弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた判決
一 原告ら
1 (主位的請求)
被告が昭和三五年八月二日になした別紙物件目録記載の土地の境界確定は無効であ
ることを確認する。
(予備的請求)
被告が昭和三五年八月二日になした別紙物件目録記載の土地の境界確定を取り消
す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 原告らの請求原因
1 原告らは、大正一四年から、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」とい
う。)を共有している。
2 被告は、昭和三五年八月二日、本件土地と、これに隣接する一級河川海老取川
の河川敷との境界を確定した(以下「本件境界確定」という。)。
3 しかしながら、本件境界確定は、本件土地の内部に食い込んで境界線を設定
し、かつ、1本件土地の共有者である原告らとの協議を欠くという瑕疵を有し、無
効である。
すなわち、昭和三五年ころ、本件土地の一部が河川敷ではないかとの疑問が被告か
ら出されたため、原告Aが東京都財務局用地部測量課に問い合わせたところ、境界
確定の申請をするよう勧められ、同原告は被告に対し境界確定の申請を行つた。と
ころが、右測量課の係員は、同年八月二日、他の原告はもとより原告Aに対しても
何の連絡もしないで本件土地に来て、原告らの立会を欠いたまま一方的に測量を行
い、原告Aの妻から同原告の印章を借り、同原告名義の境界確定承諾書に押捺し
た。このようにしてなされたのが本件境界確定であるが、原告らがこれを事後に知
つて右測量課のB課長に抗議したところ、B課長は、同月中旬ころ、本件境界確定
が無効であることを認め、これを取り消すことを約束した。以上のように、本件境
界確定は、原告らとの協議を欠いたままなされたものであり、しかも本件土地の内
部に食い込んで境界線を設定したもので無効というべきであるから、原告らはその
無効確認を求める。
4 仮に、3で述べた瑕疵が無効事由に該当しないとしても、取消事由には該当す
るものというべきであり、また、B測量課長は本件境界確定の取消しを約束してい
たものであるから、原告らは予備的に本件境界確定の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
1 本件境界確定は、抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しないから、その無
効確認を求める訴え(以下「本件無効確認の訴え」という。)及び取消しを求める
訴え(以下「本件取消しの訴え」という。)は、いずれも不適法であり、却下され
るべきである。
(一) 原告Aは、昭和三五年五月二〇日、東京都財務局用地部測量課に対し、そ
の所有する本件土地(但し、当時は<地名略>及び同所同番<地名略>と表示され
ていた。)とこれに隣接する一級河川海老取川の河川敷との境界確定を申し入れ
た。右河川敷は国有財産であるところ、国有財産法三一条の三ないし五所定の境界
確定を含むその管理権限は、国から被告に委任されているものである。原告Aから
の申入れを受けた被告所部の右測量課では、同年八月二日、国有財産法三一条の三
の規定に基づき、現地に赴いて同原告と右境界確定のための協議を行い、両者間の
協議がととのつたことにより成立したのが本件境界確定であり、同原告は、本件境
界確定による境界を異議なく承諾する旨の承諾書に捺印しているのである。
(二) ところで、国有財産法は、国有財産と隣接民有地との境界確定について、
協議手続及び決定手続の二つの方法を定めており、このうち協議手続については、
「各省各庁の長は、その所管に属する国有財産の境界が明らかでないためその管理
に支障がある場合には、隣接地の所有者に対し、立会場所、期日その他必要な事項
を通知して、境界を確定するための協議を求めることができ」、「協議がととのつ
た場合には、各省各庁の長及び隣接地の所有者は、書面により、確定された境界を
明らかにしなければならない」と定めている(同法三一条の三)。また、決定手続
については、各省各庁の長は、右の協議を求めた隣接地の所有者が立ち会わないた
め協議することができないとき(隣接地の所有者が正当な理由により立ち会うこと
ができない場合において、その旨あらかじめ各省各庁の長に通知したときを除
く。)は、当該隣接地の所在する市町村の職員の立会を求め、境界を定めるための
調査を行い、当該境界の存する地域を管轄する財務局に置かれた地方審議会に諮問
したうえ、境界を定めることができ、境界を定めた場合には、当該境界及びこれを
定めた経緯を当該隣接地の所有者及び当該隣接地の知れたその他の権利者に通知す
るとともにこれを公告するものとし、当該隣接地の所有者及びその他の権利者が右
公告のあつた日から六〇日以内に理由を付して各省各庁の長に対し不同意の通告を
したときは、各省各庁の長の定めた境界は確定せずに決定手続が終了し、右所有者
及びその他の権利者から右期間内に不同意の通告がなかつたときは、右期間満了の
時に右所有者の同意があつたものとみなされ、各省各庁の長の定めた境界が確定す
る旨規定している(同法三一条の四及び五)。
(三) 右のような国有財産法の規定の仕方からすれば、同法による境界確定は、
国と隣接地所有者との契約であると解すべきである。
すなわち、国有財産法三一条の三の協議手続の規定をみると、国有財産を所管する
各省各庁の長と隣接地の所有者との間で協議がととのえば、両土地の境界が確定す
るとしており、その実質的要件は各省各庁の長と隣接地の所有者との合意だけであ
り、この協議手続は、境界についての契約を取りつける手続とみるのが自然であ
る。
また、国有財産法三一条の四及び五の決定手続に関する規定は、各省各庁の長が境
界を定めてこれを隣接地の所有者及びその他の権利者に通知するとしているもの
の、その中の一人でも所定の期間内に不同意の通告をすれば、右境界は確定しない
ものとし、右不同意の通告がなかつた場合にのみ、所有者の同意があつたものとみ
なし、各省各庁の長の定めた境界が確定するとしているのである。このように、明
示の意思表示が存しない場合に意思表示を擬制する規定は、民法一九条及び一一四
条、借地法四条一項等にみるごとく私法上にも存する。したがつて、各省各庁の長
の境界決定通知及びこれに対する隣接地所有者の同意の擬制を、それぞれ契約の申
込み及びこれに対する承諾とみることができ、決定手続による境界確定もこれを契
約として把握することができるのである。
更に、境界確定手続は、国有財産のすべてを対象とするものであるところ、国有財
産には行政財産と普通財産が含まれ、普通財産は、国が私人と同じ立場で所有管理
しているものであるから、その境界を定める手続は、私人間で行われるものと同じ
く契約手続といわざるを得ない。したがつて、国有財産にこのような普通財産が含
まれる以上、国有財産のすべてについて行われる境界確定手続もまた契約手続と解
すべきである。
(四) ちなみに、旧国有財産法(大正一〇年法律第四三号)の下における境界査
定は、官民有地の境界を行政庁が一方的、強権的に決定する行政処分であつた。し
かし、新憲法施行後、旧国有財産法の全面改正が行われ、右境界査定の制度は廃止
されるに至つた。そして、新しく制定施行された現行の国有財産法には、当初、官
民有地の境界を定める規定が置かれていなかつたため、しばらくの間、官民有地の
境界を定める特別の手続を欠く状態が続いたが、昭和二六年に制定された国有林野
法に、現在の境界確定手続とほぼ同内容の国有林野の境界確定手続が規定されるに
至つた。この境界確定の性格については、国有林野法の提案理由説明において、
「相手方の意思のいかんにかかわらず、一方的に境界確定をする以前の境界査定と
は全く性格を異にする」旨の説明がなされている。この国有林野法の境界確定制度
が昭和三二年の法律第一〇七号による国有財産法の一部改正により国有財産法に取
り入れられ、ここに国有財産一般の境界確定制度が確立されるに至つたものであ
る。なお、旧国有財産法では、「境界査定」という用語が使用され、実務上も定着
していたにもかかわらず、現行の国有財産法では、「境界確定」という用語を新し
く採用している。以上のような経緯及び新憲法のよつて立つ民主主義の原理にかん
がみても、現行境界確定制度は、一方的強制的な決定を内容とする旧国有財産法の
境界査定制度を全面的に排除し、新憲法の民主主義の精神にふさわしく、合意を基
調として境界を確定するものとして設けられたものであり、右境界確定は、国と隣
接地所有者との契約であることが明らかというべきである。
(三) そして、旧国有財産法における境界査定では、その効果として地番境と所
有権の限界すなわち所有権境とが同時に確定されると解されていたが、現行の国有
財産法の境界確定は、国有財産の管理に支障があるときに行われることになつてい
るので(同法三一条の三第一項)、それによつて管理の支障が除去されることが現
行境界確定制度の目的であるところ、管理の支障の除去のためには所有権境の確定
が必要である。すなわち、地番境と所有権境とは常に一致しているとは限らず、両
者が異なる場合を考えると、地番境の確定では国有地の管理の支障はほとんど除去
されず、更に所有権確認の訴えで目的を達せざるを得ないこととなる。このように
みてくると、管理に支障があるというのは所有権の範囲が不明確である場合に考え
られることであつて、そのような管理の支障を除去するためには、観念的な地番境
を確定するのではなしに、実際に管理可能な、かつ、管理すべき所有権の範囲すな
わち所有権境を確定する必要がある。したがつて、境界確定の法的効果は、所有権
境を確定するものと解すべきである。境界確定によつて確定されるのが所有権境だ
とすると、所有権の範囲を定めることは、本来私的自治にまかされているものであ
るから、これを定める契約は私法上の契約ということになる。
(六) 以上述べたことから明らかなように、現行の国有財産法上の境界確定は、
国有財産と隣接民有地との所有権境を確定する私法上の契約というべきである。
(七) 本件境界確定は、先に述べたとおり、国有財産法三一条の三の協議により
成立したものであり、右の説明から明らかなように、本件土地と一級河川海老取川
の河川敷との所有権境を確定する私法上の契約であつて抗告訴訟の対象となる行政
処分ということはできない。したがつて、本件境界確定の無効確認又は取消しを求
める本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えは、いずれもこの点において不適法
であり、却下を免れない。
2 原告らは、本件境界確定の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによ
つて目的を達することができ、本件境界確定の無効確認を求める原告適格を有しな
いから、本件無効確認の訴えは不適法であり、却下されるべきである。
すなわち、抗告訴訟における無効等確認の訴えは、争いの対象となる処分又は裁決
の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的
を達することができるものについては許されない(行政事件訴訟法三六条)。原告
らは、本件境界確定が原告らの共有に係る本件土地の内部に食い込んで境界線を設
定したとして、その無効確認を求めるものであるが、本件境界確定の無効を独立に
確定しなくても、その無効を前提として、本件土地のうち本件境界確定により河川
敷とされている部分(以下「本件係争地」という。)の所有権の確認を求める訴え
により、本件無効確認の訴えの目的を達することができるのである。しかも、本件
無効確認の訴えによつて、仮に本件境界確定が無効であるとされても、その判決に
よつて本件係争地の所有権の帰属が確定するものではないから、本件紛争解決にと
つて本件無効確認の訴えは無意味であり、そもそも確認の利益がないといわざるを
得ない。したがつて、本件無効確認の訴えは、本件境界確定の効力の有無を前提と
する現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができるものに該当す
ることが明らかであるから、不適法として却下されるべきである。
3 本件取消しの訴えは、出訴期間を徒過した不適法な訴えであるから、却下され
るべきである。
取消訴訟は、処分又は裁決のあつたことを知つた日から三か月以内に提起しなけれ
ばならない。原告らは、昭和三五年八月中旬ころB測量課長に対し本件境界確定に
ついて抗議したと主張しているから、その時点では本件境界確定を知つていたこと
を自認しているものである。原告が本件取消しの訴えを提起したのは昭和五五年四
月一日であるから、出訴期間の三か月を大幅に経過している。本件無効確認の訴え
の提起目である昭和五三年一一月二〇日にさかのぼつたとしても、右三か月を大幅
に経過していることには変わりはない。したがつて、本件取消しの訴えは、出訴期
間を徒過した不適法な訴えというべきである。
三 原告らの反論
1 被告の本案前の主張1について、原告Aが昭和三五年五月二〇日東京都財務局
用地部測量課に対し本件土地とこれに隣接する一級河川海老取川の河川敷との境界
確定を申し入れたこと、右河川敷は国有財産であるところ、国有財産法所定の境界
確定を含むその管理権限が国から被告に委任されていること、及び本件境界確定が
同法三一条の三の規定を根拠とすることは認めるが、主張の趣旨は争う。本件境界
確定は、抗告訴訟の対象となる行政処分である。
2 被告の本案前の主張2は争う。
原告らは、本件係争地を含む本件土地を、所有の意思をもつて平穏かつ公然と占有
し、使用しているところ、国は、原告らが所有者として本件係争地を占有し、使用
していることに対し、何らこれを阻害する行為も、否認する行為もなしていない。
すなわち、国は、本件係争地が原告らの所有に属することを黙認しているのであ
り、原告らには、国を相手方に本件係争地の所有権確認を求める利益も必要性もな
いのである。ところが、原告Cの長男であるDが原告らの承諾を得て本件土地上に
建物を建築することを計画し、昭和五一年二月四日大田区建築主事に対し建築確認
を申請したところ、本件境界確定により本件係争地が河川敷とされていることを理
由に、建築確認を拒否された。したがつて、原告らの所有権の行使を阻害している
のは本件境界確定であり、原告らとしてはその無効確認を求めることが必要であ
り、かつ、それによつて目的を達することができるものである。
3 被告の本案前の1主張3は争う。
原告らは、B測量課長が前述のとおり本件境界確定を取り消す旨約束していたた
め、本件境界確定は既に取り消されているものと信じていたところ、前記の建築確
認申請を契機として本件境界確定がまだ取り消されないでいることを知るに至つた
ものであるが、その時期は昭和五一年八月末である。そこで、原告らは、同年九月
八日、東京都を相手方として、東京簡易裁判所に本件土地の所有権確認を求める旨
の民事調停を申し立てたところ、右調停が昭和五三年一一月七日不調に終つたた
め、同月二〇日本件無効確認の訴えを提起したうえ、予備的に本件取消しの訴えを
追加した。行政事件訴訟法一四条三項の規定によると、正当な理由があるときは、
処分の日から一年を経過した後も、取消訴訟を提起できるところ、原告らは、本件
境界確定を取り消す旨の被告の欺罔により、本件境界確定が既に取り消されたもの
と信じていたものであり、昭和五一年八月末に至りまだ取り消されていないことを
知つて、直ちに東京都を相手方として民事調停を申し立てて誠実に交渉を重ね、そ
れが不調に終わるや本訴に及んだものであるから、原告らには、本件境界確定の日
から一年を経過した後にその取消しの訴えを提起することにつき正当な理由がある
ものというべきである。また、被告は、行政事件訴訟法一四条一項の規定により処
分のあつたことを知つた日から三か片以内に取消訴訟を提起しなければならないと
主張するが、右規定は、当事者間に紛争が生じ、行政庁が処分の取消しを拒否して
いる場合には適用になつても、本件のように、行政庁が処分の取消しを約束し、そ
の約束に基づき取消訴訟を提起する場合には適用されない。したがつて、本件取消
しの訴えが出訴期間の徒過により不適法であるとの被告の主張は失当である。
四 被告の再反論
1 原告らは、本件境界確定のあつたことを昭和三五年八月中旬ころ知つたもので
あるが、仮に、その主張するとおり、B測量課長の本件境界確定を取り消す旨の約
束により本件境界確定が既に取り消されたものと信じていたため、行政事件訴訟法
一四条一項の出訴期間を遵守し得なかつたものであり、そのことが「その責に帰す
べからざる事由に因り不変期間を遵守すること能はざりし場合」に該当するとして
も、不変期間経過後の訴訟行為の追完が許されるのは、責に帰すべからざる事由の
やみたる後一週間内に限られる(行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法一五九条)。
原告らは、昭和五一年八月末に本件境界確定がまだ取り消されていないことを知つ
たと主張しているから、本件取消しの訴えは、その一週間以内に提起しなければな
らない。しかし、原告らが本件取消しの訴えを提起したのは昭和五五年四月一日で
あるから、右一週間を大幅に経過している。本件無効確認の訴えの提起日である昭
和五三年一一月二〇日にさかのぼつたとしても、右一週間を大幅に経過しているこ
とには変わりはない。したがつて、本件取消しの訴えは、いずれにしても出訴期間
を徒過した不適法な訴えとして、却下を免れないのである。
2 原告らは、出訴期間の経過につき、行政事件訴訟法一四条三項但書の正当な理
由が存すると主張する。しかし、右但書の規定は、処分又は裁決の日から出訴期間
が計算される場合にのみ適用があるのであつて、同条一項の処分又は裁決のあつた
ことを知つた日から出訴期間が計算される場合には適用されない。原告らは、昭和
三五年八月中旬ころ本件境界確定を知つたものの、B測量課長が本件境界確定の取
消しを約束したため、出訴期間を遵守し得なかつたと主張するものであるから、同
条一項の問題として処理されるべきであつて、同条三項但書の規定を根拠とする原
告らの右主張は失当である。
3 仮に、本件取消しの訴えが行政事件訴訟法一四条三項により処理されるべきも
のとしても、原告らの主張は失当であることを免れない。すなわち、同項但書の正
当理由は、出訴できなかつたことのほか、出訴の障害解消後「遅滞なぐ」訴えが提
起されたかどうかの点をも含めて決すべきであるところ、右「遅滞なく」とは、民
事訴訟法一五九条の規定を類推し、出訴の障害解消後一週間以内と解すべきであ
る。そうだとすると、原告らは、本件境界確定が取り消されずにいることを知つた
と主張する昭和五一年八月末から一週間以内に本件取消しの訴えを提起していない
から、本件取消しの訴えが出訴期間を徒過した不適法な訴えであることに変わりは
ない。
なお、原告らは、昭和五一年八月末に本件境界確定が取り消されずに存在すること
を知り、同年九月八日に民事調停を申し立て、右調停が昭和五三年一一月七日不調
に終つたため、同月二〇日本件無効確認の訴えを提起したうえ、本件取消しの訴え
を予備的に追加したものであるから、本件取消しの訴えは適法であると主張する
が、そもそも調停申立ては取消訴訟における出訴期間の経過に何らの影響も及ぼす
ものではないし、昭和五一年九月八日の調停の申立ての趣旨は、本件土地のうち<
地名略>の土地が原告らの所有に属することの確認を求めるものにすぎず、本件境
界確定の測量がその手続上効力を有しないことを確認する旨の趣旨が追加されたの
は、昭和五二年三月七日であつて、原告らが本件境界確定の存在を知つてから六か
月以上経過した後のことであるから、右調停の申立ては、行政事件訴訟法一四条三
項但書の正当理由たり得ないことが明らかである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 原告Aが昭和三五年五月二〇日東京都財務局用地部測量課に対し本件土地とこ
れに隣接する一級河川海老取川の河川敷との境界確定を申し入れたこと、右河川敷
は国有財産であるところ、国有財産法三一条の三ないし五所定の境界確定を含むそ
の管理権限が国から被告に委任されていること、及び同法三一条の三の規定に基づ
き本件土地と右河川敷との境界を定める本件境界確定が同年八月二日になされたこ
とについては、当事者間に争いがない。
原告らは、本件境界確定は被告の行政処分であるところ、本件土地の内部に食い込
んで境界線を設定し、かつ、本件土地の共有者である原告らとの協議を欠くという
瑕疵を有するから無効であり、少なくとも取り消されるべきであると主張する。
二 そこで、本件境界確定が抗告訴訟において無効確認又は取消しを求むべき対象
となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法三条)
であるか否かについて判断する。
本件境界確定は、国有財産法三一条の三の規定に基づき、国有地である河川敷と民
有地である本件土地の境界を確定させるためなされたものであるが、同条一項は、
「各省各庁の長は、その所管に属する国有財産の境界が明らかでないためその管理
に支障がある場合には、隣接地の所有者に対し、立会場所、期日その他必要な事項
を通知して、境界を確定するための協議を求めることができる。」と規定してお
り、各省各庁の長がその所管する国有地と隣接地との間の境界が明らかでないため
当該国有地の適正な管理を行えない場合に、隣接地所有者との協議によつて右境界
を確定できるものとし、隣接地所有者に対し一定の立会場所、期日等を通知し、右
境界の存すると思われる現場等に臨んで右協議に応じるよう求めることができるこ
とを明らかにしている。同条二項は、「前項の規定により協議を求められた隣接地
の所有者は、やむを得ない場合を除き、同項の通知に従い、その場所に立ち会つて
境界の確定につき協議しなければならない。」と規定しており、右協議を求められ
た隣接地所有者は、やむを得ない場合を除き、通知に従つて立ち会い、境界確定に
ついて協議する公法上の義務を負うことを明らかにしている(但し、隣接地所有者
が右の協議に応じる義務に違反した場合の直接の制裁に関する規定は存しな
い。)。同条三項は、「第一項の協議がととのつた場合には、各省各庁の長及び隣
接地の所有者は、書面により、確定された境界を明らかにしなければならない。」
と規定しており、各省各庁の長と隣接地所有者との間において協議がととのえば、
その協議結果に従い境界が確定することを当然の前提として、協議によつて確定し
た境界に関し後日紛争が生じないよう右境界を書面により明らかにすべきことを定
めている。そして、同条四項は、「第一項の協議がととのわない場合には、境界を
確定するためにいかなる行政上の処分も行われてはならない。」と規定しており、
隣接地所有者が期日に立ち会つて協議に応じたものの、協議がととのわなかつた場
合には、境界が確定しないまま手続が終了し、各省各庁の長においてそれ以上に境
界を確定させるための行政上の手続を進めることができないことを明らかにしてい
る。なお、各省各庁の長が隣接地所有者に対し協議を求めたにもかかわらず、隣接
地所有者が期日に立ち合わない場合には、各省各庁の長において同法三一条の四の
規定に基、つき境界を定めることができるが、この場合も、隣接地の所有者等が同
法三一条の五の規定に基づき右境界につき不同意の通告をすれば、境界は確定せず
に手続が終了するのである。
以上の説明から明らかなように、国有財産法三一条の三の境界確定に関しては、行
政庁に何らの優越的地位も認められておらず、行政庁は隣接地所有者に対し境界確
定のため協議に応じるよう求め得るにとどまり、隣接地所有者が行政庁と境界につ
き合意するか否かは隣接地所有者の全くの自由意思に委ねられており、右合意が得
られない場合には、手続は終了し、行政庁において一方的に境界を定めることがで
きないのはもとより、それ以上に何らかの行政上の手続を進めることもできないの
である。換言すれば、同条の境界確定は、各省各庁の長と隣接地所有者とが対等の
立場で境界を協議し、両者が合意に達した場合に成立するもので、その性質は財産
所有者としての国と隣接地所有者との契約と解すべきである。ところで、地番と地
番との境界は、行政作用により定められる公法上のものであつて、隣接する土地所
有者間の合意で確定又は変更し得るという性格のものではないから、両者の合意を
要件とする同条の境界確定は、地番と地番との境界を定めるものではなく、国有地
とその隣接地との所有権の範囲を確定するものであることが明らかである。したが
つて、同条の境界確定は、財産所有者としての国と隣接地所有者との間において国
有地とその隣接地との所有権の範囲を定める契約というべきである。
そうだとすれば、国有財産法三一条の三の境界確定は、「行政庁の処分その他公権
力の行使に当たる行為」ということができず、同条を根拠とする本件境界確定も、
これを抗告訴訟の対象とすることができないのであつて、その無効確認又は取消し
を求める本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えは、この点においていずれも不
適法といわなければならない。原告らにおいて、本件境界確定が無効であるとし
て、本件係争地の所有権を主張し、あるいは本件土地の境界確定を求めるのであれ
ば、所有権確認の訴え、あるいは境界確定の訴えを提起すべきものである。
三 よつて、本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えをいずれも不適法として却
下することとし、訴訟費用の負担につぎ行政事件訴訟法七条並びに民事訴訟法八九
条及び九三条一項本文の規定を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤 繁 泉 徳治 岡光民雄)
物件目録(省略)

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その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

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