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平成23年3月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第21841号職務発明対価請求事件
口頭弁論終結日平成22年11月30日
判決
東京都江戸川区<以下略>
原告A
同訴訟代理人弁護士御器谷修
同島津守
同梅津有紀
同栗田祐太郎
同福田恵太
東京都港区<以下略>
被告ソニー株式会社
同訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同富岡英次
同小和田敦子
同木内加奈子
同小林正和
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成21年1月9日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告の元従業員である原告が,被告に対し,原告が被告に在職中に
発明した光集積回路の職務発明について,その特許を受ける権利を被告に承継
させたとして,特許法(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下「改
正前特許法」という。)35条3項に基づき,上記承継の相当の対価と主張す
る金7億3751万5000円の内金1億円及びこれに対する平成21年1月
9日(原告が被告に対し,上記承継の相当の対価の支払を請求した日の翌日)
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事
案である。
1争いのない事実等(末尾に証拠を掲げていない事実は,当事者間に争いがな
い事実である。)
(1)当事者等
ア原告は,昭和49年に被告に入社し,昭和60年10月に,生産技術本
部部品事業部精密機器部(同年11月に「部品事業本部光デバイス事業部」
に名称変更した。以下「光デバイス事業部」という。)に異動した。
原告は,光デバイス事業部において,レーザーカプラー方式の光学ピッ
クアップ装置(光ディスク(光学記録媒体)上へのデータ(情報信号)の
記録や再生を行う装置)の開発及び製品化の業務等に従事し,同業務は,
被告の半導体事業本部化合物半導体事業室(以下「化合物半導体事業室」
という。)及びオーディオ事業本部技術部(以下「オーディオ事業本部」
という。)との共同で行われた。当時,光学ピックアップの方式の技術と
しては,上記レーザーカプラー方式(半導体基板上に,発光源となる半導
体レーザー装置,光学系プリズム及び光検出のための受光素子を一体とし
て搭載する方式)のほかに,ディスクリート方式(上記光学部品を別個に
搭載する方式)及びホログラム方式があったものの,原告が光デバイス事
業部に異動した当時,レーザーカプラー方式の光学ピックアップ装置を開
発及び製品化していた会社は,存在しなかった(甲15∼17,乙28,
30)。
原告は,平成16年3月31日,被告を退職した。
イ被告は,電子・電気機械器具の製造,販売等を業とする会社である。
株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下「SCE社」
という。)は,被告の100%子会社である。
(2)本件特許権
ア本件特許権の内容
被告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲
請求項1の発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る特許を「本
件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明
細書」という。)を有していた。本件明細書中の発明者欄には,B,C及
び原告の氏名が記載されている。なお,B及びCは,いずれも,本件特許
の出願当時,化合物半導体事業室に在籍し,レーザーカプラーの開発業務
に従事していた者である。
特許番号第2881807号
発明の名称光集積回路
出願日平成元年4月19日
登録日平成11年2月5日
特許請求の範囲請求項1
「基板上に形成される光検出器と,該光検出器上に固定され,1つの半
透過反射面を有するプリズムと,同じく基板上に固定される半導体レ
ーザとを有する光集積回路において,迷光低減手段として,上記プリ
ズムの上記半透過反射面の先端に面取り部を形成して成る光集積回
路。」
イ当初請求項の補正
(ア)被告は,平成元年4月19日,本件特許の出願をした。出願当初の
請求項(以下「当初請求項」という。)は,次のとおりであった(乙6)。
「半導体基板上に形成される光検出器と,該光検出器上に固定され,1
つの半透過反射面を有するプリズムと,同じく半導体基板上に固定さ
れる半導体レーザとを有する光集積回路において,上記プリズムの1
部に迷光低減手段を設けて成る光集積回路。」
(イ)被告は,平成10年2月6日付けの手続補正書(乙8)により,当
初請求項を次のとおり補正した(以下「本件補正」という。また,補正
後の請求項記載の各発明を,それぞれ「請求項1の発明」などというこ
とがある。)。(本件補正により補正された部分を下線で示す。)
(請求項1)
「基板上に形成される光検出器と,該光検出器上に固定され,1つの半
透過反射面を有するプリズムと,同じく基板上に固定される半導体レ
ーザとを有する光集積回路において,迷光低減手段として,上記プリ
ズムの上記半透過反射面の先端に面取り部を形成して成る光集積回
路。」
(請求項2)
「上記面取り部の表面を粗面化したことを特徴とする請求項1に記載の
光集積回路。」
(請求項3)
「上記面取り部の表面に反射面を形成したことを特徴とする請求項1に
記載の光集積回路。」
(請求項4)
「上記面取り部の表面に光吸収体を形成したことを特徴とする請求項1
に記載の光集積回路。」
(請求項5)
「基板上に形成される光検出器と,該光検出器上に固定され,1つの半
透過反射面を有するプリズムと,同じく基板上に固定される半導体レ
ーザとを有する光集積回路において,迷光低減手段として,上記半透
過反射面上の一部に,反射面或いは光吸収体から成る領域を形成して
成る光集積回路。」
(請求項6)
「基板上に形成される光検出器と,該光検出器上に固定され,1つの半
透過反射面を有するプリズムと,同じく基板上に固定される半導体レ
ーザとを有する光集積回路において,迷光低減手段として,上記プリ
ズムの一部に溝を形成して成る光集積回路。」
(請求項7)
「上記溝内に光吸収体を充填したことを特徴とする請求項6に記載の光
集積回路。」
(3)被告の有していたその他の特許権
被告は,本件特許権の他に,別紙「その他の特許権等目録」記載の特許権
及び実用新案権(以下「その他の特許権等」と総称し,その特許請求ないし
実用新案登録請求の範囲記載の各発明ないし考案を「その他の発明等」と総
称する。また,その他の発明等に係る特許ないし実用新案を「その他の特許
等」と総称する。)を有し,又は有していた。その他の特許等に係る明細書
中の発明者欄ないし考案者欄には,発明者ないし考案者として,原告の氏名
が記載されている(甲6∼10,甲11の1∼3,弁論の全趣旨)。
(4)被告らによる,本件発明を実施したゲーム機の製造,販売
被告は,SCE社を通じ,ゲーム機「プレイステーション」(以下「PS」
という。)を平成6年12月ころから,「プレイステーション・ワン」(以
下「PSone」という。)及び「プレイステーション2」(以下「PS2」
といい,「PS」及び「PSone」と併せて「PS等」という。)を平成
12年ころから,「新型プレイステーション2」(以下「新型PS2」とい
う。)を平成16年から,それぞれ販売した。
PS等には,被告が製造,販売したレーザーカプラー方式の光学ピックア
ップ(以下「本件光学ピックアップ」という。)が搭載され,本件光学ピッ
クアップには,本件発明が実施されている。一方,新型PS2には,本件光
学ピックアップは搭載されておらず,ディスクリート方式の光学ピックアッ
プが搭載されている。
(5)本件発明に係る特許を受ける権利の承継
本件発明は,被告の従業者によりされた職務発明(改正前特許法35条1
項)であり(なお,原告が本件発明の共同発明者であるかについては,後記
のとおり当事者間に争いがある。),本件発明についての特許を受ける権利
は,被告の自社規定に基づき,被告に承継された。
(6)被告に対する相当の対価の請求
原告は,平成21年1月8日,被告に対し,本件発明につき,改正前特許
法35条3項所定の相当の対価の不足額を請求する旨の通知をした(甲2の
1,2)。
2争点
(1)原告は,本件発明の共同発明者か(争点1)
(2)本件発明に係る特許を受ける権利の承継に関する相当の対価の額(争点
2)
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告は,本件発明の共同発明者か)について
[原告の主張]
本件発明の発明者は,本件明細書に記載のとおり,原告,B及びCの3名
であり,原告は,本件発明の共同発明者である。上記3名によって本件発明
がされるに至った経緯は,次のとおりである。
アレーザーカプラー方式の光学ピックアップ装置では,下図のとおり,半
導体レーザー側に頂角を有するプリズムを設けた場合,レーザーからの光
の一部が,プリズムの斜面において反射される(反射された光は,光ディ
スクに向けて照射される)ことなく,同斜面の下部に直接入射し,その光
(以下「迷光」という。)が光検出器に到達することによって,光学ピッ
クアップ装置の基本的な性能が劣悪となるという問題があった。
イ光デバイス事業部においてレーザーカプラーのプリズムの設計を担当し
ていた,原告及び部下のD(以下,原告及びDを併せて「原告ら」という
ことがある。)は,このような迷光に関わる課題を発見し,同課題に対処
するための実験を行い,昭和61年から昭和63年6月ころまでの間に,
上記の迷光対策として,●(省略)●(乙12)や,プリズムの斜面に溝
を刻む(ハーフカット)方法(乙12,17)を考案した。そして,原告
らは,これらの考案に関する技術情報を,化合物半導体事業室及びオーデ
ィオ事業本部にも開示した。
ウさらに,昭和63年6月ないし7月,原告らとBら化合物半導体事業室
のメンバーが,プリズムの斜面の先端部に割れや欠けが発生することを防
ぐ方法について検討していた際,原告らとBらとの間に,このような割れ
や欠けを防ぐためにプリズムの斜面に面取り部を設けるという発想が生ま
れた。そして,プリズムの斜面に面取り部を設けることにより,下図のと
おり,レーザーからの光は,面取り部で基板に対して大きな角度となるよ
うに屈折し,光検出器に到達する迷光が低減する,という効果が認められ
た。
そこで,原告らは,プリズムの製造メーカーと協議して,上記着想を実
現化させ,プリズムの斜面に面取りを設けることとした。昭和63年7月
5日にDが作成し,原告の承認印が押されている図面(乙27・図2)や,
同年11月18日に原告が作成した図面(甲14)に,プリズムを面取り
形状にした図が記載されていることは,上記事実を裏付けるものである。
[被告の主張]
本件発明の発明者は,本件特許の出願前にBが作成して被告に提出した,
昭和63年11月30日付け発明報告書(乙1。以下「発明報告書1」とい
う。)に記載のとおり,B及びCの2名であり,原告は,本件発明の共同発
明者ではない。B及びCが本件発明をした経緯及び本件明細書の発明者欄に
原告の氏名が記載された事情については,次のとおりである。
ア本件発明に至る経緯
(ア)レーザーカプラーの開発プロジェクト(以下「本件プロジェクト」
という。)は,昭和59年9月ころ,光デバイス事業部,化合物半導体
事業室及びオーディオ事業本部が参画して始まった。
同プロジェクトにおける各部門間の協力体制は,次のとおりであった。
①化合物半導体事業室は,レーザーカプラーの開発や設計を行い,レ
ーザーカプラーを光デバイス事業部に提供する。具体的には,レーザ
ーカプラーを構成する各部材(プリズム等)の材料,製造プロセス,
製造装置に関して検討を行い,カプラー素子を組み立て,作成する。
②光デバイス事業部は,レーザーカプラー素子を光学ピックアップに
組み込み,光学ピックアップとしての全体的な光学設計を定量的に行
う。
③オーディオ事業本部は,レーザーカプラー方式の光学ピックアップ
を搭載するユーザーとして,必要な性能仕様を出す。
(イ)迷光の問題は,レーザーカプラーの開発初期の段階から,本件プロ
ジェクトの参加者の間で,検討すべき課題として共通に認識されていた。
しかしながら,●(省略)●昭和63年3月10日ころの時点では,
迷光対策は,まだ,●(省略)●,プリズムの前面における有効な迷光
対策は見い出されていなかった(乙15・5頁)。
(ウ)プリズムの前面における迷光対策としては,昭和63年6月2日こ
ろの時点では,「LaserOnPhotodiode」(フォトダイオード付きのシリ
コンサブマウント(基板の上にシリコンを被せたもの)の上にレーザー
ダイオードが半田付けされている素子構造。以下「LOP」という。)
の前面部をえぐってLOPの端を利用する方法と,プリズムに溝を設け
る方法が,評価の対象となっていた。
一方,化合物半導体事業室は,そのころ,生産(量産)の準備段階と
して,エンジニアリングサンプル(製品化に向けて,おおよその仕様が
定まった段階のサンプル品)の製作の検討を進めており,量産化すると
きの問題点等も考慮した上で,レーザーカプラーの設計を検討していた。
そして,量産化の観点からすると,プリズムに面取り部を形成すること
は,プリズムの頂角部での割れや欠けの心配がなくなり,プリズム単体
に関する品質の向上を実現できるとともに,半導体基板へのプリズム等
の取付けの際の位置決めが容易にでき,さらに,プリズムとチップとの
距離を十分とることが可能になり,両方の接着剤を介しての干渉が生じ
なくなるため,量産化に適するものであった。当時化合物半導体事業室
に所属していたB及びCは,このように,半導体基板に搭載する部品に
ついて量産化を見据えて検討する中で,プリズムの品質及び取付けの実
際上の便宜と迷光対策とをともに実現することが可能な,プリズムの先
端を面取りして砂かけ(粗面化)をするという構成を着想するに至り,
レーザーカプラーに使用するプリズムを面取り形状のものに設計変更す
ることとし,エンジニアリングサンプルを製作した(乙18∼20)。
また,B,C及び化合物半導体事業室所属のEは,昭和63年11月
21日付けエンジニアリングレポート(乙27。以下「乙27レポート」
という。)を作成し,化合物半導体事業室のメンバーらに対し,プリズ
ムを面取り形状のものとし,その表面を砂かけ化(粗面化)した場合に
十分な迷光低減効果があることがBらの実験によって明らかになったこ
と,このような仕様変更を行うことは,実装上の要請にも合うこと,な
どを報告した。
(エ)以上のとおり,迷光に対する具体的な対策として面取りという技術
的思想を創作したのは,B及びCであり,原告は,本件発明の共同発明
者ではない。
なお,乙27レポートには,Dの作製した仕様図(図2。プリズムの
斜面を面取りしたもの)が添付されているが,これは,当時,化合物半
導体事業室には,プリズムのような光学部品について,サンプルの製造
委託に必要なレベルの製図を正確にできる者がいなかったため,光デバ
イス事業部に対し,プリズムの形状と仕様を説明して作図を依頼したも
のにすぎない。
また,甲第14号証は,本件発明の実施例におけるフォーカス誤差検
出機能について説明する図面にすぎない上,その作製日付は,本件特許
の出願日の直前であり,その時期には既に,Bらによってプリズムの面
取り形状のアイデアは検討されていたものである。したがって,仮に,
原告が甲第14号証を作成したのだとしても,その事実は,原告が本件
発明に係る技術的思想(迷光対策のために面取り部を形成すること)を
創作したことを証明するものではない。
イ本件明細書の発明者欄に原告の氏名が記載された事情
(ア)本件特許は,発明報告書1及び同報告書と同日付けで被告に提出さ
れたB作成の発明報告書(乙2。以下「発明報告書2」という。また,
発明報告書1及び2を併せて「各発明報告書」ということがある。)に
基づき,出願に至ったものである。
各発明報告書には,次のような記載がある。
(発明報告書1)
発明の名称光集積回路
発明の概要光ICの一部を構成する部品であるプリズムの一部を
面取りし,その表面を粗面加工する等の加工をすること
で,無用な光信号成分(迷光)を低減することを特徴と
した光IC
発明者B(筆頭),C
(発明報告書2)
発明の名称光集積回路
発明の概要光ICの一部を構成するプリズムに関して,その一部
に溝を入れることで,無用な光信号成分(迷光)を低減
化する構造を採用した,光IC
発明者B(筆頭),C,原告
(イ)被告は,各発明報告書を基に特許出願の検討を行い,各発明報告書
に記載された発明の内容が,「レーザーカプラータイプの光学ピックア
ップに用いるプリズムの一部に迷光低減手段を設ける」という点におい
て共通していたため,上位概念での権利化を図るべく,各発明報告書を
合体させ(乙5),これを,当初請求項記載のとおり1個の発明として
出願した(乙6)。なお,被告の特許出願業務においては,複数の発明
報告書を合体して1つの出願とする場合,発明報告書に記載された複数
の発明者中の一部が他の報告書には発明者として記載されていないとき
でも,発明報告書に発明者として記載された者全員を発明者として記載
し,特許出願をしていた。
(ウ)本件補正による請求項の補正
被告は,本件特許の出願に対して特許庁から拒絶理由通知(乙7)を
受けたため,上位概念での権利化を断念し,当初請求項を前記第2の1
(2)イ(イ)の請求項1ないし7のとおり補正(本件補正)した。
本件補正後の独立の請求項は,請求項1,5及び6であるところ,請
求項1の発明(本件発明)及び請求項5の発明は,発明報告書1に基づ
くものであり,請求項6の発明は,発明報告書2に基づくものである。
なお,被告は,本件補正の際,発明者の記載については補正をしなかっ
た。これは,特許庁の運用において,特許出願の願書の様式が請求項ご
とに発明者を特定して記載できる形式となっておらず,本件補正後の請
求項を前提としても,請求項ごとに発明者を特定することはできなかっ
たからである。
[被告の主張に対する原告の反論]
発明報告書1の「発明の概要」の記載のうち,「面取りし,その表面を」
との部分は,かっこ書きとされていることから明らかなとおり,Bが,発明
報告書1を被告に提出する直前に追加したものであり,B及びCの基本的な
思想は,あくまで,プリズムに「粗面加工等」をする点にあった。したがっ
て,Bは,上記報告書に面取り部に関する記載を追加した以上,本来であれ
ば,その考案者である原告の氏名も共同発明者として挙げるべきであったに
もかかわらず,これをしなかった。このため,Bは,本件特許の出願前後に,
原告に対し,原告の氏名を発明者欄に記載せずに発明報告書1を提出したこ
とについて,謝罪した。また,発明報告書1記載の発明は,「面取り+粗面
加工」による迷光低減手段であり,「面取り」のみによる迷光低減手段であ
る本件発明とは,技術的思想を異にするものである。
(2)争点2(本件発明に係る特許を受ける権利の承継に関する相当の対価の
額)について
[原告の主張]
ア本件光学ピックアップを搭載したPS等の販売により被告の得た利益
本件光学ピックアップを搭載したPS等の販売台数は,PS(PSon
eを含む。以下同じ。)が1億0103万6000台であり,PS2が7
172万6000台である。
本件光学ピックアップの1台当たりの平均市場価格は,PSに搭載され
たものが1500円,PS2に搭載されたものが2000円であり,その
利益率は,いずれも5%を下らない。
また,本件発明は,本件光学ピックアップの小型軽量化,性能向上のた
めに不可欠な技術であり,本件発明の価値は,本件光学ピックアップの少
なくとも40%を占める。
イ被告による独占の利益
本件光学ピックアップがPS等に搭載されたのは,SCE社が,レーザ
ーカプラー方式の光学ピックアップについて,ディスクリート方式及びホ
ログラム方式の光学ピックアップにない特有の価値を見い出したからであ
る。
そのため,本件光学ピックアップは,平成6年のPS発売から平成16
年の新型PS2発売までの間,すべてのPS等に搭載され,被告は,この
間,PS等用光学ピックアップの市場を独占していた。
上記事実に照らすと,仮に,レーザーカプラーに関する発明である本件
発明及びその他の発明等(以下,これらの発明を総称して「レーザーカプ
ラーに関する発明」ということがある。)について第三者が実施許諾を受
けた場合,被告は,PS等に搭載する本件光学ピックアップの売上げの少
なくとも50%を失ったものといえる。
ウ被告の貢献度
レーザーカプラーに関する発明に対する被告の関与は,単に,原告らに
対して「画期的な光学ピックアップ・ユニットを作れ」と指示したという
抽象的なものにすぎず,新たな施設や人員を提供したという事実もない。
したがって,被告が本件発明に果たした役割が50%を超えることはない。
エ原告と他の共同発明者との関係
本件発明は,原告が,B及びCと共に研究開発をしたものである。しか
しながら,レーザーカプラーに関する発明のすべてに関与したのは原告だ
けであり,原告は,本件発明のされた時期に開発リーダーとして主導的役
割を果たした。したがって,本件発明の共同発明者間における原告の貢献
度は,50%とするのが相当である。
オそうすると,本件発明に係る特許を受ける権利の承継に関する相当の対
価の額は,以下の計算式のとおり,7億3751万5000円(PSにつ
き3億7888万5000円及びPS2につき3億5863万円の合計
額)となる。
PS:101,036,000台×1500円×5%×40%×50%×50%×50
%=378,885,000円
PS2:71,726,000台×2000円×5%×40%×50%×50%×50
%=358,630,000円
カよって,原告は,被告に対し,上記オの相当の対価の額の一部請求とし
て,1億円及びこれに対する原告の被告に対する請求の日(平成21年1
月8日)の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求める。
[被告の主張]
原告の主張のうち,本件光学ピックアップを搭載したPS等の販売台数が
原告主張のとおりであること,PS等に本件光学ピックアップ以外の光学ピ
ックアップは搭載されなかったことについては認め,その余の事実ないし主
張については,否認ないし争う。
本件光学ピックアップがPS等に搭載されたのは,特段その品質や信頼性
等が重視されたからではなく,主に,被告のグループ全体の事業上の必要性
によるものである。すなわち,PS用の光学ピックアップについては,被告
のグループ内で調達することが被告の売上げの拡大にもつながることなどの
理由から,被告において当時製造可能であったディスクリート方式又はレー
ザーカプラー方式を採用することが検討され,被告が多額の資本及び人材を
投入して開発,商品化したレーザーカプラー方式の光学ピックアップについ
て,当時,その開発コストを回収することが重要な要請となっていたことか
ら,レーザーカプラー方式が採用されたものである。
また,被告は,本件発明に係る特許を受ける権利を承継したことによって,
法定の通常実施権(改正前特許法35条1項)を超えて独占の利益を得たも
のではない。被告は,本件発明を含むレーザーカプラーに関する特許につい
て,有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する
方針をとっていたものの,他社は,光学ピックアップについて有力な代替技
術(ディスクリート方式ないしホログラム方式)を実施していたため,被告
から上記実施許諾を受けた者も,上記特許に係る発明を実施した者もいなか
った。
したがって,被告には,本件発明に係る特許を受ける権利の承継に関して,
原告に支払うべき相当の対価の不足額はない。
第3当裁判所の判断
1争点1(原告は,本件発明の共同発明者か)について
(1)認定事実
ア前記争いのない事実等のほか,証拠(甲1,15,乙1∼29)及
び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)本件発明がされるまでの経緯
a被告は,昭和59年9月ころ,次世代における光学ピックアップに
ついての検討(本件プロジェクト)を開始し,同プロジェクトには,
光デバイス事業部,化合物半導体事業室及びオーディオ事業本部が参
画した。
b本件プロジェクトにおいて,昭和59年10月ころ,レーザーカプ
ラー方式の原型となるもの,すなわち,半導体基板上に,発光源とな
る半導体レーザー装置,光学系プリズム及び光検出のための受光素子
(光検出器)を一体として搭載する方式が考案された。
レーザーカプラーの方式とは,下記図面のように,半導体レーザー
45から射出されてプリズム43の半透過反射面43aで反射される
ビームを,光ディスクに対する照射ビームとして用いるとともに,光
ディスクからの戻り光を半透過反射面43aに入射し,直接に又は反
射面43cで反射されるビームを光検出器42a,42bで差動検出
するようにすることにより,プリズムを,光結合器と光導波路の双方
に共用するというものである。
しかしながら,レーザーカプラー方式には,半導体レーザーから射
出された光ビームがプリズムの半透過反射面に到達した際,光ビーム
の一部がその反射面からプリズム内に直接侵入し(迷光),直接に又
は反射面で反射されて光検出器に飛び込み,その迷光による信号(信
号検出に寄与しない不要な光)が,ディスクを反射した戻りの光ビー
ムによる本来の信号に対するいわゆるオフセット信号を生ぜしめ,後
段でのアンプ処理に大きな制限を加える,という問題があった。
cこのような迷光の問題及びその対策の必要性については,遅くとも
昭和61年には,本件プロジェクトの参加者の間で共通の認識となっ
ており(乙9∼11),同プロジェクトにおいてレーザーカプラーの
開発や設計を担当していた化合物半導体事業室や,光学ピックアップ
としての全体的な光学設計を定量的に行うことを担当していた光デバ
イス事業部において,プリズムの加工方法等の迷光対策について,継
続的な検討がされた。
dその後,半導体レーザーからプリズムの半透過反射面に直接入射し
て光検出器に到達する迷光以外にも,プリズムの後面で反射して光検
出器に到達する迷光や,プリズムとLOP間の保護膜内に入射した光
が保護膜内を通って光検出器に到達する迷光も存在することが判明し
た。
原告は,これら新たに判明した迷光の問題について,昭和62年9
月3日付けエンジニアリングレポートにより,化合物半導体事業室の
メンバーらに対し,上記の迷光対策として,●(省略)●旨を報告し
た(乙12)。
一方,プリズムの前面における迷光対策については,光デバイス事
業部や化合物半導体事業室のメンバーにより,昭和63年6月2日こ
ろまでに,LOPの前面部(端)を迷光に対する一種の衝立として利
用する方法と,プリズムに溝を設ける方法とが考案され,これらの方
法により一定の迷光低減効果が認められることが報告されていた(乙
17)。しかしながら,●(省略)●ほか(乙16・7頁),●(省
略)●(乙27・2頁)。そのようなこともあって,この時点では,
プリズムの前面における迷光対策(プリズムの仕様)は,いまだ確定
していなかった。
e化合物半導体事業室は,そのころ,生産(量産)の準備段階として,
エンジニアリングサンプル(製品化に向けて,おおよその仕様が定ま
った段階のサンプル品)の製作の検討を進めており,迷光対策のほか,
量産化するときの問題点等も考慮した上で,レーザーカプラーの設計
を検討していた。
B及びCは,このような状況の下で,昭和63年6月,●(省略)
●と考えた(乙18)。
そこで,B及びCは,遅くとも昭和63年8月ころまでに,●(省
略)●(乙19),●(省略)●(乙27)。そのため,化合物半導
体事業室は,レーザーカプラーに使用するプリズムを,従来検討され
ていたもの(プリズムの前面に溝を入れるもの)から●(省略)●(乙
20)。そして,B,C及び化合物半導体事業室所属のEは,昭和6
3年11月21日付けエンジニアリングレポート(乙27レポート)
を作成し,化合物半導体事業室のメンバーらに対し,●(省略)●を
報告した。
●(省略)●
なお,乙27レポートに添付された図2(以下「乙27図面」とい
う。)は,化合物半導体事業室から光デバイス事業部に対し,面取り
部を設けたプリズムのサンプルを業者に製造委託するために必要なレ
ベルの製図の作製を依頼したことを受けて,同事業部に所属するDが
作製したものである。
(イ)本件特許の出願から本件補正が行われるまでの事情
aBは,昭和63年11月30日付けで,発明報告書1及び2を作成
し,被告に提出した。各発明報告書には,発明の概要や発明者等につ
いて,次のとおり記載されている。
(発明報告書1)
発明の名称光集積回路
発明の概要光ICの一部を構成する部品であるプリズムの一部を
面取りし,その表面を粗面加工する等の加工をすること
で,無用な光信号成分(迷光)を低減することを特徴と
した光IC
発明者B(筆頭),C
発明の詳細な説明(前略)図−2のように,プリズムの45°反射
面の先端部を削り(面取り),かつ,その表面を粗面加
工等の加工することで,侵入する迷光信号の一部を散乱
(反射)し,全体としての迷光成分比を低下するもので
ある。(中略)図−2に示したように,レンズ光学系の
有効視野(NA)と,プリズム屈折率で決まる,全反射
・臨界角との関係で,必要な面取り部の大きさが決まる。
NA=0.09,プリズムのn=1.766下地n=
1.50に対して,面取り部を280μmとすることで
直接の光成分のPD(判決注:「光検出器」の意味)上
への照射がなくなる。他の迷光成分は,プリズムの上部
の反射等を経て,後部で反射して,PDに戻って来るも
ので,プリズム後部に黒色吸収体を作ること(例えば,
黒色エポキシ塗布)で,大きく低減化できることは,図
−3に示している。(後略)
(発明報告書2)
発明の名称光集積回路
発明の概要光ICの一部を構成するプリズムに関して,その一部
に溝を入れることで,無用な光信号成分(迷光)を低減
化する構造を採用した,光IC
発明者B(筆頭),C,原告
発明の詳細な説明本発明では,図−2に示したような構造のプリ
ズムを作成することで,迷光信号を大きく低減化するこ
とが可能となる。(中略)図−2(a)の構造では,プリ
ズムの前方で,迷光成分の一部を低減−除去するが,こ
のハーフカット溝の場合は,入射光に対してプリズム先
端部を障壁として用いていることに特徴がある。例えば,
プリズムの屈折率(n=1.766),45°面(及び
下面)の反射率45%としてフォトダイオード上に透過
する光強度(TEモード)は,初期値の15%以下,溝
なしの場合の約75%以下に低下する。(後略)
b被告は,各発明報告書を基に特許出願の検討を行い,各発明報告書
に記載された発明の内容が,「レーザーカプラータイプの光学ピック
アップに用いるプリズムの一部に迷光低減手段を設ける」という点に
おいて共通していたため,上位概念での権利化を図るべく,各発明報
告書を合体させ(乙5),これを,当初請求項記載のとおり1個の発
明として出願した(乙6)。なお,被告の特許出願業務においては,
複数の発明報告書を合体して1つの出願とする場合,発明報告書に記
載された複数の発明者中の一部が他の報告書には発明者として記載さ
れていないときでも,発明報告書に発明者として記載された者全員を
発明者として記載し,特許出願をしていた。
c被告は,本件特許の出願に対して特許庁から拒絶理由通知(乙7)
を受けたため,上位概念での権利化を断念し,当初請求項を前記第2
の1(2)イ(イ)の請求項1ないし7のとおり補正(本件補正)した。
本件補正後の独立の請求項は,請求項1,5及び6であり,このう
ち,請求項1の発明(本件発明)及び請求項5の発明は,発明報告書
1に基づくものであり,請求項6の発明は,発明報告書2に基づくも
のである。なお,被告は,本件補正の際,発明者の記載については補
正をしなかった。これは,特許庁の運用において,特許出願の願書の
様式が請求項ごとに発明者を特定して記載することができる形式とな
っておらず,本件補正後の請求項につき,請求項ごとに発明者を特定
することができなかったためである。
イ上記認定事実によれば,レーザーカプラー方式の光学ピックアップ
のプリズムの斜面に面取り部を設けることを発想したのはB及びCで
あると認められ,原告が上記発想をしたと認めることはできない。
これに対し,原告は,プリズムの斜面に面取り部を設けることを発想
したのは原告ら及びBらであり,原告らにおいて,プリズムの製造メー
カーと協議して上記着想を実現化させたものであると主張し,原告本人
の陳述書(甲15)中には,これに沿う部分があるが,前掲各証拠に照
らし採用することができない。また,原告は,同人の主張を裏付ける事
実として,①昭和63年7月5日にDが作成し,原告の承認印が押され
ている図面(乙27図面)や,同年11月18日に原告が作成した図面(甲
14。以下「甲14図面」という。)に,プリズムを面取り形状にした図
が記載されていること,②発明報告書1の「発明の概要」の記載のうち,
「面取りし,その表面を」との部分は,Bが,発明報告書1を被告に提出
する直前に追加したものであり,B及びCの基本的な技術思想は,プリズ
ムに「粗面加工等」をする点にあったこと,③Bは,本件特許の出願前
後に,原告に対し,原告の氏名を記載せずに発明報告書1を提出したこと
について謝罪したこと,などを挙げる。
しかしながら,Bが作成した化合物半導体事業室の88年(昭和63年)
6月度の月次報告(乙18)に,同事業室において●(省略)●旨が記載
されていること(なお,上記月次報告の作成日は昭和63年7月13日で
あり,これは乙27図面の作成日より8日後であるが,乙第18号証の表
題からすると,同号証に記載された内容は,化合物半導体事業室において
昭和63年6月に実施された作業の状況であると認めるのが自然である。
また,Bが作成した他の月の月次報告書(乙21,22,24∼26)を
みても,当月分の月次報告が作成されるのは翌月の半ばころとなるのが通
例であったことがうかがえる。),仮に,原告の主張するように,迷光対
策としてプリズムに面取りを設けることを着想したのが原告であり,同着
想に基づき乙27図面が作成されたものであって,Bは同着想を流用した
にすぎないのであれば,面取りの方法による迷光対策について,光デバイ
ス事業部において何らかの実験結果報告書等が作成されていて然るべきで
あるが(原告が共同発明者であることに争いのない請求項6の発明(プリ
ズムに溝を設けるもの)や,プリズム後面に黒色の塗料を塗布する方法に
ついては,原告ないしDらが,試作結果や実験結果について報告書(乙1
5,17)を作成している。),そのような事実を裏付けるに足りる証拠
はなく,かえって,B及びCらにおいて,面取りの方法による迷光減効果
について実験し,その結果をまとめたエンジニアリングレポート(乙27
レポート)を作成していること,面取りの方法は,迷光対策上有効なだけ
ではなく,量産化に適するなどの実装プロセス上の要請にも適うものであ
ることからすると,レーザーカプラーのエンジニアリングサンプルの設計
を検討していた過程で面取りの発想が生じたというBの陳述(乙28)に,
特段不自然な点はみられないこと等に照らすと,B及びCは,レーザーカ
プラーのエンジニアリングサンプルの設計を検討していた過程で,昭和6
3年6月に,プリズムに面取り部を設けることを着想したと認めるのが相
当であるから,Bらによる上記着想後に原告らにより乙27図面及び甲1
4図面が作成された事実(上記①の事実)は,上記アの認定を左右するも
のではない。
また,Bの作成に係る発明報告書1の「発明の詳細な説明」には,上記
ア(イ)認定のとおり,面取り部を設けること及びこれによる迷光低減効果
についても記載されていることから,Bが,同報告書を作成する際,プリ
ズムを「粗面加工等」することによる迷光低減効果だけでなく,面取りに
よる迷光低減効果についても認識していたことは明らかであるから,原告
の上記②の主張は失当である。
原告の主張する上記③の事実については,本件特許出願において原告,
B及びCの3名が発明者と記載されている状況の下で,発明報告書1にお
ける発明者の記載につき,Bが原告に対し言及したというのは不自然の感
を免れない上,これを裏付けるに足りる客観的な証拠がないから,これを
認めることはできない。
他に原告がプリズムの斜面に面取り部を設けることを発想したことを認
めるに足りる証拠はなく,原告の主張は理由がない。
(2)本件発明の発明者
ア発明者とは,自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者,
すなわち,当該技術思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的
なものとして構成する創作活動に関与した者をいい,単なる補助者として,
研究者の指示に従い,データをとりまとめたり実験を行ったにすぎない者
などは,発明者には当たらない。
イこれを本件発明について見るに,本件明細書中の発明の詳細な記載によ
れば,本件発明は,従来のレーザーカプラー方式の光集積回路においては,
半導体レーザーから射出された光ビームがプリズムの半透過反射面に到達
した際,光ビームの一部がその反射面からプリズムに侵入し,直接に又は
反射面で反射されて光検出器に飛び込み(迷光),その迷光による信号が,
ディスクを反射した戻りの光ビームによる本来の信号に対するDC的ない
わゆるオフセット信号を生ぜしめ,後段でのアンプ処理に大きな制限を加
えることになるという問題があったため,プリズムの半透過反射面の先端
に面取り部を形成することにより,プリズム内に侵入する迷光を低減した
というものであり,面取り部の寸法は,レンズ光学系の有効視野(対物レ
ンズの開口率)とプリズムの屈折率で決まる全反射臨界角(レーザー光の
中心線を基準としてレーザー光がプリズムと接着剤との界面において全反
射される臨界の角度)との関係で決定され,このような条件で面取り部を
設けることにより,全反射臨界角より大きい角度に関する迷光を該面取り
部により低減させることができるようにしたものである,と認められる(2
頁4欄8行∼20行,同45行∼46行,3頁5欄8行∼18行,4頁7
欄16行∼35行)。
したがって,本件では,上記の具体的な技術思想,すなわち,プリズム
に面取り部を設けること(これにより,面取り部分ではプリズムへの光の
入射角が(面取りを施さない場合と比べて)基板に対して大きくなるため,
迷光が低減する。)を着想した者をもって,発明者と認めるのが相当であ
る。
ウそうすると,上記(1)認定の事実関係によれば,本件発明の発明者は,プ
リズムに面取り部を設けることを着想したB及びCであると認めるのが相
当であり,原告を本件発明の共同発明者と認めることはできない。なお,
乙27図面の記載内容からすると,同図面を作製したD及び原告ら光デバ
イス事業部のメンバーは,プリズムに面取りをする場合の最適条件(面取
り部の高さ)について光学的な検討をしていることがうかがえるものの,
このような検討は,単にレーザーカプラーを商品化するために最適な仕様
を検討したというにすぎず,高度の技術的思想の創作に係るものとはいえ
ないから,乙27図面の作成に原告が関与したとの事実は,原告が本件発
明の共同発明者に当たらないとの上記認定を左右するものではない。
エこれに対し,原告は,迷光対策という本件発明の課題を提示したのは原
告である,あるいは,本件発明の作用効果は,プリズムと接着剤との屈折
率差による全反射を用いて迷光の光検出器への入射を阻止するという,別
紙その他の特許権等目録記載4の発明の技術思想が寄与している,などと
主張し,原告は本件発明の共同発明者に当たるとする。
しかしながら,前記(1)に認定のとおり,迷光対策という課題は,本件発
明がされる以前から,本件プロジェクトに従事する者の間で広く認識され
ていたものであり,かかる課題を原告が最初に認識したことを認めるに足
りる証拠はない上,単に課題を提示したというだけでは,課題を解決する
ための技術思想を具体的に提示したとはいえず,発明者であるとはいえな
いから,原告の主張は理由がない。
また,本件発明は,上記イのとおり,面取りを設けることによるプリズ
ムへの入射角の変化を利用するものであるのに対し,別紙その他の特許権
等目録記載4の発明は,プリズムの屈折率と接着剤の屈折率の差を利用す
るというものであり(甲9),本件発明とはその技術思想を異にするもの
であるというべきであるから,この点に関する原告の主張も理由がない。
2よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない
からこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官柵木澄子
別紙
その他の特許権等目録
1特許番号第1997641号
2特許番号第2031478号
3特許番号第2006540号
4特許番号第2508478号
5特許番号第2590902号
6米国特許番号第5181195号
7特許番号第2099251号
8特許番号第2682087号
9特許番号第2797345号
10特許番号第2840835号
11特許番号第2590904号
12実用新案番号実開平2−16421号
以上
(別紙特許公報は省略)

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