弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人木村保男、同的場悠紀、同川村俊雄、同大槻守、同松森彬、同坂和章
平の上告理由第一点及び第二点について
 土地賃貸借における敷金契約は、賃借人又は第三者が賃貸人に交付した敷金をも
つて、賃料債務、賃貸借終了後土地明渡義務履行までに生ずる賃料額相当の損害金
債務、その他賃貸借契約により賃借人が賃貸人に対して負担することとなる一切の
債務を担保することを目的とするものであつて、賃貸借に従たる契約ではあるが、
賃貸借とは別個の契約である。そして、賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転され
賃貸人がこれを承諾したことにより旧賃借人が賃貸借関係から離脱した場合におい
ては、敷金交付者が、賃貸人との間で敷金をもつて新賃借人の債務不履行の担保と
することを約し、又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情
のない限り、右敷金をもつて将来新賃借人が新たに負担することとなる債務につい
てまでこれを担保しなければならないものと解することは、敷金交付者にその予期
に反して不利益を被らせる結果となつて相当でなく、敷金に関する敷金交付者の権
利義務関係は新賃借人に承継されるものではないと解すべきである。なお、右のよ
うに敷金交付者が敷金をもつて新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し、又
は敷金返還請求権を譲渡したときであつても、それより以前に敷金返還請求権が国
税の徴収のため国税徴収法に基づいてすでに差し押えられている場合には、右合意
又は譲渡の効力をもつて右差押をした国に対抗することはできない。
 これを本件の場合についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、(1)
 訴外D株式会社は、上告人から本件土地を賃借し、敷金として三〇〇〇万円を、
賃貸借が終了し地上物件を収去して本件土地を明渡すのと引換えに返還を受ける約
定のもとに、上告人に交付していた、(2) 被上告人は、同会社の滞納国税を徴収
するため、国税徴収法に基づいて同会社が上告人に対して有する将来生ずべき敷金
返還請求権全額を差し押え、上告人は昭和四六年六月二九日ころその通知書の送達
を受けた、(3) 同会社が本件土地上に所有していた建物について競売法による競
売が実施され、同四七年五月一八日訴外E株式会社がこれを競落し、右建物の所有
権とともに本件土地の賃借権を取得した、(4) 上告人は同年六月ころ同会社に対
し右賃借権の取得を承諾した、(5) 右承諾前において、D株式会社に賃料債務そ
の他賃貸借契約上の債務の不履行はなかつた、というのであり、右事実関係のもと
において、上告人はE株式会社の賃借権取得を承諾した日にD株式会社に対し本件
敷金三〇〇〇万円を返還すべき義務を負うに至つたものであるとし、上告人が右承
諾をした際にE株式会社との間で、敷金に関する権利義務関係が同会社に承継され
ることを前提として、賃借権移転の承諾料一九〇〇万円を敷金の追加とする旨合意
し、D株式会社がこれを承諾したとしても、右合意及び承諾をもつて被上告人に対
抗することはできないとして、これに関する上告人の主張を排斥し、被上告人の上
告人に対する右三〇〇〇万円の支払請求を認容した原審の判断は、前記説示と同趣
旨にでたものであつて、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はな
い。論旨は、採用することができない。
 同第三点について
 記録にあらわれた本件訴訟の経過に徴すると、原判決に所論の違法があるとは認
められない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    吉   田       豊
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    本   林       讓
            裁判官    栗   本   一   夫

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