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裁判例


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                         主      文
1 被告は、原告に対し、27,788,169円及びこれに対する平成13年11月23日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 当事者参加人の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、全事件を通じて、原告と被告との間においては、原告に生じた費用の2
分の1を被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と当事者参加人との間及び被
告と当事者参加人との間においては、いずれも各自の負担とする。
5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
                          事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
 被告は、原告に対し、71,037,869円及びこれに対する平成13年11月23日から
支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 第2事件
(1)原告と当事者参加人との間において、別紙預金目録記載2及び5の預金債権のい
ずれも半額が当事者参加人に属することを確認する。
(2)原告は、上記預金債権のいずれも半額分を被告から取り立ててはならない。
(3)被告は、上記預金債権のいずれも半額分を原告に支払ってはならない。
第2 事案の概要
第1事件は、原告が被告に対して預金の返還を請求した事案である。
第2事件は、原告の妻である当事者参加人が、当該預金は夫婦共有財産に当たるか
ら、その半額は当事者参加人に属すると主張して、原告に対しては預金債権の半額が
当事者参加人に属することの確認と預金の半額分について取立ての禁止を求め、被告
に対しては預金の半額分について原告への支払の禁止を求めた事案である。
1 基礎となる事実
(1)当事者
 原告と当事者参加人は、昭和60年に婚姻した夫婦であり、その間には2人の子がい
る。原告は、眼科医であり、平成6年に住所地と同じ敷地内に診療所を開設した。
 原告と当事者参加人との関係は平成10年ころから悪化し、平成11年ころからは、原
告はほとんどの時間を診療所で過ごすようになり、夫婦間の会話もなくなって、事実上
の別居状態(いわゆる家庭内別居の状態)となっている。
 被告は、信用金庫法に基づき設立された信用金庫である。(丙3,弁論の全趣旨)
(2)預金の存在
 被告a支店には、別紙預金目録記載のとおり、原告名義の定期預金等(以下「本件預
金」という。)があった。これらは、いずれも原告開設の診療所等の収入から経費等を控
除した剰余金が積み立てられたものである。(丙3~5,争いのない事実)
(3)解約の意思表示と支払拒絶
 原告は、被告に対し、平成13年11月22日、内容証明郵便をもって本件預金につい
て解約の意思表示をした。被告は、原告が預金証書及び届出印を所持していないこと、
当事者参加人から被告に対し本件預金が共有財産であるとの申し出がされていること
などから、原告に対する支払を拒絶している。(甲1,2,弁論の全趣旨)
(4)預金の相殺と支払(抗弁)
 本件預金のうち別紙預金目録記載3及び4の預金は、原告に対する貸付金の担保と
されていたが、貸付金の返済が滞ったことから、被告は、平成14年2月25日、預金と貸
付金とを対当額で相殺した。さらに、被告は、同年2月28日、相殺後の残金9,169,3
65円全額を原告に支払った。
 このため、本件預金のうち現存するものは、別紙預金目録記載1、2及び5のみであ
る。(争いのない事実)
2 争点
(当事者参加人の主張)
本件預金は、原告と当事者参加人間の夫婦関係が円満であった時期に、当事者参加
人が原告の妻として診療所等の経理一切を担当処理し、共同生活中の収入を一まとめ
にして預金したものの一部であり、預金証書は当事者参加人が所持している。したがっ
て、これらの預金は、夫婦共働の成果として、原告と当事者参加人の共有財産に当た
り、その持分は各2分の1である。
(原告の主張)
 本件預金が原告と当事者参加人の共有財産に当たるとの主張は争う。
 仮に共有財産に当たるとしても、夫婦共有財産の清算は、夫婦という枠組みの中での
離婚に伴う対内的な財産分与の問題であり、本件預金債権の被告に対する預入者が
原告である以上、共有という実質的な内部的関係を対外的に主張し得るものではない。
(被告の主張)
 本件預金の実質的帰属については不知。
第3 争点に対する判断
1 当事者参加人の共有持分の主張の当否について
 民法762条1項は、夫婦の財産関係について別産制を採用し、婚姻中に夫婦の一方
が自己の名で得た財産は、その特有財産とする旨定めているから、夫婦の一方がその
稼働の結果得た収入やこれにより取得した資産は、いずれもその者の特有財産となり、
夫婦の共有財産を構成しない。しかし、夫婦が婚姻費用の分担として金銭を拠出し、そ
れが家計費に充てられて剰余金を生じた場合には、その拠出自体が夫婦共同生活の
基礎を構成する目的でされるのであるから、当該剰余金は拠出者の特有財産としての
性質を失い、夫婦共同生活のために使用される特別の財産となると解するのが民法76
2条2項の趣旨に照らし相当である。したがって、当該剰余金は実質的に夫婦の共有財
産となり、その潜在的持分は夫婦平等というべきである(東京地判昭和46年1月18日・
判タ261-313参照)。また、当該剰余金によって不動産、預金その他の資産が取得さ
れ、その名義が夫婦の一方に属しても、夫婦間に特段の合意がない限り、名義のいか
んにかかわらず、夫婦の実質的共有財産としての性質を失わない。
 このように、婚姻費用の分担として拠出された金銭の剰余金及びこれによって取得さ
れた資産は、夫婦の実質的共有財産を構成するものではあるが、その拠出が夫婦共同
生活の基礎を構成する目的で行われることに着目すれば、通常の共有関係とは異な
り、婚姻関係の継続中においては共有財産の分割請求や持分権の主張は許されず、
婚姻解消時の財産分与の手続によりその清算が行われることを民法は想定していると
解するのが相当である。
 本件預金の預入れに至る経緯は必ずしも明らかではないが、原告は診療所を開設す
る眼科医で高額の収入があり、他方で当事者参加人はもっぱら家事・育児を担当しつ
つ、診療所の経理事務を担当していたこと、当事者参加人自身も相当額の預金を有し
ていること(丙3~5)などにかんがみれば、本件預金は原告の稼働により得た収入から
積み立てられたものであると推測される。したがって、本件預金は、原告の特有財産あ
るいは上記実質的共有財産を構成するものというべきであり、いずれにしても、婚姻関
係が法律上継続している現時点においては、当事者参加人はその持分権を主張するこ
とができない。
 なお付言すれば、このように解しても、離婚成立前に本件預金が原告により不当に費
消された場合には、財産分与額の算定に際してその点が当然考慮されることになる上、
財産分与請求権を被保全権利とする仮差押え、仮処分等を活用することによりその費
消を防止することも可能であるから、当事者参加人が特段の不利益を受けることはない
と思われる。
2 まとめ
 上記のとおり、当事者参加人は原告に対して本件預金について持分権を主張すること
ができないから、原告は、被告に対し、本件預金のうち現存する別紙預金目録記載1、
2及び5の全額の支払を請求することができる。
 なお、原告は、商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるが、信
用金庫の行う業務は営利を目的とするものではなく、信用金庫は商法上の商人には当
たらないから(最判昭和63年10月18日・民集42巻8号575頁)、原告の附帯請求は、民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
第4 結論
 よって、原告の本訴請求は、主文第1項の限度で理由があるから認容し、その余は理
由がないから棄却することとし、当事者参加人の請求はいずれも理由がないから棄却
することとし、主文のとおり判決する。
鹿児島地方裁判所民事第1部
                    裁判官 市  原  義  孝

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