弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 被告が原告に対し,平成12年12月14日付けでした「平成11年度及び平成
12年度分の原告に係る勤務評定書」についての個人情報一部開示決定のうち,不
開示とした部分(職務の状況の評定及び備考欄,特性・能力の所見欄,指導措置の
内容,総評の総合所見と評語)を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,原告が被告に対して行った愛知県個人情報保護条例(以下「本件条例」
という。)に基づく個人情報開示請求に対し,被告が対象とされた個人情報の一部
を不開示とする一部開示決定(以下「本件処分」という。)を行ったため,原告
が,不開示とされた個人情報の公開を求めて,当該部分の取消しを求めた抗告訴訟
である。
1 当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実
(1) 開示請求
 原告は,平成12年12月4日,被告に対し,本件条例14条1項に基づき,
「平成11年度及び平成12年度の原告に係る勤務評定書」(以下,これらの文書
を総称して「本件各文書」という。)の開示を請求した。
 本件各文書は,本件条例2条1号の個人情報が記載されている文書に当たる。
(2) 本件処分
 被告は,平成12年12月14日付けで,原告に対して,「個人の評価・指導に
関する情報であって,請求者に開示をすることにより,当該事務事業の適切な執行
に著しい支障を生ずるおそれがあるため」本件条例13条3項4号に該当し,ま
た,「県の事務事業に関する情報であって,請求者に開示をすることにより,当該
事務事業の目的が損なわれ,又は当該事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障
を生ずるおそれがあるため」同項8号に該当するとして,本件各文書のうち,①職
務の状況の評定及び備考欄,②特性・能力の所見欄,③指導措置の内容,④総評の
総合所見と評語(以下,これらを総称して「本件情報」という。)の各部分を不開
示とし,その余を開示する旨の本件処分をし,原告に通知した。
(3) 本訴提起までの経緯
 原告は,平成13年2月5日,被告に対し,本件処分について異議を申し立てた
ところ,被告は,平成14年3月15日付けで,異議申立てを棄却し,その旨通知
した。
(4) 本件条例の抜粋
(目的)
1条 この条例は,県の機関の保有する個人情報の開示,訂正及び削除を請求する
個人の権利を明らかにし,個人情報の適正な取扱いの確保に関し必要な事項を定
め,もって個人の権利利益を保護することを目的とする。
(定義)
2条 この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるとこ
ろによる。
(1) 個人情報 個人に関する情報であって,特定の個人が識別され得るものを
いう。ただし,法人その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報に含ま
れる当該法人等の役員に関する情報を除く。
(2) 実施機関 知事,教育委員会,選挙管理委員会,人事委員会,監査委員,
地方労働委員会,収用委員会,海区漁業調整委員会,内水面漁場管理委員会及び公
営企業管理者をいう。
(3)(省略)
(実施機関の責務)
3条 実施機関は,個人の権利利益を保護するため,個人情報の保護に関し必要な
施策を講じなければならない。
(県民の責務)
5条 県民は,個人情報の保護の重要性を認識し,自己に関する個人情報の保護に
自ら努めるとともに,他人の個人情報の取扱いに当たっては,他人の権利利益を侵
害することのないよう努めなければならない。
(個人情報の収集の制限)
7条 実施機関は,個人情報を収集するときは,あらかじめ個人情報を取り扱う事
務の目的を明確にし,その目的を達成するために必要な範囲内で収集しなければな
らない。
2ないし4(省略)
(自己情報の開示請求)
13条 何人も,実施機関に対して,その保有する自己に関する個人情報の開示
(当該個人情報が存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を
請求することができる。
2(省略)
3 実施機関は,開示請求に係る個人情報が次の各号のいずれかに該当するとき
は,当該個人情報の全部又は一部について開示をしないことができる。
(1) 法令又は条例の定めるところにより,本人に開示をすることができないと
認められる情報
(2)及び(3)(省略)
(4) 個人の評価,診断,選考,指導,相談等に関する情報であって,請求者に
開示をすることにより,当該評価,診断,選考,指導,相談等の事務事業の適切な
執行に著しい支障を生ずるおそれのあるもの
(5)ないし(7)(省略)
(8) 監査,検査,調査,取締り,争訟,交渉その他の県又は国等の事務事業に
関する情報であって,請求者に開示をすることにより,当該事務事業の目的が損な
われ,又は当該事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれのある
もの
(5) 愛知県立学校職員の勤務成績の評定に関する規則(昭和33年4月30日
教育委員会規則第5号。以下「本件規則」という。)の抜粋
(趣旨)
1条 地方公務員法(昭和25年法律第261号)第40条の規定に基く県立学校
職員の勤務成績の評定(以下「勤務評定」という。)は,この規則の定めるところ
による。
(被評定者の範囲)
2条 勤務評定は,県立学校の校長,教員,事務職員その他常時勤務する職員(単
純な労務に従事する職員及び臨時的任用の職員を除く。)について実施するものと
する。
(評定者及び評定審査員)
5条 勤務評定を行う者(以下「評定者」という。)及びその評定を審査する者
(以下「評定審査員」という。)は,次のとおりとする。
┌──────────────┬─────┬───────────┐
│ 被評定者         │ 評定者 │ 評定審査員     │
├──────────────┼─────┼───────────┤
│ 校長           │ 教育長 │           │
├──────────────┼─────┼───────────┤
│教頭 教諭 養護教諭 助教諭│ 校長  │ 教育長       │
│講師 実習助手 寮母 事務長│     │           │
├──────────────┴─────┴───────────┤
│ (省略)                           │
└────────────────────────────────┘
2 評定者は,教育長が定める勤務評定書によって評定の記録をし,所定の期日ま
でにこれを評定審査員に提出しなければならない。
3 評定審査員は,勤務評定書について審査し,誤り又は不均衡があると認めたと
きは,評定者に対して再評定を求めることができる。
4 教育長は,勤務評定の結果の概要を教育委員会に報告しなければならない。
(勤務評定書の有効期間)
6条 勤務評定書は,勤務評定書作成後新たに勤務評定書が作成されるまでの間,
なお効力を有するものとする。
(勤務評定書の保管及び取扱)
7条 勤務評定書は,教育長又は教育長の指定する者が保存期間中保管するものと
する。
2 保存期間は,勤務評定書の有効期間満了後1年とする。
3 勤務評定書は,公開しないものとし,その取扱は,慎重にしなければならな
い。
2 争点
 本件情報が,本件条例13条3項1号,4号,8号に規定する不開示情報に該当
するか。
3 当事者の主張の要旨
(1) 被告
 本件情報は,以下のとおり,本件条例13条3項1号,4号,8号の不開示情報
に該当するから,本件処分は適法である。
ア 1号の不開示情報該当性
 勤務評定書は,「任命権者は,職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行
(う)」ことを定めた地方公務員法40条1項に基づくものであり,同条を受け
て,被告は,本件規則を制定しているが,その7条3項には,勤務評定書は「公開
しないものとし,その取扱は,慎重にしなければならない。」と規定しているとこ
ろ,これは,被評定者にも開示しないことを意味する。したがって,本件情報は,
本件条例13条3項1号の「法令の定めるところにより,本人に開示することがで
きない情報」に該当する。
イ 4号の不開示情報該当性
 教職員の勤務評定の目的は,「勤務の実績を評定し,且つ勤務を通じて見られた
特性,能力を公正に記録して,教職員の指導及び監督と研修の指針とし,併せて人
事行政の参考にし,もって教育効果の向上を期する(愛知県公立学校職員の勤務評
定実施要領(以下「本件要領」という。)一)」ことにあり,勤務評定書に記載さ
れた評価(評定)及び所見は,当該教職員に対する指導,監督,研修等を進める上
での人事資料となるばかりか,今後の人事異動等の参考になるものであって,教職
員の特性,能力等不利益な評価を含め,ありのままに公正に記録されることが,必
要不可欠である。
 しかるに,勤務評定書に記載された本件情報を開示すると,特にマイナス評価の
場合,被評定者である教職員が評定者である所属校長に対して不信感を抱いたり,
両者間に対立関係が生じたりして,その後の所属校長による被評定者に対する指
導,監督等に支障を生ずる事態が十分に予想され,評定者である所属校長が,被評
定者の感情等を考慮する余り,マイナス評価を記録することに消極的になり,ある
いは形式的な記載を行いがちになり,結果として,公正かつ客観的な勤務評定がな
されなくなり,勤務評定の適切な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。よっ
て,本件情報は,4号の不開示情報に該当する。
ウ 8号の不開示情報該当性
 勤務評定書の目的は,前記のとおり,教職員の勤務の実績を評定し,かつ勤務を
通じて見られた特性,能力を公正に記録して,教職員の指導及び監督と研修の指針
とし,併せて人事行政の参考にし,もって教育効果の向上を期することにあるか
ら,本件情報は,被告の教育行政事務及び人事行政事務に関わる情報であり,これ
を開示すれば,ありのままに記載すべき勤務評定書の記載内容の形骸化,空洞化を
招きかねず,ひいては被告による教育行政事務ないし人事行政事務の公正かつ円滑
な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。よって,本件情報は,8号の不開示情
報に該当する。
(2) 原告
ア 1号について
 地方公務員法40条1項は,「定期的に勤務成績の評定を行い,その評定の結果
に応じた措置を講じなければならない。」とあり,非公開そのものを定めた規定は
ない。したがって,非公開の法的根拠を同法40条1項に求めるのは,論理的飛躍
がある。
 また,公衆に開放することを意味する「公開」と,特定の者だけが請求できる
「開示」とは異なるから,本件規則が「公開しない」と定めているからといって,
自己情報を不開示とする理由にはならない。
イ 4号及び8号について
 被告は,開示によって,当該「事務事業の適切な執行に著しい支障を生ずるおそ
れ」があるとか,当該「事務事業の目的が損なわれ,又は当該事務事業の公正かつ
円滑な執行に著しい支障の生じるおそれ」があると主張するが,支障の内容や程度
が具体的ではなく,開示によって,どのような影響があるのか,漠然としていて判
然としない。
 評定が正当に行われている限り,被評定者が評定者に不信感を抱いたり,評定者
との間に対立関係を生じさせることはないし,仮に生じたとしても評定者の指導,
管理能力の問題である。むしろ,校長が公正に評定していない疑いがあるときは,
開示によって公正さを確保し,評定者と被評定者との関係の改善を図るべきであ
る。
 さらに,被告は,評定者は開示されることを意識して被評定者に不利益な記載を
極力避け,その結果,公正かつ客観的な勤務評定がなされなくなるおそれがある旨
主張するが,このようなことは職務上の責任回避であり,逆に開示されることによ
り職責の重大さを再認識し,慎重かつ公平で公正無私の評価に努め,結果として公
正かつ客観的な勤務評定がなされると考えられる。
 実際に,全国の都道府県の勤務評定についての条例には,開示を認めるものがあ
る。
 本件規則5条3項は,「評定審査員は,勤務評定書について審査し,誤り又は不
均衡があると認めたときは,評定者に対して再評定を求めることができる。」と規
定するが,どのような誤りや不均衡の場合に,評定者に対し再評価を求め得るの
か,手続や基準が明確でなく,実質的審査の意義が認められない。勤務評定書の根
本的基準は,人事院規則10-2で定められており,その2条3項は,「勤務実績
の評定方法は,次の各号に定める基準に該当するものでなければならない。1号 
職員の勤務実績を分析的に評価して記録し,又は具体的に記述し,これに基づいて
総合的に評価するものであること。2号 二以上の者による評価を含む等特定の者
の専断を防ぐ手続を具備するものであること。3号 評定を受ける職員の数並びに
職務の種類及び複雑と責任の度を考慮して一括することが適当と認められる職員の
集団について,評点の分布を定め,又は平均点数を規制する等評定の識別力を増
し,且つ,その不均衡の是正を容易にする手続を具備するものであること。」と定
めるが,本件規則は,上記の基準を満たすものではなく,上記のとおり,開示され
ることによって公正かつ客観的な勤務評定が担保されるから,被告の主張は正当で
はない。
 なお,本件情報については,既に,評定者である校長は退職しているし,被評定
者の原告も平成14年度末をもって定年退職する予定であるから,被告の主張する
業務の支障は起こり得ない。
第3 当裁判所の判断
1 憲法13条は,国民の幸福追求権を規定しているところ,その具体的内容とし
て,自己情報コントロール権を含むプライバシー権を保障していると解することが
できるとしても,同条により具体的な個人情報開示請求権が保障されているとまで
はいえない。したがって,個人情報開示請求権は,当該地方公共団体等がその具体
的行使について定めた条例等を制定したことにより,初めて実体法上の根拠が与え
られたものというべきであるから,その不開示事由については,当該条例等の趣
旨,目的を踏まえながら,その文言に即して解釈・判断すべきである。
 ところで,本件条例(乙1。その抜粋は第2の1(4)のとおり)は,県の機関
の保有する個人情報の開示,訂正及び削除を請求する個人の権利を明らかにし,個
人情報の適正な取扱いの確保に関し必要な事項を定め,もって個人の権利利益を保
護することを目的としている(1条)。そして,実施機関は,個人の権利利益を保
護するため,個人情報の保護に関し必要な施策を講じなければならない(3条)と
し,個人情報を収集するときは,あらかじめ個人情報を取り扱う事務の目的を明確
にし,その目的を達成するために必要な範囲内で収集しなければならず(7条1
項),収集するときは,適法かつ公正な手段により収集しなければならない(同条
2項)し,また,法令又は条例に基づくとき等の場合を除き,本人から収集しなけ
ればならない(同条3項)とし,利用及び提供の制限(8条),提供先に対する措
置要求(9条),個人情報の適正な管理(10条)を定めるとともに,県民につい
ても,個人情報の保護の重要性を認識し,自己に関する個人情報の保護に自ら努め
るとともに,他人の個人情報の取扱いに当たっては,他人の権利利益を侵害するこ
とのないよう努めなければならない(5条)とする。そして,本件条例は,13条
において,何人も,実施機関に対して,その保有する自己に関する個人情報の開示
(当該個人情報が存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を
請求することができるとし,その例外として不開示情報を前記のとおり定め(13
条3項),さらに,自己情報に誤りがあると認める者は,実施機関に対して,その
訂正を請求することができると規定している
(18条)。
 これらの規定によれば,本件条例は,個人情報保護の観点から,実施機関その他
がみだりに個人情報を収集することを禁ずるとともに,収集された個人情報の管
理,提供に慎重を期すことを要求し,かつ,誤った情報が収集・集積されることに
よって生じる不利益を防止するために,何人に対しても,個人情報開示請求権を認
め,その訂正等を請求する権利を具体的に保障したものと解することができる。し
たがって,その例外となるべき不開示情報の解釈においては,実施機関の恣意的判
断を許し,いたずらに不開示情報をその範囲を拡大してはならず,本件条例13条
3項所定の不開示情報に該当するには,それを開示することにより弊害が生じるお
それが客観的に肯認されることを要するというべきである(最高裁判所平成13年
11月27日第三小法廷判決・集民203号783頁参照)。
2 ところで,勤務の評定は,公正な人事行政の基礎資料の1つとするために,職
員の執務について勤務成績(職員が職務と責任を遂行した実績のみならず,執務に
関連して見られた職員の性格,能力及び適性をも含む趣旨である。)を評価するこ
とであるが,地方公務員法によれば,職員の任用は受験成績,勤務成績その他の能
力の実証に基づいて行わなければならない(15条)し,勤務実績が良くない場
合,又はその職に必要な適格性を欠く場合には,降任し,又は免職することができ
る(28条)し,職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行い,その評定の
結果に応じた措置を講じなければならない(40条1項)旨定められている。この
ことは,教職に就く公務員の場合も同様であり,本件規則及びその実施要領である
本件要領(乙4)に定められている勤務評定制度も,愛知県立学校職員の勤務の実
績を評定し,かつ,勤務を通じて見られた特性,能力を公正に記録して,教職員の
指導及び監督と研修の指針とし,併せて人事行政の参考にし,もって教育効果の向
上を期するためのものである。
 そして,本件規則(乙3。その抜粋は第2の1(5)のとおり)によれば,勤務
評定は,毎年1回定期に実施するものとし(3条),教諭についての評定者は校長
であり,その評定審査員は教育長と定められ(5条1項),評定者は,教育長が定
める勤務評定書によって評定の記録をし,所定の期日までにこれを評定審査員に提
出しなければならず(同条2項),評定審査員は,勤務評定書について審査し,誤
り又は不均衡があると認めたときは,評定者に再評定を求めることができ(同条3
項),この勤務評定書は公開しないものとし,その取扱いは慎重にしなければなら
ない(7条3項)とされている。
 また,勤務評定書の様式,作成手順等は,本件要領において定められている。そ
れによれば,勤務評定書は,「1職務の状況」,「2特性・能力」,「3出勤状
況」,「4健康状況」,「5指導措置」,「6総評」等の欄から構成されており
(本件要領八1(1)。別紙「第1表の3(教諭 助教諭 講師)勤務評定書」と
題する書面参照),勤務評定書作成の留意点として,イ 日常の観察及び指導によ
って得た結果やその職員の勤務の成績を公正に示すと認められるものに基(づ)い
て的確な判断をすること,ロ 人種,信条,性別,社会的身分,門地,出身学校,
学歴,政治的所属関係,組合関係等によって職員を差別しないこと,ハ 縁故関
係,友人関係,好き嫌い,偏見等によって判断が左右されないこと,ニ 職員の勤
務年数の長短を考慮しないこと,ホ 従前の評定の結果によって影響されないこ
と,ヘ ある要素についてすぐれている職員は,すべての要素についてすぐれてい
るように思い誤られやすく,ある要素について劣っている職員は,すべての要素に
ついて劣っているように思い誤られやすいが,このような誤りに陥らないこと(七
の1(2))が定められている。そして,勤務評定書の作成日は毎年11月1日と
されている(四)。
3 本件情報は,原告の評定者であるa学校長が,平成11年11月1日及び平成
12年11月1日に作成した原告に係る勤務評定書のうち,「職務の状況」,「特
性・能力」,「指導措置」及び「総評」の各欄に記載された情報である。
 そして,本件要領によれば,勤務評定書の作成は以下の要領に従って行われる。
まず,「職務の状況」欄には,学級経営,学習指導,生活指導及び校務の処理の各
評定要素ごとに,その観察内容表(別紙「評定要素の観察内容表(教諭・助教諭・
講師)」のうち「職務の状況」の該当個所参照)に基づいて評価し,普通よりすぐ
れているものはAを,普通であるものはBを,普通の程度に及ばないものをCと評
定した結果を記入した上,各評定要素について特に記録しておくことを必要とする
ものについては,備考欄にその旨を要記する。「特性・能力」欄には,職員の勤務
を通じて見られた特性,能力を教育愛,指導力,責任感,研究心及び協調性の各項
目ごとに観察内容表(上記別紙のうち「特性・能力」の該当個所参照)によって観
察し,これを所見欄に簡潔,的確に記入する。「指導措置」欄の内容については,
評定期間内においてその者の勤務の実績及び勤務を通じて見られた特性,能力を観
察した結果,その指導上に執られた措置と今後の指導上に必要と認められる事項を
記入する。「総評」欄には,評定期間内におけるその者の勤務の実績と勤務を通じ
て見られた特性,能力及び出勤の状況等を観察してその総括的な所見を記入し,普
通よりすぐれているものを優,普通であるものを良,普通の程度に及ばないものを
可と3段階に評定して,そのいずれかに該当する評語を記入する。
4 そこで,上記認定事実並びに前記当事者間に争いのない事実及び証拠により容
易に認定できる事実に基づき,本件条例13条3項4号の不開示情報に該当するか
について,まず検討する。
(1) まず,本件情報は,前記のとおり,原告の勤務成績に関する評価及び所見
に関するものであるから,「個人の評価に関する情報」及び「個人の指導に関する
情報」に該当することが明らかである。
(2) 次に,本件情報が,「請求者に開示することにより,当該評価,…指導等
の事務事業の適切な執行に著しい支障を生ずるおそれのあるもの」に該当するかに
ついて検討する。
 勤務評定の目的は,前記のとおり,学校職員の勤務の実績を評定し,かつ,勤務
を通じて見られた特性,能力を公正に記録して,教職員の指導及び監督と研修の指
針とし,併せて人事行政の参考にし,もって教育効果の向上を期するところにあ
る。したがって,勤務評定は,勤務の成績等を公正に示すものでなければならな
い。
 そのため,本件規則は,評定審査員を設け,評定書について誤り又は不均衡があ
ると認めたときは,再評定を求めることができると定め,さらに,本件要領は,公
正な評定を行うための留意点を定め,記入方法として,評定要素ごとに観察内容を
定め,それを総合して基準に従って評定することを求めたり,備考欄に特に記録し
ておくべきことを記載することを求めている。
 これらは,人事院規則10-2の定める必要条件である,(1)職員の勤務実績
を分析的に評価して記録し,又は具体的に記述し,これに基づいて総合的に評価す
るものであること。(2)2以上の者による評価を含む等特定の者の専断を防ぐ手
続を具備すること。(3)評定を受ける職員の数並びに職務の種類及び複雑と責任
の度を考慮して一括することが適当と認められる職員の集団について,評点の分布
を定め,又は平均点数を規制する等評定の識別力を増し,且つ,その不均衡の是正
を容易にする手続を具備するものであることを充足していると認められる。
 もっとも,一部の民間企業においては,評価権者及び評価基準を明確化・透明化
し,評価内容の本人開示とともに本人に不服がある場合の適切な手続を設けるな
ど,透明性・客観性を確保するための仕組みを採用しており,かつ,かかる企業が
徐々に増加していることは新聞報道等によって公知となっている。このことは,勤
務評定の開示等は,その手法いかんによっては,かえって本人の勤務意欲を高め,
企業全体を活性化させ得るとの認識が次第に浸透しつつあることの反映と考えられ
る。そして,最近では,人事院が国家公務員の勤務評定のあり方について検討を始
めるなど,公務員制度においても見直しの気運が高まっているし,証拠(甲28な
いし32)によれば,既にいくつかの地方公共団体の規則・実施要領等には,評定
者が必要と認めた場合や人事管理上支障がないと認めた場合等,限定的ではあるが
被評定者本人に開示することができる旨定めたものがあることが認められる。
 しかしながら,民間企業における勤務評定の指標が比較的客観化しやすいのと異
なり,少なくとも,教育を担う学校職員の勤務評定の場合は,教育が人間が人間に
働きかけて児童生徒の可能性を引き出すための高度の精神的活動であることから,
その評価のための観察内容には,格段に主観的要素が多く含まれており(例えば,
教育愛の観察内容の「児童・生徒の指導に正しい愛情が行きとどいているか。」
等),しかも,その占める割合も大きいと認められる(乙4)から,その評価も,
評定者がその観察内容自体をどのように理解しているかに影響されざるを得ないと
考えられる。そのため,勤務評定書のうち本件情報のように主観的な観察内容で判
断される項目を多く含む情報が開示されると,評定要素や観察内容,項目の内容を
どうとらえるべきか等についての考え方の違いから,被評定者が評定者の評価及び
所見等を率直に受け止めることが難しい場合も少なくなく,その場合には,それ
が,教育がどうあるべきかという議論と結びつきやすいだけに,評価の不当性を巡
って,現場が混乱する可能性も高いと考えられる。その上,本件要領によれば,教
諭についての勤務評定は,その所属する学校長が単独で行うものとされ,かつ,学
校長は教諭と日常的に接する機会が多いため,学校長としては,勤務評定が開示さ
れれば,被評定者との関係を悪化させたくないという配慮や,個別の評価につき客
観的根拠がないなどの反論・非難を恐れて,不利益記載を避けた勤務評定書を作成
しようとする可能性を否定できない。このような事態となれば,公正かつ客観的な
勤務評定がなされなくなり,勤務評定書の記載内容の空洞化・形骸化を招き,ひい
ては,勤務評定に基づいて合理的に人事管理を行うという勤務評定制度の目的を達
することが困難になってしまうおそれが十分にあると認められる(現に,証拠(乙
6ないし8)によれば,一部の新聞,雑誌が,被評定者による勤務評定書の「確
認」が常態化している県において,被評定者全員の勤務評定が一律評価されている
と報じた事実が認められる。)。
 そして,一部の評定者によって,本来なすべき評価よりも寛大な評価をすること
になれば,厳正な評価を行っている評定者との間で不均衡・不公正が生じることに
なるし,そのような寛大な評価が多数を占めるようになれば,厳正に評価していた
者も,自分一人が批判されることを恐れて寛大な評価や被評価者間で差異を設けな
い一律的評価に堕するおそれも十分にある(なお,開示に伴うこのようなおそれ
は,定型的に認められるから,本件各文書の作成者である当時のa学校長が既に退
職し,あるいは,原告自身が平成14年度をもって定年退職予定であるとしても,
上記判断を覆すものとはいえない。)。
 以上を総合すれば,今後の制度改革や国民及び関係当事者の意識の変化によって
影響を受ける可能性は否定できないものの,少なくとも現在の学校職員の勤務評定
制度の下においては,本件情報の開示による勤務評定事務及びこれを基礎とする人
事行政事務の適切な執行について,客観的な弊害が生じる蓋然性が存在すると認め
られる。したがって,本件情報は,本件条例13条3項4号所定の「請求者に開示
をすることにより,当該評価,…指導等の事務事業の適切な執行に著しい支障を生
ずるおそれのあるもの」に該当すると解するのが相当である。
5 結論
 以上の次第で,その余について判断するまでもなく,本件処分は適法というべき
であり,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき行
訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官 加藤幸雄
裁判官 舟橋恭子
裁判官 富岡貴美

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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