弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 一 上告代理人林四壽男、同金岡昭、同小林禮齊、同重富栄一の上告理由第一に
ついて
 原審の適法に確定したところによれば、被上告人は上告人に対して、平成元年八
月二三日、東京都公文書の開示等に関する条例(以下「本条例」という。)五条に
基づき、「個人情報実態調査に関して警視庁から入手、取得した一切の文書」の開
示を請求したところ、上告人は、右開示請求の対象となっている文書は警視庁から
提出された「個人情報保護対策の検討について」と題する文書(以下「本件文書」
という。)であるとした上、被上告人に対し、「東京都公文書の開示等に関する条
例第九条第八号に該当」との理由を付した同年九月五日付けの書面により、本件文
書は開示しない旨を通知したというのである。
 本条例七条四項は、実施機関が開示の請求に係る公文書を開示しない旨の決定を
する場合には、その通知書に非開示の理由を付記しなければならない旨を規定して
いる。一般に、法令が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程
度の記載をすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法令の趣旨・目的に照ら
してこれを決定すべきである(最高裁昭和三六年(オ)第八四号同三八年五月三一
日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁参照)。本条例が右のように公文書の
非開示決定通知書にその理由を付記すべきものとしているのは、同条例に基づく公
文書の開示請求制度が、都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即し
た都政を推進することを目的とするものであって、実施機関においては、公文書の
開示を請求する都民の権利を十分に尊重すべきものとされていること(本条例一条、
三条参照)にかんがみ、非開示理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥
当を担保してそのし意を抑制するとともに、非開示の理由を開示請求者に知らせる
ことによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきである。
このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、公文書の非開示決定通知書に付記
すべき理由としては、開示請求者において、本条例九条各号所定の非開示事由のど
れに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず、単に非開
示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質等とあいまって開示請求者
がそれらを当然知り得るような場合は別として、本条例七条四項の要求する理由付
記としては十分でないといわなければならない。
 この見地に立って本条例九条八号をみるに、同号は、開示の請求に係る公文書に、
「監査、検査、取締り、徴税等の計画及び実施要領、渉外、争訟、交渉の方針、契
約の予定価格、試験の問題及び採点基準、職員の身分取扱い、学術研究計画及び未
発表の学術研究成果、用地買収計画その他実施機関が行う事務事業に関する情報で
あって、開示することにより、当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの、
特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの、大学の教育若
しくは研究の自由が損なわれるおそれがあるもの、関係当事者間の信頼関係が損な
われると認められるもの、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若し
くは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの又は都の行政の公正若しくは円滑
な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの」に該当する情報が記録されてい
るときは、当該請求に係る公文書の開示をしないことができるとするものである。
公文書の開示の請求は、開示を請求しようとする公文書を特定するために必要な事
項を記載した請求書を提出してしなければならないとされている(本条例六条三号)
ので、当該公文書の非開示理由として本条例九条八号に該当する旨の記載のみによ
って、開示請求者において、当該公文書の種類、性質あるいは開示請求書の記載に
照らし、非開示理由が同号所定のどの事由に該当するのかをその根拠とともに了知
し得る場合があり得るとしても、同号に該当する旨の記載だけでは、開示請求者に
おいて、非開示理由がいかなる根拠により同号所定のどの事由に該当するのかを知
り得ないのが通例であると考えられる。これを本件についてみるに、被上告人によ
って前示のとおり特定された本件文書の種類、性質等を考慮しても、本件付記理由
によっては、いかなる根拠により同号所定の非開示事由のどれに該当するとして本
件非開示決定がされたのかを、被上告人において知ることができないものといわざ
るを得ない。そうであるとすれば、単に「東京都公文書の開示等に関する条例第九
条第八号に該当」と付記されたにすぎない本件非開示決定の通知書は、本条例七条
四項の定める理由付記の要件を欠くものというほかはない。
 したがって、この点に関する原審の判断は是認することができ、論旨は採用する
ことができない。
 二 同第二について
 公文書の非開示決定通知書に理由付記を命じた規定の趣旨が前示のとおりである
ことからすれば、これに記載することを要する非開示理由の程度は、相手方の知、
不知にかかわりがないものというべきである(最高裁昭和四五年(行ツ)第三六号
同四九年四月二五日第一小法廷判決・民集二八巻三号四〇五頁参照)し、また、本
件において、後日、実施機関の補助職員によって、被上告人に対し口頭で非開示理
由の説明がされたとしても、それによって、付記理由不備の瑕疵が治癒されたもの
ということはできない。
 これと同旨の原審の判断は相当であって、原判決に所論の違法はない。論旨は採
用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷         裁判長裁判官    橋  
 元   四 郎 平
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達

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