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平成24年5月31日判決言渡
平成23年(行ケ)第10426号審決取消請求事件
平成24年3月6日口頭弁論終結
判決
原告オートモビリ・ランボルギーニ・ソチエ
タ・ペル・アツィオニ
訴訟代理人弁理士原田洋平
同豊岡大志
同木谷弘行
被告株式会社リバティーウォーク
主文
1特許庁が無効2010-890092号事件について平成23年8月24日
にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2前提となる事実
1特許庁における手続の経緯等
被告は,別紙商標目録1記載の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者であ
る。原告は,平成22年10月28日付けで,特許庁に対し,本件商標登録の無効
審判(無効2010-890092号事件)を請求した。特許庁は,平成23年8
月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年9
月1日に原告に送達された(甲1,51)。
2審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件商標は,商標法
4条1項7号,10号,15号,19号に違反して登録されたものではなく,同法
46条1項1号により,無効とすることはできない,というものである。
第3審決の取消事由に関する原告の主張
1取消事由1(商標法4条1項7号該当性に係る認定,判断の誤り)
審決は,原告の商標法4条1項7号に係る主張は,単に他人の業務に係る商品又
は役務と混同を生ずるおそれがあるとか,他人の業務に係る商品又は役務を表示す
るものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同
一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用するものであるとの主張にす
ぎず,同条同項15号,19号該当性を検討すべきであって,同条同項7号に規定
する商標登録障害事由に該当しないと認定,判断する。
しかし,審決の上記認定,判断は,失当である。
すなわち,被告は,「LAMBORGHINI」との商標(以下「引用商標」とい
う。)が,原告の製造,販売する自動車(スーパーカー)に使用されている商標とし
て取引者,需要者の間に広く知られている商標であることを承知した上で,引用商
標に化体した名声にただ乗りして不正な利益を得ることなどを目的として,引用商
標の有する特徴を模倣して,本件商標登録の出願をしたものであり,これにより引
用商標に化体した原告の名声,信用などが損なわれることは明らかである。
したがって,本件商標は,商取引の秩序や商道徳に反し,社会公共の利益を損な
うものであり,商標法4条1項7号により無効とされるべきものである。
2取消事由2(商標法4条1項19号該当性に係る認定,判断の誤り)
審決は,本件商標は引用商標に類似せず,商標権者がその製品に本件商標を使用
しても「不正の目的」があったとはいえないから,本件商標は,商標法4条1項1
9号に該当しないと認定,判断する。
しかし,審決の上記認定,判断は,以下のとおり,本件商標と引用商標との類否
判断を誤っており,その前提に誤りがある。
(1)称呼の類否
被告は,そのホームページ上の広告において,アルファベットの「Lambor
mini」とカタカナの「ランボルミーニ」を併記していること,被告の商品は,
原告の業務に係る商品「自動車(スーパーカー)」のパロディー的商品であるところ,
原告の著名な商標である引用商標「LAMBORGHINI」は,日本において,
「ランボルギーニ」と称呼されていることからすれば,本件商標からは「ランボル
ミーニ」との称呼が生ずる。また,本件商標及び引用商標の称呼中,最も強く響く
音は,子音と母音が結合した「mi」や「ghi」ではなく,母音の「i」だけで
あり,需要者において誤認が生ずる。
以上によれば,「ランボルミーニ」との称呼が生ずる本件商標と,「ランボルギー
ニ」との称呼が生ずる引用商標とは,称呼において類似する。
(2)外観の類否
本件商標は,「Lambormini」との文字及び尻尾の図形からなるものであ
るが,「Lambormini」との文字部分が尻尾の図形に比べて面積が大きく,
看者に強く訴えるものである。そして,引用商標について,頭文字をアルファベッ
トの大文字とし,その余をアルファベットの小文字で表したもの(Lamborg
hini)として,本件商標の文字部分と比較すると,本件商標の10文字中の中
央よりやや語尾側の1文字「m」が引用商標の「gh」と相違するのみであり,そ
の相違は,単語の中間部に埋没しており目立たないものである。また,原告が所有
する別紙商標目録2記載の商標(以下「甲2商標」という。)は,「LANBORG
HINI」の文字及び牛の図形を要部とする著名な商標であるところ,本件商標に
おける尻尾の図形部分は,これを模したものである。
以上によれば,本件商標と引用商標とは,外観において類似する。
(3)観念の類否
上記のとおり,引用商標及び甲2商標は,原告が所有する商標として周知著名で
あって,「Lambormini」との文字部分及び尻尾の図形からなる本件商標か
らは,引用商標と同様の観念が生ずる。
(4)以上によれば,本件商標と引用商標は類似するものであって,審決の本件商
標と引用商標との類否の判断には誤りがあり,これを前提とした,「不正の目的」の
認定,判断にも誤りがある。被告は,原告の世界的に著名な自動車(スーパーカー)
の名声にただ乗りして不正な利益を得ることを目的として本件商標を使用している
のであって,被告には商標法4条1項19号所定の「不正の目的」が認められる。
3取消事由3(商標法4条1項10号,15号に係る認定,判断の誤り)
上記のとおり,審決の本件商標と引用商標との類否の判断には誤りがあり,これ
を前提とした,商標法4条1項10号,15号に係る認定,判断にも誤りがある。
第4当裁判所の判断
原告は,商標法4条1項7号,10号,15号,19号に該当することを理由と
して,本件商標登録の無効審判請求をした。これに対し,審決は,本件商標は,商
標法4条1項7号,10号,15号,19号のいずれにも該当しないとして,同法
46条1項1号の無効理由は存在しないと判断した。
しかし,当裁判所は,本件商標が商標法4条1項10号,15号,19号に該当
しないとした審決の判断には誤りがあり,審決は取り消すべきものと判断する。そ
の理由は,以下のとおりであるが,事案に鑑み,取消事由2及び3を併せて判断す
る。
1事実認定
被告は,本件口頭弁論に出頭せず,答弁書その他の準備書面を提出しないから,
請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め,これを自白したものとみな
す。自白したものとみなされる原告の主張事実及び証拠によれば,以下の事実が認
められる。
(1)原告における引用商標の使用状況その他取引状況等
原告は,1962年(昭和37年)にイタリアで設立された自動車会社であり,
主に高級スポーツカーを製造,販売しており世界的に著名である。原告の製造に係
る自動車は,日本においても,1968年(昭和43年)ころから輸入が始まり,
1970年代に「カウンタック」などがスーパーカーなどと呼ばれて人気となり,
原告の名称の一部である「LAMBORGHINI」との引用商標も,原告又は原
告の業務に係る商品「自動車(スーパーカー)」を表示するものとして,「ランボル
ギーニ」と称呼され,日本国内の自動車の取引業者や愛好家の間においても広く認
識されるようになった。原告は,日本を含む世界103か国以上の国と地域におい
て,引用商標である「LAMBORGHINI」のほか,「AUTOMOBILIL
AMBORGHINI」,「『LAMBORGHINI』の文字と牛の図柄」(甲2商
標等),「『AUTOMOBILILAMBORGHINI』の文字と牛の図柄」な
どについて,自動車等を指定商品等として,数多くの商標登録をしている。このう
ち,甲2商標は,「LAMBORGHINI」の文字部分は,上向きに弧を描くよう
に横書きされた文字部分に特徴があり,また,牛の図柄部分は,S字状に細長く上
方に伸び,さらに先端部は丸みを帯びてふくらむよう描かれた特有の尾の形状(右
側下に細い切り欠きがある)に特徴があるといえる(甲2,4,5)。
(2)被告における本件商標の使用状況その他取引状況等
被告は,原告の製造,販売に係る自動車を模したカスタムバギー(ミニカー。道
路交通法令において総排気量50cc以下又は定格出力0.6kW以下の原動機を
有する普通自動車)を,「Lambormini」や「ランボルミーニ」との商標を
使用して,宣伝し販売している。また,被告は,そのホームページ上において,「ラ
ンボルギーニを愛する11名が考えに考え抜いた究極のカスタムバギー/ランボル
ミーニ登場!」,「2009.6.1発売開始」,「あのフェラーリやランボルギーニ
などスーパーカー業界でも有名な『リバティーウォーク社』による夢のカスタムマ
シーンがついに登場!こだわりにこだわりぬいたフォルムはランボルギーニを完全
再現!」,「ラボルギーニじゃなくてランボルミーニ!?」,「Lambormini
/他では絶対見ることの出来ない。LBカスタムバギー!」,「ムルシエラゴのボデ
ィラインを巧みにデフォルメしたランボルミーニ。」との表示をしている。さらに,
インターネット動画共有サービスであるYouTube(ユーチューブ)上には,
原告の製造,販売に係る自動車と,被告の製造,販売に係るカスタムバギーを横に
並べた動画がアップロードされている。被告は,欧文字「Lamborghini」
(先頭のLの文字が大文字,その他の文字は小文字)を筆記体(斜体)で書した商
標を付したカスタムバギーも製造している(甲3,49,50)。
(3)引用商標の外観,称呼,観念等
引用商標は,欧文字「LAMBORGHINI」が横書きされたものであり,欧
文字である「LAMBORGHINI」との外観が生じる。また,引用商標からは,
「ランボルギーニ」,「ランボルグヒニ」などの称呼が生じ得るが,上記のとおり,
引用商標は,原告又は原告の業務に係る商品「自動車(スーパーカー)」を表示する
ものとして,日本国内の自動車の取引業者や愛好家の間においても広く認識されて
いることから,需要者において,「ランボルギーニ」との称呼が生ずると解される。
さらに,引用商標は,欧文字で表記され,通常の日本人にとって,格別の観念を生
じることはない。
(4)本件商標の外観,称呼,観念等
本件商標の構成は,別紙商標目録1記載のとおりである。
本件商標は,欧文字「Lambormini」(先頭のLの文字が大文字,その他
の文字は小文字)が,立体的に見えるように陰影を付した筆記体(斜体)により,
上向きに弧を描くように横書きされた文字部分と,「Lambormini」の中央
「o」の文字の上部から,S字状に細長く上方に伸び,さらに先端部は丸みを帯び
てふくらんだ特有の形状(右側下に細い切り欠きがある)が付された,全体として
動物の尾のように描かれた図形部分からなる商標である。本件商標は,文字部分が
図形部分に比較して大きいことに照らすならば,看者に対して強い印象を与える部
分は,文字部分であるといえる。
また,本件商標の文字部分からは,「ランボルミニ」,「ランボルミーニ」との称呼
が生じ得る。この点,審決は,本件商標からは「ランボルミニ」との称呼のみが生
じると認定,判断するが,本件商標に係る商標公報には,本件商標の称呼(参考情
報)として「ランボルミニ」のほか,「ランボルミーニ」が挙げられていること(甲
52),上記のとおり,被告は,そのホームページ上で,「Lambormini」
とのアルファベットと「ランボルミーニ」との片仮名を併用していることなどから
すれば,本件商標からは「ランボルミーニ」との称呼も生じ得るものと認められ,
審決の上記認定,判断は失当である。
さらに,本件商標の文字部分は,後半の「mini」から,「ミニ」,「小さい」,
「小型」を連想する余地はあり得るとしても,欧文字で一連に表記され,これらの
文字列に対応した語は一般には存在せず,需要者において,その意味を認識,理解
することはできない。また,本件商標の図形部分は,必ずしも何を描いたものか,
明確に理解できるものとまではいえない。したがって,本件商標からは,全体とし
て特定の観念を生じない。
2判断
(1)本件商標と引用商標との類否の認定,判断について
本件商標は,その文字部分が看者に対し強い印象を与える部分といえるところ,
本件商標の文字部分と引用商標を対比すると,本件商標の文字部分10文字中9文
字が引用商標と同一であり(なお,本件商標は,Lの文字以外が小文字で構成され
ている。),引用商標の中程に位置する「GH」が「m」である点のみが相違すると
いえる。そして,本件商標からは,「ランボルミニ」ないし「ランボルミーニ」との
称呼が生じるのに対し,引用商標からは,「ランボルギーニ」との称呼が生じ,本件
商標の「ミ」ないし「ミー」と引用商標の「ギー」の部分のみが相違し,相違する
音は母音構成を共通にする近似音であることからすれば,本件商標と引用商標とは,
称呼において類似する。
本件商標は,字体における特徴があり,また図形部分が付加されている点で,引
用商標と外観において若干の相違があるものの,全体として類似するといえる。
以上によれば,本件商標と引用商標は,本件商標の文字部分10文字中9文字が
引用商標と共通すること,称呼において,相違する1音が母音構成を同じくする近
似音であり類似すること,外観においても,若干の相違があるものの,全体として
類似することに加え,前記原,被告の各商標の使用状況等取引の実情等を総合して
判断すると,本件商標と引用商標は,互いに類似する商標であると解される。
(2)商標法4条1項10号該当性について
上記のとおり,引用商標である「LAMBORGHINI」は,本件商標の出願
以前から現在に至るまで,イタリアの高級自動車メーカーである原告又は原告の業
務に係る商品「自動車(スーパーカー)」を表示するものとして,日本国内の自動車
の取引業者や愛好家の間で広く知られているから,他人の業務に係る商品(自動車)
を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標に該当するものと認
められる。また,本件商標は,上記のとおり,引用商標に類似し,本件商標の指定
商品には,「自動車」を含んでいる。そうすると,本件商標は,他人の業務に係る商
品(自動車)を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標に類似
する商標であって,その商品(自動車)に使用をするものに該当すると認められる。
したがって,本件商標は,商標法4条1項10号に該当する。
(3)商標法4条1項15号該当性について
また,上記のとおり,原告は,本件商標の出願以前から現在に至るまで,引用商
標である「LAMBORGHINI」等の商標を使用して,「自動車(スーパーカー)」
を製造,販売する業務を行っていること,本件商標は,引用商標と類似する商標で
あり,その指定商品に引用商標が使用されているのと同一商品(自動車)を含むこ
と,被告は,「Lambormini」や「ランボルミーニ」との商標を使用して,
原告の製造,販売に係る自動車を模したカスタムバギーを製造,販売していること
等を総合すると,本件商標は,他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある
商標に該当すると認められる。
したがって,仮に本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとしても,同条
同項15号に該当するものと認められる。
(4)商標法4条1項19号該当性について
さらに,被告は,上記のとおり,原告が世界的に著名な自動車メーカーであり,
引用商標も原告の業務に係る商品(自動車)を表示するものとして需要者の間に広
く認識されていることや,かかる引用商標と本件商標が類似の商標であることを認
識しながら,自動車等を指定商品等とする本件商標登録を行い,実際に「Lamb
ormini」や「ランボルミーニ」との商標を使用して,原告の製造,販売に係
る自動車を模したカスタムバギーを製造,販売していることが認められる。そうす
ると,本件商標は,被告が,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その
他の不正の目的をもって使用をするものと認められる。
したがって,仮に本件商標が商標法4条1項10号,15号に該当しないとして
も,同条同項19号に該当するものと認められる。
3結論
以上によれば,本件商標が商標法4条1項10号,15号,19号に該当しない
とした審決の判断には誤りがあり,原告の請求は,その余の点について判断するま
でもなく理由があるので,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
八木貴美子
裁判官
知野明
(別紙)
商標目録
1本件商標
商標登録番号:第5256629号
商標の構成:
出願日:平成21年3月30日
設定登録日:平成21年8月14日
指定商品又は指定役務:第12類「自動車並びにその部品及び附属品」及び第
35類「自動車並びにその部品及び附属品の小売又は卸
売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
2甲2商標
商標登録番号:第1507740号
商標の構成
出願日:昭和52年8月29日
設定登録日:昭和57年3月31日
指定商品の書換登録日:平成14年4月24日
指定商品の書換登録後の指定商品:第12類「船舶並びにその部品及び附属品
(「エアクッション艇」を除く。),エアクッション艇,航空機並びにその部品及
び附属品,鉄道車両並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附
属品,二輪自動車・自動車並びにそれらの部品及び附属品,乳母車,人力車,
そり,手押し車,荷車,馬車,リヤカー,タイヤ又はチューブの修繕用ゴムは
り付け片」

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