人に返還し基準時現在においては小作地でなか
つたというのであるから、本件買収がFが当時小作人であつたことを前提とする以
上(すなわち買収計画は被上告人の実姉が耕作している土地として決定されたとは
認められない)原判決が本件買収計画を違法と判断したのは正当である。論旨は理
由はない。
 以上説明のとおり論旨はすべて理由がないから、本件上告を棄却することとし、
民訴四〇一条、九五条、八九条を適用し主文のとおり判決する。
 この判決は上告理由第一点について裁判官井上登同島保の少数意見を除く裁判官
全員一致の意見である。
 裁判官井上登同島保の意見は、本件において多数説は「民法九四条二項は私法上
の取引の安全を保護する趣旨に出た規定であり、権力支配作用である農地買収処分
に適用がないと解すべきである」との第二小法廷の判決の趣旨を踏襲せんとするの
である。これによると民法、商法その他私法における「第三者に対抗することを得
ず」「善意の第三者に対抗するを得ず」との規定は総て(「私法上の取引の安全を
保護する趣旨に出た規定」であるから)適用ないことになり、第三者保護の制度は
一旦行政処分による買収が介在すると根本的に破壊されることになるであろう。例
えば甲が乙に虚偽の意思表示による譲渡契約をする、丙がこれを真意の契約と信じ
て乙から譲受る、Dは同様に善意で丙から譲受ける等その他次ぎから次ぎへ地上権、
抵当権の設定等も考えられるであろう。その後になつて国その他公団体が所謂権力
支配作用で買収すると(この場合前記判例によると買収者については民法九四条二
項の適用がないから買収者は甲から買収しなくてはならないし、甲から買収すれば
それによつて完全に権利を取得してしまうのである。) 丙以下の権利は総て無権
利者から譲受け又は設定されたものとして無效のものとなつてしまうのであろう。
私達はかかる解釈に賛成することは出来ない。行政処分と雖私法関係に干渉する場
合には私法によつて成立して居る権利関係を土台としなければならないこと勿論で
ある。なおこのことは当裁判所昭和二五年(オ)第四一六号同二八年二月一八日言
渡大法廷判決において、民法一七七条の適用について井上、岩松の意見として書か
れて居るとおりである。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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