弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aaを除くその余の被告人等の上告を各棄却する。
     原判決中被告人Aaに対する部分を破棄する。
     被告人Aaを懲役六月に処する。
     被告人Aaに対する公訴事実中昭和二五年政令三二五号違反の点につい
て同被告人を免訴する。
     第一審において、証人Ab、同Ac、同Ad、同Ae、同Af、同Ag、
同Ah、同Ai、同Aj、同Ak、同Al、同Am、同An、同Ao、同Ap、同
Aq、同Ar、同As、同At、同Au、同Av、同Awに支給した訴訟費用は、
被告人Aaとその余の被告人等との連帯負担とし、第二審において、弁護人滝川与
一郎に支給した訴訟費用の十二分の一、及び当審において弁護人佐藤義彌に支給し
た訴訟費用の五分の一は被告人Aaの負担とする。
         理    由
 被告人等の弁護人山本治雄の上告趣意第一点について。
 第一審判決の確定した事実によれば、被告人Ax、同Ay、同Azの三名は判示
の如く判示会社に勤務していた者、他の被告人九名は、右会社の職員でもなく、同
会社労働組合員でもないものであるが、同会社は、被告人Ax、同Ayを含む同会
社従業員一三名に対し、所論解雇通知並びに同会社への立入禁止の通告をしたので
同会社労働組合側では、右解雇通知の当否を調査し、不当なものについては、法定
の手続によつて、救済を求むべく事後の対策を協議中のところ、右解雇並びに立入
禁止の通告を受けた被告人Ax、同Ay及びこれを聞知した爾余の被告人一〇名は、
会社の右措置を不当として、同会社の承諾は勿論、組合の諒解も得ず、同会社本社
四階屋上を実力を以つて占拠し、同会社従業員及び通行人に対し、右通告の不当な
ことを訴え、組合の右解雇通知に対する斗争態勢を強化して会社をして、右措置を
撤回せしめようと企図し、被告人等全員共謀の上、判示懸垂幕一本及び判示目的の
花火、燐寸多数を携行し、同会社庶務課長の管理にかゝる同会社本社構内にほしい
まゝに立入つたというのである。それ故、被告人等が同会社本社構内に立入つたの
は正当な理由があつて立入つたものではなく、同会社の意に反し、不法に右構内に
侵入したものであること明らかであつて、所論解雇通知が正当有効であるか否かに
拘らず被告人等の所為が建造物侵入罪を構成すること論をまたない。されば、原判
決が、右解雇通知が不当のものであつたとしても、被告人等の所為が建造物侵入罪
を構成すること明らかで、正当行為として是認する理由はない旨判示したのは正当
であつて、所論(一)は採用できない。又被告人等は前記のごとく同会社労働組合
が所論解雇通知の当否につき調査し事後の対策について協議中であつたにも拘らず、
組合とかゝわりなく右行動に出たのであつて、被告人等の右行動は、団体行動権の
行使ではないから、所論(二)の憲法違反の主張はその前提を欠き適法な上告理由
となうない。
 同第二点について。
 裁判官真野毅、同小谷勝重、同島保、同藤田八郎、同谷村唯一郎、同入江俊郎の
意見は、昭和二五年政令三二五号「占領目的阻害行為処罰令」は、平和条約発効と
同時に当然失効し、その後に右政令の効力を維持することは、憲法上許されないか
ら本件中右政令違反の点については犯罪後の法令により刑が廃止された場合にあた
るとするものであること、昭和二七年(あ)第二八六八号同二八年七月二二日言渡
大法廷判決記載の右六裁判官の意見のとおりであり、又裁判官栗山茂、同岩松三郎、
同河村又介、同小林俊三の意見は、右政令三二五号は、平和条約発効後においては、
本件に適用されている昭和二〇年九月一〇日附連合国最高司令官の「言論及び新聞
の自由」と題する覚書第三項の「連合国に対する虚偽又は破壊的批評及び風説」を
「論議すること」を禁止する部分は憲法二一条に違反するから、右指令を適用する
かぎりにおいて、平和条約発効と共に失効し、従つて、本件中右政令違反の点は犯
罪後の法令により刑の廃止があつた場合にあたるとすること、昭和二七年(あ)第
二〇一一号同三〇年四月二七日言渡大法廷判決記載の栗山、岩松、河村、小林各裁
判官の意見のとおりである。よつて以上一〇裁判官の意見によれば、本件中右政令
違反の点は犯罪後に刑が廃止されたときにあたるから原判決中被告人Aaに関する
部分はこの点において破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
 同第三点について。
 所論は、事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条所定
の上告理由にあたらない。
 被告人Baの上告趣意について。
 所論は、寛大な処分を望むというのであつて、同条所定の上告理由にあたらない。
 よつて、被告人Aaを除くその余の被告人等に対しては刑訴四一四条、三九六条
に則り、各上告を棄却し、被告人Aaに対しては、刑訴四一一条に従つて原判決中
同被告人に関する部分を破棄し、刑訴四一三条に則り更に判決するのであるが、第
一審判決の確定した事実を法律に照らすと、同判決判示第一の(一)の所為は刑法
一三〇条、六〇条に、同第一の(四)の所為中公務執行妨害の点は、同法九五条一
項、六〇条に、傷害の点は同法二〇四条、六〇条に各該当するところ、右公務執行
妨害と傷害とは一個の行為で数個の罪名に触れるので同法五四条一項前段、一〇条
により重い傷害罪の刑に従い、以上は同法四五条前段の併合罪であるから所定刑中
いずれも懲役刑を選択し、同法四七条本文但書、一〇条により、重い傷害罪の刑に、
法定の加重をした刑期範囲内で、同被告人を懲役六月に処し、同判示第二の昭和二
五年政令三二五号違反の点は、犯罪後の法令により刑の廃止があつたものであるか
ら、刑訴三三七条二号に則り同被告人を免訴すべく、訴訟費用の負担につき刑訴一
八一条、一八二条を適用し主文のとおり判決する。
 この判決は、昭和二五年政令三二五号違反の点に対する裁判官田中耕太郎、同斎
藤悠輔、同本村善太郎の反対意見及び刑訴四〇〇条但書の適用に関する裁判官栗山
茂、同真野毅、同小谷勝重、同谷村唯一郎、同小林俊三の少数意見があるほか、裁
判官の一致した意見によるものである。
 昭和二五年政令三二五号違反の点に対する裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本
村善太郎の反対意見は、次のとおりである。
 平和条約発効前に犯した昭和二五年政令三二五号違反の罪に対する刑罰は平和条
約発効後といえども、廃止されたものといえないことは前記昭和二七年(あ)第二
〇一一号の大法廷判決記載のわれわれの意見のとおりである。
 なお、本件に対する裁判官の各補足意見は前記昭和二七年(あ)第二〇一一号の
大法廷判決に記載乃至引用したとおりである。
 刑訴四〇〇条但書に対する裁判官栗山茂、同真野毅、同小谷勝重、同谷村唯一郎、
同小林俊三の少数意見は次のとおりである。
 職権により調査するに原判決は、第一審が本件被告人等に言渡した懲役刑の執行
猶予の判決を破棄自判し、懲役の実刑を言い渡したのであるが、記録によれば、そ
の手続は書面上の調査のみによつたのであつて、事実の取調を行つた形跡は認めら
れない。このように第一審の執行猶予を附した判決を第二審において破棄し自判に
よつてこれを実刑に改めるには自ら事実の取調を行うことを要し、さもなければ第
一審に差し戻すべきものである。この点において原判決は違法たるを免れないから
破棄すべきものである。
 なお裁判官栗山茂、同小谷勝重、同谷村唯一郎、同小林俊三は、昭和二六年(あ)
第一六八八号同三〇年六月二二日大法廷判決(判例集九巻八号)において述べた少
数意見をそれぞれここに引用するほか、裁判官小林俊三は昭和二七年(あ)第五九
七号同二九年六月八日第三小法廷判決(判例集八巻六号八二一頁)において述べた
少数意見を引用する。
 裁判官霜山精一、同井上登は退官につき評議に関与しない。
 検察官安平政吉、同竹原精太郎、同宮崎三郎、同神山欣治出席。
  昭和三一年一〇月二四日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎
 裁判官 栗山茂は退官につき、同本村善太郎は病気につき署名押印することがで
きない。
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎

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